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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生88巻4号

2024年04月発行

雑誌目次

特集 現代におけるメンタルヘルスの問題とその対応の課題—精神疾患の国際分類の改正を踏まえて

Editorial—今月号の特集について フリーアクセス

著者: 高鳥毛敏雄

ページ範囲:P.365 - P.365

 現在、感染症やその他の身体疾患等による健康問題が低減し、疾病問題の中でメンタルヘルスが大きな課題となってきています。この背景には、自己で制御できる範囲を超える「モノ」や「情報」にさらされて人々が生活するようになってきていることがあります。ネットワーク化やシステム化が進行した社会は、便利で快適な質の高い社会を実現してくれていますが、このように高度に分業化された社会において働く人々にはこれまでとは異なる時間の使用や業務の遂行を強いるものとなっています。そして、人々が有する遺伝的要因には大きな変化がないにも関わらず、人々の生活歴や価値観の多様性が大きくなってきています。メンタルヘルスの現状がどうなっているのかを捉えることは難しいですが、ICD(国際疾病分類)の精神疾患分類の改正がその手掛かりを与えてくれます。これは世界の専門家がその時代の精神疾患の現状を踏まえて分類の見直しを行っているからです。
 本特集では改訂されたICD-11の精神疾患分類の解説と今後のメンタルヘルスの考え方や対応の在り方について、メンタルヘルスの研究者と第一線でご活躍しておられる精神科医にご教示をいただきました。

精神障害および精神保健・心理社会的ウェルビーイングを巡る国際動向と展望

著者: 井筒節 ,   堤敦朗

ページ範囲:P.366 - P.372

ポイント
◆精神保健は、SDGsに含まれ世界の優先事項である。また、精神障害のある人の権利保護は、障害者権利条約により法的義務になっている。
◆当事者参加のもと、医療の枠を超え、人権に基づく多セクター協力に基づき、選択肢を増やす必要がある。
◆当事者、実務者、政策策定者(自治体・国・国連システム)、人権セクター等による建設的協働による優先課題設定が重要である。

精神科診療所におけるメンタルヘルス関連病態の現状と課題

著者: 松本和紀

ページ範囲:P.373 - P.381

ポイント
◆精神疾患の外来患者が急増しており、軽症〜中等症を中心にさまざまな精神疾患の患者が精神科診療所を訪れている。
◆外来の精神科患者の病態や治療は社会との関係が深く、心理社会的な治療や支援が求められる機会が多い。
◆外来精神科医療において多職種によるチーム医療が広く実装できるための制度や仕組み作りの推進が望まれる。

若年者のメンタルヘルスの課題とその対応に対する社会の課題

著者: 松本ちひろ

ページ範囲:P.382 - P.388

ポイント
◆ICD-11は神経発達的な理解をもとに知的障害、ASD、ADHD、学習症などを含む疾患群をまとめ、神経発達症群の位置付けとした。
◆ICD-10でF9に収載されていた診断カテゴリは、病因や臨床像の観点からより適切とされる疾患群に再分類された。
◆ICD-11では各診断カテゴリに「発達段階別の臨床像」の項目を設け、各疾患の年代別の症状表出の特徴に触れている。

Complex PTSD診断がどのような変化をもたらすか

著者: 大江美佐里

ページ範囲:P.389 - P.394

ポイント
◆ICD-11では心的外傷後ストレス症に加え複雑性心的外傷後ストレス症という診断が加わった。
◆Complex PTSDは、自己組織化の障害に分類される3症状を持つことが大きな特徴である。
◆公衆衛生の観点から、Complex PTSDの有病率に関する、より正確なデータを収集することが望まれる。

職場におけるメンタルヘルスの現状とその支援体制の課題

著者: 荒井稔

ページ範囲:P.395 - P.403

ポイント
◆現在の職場は、DXに代表される第四次産業革命によって、これまでとは異なるさまざまな心身のストレス度が高くなっている。
◆精神障害の労災認定においては、請求件数は年に2,000件を超え、新労災認定基準では職場におけるストレス度についての新しい出来事評価等が提示された。
◆労働安全衛生法によるストレスチェック制度がほとんどの事業体で実施され、個人のストレスに関するリスクや集団分積が評価され、職場改善に寄与している。

