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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生88巻11号

2024年11月発行

雑誌目次

特集 「こどもまんなか社会」を目指して—成育基本法・こども基本法・こども家庭庁

Editorial—今月号の特集について フリーアクセス

著者: 阿彦忠之

ページ範囲:P.1075 - P.1075

 こどもの健やかな成育を妊娠期から切れ目なく支援するための基本法(理念法)として、2019年12月に「成育基本法」(略称)が施行されました。次いで2023年4月には、こども・子育て政策を社会全体で総合的かつ強力に推進するため「こども基本法」が施行されるとともに、政府の新たな行政組織として「こども家庭庁」が発足しました。
 こども家庭庁は「こどもまんなか」をスローガンに掲げ、すべてのこどもが健やかに育つ社会を目指し、こども視点の政策を推進するとしています。この新たな司令塔の指揮により、従前は児童福祉法や母子保健法など個別の法律でバラバラに実施されてきた施策の連携強化が促進されるとともに、こどもの権利を保障し健やかな成長を社会全体で後押しする施策の強化が期待されています。

成育基本法&こども基本法—制定の意義と施行後の政策の動向

著者: 自見はなこ

ページ範囲:P.1076 - P.1083

ポイント
◆筆者は2016年より与党でただ一人の小児科医として成育基本法成立やこども家庭庁創設など、こども政策に取り組んできた。
◆成育基本法はこれまで複数の法律に分かれ個別に対応されてきたこども施策を連携し、こどもの健やかな発育発達を妊娠期から切れ目なくサポートするための包括的理念法である。
◆こども家庭庁設置法はこども政策における行政の縦割りによる弊害を克服するための新省庁の組織や機構、権限に係る法律であり、こども基本法はこどもをまんなかに置いた施策を社会全体で総合的かつ強力に実施していくための包括的理念法であり、こども大綱の法定根拠となっている。

こども家庭庁の役割および創設後のこども政策の動向

著者: こども家庭庁長官官房 参事官(総合政策担当)

ページ範囲:P.1084 - P.1091

ポイント
◆日本国憲法及びこどもの権利条約の精神にのっとり、こども施策を総合的に推進するための「こども基本法」が2023年4月1日に施行された。
◆こども基本法に基づきこども政策を総合的に推進するため、政府全体のこども施策の基本的な方針等を定める「こども大綱」を2023年12月に閣議決定した。
◆こども大綱に基づく幅広いこども政策の具体的な取組を一元的に示した「こどもまんなか実行計画2024」がこども政策推進会議において決定された。今後、毎年改定し、継続的に施策の点検と見直しを図る。

妊娠期からの切れ目のない支援の重要性—こども家庭センターへの期待と課題

著者: 佐藤拓代

ページ範囲:P.1092 - P.1098

ポイント
◆「切れ目のない支援」という言葉が使われ出した経緯について述べる。
◆切れ目のない支援は、頻回の事業展開や事業につなぐことではなく同じ支援者との信頼関係構築が重要である。
◆母子保健と児童福祉の連携によるこども家庭センターには、特に母子保健によるポピュレーションアプローチの子育て困難の予防への支援が求められる。

こども政策に係る異なる領域・専門分野間の協働の促進—EBPM促進のために中間人材/中間組織に期待される役割と可能性

著者: 千先園子

ページ範囲:P.1099 - P.1109

ポイント
◆今、こども政策の社会制度は大きな転換点を迎え、「異なる領域・専門分野間の協働の促進」や「EBPMの推進」が重点的に取り組まれている。
◆過去の文献からは、EBPM推進のための重要な因子として、「研究者と政策立案者間の連携」が指摘されている。
◆「中間人材」や「中間組織」による両者の橋渡し機能による連携促進など、EBPM政策過程全体を俯瞰した上でのボトルネックへの介入が大切と考える。

健やか親子21と成育医療等基本方針

著者: 山縣然太朗

ページ範囲:P.1110 - P.1119

ポイント
◆健やか親子21は2001年に開始した母子保健における国民運動計画である。
◆成育基本法(2019年施行)の成育医療等基本方針は2023年4月から第2次が施行されている。
◆健やか親子21は成育医療等基本方針に基づく国民運動として位置付けられた。

