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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科10巻4号

1956年04月発行

雑誌目次

特集 第9回日本臨床眼科学会号 〔一般講演〕

(1)生理的視束乳頭陷凹の大きさと年令との関係に就て

著者: 百瀬光子

ページ範囲:P.597 - P.599

 視束乳頭の生理的陥凹に就ての観察は最近Pro-cksch,Funder等に依り発表されているが,私も数年前よりこの観察を行つたので御報告申上げたいと思う。

(2)前眼部側診鏡の考案

著者: 久富良次

ページ範囲:P.600 - P.601

まえがき
 従来眼科の診察で眼を側面から診るという事は特殊の場合以外には余り行われていない。側面から診ることが必要なのは眼球突出度の計測をはじめ,主として眼球の位置の異常(眼球陥没,眼球萎縮)や角膜穹窿の異常(角膜拡張,角膜葡萄腫円錐角膜,扁平角膜)などの場合であつて,一般には患者の顔の側面から診察すれば事足りるのであるが,私は患者に正対した診察位置の儘で前眼部の側面を観察することが出来る簡単な装置を考案し,仮に「前眼部側診鏡」と称して日常の診療に使用しているので,此処に報告して諸賢の御批判御叱正を仰ぎたいと思う。

(3)前毛様静脈圧及び房水静脈圧並びにその眼圧との関運に就いて—第1報正常眼に就いて

著者: 田辺和男

ページ範囲:P.602 - P.607

 近来房水静脈が発見されてからその房水排出路としての機能が重要視され前眼部血管特に前毛様血管の研究が諸外国並に我国に於いて盛になつてきた。外国ではAscher,Goldmann,Weekers etPrijot,Wegner und Intlekofer,Jean-Gallois,Greaves and Perkins,Kleinert等により人眼及び家兎眼の房水静脈の観察が行われた。我国でも岸本,石塚,呉基福氏等により,その正常眼及び緑内障眼に就いての報告がある。又前毛様動静脈は下山,青木,大橋,堀田氏に依つて観察が行われている。
 私は今回正常眼に就いて前毛様静脈及び房水静脈の圧を測定し,且これが眼圧とどの様な関連を有しているかを研究する為に実験を企図した。前毛様静脈圧に就いては,外国ではDuke-Elder,Goldmann,Erick Linner,Carl Rickenbach,Heinrich Werner,Lohlein等により夫々値が出されているが,必ずしも一致した値を示していない。我国ではこの方面に関しては尚文献に乏しく僅に大橋,堀田,伊藤,清水氏等の研究を見るのみである。

(4)シナプトノアに依る斜視の治療

著者: 加藤和男

ページ範囲:P.607 - P.612

緒言
 斜視の原因は一連の視覚反射の異常に基くとされ,その形態的な表現である眼位の異常の根底には両眼視機能の障障,異常が存在することは多くの研究に依り明らかである。今,斜視を治療せんとする場合に,従来のごとくその形態的な症候である眼位の異常を矯正せしめ得たという丈で満足すろ時は,斜視の主要症状である両眼視機能の障碍,異常に対しては何等の処置も行われない事になる。故にその両眼に対応異常があれば複視を生じ,共同固視反射や融像機能に欠ける場合には,眼位の異常が再び現れて来る危険があるのである。そこで,たとえ両眼視機能の自然的な恢復を期待し得ることがあるとしても,斜視の治療のあり方は,当然この眼位異常という形態的な異常の矯正に対するものと,両眼視機能の恢復を計る面所謂機能的治癒に関するものとの両者の総合でなければならない。
 欧米に於ては,第二次大戦中,英国空軍に於て両眼視機能養成の必要から生じたと云われる所謂Orthopticsは戦後斜視患者の両眼視機能に対する治療として新たな立場に立つて益々発展しつゝある。現今欧米各国の大学では,Orthoptic clinicとして独立したシステムを有し,系統的に斜視の機能的治癒を計るべく治療を行つていると聞く1)

(5)斜視の視能矯正成績について

著者: 弓削経一 ,   稲富昭太

ページ範囲:P.613 - P.621

1.視能矯正法の目的と内容
 視能矯正という言葉は,Orthopticsを意味する。視格矯正という言葉を使つていたが,視能矯正の方がよいと思うので,この言葉にかえた。日本ではまだOrthopticsに対する適当な流通語がない。
 斜視の治癒には美容的治癒と機能的治癒とが区別せられる。夫々斜視の症状である所の眼球の偏位と両眼視機能の異常とに対向するものである。前者の治癒は斜視手術によつて,後者の治癒は視能矯正法によつて達せられる。但し,時には斜視手術のみによつて両眼視機能の異常も治る事があり,又逆に視能矯正法によつて眼球偏位も治る事がある。通常は両種治療法の併用によつて斜視の完全治癒がえられる。

(6)網膜色素変性における眼圧血圧日差及び緑内障誘発試験成績

著者: 青木豊

ページ範囲:P.621 - P.626

Ⅰ.はしがき
 緑内障が網膜色素変性の合併症として見られることは,1862年Galezowski1)の第1例発表以来既に諸家の報告によつて明らかにされた通りであるが,その成因として挙げられている血管説,中毒説又は先天異常説等は,いずれも仮説の域を脱せず全面的に首肯することは困難のようである。
 近時眼圧調整因子について,あらゆる観点から再検討され,殊に眼圧調節中枢の問題が間脳特に視床下部附近に向けられて来たが,未だ解明される段階に至つていない。

