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雑誌目次

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公衆衛生88巻6号

2024年06月発行

雑誌目次

特集 感染症法2類相当時代のCOVID-19対策レビュー—次のパンデミックに備えて

Editorial—今月号の特集について フリーアクセス

著者: 田中英夫

ページ範囲:P.543 - P.543

 2023年5月に感染症法上の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の扱いが5類相当に変更されて約1年が経過しました。このような感染症の危機的事象(同じものはないにしても)にも対応できるよう、都道府県、保健所設置市および特別区は本年(2024年)3月に感染症予防計画を策定したところですが、平時における計画の趣旨を反映した着実な準備と危機事象発生時の的確な運用を可能にするためには、2類相当時代のさまざまな対策とその効果を事実ベースでレビューし、教訓を引き出しておくことが重要と思われます。
 そこで本特集では次の8編を取り上げました。まず、2023年9月に設置された内閣感染症危機管理統括庁の役割を中心とした新たな国の感染症危機管理体制について、厚労省医務技監の迫井正深先生に概説いただきました。次に、ポピュレーションアプローチとしての行動制限(田中ら)、積極的疫学調査のデータ活用(緒方 剛先生)、検査・外来診療体制(倉本玲子先生)、入院・入院外療養・入院調整機能(成田智晴先生)、そして高齢者に対するワクチン優先接種事業(高橋佑紀先生)の5編は、主として保健所側から見た対策の重要課題を提示しました。続けて、対策の迅速な実行に必要となる専門性と国立感染症研究所実地疫学研究センターが実施するFETP(実地疫学専門家養成コース)について同センター長の砂川富正先生に執筆いただき、最後にメディア側から見た対策の課題を、国民の生活・経済活動の維持と国民とのリスクコミュニケーションの観点で考察されたレポート(前村 聡先生)で締めました。

内閣感染症危機管理統括庁の役割と展望

著者: 迫井正深

ページ範囲:P.544 - P.553

ポイント
◆COVID-19パンデミックを踏まえた感染症危機管理の司令塔機能強化として内閣感染症危機管理統括庁を創設した。
◆感染症対策の中核を担う厚生労働省幹部職員を統括庁と併任させるなど、危機時における機能的一体性を確保している。
◆平時は計画策定や備蓄・訓練を実施、危機時は方針立案や総合調整を担いながら各省の政策や科学的知見を最大限活用する。

行政による行動制限要請の課題と展望—大阪府での事例を通して

著者: 田中英夫 ,   高橋佑紀

ページ範囲:P.554 - P.560

ポイント
◆大阪府の感染ルート不明陽性者数の7日間移動平均値のトレンドをジョインポイント回帰分析により明らかにし、その特徴から行動制限要請の流行抑制効果を推測した。
◆国内での新興ウイルスの流行拡大が必至となれば、ワクチンが普及するまでの時間稼ぎとして、行政が県民、国民へ行動制限を要請するポピュレーションアプローチは、最も現実的な感染制御手段であると思われる。
◆行動制限要請を実施するタイミング、その効果と社会経済的負担とのバランスを的確に考慮・判断するためには、各県単位での罹患データの正確かつ迅速なモニタリング体制を平時に確立しておくことが重要となる。

積極的疫学調査データの活用とそのための人材育成

著者: 緒方剛

ページ範囲:P.561 - P.568

ポイント
◆保健所の積極的疫学調査データの活用は、デジタル情報についての研究機関による分析と、テキスト情報の保健所などによる分析がある。
◆保健所による疫学分析は、集団発生への対応に加えて、家族感染率と潜伏期間のエビデンス構築で成果を上げ、今後の役割が期待される。
◆社会医学系専門医、保健師などの人材に対する感染症の継続的経験・研修の育成システムにより、質向上・研究が可能となる。

