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雑誌目次

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臨床眼科11巻13号

1957年12月発行

雑誌目次

特集 トラコーマ 報告

トラコーマ研究班報告

著者: 桐沢長徳

ページ範囲:P.1511 - P.1514

 文部省科学研究費による総合研究「トラコーマ研究班」は昭和31年4月に結成され,現在に及んでいるが,その概略を報告し,昨年度(31年度)の研究成果を略述することとする。
 本班はさきに故日本医大教授中村康氏が世話人となつて作られた非公式のトラコーマ研究班を前身として発足したもので,正式には昭和31年6月に文部省科学研究費の配分が決定するに及んで成立したのである。研究班としては最初は当時の伝研所長,長谷川秀治氏が予定されていたが,同氏の辞退により中村康氏が当ることになり,第1回研究協議会は6月2日,東京に於て開催された。本研究班の当初の目的としては日本に於けるトラコーマを綜合的に研究することであるが,文部省の要望により,特に必要な問題にフオーカスを絞ることとなり,差当りトラコーマの新しい診断基準を「病原体の探索」,「血清学的諸反応」,「混合感染を中心とした細菌学的研究」,「細隙燈顕微鏡所見」,「病理組織学」,「治療学」,「疫学」等の諸方面から綜合的に研究し,全国の基礎ならびに臨床諸学者中から特にトラコーマに研究熱意を有するものを選んで共同研究を行い,上記の目的を達成しようということになつた。その結果,研究班員及びテーマは次の如き構成に決した。

トラコーマ新分類法のできあがるまで

著者: 青木平八

ページ範囲:P.1518 - P.1524

I.まえがき
 昭和31年春中村康教授の斡旋で,文部省科学研究費によるトラコーマ(以下トと略す)研究班が組織され,具体的な活動方針がいろいろ決められたが,わが国内におけるト分類法の統一と診断基準の設定が,その最主も重要な課題の1つとしてとりあげられた。そしてこれ等の草案を作る小委員とレて,桐沢,弓削,国友,赤木の諸教授と私が選ばれ,不肖私が委員長としてその連絡係を引き受けることになつた。桐沢,弓削,赤木諸教授は多忙の中を遠路幾度も東京まで足を運び,お互に忌憚のない意見を交換しながら草案を練り続けた。今春ようやくその骨子ができあがつたので,去る6月の東京眼科講習会で桐沢班長が中間報告を行つた(臨床眼科,11巻8号参照)。その後も,岐阜医大における日眼総会の際に開かれた班員諸氏の討議や,通信による班員の意見を参照して更に検討を加え,去る9月8日の小委員会で決定したのが,本誌の巻頭に掲げられたようなものである。
 元来ト自身に未解決の問題が少くない上に,その臨床像が極めて雑多である現在,合理的であると同時に実用的であり,しかも普遍性をもつ分類法を定めることは,至難の業といわなければならない。従つてこの新分類法についてもいろいろな意見があると思われるが,今後大方の御協力にょつてその欠点を是正しながら,これを育てあげていくことが最も重要と考える。

シンポジウム

病原微生物学よりみたトラコーマの諸問題

著者: 川喜田愛郎

ページ範囲:P.1525 - P.1535

まえがき
 数年来トラコーマの微生物学に関心をよせながら,その領域で未だpositiveの知見を挙げることができずに,暗中模索を続けているわたくしは,シンポジウム参加のお勧めをうけたとき,大層躊躇した。自分のデータを携げて意見を述べ,御批判を仰ぐことこそこうした席にふさわしいと考えられるのに,わたくしには今そうした力がないのがまことに残念である。
 しかし一面,トラコーマの微生物学が決定的の段階に達していないことはWHOのトラコーマ専門委員会の第2回報告(1956)1)にもみえている通りだし,最近Bietti教授の講演2)でも同じ歎きが繰り返されたことはわれわれの記憶に新らしい。

