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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生9巻6号

1951年06月発行

雑誌目次

主張

新結核豫防法に關する不安

ページ範囲:P.356 - P.356

 こんど改正された新結核豫防法が劃期的な法律であることには誰しも異論がないと思う。實際これ位徹底して最新醫學の教える原理が織りこまれ,必要な措置が整然と用意された衞生法規は稀である。私はこれに對して非難的な批評を試みる氣持になれないのは,この事を十分知悉しているからである。しかしそこに不安感が全然無いわけではない。その不安は主として,この法律の條文が餘りにも立派に出來上りすぎているところから萌しているのかもしれない。つまり私は,この法律が果して,この規定通りにきちんきちんと實行されて行くことが可能なんだろうか,どうだろうかという實施面での懐疑にとらわれるのである。行政官の感覺によれば,法律の生れるのにも一つの潮時がある。ある事業が躍進するにはチヤンスというものがある。そうした時機を失すると,半ば永久的に日の目を見ないこともあるのだ。だから結核豫防の一大作業が,現實考慮の面に一沫の不安をとゞめながらも,ともかくも枠だけでも見事に仕上げられたということは,それ自身大に喜ぶべきではないかという考え方にも一理がある。しかし憲法第二十五條のようにあまりにもりつぱに出來上つているものに向つたときの空虚感が結核豫防法にもないとは言えないことを私は遣憾に思うのである。
 第1に,本法の施行については保健所という機關及び保健所長という人間は,新らしく大きな責任や義務を課されている。

グラビヤ

テームス河の清淨化

ページ範囲:P.357 - P.358

ロンドンの市中を流れるテームス河の河岸ウエストミンスターの附近にある英國議會ではかつては其惡臭のため議會開會を中止したほどであつたが,今では全く清淨化された。それはだれの力であつたであろうか?
 此河は極上流にあるグヌスターシヤイアの牧場地方から大小の支流が流れ込む外,河のほとりには大小の種々の工場があり又下水の流入がある,その上倫敦港迄舟運の利便この上なしの處であり,加うるに潮の干満がある。延々200哩以上に及ぶ淨水作業は並大程のことではない。

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結核豫防法の改正

著者: 山口正義

ページ範囲:P.359 - P.362

 國敗れて山河ありというが,その敗れた國荒廢した山河の中にわれわれは澤山の氣の毒な人,貧しい人を目の前にしている。
 社會の貧困を招く原因は非常に多いと思うがわれわれの關係している公衆衞生の面からみて,結核が大きな原因をなしていることは周知の通りである。結核は貧困を生み,貧困は結核を生んで大きな社會問題の一つとして,最近漸く結核問題が世論の對象となつて來た。

肋膜外合成樹脂球充填術に對する批判

著者: 加納保之

ページ範囲:P.363 - P.366

 1947年から1949年に亘り京都大學結核研究所長石博士等によりメタクリール酸系合成樹脂を,材料とした肋膜外充填術が發表され,たまたま同時に之とは別個に米國に於てD.A.Wilconにより同樣の材料を以てすう同樣の方法が發表された。前者は大小種々の形態の偏平楕圓形中室の接合形成物を用い,後者は徑1吋程度の中室球形接合形成物を用いた點が異る。然し後には前後に球状形態のものも用い,構造上種々改良されたものも用いられるに至つた。1948年から1949年に亘りこの方法が非常に廣く結核治療に應用されたが,症例數が増加すると共に,その成績が案外に良好ではない事が判明し最近では,むしろ反對意見が大きくなり,再び捨て去られてしまつた感がある。この餘りにも甚しい對蹠的な現象の由因に就ては學問的にも社會的にも批判を要する點が多々あると考えるが,筆者は主として前者に就て若干の考察を加えてみる次第である。