(7)農村のUlcus serpens corneaの治療に就て

著者: 菅沼朝吉

ページ範囲:P.626 - P.628

 私は昨隼7月札幌の日本農村医学会総会で此報告を致しました。今回は此続きであります。1952年3月より今日迄60例を治療し幸い全例治癒し且良好の視力を保有し得ました。
 御承知の如くSerpensの予後を左右する事は涙管疾患であります。私は見付け次第直ちに涙嚢を摘出しました。此代用方法は不可。

(8)結膜嚢に寄生する抗生物質生産葡萄状球菌に関する研究

著者: 筒井純

ページ範囲:P.628 - P.630

 1952年Harbertは結膜嚢に寄生する細菌中に抗生物質を生産するもののある事,之等の大部分は葡葡状球菌であつて非常に多くの人々が保菌している事を報告した。けれども此の抗生物質の定性並びに臨床的意義にについては未だ研究されていない。私はIowa大学Braley教授の研究室に於いて此の問題の研究を行い若干の結果を得たので同教授の厚意によりここに発表する。

(9) Behcet氏症候群の二症例—附組織学的所見

著者: 佐野正純

ページ範囲:P.630 - P.635

 Behcet氏症候群は,近時陸続と報告されているが,私共もBerhcet氏症候群と思われる2症例を長期に観察する機会を得,その間諸種の検索並に治療を行い,尚その1例では左眼に統発性緑内障を併発したので眼球を摘出し,組織学的検査を行う機会を得たので,薮に報告し聊か卑見を述べたいと思う。

(10)外傷性網膜脱出の一例

著者: 牧内正一 ,   山地良一

ページ範囲:P.635 - P.638

1.はしがき
 網膜の外傷は稀なものではなく,従来多数の記載がなされている。その大部分を占めるものは,鈍体による眼球打撲に際してみられる網膜の病変に就いてであつて,この他,放射線による外傷遠達性網膜損傷,異物,創傷等が報告されているが,網膜の脱出をみた症例は極めて数少い様である。
 私達は最近,外傷性網膜脱出の1例を観察する機会を得たので,茲に報告して,文献を豊かにしたいと思う。

(11)高血圧の血管Rigidityに関する研究

著者: 山本由記雄

ページ範囲:P.638 - P.644

緒言
 先きに私は網膜中心動脈波伝達時間に関する研究を発表し(第50回日眼総会)網膜血管硬化度の大なるものの伝達時間の短縮を認め,血圧との相関は勿論あるも,主体性はむしろ血管壁にあろうと指摘したが,その血管壁,特に網膜中心動脈の血管壁のRigidityに関しての研究は,Fritz,Ro-llet magitot Coppez,Dubar u.Lamacheの諸氏,本邦では,長谷部,塚田の両氏の報告があつた。しかし,これらは,Bailliart氏眼底血圧計による血管搏動開始時と律動的な搏動発現時との加圧差(gr数)で,それを所謂,網膜中心動脈壁弾性或いは緊張度の測定としたのである。Bailliart氏眼底血圧計の不信度は吾人の認める所であつて本現象の肉眼的把握の不正確性と相俟つて誤差の大なるものと考えられる。幸いに,植村式の電気眼底血圧計はこの種研究に便宜をもたらし,脈波面積変化率による血管壁Rigidityの計測が可能となつた。本研究は,川嶋氏,大岡—大神氏が行つておられるが,両者を合計しても統計的処理には少きにすぎるし,又,何れも一負荷のRigidityについてであり,これは単に眼底変化の度に従つてRigidityが増加すると云つた従来の通念から出ていない。これは血管壁硬化えの過程の真相を把握したとは思えない。私はかかる目的の下に本研究を行い,新知見を得たので報告する。

(12)慢性トラコーマの血清蛋白像よりみたる免疫の問題

著者: 武本吉浩

ページ範囲:P.645 - P.648

緒言
 トラコーマは先般W.H.O.国際トラコロマ専門委員会において1)「トラコーマとは特種な伝染性角結膜炎であつて,常に慢性に始まり,現在クロミドツオア,トラコマテイスと分類される病原体に原因し,濾胞の形成,乳頭の増殖,角膜パンヌスの発生を特徴とし特に瘢痕の形成を伴うことのある疾患である。」と一応定義されており,従来もウイールス感染症と考えられておることから,トラコーマについての免疫の問題は古くから,研究が行はれているが,一般的にトラコーマの恢復はあとにimmunitasを残さず,再感染がしばしば見られると考えられておる。血清学的な研究はあまり進んでいない。
 今日の免疫学は,抗体の化学的本性として一般に抗体は修飾された血清グロブリンであると理解し,特に抗体はγグロブリン分劃に多く集ることも知られておる。又,最近,Tiseliusの電気泳動法の発見によつて,血清蛋白分劃が正確且つ容易に出来るやうになり,眼科領域においてもトラコーマに関する報告が見られるに至つた。

