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公衆衛生88巻12号

2024年12月発行

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特集 新型コロナからの教訓—モニタリング報告2024

Editorial—今月号の特集について フリーアクセス

著者: 福田吉治

ページ範囲:P.1167 - P.1167

 本特集「新型コロナからの教訓——モニタリング報告」は、昨年から開始した、年に1度(毎年12月号)、そして3年連続の企画です。じつは特集企画者としては、2023年に新型コロナが5類感染症に切り替わって2年目の2024年、これといった進展も報告もすることがなかったらどうしようと心配していました。しかし、それは杞憂にすぎませんでした。
 本号も引き続き、保健所や地方衛生研究所等において、この1年で起こった変化が東京都、大阪府、島根県、沖縄県などを例に報告されています。また、感染症に関連する法律、DX、人材育成・確保、日本版CDC、リスクコミュニケーション、ワクチン開発など、それぞれの分野での進展が報告されています。

—保健所と地方衛生研究所のモニタリング報告2024 総説—保健所、地方衛生研究所等はどう変わったか?

著者: 白井千香

ページ範囲:P.1168 - P.1173

ポイント
◆自治体や業務内容によって地域におけるCOVID-19対策のフェードアウトのタイミングは異なっていた。
◆「感染症予防計画」や「健康危機対処計画」は全国で2023年度末時点、ほぼ策定済みであったが、一部は策定途中であった。
◆COVID-19対応を経験を共有していない職員について、健康危機対応における技能維持が必要である。

—保健所と地方衛生研究所のモニタリング報告2024—①東京都

著者: 西塚至 ,   成田友代

ページ範囲:P.1174 - P.1177

ポイント
◆総合的な医療体制を構築し、区域を越えて広がるCOVID-19に統一的かつ機動的に対応した。
◆COVID-19対応の知見等を踏まえ、2024年1月、都保健所の体制、機能の強化策を取りまとめた。
◆新興感染症が発生した際に、迅速的確に対応できるよう、都が総合調整を行うことを感染症予防計画で明確にした。

—保健所と地方衛生研究所のモニタリング報告2024—②大阪府

著者: 浅田留美子

ページ範囲:P.1178 - P.1181

ポイント
◆5類への移行期間に、段階的にオール医療体制の構築を進めた。
◆高齢者施設等ハイリスク者への感染症対応力の向上に取り組んでいる。
◆システムを活用した地域包括的感染症対策プラットフォームを構築中である。

—保健所と地方衛生研究所のモニタリング報告2024—③島根県

著者: 谷口栄作

ページ範囲:P.1182 - P.1185

ポイント
◆COVID-19感染対応を経て、県庁、保健所、地方衛生研究所で人員等の体制強化が図られた。
◆外来および入院医療は充実してきたが、比較すると在宅医療(施設を含む)については、課題が多く残っている。
◆感染症予防計画および保健所健康危機対処計画に基づいた平時の取り組みが重要である。

—保健所と地方衛生研究所のモニタリング報告2024—④沖縄県

著者: 糸数公

ページ範囲:P.1186 - P.1189

ポイント
◆5類になっても院内感染等が重なると医療ひっ迫につながるという認識が必要である。
◆感染症対策の計画的に体制整備のためには連携協議会の役割が重要である。
◆保健所の健康危機管理として平時に地域の医療体制整備を進める。

—地域医療提供体制のモニタリング報告2024—地域医療はどう変わったか?

著者: 阿彦忠之

ページ範囲:P.1190 - P.1196

ポイント
◆全国全ての地域で医療提供体制上の課題を抱えつつも地域医療構想の進捗に関する評価・検証等の取り組みは低調で地域格差も大きかった。
◆2024年度の診療報酬・介護報酬の同時改定は急性期・回復期医療および介護の連携促進を誘導すると考えるが、医師の働き方改革の施行が複雑に影響している。
◆オンライン診療は、COVID-19対応に係る時限的・特例的措置の廃止などが影響して、5類移行後に実施医療機関数が大きく減少した。

—感染症法等の法的課題のモニタリング報告2024—感染症を予防する法律は整備されたか?

