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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科11巻2号

1957年02月発行

雑誌目次

シンポジウム トラコーマの臨床の診断

トラコーマの診断—特に治療面より見たる

著者: 桐沢長徳

ページ範囲:P.89 - P.95

 与えられた題目に関し,最も具体的な問題としては「個々の例の病像が治療の進展に伴つて如何にその診断が異つて行くか」というような点に関して検討するのがよいように思われるが,このテーマが与えられてから僅か6カ月では斯る観察は到底完全には為し得ないので,今回は主として理論的に問題を提出するに止め,各位の御批判に委ねたいと思う。

トラコーマの臨床的診断—生体顕微鏡より見たる

著者: 国友昇

ページ範囲:P.95 - P.103

1.緒言
 トの結角膜症状としては,従来から濾胞様隆起(FB),乳頭(P),卜性混濁(Oc),瘢痕(C)及びパンヌス(Ps)等が挙げられている。最近には角膜の上部にフルオで染まる上皮性角膜炎も,重要な症状の一つであると主張する学者もある。
 之等の変化の中,ト性結膜症状の時間的推移を考えてみると,の様な順序で,生々しいト性変化は漸次に古くなりつつ,瘢痕化して行くことが解る。

トラコーマの臨床的診断

著者: 萩野鉚太郞

ページ範囲:P.103 - P.111

I.緒言
 トラコーマの集団検診,集団治療及び予防撲滅対策は,今日世界至るところで活溌に実施されている様子であるが,之が正しい運営は,本病の臨床的診断にその基礎があることは言うまでもない。従つて之を疫学的面から検討する時は,診断に関する疑点の解明が最も緊急な研究課題である。
 本文にまとめた研究は,愛知県下各地区において長期間にわたつて集団検診或は治療を施し,それ等の綜合観察成績によつて特に疫学的面からの臨床的診断の基準を,確立しようと言う目的のもとに計画されたものである。その研究成績については,既に一部は本誌トラコーマ特輯号誌上に発表した。今回は特に臨床的の鑑別診断に関係深い資料のみをまとめて,上述の課題に対する検討を試みた。

トラコーマの診断と臨床的表現に就いて

著者: 矢追秩栄

ページ範囲:P.112 - P.112

I.緒論
 トラコーマは眼の伝染病で,其研究にも臨床的細菌学的及び疫学的の3方面がある。又診断に当つては眼の諸症候を観察綜合して疾患を決定する。病名が決まると次は診定時に於ける疾患の期並びに所見の特異性による分類が必要となる。街合併症の有無も検査する。私は戦前から此様な研究を始め終戦後簡易なる臨床的表現の仕方を考えた。今臨床的診断と私の表現法とを報告致します。

一般講演

(1)幼児期に発病せる周期性眼球突出

著者: 吉沢照子 ,   服部昭子

ページ範囲:P.115 - P.118

I.緒言
 周期性眼球突出とはある期間を隔てて眼球の突出を来すもので,広義の間歇性眼球突出である。1805年Schmidt氏が初めて報告した間歇性眼球突出は,体位の変化即ち頭部に鬱血を来す様な動作により眼球突出し,その動作を止めると旧位置に恢復するのを云う。而し頭部の位置の変化により眼球の状態に変化をおこさないもので,且つ或間隔をおいて突出を来すものは,Birch-Hirsch-feldによると,反覆性又は周期性眼球突出という。最近私は周期的に眼球突出をおこす稀有な1例を観察したのでここに報告する。

(2)くりかえし描写の角膜脈波に及ぼす影響

著者: 大神妙子

ページ範囲:P.118 - P.122

緒言
 人眼における角膜脈波の描写は,1928年Thielによつて試みられ,その後近年に到つて,植村,川嶋両氏により電気眼底血圧計が考案され,角膜脈波を記録して,その中の圧力脈波より,網膜中心動脈血圧を算出し,又,脈波を数学的に解析する事によつて,網膜血管の性状につき種々の知見を得る等,臨牀的に応用されるに到つた。
 電気眼底血圧計による角膜脈波の描写にあたつては,接眼部に連なる加圧桿を以て加圧することに依つて,眼球外壁より眼球内容を通じて眼内血管に圧迫が加わり,搏動を生じ,加圧重量の増加によつて漸次変動する圧力脈波曲線を記録し,その変化により,拡張期並びに収縮期血圧を算出するのである。同一眼に対し,くりかえして脈波描写を行うとき,反復間隔の時間的関係或は回数によつては,眼内血管その他,角膜脈波発生並びに伝達に関与する眼球部分の,加圧による変動が角膜脈波に影響を及ぼす可能性が考えられる。既に眼球加圧によつて,除圧後の網膜血管径に変動を生ずることを飯塚氏が報告して居る。

(3)空気前房法について(其の2)

