icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生87巻9号

2023年09月発行

雑誌目次

特集 Withコロナ時代に求められる公衆衛生人材

Editorial—今月号の特集について フリーアクセス

著者: 安村誠司

ページ範囲:P.857 - P.857

 公衆衛生分野における人材育成の必要性は古くて新しい問題です。公衆衛生人材は、数年前からの新型コロナウイルス感染症の流行により、その必要性はさらに高まってきました。保健所における業務の増大に伴う専門職の不足はメディアを通じて、共有されました。2023年5月8日の新型コロナウイルス感染症の感染症法第5類への移行に伴い、Withコロナと言える状況になりました。ポストコロナという表現もありますが、新型コロナウイルス感染症が根絶されたわけではなく、一定程度の感染は今後も発生することが予想されており、Withコロナ時代になったとすることが適切ではないかと考えます。このように感染症と共存せざるを得ない時代における公衆衛生人材の育成の課題は極めて時宜を得た企画であると考えます。
 本特集では、さまざまな立場で、人材育成に関わっている研究者、実践家から、人材育成の現状と課題について情報提供いただきました。職種の視点(「多職種職場の人材育成」、「公衆衛生看護の人材育成」、「公衆衛生医師の確保と育成」、「社会医学系専門医制度の歩みとこれからの健康危機管理」)、教育の視点(「COVID-19と公衆衛生専門職大学院」)、研究の視点(「厚労省科学研究における調査から」)、健康危機管理の視点(「健康危機管理を通じて考える公衆衛生人材」、「平時、緊急時の人材育成の体制づくり」)からの報告はいずれも有益な内容です。

多職種職場の人材育成

著者: 奥田博子

ページ範囲:P.858 - P.866

ポイント
◆保健所は、地域における広域的・専門的・技術的拠点としての役割遂行のため多様な専門職で構成される。
◆地域健康課題の高度・複雑化に伴い、所属や職種の枠を越えた専門職連携や協働の推進が求められている。
◆多職種による連携の推進には、人材育成体制の整備と、多職種連携実践の強化とその検証が重要である。

公衆衛生看護の人材育成—保健師の人材育成

著者: 宮﨑美砂子

ページ範囲:P.867 - P.874

ポイント
◆自治体に入職後の保健師の人材育成は、その計画策定および実施は各自治体に委ねられており、研修参加に関して個人および自治体に格差がある。
◆保健師の専門職業人としての発達は、キャリアに応じた経験の付与とその意味づけによる専門性への理解、技術の深化、価値づけが重要である。
◆保健師の人材育成を充実させるためには、OJTとOFF-JTの連動、一体感や安心感のある学び合う職場の風土づくり、人材育成の推進役割を担う統括保健師の体制づくり、が一層求められる。

公衆衛生医師の確保と育成

著者: 山本長史

ページ範囲:P.875 - P.880

ポイント
◆多くの保健所では医師が所長1名のみで、さらに1割以上の所長が複数保健所を兼務という状況で、公衆衛生医師、中でも行政医師の不足は深刻である。
◆全国保健所長会は、公衆衛生医師の確保と育成のために、さまざまな取り組みを行っている。
◆公衆衛生医師の確保と育成について、社会医学系専門医制度の役割が評価されている。

厚労省科学研究における調査から—VUCA時代に求められる公衆衛生人材

著者: 和田裕雄 ,   今中雄一 ,   磯博康

ページ範囲:P.881 - P.889

ポイント
◆厚生労働科学研究の活動として社会医学系領域の医師のキャリアおよびコンピテンシーを明示すべく、コンテンツを作成し、実際に本コンテンツを用いて広報活動を行った。
◆医学部学生には社会医学系領域のキャリア・コンピテンシーに関する情報について潜在的需要がある一方で、学部学生全体では同領域の認知度の向上が求められ、高大接続改革も含めたさらなる取り組みの必要性が明らかになった。
◆従来の診療科ごとの臓器別キャリア、臓器別領域横断的キャリア、さらに両キャリアを柔軟に取り混ぜたクロスキャリア制度などを考慮に入れるようなVUCA時代に対応した社会医学系医師の確保・育成体制の構築が期待される。

COVID-19と公衆衛生専門職大学院—これからの公衆衛生人材の育成と政策への貢献

著者: 福田吉治

ページ範囲:P.890 - P.897

ポイント
◆コロナ流行下において、公衆衛生専門職大学院等は、感染対策の実務、調査研究、リスクコミュニケーション、行政への支援など、さまざまな対応を行った。
◆専門職大学院等は、平時および今後起こりうる有事の際に活躍できる高度な専門職の人材育成の役割を担うことが期待される。
◆従来からの公衆衛生教育に加えて、公衆衛生専門職として必要なコンピテンシーを獲得させる新たな教育体制が求められる。