トラコーマの血清学的診断

著者: 弓削経一

ページ範囲:P.1536 - P.1547

 トラコーマの集団検診に於て,普遍妥当性をもつた診断結果を得る事は,全く不可能であるということは,古くから云われている所であつて,鈴木36),西田25),大野28),高安38)氏等の,最近の記述は,殊にこの事実を,深刻にみつめている。この事実を直視する時,トラコーマに関して出されている%は,すべて信頼性をもつていないという事が出来る。従つて,トラコーマの集団治療の成績なども,各自がつくり出した数字のら列と見なされても仕方がない。パンヌスの診断の精度を,細隙灯顕微鏡にまでおし下げて,その価値を評価しようとも,すべてのトラコーマをとらえ得たというような,或は,トラコーマ以外のものは含まれていないというような確実性は出て来ない事は,いうまでもない。McCallanは,輪部血管の延長を重要視しているが,それは,トラコーマという診断をつける手段としてであつて,結膜症状が揃つていても,細隙灯検査が出来ない場合には,診断を保留するという態度をとつている。即ち,理論的に,トラコーマの有無をきめようとしているのではない。
 トラコーマが,感染性疾患である以上,多くの伝染病の場合と同様に,夫々の病気に特有な生体反応が,診断手段として用いられてもよい筈であり,又伝搬の危険を防ぐには,それが行われねばならない。一般的にも,又感染性疾患の場合にも,視診のみによつて,安定した診断結果を得るという事は少いからである。

トラコーマの診断に対する2,3の考察

著者: 赤木五郎

ページ範囲:P.1548 - P.1561

I.緒言
 トラコーマの診断に就ては,古くから多数の人々に依つて種々研究されており,近くは昨年の第10回臨床眼科学会に於て,桐沢1),國友2),萩野3),失追4)の四氏によつて,トラコーマの臨床的診断と題するシンポジウムの形で充分に討議され盡されたのではあるが,此の問題は私共眼科医にとつても又社会一般の大衆にとつても重大な意味をもつており,又私は私なりの意見を持つているので蛇足とは思うが,茲に卑見を申し述べて大方の御批判を仰ぎ度いと考えて居る。
 御承知の如く,1955年9月,ジエネバ市に於て開催されたW.H.Oのトラコーマ専門委員会6)に於て,トラコーマの診断基準が決定されたが,それに依れば,トラコーマは1.濾胞(結膜及び角膜輪部)2.角膜上方部の上皮性角膜炎3.角膜上方部のパンヌス4.特有な瘢痕の四つの条件の内,勘くとも二つを備えなければならないと規定されて居る。

綜説

トラコーマの電子顕微鏡的研究

著者: 三井幸彦 ,   鈴木昭久 ,   福島真二郎

ページ範囲:P.1562 - P.1577

 トラコーマ組織の超薄切片を用いた電子顕微鏡的研究の,現在までにおさめた成果の大要を要約して,ここに記載する。

トラコーマ(ト)ウイルスに関する実験的研究

著者: 荒川清二

ページ範囲:P.1578 - P.1585

 ト患者の結膜材料からウイルスをマウス及び孵化鶏卵に分離しうることを北村と共に発表したのは1950であつた。爾来本ウイルスを健康人結膜に接種してパンヌス,濾胞等の生成をみとめ,この濾胞は溷濁するものも起しうることをみたし,慢性患者血清は本ウイルスを中和すること,本ウイルス家兎免疫血清は自然毒所謂術上毒を中和するが,健康家兎血清は中和しないこと,患者血清は本ウイルスを抗原とする補体結合反応陽性であるが流行性角結膜炎患者の血清は陰性であつたことなどの血清学的同定を行つた。封入体(包括体)はマウス脳からはまだ見出していないが,孵化鶏卵に本ウィルスを接種すると5〜6日から10日目位に胎児結膜に封入体があらはれ,この出現は免疫血清や患者血清で抑制される。又純粋に鶏卵のみを通過した株でも同様の所見が得られることをみた。この純鶏卵通過株もマウスを斃死させることができる。封入体は人復原で唯一例ではあるが結膜から見出した。本ウイルスの大さは限外濾過試験による終末点は150mμ,メタノール精製乃至超遠心精製ウイルスの電子顕微鏡写真では100〜200mμであつた。又本ウイルスと包括体性結膜炎から分離したウイルスは免疫学的には区別し得ない。第4性病や鸚鵡病ウイルスとの交叉補体結合反応でも互に関連があり,第4性病とは中和関係もなりたつ。しかし流行性角結膜炎は勿論ヘルペス,水痘とは関係はない。本ウイルスを抗原とする補体結合反応は診断上にも役立つ。

