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公衆衛生88巻8号

2024年08月発行

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特集 大規模イベントがやってくる!—安全な開催に向けた備えと健康な地域社会の構築

Editorial—今月号の特集について フリーアクセス

著者: 冨尾淳

ページ範囲:P.771 - P.771

 大規模イベントは、地域社会に活気やにぎわいをもたらす一方で、いわゆるマスギャザリングの状態を呈することから、感染症のアウトブレイク、事故やテロなどに伴う多数傷病者発生事案など、健康危機のリスクが高まる場であるといわれています。そのため、イベントの主催者や開催自治体は、関係機関と協力し、安全で健康なイベントの開催に向けて準備することが求められます。
 わが国では、近年、ラグビーワールドカップ(2019年)や東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(2021年)などの国際的なスポーツイベントのほか、G20大阪サミット(2019年)、G7広島サミット(2023年)など注目を集めるイベントを経験してきました。2025年には大阪・関西万博も開催されます。より身近なところでは、各種スポーツ大会や、地域のお祭り、音楽フェスなど、多種多様なイベントが全国各地で数多く開催されています。

—〈大規模イベントがやってくる!〉—イベントの類型と備え・対応のポイント

著者: 竹田飛鳥 ,   冨尾淳

ページ範囲:P.772 - P.778

ポイント
◆大規模イベントは、限られた場所に多くの人々が集まることにより、感染症などによる健康危機発生のリスクが高まる。
◆開催に先立ち、リスクアセスメントを行い、優先するべきリスクを考慮した計画を立案することが重要である。
◆既存の公衆衛生システムの分析やリスクコミュニケーションも、健康危機管理体制を強化するために必要である。

—〈大規模イベントがやってくる!〉—地域イベント(スポーツイベント・お祭り・音楽フェス)のリスク評価と対応

著者: 和田耕治

ページ範囲:P.779 - P.785

ポイント
◆地域での一定以上の規模のイベント開催に公衆衛生関係者が関わりを持てるようにする。
◆イベントの特徴からリスクを特定し、関係者を交えて対策を検討し、実行する。
◆過去の類似のイベントで起きた事例を学び、記録などにして将来に伝える。

—〈大規模イベントがやってくる!〉—マスギャザリングに対する事前の演習・訓練のすすめ

著者: 齋藤智也

ページ範囲:P.786 - P.793

ポイント
◆大規模イベントでは新しい組織やあまり連携する機会のなかった機関等と関係性を構築する必要がある。
◆関係者が事前に共通の対応のイメージを持つことが重要である。
◆演習で計画を改善し、訓練で習熟する。

—〈大規模イベントがやってくる!〉—サーベイランスの最前線

著者: 島田智恵

ページ範囲:P.794 - P.802

ポイント
◆大規模イベント=マスギャザリング時は感染症を含めた健康被害が発生するリスクに注意する。
◆迅速な公衆衛生対応を実現するために、マスギャザリングの特徴を踏まえて強化サーベイランスの計画や運用を行う。
◆強化サーベイランスの目的、必要な情報、対応を、企画段階から関係者と共有し協力関係を構築することが重要。

—〈大規模イベントがやってくる!〉—テロ対策の最前線

著者: 小井土雄一 ,   若井聡智 ,   小谷聡司 ,   阿南英明

ページ範囲:P.803 - P.814

ポイント
◆東京2020オリンピック・パラリンピック競技会を契機に、災害・テロ現場において、医師・看護師以外の救助隊員が、要救助者に対して解毒剤自動注射器を使用することが可能となった。
◆総務省消防庁が2016年に作成したNBC災害に関する活動マニュアルが、7年ぶりに2024年3月に改正された。
◆大阪・関西万博に向けて、世界標準に近づいた活動マニュアルを、新たな共通言語として各組織が認識しなければならない。