社会医学系専門医制度の歩みとこれからの健康危機管理

著者: 今中雄一

ページ範囲:P.898 - P.909

ポイント
◆社会医学系専門医には、社会的疾病管理能力、医療・保健資源調整能力に加え、「健康危機管理能力」が、必須の専門技能として求められている。
◆社会医学系の人材育成においては、多職種との協働、多セクターとの連携、健康・医療・介護システム全体の向上を目指される。
◆社会医学系専門医制度は、社会医学系関係者総力を挙げて創設され、8学会6団体共同で運営されている。

健康危機管理を通じて考える公衆衛生人材

著者: 安村誠司

ページ範囲:P.910 - P.917

ポイント
◆公衆衛生人材の不足は以前からの大きな問題であったが、東日本大震災でそのことが改めて顕在化した。
◆ハザードはその種類は異なっていても、健康に対するリスクやその対処方法は類似しており、オールハザード・アプローチが有効である。
◆「オールハザード・アプローチを核とした危機管理」を教育カリキュラムに分野横断的に導入することが求められる。

平時、緊急時の人材育成の体制づくり

著者: 磯博康

ページ範囲:P.918 - P.924

ポイント
◆健康危機対応のための研究者・実務家を平時から配置・育成し、緊急時に適切かつ十分な人材の動員によるサージキャパシティが求められる。
◆健康危機対応には、感染症に加えて、大規模な自然・人的災害等も含まれ、多様な健康危機への対処が求められる。
◆公衆衛生人材は、職種、技能、経験の多様性に富み、国内外のネットワークを構築できる人材が望まれる。

連載 保健行政のためのデータサイエンス・7

保健師活動とヘルスサービスリサーチ

著者: 柏木聖代

ページ範囲:P.926 - P.929

はじめに
 筆者は、大学卒業後、保健師、看護師資格を得た後、大学病院での臨床経験を経て、大学院に進学しました。大学院では疫学が専門の教授に師事し、医学部の公衆衛生学や医療情報学の助手、職能団体で政策企画の担当者として実務も経験しました。2005年には筑波大学に着任し、今でもお世話になっている田宮菜奈子教授の下で、国や自治体レベルのさまざまなデータを使って「ヘルスサービスリサーチ」に取り組んできました。
 ヘルスサービスリサーチとは、「社会的要因、財政制度、組織構造と組織過程、医療技術、および個人行動が医療、医療の質と費用、さらに究極的にはわれわれの健康とwell-beingにいかにして影響を与えるかを科学的に研究する学際分野である」1)と定義されているように、ヘルスサービスリサーチは政策立案過程と密接な関わりがあります。筆者自身、筑波大学では、保健師養成課程、公衆衛生学修士(Master of Public Health: MPH)の教育を担当するとともに、研究者の立場として、茨城県の事業や事業評価に関する研修、別の自治体では、担当者と協働し、介護保険レセプトデータの分析を進めてきました。また、横浜市立大学では、新卒訪問看護師の人材育成に関する事業計画を大学から横浜市に提案し、保健師資格を持つ横浜市の担当者らと共に事業を展開してきました。
 本稿では、こうした実績を元に、「保健師活動とヘルスサービスリサーチ」というテーマで、保健師活動におけるエビデンスやデータ活用について考えてみたいと思います。

All about 日本のワクチン・9

百日咳含有ワクチン—成人を中心に

著者: 岡田賢司

ページ範囲:P.930 - P.933

1.当該疾患の発生動向
 百日咳は、2018年1月から感染症法で五類感染症(全数把握疾患)に改定され、検査で確定診断した医師全てに報告が求められている。2018年の報告数は11,190(週平均219)人、2019年15,972(同313)人であったが、新型コロナウイルス感染症の影響も想定され、2020年2,671(同51)人、2021年712(同14)人、2022年499(同10)人と大きく減少した。罹患年齢は各年ともほぼ同じ傾向で、5〜14歳の小児が全体の約3分の2を占め、30〜40歳代の成人が約4分の1、重症化しやすい乳児が約10%であった。
 4回の百日咳含有ワクチン接種歴がある症例は全体では約60%で、特に5歳から14歳では約80%であった。現行の小児のみのワクチン接種のスケジュールでは、百日咳の制御が難しいことを示している。

日本の災害と公衆衛生——過去・現在・未来・11

災害時健康危機管理支援チーム(DHEAT)