Tr.に於ける不完全Virusの研究

著者: 筒井純

ページ範囲:P.1586 - P.1587

 Tr.VirusがProwazek小体を形成する事は今日広く認められた事実であるが果してTr.病原体の総てがP小体となつて現われるかどうかは未だ決定されて居ない。慢性定型症にP小体の検出率が意外に低い事も何かP小体以外の形で存在する病原体を疑わしめるものである。Thygeson,Bietti等も或種の猿Rhesus monkeyにTr.を接種した場合には包括体が出現しないと云つている。最近Virusの或種のものに不完全Virusが形成される事が分つて来た。一二の例を挙げると,Turnip yellow Mosaic Virusは結品として得られるが,同形のやや小型の結晶で感染力を失つたのがある事が分り,分析の結果,感染力を有する部分は蛋白質と核酸が結合したものであり,非感染性結晶は蛋白質のみから成る事が明らかにされた。又動物Virusの例としてWyckoff等によりInfluenza Virusに於ても抗原性は元のVirusと同様に保持しているが感染力を示さない小型のVirus様粒子を形成する事が報告されている。かくして一定のVirusに感染を受けた組織から感染力を持ったvirusと感染力を失つたVirusが出て来る事が明かになつている。
 我々過去数年の研究からもTr.に於ても不完全Virusが存在するのではなかろうかと云う事は幾つかの事実によつて明らかになつて来た。即ち

トラコーマ結膜嚢内に共棲する細菌に就て(第二報)—トラコーマ結膜嚢内に共棲する嫌気性菌に就いて

著者: 難波龍也

ページ範囲:P.1588 - P.1591

緒言
 トラコーマ結膜嚢内共棲菌の問題に関しては従来幾多の業績が見られ,共棲菌の菌種,発現頻度等に関しては精細な報告を多数認める。私はトラコーマ結膜嚢内共棲菌に就て種々検索を行うと同時に其のトラコーマ症状に対する影響に就て観察を続けているが,本編に於ては,嫌気性に発育する菌に関して観察した結果を述べ度いと思う。

白石島におけるトラコーマ集団検診及び集団治療報告

著者: 赤木五郞 ,   清水博 ,   古瀬章 ,   松尾信彦

ページ範囲:P.1592 - P.1598

I.緒言
 先に吾が眼科学教室が,トラコーマ集団治療モデル地区として選定した岡山県笠岡市神島外浦地区に引続き,その南方約1kmの所にある白石島の全住民を対象とし昭和32年4月25,26,27日検診,次いで6月中旬より約3カ月間に亘り集団治療を実施した結果を報告したい。
 今回の検診はトラコーマ委員会案の新診断基準に従つて行い,診断基準と治癒判定えの妥当性をも併せ検べようとしたものであつて,今後新診断基準の実施或はその改善に当り,いささかでも益する所があればと思うものである。

結膜濾主胞の研究(第1報)—トラコーマの濾胞圧出標本における細胞の種類について

著者: 松尾信彦

ページ範囲:P.1599 - P.1603

I.緒言
 結膜濾胞は乳頭増殖,瘢痕形成,パンヌス及びプロワツエツク小体と共にトラコーマにおける主要症状の一つであつて,既に先人により多数の詳細な研究業績が発表されている。しかしながらトラコーマ以外の疾患においても濾胞の発生がみられ,新美氏は生理的に人体内に存在することもあり,又種々の刺戟に対する防禦反応として生体内に新生することもあると述べ,樋渡氏は人結膜の濾胞はすべて外界の刺戟に対する病的反応であるという。従つて濾胞はトラコーマに重要な症状ではあるがトラコーマに不可欠のものでもなく又特有なものでもない。
 殊に最近トラコーマ治療法の進歩により早期にトラコーマが治癒に向つた場合に所謂結膜濾胞症と区別し難い症例が多くなり両疾患にみられる濾胞の関係については多くの議論がある。かくの如く結膜濾胞に関しては術多数の興味ある問題が堆積されている。

トラコーマの免疫学的研究—(其の一)トラコーマ患者の補体結合反応に就て,他

著者: 柏井忠夫

ページ範囲:P.1604 - P.1620

緒言
 1950年荒川,北村氏が,始めてトラコーマ(以下トと略す)病毒をマウス脳に分離固定に成功し,更に,これらの病毒の孵化難卵培養が可能である事を発表した。更に上野等は,同様な方法でト病毒の固定に成功し,更に,同固定毒を,マウス脳内,並に腹腔内に接種する事により,脳,肺肝にヴイルス(以下ヴと略す)性炎に一致する病理組織学的所見を証明し,同固定毒の感染は,全身性のものであり,ヴィレミーの基盤の上に成立するものと推定し,高橋は,早期ヴィレミーなる事を,動物実験にて,証明した。
 以上,トも多くのヴ性疾患と同様,病変は,一局部に限局していても,トに対する抗体が,血清中に存在する事が推定されるのであるが,Romer(1908)以来,多くの学者が,生体内の抗体産生の事実を証明しようとして,多大の努力を払つて来たのにも拘らず,今尚満足すべきものが出来ず,抗原抗体反応を臨床的に応用するまでには至つていない。

トラコーマの一生

著者: 国友昇 ,   小橋廉一郎

ページ範囲:P.1621 - P.1626

1)緒言
 トの初発から終末までの連続した臨床的な経過——即ちトの一生を知りたいというのは,私共の多年の願望であつた。その中でも最も不明の点が多いのは,トの初発即ちトの誕生であつたが,之はト有病率12%の東京近郊地区で,初生児約100名の結膜の変化を連続して現在まで約3カ年半観察することによつて,大体のことを知ることができた1)2)。それで次には,このようなトの誕生がK地区だけに限られたものであるか,それとも日本のトの初発に普遍的な事実であるかを知るために,それぞれト有病率が異なる日本各地(埼玉県金子村3),秋田県花岡町及びその周辺部落,長崎県五島福江市崎山及び長手地区4)その他)で乳児及び幼児の結膜の所見をしらべた。その結果はK地区に於て確認することができたトの初発の状態が,そのまま他の地区のトにも当篏ることを知つた。
 そこで我々はこのようにして初発したトが,どのような経過をたどつて学令期児童のトとつながるかを知る為に,前記K地区における生後3力年半の連続観察の経験を基調として,0才〜6才の乳幼児の結膜のト性変化の推移について,日本各地において検診観察した3)4)5)

日本各地におけるトラコーマ—トラコーマ検診メモより Ⅰ

著者: 国友昇 ,   鳥海しのぶ

ページ範囲:P.1627 - P.1633

I.緒言
 我々の教室では,トラコーマの一生——即ちトラコーマの出生から終末に至る迄の経過を知ろうと思つて,東京附近及び日本の各地区におけるトラコーマを検診した。その検診方法は,或地区では,生後間もない乳児を対象として,初めの1年牟の間は1〜2週毎に,その後の2年間は1カ月に1回家庭訪問して主としてトラコーマの初発症状と,それの初期トラコーマへの移行の状態を調べ,或地区に於ては,殆ど眼科的な検診や医療を受けたことのない部落を選んで,全住民の検診を行い,又,他の地区では,乳児より学童迄,又は学童及び小中学校の生徒を検診した。