—〈大規模イベントがやってくる!〉—イベント開催中の地域の救急医療

著者: 森村尚登

ページ範囲:P.815 - P.824

ポイント
◆大規模イベントの開催では、①日常の救急医療体制の確保、②大規模イベントに対する医療体制の構築、③不測の事態への対応の準備が重要である。
◆イベント開催時の救急医療体制を構築するためには、医療リスク評価と対応策を検討する場を平時より準備しておくことが重要である。
◆イベントの医療対応計画立案に当たっては、自治体や学術団体による過去の報告やガイドラインの整理とその活用が今後の課題である。

—〈大規模イベントがやってくる!〉—大阪・関西万博に向けた公衆衛生対策

著者: 朝野和典

ページ範囲:P.825 - P.832

ポイント
◆大阪・関西万博では会場内の公衆衛生対策として、万博協会内に会場衛生協議会が組織され、大阪市の運営する会場衛生監視センターと連携する。
◆病原体が会場内で感染しても発症は会場外となるため、会場内外の情報収集、解析を行う大阪・関西万博感染症情報センターが設置される。
◆大阪・関西万博は、疾患サーベイランスを補完する環境サーベイランスの有用性等の研究的な検証を行う貴重な機会となる。

特別企画

—インタビュー—「専門家」の立場と、「専門職」の在り方—『奔流 コロナ「専門家」はなぜ消されたのか』を巡って 著者・広野真嗣さんに聞く

著者: 福田吉治 ,   杉本九実

ページ範囲:P.834 - P.840

COVID-19を契機として公衆衛生領域がにわかに注目を集めて数年が経つ。厄災の最中、国民からその期待を一身に担った中枢について私たちはどれほど知っているだろうか。コロナ対策の専門家たちに迫った『奔流 コロナ「専門家」はなぜ消されたのか』(以下、『奔流』)の著者である広野真嗣さんに、当時の渦中の様子、そしてこれからについて聞いた。

連載 衛生行政キーワード・155

消防機関における多数傷病者対応と救急需要対策の展望

著者: 飯田龍洋

ページ範囲:P.842 - P.847

はじめに
 消防機関は、わが国では総務省が所管し、市町村が運営主体の自治体組織である。その任務は災害救助から救急業務にまで発展し、1963(昭和38)年に消防法において救急隊が行う救急業務が既定され、制度改正を重ねながら現在の病院前における救急体制が構築されている。
 消防機関の果たすべき役割は、国民の生命・財産を守ることであるが、大規模イベント時におけるNBC(nuclear weapon, biological weapon, chemical weapon)テロ対策等に加えて、激甚化・頻発化する自然災害等への備え、新型コロナウイルス感染症の感染拡大時の対応、さらに、平時を見据えた救急需要の増大への対策、これらは個々の状況は異なるが、救急ひっ迫時にも円滑な多数傷病者対応が求められる点は共通である。
 本稿においては、消防の救急体制のうち指揮体制とトリアージ体制を概説するとともに、特に保健・医療に携わる方々にも幅広く認知いただきたい救急需要対策の論点を述べる。

All about 日本のワクチン・20

おたふくかぜワクチン

著者: 後藤研誠

ページ範囲:P.848 - P.851

1.当該疾患の発生動向
 ムンプス(おたふくかぜ)はムンプスウイルスによる全身性感染症であり、耳下腺のびまん性腫脹と疼痛を特徴とする疾患である。無菌性髄膜炎の合併頻度が高い(1〜10%)。脳炎の頻度は0.02〜0.3%と低いが後遺症を生じる可能性がある。ムンプス難聴(0.01〜0.5%)の多くが片側性だが高度な感音性難聴を来し永続的な障害となる1)
 おたふくかぜワクチンは、わが国においては1981年に任意接種として導入され、1989年には麻疹・おたふくかぜ・風疹混合(measles, mumps, rubella: MMR)ワクチンとして定期接種化された。しかしMMRワクチン接種後の無菌性髄膜炎の発生(約1,200〜2万接種に1例)が問題となり、1993年にMMRワクチンの定期接種は中止され、以降おたふくかぜワクチンは単味の任意接種ワクチンとしてのみ使用されている。