著者: 服部希世子 ,   内田勝彦

ページ範囲:P.934 - P.940

DHEATの役割と活動理念
 東日本大震災では多くの自治体職員も被災する中で行政ニーズが急増し、自治体そのものが機能不全に陥った。その結果、大規模な公衆衛生支援活動を現場で指揮調整することが困難になり、被災者への支援活動が立ち遅れたことが課題となった。この教訓を踏まえて創設され、被災自治体が担う保健・医療のマネジメントを支援する、行政職員から構成されるチームが「災害時健康危機管理支援チーム(disaster health emergency assistance team: DHEAT)」である。
 2017年に国通知1)が発出され、都道府県は「保健医療本部」を設置し、また、2次医療圏を管轄する保健所は市町村と連携し、保健医療活動の指揮・調整を行うことが示された。その後、保健医療分野に加えて福祉分野との連携の重要性が高まり、2022年7月国通知2)により保健医療調整本部が「保健医療福祉調整本部」となった。この保健医療福祉調整本部や保健所が行う保健医療福祉活動のマネジメントを支援することがDHEATの役割である。そして、DHEAT活動の理念は、被災都道府県等のマネジメント支援を通して、防ぎ得た災害死と二次健康被害を最小限に抑えること、また、住民ができる限り早く通常の生活を取り戻すこと3)である。

ヒトとモノからみる公衆衛生史・4

感染症サーベイランス小史・1—母親たちの運動が流行予測への道を拓いた

著者: 横田陽子

ページ範囲:P.941 - P.944

はじめに
 今号から3回にわたり、日本における感染症サーベイランスの制度化経緯を検討する。ここでいうサーベイランスとは、厚生労働省が実施する、感染症法に基づく「感染症発生動向調査」と、予防接種法に基づく「感染症流行予測調査」を指す1)2)
 各回では制度化過程の画期となる事柄を取り上げ、(1)流行予測調査の始まり、(2)現在の発生動向調査に至る端緒、(3)発生動向調査を構成する検査情報体制の整備、について検討する。
 明治期以来、伝染病の数の把握は伝染病予防法(1897年成立・施行)に規定され、当初の対象疾患は8種類であったが変遷を経て、1960年時点で厚生省が報告を求めていた伝染病は、法定伝染病11種、指定伝染病1種、届出伝染病14種、性病4種に結核と「らい」の計32種あった3)。感染症発生の3大要因として感染源、感染経路、宿主感受性があるが、明治以来行われてきたのは、主に発生時に感染源を把握することが中心であった。これに対し流行予測調査は、平常時から宿主の感受性について調べておくものだ。
 日本では、1961年に社会から強い圧力を受けたポリオワクチン問題への対処を契機に、感染症サーベイランスの端緒が開かれ、流行予測調査が始まった。以下、社会、行政、専門家の動きに注目してその経緯を検討する4)*1
 ポリオ*2とは、ポリオウイルスの感染で生じる四肢の急性弛緩性麻痺をいい、感染しても90〜95%は不顕性感染、4〜8%は風邪様症状、典型的麻痺型を示すのは感染者の約0.1%にすぎない5)。ワクチンによる予防が可能で、不活化ワクチンと弱毒生ワクチンがあり、ソーク株を用いた不活化ワクチンは1950年代から各国で使用されていた。一方生ワクチンは3者が開発していたが、セービン株を用いて1959年までにソ連で行われた大規模野外実験でその安全性・有効性が確認され、以後広く用いられるようになった6)7)

Go to the people——バングラデシュと共に歩んだ私の国際保健50年

第三編

著者: 石川信克

ページ範囲:P.945 - P.948

山の上の町タンセンへ岩村昇先生を訪問
 ネパールの発掘現場で住民への診療を通し新米の医者でも「何かができる」と自信を得たが、肉体的疲労も加わり、それは次第に絶望感へと変わっていった。「社会が良くなり、人々の暮らしが変わらねば、個人の医療行為など焼け石に水だ」。このような国で働こうというひそかな願いは、日本で好きな精神科か心療内科をやるかなという思いに傾いていった。
 発掘が一段落し、発掘隊に同行していた写真家のK氏と私は現地で自由放免となった。私たちはそこから山の上の町タンセンに岩村昇医師を訪ねた。といっても2日がかりの道程である。発掘現場のタウリハワから、まず牛車でのんびり数時間行き、丘陵地帯に入る境の町ブトワールで一泊。キリスト教ミッションが作った技術訓練校(Butwal Technical Institute)のゲストハウスに泊めてもらった。翌朝、スーツケースを運ぶポーターを雇って、7時に歩き出して、山道を登って夜7時にようやく山の上の町タンセンにたどり着いた。突然の来訪者を、岩村史子夫人は、「よくいらっしゃいましたね」と優しく迎えてくださった。岩村先生は、鳥取大学医学部衛生学教室の助教授であったが、それを捨て、5年前から日本キリスト教海外医療協力会(JOCS)から派遣され、タンセンのミッション病院を軸に公衆衛生や結核対策の仕事をされていた。私にとっては未知の分野であった。

