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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生88巻7号

2024年07月発行

雑誌目次

特集 公衆衛生における行政とアカデミアの連携の在り方—海外の実例とわが国の課題

Editorial—今月号の特集について フリーアクセス

著者: 田宮菜奈子

ページ範囲:P.667 - P.667

 昨今、エビデンスに基づいた政策立案(evidence based policy making: EBPM)が重要視されてきたが、具体的な行政とアカデミアの連携体制には、いまだ多くの溝がある。
 本特集は、内外の先進事例に学びつつ、今後の方策を読者とともに検討したく企画した。冒頭で田宮がこれまでの経験からの概念整理を試み、次いで、各ご専門の先生方から、米国、欧州連合、そして公衆衛生の歴史を含めた英国の状況をお伝えいただき、加えて国内の先進事例、最後に、行政から公衆衛生大学院に通われた草分け的ご経験を語っていただくことにした。

公衆衛生における行政とアカデミアの連携—現状と課題

著者: 田宮菜奈子

ページ範囲:P.668 - P.676

ポイント
◆研究には、オリジナリティーのある知識を求める研究と現場の実装につなげる研究とがある。前者のみでなく、後者の理解と評価が広がる必要がある。
◆アカデミアは時間をかけた真実を重視し、行政は短時間での解決策の提示が求められ、もともと役割、優先順位が異なる。
◆両者の先にある国民の健康・幸福を相互に意識した連携をとることが重要である。

米国における行政とアカデミアの連携

著者: 杉山雄大

ページ範囲:P.677 - P.684

ポイント
◆公衆衛生分野では、実践と研究とが互いに影響を与え合い、進化するのが望ましく、日本でもコホート研究やデータヘルス計画を通じた連携が行われている。
◆米国CDCとエモリー大学の連携は公衆衛生分野における代表的な例であり、教育と研究、実務の相互作用が典型的に示されている。
◆ロサンゼルス郡では公衆衛生行政とアカデミアが密接に協力し、公衆衛生人材の確保や大学とのコラボレーションを通じてサービスを強化している。

欧州連合諸国EBPMにおける行政とアカデミアの連携

著者: 田中宏和

ページ範囲:P.685 - P.691

ポイント
◆欧州連合における公衆衛生分野の取り組みは1980年代から本格化し、WHO欧州地域事務局や欧州公衆衛生協会などと協働して実施されてきた。
◆欧州公衆衛生協会の機関ジャーナル「European Journal of Public Health」では1990年代から幅広い公衆衛生のトピックについて官民の情報交換がなされてきた。
◆欧州ではCOVID-19の経験から電子化された保健・医療データをより安全に統合し、保健・医療の改善と公衆衛生上の脅威への対応に活用する取り組みが始まっている。

英国の健康医療ケアのEBPMの現状—アカデミアと実務機関との連携

著者: 高鳥毛敏雄

ページ範囲:P.692 - P.700

ポイント
◆英国において、根拠に基づく健康医療体制の基盤をつくった主な人物を紹介した。
◆英国の健康医療・福祉介護などの研究成果をもとにガイドラインづくりに関係している組織・機関を紹介した。
◆EBPMに従って実践活動を行う英国の体制の現状と課題について解説をした。

—〈地方行政におけるアカデミアとの連携の取り組み例1〉—東京都におけるリスクガバナンスとリスクコミュニケーション—東京iCDCによるリスクの共考と協働

著者: 西塚至 ,   奈良由美子

ページ範囲:P.701 - P.710

ポイント
◆東京都は東京iCDCを立ち上げ、科学的助言に基づき感染症危機に対応する体制を構築した。
◆東京iCDCではこれまでに都民意識調査を10回実施するなど、広報に加えて広聴・対話を継続的に行い、効果的な感染症対策につなげてきた。
◆行政とアカデミアの連携により東京都は、リスク評価、リスク管理、リスクコミュニケーションが有機的に連関したリスクガバナンスを具現化し、信頼の醸成と、参加型の課題解決を実践し、COVID-19による死亡者数を低い水準に抑えた。

