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雑誌目次

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公衆衛生88巻1号

2024年01月発行

雑誌目次

特集 結核低まん延から結核ゼロへの課題と展望—外国生まれ結核患者への対応

Editorial—今月号の特集について フリーアクセス

著者: 大角晃弘

ページ範囲:P.3 - P.3

 今回の特集では、わが国による入国前結核健診事業(以下、JPETS)が間もなく導入される中で、国内での結核登録患者ゼロを目指す上での障壁の一つである外国生まれ結核患者への対応に関連し、入国前・滞在中・出国後の各段階における外国生まれ結核患者の早期診断と確実な治療を提供するための方策を考えるための基本的情報を提供します。
 (公財)結核予防会国際部の小野崎郁史先生には、結核低まん延工業先進国における結核ゼロに向けた結核対策について、WHOによるEnd TB StrategyやWHO European Regionによる結核戦略を踏まえ、特に移民を対象とする対策の動向を中心に執筆いただきました。国際移住機関(IOM)駐日事務所の髙橋香先生には、2024年に導入されるJPETSの概要の紹介と情報マネージメントシステム(JIMS)の役割、現地健診医療機関の役割、事業全体の課題と展望について、諸外国による入国前結核健診の実施状況も含めて執筆していただきました。(公財)結核予防会結核研究所対策支援部の座間智子先生には、外国生まれ結核患者の早期発見と患者中心のケアを提供するための課題と展望について、結核予防会外国人結核相談室の活動からまとめていただきました。大阪市保健所感染症対策課の井村元気先生には、外国生まれ結核患者の早期発見と適切なケアを提供するための課題と展望について、大阪市保健所での取り組みを含めてまとめていただきました。国立国際医療研究センター病院呼吸器内科の橋本理生先生には、外国生まれ結核患者の診断と治療に関する課題と展望について医療機関の立場から、同 国際診療部の小山内泰代先生には、外国生まれ結核患者の適切なケアを提供するための課題と展望について医療コーディネーターの立場から報告していただきました。(一社)全国医療通訳者協会の森田直美先生には、外国生まれ結核患者中心のケアを提供するための課題と展望について、地方における医療通訳者の人材が不足する状況において、スマートフォン等の情報技術を活用した医療通訳の実際例を含めて医療通訳者の立場から課題と展望についてまとめていただきました。TB Action Network所属のPham Nguyen Quy先生、Do Dang An先生、李祥任先生には、外国生まれ結核患者の早期発見と適切なケアを提供するための課題と展望について、地方における支援例を含めて在日外国人支援NGOの立場から報告していただきました。最後に、筆者(公財)結核予防会結核研究所臨床疫学部の大角晃弘は、日本国内滞在中に結核と診断されて結核治療を開始した外国生まれ結核患者が、結核治療中に帰国する場合の帰国後治療継続支援の課題と展望についてまとめました。

移民を対象とする結核対策の動向—結核低まん延から根絶前期を目指す欧州連合・経済地域からの学び

著者: 小野崎郁史

ページ範囲:P.4 - P.13

ポイント
◆移民(外国出生者)の結核の早期発見・発症予防なしに、SDGsやEnd TB Strategy目標の達成、ひいては結核の終息は困難である。
◆入国前後のスクリーニングを超えた継続的な配慮と医療へのアクセスの確保が肝要である
◆学会を含む市民社会の役割や国際連携など欧州連合・経済地域から、日本が学べる点は多い。

入国前結核健診事業の概要と課題および展望

著者: 髙橋香

ページ範囲:P.14 - P.23

ポイント
◆外国生まれ結核患者数の増加傾向を背景に、アジア6カ国の国籍を有し中長期在留者として日本に入国・在留しようとする者に対して入国前結核健診が求められることとなった。
◆現地指定医療機関は日本入国前結核健診手引きに従い健診を実施し健診内容をJIMSに入力し、日本入国前結核スクリーニング精度管理センターがJIMSを通してモニタリングおよび精度管理を行う。
◆今後の課題としては、現地指定医療機関の手引きの周知徹底、入国前結核健診の円滑な導入と実施、費用対効果の分析評価、結核ハイリスク者の国内連携の検討等が挙げられる。

国内における外国生まれ結核患者の服薬支援—外国人結核相談室の活動から考える

著者: 座間智子

ページ範囲:P.24 - P.32

ポイント
◆結核患者の治療成功のための戦略は、DOTSに代わり「患者中心の支援」へと軸足を移している。
◆外国生まれ結核患者の服薬支援は、治療と生活の両立の視点が重要である。
◆服薬継続を支えるためには、医療通訳者を含む多職種・多機関による課題の解決が必要である。