著者: 坂元昇

ページ範囲:P.1197 - P.1207

ポイント
◆感染症法改正に関連し、地域保健法、予防接種法、そして医療法など多くの法律改正、また新設が行われた。
◆新型コロナウイルス感染症の5類移行に伴い、感染症法による届け出の見直し、予防計画策定等が義務付けられた。
◆公費負担や診療報酬を含めた医療提供体制の段階的な通常体制への移行と、次の危機に備えた体制強化策の実施が望まれる。

—感染症の司令塔のモニタリング報告2024—日本版CDC等はどうなったか?

著者: 齋藤智也

ページ範囲:P.1208 - P.1212

ポイント
◆JIHS(国立健康危機管理研究機構)の設置日が2025年4月1日に決定した。
◆JIHSは、法に基づく役割のほか、新型インフルエンザ等対策政府行動計画にも期待される役割が記載されている。
◆JIHSが目指すべき将来ビジョンは、「情報収集・分析・リスク評価機能、研究・開発機能及び臨床機能の全てが世界トップレベルであり、世界の感染症対策を牽引する国内の『感染症総合サイエンスセンター』となること」である。

—人材育成のモニタリング報告2024—人材育成・確保はどうなったか?

著者: 角野文彦

ページ範囲:P.1213 - P.1218

ポイント
◆サージキャパシティと専門家の確保により、有事において適切に対策を進めることが、危機管理対応における人材育成の重要な目的である。
◆専門家の能力を発揮するには、専門家が組織の意思決定に介入できる仕組み、感染管理や感染症疫学を業務とする部門の設置および専門家が機能する環境を用意することが重要である。
◆滋賀県では、実地疫学専門家養成コース修了生および感染管理認定看護師が専門家として機能する環境を構築している。これらの専門家を中心として、保健所職員、IHEAT要員の育成を行うとともに、高齢者・障害者施設および病院のそれぞれにおけるネットワークを運用し、相互支援、感染対策レベルの向上と標準化を図っている。

—保健医療福祉のデジタル化の現在2024—杉並保健所の新型コロナ対応における保健所DXとその後

著者: 大岩和也

ページ範囲:P.1219 - P.1224

ポイント
◆DXは、組織として対応し全体でビジョンを共有すること、組織や業務の変革を起こすことが重要である。
◆DX推進のためには、ステークホルダーとの十分なリスクコミュニケーションが欠かせない。
◆現場の職員も開発チームの一員として、要件定義や検証を十分に行うことが、DX成功の鍵である。

—リスクコミュニケーションのモニタリング報告2024—リスクコミュニケーションは進んだか?

著者: 加藤美生

ページ範囲:P.1225 - P.1231

ポイント
◆新型インフルエンザ等対策政府行動計画改定版にリスクコミュニケーションが併記された。
◆危機対応者向けの健康危機対処計画(感染症編)ガイドラインにリスクコミュニケーションが記載された。
◆リスクコミュニケーションの研修が定期的に行われている。

—ワクチン開発のモニタリング報告2024—日本の新型コロナワクチンの開発は進んだか?

著者: 若林真美 ,   磯博康

ページ範囲:P.1232 - P.1237

ポイント
◆日本で開発した新型コロナワクチンが承認され、2023年12月に供給され始めた。
◆パンデミック条約の議論の争点の一つとして、ワクチンを含む医薬品アクセスをめぐる課題が挙げられた。
◆次のパンデミックを見据えて多様なバイオ医薬品支援を含めたワクチン開発支援の継続が必要である。