長崎県五島におけるトラコーマ検診成績

著者: 朝蔭武司 ,   堀信夫 ,   森茂 ,   沢本宏美 ,   嵩則雄

ページ範囲:P.1634 - P.1640

1.緒言
 我々の教室に於ては今日迄に,トラコーマに関する多くの研究がなされており,トの集団検診に関しても,東京都内,東京近郊,埼玉県内,千葉県白浜及び秋田県下に於て,乳幼児,学童及び成人と各年令層にわたつて広く行つて,多くの業績をあげている。我々はこれらの多くの成績を綜合し,更にトの発病及びトの全経過の推移を知る為に,ト蔓延地に於ける全住民の検診を企図し,昭和31年8月下旬から3カ月間にわたり教室から国友教授他4名と地元の嵩博士を加えた人員で,長崎県五島に於てトの集団検診及び治療を行つた。従来多く行われている小中学校の学童検診に比して,全住民に対する検診は,非常に意義が大であるが,其の遂行には,多くの困難を伴つて来ることは言をまたない。幸に我々は長崎県,福江市及び地元諸関係者の方々の絶大な協力と住民の理解と協力により,企図した目的を達成し,いささか成果を収めたので報告する。

札幌,岩見沢,美唄各市及び札幌,旭川市郊外村落の中小学校学童に対するAchromycin油性懸濁液に依るトラコーマ集団治療成績

著者: 藤山英寿 ,   藤岡敏彦 ,   池田裕 ,   篠原正俊 ,   越智通成 ,   大塚秀男 ,   佐藤ミナ ,   渋谷ヨシ子 ,   吉田テイ ,   陳内鶴江

ページ範囲:P.1641 - P.1644

 先に我々の教室では之等各市及び村落の中小学校生徒児童につきトラコーマ(Tr.)の集団検診を行い,其検診成績を夫々発表した。
 今回は此時選出されたTr.患者に対するAch-romycin油性懸濁液(Achr.O.)に依る集団治療成績を報告する。現在迄のところAchr.O.がTr.の諸症状を軽減或は消失せしめ,集団治療に対し特に好都合であり,且つ中等度以上のTr.に対して手術を併用する事が,治療効果を非常に促進せしめる事等を再確認した。

農村における住民トラコーマの集団検診及び治療に就いて(第1報)—宮城県伊具郡金山町に於ける成績

著者: 浅水逸郎 ,   安岡敏夫 ,   山本宏 ,   佐藤慎一

ページ範囲:P.1645 - P.1655

I.緒言
 戦前の徴兵検査の成績や学校身体検査の統計に徴するも,トラコーマ〔以下「ト」と略記〕は年々その罹患率の低下が認められて来たが終戦前後の混乱は「ト」を一時代に逆行せしめたと迄いわれるに到つた。其の後社会の安定と共に生活環境の改善が一般社会及び農村にも波及し,加えるに化学療法,抗生物質療法が眼科領域にも進展を見て,各地に於て盛に「ト」集団治療が行われる様になり,着々其の実を挙げていることは同慶に堪えない。
 而して諸般の社会情勢の推移に依り,農村「ト」も過去に比して相当の変化も考えられ,かつ検診に際しても衛生知識の向上と共に協力者が多くなり,更に治療面にても好成績を得ている事実が報告されている。

京都府篠村一般住民に対するトラコーマ集団治療成績

著者: 浅山亮二 ,   岸本正雄 ,   塚原勇 ,   坂上英 ,   吉田英一 ,   盛直之 ,   山田秀之 ,   加藤直太 ,   三浦寬一 ,   白紙敏之