—〈地方行政におけるアカデミアとの連携の取り組み例2〉—EBPM実現に向けた神奈川県との協働の成果と課題—県立大学と県・市町村との連携事例

著者: 渡邊亮

ページ範囲:P.711 - P.720

ポイント
◆神奈川県・市町村と県立保健福祉大における、県の未病対策、健康増進に関する取り組み、COVID-19対策などの連携事例を紹介する。
◆連携により、地方行政におけるEBPM推進のみならず、大学にとっても教育・研究機会の増加などの成果が得られた。
◆連携強化には、行政と研究機関との視点の違いへの配慮、増大する業務負荷への対応、データプライバシー保護やセキュリティーが不可欠である。

保健所等行政職員が大学院で学び研究する現状と課題—そのハードルは何か

著者: 白井千香

ページ範囲:P.721 - P.727

ポイント
◆行政職員が大学院で学ぶことは、視野が広がり実務の科学的な裏打ちになり、自らのモチベーションを高めることができる。
◆社会人大学院は増加しているので、行政の人事部局が働きながら学べる制度を拡充してほしい。
◆近未来には大学と行政いずれにも所属する二刀流の公衆衛生医師が活躍できるよう、環境整備を望む。

連載 All about 日本のワクチン・19

水痘ワクチン

著者: 服部文彦 ,   吉川哲史

ページ範囲:P.728 - P.731

1.当該疾患の発生動向
 水痘は水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus: VZV)感染後2週間程度の潜伏期間を経て発症する小児のウイルス感染症で、接触、飛沫感染に加え空気感染する感染力の強い疾患である。ワクチンで予防可能な疾患で、2012年に日本小児科学会から水痘ワクチンの1-2歳で2回接種が推奨され、2014年10月1日から定期接種対象疾患(A類疾病)となった。
 水痘は5類感染症の定点報告疾患として、小児科定点から報告されている。さらに、ワクチンの定期接種導入に先立ち2014年9月19日から水痘入院例の全数報告が開始された。ワクチンが定期接種化された2015年以降の水痘患者報告数は明らかに減少している(図1)1)。患者の年齢分布をみると、定期接種化に伴い5歳未満の小児の割合が減少し、より年長児の割合が増加している(図2)2)。新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起きた2020年以降は年長児も含めて水痘小児科定点報告数がさらに減少しているが、背景として新型コロナウイルス感染症対策として行われた徹底した飛沫・接触感染策が大きく影響していると考えられる。

ヒトとモノからみる公衆衛生史・14

結核の時代と療養する身体・2—パンデミック下で生きる療養者の知恵—新鮮な空気を求めて

著者: 西川純司

ページ範囲:P.732 - P.734

はじめに
 前回は結核対策のスローガンなどを例にして、専門家による啓蒙活動をみてきた。しかし、実際に結核病者による療養生活が営まれたのはより具体的で個別の状況においてである。住まいや療養所において具体的なモノに囲まれる中、家族や他の患者と空気を共有しつつ療養生活が送られていた。今号は、新鮮な空気を求めて人々が創意工夫していた療養の現場に目を向けてみたい。

Go to the people——バングラデシュと共に歩んだ私の国際保健50年

第十三編

著者: 石川信克

ページ範囲:P.735 - P.739

北部のクリニックへの旅
 北西部地域への訪問の旅も容易ではない。まず国の中央を流れるジャムナ川を越えなければならない。現在は、大河横断の橋ができたが、当時はフェリーで渡るしかなかった。ダッカ市内から西へ、船着き場のアリチャまで車で1時間、そこから北部に向けたフェリーで川を登り、2時間弱で対岸のノゴルバリに到着する。船旅はのんびりしていて、遠く見える対岸の村々や木々を眺めたり、イルカの群れなどがフェリーと一緒に泳いでいくのを面白がったりした。到着しても気をもむことが多く、トラックや車がわれ先に下船したがって、混乱と怒号が行き交うのが普通だ。自分の車がぶつけられたりしないか気が気ではない。ようやく地上に降りてから、国道へ出て、一気に北上すればボグラの街に着く。ボグラミッション病院に表敬訪問をして、西のへき地シャリアカンディのBAMクリニックへはたびたび訪問した。