(13)緑内障に関する研究 第七篇—Diamoxの静脈注射,結膜下注射,点眼の緑内障眼に及ぼす影響について

著者: 湖崎弘 ,   武田眞 ,   満田博年 ,   横田栄子 ,   三村康男 ,   中谷一

ページ範囲:P.649 - P.655

Ⅰ.序論
 炭酸脱水酵素阻害剤Diamox (2-Acetylamino-1,3,4-Thiadiazole-5-Sulfonamide)が,緑内障眼対にして著しい眼圧下降作用があることは,最初にBecker1)によつて報告され,其の後Breinin&Gortz2),Grant&Trotter3),Kleinest等の報告がある。我が国に於ても著者等4)は数回に亘り報告したが,池田氏,小島氏,生井氏等の報告もあり,Diamoxの治療価値は殆んど確立された感がある。
 併しながらその投与法は,主として内服であり一部静脈注射が行われているに過ぎない。殊に我が国に於ては製剤を外国より輸入する関係上,内服にのみ限られている現状である。特に結膜下注射,点眼に関しては外国でも報告は極めて少く,結膜下注射に関してはH.Green5)氏(1955),R.H.Foss氏6)(1955)は何れも家兎眼について共に眼圧に認むべき影響のないことを述べている。又点眼に関してはG.M.Breinin氏2)(1954)の文献があるも論文の一部を割愛しているだけで,やはり期待すべき効果のないことを報告している。又R.H.Ross氏6)(1955)の成績では同様に効果が無いと言う結果を出している。

(14)網膜の感電性を基礎とした新試視力表の研究補遺

著者: 萩野鉚太郞 ,   那須晃

ページ範囲:P.657 - P.662

 今日日本の眼科医によつて利用されている各種の視標について,我々は現在まで種々の実験を行つた。
 Landolt環では,各段階の視標の大きさの変化に伴つて,感電性の変化値もそれぞれの値をとつてきれいな段階性を示した。然もこの場合感電性が,網膜殊に錐体系の機能を示すものであるから,感電性値で示されたLandolt環の順位は,網膜機能の順位を意味するものである。同様の結果を井上氏鉤,山森氏の6.6環,山路氏の魚形視標(F視標とよんでいる)についても認めた。之に反して文字視標に於ける感電性の値は,大視標と小視標との間には差を認めるが,その中間の値は甚だ不規則で,文字の大さを示すdecimal notationと感電性とは一致しないものが多い。

(15)興味ある組織像を示した眼窩腫瘍の一例

著者: 村田博

ページ範囲:P.663 - P.666

 細網内皮系統の腫瘍については1928年Oberlingが初めてReticulosarcomなる言葉を使用し,Rossle及びRouletは本系統の細胞を細網細胞と内皮細胞に区別し,前者をEndothelに対比せしめる意味でRetothelと呼び,之に由来するものをRetothelsarcomと命名した。其の後本系統に関する研究は蹠をついで現れ,de.Oliveira,Verhagen,Robb-Smith等の研究があり,我国でも長与,緒方,赤崎等の研究をはじめ眼科領域に於ては藤井,田川,田坂,高橋,中島等,最近では倉富により報告されている。又,所謂細網腫については最初Komockiによつて記載され我国では吉田の報告例もあるが,赤崎は本腫瘍が理論的には存在し得るが実在するか否かについては慎重を要すると述べている。最近私は細網肉腫と呼ぶには余りにも経過が長く臨床像も組織像もずつと良性の感じのする,又,炎症と呼ぶにもふさわしくない,興味ある眼窩腫瘍の1例に接したので茲に報告する。

(16) Temporal Arteritisの一例

著者: 三国政吉 ,   小川一郎

ページ範囲:P.666 - P.671

 本症は比較的稀な疾患で,Harrison(1948)によればHutchinson(1890),Schmidt(1930),Horton(1932)等の発表以来75例の記載がある。米英からの報告が主であるが,最近独逸でもFrangenheim(1951),Mehmel (1954)等の記載が見られる。吾国では未だ記載のない疾患である。本症はHorton,Magath,並にBrown(1932)により側頭動脈炎Temporal Arteritisと命名された疾患であるが,其後Kilbourne並にWolff(1946)により脳並に網膜血管も屡々侵されることから頭蓋動脈炎Cranial Arteritisなる名称が提唱されている。然しこれら動脈に限らず大動脈以下多くの弾力線維性大筋肉性動脈も侵されることから上記の名称は不適当と云う学者もある。尚Gilmour (1941)は中膜に巨細胞を伴う肉芽腫の見られるのが組織学的特徴であると云う理由から巨細胞性動脈炎Giant-Cell Arteritisなる名称を提唱しているが,臨床的にはその症状をよく象徴するTemporal Arteritisなる名称に矢張り捨て難い味があるので,私共はこゝに敢えてこの名称を踏襲したものである。

