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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科10巻13号

1956年12月発行

雑誌目次

特集 トラコーマ

我教室に於けるトラコーマ病原の研究

著者: 藤山英壽

ページ範囲:P.1545 - P.1554

 私がこの仕事に関与し出してから以後のことに就て,家兎睾丸及び孵化鶏卵による累代接種の2つに別けて記述してみたいと思う。

トラコーマ集団治療の実際

著者: 今泉亀撤

ページ範囲:P.1555 - P.1581

Ⅰ.緒言
 従来のトラコーマ治療剤と云えば,硫酸亜鉛,硝酸銀,硫酸銅等である。この限られた薬剤を技巧的にうまく所謂ト手術法と併用して,結膜瘢痕化を最小限度に止めつつ,如何に早くト病変を払拭するかがその医術の優劣を決定したのである。従つて現下に行われているような徹底的な集団治療は望み得なかつた。処が鮫皮による結膜擦過器が出現して以来,ト手術法にある一定の標準が与えられ,集団治療も,不完全乍ら有望になつた。然し,この結膜擦過器による集団治療法も,余りに多くの医員とその労力が要求され,而もその術式如何によつては,軟弱な学童の結膜が過剰に傷けられる点から,学童治療に不向であることは勿論である。そこにスルフアミン剤が登場し,云わば旱天に慈雨の面持で,本剤による簡易な集団治療法が普及したのは当然であつて,従来の方法に比較して,学童集団治療としては方法の安易さと効果の優秀さに於ては確かに驚異的であつた。次で各種薬剤,殊に抗生物質の登場によつて愈々ト治療に希望が持てるようになつたことは周知の通りである。
 一方斯る薬剤の出現によるトの即決撲滅可能の如き安易感と薬剤の乱用による弊害とに対しては充分警戒しなければならないが,少くとも過去に於ては夢としか考えられなかつた単一薬剤の点入によるト治療法が集団治療にとりあげられたことは正しく画期的と云うも過言ではない。

群馬県下のトラコーマについて—第2報 群馬県下学童トラコーマの罹患状態,症状及び家族的関係について〔附〕学童トラコーマの診療に関する2,3の私見

著者: 青木平八 ,   南文子

ページ範囲:P.1582 - P.1589

〔Ⅰ〕まえがき
 先に南が第1報において,昭和26〜28年の3箇年間にわたり青木の検診した,群馬県下小中学校69校の学童42055名を対象として,トラコーマ(以下トと略す)罹患率,校医の検診結果との比較,県下の分布状態,性別及び学年別統計,1箇年間における自然増加率(学外感染率)等を報告した。今回はその後3箇年,即ち昭和29〜31年に新たに検診した学校の罹患率を追加すると共に,前回報告した3箇年間の資料について,症状及び家族関係の調査成績を総括したので,第2報とし諸賢の参考に供したいと思う。

トラコーマの抗生物質療法

著者: 三国政吉

ページ範囲:P.1591 - P.1598

 現在数多存する抗生物質中ある種のものがトラコーマ治療薬として劃期的効果をもたらすものであることに就ては今日も早殆んど異論はないように思う。然しそれら物質のトラコーマに対する効果の優劣や使用方法の細部に就ては必ずしも議論がないとは云われない。こうしたことに関連して私共の教室に於ける成績をもとに以下に多少述べて見たいと思う。
 実験症例はすべて学童トラコーマであつて,治療対象として学童を選んだ理由は,1)多数症例に就て一時に実験が出来て,2)年齢層が一定しているため学校が異なつても病期の分布状態が略略類似していること,3)年齢的に最も従順な時期であるから一定の方針の下に規則正しい治療を行い易いことなどのためであり,従つて得られた成績は,相互の比較に最も好都合であるからである。

トラコーマの生体顕微鏡的観察

著者: 国友昇

ページ範囲:P.1599 - P.1605

1)緒言
 戦後の教室のトラコーマに関する業績を総括して述べる様にと,編輯に当られる中村,中泉両先生から御依頼をうけたので,御主旨に従つて以下述べることにする。
 我々の研究は先ず瞼結膜及び円蓋のト性病変及びパンヌスを,biomikroskrpischに多数観察することによつて,ト性の病変の本態である乳頭,濾胞,混濁,瘢痕及びパンヌスの個々の所見を細かく捉え,且,之等の個女の病変の推移を知ることに向けられた。即ち多数の例を丁寧に観察して,新しいものから陳旧なものへ,軽い変化から重い変化へと順次ならべることによつて,極めて慢性的な経過をとるトの病変の本態を詳しく知ろうとした訳である。