連載 衛生行政キーワード・157

COVID-19パンデミックの教訓から—国際保健規則(International Health Regulations)の改正

著者: 中村早希

ページ範囲:P.1238 - P.1243

はじめに
 毎年5月、世界保健機関(World Health Organization: WHO)の総会が開催される。2024年の第77回WHO総会(World Health Assembly; WHA)(5月27日から6月1日に開催)では、COVID-19パンデミックの教訓を踏まえて、194カ国のWHO加盟国が約2年間交渉を行っていた国際保健規則(2005年)(International Health Regulations(2005): IHR(2005))の改正案が採択された1)
 IHRとは、国際交通および取引に対する不要な阻害を回避しつつ、疾病の国際的伝播を最大限防止することを目的とした、WHO憲章第21条に基づいて採択された規則である。WHO加盟国と未加盟のリヒテンシュタインおよびバチカン市国の計196カ国(参加国、States Partiesと呼ばれる)が法的拘束下にあり、参加国は、IHRに規定されたさまざまな義務を果たす必要がある。例えば、第5条において、事象を検知・評価・通報・報告する能力を強化および維持すること、第13条において、公衆衛生リスクおよび国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(public health emergencies of international concern: PHEIC)に迅速かつ効果的に対応すること、第19条において、空港・港や国境の衛生管理能力を備えておくことが義務付けられている2)。さらに、IHRでは各国が健康危機に備え、対応するために整備すべき基本的能力である「コアキャパシティ」が規定されているが、COVID-19の流行下では、コアキャパシティを満たしている先進国も甚大な影響を受けた。これを踏まえ、IHRの改正に向けて、2021年のWHA75でIHR改正のための加盟国作業部会の設立が決定し、同年9月に日本を含む一部の参加国がIHRの改正案を提出した3)4)。そして、2022年から改正案の交渉を開始した。
 本稿においては、IHRの歴史を振り返りつつ、COVID-19を契機に交渉が開始し本年採択に至ったIHR改正案について概説したい。

All about 日本のワクチン・24

狂犬病ワクチン

著者: 石金正裕

ページ範囲:P.1245 - P.1247

1.当該疾患の発生動向
 狂犬病は、狂犬病ウイルスによる感染症で、全世界100カ国以上で報告され、毎年、数千万人が狂犬病に感染し、数万人が死亡していると推定されている1)。旅行者が狂犬病に感染する割合は、旅行者10万人当たり16〜200人と推定されている1)。多くは、アジアやアフリカで発生している。日本では狂犬病は土着しておらず、1957年以降、病輸入症例として1970年に1例(ネパールで感染)、2006年に2例(2例ともフィリピンで感染)、2020年に1例(フィリピンで感染)が報告されている2)。地域ごとのリスクは世界保健機関(World Health Organization: WHO)や米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention: CDC)のウェブサイトから確認できる1)3)。多くは地方で発生しており、特に小児で感染リスクが高い。主な感染経路はイヌであるが、先進国においては、キツネ、アライグマ、コウモリなどの野生動物も感染経路となる。有効な治療薬はなく、死亡率はほぼ100%であるため、ワクチン接種による予防が極めて重要である。

ヒトとモノからみる公衆衛生史intermission・1

北里柴三郎とミルク、そして、ツベルクリン

著者: 月澤美代子

ページ範囲:P.1248 - P.1251

はじめに——養生園ミルク事件
 北里柴三郎は恩義を受けた人に対する義理を生涯にわたって大切にした。2024年7月から北里は千円札の顔となったが、北里が今に生きていれば、むしろ、恩人の福沢諭吉の肖像が一万円札から消えたことが残念だと語るかもしれない。1892(明治25)年、ドイツから帰還した北里は福沢諭吉の土地を借用して伝染病研究所を設立したが、同じく福沢の土地を借りて運営していた結核専門病院・土筆ヶ岡養生園ではウシを飼育しており、毎朝、牛乳を福沢邸に届けていた。1896(明治29)年秋のある日、福沢邸に届けられた牛乳瓶がひどく汚れており、これが福沢の逆鱗に触れ、北里は福沢邸で3時間に及ぶ叱責を受けたという。福沢から北里のもとに会計総責任者として派遣されていた田端重晟の伝える有名なエピソードである。
 養生園のあった芝白金の土地には現在、北里大学北里研究所病院が建てられており、その入り口にはコッホ・北里を祀る神社がある。ご神体はコッホの毛髪である。北里は師であるロベルト・コッホからの学恩を忘れずに終生崇敬の念を抱いていた。