(17)眼鏡レンズのプリズム効果に就いて

著者: 大島祐之 ,   牧治

ページ範囲:P.671 - P.675

 レンズのプリズム効果は像の歪曲を起すが,眼鏡の場合そのプリズム効果は不等像視と共に不同視眼矯正時に起る眼精疲労の主因とされ,又レンズの偏心による斜位の治療に応用されている。従来これは近似式で取扱われているので,私共は詳しく数式的に検討した所興味ある事実を見た。

(18)詐盲の研究—(その1)詐盲発見の新考察

著者: 楢崎嗣郎

ページ範囲:P.675 - P.679

I.緒言
 著者が東京労災病院で過去1ヵ年間労災患者の障碍等級の認定を行つて痛感したことは,1)詐盲患者が非常に多いこと。しかも大多数の眼科医が詐盲に無関心であること。しかしこのことは外傷眼の予後を正確に知るためにも,或は又障害等級の正確な査定をする上からも非常に重要なことと思われる。2)従来の詐盲検査法は0.1以下の視力を訴える様な高度の視力障害には余り成績がよくなかつた。しかし著者の病院の様な所では成る可く真の視力を出さねばならないので,この点今迄非常な困難に遭遇していた。3)従来の詐者検査法は一貫したデーターを基礎とした系統的分類及びそれらの優劣を討したものがなかつた。そこで患者は偏光フイルターを応用して新しい詐盲検査法を考案し,従来のものよりも優れた成績を得たので発表する。さらにこの偏光フィルター法(以後偏光法と略称する)をも含め,従来の詐旨検査法の中から適当なものを5種含めて,3)の目的のために,ここでは0.1以下の高度の視力障害を訴えるものと,0.1以上0.6以下の視力障害を訴えるものに分けて,各々の検査法の成績を比較検討した。そうして0.1以下の場台は何れの方法が有効であり,0.1以上の場合には何れの方法が好いかを系統立ててみた。
 尚今度は主として眼科の所見,症状のみを主として判定したので,外傷性神経症或は外傷性ヒステリーをも含めた広義の詐盲を対称にした。

(19)先天性鎌状網膜剥離に急性脈絡膜炎を起した例

著者: 米村大蔵 ,   青木辰夫

ページ範囲:P.681 - P.684

 先天性鎌状網膜剥離Ablatio falciformis con-genita (Weve1)2))或はCongenital retinal fold(Mann3))については現在迄数10例報告されている4)−8)。私は最近本症に急性脈絡膜炎を合併した2例に相次で遭遇した。この様な例の報告は極めて少いので述べてみたい。

(20)連続調節持続時間測定法による凝視時間の基礎的研究—第Ⅰ篇 凝視時間と視標距離,照度,視標の大きさ,視標の色彩の変化について/第Ⅱ篇 凝視時間と対比

著者: 岡田昌三

ページ範囲:P.685 - P.691

1.緒言
 先に水川,高木氏により連続調節持続時間測定法(水川・高木氏凝視法)が考案され,個体の内的環境或は疲労度と言つたものを表現する一つの尺度として有用ではないかと述べられたが,私は其の基礎的研究として,1,視標距離,2,照度3,視標の大きさ,4,視標の色彩の各々の変化に対応して,連続調節持続時間が如何に変化するかを調べ,興味ある成績を得たので,此処に報告する。
 (以下連続調節持続時間測定法を簡単に凝視法,その時間を凝視時間と記す)。

(21)コーチゾン点眼により惹起されたと思われる角膜膿瘍及び角膜穿孔の二例

著者: 小口昌美 ,   吉永幸子

ページ範囲:P.693 - P.695

 コーチゾンは最近臨床上相当に頻繁に使用されるに至つたのは周知の如くである。殊に眼科領域に於ては局所使用が有効である点から可成り多くの疾患に之を使用する傾向が多い。併しながら最近はその適用が全身的であれ,又局所的であれ使用上の禁忌が次第に明かになつて来た。全身的適用に於ては高血圧,腎臓疾患,糖尿病,結核及び梅毒等には禁忌か,或はその副作用を考慮しながら用いねばならないとされている。眼局所使用に於てもその副作用或は障碍に就て近来多数の報告がなされるに至つた。之の事実は眼疾患に対するコーチゾンの適用が未だ確定しないためもあるが,濫用の傾向はないであろうか。従来コーチゾンは細胞浸潤と線維素形成を抑制するとされている。此事実を無視して濫用する場合は思わぬ障碍に遭遇することがあるであろう。余等は最近コーチゾンの局所使用により惹起されたと思われる角膜膿瘍及び角膜穿孔の2例を経験したので之を報告し,参考に供し度いと思う。

(22)網膜対応異常について(抄録)

著者: 原田政美

ページ範囲:P.695 - P.696

 斜視の治療に於て,網膜対応が正常ならば,比較的容易に両眼視機能を恢復することが出来る。然し乍ら対応関係が異常の場合は,両眼視機能の恢復を望めないことが極めて多い。然も対応異常の斜視患者は,少数例外的に存在するのではなくて,一眼視力不良の為,到底両眼視機能の恢復を望めない者を除外した斜視患者の,大多数を占めるものである。従つて,対応異常は斜視に於ける研究課題の最重点となるべさものであり,対応関係を無視した斜視の研究はあり得ないものと考える。然し乍ら我が国に於ける此の分野の研究は,僅かに稲葉六郎,本多得二両氏の,手術の予後に関するものだけである。
 従来,網膜対応異常は眼位の異常に対する後天的適応として発生するものと考えられている。私は,対応異常を有する斜視に関する症例経験,機能検査,統計的観察等から,対応異常の後天的適応説に,多くの矛盾があることを認めた。Adler及びJackson (1947)は,「眼位の異常と,対応の異常どどちらが先か?」との疑問を投げかけているが,私も後天適応説よりは寧ろ,対応異常が先ず存在し,次で之が原因となつて眼位の異常が起り,斜視となるものではないかと,疑うに至つた。

