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公衆衛生88巻10号

2024年10月発行

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特集 その政策にエビデンスはあるんか!?—根拠に基づく健康政策(EBHP)を進めるために

Editorial—今月号の特集について フリーアクセス

著者: 福田吉治

ページ範囲:P.977 - P.977

 本特集は、巻頭「根拠に基づく健康政策(EBHP)を進めるために」(978〜981頁)でも述べさせていただいたように、現在進行中の政策・事業にエビデンスがあるかという観点で、それぞれの分野の専門の方にご執筆いただきました。
 取り上げた政策・事業は、成人保健では「特定健康診査・特定保健指導」、「糖尿病性腎症重症化予防」、「ストレスチェック」、高齢者等では「保健事業と介護予防の一体的実施」、「多剤投与、適正受診・服薬」、「インフルエンザワクチン」、母子保健では「乳幼児健康診査・神経芽細胞腫スクリーニング・母子健康手帳」です。さらに、この数年注目されている「健康の社会的決定要因」や「ナッジ」もテーマに加えました。これらの政策・事業にどの程度のエビデンスがあるのか、これからどのような姿勢で臨めばよいのか、とても興味深く読んでいただけると思います。

根拠に基づく健康政策(EBHP)を進めるために—エビデンスとは

著者: 福田吉治

ページ範囲:P.978 - P.981

ポイント
◆根拠に基づく健康政策(EBHP)の推進が求められて久しいが、日本ではいまだ十分ではない。
◆公衆衛生では、限られたエビデンスの中で、政策や事業を行われていること、あるいは、行うことが求められることも少なくない。
◆本稿は、現在行われている政策についてEBHPの観点から論じる本特集における問題意識を整理した。

糖尿病性腎症重症化予防の効果に関する文献レビュー

著者: 天笠志保 ,   末田敬志朗 ,   持丸瑛梨 ,   福田吉治

ページ範囲:P.982 - P.988

ポイント
◆糖尿病性腎症重症化予防の効果を検証した7件の論文をレビューした。
◆アウトカムは腎機能・透析導入率やHbA1cが多かったものの、合併症や医療費、受診行動に関する報告もみられた。
◆採用された論文には追跡期間が短い研究や対象者数が少ない研究も含まれており、今後、長期的な評価を含めたさらなる検証が必要である。

—成人保健のEBHP・1—特定健康診査・特定保健指導

著者: 中山健夫

ページ範囲:P.989 - P.994

ポイント
◆特定健診・特定保健指導は「高齢者の医療の確保に関する法律」で定められ、メタボリックシンドローム対策として2008年に開始された。
◆臨床における肥満改善指導は一定のエビデンスで推奨されているが、スクリーニングも含む一般的な健診の健康アウトカムの改善効果は確実性の高いエビデンスで支持されていない。
◆現在、そして今後の特定健診・特定保健指導の在り方を検討していく上で、実際のデータを活用した慎重な疫学的知見の蓄積が望まれる。

—成人保健のEBHP・2—ストレスチェック

著者: 堤明純

ページ範囲:P.995 - P.1001

ポイント
◆検査のフィードバックや面接指導に関するエビデンスは少ないのに対し、職場環境改善の知見は豊富である。
◆職業性ストレス簡易調査票を用いて把握される高ストレス状態と仕事のストレス判定図の予測妥当性は示されている。
◆ストレスチェックの各要素が十分に機能する条件下で、Best available evidenceを求めていくことが望まれる。

—高齢者等に関わるEBHP・1—高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施

著者: 山田卓也 ,   石塚亮平

ページ範囲:P.1002 - P.1008

ポイント
◆高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施事業は開始から3年が経過し、体制づくりは進んだが、具体的な取り組みには課題を残す。
◆具体的な取り組みであるポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチともに科学的エビデンスは十分ではなく、事業の実施とともにより客観的評価が求められる。
◆アウトプットとアウトカムをモニタリングしながら、事業の新規実施や改善に取り組み、持続可能な保健事業・介護予防の一体的実施モデルが確立することを期待する。

—高齢者等に関わるEBHP・2—多剤投与、適正受診・服薬

著者: 入江真理

ページ範囲:P.1009 - P.1013

ポイント
◆多剤投与の問題は、単なる薬剤費の問題ではなく、薬物有害事象のリスク増加につながることである。
◆ジェネリック医薬品使用促進のための差額通知の事業と同様に考えてはいけない。
◆医師が処方変更を検討するためには、服用(使用)薬剤の全てを把握できる情報の一元化が重要となる。