患者さんに「寄り添って」話を聴くってどういうこと?・10

家族のケア

著者: 清水研

ページ範囲:P.949 - P.955

(今回の登場人物)
清水先生
がん患者とその家族のケア(精神腫瘍学)を専門とする精神科医。心理的な問題に関するコンサルタントとして、担当医や看護師など他の医療者が困るケースの相談も積極的に受けるようにしている。

[連続小説]コロナのない保健所の日記・6

トーゴを待ちながら

著者: 関なおみ

ページ範囲:P.958 - P.970

七月二四日 金曜日 晴天 世の中は夏休みモード
 講堂に垂れ下がるスクリーンに、ばりばりという音と共に、縦にたくさんの筋が入った傷だらけの白黒の画像が映し出される。端正な手書きの「新らしい保健所」(1)という文字が表示され、昭和初期の無声映画時代によく使われるようなオーケストラ音楽が流れ始めた。旧字体で「製作 連合軍總司令部 民間情報教育局 並びに 厚生省 協力 連合軍總司令部 公衆衛生福祉局」といった物々しいクレジットが続いた後、縦書きで日本国憲法第二五条 生存権の条文が表示され、その後やっと映像が始まった。
 幼い子どもの死を看取った医師が、保健所に「死因が日本脳炎だ」と電話をすると、緊迫した雰囲気の音楽に切り変わり、保健所長が衛生課の職員と地図を広げて疫学調査と消毒範囲を検討、これを受け、作業服を着た防疫班が消毒器材を大八車に積んで出動する。以降、次々と各分野の保健所職員の活躍が映し出された後、最後に全国各地に設置された保健所が次々と映し出され、最高潮に盛り上がった音楽と共に、「明るい健康な日本を作り上げるため、保健所はいま全国的活動を開始したのであります! そしてこれらの保健所は、皆さんの保健所なのであります!」

予防と臨床のはざまで

5類へどうする? 企業のコロナ出口戦略

著者: 福田洋

ページ範囲:P.956 - P.956

 多職種産業保健スタッフの研究会、さんぽ会(http://sanpokai.umin.jp/)の2023年5月月例会のテーマは「5類へどうする? 企業のコロナ出口戦略」でした。5月8日より実施された政府の5類移行の方針を受けて、いよいよ企業もCOVID-19の出口戦略を考える時期になりました。3年間続いた発熱外来も終了となり、病院関係者も感慨深くこの動きを捉えています。一方で3月13日以降に個人の判断となったマスク着用ですが、完全にまだ外すという雰囲気でないのも事実。さんぽ会としてもこの機会に「5類移行後の今も個人で行っている対策」「もうやめた方がよいと思う感染対策」などをアンケート調査し、議論することにしました。
 前半は私から、この3年間の振り返りについて話題提供しました。実はCOVID-19対応は病院より産業保健が早く、エビデンスがない中、2020年1月から対応に追われたこと、安全衛生委員会でCOVID-19関連の話題が尽きなかったこと、テレワークの浸透とともに在宅勤務の健康影響が出始め、2020年6月にはCOVID-19と産業保健に関する国際シンポジウムで発表したこと、2021年1月の日本健康教育学会のシンポジウムではコロナ下での1年間の論文がレビューされ、特に運動不足とメンタルヘルスへの影響が大きく、緊急事態宣言下では1日における平均歩数が2,000歩減り座位時間が増えたこと、うつ病や不眠が2割増えたことなどについて解説しました。

映画の時間

—さよなら。君といた僕。—卒業〜Tell the World I love You〜

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.957 - P.957

 舞台はバンコク。大衆食堂でしょうか、主人公のケン・スラデート(スラデット・ピニワット)が皿洗いのバイトをしています。食堂はケンの同級生タイ(シラホップ・マニティクン)の兄の店で、お金のないケンは、タイの家に居候しながら、同じ高校に通っているようです。
 場面は変わり、カメラは市内をバイクで疾走する青年を望遠で捉えます。彼がこの物語のもう一人の主人公ボン(タナポン・スクムパンタナーサン)です。ボンは麻薬の密売を生業にしています。

--------------------

目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.855 - P.855

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.973 - P.973

奥付 フリーアクセス

ページ範囲:P.974 - P.974

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら