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特集 トラコーマ 綜説
トラコーマ(ト)ウイルスに関する実験的研究
著者: 荒川清二1
所属機関: 1東京大学伝染病研究所
ページ範囲:P.1578 - P.1585
文献購入ページに移動 ト患者の結膜材料からウイルスをマウス及び孵化鶏卵に分離しうることを北村と共に発表したのは1950であつた。爾来本ウイルスを健康人結膜に接種してパンヌス,濾胞等の生成をみとめ,この濾胞は溷濁するものも起しうることをみたし,慢性患者血清は本ウイルスを中和すること,本ウイルス家兎免疫血清は自然毒所謂術上毒を中和するが,健康家兎血清は中和しないこと,患者血清は本ウイルスを抗原とする補体結合反応陽性であるが流行性角結膜炎患者の血清は陰性であつたことなどの血清学的同定を行つた。封入体(包括体)はマウス脳からはまだ見出していないが,孵化鶏卵に本ウィルスを接種すると5〜6日から10日目位に胎児結膜に封入体があらはれ,この出現は免疫血清や患者血清で抑制される。又純粋に鶏卵のみを通過した株でも同様の所見が得られることをみた。この純鶏卵通過株もマウスを斃死させることができる。封入体は人復原で唯一例ではあるが結膜から見出した。本ウイルスの大さは限外濾過試験による終末点は150mμ,メタノール精製乃至超遠心精製ウイルスの電子顕微鏡写真では100〜200mμであつた。又本ウイルスと包括体性結膜炎から分離したウイルスは免疫学的には区別し得ない。第4性病や鸚鵡病ウイルスとの交叉補体結合反応でも互に関連があり,第4性病とは中和関係もなりたつ。しかし流行性角結膜炎は勿論ヘルペス,水痘とは関係はない。本ウイルスを抗原とする補体結合反応は診断上にも役立つ。
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