「性別不合」の精神疾患分類(国際疾病分類)における位置付けの変更と社会的包摂の課題

著者: 松永千秋

ページ範囲:P.404 - P.411

ポイント
◆WHOは国際疾病分類であるICD-11において従来の性同一性障害を性別不合に変更し、精神疾患の分類ではなく「性の健康に関連する状態群」に分類した。
◆人間の性別の在り方すなわちジェンダー・アイデンティティは、性別二元論を超えた多様な性別の在り方を含む概念である。
◆性別不合は多様なジェンダー・アイデンティティを社会が承認し、社会的包摂を推進する上で有用な概念であり、医療分野のみならず、さまざまな施策や立法措置などにおいて広く活用されるだろう。

地域の精神科診療のパラダイムシフトの現状と課題—新たな課題を中心に

著者: 上ノ山一寛

ページ範囲:P.412 - P.419

ポイント
◆〈精神科診療所〉全国に展開した精神科診療所を有力な社会資源として位置付けたわが国独自の精神保健医療福祉体制が必要である。
◆〈ケースマネジメント〉保健医療福祉をつなぎ、コミュニティケアを充実させるための基本技術。実践を通し更新していくことが必要である。
◆〈コミュニティメンタルヘルスチーム〉市町村を基盤にし、医療を含み、アウトリーチ機能を持つチーム。コミュニティケアの核として育てることが必要である。

連載 衛生行政キーワード・153

内閣感染症危機管理統括庁

著者: 串間琢郎 ,   髙山啓

ページ範囲:P.421 - P.424

はじめに
 2019年末に中国で原因不明の肺炎が集団発生して以降、3年以上にわたりわが国では政府を挙げて新型コロナウイルス感染症対策に取り組んできた。その結果として、わが国は感染者数・死亡者数ともに他の主要先進国と比べても低水準であった。その一方で、対策の実施に当たっては大きな混乱が生じ、これまでにさまざまな課題や反省点も指摘されている。
 次に発生する感染症危機に備えるため、2023年9月に内閣官房に内閣感染症危機管理統括庁(以下、「統括庁」という。)が新たに設置された。
 本稿では、コロナ禍を経て統括庁を設置することとなった経緯、統括庁の所掌事務と組織体系、統括庁設置後の動きと今後の予定について概説する。

All about 日本のワクチン・16

BCGワクチン

著者: 徳永修

ページ範囲:P.425 - P.428

1.当該疾患の発生動向
 わが国は欧米先進国に比して高い結核罹患状況にあるが、2021年に初めて結核罹患率(人口10万人当たりの新登録結核患者数)が10を下回り、結核低まん延国の仲間入りを果たした。2022年も低まん延の水準を維持し、罹患率は8.2へと低下した1)。わが国の結核疫学状況の特徴として、高齢者症例の占める割合が多いことが挙げられ、2022年には65歳以上が約70%、80歳以上が約45%を占めた。また、欧米先進国と同様に外国出生患者の占める割合が増加しており、全年齢では新登録例の約12%を、20〜29歳では75%以上を外国出生者が占めた。小児(0〜14歳)における結核罹患状況は極めて低い状況で推移しており、2006年に初めて年間新登録患者数が100例を下回り、近年は50例前後で推移してきたが、2021年以降は30例前後へと減少している(当該年齢の結核罹患率0.2)(図1、表1)1)。少数例ではあるが、結核性髄膜炎や粟粒結核などの重症結核例の登録は続いている。

ヒトとモノからみる公衆衛生史・11

入浴と清潔をめぐる近代史・2—欧米の公衆浴場運動

著者: 川端美季

ページ範囲:P.429 - P.432

はじめに
 前号では、日本の銭湯の歴史と銭湯がどのように見なされてきたのか、『大日本私立衛生会雑誌』の記述を中心に取り上げた。その中で、明治30年以降に、欧米との比較により「風呂好きな日本人」が清潔であると何度も主張されたこと、そして同時期に銭湯の湯水が不潔であるという注意が向けられ、「西洋風」の浴場が推奨されたことや、水質調査が行われたことを紹介した。今回は、明治後期から衛生専門家や知識人たちが日本と比較した欧米の状況について、歴史を振り返ってみたい。