結核菌の單純塗抹染色標本檢査について

著者: 小川辰次

ページ範囲:P.367 - P.368

 染色法は一見簡單の樣に見えるが,培養などと違つて非常にむつかしい。それは初心者が本に書いてある通りやつて見ても,思う樣に染らない事でもわかるし,又かなり熟練していると思われる人でも,同樣に染つていない事は間々ある。たしかに染色の手技は本では書き表わせない樣な所がある樣に思われる。我々は,だからして先ず染色に習熟する事が必要である。私は同一の方法を何回も繰り返して練習する事がよいと思う。そう云う事によつて,其の方法の長所と同時に,短所をも知り得る事になり,此處で初めて染色技術が一人前となつたと云う事が出來る。又我々は染色の技術を會得すると共に見る眼を作る事が必要である。結核菌が澤山居つても,標本を澤山見ていない人の眼には結核菌として映らない。
 此の樣に染色の技術に習熟し,又見る目が出來たとしても,現在の染色法は抗耐性,或いは抗アルコール性を利用したものである爲に完成型と思われている抗的性菌は検出出來るが,非定型的な抗酸性の弱いもの,或いは抗酸出來ないわけである。

公衆衞生の旅(3)

著者: 齋藤潔

ページ範囲:P.369 - P.373

公衆衞生學教育機關
 公衆衞生學の專門教育機關について,最近20年間の發達の現状を視察することは,筆者の今度の旅行の目的の一つであつた。公衆衞生教育の内容は多岐であつて,廣い公衆衞生學の各分野に於て基礎的な科學教育を修めたものに對する補習教育又は專門職業教育というべきものを含んでいる。この點はわが國の教育制度の現状とは異つているので,われと比較することは困難である。
 アメリカに於ける公衆衞生學教育の歩んだ道は又同國の公衆衛生の進歩發展を側面から物語つてもいるように見える。

国内海外ニュース

WHOニュース/世界衞生機構研究班フヰラリアと鬪う

ページ範囲:P.366 - P.366

爪哇に於けるマラリア戰
 爪哇の南海岸Tjilatjap地方でマラリア戰がインドネシア政府により開始された。WHOは國際的に參加職員を準備中である。そして局地のマラリア作業員に對する教育中心部を開始することとなり,之に必要なる材料及装備は米合衆國政府から技術的援助として送附されるとのことである。

時評

國民所得と醫療費

著者: 曾田長宗

ページ範囲:P.374 - P.374

 世界各國々民の間には,遺憾乍ら大きな經濟的不平等がある。その所有する財産が平等に分配されていない丈でなく,年々の所得にも亦著しい差異が見られる。
 國連の發表した統計に基く次の表を一覽して見ても,最大値を示す北米合衆國の1人當り年所得1,453弗に比し,印度はその約30分の1に當る57弗,日本も亦漸く100弗で北米合衆國の約15分の1に過ぎない。このような經濟的不平等が,吾々の當面している衞生問題にどのような影響を與えているのだろうか。

研究報告

X線による結核集團検診に對する一反省

著者: 重松逸造

ページ範囲:P.375 - P.376

 結核の集團檢診に現在われわれが最大の武器として用いているX線の技術とX線寫眞の読影に關して,現在筆者の手許にある資料をもとにして1,2の反省を加えてみたい。

結核濃厚なる福知山地方のレントゲン胸部寫眞所見の分類と観察

著者: 都留昌人

ページ範囲:P.377 - P.379

 山陰地方の1つの中心地である福知山市附近は氣候惡く,從つて住民の羅病率も高く,就中結核性疾患が多い。福知山保健所調べによる1949年度結核罹病率及び結核死亡率は表1の通りである。
 尚東京都府の結核死亡率は全國第3位で,,23年度第3位,22年度第1位である。

結核の疫學的調査

著者: 渥美三千里

ページ範囲:P.379 - P.380

I.緒言
 保健所の結核豫防活動に於て,患者の感染源及び發病誘因を知ることは甚だ必要で,之により結核蔓延の一環を斷ち得ることは周知の所である。吾々は今回管内の結核治療施設である國立三重療養所,靜澄園,津病院及び縣立醫大高茶屋分院の協力を得て,その在院結核患者745名につき,是等の調査を行つた。勿論患者中には醫學的知識に乏しい者もあり,且つ是等の原因を明に知ることは醫師と雖も至難のことで相當見當違いのものもあると考えるが,その大勢は知ることが出來ると思われるので不備を顧みず茲にその成績を發表して諸彦の參考に資する次第である。