国内における外国生まれ結核患者の早期発見とケアに関する課題と展望—保健所の立場から

著者: 井村元気

ページ範囲:P.33 - P.40

ポイント
◆外国人結核対策として大阪市では「日本語教育機関への胸部X線健診」「医療通訳派遣」「帰国者の治療継続支援」などを行い、早期発見から治療完遂まで切れ目のない支援を目指してきた。
◆入国前結核健診への期待は大きいが、あくまで外国人結核対策の一部であり、国内における早期発見の取り組みは継続・強化が必要である。
◆特に所属のない外国人への啓発・支援が今後の課題であり、多職種・多機関で連携したネットワークを構築し対応する必要がある。

国内における外国生まれ結核患者の診断と治療に関する課題と展望—医療機関の立場から

著者: 橋本理生

ページ範囲:P.41 - P.48

ポイント
◆外国出生結核患者の診療は、結核症の特徴と外国人医療の特徴が合わさり、そこに高い罹患率と高い薬剤耐性率という結核高まん延国の状況が加わる。
◆適切な診断に基づいた適切な治療を完遂することを目指し、患者を中心に、医師・病院や保健所だけにとどまらずさまざまな部署や職種が連携しての対応が望まれる。
◆治療成功には、患者本人がしっかり治療の意義や薬の副作用などを理解し主体的に治療に関わっていくことが大切であり、外国出生結核患者でも同様である。

国内における外国生まれ結核患者のケアに関する現状と展望—外国人診療支援の視点から

著者: 小山内泰代

ページ範囲:P.49 - P.57

ポイント
◆外国人診療支援の際は、言葉や文化の壁を越え患者の声に耳を傾け、人として尊重されたと患者自身が思えるようケアする。
◆在留資格や健康保険の保持など社会的基盤を安定させることはケアであり、患者の精神的安定につながる。
◆外国人患者の支援は、医療通訳をはじめ多職種、多機関の協働が不可欠である。

国内における外国生まれ結核患者のケアに関する課題と展望—医療通訳者の立場から

著者: 森田直美

ページ範囲:P.58 - P.67

ポイント
◆医療通訳とは「コミュニティ通訳」の一つで、医療や保健の現場で通訳サービスを提供する専門職である。
◆長期の服薬に伴走する保健師の存在こそが、外国生まれ結核患者の治療成功の鍵となる。
◆患者中心のケア提供には医療通訳を公共サービスとして位置付け、育成、報酬、派遣制度を充実する必要がある。

日本における外国生まれ結核患者の早期発見とケアに関する課題と展望—ベトナム移民のための健康・結核支援ネットワークの経験から

著者: ,   ,   李祥任

ページ範囲:P.68 - P.77

ポイント
◆移民の有症状時の医療アクセスを促進するために、移民のヘルスリテラシーの向上、母国語による相談体制、保健医療機関における言語支援や、社会的支援が必要である。
◆日本語能力が限られる患者の場合、本人の理解できる言語で病状や治療方針を説明し、診療に関する意思決定ができるように支援することが重要である。
◆公的な医療通訳提供体制を全国レベルで整備することが急務である。対面・遠隔・機械翻訳などの手段があり、場面に応じた活用が望ましい。

治療中に出国する外国生まれ結核患者の治療継続支援の取り組み

著者: 大角晃弘

ページ範囲:P.78 - P.84

ポイント
◆出生国や治療を受ける場所にかかわらず、全ての結核患者が適切な結核治療を受けて治癒することは、本人の健康維持のためのみではなく、結核のまん延防止のためにも非常に重要である。外国生まれ結核患者が結核治療中に出国する場合にも、出国先で適切な結核治療を継続して受ける必要がある。
◆米国では、MCNというNGOやCDCが、結核治療中に出国する結核患者の治療継続のための支援を行っている。
◆日本では、Bridge TB Careが2019年から研究事業として結核治療中に出国する結核患者の治療継続支援を試行した(2023年度終了予定)。