医療的ケア児支援の充実強化に向けて

著者: 栗原正明

ページ範囲:P.1120 - P.1127

ポイント
◆医療技術の進歩により、医療的ケアが必要なこどもが在宅で生活することが可能になった。2万人を超える医療的ケア児が在宅で生活している。
◆医療的ケア児等支援法の制定やこども施策の充実の中で、医療的ケア児とその家族の暮らしと育ちを地域で切れ目なく支える体制づくりを推進している。
◆今後は、全国各地域の取り組みのさらなる充実とともに、こどもから大人に移行する時期の支援や大人になった後の支援の充実を図っていくことが必要である。

幼児教育と小学校教育の接続の重要性と今後の展望

著者: 秋田喜代美

ページ範囲:P.1128 - P.1135

ポイント
◆発達と学びの連続性を保障するために架け橋期が設定され、地域の幼保小がチームで取り組むことが求められている。
◆保育者と小学校の先生方が子どもの具体的姿について、対話を通して理解し合うことが重要である。
◆各地域の特徴を生かした、架け橋期カリキュラムを創ることが今後の持続可能な体制づくりとしても重要である。

子育て環境の充実に向けた父親支援の重要性—成育医療等基本方針を踏まえて

著者: 小崎恭弘

ページ範囲:P.1136 - P.1143

ポイント
◆現在は子育て支援の充実が求められ、その対象として父親が新たな顧客として捉えられ、支援の対象となっている。
◆父親支援とは、父親が親としての本来の力を発揮するための支援者の関わり方や環境整備の総称である。
◆父親の育児支援は4つのフェーズがあり、現在はその状況の把握やニーズの理解という、第1フェーズである。

連載 All about 日本のワクチン・23

黄熱ワクチン

著者: 福島慎二

ページ範囲:P.1145 - P.1148

1.当該疾患の発生動向
 黄熱は、黄熱ウイルス(フラビウイルス科フラビウイルス属)による感染症であり、宿主はヒトとサルなどの霊長類である。ネッタイシマカ(Aedes aegypti)などの蚊に刺咬されることにより、ヒトは感染する。流行地域は、アフリカと南アメリカの一部で、赤道を中心として南北約15度の範囲内である1)〜4)(図1)3)(図2)4)
 最近の黄熱の流行状況として、南アメリカでは、2017から2018年にかけて、ブラジルで大規模な黄熱流行があり、リオデジャネイロ州全域、サンパウロ市の市街地を除くサンパウロ州全域が黄熱の伝播リスクのある地域に含められた5)。アフリカでは、2019年にはマリ共和国で、また2023年から2024年にかけて、カメルーン、チャド共和国、コンゴ共和国、コンゴ民主共和国、ギニア、ニジェール、ナイジェリア、南スーダンで、黄熱感染が報告された6)

ヒトとモノからみる公衆衛生史・18

健康増進と「人生の最終段階」・3—なぜアドバンス・ケア・プランニングが推進されるのか

著者: 柏﨑郁子

ページ範囲:P.1149 - P.1153

はじめに
 アドバンス・ケア・プランニング(advance care planning: ACP)は、文字通り事前のケア計画のことである。それはしばしば、「終末期」になる前から行われるものであること、状況や気持ちの変化に合わせて何度でも希望を変更できること、価値観や人生の目標を共有するための医療やケアの専門家、家族などとの話し合いのプロセスであること、意思決定できなくなった場合の代理の意思決定者の指名や事前指示書の作成も含むこと、などがその概念に含まれるといわれる1)
 前回までは、「健康日本21」や社会保障制度に関する法律を参照し、「健康寿命」の延伸と終末期医療にはつながりがあることをわずかながら示してきた。今回は「終末期へのまなざしが健康増進を後押ししてきた歴史」がみえるように、ACPに注目したい。