著者: 神吉和男

ページ範囲:P.122 - P.126

緒言
 著者は先に前房水を空気に置き換えて,従来の隅角鏡を用いずに隅角部を観察する方法を佐藤教授と共に創案し,これを空気前房法1)と名付けた。術式および同法による動物正常隅角写真についてはすでに東京眼科集談会(1956年9月)で発表した。その後隅角部に種々な手術を加えた家兎眼および種々の人眼について本法を実施し,これが有力な隅角部の検査法であり,従来の隅角鏡では見ることの出来なかつた隅角部の変化を観察する事が出来たのでここに報告する。

(4)硝子体置換施行成績

著者: 高橋龍生

ページ範囲:P.127 - P.129

緒言
 硝子体置換は既に硝子体移植又は洗滌なる名のもとに多くの先人の実験せる所であり目新しい事ではない。房水・硝子体・背髄液又は生理的食塩水(以下生食水と略)等を置換材料として注射器又は硝子体吸引器を用いて行われる方法があるが是等は硝子体吸引の後に置換材料注入を行う方法即ち異時置換であり,吸引と注入を同時に行うものではない。最近私は前房洗滌用として入手した器械を用いて,吸引と注入を略々同時に行う実験を試みて,或成績を得たので例数は尚少数なるを顧みず此処に発表する。

(5)春季カタルの角膜所見

著者: 小口昌美

ページ範囲:P.130 - P.133

緒言
 春季カタルの角膜所見に就いての報告は比較的少い。併し詳細に観察すると種々の角膜合併症があり,その中には興味深き所見を見ることが出来る。Pillatは角膜春季カタルの題名の下に,視力が眼前指数に低下したものを報告した。春季カタルの角膜合併症に就いては特に南国に於いての報告が多いが,これは花粉感作説を裏書きするもので興味深い点である。例えばTobgyのエジプトに於いての報告にては屡々角膜が危険に曝されると云う。Tichoのパレスチナに於いての報告にても重篤な角膜合併症に就いて報告している。一方本邦の報告を見るに,大正7年態谷氏の表層瀰蔓性角膜炎の報告以来幾多の報告があるが,前述の如き重篤な角膜合併症に就いての報告は無い。今井良平氏は春季カタルの角膜合併症を分類して第1表の如くにした。例外的特殊の所見を除いては此表に総括されると思われる。
 表中追加の輪部角膜の増殖の項は今井良平氏の分類に私が附加したものである。輪部角膜の増殖は最も普遍的の所見であるが,同時に春季カタルの診断上有力な目標となるからである。以上の分類に含まれない角膜合併症としては円錐角膜,不正乱視,角膜線状溷濁,或は角膜ヘルペス等の報告があるが,春季カタルとの関係に就いて疑問の点がある。此中円錐角膜はGonzalez及びGen-naroの報告の外比較的多い合併症であつて,体質或は内分泌学的に将来興味深きものであると思われるが,本邦の報告には見当らない。

(6)乾性角結膜炎の研究—第2報 乾性角結膜炎の涙腺及び球結膜の組織学的所見

著者: 船津英裕 ,   江口甲一郎

ページ範囲:P.133 - P.139

緒言
 欧米には乾性角結膜炎の患者が比較的多く,瀰蔓性表層角膜炎の報告が少ないのに反し,日本ではそれと全く逆現象を呈し,乾性角結膜炎(K.sicca)の報告は少なく,極めて稀な疾患になつている。しかしながら我々が3年間に10例のK.siccaを見出した事は既に第1報1)に記した通りである。そこでこの度は本病の本態究明の一助にと,3例の涙腺と,4例の球結膜を試験的に切除し,組織学的検索を試みてみた。

(7)体位変動の網膜黄斑部毛細管血圧に及ぼす影響—第2報 側臥位に於ける影響

著者: 前田良治

ページ範囲:P.140 - P.144

I.緒言
 内視現象を応用して正常者の網膜黄斑部毛細血管圧(以下mcpと略記)を測定し,之が体位変動として椅坐位より水平仰臥位及び水平腹臥位に転じた時の影響に就いては第1報(日眼60巻10号)として発表した所であるが,今回は更に正常者に就いて椅坐位より水平右側臥位及び水平左側臥位に転じた時のmcpの影響に就いて成績を得たので第1報の体位変動の成績と比較検討し,茲に第2報として報告する。
 猶mcp測定法に就いては前回第1報に述べた如く,眼球加圧に依る内視小光点運動の緩徐になる点及び停止する瞬間の点とをそれぞれ最小圧,最大圧として行つた。

(8)網膜血管と脳内血管との病理学的比較—第3報 毛細血管瘤に就いて

著者: 羽生孝明

ページ範囲:P.145 - P.150

緒言
 私は第2報にて過沃度酸Shiff氏染色法(以下P.A.S.と略称)による網膜毛細血管瘤及び位相差顕微鏡による脳内毛細血管の観察について発表したが,以後症例を累ねいささか知見を得たので報告する。