連載 All about 日本のワクチン・13

肺炎球菌ワクチン—小児を中心に

著者: 菱木はるか

ページ範囲:P.85 - P.88

1.当該疾患の発生動向
 肺炎球菌感染症は、グラム陽性球菌である肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)によって起こる感染症である。気管支炎、中耳炎などの市中感染から、肺炎、敗血症、細菌性髄膜炎などの侵襲性肺炎球菌感染症(invasive pneumococcal disease: IPD)を引き起こす。IPDは重篤な後遺症や死亡のリスクが高い疾患である。小児肺炎球菌ワクチン導入以前のわが国において、小児細菌性髄膜炎の原因菌の第2位が肺炎球菌であった1)。全国多施設共同研究(1道9県)における調査2)によると、ワクチン導入前の2008〜2010年における5歳未満小児人口10万人当たりの肺炎球菌による髄膜炎罹患率は2.6〜3.1、非髄膜炎罹患率は21.2〜23.5であり、IPDは毎年1,200症例程度発生していたと推計された。IPDは2013年から感染症法5類感染症の届出対象疾患となっている。2014〜2021年の感染症発生動向調査3)によると、IPDの年間報告数は2014年以降2018年まで経年的に増加し、2020年以降に減少している。2020年の人口10万人当たりのIPDは、全年齢1.32、5歳未満6.0、65歳以上2.75と、小児患者が最も多い。5歳未満における年間報告数の推移も全体と同様に、2014〜2019年にかけて増加し、2020年以降に減少している。病型は、5歳未満では菌血症、菌血症を伴う肺炎、髄膜炎の順に多く、65歳以上では肺炎、菌血症、髄膜炎の順に多く見られている。後述するように、ワクチン導入後にワクチン含有血清型によるIPDは激減したが、ワクチン非含有血清型のIPDが増加している4)。本稿では、主に小児のIPDと小児肺炎球菌ワクチンについて解説する。

ヒトとモノからみる公衆衛生史・8

子どもと歯科衛生の近代・2—企業と歯科医の互恵関係がもたらしたもの

著者: 宝月理恵

ページ範囲:P.89 - P.92

はじめに
 前号では学校歯科医制度の確立と、学校歯科医の活動事例を紹介した。今号では歯磨剤や歯ブラシを販売した民間企業を取り上げたい。筆者は、①歯科学の専門職化(近代的歯科医の登場)、②近代的学校制度、③産業資本主義の発展、④インフラ整備という条件の下で、日本の児童口腔衛生が急展開し始めたと考えている。

Go to the people——バングラデシュと共に歩んだ私の国際保健50年

第七編

著者: 石川信克

ページ範囲:P.93 - P.96

ロンドンでの学び 熱帯医学から貧困の医学へ
 ロンドンスクールでの学びは、主に英国の公衆衛生に関するもので、直接途上国での活動には役立ちそうな内容ではなかった。ただし、前から熱帯医学や途上国の医療に関する学びは始めていて、その中でも特に1960〜70年代、ネパールで働いていた岩村昇先生の体験談には豊富な内容があった。先生はいわゆる熱帯医学の教科書でなく、モーリス・キングの“Medical Care in Developing Countries”(1966)1)を紹介された。これは従来の熱帯医学を、「貧困の医学」という概念に変えた画期的な入門書であった。先生は、この本をリュックサックに入れてネパールの村々を訪ねるときに熟読して目が開かれたという。もう1冊は、WHOによる“Health by the People2)で、こちらも熱帯地域の医療保健について、途上国におけるコミュニティー・ヘルスという視点が強調して書かれており、2冊ともその後のプライマリ・ヘルスケアという画期的な概念を生み出す伏線になっていた。先駆的なこの“Health by the People”については、それが書かれた経緯について岩村先生からお聞きしていた。
 というのも当時、岩村先生はジュネーブで開かれる世界教会協議会の医療委員会であるCMC(Christian Medical Commission)出席の道中にロンドンのわが家を数回訪ねてくださり、そのときに多くのことをお話しされた。CMCは、1960年代後半には、病院や診療所で患者を治療するだけでは地域の人々の病気予防や健康向上に不十分であると考え、コミュニティー・ヘルスの意識が高まっていた。CMCの会議では、そうした視点から世界中のへき地にあるミッション病院の保健医療の在り方について協議されていた。例えば、アフリカで外国人外科医が手術をして一人の患者を助けた。しかし、その後患者の家を訪ねてみると、その家族はどん底の貧困生活をしていた。手術をしてもらうために、持っていた家畜の牛を手放すしかなく生活基盤を失ってしまったからだ。手術が成功して病気を治しても、その患者や家族のためになっていなかったとその医師は反省し、地域医療を進めるようになった。CMCはこうした経験を集積し、同じジュネーブにあるWHOのスタッフと共有する中で、“Health by the People”の出版がなされたという。一種のウラ話ともいえるが、後にジョンズ・ホプキンス大学のカール・テーラーも同様の証言をしている3)

患者さんに「寄り添って」話を聴くってどういうこと?・12【最終回】

自閉症スペクトラム傾向のある患者さんへの対応

著者: 清水研

ページ範囲:P.97 - P.102

(今回の登場人物)
清水先生
がん患者とその家族のケア(精神腫瘍学)を専門とする精神科医。心理的な問題に関するコンサルタントとして、担当医や看護師など他の医療者が困るケースの相談も積極的に受けるようにしている。

[連続小説]コロナのない保健所の日記・10

この組織、どうする?