Go to the people——バングラデシュと共に歩んだ私の国際保健50年

第十七編

著者: 石川信克

ページ範囲:P.1154 - P.1158

保健ボランティアの活躍——最初に慰めを
 保健ボランティアの活動を見て回った。ある村の保健ボランティア・チョッコラボッティさんを訪ねた。ヒンズー教徒で家もあまり豊かでない。彼女に「保健ボランティアをやって、どんな良いことがあるんですか?」と尋ねた。いわく、「いやあ、私は学校へ行けなかったんでね。いろいろ勉強ができて楽しいんです。」学ぶということは、人にとって楽しいことなのだ。「ところで、保健ボランティアって、何をするんですか?」すると彼女は、「保健ボランティアとはですね……」と身を乗り出した。きっとわれわれが教えた経口補水塩(oral rehydration salt: ORS)の作り方などと言うのだろうと予想していた。しかし彼女は、「バリ(家/集落)に病気の人が出るでしょう。そして、家族も苦しんでいるでしょ。私は、そういう人たちの所へ行って、プロトメ(最初に)、シャントナ(慰め)、ディテホベ(与えること)です。」と言う。まず慰めを与えること、これが保健ボランティアの最初の仕事だと言う。これは私たちが教えたことではなく、自らの実体験の中で考え出したのだった。何と素晴らしいことではないかと私は感心した。
 私の目は開けてきた。人々には、われわれが思っている以上の可能性があるのだ。われわれ医療関係者が知らない所で、幾つかのNGOプロジェクトでショミティ活動や保健活動も行われている。そこを訪ね歩いてみることにした。ぬかるみの道や、畑の中を歩いて行くのは大変だ。何時間もかかる所もあった。しかし、そういう道を歩いて人々が普通に住んでいる所を訪ねる間に、車で乗り付けたのでは分からなかった実感や発見が出てくるのだ。

予防と臨床のはざまで

第12回欧州ヘルスプロモーション学会参加記

著者: 福田洋

ページ範囲:P.1159 - P.1159

 6月14日から18日までポーランドの古都ウッヂを訪れました。今回の目的は2つあり、1つはヘルスプロモーション・健康教育国際連合(The International Union for Health Promotion and Education: IUHPE)の理事会出席のためで、もう1つは12th IUHPE European Conference on Health Promotion(https://iuhpeconferences24.umed.pl/)への参加です。ウッヂはワルシャワ、クラクフに次ぐポーランド第3の都市で、かつては紡績業で栄えた古都です。現在その繊維工場の大部分はリノベーションされ、ショッピングモールや博物館になっています。Lodzと書いてウッヂ(ウッチ)と読みますが、ヨーロッパの人にも読み方は難しいようです。今回は市の中心部にあるリノベーションされたモールのmanufaktura隣接のホテルに宿泊して、トラムが似合う街並みを移動して会場に出向きました。
 前半2日間の理事会はウッヂ医科大学の図書館で行われ、理事と世界8地域の地域副会長ら約15人がハイブリッドで参加しました。2023年9月のモントリオールに続いて対面で行われた理事会では、学会のミッションや会計、会員の拡大等について話し合われましたが、一番重要な課題は来年開催予定のアブダビでの世界大会の準備状況についてでした。実行委員会がうまく機能しておらず、開催準備に遅れが出ているようで、政治的な動向や治安の不安に加えて国際学会運営の苦労の一端を垣間見た気がしました。(執筆時点では2025年5月にアブダビで第25回世界大会の開催が決定しています。https://iuhpe2025-abudhabi.com/)理事会はずっと英語での議論が続き、頻繁にアジアや日本の状況について意見を求められて苦労しましたが、昼食後の大学周辺の公園の散策は心休まるものでした。

映画の時間

—今を切に生きる人々に贈る、心温まるヒューマンドラマ—ココでのはなし

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.1160 - P.1160

 グランド・ホテル形式と呼ばれる映画があります。1933年にアカデミー作品賞を受賞した『グランド・ホテル』にちなんで、そう呼ばれるようになったといわれますが、ホテルのような特定の場所を舞台にして、そこに集まる人々を描く群像劇をいいます。必ずしもホテルだけが舞台というわけでもありませんが、三谷幸喜監督作品の『THE 有頂天ホテル(2006年)』などは正統派のグランド・ホテル形式と言えるでしょう。今月ご紹介する『ココでのはなし』はホテルではありませんが、ゲストハウスという宿泊施設を舞台にしており、グランド・ホテルの系譜に連なる映画と言えるかもしれません。
 舞台は2021年の東京の下町、作品中で明示はされていませんが、スカイツリーの見え方からすると墨田区か台東区の辺りでしょうか、主人公の一人、博文(結城貴史)がバイクを売ろうとしている場面から映画は始まります。バイクはホンダ・カブ、往年の名車ですが、1万円にしかならず、博文は売るのをやめて、自宅へ戻ってきます。彼は親から受け継いだ自宅でゲストハウス「ココ」という宿泊施設を営んでいます。親はすでに亡くなっているようですが、母親の幼なじみの泉さん(吉行和子)がココに住んで(長期宿泊?)いるようです。ココには、もう一人、アルバイトの戸塚詩子(山本奈衣瑠)が住み込みで働いています。

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ページ範囲:P.1073 - P.1073

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奥付 フリーアクセス

ページ範囲:P.1164 - P.1164

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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