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公衆衛生88巻2号

2024年02月発行

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特集 健康日本21の20年間の評価と次期プラン

Editorial—今月号の特集について フリーアクセス

著者: 安村誠司

ページ範囲:P.123 - P.123

健康日本21の20年間の評価と次期プラン
 日本の健康政策は、1978年に厚生省(現 厚生労働省)が「国民健康づくり計画」を打ち出し、これが2000年からの「健康日本21」に移行して現在に至っています。健康づくり体制については、老人保健法、地域保健法が制定されて全国の市町村を主体としたものとされていました。この行政主導の体制をさらに発展させ、企業や事業者、民間や市民団体、国民を巻き込み、健康づくりの主役と位置付けたものが「健康日本21」でありました。そのために名称が「健康日本21」と一新された経緯があります。
 その特徴は、疾病の二次予防に加えて、ヘルスプロモーションの考え方を取り入れている点です。また、根拠に基づく公衆衛生・健康政策(evidence-based public health/health policy)、欧米諸国の健康政策の新しい概念や考え方を積極的に取り入れる、などの点があります。さらに「健康日本21」を全国的に進めるために健康増進法が2002年に制定され、翌年に施行し、法的な推進基盤も整備もされています。

—健康日本21の20年間の評価—総括的評価と今後の方向性

著者: 辻一郎

ページ範囲:P.124 - P.131

ポイント
◆健康日本21は2000年に始まり、約10年ごとに改訂されている。2023年に第三次計画が告示された。
◆健康日本21は一次予防に力点を置き、ヘルスプロモーションやポピュレーションアプローチを重視している。
◆改訂とともに、健康寿命の延伸や社会環境の整備に関する概念・戦略・目標が具体化されてきた。

—健康日本21の20年間の評価—主要な生活習慣病としてのがん・循環器疾患に関する最終評価と今後の展望

著者: 岡村智教

ページ範囲:P.132 - P.141

ポイント
◆健康日本21(第二次)の最終評価で、がんと循環器病の年齢調整死亡率については目標を達成した。
◆がん検診受診率、平均血圧値の低下、高コレステロール血症の減少は、目標達成できておらず、死亡率の減少には臨床医学の進歩など健康増進活動以外の要因も大きいと考えられる。
◆がん検診の正確な受診率の把握、特定健診の循環器病の予防効果の検証、循環器病の罹患率の把握などは、引き続き健康日本21(第三次)でも課題として残されている。

—健康日本21の20年間の評価—糖尿病、COPDに関する最終評価と今後の展望

著者: 津下一代

ページ範囲:P.142 - P.151

ポイント
◆健康日本21では分野横断的に長期的な視点で評価するため、国、自治体等で対策を検討する良い機会である。
◆糖尿病では腎症は横ばいに転じ、有病者の増加抑制がみられた。メタボリックシンドロームの減少に取り組む必要がある。
◆COPDでは第二次で認知度の向上はみられなかったが、第三次では死亡率の低下を目標とした。

—健康日本21の20年間の評価—こころの健康に関する最終評価と今後の展望

著者: 西大輔

ページ範囲:P.152 - P.158

ポイント
◆「小児科医・児童精神科医の増加」に関しては目標を達成した。
◆「自殺者の減少」「メンタルヘルスに関する措置を受けられる職場の増加」に関しては目標未達成だが改善傾向であった。
◆「心理的苦痛を感じている者の割合の減少」に関しては改善が認められなかった。

—健康日本21の20年間の評価—休養に関する最終評価と今後の展望

著者: 栗山健一

ページ範囲:P.159 - P.165

ポイント
◆健康日本21(第二次)では、睡眠による休養を十分にとれていない人の減少を数値目標に掲げたが、実際には増加した。
◆睡眠健康増進のためには、睡眠で休養がとれることに加え、年齢に応じた適切な睡眠時間の確保が不可欠である。
◆健康日本21(第三次)では、睡眠で休養がとれている者の増加とともに、睡眠時間が十分に確保できている者の増加を目標とする。

—健康日本21の20年間の評価—次世代の健康に関する最終評価と今後の展望

著者: 山縣然太朗

ページ範囲:P.166 - P.172

ポイント
◆「健康な生活習慣(栄養・食生活、運動)を有する子どもの割合の増加」については変わらないとの評価であった。
◆「適正体重の子どもの増加」については低出生体重児の割合は変わらなかったが、肥満傾向にある子どもの割合が悪化していた。
◆こども家庭庁設置など成育医療等基本方針の改正を踏まえて、文部科学省とともに健康増進施策を加速する必要がある。

