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文献詳細

雑誌文献

公衆衛生88巻10号

2024年10月発行

連載 ヒトとモノからみる公衆衛生史・17

健康増進と「人生の最終段階」・2—「運動」「努力義務」そして「個人の尊重」

著者: 柏﨑郁子1

所属機関: 1東京女子医科大学看護学部

ページ範囲:P.1058 - P.1062

文献概要

はじめに
 前回は、「健康寿命」の延伸が「不健康状態の圧縮」である場合には、社会保障費の削減という政策の方針が見え隠れするということを述べた。仮に、そのような政策が、市民に対してあからさまに示されるなら、当然、個と公共、つまり市民と政府の対立という古典的な公衆衛生倫理のテーマが再浮上するであろう。倫理学者の児玉聡は、米国の公衆衛生学会の倫理綱領を引きながら、「公衆衛生における最も大きな倫理的問題は、感染症予防や健康増進活動に伴って個人の自由を制限することがどこまで許されるかというものであろう」1)と述べている。しかし、20世紀以降においては、特に1970年代以降、オタワ憲章、アルマ・アタ宣言にみられるように、プライマリ・ヘルスケア、一次予防、コミュニティーベースの公衆衛生がさかんに提唱されるようになってからは、「介入」ではなく市民の「自発性」が射程にされてきた2)。つまり、感染症対策を除く公衆衛生の倫理的問題の焦点は、「個人の自由を制限することがどこまで許されるか」というよりも、市民の「自発性」に「制限」の原動力が委ねられている点にある。したがって、社会保障費の削減という政策の方針に対しても、実際には個と公共の対立は生じない仕組みになっている。
 そこで今回は、公衆衛生に関連した政策において、自主的な「運動」、強制のない「努力義務」、そして自助を前提とした「個人の尊重」という方法が採用されており、個と公共の対立は生じない仕組みになっていることを確認したい。

参考文献

1)児玉聡(著):公衆衛生倫理学とは何か.赤林朗,他(編):入門・医療倫理Ⅲ 公衆衛生倫理.11-24頁.勁草書房,2015
2)Petersen A, et al: The New Public Health: Health and Self in the Age of Risk. p 128, SAGE Publications, London, 1996
3)加藤陸美(著):健康日本21への想い.健康日本21推進全国連絡協議会(編):健康日本21推進全国連絡協議会13年のあゆみ.3頁,2013 http://www.kenkounippon21.gr.jp/pdf/kenounippon21_13th.pdf(2023年11月23日閲覧)
4)健康日本21推進全国連絡協議会:健康日本21「設立趣旨書」. http://www.kenkounippon21.gr.jp/index.html(2022年9月6日閲覧)
5)荒木尚志:労働立法における努力義務規定の機能—日本型ソフトロー・アプローチ? COEソフトロー・ディスカッション・ペーパーシリーズCOESOFTLAW-2004-11, 2頁,2004 http://www.j.u-tokyo.ac.jp/coelaw/COESOFTLAW-2004-11.pdf(2024年8月6日閲覧)
6)前田正一(著):公衆衛生活動と法.赤林朗,他(編):入門・医療倫理Ⅲ 公衆衛生倫理.93-94頁,勁草書房,2015
7)柏﨑郁子:〈延命〉の倫理—医療と看護における—.103頁,晃洋書房,2024
8)e-Govポータル:持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律(平成25年法律第112号). https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=425AC0000000112_20210901_503AC0000000036(2024年8月6日閲覧)
9)横山壽一:市場化・営利化とセットの社会保障制度改革推進法.保団連 1118: 33-38, 2013
10)日野秀逸:平和的生存権の公然たる否定—『社会保障制度改革推進法』とその周辺.保団連 1118: 4-9, 2013
11)終末期医療に関する意識調査等検討会:終末期医療に関する意識調査等検討会報告書.平成26年3月 https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000041846_3.pdf(2024年8月6日閲覧)
12)e-Govポータル:社会保障制度改革推進法(平成24年法律第64号). https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=424AC1000000064(2024年8月6日閲覧)
13)NHS England: Universal Principles for Advance Care Planning(ACP).2022年3月17日 https://www.england.nhs.uk/publication/universal-principles-for-advance-care-planning/(2024年8月6日閲覧)

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1170

印刷版ISSN:0368-5187

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