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公衆衛生87巻8号

2023年08月発行

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特集 テレワークの健康影響—コロナ禍から見えた効果と課題

Editorial—今月号の特集について フリーアクセス

著者: 藤野善久

ページ範囲:P.739 - P.739

 新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の感染拡大防止対策として、テレワーク(主に在宅勤務)が普及した。わが国において在宅勤務は、COVID-19流行以前はワークライフバランスの向上や働き方改革として議論がなされてきたが、必ずしも一般的な働き方ではなかった。そのような中、公衆衛生的な要請を受け、人事制度や規則、必要なIT環境などの整備がないまま多くの企業が在宅勤務に踏み切ったため、労働者の多くは、準備不足のまま在宅勤務を経験することになった。
 在宅勤務のメリット、デメリットは、COVID-19以前から議論されていた。しかし在宅勤務と健康に関するエビデンスはCOVID-19流行前にはほとんどなく、流行後に急速にエビデンスが報告されるようになった。このような事態を受け、WHO(世界保健機関)とILO(国際労働機関)は2022年2月に、在宅勤務における健康管理に関するブリーフレポートを発表するに至った。

在宅勤務に関する健康影響

著者: 藤野善久

ページ範囲:P.740 - P.746

ポイント
◆COVID-19流行以前には、在宅勤務による健康影響に関するエビデンスは僅少であり、産業保健における新しい課題である。
◆COVID-19流行後の在宅勤務は、個人の嗜好と実態とのミスマッチが発生した。
◆在宅勤務の健康影響は、在宅勤務をする環境、在宅勤務に対する嗜好によって異なる。

緊急事態宣言下でのテレワークの導入—国内企業における在宅勤務の実態

著者: 樋口毅

ページ範囲:P.747 - P.754

ポイント
◆新型コロナウイルス感染拡大防止を目的にテレワークを導入する企業が増加する中で、在宅勤務の影響によりさまざまな健康課題が生まれた。
◆働き方改革や在宅手当等の制度導入、オンライン環境下の健康づくり等、経営戦略として、在宅勤務に積極的な投資を行う企業が増えた。
◆デジタル化の推進により、ワーク・イン・ライフが進み、在宅勤務が不可逆的な潮流となる中で、従業員の価値観の変化に応じた対応が経営戦略として一層求められるようになる。

米国企業のCOVID-19対策—在宅勤務導入を中心とした対応

著者: 阿南伴美

ページ範囲:P.755 - P.762

ポイント
◆米国のある企業のパンデミック初期において、在宅勤務導入を中心としたCOVID-19対策を調査した。
◆米国での感染者の増加とともに州の自宅待機命令(ロックダウン)の発令後、迅速に在宅勤務が開始された。
◆在宅勤務が導入されるまで、導入された後の州の動向および企業の対応について時系列で説明する。

在宅勤務と健康影響—主にメンタルヘルスに関して

著者: 近野祐介

ページ範囲:P.763 - P.770

ポイント
◆COVID-19流行に伴い、在宅勤務の導入率は大幅に増加した。
◆在宅勤務は孤立しやすく、COVID-19流行でさらに孤立しやすくなった。
◆COVID-19感染対策としての在宅勤務は、希望のミスマッチを生じさせた。

在宅勤務と健康影響—筋骨格系障害に関して

著者: 松垣竜太郎

ページ範囲:P.771 - P.777

ポイント
◆COVID-19流行下で在宅勤務と筋骨格系障害との関連についての知見が少しずつ蓄積されてきた。
◆在宅勤務者の筋骨格系障害の予防には、物理的作業環境および身体活動量への配慮が必要な可能性がある。
◆自宅の物理的作業環境が整っていない場合には、在宅勤務の頻度について配慮が必要な可能性がある。

在宅勤務と健康影響—主にワーク・エンゲイジメント、労働生産性に関して

著者: 大河原眞

ページ範囲:P.778 - P.784

ポイント
◆急激に増加した在宅勤務がワーク・エンゲイジメントや労働生産性に与える影響について注目が高まっている。
◆在宅勤務の適用に当たっては、在宅勤務が個々の労働者にとってメリットがあるかを十分考慮する必要がある。
◆在宅勤務特有の課題について組織的に対応し、在宅勤務によるデメリットを減らす取り組みが重要である。

