特集 トラコーマ
シンポジウム
トラコーマの血清学的診断
著者:
弓削経一1
所属機関:
1京都府立医大
ページ範囲:P.1536 - P.1547
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トラコーマの集団検診に於て,普遍妥当性をもつた診断結果を得る事は,全く不可能であるということは,古くから云われている所であつて,鈴木36),西田25),大野28),高安38)氏等の,最近の記述は,殊にこの事実を,深刻にみつめている。この事実を直視する時,トラコーマに関して出されている%は,すべて信頼性をもつていないという事が出来る。従つて,トラコーマの集団治療の成績なども,各自がつくり出した数字のら列と見なされても仕方がない。パンヌスの診断の精度を,細隙灯顕微鏡にまでおし下げて,その価値を評価しようとも,すべてのトラコーマをとらえ得たというような,或は,トラコーマ以外のものは含まれていないというような確実性は出て来ない事は,いうまでもない。McCallanは,輪部血管の延長を重要視しているが,それは,トラコーマという診断をつける手段としてであつて,結膜症状が揃つていても,細隙灯検査が出来ない場合には,診断を保留するという態度をとつている。即ち,理論的に,トラコーマの有無をきめようとしているのではない。
トラコーマが,感染性疾患である以上,多くの伝染病の場合と同様に,夫々の病気に特有な生体反応が,診断手段として用いられてもよい筈であり,又伝搬の危険を防ぐには,それが行われねばならない。一般的にも,又感染性疾患の場合にも,視診のみによつて,安定した診断結果を得るという事は少いからである。