ヒトとモノからみる公衆衛生史・15

結核の時代と療養する身体・3—病者と看護人の抗争史—すれ違う親と子

著者: 西川純司

ページ範囲:P.852 - P.854

はじめに
看護人……看護婦……と言ふ言葉は世の病者、殊に我々の如き慢的性(ママ)疾患である結核病者に取つて常に脳裏から去らない深い親しみの言葉です1)
 結核病者のほとんどが自宅療養を強いられていた戦前の日本では、家族が「看護人」としての役割を務めることが多かった。今号はこうした療養者の近くで看護していた人々に光を当ててみたい。そこでは療養者と家族である看護人が同じ空間や同じ空気を共有するからこそ生じる感情的なもつれ合いも少なからずみられた。雑誌『療養生活』の特集「私の看護人」に寄せられた読者たちの生々しい声に耳を傾けてみよう(図1)2)

Go to the people——バングラデシュと共に歩んだ私の国際保健50年

第十四編

著者: 石川信克

ページ範囲:P.855 - P.859

国レベルの結核の対策支援や研究への一歩
 村レベルのグループ(ショミティ)による健康づくりの妙味に入る前に、第三の柱である首都結核センターを中心に、1980年ごろのバングラデシュの結核事情を述べてみよう。そのころの正確な国全体の疫学調査はなかったが、当時より15年前の1964〜1965年パキスタン時代に行われた実態調査では、結核有病率は喀痰塗抹陽性で10万対700と推定されていた。X線上の有病率はこの数倍であろう。日本の戦前、戦直後の状態よりも悪かったと思われる。多くの若い人たちが結核にかかり、また亡くなっていた。感染状況としては、15歳までに約半数が、30歳以上で8割以上が結核感染を受けていた。著しく高いまん延状況であった。有病率も都市は農村の2倍、男は女の2倍であった。調査の正確性等から推測すると実際の状況はさらに悪かったであろう。国の結核診療を担っていた機関としては、全国で、ダッカの中央結核センターを含む44の結核専門クリニック、12の結核病院、末端では、350以上の郡保健センターのうち142で結核診療が行えることになっていた。人口対比では200万人に1カ所、普通の人々には遠すぎて受診しにくかった。したがって実際に治療を受けられていた患者は、推定患者の1割以下、また治療を始めた者のうち1年以上の治療を完了できた者は1〜2割程度であった。国の診療体制としては、量も質も全く不十分で、実質的に効果的な結核医療は行われていなかったといえる。

映画の時間

—予測不可能な“新時代”の体験型スリラー誕生—ニューノーマル

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.860 - P.860

 放火や殺人、動物虐待、失業者65万人……と嫌なニュースが流れてくる中、都心で一人住まいの女性が殺害されたことを報じるテレビを美しい女性が見つめています。女性は高級マンションの一人住まい。そこに火災警報器の点検で作業員が訪れますが、そのような予定を管理人から知らされていない女性は、怪しみながらも室内に入れてしまいます。怪しげな作業員。何か事件が起こりそうな予感を感じさせ、観客は画面から目が離せません。女性を演じるのは、テレビドラマ『冬のソナタ』で一世を風靡したチェ・ジウ。かつてのファンは心配のあまり、胸が張り裂けそうになるでしょう。
 このエピソードが「チャプター1」で、「ラスト・チャプター」まで、本作品は6つのエピソードから成り立っています。オムニバス映画のようでもありますが、各チャプターは互いに関連しており、観客は、映画の進行とともに、各チャプターの関連が分かってきます。

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ページ範囲:P.769 - P.769

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奥付 フリーアクセス

ページ範囲:P.864 - P.864

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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