在宅勤務・テレワークと建築環境

著者: 海塩渉

ページ範囲:P.785 - P.794

ポイント
◆COVID-19流行に伴い、住宅に「休む」という従来からの機能に加え、「働く」という機能が新たに求められている。
◆働く場としてオフィスと自宅を比較すると、自宅の主観評価は高いが、客観的にはオフィスの方が優れている点が多い。
◆今後はオフィスと自宅にサードプレースも加え、ワーカーが多様な働き方の選択肢を持つことが求められる。

在宅勤務者に対する産業保健—遠隔産業衛生活動の現状と課題・可能性

著者: 梶木繁之

ページ範囲:P.795 - P.803

ポイント
◆在宅勤務者を支援する手段として遠隔ツールを用いた産業保健活動が行われている。
◆遠隔ツールを活用した取り組みにより、労働者の健康に一定の影響(変化)を与えるとの報告がある。
◆遠隔産業衛生活動は、幅広い労働者への産業保健サービスの展開可能性を秘めている。

連載 衛生行政キーワード・149

人生100年時代における治療と仕事の両立

著者: 伊藤遼太郎

ページ範囲:P.805 - P.808

はじめに
 わが国の労働安全衛生行政は、職場における労働者の安全と健康を確保するべく、1972年に労働安全衛生法を施行して、累次にわたる法改正や関連指針の策定等が行われてきた。職場の労働安全衛生の課題は、結核等の感染症、技術革新に伴う労働災害や職業病等といった健康障害の対応から、社会の変化に応じて、健康障害の予防や早期発見の観点を含み、健康保持増進対策へと拡大してきた。近年は、労働安全衛生法が制定された当時には想定されていなかった、働き方改革への対応、メンタルヘルス対策、女性の就業率の増加に伴う健康課題、テレワークの拡大による課題、化学物質の自律管理等、多様な産業保健上の課題への対応が求められている。
 特に、深刻な少子高齢化による生産年齢人口の減少が喫緊の社会的課題となっている中で、定年延長等の背景から労働者の高齢化が進行の一途をたどっており、全労働者に占める65歳以上の割合は毎年増加している1)。これに伴って、労働安全衛生法に基づく定期健康診断の有所見率も増加しており2)、医療面でもさまざまな疾患の治療法の開発や生存率の向上等の技術進歩が著しいことから、今後は企業において、疾病を抱えながら働き続けたいと希望する労働者が、治療と仕事を両立できるような支援が必要になる場面がさらに増していくと考えられる。

ヒトとモノからみる公衆衛生史・3

マスク大国となった日本・3—食品衛生マスクの歴史——神・天皇・将軍のための口覆いから学校給食マスクへ

著者: 住田朋久

ページ範囲:P.809 - P.813

はじめに
 宮崎駿監督作品『千と千尋の神隠し』(2001年)は湯屋が舞台というだけで公衆衛生に関わりが深いことは明らかだが、その中に従業員が白い布で口(と鼻)を覆う場面が登場する。一つは悪臭を放つオクサレ様に応対するとき。そしてもう一つは客である神様の食べ物を盛り付ける場面である(湯婆婆(ゆばあば)登場の前)。前者は「自身を守るためのマスク」、後者は「他者を守るためのマスク」といえる1)
 後者のような食品衛生マスクは世界の食品取り扱い施設に広がっているが、日本では多くの人々が小学校の給食当番でマスクを着けた経験を持つ2)。こうしたマスクはいつどのように広まったのだろうか。その際、政府や専門家はどれほど主導してきたのだろうか。

保健行政のためのデータサイエンス・6

現場行政における既存資料の活用(e-Stat、NDB オープンデータ等)

著者: 高橋秀人

ページ範囲:P.814 - P.821

はじめに
 筆者は大学・大学院で統計の理論を学び、「医学・公衆衛生」等の分野で、これらの理論を応用することで、多くの研究者と共同で研究を続けてきた。国立保健医療科学院では統括研究官として各部の研究に対し、部局横断的な方向でそれぞれの部の研究について統計学的観点から協働・協力して研究を行っている。例えば「加熱式タバコの健康影響に関する研究」や「国際疾病分類の第11回改訂で新たにⅤ章として利用されることになった国際生活機能分類(ICF)を、障害者の枠組みを超えて一般集団で利用するための研究」などの研究を進めている。
 国立保健医療科学院は厚生労働省の組織で、厚労行政を進めるために保健所長の育成、県の公衆衛生担当者等の知識・技能向上の一翼を担っており、研究や研修等で行政のデータを用いる機会が多い。このようなことから、本稿では現場行政において、利用できる既存資料を概説し、利用例を提示する。こうした資料がより活用されることにつながれば幸いである。