トラコーマ固定毒について

著者: 荒川清二

ページ範囲:P.1607 - P.1622

 トラコーマ(以下トと略称する)ウイルスのマウス接種を試みた人としてはWeiss (1933)がまずあげられる。彼は野口英世先生のBacterium Gr-anulosisを支持した人で,猿に接種を試みた序にやつている。しかしこれは成功しなかつた。その後Julianelle (1937)がト材料をマウス脳に接種して2週間後に之を殺し,その材料を猿の結膜に接種したが,これも成功しなかつた。この際同時に家兎の脳内にも接種したのであつたが,家兎の脳材料では猿に接種して病原性をみとめたという。つまりマウスの感受性は甚だ悲観視されていたわけである。わが国では後藤氏(1941)がSzily(1935)のモルモツト脳内接種に刺戟されてマウスにト材料を接種して組織学的に変化を起すことを見ているが,分離固定などの努力はしていないようである。その後Bralay (1948)が包括体性結膜炎ウイルスをマウスに分離したといつだが,中和試験その他による確認試験は行つていない。Juli-anelleの場合はNicolle (1921)が家兎睾丸にト材料を接種して37日後のものが猿に病原性をもつていたという記載や,名大の大庭教授(1935)がRaynardの因子と共にト材料の睾丸接種を試みたことに刺戟されたかと思われる。

我が教室に於けるトラコーマ研究の回顧と今日の問題

著者: 鈴木宜民

ページ範囲:P.1623 - P.1630

1.緒言
 題目の目標とする処は即ち今日迄吾々の教室からトに就ては各方面に亘つて多くの研究が為されておるが,一応ここで反省し,その変遷を辿り,今日に於けるトの問題と照し台せて,未解決或は疑義とされておる点に就て考察し,併せて今後の吾人の進むべき方向にも希望を持たんとするものである。
 思うにトは人類の歴史以来あると云われておる程古い,即ち上古の印度は勿論,6000年前のエヂプト,降つてギリシヤ或はローマ等の記録にトを取扱つたと思われる証拠がある。そしてその治療法は近世のト治療法に匹敵する程の発達を示していたと思われるのであつて,この事は中国の眼科書に就ても同様であり,14世紀以後の明の眼科には可成りはつきりした記載がある。このように吾吾は眼科史を繙く度毎に,眼疾患に於けるトの重要性とその意義を今更の如く痛感するわけであるが,数千年に亘る人類永年の努力にもかかわらず世界のトの数は殆ど変りがないと云うのが今日の実情ではあるまいか。

トラコーマの手術の基本に就て

著者: 中村康

ページ範囲:P.1631 - P.1636

 トラコーマの病理学的研究からみたトラコーマの手術的療法を述べる場合其基本となるトラコーマの病理を述べて置かねばならない。

長期観察(10年間)によるトラコーマの臨床的並びに疫学的研究

著者: 萩野鉚太郞

ページ範囲:P.1637 - P.1649

緒論
 この研究は,名古屋大学環境医学研究所が,終戦直後の昭和21年4月1日に創設されたのと時を同じくして着手したもので,昭和31年3月31日で満10年を経過した。環境医学研究所の研究部門の中に,地理病理学或は気象医学等が含まれている。さきに筆者が報告した"気象と眼"に関する研究は,上記の研究部門に属するものである。トラコーマについては,前記の地理病理学的研究の一環として,愛知県下における本病の分布を,筆者独りの手で明らかにしてみようとの意図のもとに,本研究所開設と同時に研究を始めた。当時社会のあらゆる面が混乱の最中であり,この新設の研究所においても亦万事不如意で研究費も微々たるものであつた。これから後数年間の研究は文字通り苦難のつづきで,例えば雪の日に山奥の学校の検診に出かけたところ,持参の弁当も凍り,ためにお腹をこわし,以後絶食で働いたことが思い出される。その上この仕事の費用は全部私費でまかなわねばならず,近頃の検診事情からでは想像も許されない難事業であつた。
 その間に数ヵ所では毎年続けて観察する機会が与えられる様になつた。本文で取上げた例は最も長期にわたつて観察し,集団治療も亦数年間つづけたものである。対象とした地区は,名古屋市中川区下之一色町で,今日もなお研究がつづけられている。この一文は,この地区の小・中学校生徒についての満10年間の眼の観察記録である。