—高齢者等に関わるEBHP・3—高齢者インフルエンザワクチンの有効率

著者: 杉下由行

ページ範囲:P.1014 - P.1020

ポイント
◆インフルエンザの予防にはワクチンが広く用いられ、高齢者においては毎年のワクチン接種が推奨されている。
◆米国CDC等から高齢者インフルエンザワクチンの有効率(VE)が報告されているが、統計学的に有意なVEの結果はそれほど多くない。
◆高齢者インフルエンザワクチンのVEは、有効性を正確に評価するには不十分であり今後の研究成果の蓄積が望まれる。

—母子保健のEBHP—乳幼児健康診査・神経芽細胞腫スクリーニング・母子健康手帳

著者: 高橋謙造

ページ範囲:P.1021 - P.1026

ポイント
◆日本においては、母子保健事業は、1910年代からデータに基づいて計画されてきたが、近年はデータに基づかない事業もあった。
◆乳幼児健康診査における疾病スクリーニング項目を疫学的に検討した厚労科研に山崎班の研究がある。
◆過去には、データに基づいた科学的議論がなされた事業、評価のないままに長期に事業継続された例もあった。

健康の社会的決定要因のエビデンスはあるんか?

著者: 近藤尚己

ページ範囲:P.1027 - P.1032

ポイント
◆SDH(健康の社会的決定要因)には個人(貧困・孤立など)や社会(所得格差・社会制度・ジェンダー規範など)の要因がある。
◆SDHを変えるような介入研究は難しく実験的な実証エビデンスは極めて限られている。
◆“Current best”のエビデンスを活用しつつ公正な健康づくりを進めるべきである。

公衆衛生におけるナッジのエビデンスとこれからの展望

著者: 村山洋史

ページ範囲:P.1033 - P.1039

ポイント
◆公衆衛生におけるナッジの研究的エビデンスは、海外からの報告が大半で、日本からの報告はまだ少ない。
◆ナッジを作ることに目が向きがちだが、望ましいアウトカムを引き出せているかのエビデンスは出すべきである。
◆対象者特性、地域の文化的背景、これまでの事業の経緯等を踏まえてナッジを考え、作り上げていくこともまた、重要なエビデンスである。

根拠に基づいて健康政策(EBHP)を進めるために

著者: 高鳥毛敏雄

ページ範囲:P.1040 - P.1046

ポイント
◆健康課題が社会的な影響を受けたものが多くなっているために人々の健康意識や健康行動に関する情報も健康政策を進める上で重要なものとなっている。
◆健康政策として、人々の健康行動の変容を求める、民間事業者の販売規制を行う、などが必要となっていることから、その政策の根拠を示す必要性が高くなっている。
◆EBHPを進めるために研究者と実践者のシナジーをより高めていく必要がある。

連載 衛生行政キーワード・156

健康日本21(第三次)

著者: 谷口倫子

ページ範囲:P.1048 - P.1053

はじめに
 令和6(2024)年度から、「21世紀における第三次国民健康づくり運動(健康日本21(第三次))」が開始された。わが国の国民健康づくり運動としては第5次の計画となり、「健康日本21(第二次)」に引き続いて、健康寿命の延伸と健康格差の縮小を目指しており、本稿でその方向性について概説する。

All about 日本のワクチン・22

新型コロナワクチン—小児を中心に

著者: 天羽清子

ページ範囲:P.1054 - P.1057

1.当該疾患の発生動向
 2019年12月、中国湖北省武漢市が発端となった新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)は瞬く間に全世界に拡散し、世界的な大流行(パンデミック)となり、多くの生命を奪い社会活動に厳しい制限をもたらした。このSARS-CoV-2はRNAウイルスであるため容易に変異し、アルファ株→デルタ株→オミクロン株と新たな株による流行を繰り返してきた。
 パンデミックの初期には、小児の感染者は成人と比較して非常に少なく、SARS-CoV-2の受容体であるアンジオテンシン変換酵素2が小児では少ないことが原因と考えられた1)2)。しかし、ワクチンが開発され成人の多くが接種したこと、また罹患歴のある成人が増えたこと、ウイルスに変異が入ったことなどで、オミクロン株からは小児の感染者割合が増加している。表13)4)は2024年第24週の定点当たりの年代別報告数3)と、2024年4月報の人口統計から得た各年代の人口4)と、前2つのデータから得た人口10万人当たりの報告数を示している。成人や高齢者よりも20歳未満の感染率が多くなっていることが分かる。