—健康日本21の20年間の評価—「高齢者の健康」と「社会環境の整備」における最終評価と今後の展望

著者: 近藤克則

ページ範囲:P.173 - P.179

ポイント
◆「第一次」は生活習慣(病)重視であったが、第二次で「高齢者の健康」や「社会環境の整備」などが加わった。
◆「第二次」の最終評価では、「高齢者の健康」と「社会環境の整備」の評価可能な計8項目のうち6項目で改善(傾向)であった。
◆「第三次」では「自然に健康になれる環境づくり」「ライフコースアプローチを踏まえた健康づくり」が加えられた。

—健康日本21の20年間の評価—栄養・食生活に関する最終評価と今後の課題

著者: 村山伸子

ページ範囲:P.180 - P.187

ポイント
◆食塩摂取量の改善の背景に国、自治体、企業、学会等の多様な主体での取り組みが実施されたことが考えられる。
◆バランスの良い食事が悪化した背景に、食品価格等の経済的な課題が考えられ、今後は格差対策も必要である。
◆効果的な取り組みのために、ロジックモデルとアクションプランの作成を国、自治体共同で進めることが必要である。

—健康日本21の20年間の評価—身体活動・運動に関する最終評価と今後の展望

著者: 澤田亨

ページ範囲:P.188 - P.195

ポイント
◆身体活動がさまざまな疾患を予防することが報告されており、健康日本21において身体活動や運動に関する目標が掲げられている。
◆しかしながら、身体活動量が少なくなる方向に生活環境が変化し続けており、身体活動・運動分野の多くの目標は達成されていない。
◆健康日本21の目標を達成するために、個人や集団に対する教育や啓発活動を積極的に展開するとともに、自然に健康になれる環境づくりに取り組んでいかなければならない。

—健康日本21の20年間の評価—喫煙、飲酒に関する最終評価と今後の展望

著者: 中村正和

ページ範囲:P.196 - P.206

ポイント
◆喫煙と飲酒の健康影響は大きく、健康寿命の延伸ならびに健康格差の縮小の観点から規制を含めた積極的な取り組みが求められる。
◆たばこ対策については、WHOのたばこ規制枠組条約において示されたMPOWER政策パッケージの完全履行を目指した取り組みが必要である。
◆アルコール対策については、アルコール健康障害対策推進基本計画に基づく対策が実施されているが、WHOから示されているSAFER政策パッケージに沿った取り組みが必要である。

—健康日本21の20年間の評価—歯・口腔に関する最終評価と今後の展望

著者: 福田英輝

ページ範囲:P.207 - P.214

ポイント
◆健康日本21(第二次)「歯・口腔の健康」分野は、多くの指標でE「評価困難」と評価された。
◆健康日本21(第三次)「歯・口腔の健康」分野は、「歯・口腔の健康づくりプラン」と連携をとりながら計画された。
◆健康日本21(第三次)「歯・口腔の健康」分野の目標は、①歯周病を有する者の減少、②よく噛んで食べることができる者の増加、③歯科検診の受診者の増加の3項目であった。

連載 衛生行政キーワード・152

健康日本21(第二次)の最終評価と次期国民健康づくり運動

著者: 寺井愛

ページ範囲:P.215 - P.220

はじめに
 厚生労働省では、1978(昭和53)年から国民健康づくりを展開しており、2000(平成12)年からは、「二十一世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」を推進してきた。2003(平成15)年には健康増進法が施行され、2013(平成25)年からは健康日本21に引き続き、「二十一世紀における第二次国民健康づくり運動(健康日本21(第二次))」を開始した。さらに、健康日本21(第二次)の最終評価の結果も踏まえ、2024(令和6)年度からスタートする次期国民健康づくり運動の検討を行い、2023(令和5)年5月に健康日本21(第三次)を公表したところである(図1)。本稿では健康日本21(第二次)の最終評価と健康日本21(第三次)について概説する。

All about 日本のワクチン・14

B型肝炎ワクチン—小児を中心に

著者: 乾あやの ,   藤澤知雄

ページ範囲:P.221 - P.225

1.当該疾患の発生動向1)
 一般に3歳以下の乳幼児のB型肝炎ウイルス(hepatitis B virus: HBV)感染の特徴は、年長児や成人とは異なりHBV感染により容易にキャリア化する点である。例えば、HBe抗原陽性のHBVキャリア妊婦から生まれる小児では、無処置の場合はほぼ100%にHBV感染が見られ、90%以上はキャリアとなる。図12)にHBVキャリア成立と年齢の関係を示した。HBV感染によりキャリア化するのは新生児、乳幼児が主体である。このことは大変重要な点であり、HBVキャリアを撲滅するためには小児期早期からの対策が不可欠である。
 HBVの持続感染による肝細胞癌(hepatocellular carcinoma: HCC)は、日本では部位別癌粗死亡率で男性第3位、女性第5位となっており、日本の肝細胞癌の約20%を占めている。HBVに関する治療薬は進歩したが、まだ完治することはできない。したがって、HBVの持続感染者(キャリア)を発生させないことが最も重要な対策となっている。