ページ範囲:P.1656 - P.1663

 昭和32年2月9日より5月11日迄の3カ月間,京都府南桑田郡篠村野條地区に於て教室が行つたトラコーマ集団治療の成績について述べる。

トラコーマ及び健康眼における細菌の分布

著者: 赤木五郞 ,   筒井純 ,   難波龍也 ,   清水博 ,   錦織博

ページ範囲:P.1664 - P.1668

 トラコーマ(以下Tr)眼に関する細菌学的の研究は過去多くの人々によつてなされている。Egypt, Tunis, Morocco等のTrの多い国に於てはTrに合併する流行性結膜炎の影響が非常に大である事が報告されている。(Mac Callan1),Pages2),Poleff3))こうした国々ではTrに罹患する子供の多くは,それに先行して急性結膜炎に罹患している。Koch-Wesek菌による結膜炎は中でも最も高率に発生していると云う。Trか屡k細菌の混合感染を受けて悪化し病原菌とTr.Virusの両者が重なつて症状の上に影響し合つている事は事実である。Trが自然治癒を営み得る疾患である事は広く認められて居る4)が実際には衞生状態の低い人々の間には長い間治癒しないTr.が沢山存在している。これには何か此の疾患を長引かせる様な要因があるのに違いないけれど,細菌の混合感染もその一つの因子と考えられる。然しながら細膜嚢に寄生する細菌の多くのものは非病原性である。Harrison, Julianelle5),Feigenbaum6)によればTr.結膜に寄生する細菌には特有なものはなく正常結膜と殆んど変らない様なものが出現すると云つている。
 我々はTr.の発病が急激であるか,除kであるかと云う問題に関しても,Tr.細膜に存在する細菌がどの様な影響をあたえているかと云う事に興味を感じた。

神島に於けるトラコーマ集団治療報告

著者: 赤木五郎 ,   筒井純 ,   難波龍也

ページ範囲:P.1669 - P.1672

緒言
 私共は岡大眼科がトラコーマ集団治療モデル地区に選定した笠岡市神島外浦地区に対して,昭和31年11月15日より約3カ月に亘り,一般住民,幼・保育園,小学校,中学校児童生徒を対称とし,1.0%テラマイシン軟膏,0.5%アクロマイシン軟膏を使用し,地区内数カ所に臨時治療所を設置し,集団治療を実施し,其の結果を報告する次第であるが,トラコーマ治療成績と共に今何の集団治療に於ける医師,看護婦及び事務的処理に従事せる人々の状況並びに諸経費に就て併せ報告す。
 尚当神島地区は今回の集団治療前に全島民(地区内の)の検診を実施し,50.0%を上廻るトラコーマ罹患率を示した。島の状況を説べると,当地区は,図I.の如く大約島の南半を占め,笠岡港より連絡船にて約40分を要する瀬戸内海の島であり,本土とは北端の瀬戸にて狭き水路により渡船にて比較的簡単に連絡する事が出来る状況にある。地区内総人口は約4000人で,地区内に神島化学工場が存在し,他地区より勤務する者も多く,集団治療の対称には若干此の通勤者を含む。要するに瀬戸内海の島とは云え,比較的交通の便よく,又他地区との出入も頻繁である様に思われる。しかしながら水利,特に飲料水に関しては島と云う条件に変りなく,水量少く水質も悪く,井戸水等も数軒或はそれ以上で共用している様に認められた。住民の大半の男子は前記化学工場に勤務し,他は半農半漁の状態なり。

トラコーマ分布の生活環境的考察

著者: 今泉亀撤 ,   新津重章 ,   藤沢昭三 ,   佐藤静 ,   古市千代子 ,   小暮惠子

ページ範囲:P.1673 - P.1682

1.緒言
 トラコーマの如き長い経過をとる伝染性疾患では,その発病と個人的生活環境との間には,密接な関係があることは当然なことで,地理的条件が同一であつても家庭によつてトラコーマ患者が非常に多かつたり,又非常に少なかつたりすることは,集団検診に於て屡々経験することである。日常生活を営む各個の家庭に於ける生活条件が,長い間にはその結膜に有害に働き,或は病原体の伝播に関与し,トラコーマの発病を助長する有力な因子となつているからである。
 然し,その個女の条件についての文献は散見するが,之等の総合的な報告は少ないので,吾々はこの問題を糺明すべく,各種方面から調査を行った結果,生活環境とトラコーマ罹患との関係の大略を窺うことが出来たので本篇に纒めた。