[連続小説]コロナのない保健所の日記・16【最終回・エピローグ】

サイレント・ナイト(あるいは、来るべき世界)

著者: 関なおみ

ページ範囲:P.753 - P.764

二〇一九年二月四日月曜日 曇りのち晴れ 風しんの日
 二〇一三年の風しん流行からちょうど五年経った二〇一八年、再び全国的な流行が起きた。前回同様、風しんの予防接種を受けていない成人男性を中心とし、今度は職場や国際的なアーティストのイベント等だけでなく、地下アイドルの握手会とか、ローカルバンドのライブハウスツアー、ネットゲームの集会など、インターネットが社会に浸透するとともに情報が全国規模で拡散してネットワーク化した、サブカルチャー系のイベントがきっかけと思われる感染拡大事例もあった。人の集まる場に感染症あり、である。
 国が重い腰を上げ、二〇二〇年のオリンピック・パラリンピック東京大会(1)までに日本から風しんを排除(2)することを目的として、本格的に成人男性を対象とした風しん対策(2)を始めたのは、二〇一九年二月のことだった。

予防と臨床のはざまで

第34回国際産業衛生学会インプレッション

著者: 福田洋

ページ範囲:P.750 - P.750

 4月28日から5月3日まで、第34回国際産業衛生学会(International Congress on Occupational Health: ICOH)2024が開催されました(https://www.icoh2024.ma)。1906年にイタリアで発足した100年以上の歴史を誇る産業衛生分野最大の国際学会で、コロナ禍で完全オンラインとなった前回の2022年のメルボルンを挟み、2018年のダブリンから対面としては6年ぶりの開催となりました。マラケシュはエネルギッシュなナイトマーケットでも有名なモロッコ第2の都市で、世界遺産にも登録された旧市街(メディナ)には迷路のようなスーク(市場)が広がります。会場は、特徴的な薄いピンクのしっくいの街並みと同じ色のマラケシュ国際会議場で、フランス領だったこともあり、街中の言語はフランス語が中心です。
 学会のテーマは“Enhancing Occupational Health Research and Practices: Closing the Gaps!”。蓄積されてきたエビデンスと実践のギャップを埋めるために世界中の専門家がもてる知識、技術、トレンドと経験を基に対面・多職種で議論しようという狙いで、コロナが明けたというメッセージを含むテーマだと思います。学会初日(DAY0)は理事長のあいさつ、世界保健機構(WHO)、国際労働機関(ILO)、欧州連合(EU)、地元医師会の祝辞などが続くオープニングセレモニーと、学会の雰囲気を形作る重要なオープニングプレナリー(開幕基調講演)が行われました。

映画の時間

—実話を基に描かれる、海の男たちの誇りと絆(シーマンシップ)の戦争秘話—潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.751 - P.751

 今月ご紹介する『潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断』は第2次世界大戦当時のイタリアの潜水艦を舞台にした作品です。
 1940年9月、イタリア海軍潜水艦コマンダンテ・カッペリーニ号は、イギリス軍への物資供給を断つために出港しました。艦長のサルヴァトーレ・トーダロは、水上飛行機の事故で脊椎を損傷し、脊椎固定具を装着しており、痛みに耐えながらの航海です。