農村部落の結核状況

著者: 吉村一應

ページ範囲:P.381 - P.382

(1)緒言
「國民の8分の1は結核で死亡する」とは統計の示す眞實である。これは國民の○才における結核死率である。私は宮崎市,宮崎郡,東諸縣郡(宮崎本庄兩保健所管内)の24年度について統計を取つて見たら○歳の結核死率は6.1の1,5歳から15歳は4.6の1が將來結核で死亡する計算になつた。(表1最後行參照)
 第二の言葉「國民50人に1人の結核患者が居る」と言うこともよく知られて居る言葉でこれは各方面の檢診結果から想像されたものであろうぶ前者死亡率の眞實性と比較して稍漠然として居る。日本特有の年齡齢階級別死亡率同様靑年層には或は20乃至30人の割合かも知れない。

疫學的見地より見た百日咳豫防接種についての私見

著者: 額田粲

ページ範囲:P.383 - P.384

1.現行法現6)の批判
 1.百日咳の罹患には一次感染即ち幼兒が直接學校或は近隣の患者より感染する場合と二次的家庭内感染即ち兄弟姉妹等の患者から感染する2通りが存在することは多くの調査1)2)3)から知られているが,例外として所謂過密佳地區に於ては地區全體が一家庭と等便であるため,以上兩者を區別することは甚だ困難であり,又無理に區別してもその意味は殆どないものと思われる。
 歐米の如く産兒數が少ない國々では百日咳の罹患は主として第一次感染による場合が多く,又その高い生活程度から考えても,隔離その他による家庭内の第二次感染の防止は比較的容易に行われるものと考えられる。これに反してわが國においては,その産兒數から考てえも,家庭内感染の場合は非常に多く,且つ一度子供の1人が罹患すれば,その兄弟中の未罹患者は100%罹患し得る状態にあるのである。歐米にくらべ生活水準の低いわが國においては罹患幼兒の隔離等は云うべくして行われ得ない有様であり,侵襲力の點から考えても家庭内感染は第一次感染にくらべ當然比較にならない程強力である。わが國においては1-2歳の幼兒の百日咳による死亡率は甚だしく高率であるが,これらの大きな部分が二次家庭内感染の結果によるものであることは想像にかたくない。

海外文献

産業における男女の缺勤

著者: 田多井

ページ範囲:P.382 - P.382

 US. 公衆衞生局のDr. Gafaferの報告によると,1週間をこえる缺勤回數は,疾病原因により女子が男子より2倍も多い(1940-1949年の10年間平均)。その中でも扁桃腺その他咽喉炎と虫垂炎は凡そ3倍にたつし,さらに神經衰弱とそれに類するもの,腎炎をのぞいた泌尿生殖器病の2者は6倍にたつしている(表1)。かつてテネシー公衆衞生部の著名な統計學者Puffer女史が1944-1947年におこなつた。1日以上の缺動を要する疾病の1人當り年間作業不能日數(表2)からみても女子は男子の約倍休んでいるし,1938-1941年全合衆國の公務員につきおこなわれた調査でも,男子7.09日にたいし女子1066日の數字がでゝいる。かくして産業勞働において,女子を保護する諸手段の必要はいわずもがな,炎症性疾患と神經病の多いことは,職業撰懌とその指導のうえに注意すべき事柄であると同時に,男女の生理機能の差異を研究するうえにも興昧ある足場となるだろう。

公衆衞生學教室めぐり・6

—民衆の爲の具體的方策をとる—群馬大學公衆衞生學教室

ページ範囲:P.385 - P.385

 この教室の歴史は,まだあたちしい。前橋醫專が昭和23年に醫大となつたときにはまだ公衆衞生學教室はなかつた。衞生學教室があつて,柳澤利喜雄博士がこれを主牽していた。がその後公衆衞生學教室が新設され,同博士がこれを擔當することになつた。
 群大醫學部正門をはいると,本部があり,そのうしろに平家建の4棟の基礎醫學の教室がある。公衆衞生學教室は,そのいちばん北側の一棟の大部分を占めている。