All about 日本のワクチン・8

B型肝炎ワクチン—成人を中心に

著者: 六波羅明紀 ,   杉山真也 ,   溝上雅史

ページ範囲:P.822 - P.826

1.当該疾患の発生動向
 B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus: HBV)は世界で約2億9,600万人が感染しており、毎年約82万人が肝硬変や肝がんで死亡している1)。わが国のHBV感染率は約1%であり、HBVキャリア数は130〜150万人であると報告され重要である2)。そのため急性B型肝炎は5類感染症に指定され、法律的には届出が必須である。
 5歳未満の乳幼児感染と成人感染では経過が異なる。図12)に示されるように、乳幼児期の感染は母子感染による垂直感染が主であり慢性化率が高い。一方、水平感染は主に成人の感染で経過中約90%においてHBs抗原は陰性化しHBs抗体、HBc抗体を獲得し臨床的寛解状態となる。一部が急性肝炎を発症し臨床的寛解に至る。

日本の災害と公衆衛生——過去・現在・未来・10

避難所、在宅避難者

著者: 宮﨑美砂子 ,   関口貴恵

ページ範囲:P.827 - P.832

はじめに
 新型コロナウイルス感染症のまん延を契機に、災害発生時の分散避難が推奨されるようになった(内閣府2020)。被災者の避難場所の多様化は、3密の回避、プライバシー等が確保される一方で、被災者の状況把握を困難にさせ、被災者の生活環境や受援に格差をもたらすことが懸念される。避難所に求められる機能・役割が変化してきている今日、本稿は、避難所の課題およびその機能・役割について、在宅避難者等の避難所外避難者への支援拠点としての意味も含め概説する。

Go to the people——バングラデシュと共に歩んだ私の国際保健50年

第二編

著者: 石川信克

ページ範囲:P.833 - P.836

大学紛争の中でもまれる
 1967年、年が明け卒業を控えて、インターン闘争が始まった。当時、医学部を卒業し国家試験を受けるためには、1年間のインターン研修を受ける制度あったが、研修というよりほぼ無給の労働で、学生や研修医の間に不満が募り、大学や国に対するインターン制度廃止の運動が盛り上がってきた。また卒後研修や古い医局講座制の持つ弊害などで、学生と教授会とのあつれきが深まっていった。改革を目指す青年医師連合の全国的な展開があり、毎日のようにクラス会が開かれ、卒業試験ボイコットやストライキにまで発展した。
 ひとまずは学生自治会と教授会との妥協的な歩み寄りもあり、5月になって変則的に卒業し、インターンならぬ自主研修が始められた。そんな中で、私は、今まで漠然と考えていた無医村に出掛けて行こうなどという気持ちはなえて、精神科を専攻しようかという気が起こってきた。いくら個人が善意で努力しても限界があり、社会制度や仕組みの重要性に目覚めたといえる。また古い慣習や既成の権威に立ち向かうという貴重な経験を通して自分の殻が破れたように思う。

[連続小説]コロナのない保健所の日記・5

胃がん内視鏡検診始めます

著者: 関なおみ

ページ範囲:P.839 - P.850

七月六日 水曜日 曇り時々雨
「今日は夕飯、いらない。明日、会社の健診だから。」
 夫の秀幸が帰ってくるなり、そう言ったのは、一カ月ほど前のことだった。

映画の時間

—タランティーノという唯一無二のジャンル。—クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.838 - P.838

 今月は、異色な映画監督クエンティン・タランティーノを描いたドキュメンタリーをご紹介します。タランティーノ監督の作品は、ちょっと独特ですし、監督した作品は9本、脚本を書いた映画を含めても10本ちょっとですから、ご覧になっていない方もいらっしゃるかと思います。しかしアカデミー脚本賞を2回受賞し、カンヌ映画祭でもパルム・ドールの栄誉に輝いています。
 タランティーノ監督は1963年生まれで、若いころから映画好きで、ビデオショップで働きながらいろいろな映画を観ました。映画を作りたかったようですが、資金がなく、ショップ勤務時代に書いた脚本の版権を売って資金を得ます。その脚本は後に『トゥルー・ロマンス』(トニー・スコット監督/1993年)、『ナチュラル・ボーン・キラーズ』(オリバー・ストーン監督/1994年)として映画化されます。

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次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.853 - P.853

奥付 フリーアクセス

ページ範囲:P.854 - P.854

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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