トラコーマの免疫

著者: 弓削経一

ページ範囲:P.1650 - P.1657

Ⅰ.緒言
 長年に亘つたトラコーマ(以下トと略す)の臨床観察は,トの性格がアレルギー(以下アと略す)性疾患ではあるまいかと言う推理を私に持たせるに至つた。その後,この様な観点に立つて,トの臨床経過を今一度解析し,更に実験的にトの本態をなす抗元抗体反応の証明に努めて来た。先年,その成果をまとめ,「トア」16)と題して綜説を発表した。当時私は,トのア性々格について,尚充分な根拠を収めるには至つていないが,之を確信すると述べたが,今も尚変る処がないばかりか,一層その信を強めている。
 トが他のヴイールス(以下ヴと略す)性疾患と同様,ア化疾患と考え得る以上,そこに営まれる抗元抗体反応は,一方に於てア性反応を表示すると共に,他方,免疫現象をも表現するに相違ないことは推定に難くない。アと免疫との両者に関する一元論的解釈は,最早今日では常識的であるからである。然しトの免疫現象は,臨床的にこれを明確に捉えようとしても,却々困難である。従来多くの研究者がトには絶対的な免疫は成立しないとして,それ以上には論及していないのも,この辺りに理由があるようである。絶対免疫についてのこの見解には誰も反対しないであろうが,これがうのみにせられて,トには免疫は認められないと,頭からこれを否定してかかる傾向が,今日尚強いようである。確かに,トの免疫の実証は今日不確かではある。然し不確であると言うことは物事の否定には結び付かない。

プ氏小体に関する考察

著者: 浅山亮二

ページ範囲:P.1658 - P.1662

 トラコーマ(以下トラと略す)の病原問題に於いてプロウツエク氏小体(以下プ氏小体と略す)は極めて重要な研究対象として多数の研究がなされて居るが,その本態に関しては種々の論議があり,未だ意見の一致を見て居ない。然し乍ら,トラがウィルス病であろうと云う事はウイルスに特有な諸性状が相次いで実證されて略々認められて居るのであつて,プ氏小体がトラ病原体の集団であろうと言う事も略々確実である。
 一方臨床的の見地より見れば,トラの診断には結膜及び角膜所見と共に結膜上皮擦過標本よりのプ氏小体検出が重要であつて,殊に急性トラの診断に際しては結膜上皮擦過標本に於けるプ氏小体の検索は必須の事項である。即ち急性トラ乃至封入体性結膜炎に於いてプ氏小体は診断的価値を有し,結膜上皮擦過標本にプ氏小体を証明して初めて急性トラ乃至封入体性結膜炎の診断が確定する。然し逆にプ氏小体陽性の所見のみから直ちに急性トラと診断する事は勿論不可であつて,慢性期トラに細菌性結膜炎の重感染を起して恰も急性トラの如き急性炎症々状を呈する場合が少なくない事は云う迄もない。

Trachomaの病原とその治療

著者: 赤木五郞 ,   筒井純

ページ範囲:P.1663 - P.1668

Ⅰ.病原体の研究
 Trachoma (以下Tr)病原体及び治療に関する研究は非常に数が多く,此の限られた紙面にその総てを漏れなく記載する事は困難であるが,過去数年間に及んで私共の教室で行つて来た研究を中心に吾々の考えを述べさせていただきたいと思う。
 Tr病原体に関しては既に1907年Prowazek及びHalberstadtelが細胞包括体を発見し,以後多くの論争はあつたけれど,今日世界の大多数の学者が之をTr病原体と認めている事,及び此の封入体がTr病原体でないと断言出来る確証は何一つ挙つていない事,又私共の研究からも此の包括体を病原と認めて差支ない事実が次々と挙つて来た事等から私共は研究の根本となる病原体はP-H小体であるとする基礎の上に仕事を進めた。

一般住民を対象としたトラコーマ集団治療に就て—福岡市外志賀島に於けるアクロマイシンによるトラコーマ集団治療成績

著者: 田村茂美 ,   生井浩 ,   和田暢夫 ,   谷口慶晃 ,   大野泰治 ,   檜山治男 ,   原敬蔵 ,   後藤伸 ,   広石恂 ,   吉富正常 ,   本庄正信 ,   渡辺達也 ,   荒木誠一 ,   川岡浩 ,   浦田誠康 ,   佐藤徳 ,   篠田菅夫 ,   野中昌文 ,   田原弘 ,   古野秀雄 ,   沖和貴 ,   古賀武 ,   石田知行 ,   湊正太郞 ,   菊野麟太郎