(23)諸種眼疾患に於ける尾動脈糸毬摘出に因るCholinesteraseの変動と臨床所見との関係—網膜色素変性症に於ける尾動脈糸毬摘出に因る人血球Cholinesteraseの変動と臨床所見との関係に就て

著者: 坂上道夫

ページ範囲:P.697 - P.703

緒論
 私は網膜色素変性症に対する尾動脈系毬摘出の効果を解明する一端として,第1報に於いて血漿中Cholinesterase (以下ChEと略す)について検索し報告した。併しChEには特異的ChEと非特異的ChEとが存在し,前者は神経,筋肉,赤血球に存し,後者は肝臓,膵臓,腎臓等に存し,人血漿中のChEは非特異的ChEであることに言及した。従つて生体内Acetylcholin似下AChと略す)代謝に関係するChEとして組織中の特異的ChEを検索する必要性を論じた。私は特異的chEとして血球(厳密には血球膜に結合するといわれている)。ChEを対象として研究することに着目,,網膜色素変性症患者の血球成分を分離しそのAChに対する活性について検索し,又尾動脈系毬摘出術後経過を追つて臨床変化と共に,活性値の推移について測定観察を行ったのである。又研究に先立ち,血球ChEの特異性について観察を試みた。

(24)失明の統計に就て

著者: 大山信郞

ページ範囲:P.703 - P.707

 1950年ロンドンの策16回国際会議に,アメリカ合衆国及びカナダに於て採用せられて来た失明分類が,アメリカ失明防止協会から国際基準案として提出せられ,該案はロンドン国際会議を経て修正されたのである。先般その失明原因分類基準が,日本眼衛生協会によつて紹介された。その際桐沢教授はそれを我国に応用するには,実際的の分類項目に就て,国情に照して多少の訂正が必要かと思われるので,出来れば眼科学会その他の専門委員の会議によつて,更に検討の上決定採用せらるべきものであろうと述べて居られる。私は現在盲学校に関係を有するものとして,一日も早く我国に統一した基準の出来ることを念願するものであるので,失明調査を改めて始めてみた。失明原因分類基準を検討するには,勿論失明が各年令により異なり又調査の対象にもよるから,広汎な調査を必要とするとは思われるが,此処には関東地区盲学校児童796名(昭和28年)について調査票を集計するに当り,考えた事共を述べ参考に致し度いと思うのである。同時に今回の国際基準と,アメリカにて以前採用していたものとを比較してみるのも,基準を検討する上に無駄ではないと考えるので,先ず之について述べることにする。

(25)スチルリング氏仮性同色表の色彩論的検討並に臨床成績に就て

著者: 清水金郞

ページ範囲:P.707 - P.717

緒言
 スチルリング氏仮性同色表は1876年に氏の著書Beitrage zu der Lehre von den Farbenempfi-ndungenに附属せしめた1つの表から始まり以後漸次改良され1889年10個の表から成るStillingsPseudoisochromatische Tafeln (I Auflage)を出版し此処に仮性同色表としての体裁を整えた。以来第15版に於てはWeilに依り,第16版からはHertelに依つて改良が加えられた。尚第18版以後に於ては健常者と異常者とでは読みが異なる表,Engelkingに依る青黄色覚異常者を検出する表及びBrucknerの感色能の異常を検出する表が附加される様になつた。
 此の仮性同色表は今日まで各版に就て種々検討されて来たが,今回私はスチルリング氏仮性同色表第19版に就てPittの赤緑色盲に対する混同色理論及び教室の関氏の青黄色盲に対するそれに基き色彩論的に検討し,併せて臨床成績に就て報告する次第である。

(26)近視,遠視手術の家兎実験

著者: 渡辺政信 ,   大橋克彦

ページ範囲:P.717 - P.721

1.緒言
 近視手術は高度近視にFukala氏手術が行われたが,以来近年に至る近視に対する効果的治療法はなく,佐藤教授による角膜表裏面切開手術,並にLindner氏鞏膜短縮手術による近視手術が最近に至り近視治療として活溌なる動きを示す様になつた。
 私達は先に,自家考按の乱視量定針に依る乱視量定手術を,交通医学,並に,眼科臨床に発表した。更に今回は,環状凝固針(鋼鉄製)並に,放射状凝固針(サンプラ製)に依り家兎角膜表面より凝固を行い近視手術の量定実験を行い,又,球結膜下より鞏膜赤道部に網膜剥離用凝固針で無数の凝固を行い近視化を得たので報告する。