検査・外来診療体制の課題と展望

著者: 倉本玲子

ページ範囲:P.569 - P.580

ポイント
◆COVID-19の検査・外来診療は地衛研・保健所での行政検査に始まり、3年がかりで医療中心の体制へ移行された。
◆感染拡大ごとに検査供給不足が生じたため、状況に応じた一定の制限をかけながら体制拡充を図ってきた。
◆新興感染症対策として平時からの体制整備に加え、検査・外来診療の実施戦略についても検討が必要である。

医療提供体制と入院調整を巡る諸課題

著者: 成田智晴

ページ範囲:P.581 - P.590

ポイント
◆病床確保に関する今後の課題は迅速性と確実性の両立であり、医療措置協定に安心せず地域ごとに努力が必要と考える。
◆地域医療構想に関連する集約化・機能分化の取り組みは新興感染症対策としても有用である。
◆自治体による入院調整は医療提供体制に影響を及ぼす。自治体同士のさらなる連携強化が必要。

高齢者へのワクチンの優先接種とその効果

著者: 高橋佑紀

ページ範囲:P.591 - P.597

ポイント
◆高齢者層と若年者層の感染動向を比較することで、高齢者を優先した予防接種政策が国内のCOVID-19感染動向に与えた影響を考察した。
◆予防接種政策は国内の感染動向に影響を与え、特に高齢者の感染者数を減少させたと推定された。
◆予防接種状況の異なる集団の感染動向を比較することは、予防接種政策の効果を考察する一助となりうる。

緊急性を要する感染症対策に当たる行政職員を指導・監督・支援する者に必要な資質・専門性とその育成

著者: 砂川富正

ページ範囲:P.598 - P.609

ポイント
◆新興感染症を含む全ての感染症イベントへの備えとして、リスク評価の考え方を身に付ける必要がある。
◆リスク評価の基本はProbability(発生・拡大する可能性)とImpact(重症度等)の組み合わせである。
◆国立感染症研究所FETPでは、自治体でもより重要性が高まったリスク評価が可能な人材を育成している。

メディアから見た2類相当時代の新型コロナウイルス対策の課題

著者: 前村聡

ページ範囲:P.610 - P.619

ポイント
◆情報量が急増しインフォデミックが課題となる中、マスメディアはデータを視覚化した報道で全体像を伝えた。
◆政府の対策は感染拡大の抑制が指標となり、「超過死亡」の指標や国民の生活・経済の影響の指標が欠落していた。
◆「正しく恐れる」ためのリスクコミュニケーションは「正解」を押しつけるのではなく「事実」を積み上げ、双方向の意思疎通が必要。

連載 衛生行政キーワード・154

米国CDCにおける組織再編と、感染症危機管理に関する国際的な取り組み

著者: 内木場紗奈

ページ範囲:P.620 - P.627

はじめに
 米国疾病対策・予防センター(U. S. Centers for Disease Control and Prevention: CDC)は米国保健省(Department of Health and Human Services)の主要な運営部門と位置付けられ、健康安全保障(ヘルスセキュリティ)に対するあらゆる脅威から米国民を守るため、医療者への情報提供、政策への助言、一般大衆への啓発活動等の幅広い活動を通して科学(サイエンス)の実践を行う機関である1)。特にCOVID-19パンデミックという感染症危機においては、各種ガイダンスを迅速に発表するなどして研究成果の社会実装を速やかに行い、米国内のみならず世界の公衆衛生対応をリードすることで世界的なプレゼンスを高めたのは記憶に新しい。
 筆者は2022年12月1日から2023年11月30日までの1年間、厚生労働省から米国CDCにリエゾンオフィサーとして派遣され、現地での研修を行った。本稿ではその際に学んだ知見を、CDCが行っている感染症危機管理に関する取り組みと抜本的に行われた組織改革という二つの観点からまとめて紹介したい。