ヒトとモノからみる公衆衛生史・17

健康増進と「人生の最終段階」・2—「運動」「努力義務」そして「個人の尊重」

著者: 柏﨑郁子

ページ範囲:P.1058 - P.1062

はじめに
 前回は、「健康寿命」の延伸が「不健康状態の圧縮」である場合には、社会保障費の削減という政策の方針が見え隠れするということを述べた。仮に、そのような政策が、市民に対してあからさまに示されるなら、当然、個と公共、つまり市民と政府の対立という古典的な公衆衛生倫理のテーマが再浮上するであろう。倫理学者の児玉聡は、米国の公衆衛生学会の倫理綱領を引きながら、「公衆衛生における最も大きな倫理的問題は、感染症予防や健康増進活動に伴って個人の自由を制限することがどこまで許されるかというものであろう」1)と述べている。しかし、20世紀以降においては、特に1970年代以降、オタワ憲章、アルマ・アタ宣言にみられるように、プライマリ・ヘルスケア、一次予防、コミュニティーベースの公衆衛生がさかんに提唱されるようになってからは、「介入」ではなく市民の「自発性」が射程にされてきた2)。つまり、感染症対策を除く公衆衛生の倫理的問題の焦点は、「個人の自由を制限することがどこまで許されるか」というよりも、市民の「自発性」に「制限」の原動力が委ねられている点にある。したがって、社会保障費の削減という政策の方針に対しても、実際には個と公共の対立は生じない仕組みになっている。
 そこで今回は、公衆衛生に関連した政策において、自主的な「運動」、強制のない「努力義務」、そして自助を前提とした「個人の尊重」という方法が採用されており、個と公共の対立は生じない仕組みになっていることを確認したい。

Go to the people——バングラデシュと共に歩んだ私の国際保健50年

第十六編

著者: 石川信克

ページ範囲:P.1063 - P.1067

ショミティの中での保健活動
 村レベルのプライマリー・ヘルスケア(PHC)活動に話題を戻そう。1980年代、人口の9割が住む農村部の保健医療サービスは皆無に近かったが、国はWHOのアルマ・アタ宣言(1978年)以来、全国の約500の郡(ウパジラ:人口15〜20万人)に保健センターを設置し、基本的な保健医療サービスを提供しようという計画を進めていた。中身は、下痢・発熱・けがなどの治療(結核も含まれていた)、予防接種・栄養指導・母子保健・家族計画・安全な水確保・便所づくりなどの地域保健活動(コミュニティーヘルス)の展開である。当時、行政組織が弱く、予算も人材も不足する中で、さまざまな国内外のNGOが歓迎され、補完的活動を実践していた。私の赴任先のキリスト教保健プロジェクト(CHCP)もその一つであった。ここまでは基本的保健サービスを人々に届けるというHealth to the peopleである。しかしPHCのHealth for All(HFA)の理念には、それに加えてコミュニティーづくりと人々の積極的参加(すなわちHealth by the People)によりHFAが達成できるとする画期的な概念変革もあった。
 私はバングラデシュのコミュニティーとはどこを指すのか、地域組織といえるものが見えなかった。ヘルスの担い手はどこになるのか探索する中で、シスター・マリーの人間開発プログラム(human development programme: HDP)に出合ったのである。ショミティ活動に新しいコミュニティーづくり、その中にヘルス活動の芽があることを見た。PHCの一番末端の担い手はこのショミティかもしれないと思えた。1980年代のバングラデシュの農村の人口の8割以上が土地なしで、物言わぬ農民たちであった。特に女性たちはほとんど社会的活動がなかった。その人たちをターゲットにした新しい開発の動きが出てきた時でもあった。日本からこの国で働くNGOのパイオニアであったシャプラニールも、新しいアプローチとしてショミティづくりに取り組み始めていた。ヘルスは直接の課題ではなかった。私はゴルノディのカトリックミッションが行っていた結核クリニックの支援の傍ら、周辺の村々で出来上がってきた70のショミティで何が起こっているのか、その実態を見ることにした。現地では、それまで村レベルの仕事で、私の仕事の同僚だった保健師・斎藤洋子さんが3年の任期を終えて帰国し、後任の保健師・川口恭子さんがミッションの中に住んでHDPの保健活動の支援と結核クリニックの仕事を始めていた。

映画の時間

—家での最期を希望した父と、看取りを決意した母。息子のカメラが映し出す、戸惑いと焦燥、驚きと喜び、感謝と労い…。—あなたのおみとり

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.1068 - P.1068

 今月は、人生の最期を迎えた父を看取る家族の姿を追ったドキュメンタリー『あなたのみとり』を紹介します。
 監督の父、村上壮氏は2019年に胆管がんと診断されました。手術を受けますが、高齢(当時89歳)であったこともあり、根治手術には至らなかったようです。

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ページ範囲:P.1072 - P.1072

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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