(27) Neo-Synesinの眼に及ぼす影響に就いて

著者: 山地良一 ,   小山田和夫 ,   松本喬久

ページ範囲:P.723 - P.727

緒言
 ネオシネジン(興和)が散瞳剤として種々な長所を有している事は,既に桑原,宮崎,戸松の諸氏によつて報告されている。
 即ち,桑原氏等は人眼に於いて,瞳孔径及び眼圧に対する影響に就いて実験し,宮崎氏等は瞳孔径,眼圧,近点距離に及ぼす作用に就いて実験している。以上の実験は点眼によるネオシネジンの作用に就いてであるが,戸松氏は点限の他,球結膜下注射をも行い,瞳孔径,眼圧及び眼底血圧に対する作用をみている。

(28)反覆性前房蓄膿を伴つたアレルギー性葡萄膜炎に就て

著者: 千種正輝 ,   鈴木弘基

ページ範囲:P.729 - P.731

 反覆性前房蓄膿性虹彩炎に就いては,今日迄数多くの報告に接し,又その成因に就いても種々の考察が行われている。特にその中で結核アレルギー説と敗血症説が主なるものである。
 今回私共は28歳の男子の浴用石鹸によつて増悪した反覆性前房蓄膿性葡萄膜炎の経過を細隙燈顕微鏡並びに眼底検査及びその他の諸種の検査を以て観察し,結局浴用石鹸による所謂Arthus型のアレルギー性滲出性炎症像を示したものであり,従来の報告と趣を梢々異にするので茲にその症例を報告する。

(29)私がはじめ軽症慢性軸性視束炎と診ていた症候群の周辺視野に検出される疲労現象に就て(抄録)

著者: 大島勇一

ページ範囲:P.731 - P.734

 中心視野に疲労現象が検出されるとして,私が今年の始から報告して居る症候群の,その周辺視野にも亦疲労現象が検出されることを知つたので,それに就て報告する。
 実験症例は,いずれもその中心視野に,私が疲労現象を検出した所謂軽症慢軸炎と私が診ていたものである。

(30)前房水のMiddlebrook-Dubos反応の臨床的な判断について

著者: 加藤格 ,   氏原弘

ページ範囲:P.734 - P.737

 Behcet氏症候群を以て代表される所謂muco-cutane-ous-ocular syndromeの葡萄膜炎乃至虹彩炎は結核菌によるものか,葡萄状球菌その他の化膿菌によるものか,或はまた特定のvirusによるものか,未だ確立された説はない。若し結核菌による葡萄膜炎が,明確に他の原因によるものから判別出来る様になれば,Behcet氏症候群の場合の葡萄膜炎もその本態がやゝ明らかになるに相違ない。
 1948年,G.Middlebrook, R.J.Dubosが発表した乾燥結核菌の水溶性抽出稀釈液にて感作された緬羊赤血球が結核感染の家兎及び人間血清と特異的に凝集する反応はMiddlebrook-Dubos反応として我国に於ても多くの実験的,臨床的な報告が出て居る。眼科領域でも佐野氏(1952),清沢氏(1953),新津氏(1954)等が前房水を以つて本反応を行い,何れも結核性虹彩炎等の診断には,極めて有力な方法であると述べて居る。

(31)緑内障に関する研究 第八篇—諸種薬物の前房内注入時の眼庄変動に就いて(Ⅰ)(抄録)

著者: 衣笠治兵衞 ,   湖崎弘 ,   東郁郞

ページ範囲:P.737 - P.737

 房水の生成,流出の機転に関しては,古来種々なる方面から研究されて来たのでありますが,緑内障の場合どうして眼圧が上昇するかと云う事に対しては,未だ確定した結論に到達しているとは云い難い状態であります。
 私共は,白色家兎を全身麻酔下で,その前房内に種々なる物質を注入する事により,そこに表われた眼圧の変動をマノメトリツクに測定して,これが解明の端著を程んと試みたのであります。今回は空気,酸素,炭酸ガス,蒸溜水,炭酸ガス飽和液,重炭酸ソーダー溶液を前房内に注入して,同時に炭酸脱水酵素阻害剤ダイアモツクスの静注を併用して,これ等眼圧変動の相互の関係を追求し,些か見るべき所見を得ましたのでこゝに報告しようと思います。

(32)血清蛋白像より見た眼皮膚粘膜症候群(続報)

著者: 小林淸房

ページ範囲:P.738 - P.742

緒言
 皮膚・粘膜の発疹又は潰瘍に関連して諸種の眼症状を発現する疾患としては,既に前世紀以来数多くの症候群が知られ,その臨床所見に就ての報告は枚挙に遑ない。最近Franceschetti等1)は之を"Mucocutaneo-oculare Syndrome"の名の下に総括した。在来の多くの人名を冠せられた症候群は各々に特徴的病像を有してはいるが,其の間に必ずしも明確な境界を附し得ず又その不全型も多いと思われる。私は10数例の再発性虹彩炎乃至葡萄膜炎に於いて屡々アフタ性口内炎,結節性紅斑,リウマチス,注射針痕其他の創傷の化膿傾向を伴い,2,3症例に於ては更に陰部潰瘍を伴つて典型的なBehget症候群を発現するのを観察した。一般に虹彩炎患者に於てアフタ性口内炎,結節性紅斑,リウマチス様疼痛等を伴う事の多い事は既に鹿野氏4)も指摘したところである。
 飜つてかかる眼皮膚粘膜症候群特にBehget症候群の成因に関しても甚だ多数の見解が発表され主として化膿菌,結核菌乃至そのアレルギー,非特異性過敏症,病巣感染等が多くの人の提唱するところであり,一方N.Sezer2)は本症の病原体としてのウイールスを分離したと報じている。然し病原体の問題はしばらく措き,本症の複燐なる病像は単なる感染症の概念を以つては充分に説明し得ないとなし,2次的にアレルギーが加わつてかかる臨床像を発現すると言う説1)も充分に考えられるところである。