All about 日本のワクチン・18

麻しん風しん混合ワクチン—小児を中心に

著者: 原木真名

ページ範囲:P.628 - P.631

1.当該疾患の発生動向
1)麻疹
 麻疹は古くから「命定め」といわれて恐れられてきた疾患である。日本では2006年から麻しんワクチンの2回接種が導入され、さらに2008年から5年間の時限措置で、3期4期のワクチン接種を行うなど、麻疹排除に向けた取り組みがされた結果、2015年に世界保健機関(World Health Organization: WHO)により麻疹排除が認定された。その後も海外からの輸入例による麻疹の小流行が見られ、2019年には744人の報告があったが、COVID-19の流行で海外との往来がなくなった2020〜2022年は1桁の発生数であった。2023年になり、海外からの輸入例が再び増加している。海外では、COVID-19の流行により、東南アジア地域、アフリカ地域を中心にワクチン接種率が低下し、麻疹の患者が激増している。今後、国内でも、麻疹の輸入例による流行が懸念される。

ヒトとモノからみる公衆衛生史・13

結核の時代と療養する身体・1—「口を開くな窓開け」—専門家たちの警告

著者: 西川純司

ページ範囲:P.632 - P.635

はじめに
 ひとつの身体であることは、他の生き物、様々な物の表面、世界の様々な構成要素——一例としては、誰のものでもなく誰のものでもある空気、所有関係を超え所有関係に反して存続する生命の存在をわれわれに思い知らせる空気——と密接にかかわることであるが、これについては誰も否定しようがないだろう1)
 ジュディス・バトラーは『この世界はどんな世界か?——パンデミックの現象学』の中で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を経験した人々の世界について、このように述べている。ウイルスのまん延によって、人々の生命や生活がどのような前提のもとで成り立っているのかがむき出しの状態になった。この世界では、人々は共有された世界に息を吐き出し、他者の肺を通じて流通する空気を吸っている。人々の営む生は自分だけの生ではないのだ、とバトラーは言う。
 コロナ禍において、人々の振る舞い一つ一つが他者の生死を左右するものであったことが、改めて思い起こされる。あのとき、誰もが感染予防に四苦八苦していたことを思い出してほしい。毎日マスクを欠かさず身に着け、家や学校ではいつも以上に換気に気を遣い、職場や飲食店ではアクリル板を設置し、スーパーのレジ待ちの列では密にならないように距離を空けたりしていたはずである。他者と空気を共有せざるを得ない人々は、その中で自分の、そして他者の命を守るために、呼吸や換気、周囲の空気の流れに神経を尖らせていたのではないだろうか。
 にもかかわらず、ロックダウン(都市封鎖)や緊急事態宣言の発令といった政策や、mRNAワクチンの開発・接種などの高度な医療技術に比べて、人々が取り組んでいた感染予防の実践はあまり記録に残らず、記憶からも消え去ろうとしている。これら日常レベルでの感染対策やそこで用いていた道具は身近でさまつなことのようにみえるが、しかし、感染症と共に生きる人類の重要な一局面を垣間見させてくれるものである。一人一人の生活を描くこうした「小さな歴史」2)にこそ目を向ける必要があるのではないか。
 今号から3回にわたって、結核という過去に猛威をふるった感染症を題材に、空気をめぐるヒトとモノの「小さな歴史」を描いてみたい3)。医師や公衆衛生の専門家たちの助言の下、療養者や看護者はどのように、いかなる道具に頼りながら、空気の流れの操舵に努めていたのか。歴史的な資料をひもときながら、その試行錯誤の歴史を明らかにすることが、ここでの狙いである。

Go to the people——バングラデシュと共に歩んだ私の国際保健50年

第十二編

著者: 石川信克

ページ範囲:P.636 - P.640

第二の柱——他のNGOの結核活動を見て回る
 私の所属団体での結核活動が行き詰まりを感じてきた頃、保健師の金田洋子さんが「他のNGOがどんな結核の仕事をしているか見て回ったらどうか」という提言をしてくれた。ちょうどダッカJOCSの現地スタッフとして参加してくれた青年の三浦照男さん*1がいたので、彼の運転で、金田さんも同行し、全国各地で結核を扱っている民間団体の活動を見て回ることにした。
 三浦さんのような体力のある若い人のおかげで、新しいことへの挑戦が容易になった。また医療者でなく、地域開発専門家の社会科学的な観方や、その分野の人材との交流もでき、仕事の広がりもできた。