著者: 関なおみ

ページ範囲:P.105 - P.116

十二月一日 火曜日 曇り 映画の日(だが、行く心の余裕がない)
 その日は午後から来年度の健康部(保健所)の組織改正(1)について話し合うことになっていた。会議室に向かう途中、風邪気味の羽田係長が、ピンクの不織布マスクをしたまま、ハスキーボイスでこれまでの経緯を説明してくれる。
「橘先生が来る前は、感染症は別として、地区活動を行う保健師が健康部(保健所)の健康推進課、福祉部の障害者福祉課、高齢者福祉課、介護保険課と、分野別に分かれて配属されていたんです。つまり、健康推進課の地区担当保健師は母子の事例全般、虐待の疑いがあれば子ども家庭支援センター、精神障害者は障害者福祉課、元気高齢者は高齢者福祉課、介護保険を申請した人は介護保険課、というように、専門分野別になってたんです。」

予防と臨床のはざまで

さんぽ会夏季セミナー2023「産業保健への思いを語り合おう」

著者: 福田洋

ページ範囲:P.103 - P.103

 9月23日(土)〜24日(日)に、多職種産業保健スタッフの研究会であるさんぽ会(http://sanpokai.umin.jp/)の夏季セミナーを、箱根町の強羅にある帝京大学箱根セミナーハウスで行いました。夏季セミナーは、通常の月例会では議論しきれないまとまったテーマについてしっかり時間をとって共有、議論、交流を深める目的で、年1回開催しています。コロナ禍明けということもあり、対面開催としては4年ぶり、宿泊型のセミナーとしては実に7年ぶりとなりました。東京から向かう買い出しチームは、懇親会の物品や酒類を道中で購入しながらドライブで会場に向かうなど、失われていた日常が戻ってきたような感覚になりました。開始時刻には、座敷のあるメイン会場にはすでに40名強の参加者が全国から集まっており、期待感をひしひしと感じました。
 初日は、金森悟氏(帝京大学)から開会あいさつと世話人紹介を行った後、私から「セミナーへの期待」と題して、今回の趣旨についてお話ししました。さんぽ会には企業、健康保険組合、労働衛生機関、大学などさまざまな組織から医師、保健師、看護師、管理栄養士、人事労務などの種々の職種が集まりますが、個々の現場では少ない人数で孤軍奮闘していることが多いです。より良い産業保健活動を行うための悩みは尽きません。また産業医や保健師など専門職がどうキャリアを積み上げていくか、何を大事にして働いていくかも難しい課題です。産業保健に必要なセンス、マインド、スキルなどの資質についての先行研究も紹介しつつ、「産業保健に大切なことってなんだっけ? その思いを語り合おう」というコンセプトを提示しました。さらに今回は、大人が真剣に議論する様子を産業保健分野に進みたい学生に見せたいという狙いから、10名前後の学生もお誘いしました。

映画の時間

—100年前、自由を求め闘った一人の女性の生涯—風よ あらしよ 劇場版

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.104 - P.104

 昨年は関東大震災から100年を迎えました。地震への対策はもちろんですが、発災時の混乱の中で、不確実な情報が広がり、朝鮮半島出身者や地方から興行に来ていた人たちが虐殺された事件が改めて注目を浴びました。その混乱の中で、アナキストの大杉栄と伊藤野枝、そして大杉の甥も生命を奪われています。今月は、伊藤野枝の生涯にスポットを当てた『風よ あらしよ 劇場版』をご紹介します。
 女性は「家にあっては父に従い、嫁しては夫に従い、夫が死んだ後は子に従う」という「三従の教え」が美徳とされた大正時代。主人公の伊藤野枝(吉高由里子)が仮祝言を挙げている場面から映画は始まります。酔った許婚の父(渡辺哲)は、野枝の腰をなでながら、これなら立派な子を産める、などと言っています。今ならセクハラものでしょう。

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基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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