(33)アメナバーの水晶体全摘出術

著者: 佐藤勉 ,   大石省三

ページ範囲:P.742 - P.742

 原著は眼臨近刊に発表。
〔質問〕
 本法に年齢を考慮されるや,術後瞳孔の上方に偏位することがないか.

(36)矯正視力スクリーニングの解説とその成績

著者: 井上正澄

ページ範囲:P.747 - P.752

1 スクリーニングの特長
 矯正視力スクリーニングという言葉は耳新らしく聞えるが,実は矯正視力検査を順序よく行う事である。スクリーニングの特長としては他覚的屈折検査の大部分を看護婦や助手が行う事が出来るし,見落しが少いので確実な検査を期待する事が出来る。
 矯正視力検査は日常の眼科診断のうちで一番先に行われる大切な検査である。しかし手間どるため患者が混雑している時にはこの検査は後廻しになり易く,患者が失望する事が少くない。

(37)白内障手術の鞏角膜縫合に就て

著者: 須田信濃夫

ページ範囲:P.753 - P.753

 白内障の手術は最近非常に発達したが,その主なるものは鞏角膜縫合にある。鞏角膜縫合は日本に於ては終戦後発達したが,外国に於ても1936年に私が欧米の各大学の眼科を見学した時は未だ一般には鞏角膜の縫合は行われては居なかつた。只僅かVerhoeffその他少数の人々が行つて居ると云う話は聞いたが遂に見る機会を得なかつた。
 鞏角膜縫合は大別して前置縫合と後置縫合とがあるが今では前置縫合を用いる人の方が著しく多い様である。前置縫合にも数多くの方法があり,そのいつれが一番良いかは一概に云えないが,之を更に大別して二通りの方法がある。第1はb図の如く創口に平行に針を通して縫う方法であり,第2はc図の如く創口に直角に即ち放射状に針を通して縫う方法である。第1の方法はLiegard及びStallardの方法であり,第2にはVerhoeff,Tract,McLean,井上,Lancaster,Roper等色々の方法がある。

(38)再び眼筋無力症に就て

著者: 田野辺富蔵

ページ範囲:P.754 - P.757

 余は昭和7年より同10年にかけ,東大眼科を訪れた所の,従来なら慢性進行性外眼筋麻痺症と診断さるべき,又実際に慢性進行性外眼筋麻痺症という診断の元に紹介された14名の患者,即ちすべて幼少年の時期に発病し,慢性に外眼筋を侵して来,上眼瞼下垂,眼球運動障碍を来すが,内眼筋には異状無く,眼部を除いた身体筋には全然運動障碍を来たさないという独得の症状を見うるものを観察して居た所,此の症状は疲労により著しく増悪する。反対に閉目休息せしむれば著しく恢復,一時的乍ら殆んど治つた様になるという非常に変つた性質のあることを注目,此の目の眼瞼下垂とか,眼球運動障碍は,真正の麻痺でなくて,眼筋の筋無力症であると主張,慢性進行性外眼筋麻痺症というのは妥当でなく,その代りに眼筋無力症Myasthenia ocularisとしたら如何かと提議したのである。之に対し其の当座,しばらくの間真向からの反対もあり,牛ば肯定,牛ば否定の立場をとられたものもあり,之等の論に対し余は,真の解決は10年,20年と沢山の症例を集め,忠実に観察し,其の結果を綜合して始めて達せられるものであると述べておいたのである。今やその言葉通り20年以上の歳月が流れたので,本眼筋無力症問題の火付役であつた余に,一応此処である程度のしめくゝりをつけさせて頂き,更に諸家の御研究,御教示を得乍ら,将来の真の解決の道に進んで行きたいと念願するものである。

(39)急性アレルギー性結膜炎の抗原調査

著者: 山崎敬行 ,   徳田正喜

ページ範囲:P.757 - P.761

 薬物による眼局所の過敏症はその抗原が比較的容易に証明される事から,多種のものが挙げられている。即ちアトロピンカタル,パラフエニーレンヂアミンに依る白髪染眼炎を始めとして,ピロカルピン,オキシシアン水銀,コカイン,ヂオニン等にも過敏症があり,之等はアレルギー性の疾患と見做されている。
 戦後は各種の抗生物質,或いはスルフアミン系統の点眼薬が広く一般に市販され,又診療等に好んで使用されるに至り,之等の薬剤或いはその基剤に対するアレルギー性結膜炎乃至は眼瞼炎が急激に増加している。