投稿・地域事情

UNICEFブラジルにおける子どもたちの健康への取り組み—質の高いワクチン接種活動に貢献するための戦略

著者: 若林真美

ページ範囲:P.740 - P.743

はじめに
 ブラジル連邦共和国(以下、ブラジル)は、金融・世界経済に関する首脳会合(G20)の2024年の議長国になり、2025年国連気候変動枠組条約締約国会議(COP30)をアマゾン地域で初開催するなど、今年度来年度と国際的な議論をリードする国の一つである。そのようなブラジルの保健分野の現状を踏まえ、UNICEFブラジル事務所で保健専門官として働いた経験を基に、UNICEFブラジルでの保健プロジェクトを報告する。なお、執筆内容は所属する組織等とは関係なく、個人の見解である。
 ブラジルは世界第11位の国内総生産(gross domestic product: GDP)で高位中所得国に分類される新興国であり1)2)、国際機関等からの支援卒業国である。そのため、他国からの金銭的な支援を受ける機会は限られている。UNICEFにおいて支援プログラムに用いる通常予算は、最も支援を必要としている子どもたちに最優先に支援が届けられるよう、以下の三つの指標を基に優先順位を判断した上で各国・地域に配分される。三つの指標とは、①5歳未満乳幼児死亡率が高い国、②1人当たり国民総所得が低い国、③子どもの人口が多い国である3)。世界全体でみると5歳未満の乳幼児死亡率がかなり改善され(出生1,000人当たり14人4))、GDPが高いブラジルにはUNICEF本部からの援助金はほとんど分配されない。しかし、経済格差(2022年ジニ係数0.518)を背景とする貧困層(0歳から14歳人口の49%が貧困と推定される)の社会課題が多く残っている5)。そのような社会課題に対応するため、UNICEFブラジルでは、主にブラジル国内の個人からの寄付や企業等からの寄付によって活動を行っている。UNICEFブラジルの2022年の寄付受領額は約USD16.9百万(約25億円)となっている6)。また、ブラジル国内に首都ブラジリアの本部と8つの地区事務所とベネズエラ難民の対策としてボア・ビスタに臨時事務所が配置され、比較的規模の大きな国事務所となっている7)。UNICEFブラジルは、社会経済的に脆弱な北部や北東部の州(アマゾン州を含む)などを中心にブラジル全土で、本論で述べるような保健分野の活動を含めて子どもたちへの教育や保護などさまざまな分野の取り組みを行っている。

UNICEFブラジルにおける子どもたちの健康への取り組み—ブラジルにおける乳幼児に配慮したユニット形成

著者: 若林真美

ページ範囲:P.744 - P.746

乳幼児期の発達支援の必要性
 乳幼児期は、子どもの全体的な発達の方向性を形作り、将来の基盤を築くための重要な機会を提供する。しかし、世界における子どもの早期発達プログラムは、特に3歳未満の子どもの場合、子どもの早期発達を促すのに必要な教育分野や保健分野、福祉分野等の分野間の連携と質にばらつきがあり、各サービスへのアクセスが不十分で不公平である1)。子どもたちがその潜在能力や人権を最大限に発揮するためには、保健医療と栄養、虐待等の暴力からの保護と安心感、早期学習の機会、迅速なケアが必要である2)。しかしながら、ブラジルにおいて乳幼児期の早期発達プログラムは十分に整備されているとはいえない。

UNICEFブラジルにおける子どもたちの健康への取り組み—気候変動と健康への影響

著者: 若林真美

ページ範囲:P.747 - P.749

ブラジルにおける気候変動の影響
 世界最大の熱帯雨林を持つブラジルで、2025年国連気候変動枠組条約締約国会議(COP30)が開催される1)。南米アマゾンの熱帯雨林は二酸化炭素を吸収し、地球温暖化を遅らせるのに不可欠であるが、大規模な干ばつによって、こうしたメカニズムが崩壊しつつあり2)、2025年にCOP30がブラジルで初開催される意義は大きいと考える。
 アマゾンの森林地帯であるブラジルの北部は赤道直下に位置し、年間を通じて高温多湿である3)。ブラジル北部の州を中心に、今後30℃を超える日が200日以上となる州がもっと増えると予想されている4)。特に2023年9月中旬は中央と北部の州で40℃を超える日が続くなど、30年に一度の熱波に襲われた5)。UNICEFブラジルでは、これらの熱波に影響を受けている子どもたちは、毎年1,360万人以上に上ると予想している6)

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基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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