ページ範囲:P.1669 - P.1694

Ⅰ.緒言
 我々九大医学部眼科教室,福岡県衛生部及び福岡県粕屋保健所は西日本新聞民生事業団と共同して,昭和30年8月初旬より,10月末迄の3カ月間に亘り,福岡市に近い福岡県粕屋郡志賀島町志賀島に於て,一般全住民を対象としてトラコーマ集団治療を行い,優秀な成果を収めたのでこゝに報告する。この報告はこの種の重要な参考資料であると信じている。
 此の趣旨は,トラコーマ罹患率の比較的高い地区を選び,同地区内のトラコーマ撲滅を企図したものであつて,単に暫定時な診療所を開設し,トラコーマ患者中の希望者を任意に出頭せしめて,治療を施すという程度のものではなかつたのである。今回の実施地区の志賀島に於ては,町長はじめ,全住民の全面的協力を受けて行われたのである。

泌尿生殖器トラコマーの問題

著者: 大石省三 ,   瀨尾政記

ページ範囲:P.1695 - P.1700

1.緒言
所謂泌尿生殖器トラコーマに関しては眼科のトラコーマ研究者の間でかなり古くから興味を持たれた一つのテーマであり,三井氏が最近発刊の日眼全書トラコーマ編を分担された中にも,一項目をその為にもうけて氏の見解に立脚して論述されている。1)
 偶々大石は満洲に於いてプロワツエク氏小体(以下プ氏小体)の研究を行い,引つづいて帰国後もトラコーマの問題に関心をよせているが,石原教授一門の人々の研究に敬意を表すると共に尚トラコーマの病原体としてプ氏小体で説明し盡さんとする主張には疑義をさしはさんで来た。2)3)4)今泌尿生殖器トラコーマの解明に対しても出来る丈客観的な立場からこれを批判してみたいと思うのであつて,古典的トラコーマと云う言葉で形容し去ろうとする人々の現代的トラコーマ観には多少異つた観点で論旨をすすめることになるかも知れない。この点大方の反論を予期しないでもない。只トラコーマの定義が我国の学界で論議されつつある時代に,一応トラコーマは涙液と密接不離の関係におかれた病原と考える人々の多い中に僅かに一ヵ所涙液と無関係の泌尿生殖器粘膜のみは特殊親和性を有するかどうか,又この部がトラコーマの温床であると仮定すればトラコーマの予防,治療,研究の各方面から極めて重要なことと思われる。従つて未完成ながら最近の小研究に私見を加えて略述し,今後のトラコーマ研究に於ける一分野として考慮する価値を認めるか否かは諸賢の判断に俟ちたい。

最近のトラコーマ観察並びに治療に就いての2〜3の考察

著者: 高安晃 ,   伊佐敷康政

ページ範囲:P.1701 - P.1707

 私共は最近数年間にわたつてトラコーマの診断並びに治療に就いて学童集団検診並びに臨床検診等を通じて二,三の示唆を受けたので一括して私共の考えを述べる。勿論夫々の問題はかなり広範囲にわたるので私共の研究成績を基として各項目に分けて各々その一部に就いて考えてゆきたい。先ず始めにトラコーマをどんなに観察するかということであり次にトラコーマの抗生物質療法に就いての実験成績の検討である。
 即ち 第1章トラコーマの観察に就いての2〜3の問題    第2章 トラコーマの抗生物質療法に就いての最近の検討 以上のように大別されるのであるがその何れも実際的に困難な又厖大な問題であつて,これ等の中には単に私共の現在の考えを述べるに止まるものと若干の研究成績に就いての考え方を共に述べてあることを始めにお断りしたい。

トラコーマ予防法案と日本トラホーム予防協会の任務

著者: 中泉行正

ページ範囲:P.1708 - P.1715

 トラコーマは全人類の恐るべき敵にして,殊に我国に於ける一大国民病で我国民としてこれが予防撲滅に全力を盡さねばならぬことは論ずる迄もない事である。
 世界に於いては仏国マルセイユに国際トラコーマ予防協会(International organization againstTrachoma)が古くより創立せられて,其会誌を季刊を以つて発行してトラコーマに関するよい研究論文を発表している。

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臨牀眼科 第10巻 総索引

ページ範囲:P. - P.

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臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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