Go to the people——バングラデシュと共に歩んだ私の国際保健50年

第十編

著者: 石川信克

ページ範囲:P.433 - P.438

人々と交わるには土と交わらねばならぬ
 限りなく人々の近くに行って仕事をするのは、NGOの役割だ。日本キリスト教海外医療協力会(JOCS)は、最も貧しい人々に寄り添うことがモットーである。表向きどんなに良いサービスの仕組みが国にあっても、貧しい人や弱い人は、その恩恵にあずかれないことが多い。バングラデシュの村々では、地理的にも保健サービスへのアクセスはかなり厳しく、限られていた。当時南部の村々では、水田の中に盛り土をして作った小島が点在し、そこに数軒の家が小部落を作っていた。雨季は一面が水浸しで、水路も水田も境がなくなり、用事があれば小舟をこいでいく。子どもが学校へ行くのも自分で小舟を操っていく。小さい子どもが水に溺れることもまれではない。また雨季から乾季に移る時期は、水が引いてくるので、ぬかるみの中を時には数時間歩いて行くしかない。ぬかるんだ田んぼの中を歩くにはコツがいる。サンダルを片手に持って、素足の指で地面をつかんでいくのだ。よく見るとみんなの足の指はしっかり開いていてそれができる。日本のわれわれの足の指では滑ってしまう。四苦八苦してよろよろ歩いていると、子どもたちが来て、ドクターはミチもろくに歩けないんだと、笑いながら支えてくれる。小川に掛けた竹の一本橋を渡るときはなおさらだ。手すりはあるが、足でしっかり竹をつかんでいかないと滑り落ちてしまう。人々と交わるためには、足の指を広げて、まず土と交わらなければならないのだ。
 多くの島では子どもたちのツベルクリン反応(ツ反)が陰性なのに、ある島では子ども全員が陽性だったりして、感染というものが、一様でなく、幾つかのクラスターになっていることが分かる。

[連続小説]コロナのない保健所の日記・13

彼女の苦手なものは……

著者: 関なおみ

ページ範囲:P.441 - P.452

三月五日月曜日 曇り
梅は散りつつあるも、桜のつぼみはまだ固い
 朝、真歩が玄関のドアを開けると、隣の家の沈丁花の匂いがした。まだまだ肌寒いが、澄み切った空気の中を刺すように通ってくる冬の日差しから、霞がかった靄の中をくぐって届く柔らかな春の日差しへと、変化しつつある。再び巡ってきた三月は、異動の季節であり、また、花粉症の季節でもあった。
 毎年スギ花粉が飛び始める前から、予防的に抗アレルギー剤を飲んでいる真歩は、くしゃみや目のかゆみには悩まされずにすんでいたが、薬の副作用でもうろうとしていた。数ある抗アレルギー剤の中でも、一番眠くならないものを選択しているのだが、体が重くて始終眠気があるのは否めず、毎年この時期は、いつもよりさらに低いテンションで過ごすことになる。

映画の時間

—衝撃を超える真実の実話 ある少年の数奇な運命—エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.440 - P.440

 1852年のイタリア、ボローニャの街。逢瀬の後でしょうか、夜更けに若い女性が恋人を家から送り出す場面から映画が始まります。別の部屋では乳児のベッドの前で祈っている夫婦がいます。女性はその様子を隠れてのぞき見しています。何だか謎めいたシーンですが、後半、この冒頭シーンが重要な役割を持ちます。
 それから6年後、同じ家(モルターラ家)に、カトリック教会異端審問所の補佐官が警察官を引き連れて訪れます。子どもたちを一人一人確認した上で、補佐官は7歳になっていたエドガルドという息子について、彼は幼児期に洗礼を受けており、カトリック教育を受けるために連行すると告げます。ユダヤ教徒である両親がエドガルドにキリスト教の洗礼を受けさせるはずもなく、抵抗するものの、当時のローマ教皇ピウス9世の意を受けた異端審問官のフェレッティ神父の命令によるもので、結局エドガルドは連行されてしまいます。

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基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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