Go to the people——バングラデシュと共に歩んだ私の国際保健50年

第十八編

著者: 石川信克

ページ範囲:P.1252 - P.1256

大統領が暗殺される
 3年目の1981年5月の末、ボグラ地域の巡回訪問を終えた日であった。明日はいよいよダッカに帰ると準備をしていた。雨期が始まって暑さも少し和らいで感じられる頃であった。何か事件が起きたらしく物々しい様子が周囲から感じられた。病院のテレビを見ると、ダッカ市内は人気もなく、通りには多くの戦車が動いている。「ジアが殺された」というニュースが聞き取れた。ジアウル・ラーマン大統領が訪問先のチッタゴンで、部下の将校に殺されたという。しばらく安泰であった政治の裏側で不満分子たちのうらみが積み重なっていたのか。地方の田舎の旅先で、情報は限られていた。戒厳令も出されたらしく、国中がアラートの状態なのだ。こういうときは、外出は控えなければならない。治安も悪くなり、偶発的にも何が起こるか分からない。明日のダッカ行きはどうしよう、1日がかりの道程だ。途中は大きなジョムナ川をフェリーで渡らねばならない。危険な旅だ。当時は携帯電話もなく、300キロメートル離れた自宅に連絡しようもない。相談できる人もない。結局、明日の朝の様子を見ることにした。翌早朝、運転手がどうもダッカ行きのバスが出発するらしい、ということを聞いてきた。大雨が降り出した。この雨の中なら、暴動も起こらないだろうし、車が襲われることもないだろうと判断し、バスの後ろについていけば安全だろうとダッカに向けて出発した。もし途中で暴徒に襲われたとしても、物は取られても命を狙うはことないだろう、車が取られたり、壊されたりしても、抵抗はすまい、どこかの家で2、3日過ごすことができると覚悟を固めた。途中、軍の基地(cantonment)の脇を通過するときは大丈夫だろう。道路は車も人気もなく、まず無事に川まで幹線道路を下ることができた。大型のフェリーは運休であったが、それに代わる簡易フェリーがあった。他に乗る車もなかったが、目指す対岸のアリチャまでの1時間、ジョムナ川を下って運航してくれた。そこからダッカ市内までは約1時間だが、幹線道路は案の定人も車もほとんど見当たらず、何事もなく無事に帰宅できたときの安堵感が忘れられない。家では、子どもたちは、急きょ日本人学校のスクールバスで送り返されたらしい。日本の友人が留守宅を訪ねてくれて心強かったという。みんなで私の旅の安全を祈っていた。門内に車を入れ、家族一同、感謝の祈りをささげたのであった。

映画の時間

—もし、時を戻せるなら、伝えたいことがある……—最後の乗客

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.1257 - P.1257

 故人になられましたが、映画評論家の淀川長治氏は、「映画は『愛』を描いている」とおっしゃっていました。やはり故人になられましたが、同じく映画評論家の水野晴郎氏は、「映画はミステリーだ」とおっしゃっていました。いずれも、映画の本質を端的に言い表している言葉だと思います。中には、とても愛を描いているとは言いがたい映画や、ミステリー性が薄い映画もありますが、映画というものは、作品の根底に「愛」がなければ、薄っぺらなものになってしまうでしょうし、ミステリー性がなければ、ワクワクして見る楽しみがなくなってしまいます。今月ご紹介する「最後の乗客」は、「愛」にあふれた、ミステリアスな映画です。
 舞台は東北、駅前のロータリーで客待ちをしているタクシーから映画は始まります。駅名は明示されていませんが、資料によればロケが行われたのは仙台市の地下鉄東西線の荒井駅とのことです。駅舎は近代的ですが、映画の中では乗降客が少なく、タクシー利用客はあまりいません。タクシードライバーの遠藤(冨家ノリマサ)は、同僚のたけちゃん(谷田真吾)と、客待ちしながら、最近タクシードライバーの間でうわさになっている話をしています。夜遅く街道を流していると、若い女性がポツンと立っていて……。よくある怪談話を想起させます。遠藤は、たけちゃんの話を一笑に付します。遠藤は次の電車の到着を待ちますが、結局利用者はおらず、街道方面を流して客を探し始めます。人気のない街道脇に、帽子を目深にかぶり、夜にもかかわらずサングラスを掛け、マスクをした若い女性がタクシーを止めようと手を挙げる姿をヘッドライトが照らしだします。乗り込んだ女性は、海岸方面へ、と目的地を告げます。まるで、先ほどたけちゃんが話したうわさ話が現実になったような感覚を覚えながらも、タクシーは海岸方面に向かいますが、突然、タクシーの前に、小さな女の子と母親の二人連れが飛びだしてきて……。

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基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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88巻12号(2024年12月発行)

特集 新型コロナからの教訓—モニタリング報告2024

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