(40)外眼筋に対する表面電極の応用

著者: 百瀨博文 ,   久保木欽也 ,   鴨打俊彦

ページ範囲:P.762 - P.766

1.緒言
 外眼筋の筋電図の導出は,前腕筋に硫酸亜鉛電極を適用したPiper1)(1912)に倣つて,P.Ho-ffman2)(1913)が一種の表面電極を家兎外眼筋に応用したのが最初であるが,その後研究は殆どすゝまなかつた。
 しかし,1952年以来,正常な人外眼筋の筋電図がBjork,久保木3),その他によりかなり詳細に研究され,又病的状態に於けるそれも,鴨打4),その他により研究がつゞけられている。然し乍らこれらはいずれも針電極によるものであつて,表面電極による人外眼筋の研究は全く行われていない。針電極による研究がすゝめられるに従い,我々は表面電極を眼筋の研究領域に導入しようと思い立つた。

(41)緑内障に関する研究(第九篇)—緑内障患者血清中のコリンに就て

著者: 衣笠治兵衞 ,   宇山史郞 ,   三村康男

ページ範囲:P.766 - P.768

 緑内障はその背後に,植物神経系の立場から眺めた場合,交感神経緊張状態を示す血管神経症の存在することは,従来から多くの研究者によつて種々の面から支持されて来たのであるが,直接これを実証したと考えられる実験成績は甚々少いように思われる。
 交感神経緊張症は,交感神経と副交感神経の緊張状態の平衡破綻に基くものであるから,アセチルコリンとアドレナリンとの量的な関係が重要な役割を持つであろうと云う事は述べる迄もないと思われる。ところが,生体内のアセチルコリンとコリンとは,コリンエステラーゼの存在下に於ても,極めて安定した比率を保つているが,これは主として両者間の化学平衡によるものである事も最近立証せられた。従つて緑内障患者血液中の総コリンとアドレナリンとの量的比率を知ることによつて,本疾患に血管神経症の存在することを立証する極めて有力な手懸りが得られるものと考えそれ等物質の定量を計画し,先ず緑内障患者血清中の総コリン量を測定して,これを健常者のそれと比較し,いさゝか興味ある知見を得たので,こゝに報告しようと思う。

(42)頸動脈注射—眼及脳の血管痙攣—人工癲癇様発作癲癇の本態について

著者: 清水新一

ページ範囲:P.769 - P.773

 電解質で食塩の様に単塩基酸の塩とか,硫酸マグネシウムの様に多塩基酸の塩といつた中性アルカリ性塩でも葡萄糖の様に非電解質であつても,此等の晶質水溶液を頸動脈に注射した場合は勿論,溜水を頸動脈に注射した場合でも,注射中から注射後暫くの間——例へば犬や猫では対班1乃至5竓を37℃に温めて1分間に5竓位の速度で注射すると約10分間——眼部や脳の血管特に動脈が狭小するのを,臨床的にも解剖的にも確めて昭和19年に報告した。其後生体で諸種の薬物や造影剤を頸動脈に注射しても大体同様な事が認められる事は屡次報告した通りである。
 私共が日常臨床で頸動脈に注射している量は20竓内外で,此を速い時は約3秒,遅い時は約1分かかつて注射しているが,通常は10秒内外である。すると此の注射中から注射後は極短時間,大抵は1分内外であるが,注射側の顔半面や眼部が多少共蒼白になる。其後同側部は他側部と鮮明な境界を画いて発赤して来るのがよく見られる。特に,カルシウム剤,撒曹剤,硫麻,ピラセトン,高張糖では此が著明に見られ,尚注射中熱感を訴える者が多い。然し此の所見は同じ薬液でも温度や注射速度等によつて差があり,又同一溶質でも滲透圧濃度で差があり,高張又は低張になればなる程著しいのが常である。

(43)シーソー眼振の二症例

著者: 後藤伸

ページ範囲:P.773 - P.777

I.緒言
 詳細な眼科教科書や,眼振の綜説にはシーソー眼振に就いて必ず若干の記載がある。併し実際に本症例の報告は甚だ稀で,著者の調べた範囲内では現在までにE.E.Maddox氏(1914)1)とC.W.Rucker氏(1946)2)の各1例があるに過ぎない。
 著者は最近本症の2症例を経験したので,これを報告すると共に文献上の2例を加えて比較検討してみたい。

(48) Adaptinolの使用経験

著者: 植村操 ,   植村恭夫 ,   石川明 ,   石川仁

ページ範囲:P.778 - P.787

 今次大戦中に於て夜間視力の増強問題は夙に注目せられ,その研究も各国に於て種々考究せられた。この問題は取分け戦時中に限らず,平和時代に於ても,視力の問題と相俟つて,充分研究せらるべき問題であり,重要な課題である。我々はたまたま,独逸に於て第二次大戦中夜間視力増強の目的で研究せられたHelenienを主体とするAda-ptinolの提供を受けたので暗順応を障碍せられた眼疾患13例に臨床的に試みその効果を検討した。遠隔成績等に就いては未だ観察中であるので続報として報告する予定である。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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