新潟市に於ける学童トラコーマの消長に就て

著者: 田中君子

ページ範囲:P.1683 - P.1701

 私共の教室に於ては昭和25年以来,新潟市小学校の全児童を対象として毎年新学期に一斎検診を行つている。そうしてこの集団検診によつて摘出したトラコーマ児童に対しては出来得る限り抗生物質による集団治療を実施して現在に至つているのであるが,この過去7年間に於ける学童トラコーマの罹患率の消長を見ることは甚だ興味深いものがあるので以下それら成績に就き述べて見度いと思う。

トラコーマの問題点と症候名説の提唱

著者: 鈴木宜民

ページ範囲:P.1702 - P.1707

I.緒言
 周知の如く医学が余りにも専門化し過ぎると,他の分野に就ては顧みる暇も無くなると云うのが実情でである。従つて自らの専門以外の知識は全く無いと云う場合も生じて来る。この意味からある時には自らの出発点に帰り,その方法,考え方,又当時の思想なり,或はその成績とか更に歩んで来た跡を回顧し,再主吟味してみる事は極めて重要な意義が有ろうと思うもので,それによつて吾々は時に誤つた方向に進みながらも,自らははつきり気付かずにおるような事に重要な示唆とか反省を得る場合が有るもので,この点は吾々医学に志す者が特に心し又注意すべき点ではないかと思う。
 私は本邦に於ける最近のト研究の実態を眺める時,特にこの様な印象を深くするものである。勿論それは私の学説が正しくて,他の人の学説とか研究が誤つておる等と云うものでは毛頭ない。各人の説く処或はその成績に甚だしい違いが有り過ぎると思うのである。即ち今日各自の研究が非常に専門化した結果,トを余りにも自分の立場とか学説に都合の良いように,解釈し,定義して研究を進めておる如き傾向が強く見られるのであつて古い諺であるが,群盲の象を撫するに似て,それでは到底トの真の姿等は掴み得ないと思うものである。この事は昨年のトに関する本誌の特集号による,現在ト研究の第一線に立つておる諸家の論説を一読してみても,容易にかつ何人も気付く処である。

トラコーマの集団治療とその治癒判定について

著者: 萩野鉚太郎

ページ範囲:P.1708 - P.1725

1.はしがき
 トラコーマの集団治療については,既に多数の学者によつて研究発表され,改めて報告する分野はほとんど残されていないかの様に考えられる。筆者等もまた昭和25年以来今日に至るまでこれを試みてきた。昨年までの経験では,もはやこの課題には疑問は残されていないものと結論しようとした。ところが本年たまたま26,000名の小・中学生を検診した結果,集団治療にはまだ検討を要する問題の存在することを知つた。
 従来の研究は,一応トラコーマと診断を下したものを治療の対象者として,いろいろな治療条件がその経過に及ぼす影響或は患者のもつ条件と治療経過との関係等について検討されたものが多い。周知の様に本病はまだその診断の基準がはつきりしていない。文部省総合研究トラコーマ班にしても,今漸くその決定をいそいでいる現状である。従つて集団治療に際して,その対象者の選定の基準はそれぞれの集団治療例毎に必ずしも一致しているとは限らない。同様のことが治癒判定についても考えられる。ところがこれが引いては本病の集団治療の意義について,疑問を生ずる重要な原因の1つとなるものである。

南米移住者とトラコーマ(その3) 附 ブラジル銀界管見

著者: 大石省三

ページ範囲:P.1726 - P.1730

 前回報告1)2)で我国から南米までの移民船内の衞生状況とアルゼンチン並にパラグアイの入国時トラコーマ(以下トラ)検疫に関する諸問顧に就て述べた。今回はブラジル移住者の検診と現地のトラに対する態度及び私が2カ月に亘つて調査見学した彼の地のトラと銀界の様子の一部を紹介する。

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臨牀眼科 第11巻 総目次・物名索引・人名索引

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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