統計の頁

1950年の國民結核死亡

著者: 渡邊定

ページ範囲:P.386 - P.389

 1950年の國民結核死亡数は遂に12萬台となり,120,299人を算うるに至つた。人口10萬對にすれば146.8人であって,我國の結核死亡率の判明している1900年以來の最低値である。
 しかして前年の1949年(昭和24年)の人口10萬對の168.8人に比べて14.9の死亡率の低下を示したのである。この14%の結核死亡率の低下率を我國の過去のそれに比較して見ると(表1參照)1947年(昭和22年)の戰爭中の異常に高かつた結核死亡が終戰と共に急に減少した異例の場合を除き1900年以來の最も大きな低下率である。しかも次位を示す減少率は1949年(昭和24年)の6.9%と離れており,その他の年次で5%を示すのは2回に過ぎす,他は何れもこれ以下か又は上昇を示しているのである。さらに,これを1900年以來,低下に次ぐに低下を示した米國の結核死亡低下率に比べて見るに,1919年の世界的流行のインフルエンザに伴う結核死亡の異常増加の直後の16.2%の低下を除き1921年の13.8%以外は類を見ず,逐年の結核死亡低下率は大體10%以下で5%前後が多いことを見でも,1950年の我國の結核死亡率低下の著しいことが知られる。

醫薬随想

ノース・ボストン事件

著者: 松田心一

ページ範囲:P.390 - P.391

 古い話である。今から數えて丁度108年前に起つた珍らしい事件である。
 ニューヨーク州ノースボストンのある村で,僅か6日間のうちに28人の村人が相次いでばたばたと倒れ,そのうちの10人はもろくも命を無くしてしまつた。村は一時に大騒ぎとなつた。村といつても世帯にして9家族,人口にして僅かに43人に過ぎない一寒村で,しかもそのうちの牛數以上の人が一時に倒れたのだから騒ぎの大きさもおよそ想像がつく。

見えざる醜痕

著者: 石館文雄

ページ範囲:P.392 - P.392

 各種産業の職場には,いろいろな粉塵の發生する場所が多い。
 動植物性の粉じんは暫くおくとしても鑛物性や金屬性の粉じんは勞働者の健康を脅かす要素として,依然として産業衞生上の大きな課題となつている。

疫學總論・6

第6講 流行の樣式

著者: 野邊地慶三

ページ範囲:P.393 - P.396

I.生物學的現象
1 年齡關係
(1)年齢別罹患率,死亡率及び致命率
 表8はヂフテリヤの年齡別の罹患率,死亡率及び致命率の對比表であるが,この3率はそれぞれ満2才,1才,および0才年齡階級においてその最頻値を示しておる。ハシカの3率の年齡分布もこれと全く同樣であるが,その他の小兒傳染病も大體同じ様な傾向を示すものである。このやうに小兒傳染病では患者は低年齡階級に集積するので,述者が全國の百日咳喉,ハシカ,ヂフテリヤおよび猖紅熱の4病の満5才未満の死亡者が各病の全死亡數数に對する割合を算出して見たところ,表9の如くであつた。即ちもしこれ等の4病の患者發生を致命率の低い満5才以後に後退させ得るならば,百日咳およびハシカではその犠牲の大部分を,ヂフテリヤでは3/4を,また猖紅熱では1/3を救うことができるわけである。それ故に小兒傳染病對策の1はその罹患年齢を抵抗力の大きい高年齡階級に後退させることにあるのである。
 赤痢の3率も大體ヂフテリヤと同樣であるが,たゞ老年期に入つて再び死亡率と致命率が上昇する差がある。腸チフスは20才前後に罹患率も死亡率も最高となる。結核死亡曲線には5才未満と20才前後と2つの山があるが,第1峰は家族内感染によるものであり,第2峰は義務教育を終り社會に出て,初感染を受けて發病するだめに起る山である。

保健所便り・6

川崎中央保健所

ページ範囲:P.397 - P.398

 京濱線で六郷の鐵橋をわたると,すぐ川崎である。東京をめぐる衞星都市の1つ,お大師樣と工場で知られた町だ。驛前から海にむかつて,二十間道路がまつすぐにのびている。だだつぴうさとがざつな氣配が妙に印象にのこる。建築中の鐵筋ビルが,2つ3つ眼にとまるのが,わずかに工都らしい感じだ。
 驛員に中央保健所をたずねる。さあ,と首をかしげてそこの交番できいて下さいという。交番にきけば,この道路をずつといつた税務署の前がそうでしようとこたえる。はなはだ心もとない。案のごとく,ゆきついた税務署の前にはなかつた。も一度,ゆきずりめ娘さんにたずねると,市役所の中にあるんですとおしえてくれる。市役所などは,とつくのむかしに通りすぎてきていた。

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基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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