ヒトとモノからみる公衆衛生史・9

子どもと歯科衛生の近代・3—果たして歯磨きは習慣化されたのか

著者: 宝月理恵

ページ範囲:P.226 - P.230

はじめに
 1920年代から30年代にかけて、学校、家庭、診療所、街頭、店頭、展覧会などの場において、口腔衛生に関する言説が、繰り返し産出されていった。いわば「口腔衛生言説の爆発」が起こったといえる*1。しかし、口腔衛生言説の爆発という事態が確認できたからといって、歯磨きという衛生規範・衛生規律が一般の人々に浸透したといえるだろうか。歯磨グッズの売り上げは、歯磨きという習慣が浸透した証左になるのだろうか。「子どもと歯科衛生の近代」連載最終回となる今号では歯磨きの習慣化について検討する。

Go to the people——バングラデシュと共に歩んだ私の国際保健50年

第八編

著者: 石川信克

ページ範囲:P.231 - P.235

バングラデシュに派遣される
——なぜバングラデシュを選んだか
 さまざまな勉強をして、いよいよ海外での仕事をする用意ができたと1976年暮れにロンドンから帰国した。いったん結核研究所に復職し、診療、地域での検診、疫学研究の生活に戻った。結核研究所からは、国際協力事業団(JICA)のプロジェクトがタンザニアやネパールで始まっており、専門家として行くように強く勧められた。私としては、JOCS(日本キリスト教海外医療協力会)で行く前に、途上国の現場経験のためにJICAで行くことは良いと思っていた。しかし、タンザニアもネパールも他に専門家として行く人が出てきて、私が行く必要がなくなった。このとき私は思った、「これは神がJOCSで行く道を開かれたのだ」と。そこでJOCS海外プロジェクト責任者になった岩村昇先生にその旨を伝えると、三つの派遣先候補を挙げられた。ネパール、ブータン、バングラデシュでミッション団体から結核専門・公衆衛生医が求められているという。JOCSは現地のキリスト教団体にワーカーを送るのが原則だった。ネパールはぜひ行きたい、ブータンは何となくひかれる。バングラデシュはあまり気乗りがしない。気温も高いし、ヒトがしつこそうで働きにくい気がした。
 しかし岩村先生は、「バングラデシュに行かないか」と強く勧められた。先生によれば、「ネパールでは、外国人が主体になって、ネパール人はその下で働く体制になっている。バングラデシュは人材も豊富で、派遣先候補の団体—キリスト教保健プロジェクト(CHCP)の責任者は現地人女性医師で、日本人は、その下で働くことになる。しかもあなたは、いわゆる働き手でなく、アドバイザーとして行くのだ。われわれの今後の働き方としては、その方が良い」という。私は、このことの意味が十分に分からなかったが、「人が分かれ道に立ったとき、いやだと思う方に神様の御心がある」という牧師の言葉を思い出し、「バングラデシュに行きます」と答えてしまった。ある意味で、岩村先生にだまされた、と言えるが、騙(だま)されるのでなく、黙(だま)らされるという意味で、俺についてこいという先輩の言葉と捉えたのである。後になって、この言葉の真実味が理解できるようになった。

[連続小説]コロナのない保健所の日記・11

児童相談所は誰のもの?

著者: 関なおみ

ページ範囲:P.237 - P.246

二○一八年一月十二日金曜日 晴れ まだまだ寒い
 真歩が神田川区に着任した二〇一五年度から三年が過ぎた二〇一七年度、年が明け、区役所ではすでに来年度に向けた体制に差し掛かっていた。
 この数年間、世の中も保健所も平和な日々が続いていて、神田川区にも大きな変化はなかった。栗林所長は定年まであと数年なので異動せず、生活衛生課長も区内の病院移転問題と民泊対応が続いているうちは異動できないようで、唯一保健予防課長が異動し、昨年度から新しい課長がやってきていた。

映画の時間

—映画史上最も大胆で、空前絶後の“冒険”—哀れなるものたち

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.236 - P.236

 古来、マッドサイエンティストが登場する映画は多くあります。有名なところでは、「フランケンシュタインの怪物」をモチーフにした映画でしょうか。『博士の異常な愛情』(1964年)ではピーター・セラーズ演ずる博士が秀逸でした。今月ご紹介する『哀れなるものたち』にも、フランケンシュタイン博士を彷彿とさせるようなドクターが登場します。
 映画は、橋の上から美女が身を投げるショッキングなシーンから始まります。この美女が、本作の主人公ベラ(エマ・ストーン)です。身投げしたにもかかわらず、命をとりとめているようですが、なにか動きが変です。

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ページ範囲:P.249 - P.249

奥付 フリーアクセス

ページ範囲:P.250 - P.250

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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