[連続小説]コロナのない保健所の日記・15

Leave no one behind(誰一人取り残さないために)

著者: 関なおみ

ページ範囲:P.650 - P.660

六月六日水曜日 雨 梅雨入り
 真歩が大塚保健所に異動するに当たり、唯一不安だなあと思っていたのが、新しい計画の策定だった。
 都内の公衆衛生医師の異動人事が公表された三月最終週、都庁へ異動することになった大塚保健所の荏原課長から早速電話がかかってきて、今月中に引き継ぎを受けることになった。真歩は几帳面に用意された引継書をめくりながら、母子保健、成人保健、精神保健、感染症対策と、各事業の説明を受けたが、組織や人事に関するオフレココメント等も多々あり、荏原課長の話は尽きない。

映画の時間

—人は罪を犯し続ける 人は人を愛し続ける—湖の女たち

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.649 - P.649

 超高齢社会の到来により、介護を必要とする高齢者も増加しています。今月ご紹介する『湖の女たち』では、介護施設で発生した殺人事件が映画の発端です。
 琵琶湖の近隣に所在する介護施設の「もみじ園」で、夜間当直の時間帯に100歳の男性入所者が亡くなります。つながれていた人工呼吸器が止まっており、死因は低酸素脳症でした。事故か事件か。西湖署の2人の刑事、若手の濱中(福士蒼汰)とベテランの伊佐美(浅野忠信)が捜査に入ります。

投稿・原著

北海道におけるピアサポーター雇用経験を有する障害福祉サービス事業所の実態調査の結果と課題の検討

著者: 横山和樹 ,   小笠原那奈 ,   小笠原啓人 ,   小川賢一 ,   窪田優美菜 ,   木村智之 ,   中島邦宏 ,   稲垣麻里子 ,   矢部滋也

ページ範囲:P.641 - P.646

はじめに
 ピアサポートとは、同じ問題や環境を体験した人が相互に支え合うことを指す1)。ピアサポートは、専門職による支援では得がたい安心感や自己肯定感を得られることが特徴であり2)、これまでに身体障害領域、知的障害、精神障害、高次脳機能障害、難病などのあらゆる障害領域において、その有効性が報告されている3)。特に、精神障害分野におけるメタ解析では、ピアサポート介入群は対照群と比較してリカバリーに関わるスコアの改善がみられることが示されている4)
 わが国では2021(令和3)年度より障害福祉サービスにおけるピアサポート体制加算・ピアサポート実施加算が開始された5)。今後は、ピアサポーターが福祉の現場で雇用され、障害当事者に対する相談支援・地域移行支援・就労継続支援などにおいて活躍することが期待される。一方で、ピアサポートに関連する加算の対象となる事業所のうち、すでにピアサポーターを雇用している障害福祉サービスの事業所も存在する。これから増えていくピアサポーターの雇用に向け、これらの事業所でピアサポーターがどのような業務内容を担っているのか、またピアサポーターを雇用する際に生じる課題やその配慮を把握する必要がある。そこで、ピアサポーターを雇用した経験を有する障害福祉サービス事業所の実態を明らかにするために、ピアサポーターの業務内容、および雇用における課題と配慮に関わる質問紙調査を実施した。なお、本調査におけるピアサポーターは、「疾病や障害の経験を持つ方が、その経験を活かしながら、金銭的報酬を得て、疾病や障害の経験を持つ方の支援を行うこと」と定義した。

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ページ範囲:P.541 - P.541

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基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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