(9)眼疾患における血清リポプロテインについて—特に高血圧症における観察

著者: 菱実

ページ範囲:P.151 - P.155

緒言
 近年の死因統計に於て循環器系疾患,殊に脳動脈硬化及び冠動脈硬化によるものが主位を占め,動脈硬化症特に粥状硬化症の成因に脂質代謝の異常が早くより強調され,更に最近は血中の脂質の状態の異常に研究が向けられて来た。即ちSteiner等はCholesterine/燐脂質の比の高いもの,Gofman等は超遠心法を用いSf (Svedberg単位)10〜20の部分が血中に増加しているもの,BarrはCohnのAlcohol分割法によりAlbumin及びα-Lipoproteinの低下とβ-Lipoproteinの増加する事を指摘したが,更に濾紙電気泳動法の応用により動脈硬化症に於てβ/α Lipoprotein(Lipoprotein Index:LI)値が上昇する事が示された。
 さて,網膜静脈血栓症がその血栓は臨床上殆んど大部分のものが動脈硬化症のある症例に起り,殊に動静脈の交又部に発しておる事を見ればその発生病因は殊に血管壁の器質的変化に関係あることが推測され,従つて血液成分のあるものとも密接な関係あることが予想される。この意味から筆者は高血圧患者及び網膜静脈血栓症患者の血清Lipoproteinを測定したが,その成績は次の如くである。

(9)新型電気眼底血圧計と角膜脈波の意義に就いて

著者: 広石恂 ,   菅野久信

ページ範囲:P.155 - P.164

I.緒言
 眼底血管の性状が脳循環系の疾患の診断と予後の判定に重要な役割を演じている事は云うまでもないが,就中その血圧を測定する事は,眼底の検眼鏡所見と相俟つて必須の検査法である。
 網膜中心動脈血圧測定に就いては1928年Baill-iart氏に始まり,Bliedung氏,Kukan氏,Ba-urmann氏,植村氏,菅沼氏等の精細な研究により急速の進歩を遂げたが,其の後1953年植村氏等は電気眼底血圧計を完成し,血圧値のみならず脈波の分析が試みられ,その臨床診断面への応用は信頼度の高い点,測定の容易な事等瞠目に値する研究であつた。

(10)梅毒性虹彩炎Penicillin連続注射により加療中に遭遇せるPenicillin Schock (回復)に就いて

著者: 市原正文

ページ範囲:P.164 - P.167

1.緒言
 Penicillin Schockの報告は1945年Cormiaを嚆矢とし,本邦に於いては1951年石神氏を初めとし最近は屡々見聞する処である。
 我が眼科領域に於いては1954年田野氏の報告を初めとし,水川氏,平山氏,鈴木氏,吉富氏,徳田氏,田辺氏,土谷氏,河東氏等の報告がある。

(11)梅毒性眼疾患に対する駆梅療法の限界—第1報 角膜炎鞏膜炎の再発

著者: 小原博亨 ,   大橋克彦 ,   渋谷聰 ,   阿久津澄義

ページ範囲:P.167 - P.172

1.緒言
 眼科領域に於ける梅毒性疾患は,皮膚泌尿器科領域のそれと異り,感染後相当の年月を経たものが少く無い。従つて,強力な駆梅療法を行つても,血清梅毒反応を陰転化せしめる事は困難な場合が多い。此の場合,血清梅毒反応が陰転しないのは,真に身体内に病原体が残存していて血清反応が陽性を示すものか,或いは,病原体は死滅して仕舞つたにも拘らず,単に血清の瘢痕としての陽性を示すものか,これを決定する事は出来ない。従つて,何時迄,駆梅療法を続行すべきであるか,何時,駆梅療法を打切るべきかが臨床上問題となる。
 私は,第Ⅰ報に於いて,鞏膜炎或いは角膜炎の療法中,再燃が全く起きなくなる事を目標にして,眼科領域の駆梅療法を考察して見たい。

(13)石原式色盲検査表による色覚異常有無の判定

著者: 田畑静江

ページ範囲:P.172 - P.178

緒言
 色覚異常有無の判定は,特に集団に対する篩い分け検査は,ほとんど石原式色盲検査表のみによつて行われているのが我が国の現状である。同表には第3異常検出票は含まれていないのであるから,同表による第3異常検出に関する事柄は問題外としても,第1及び第2異常は同表によつて果してすべて正しく検出されているであろうか。このことを考えるとき第一に問題になるのは本検査表で全く異常所見を呈さないような軽度な第1及び第2異常の存在である。しかしこれは非常に大きな問題なので暫くおくとして,非定型な所見を呈するものがかなり多数あること(第2表参照)が,本検査表による検査にさいしての差当つての問題だと思われる。そこでその非定型的な所見を呈するものについて,いささか検討してみた。

(15)血管新生時に於ける角膜新陳代謝

著者: 松本和夫

ページ範囲:P.184 - P.189

緒言
 角膜は透明な組織であり,而も血管を有しないことを特徴とするが,然し角膜血管新生を伴う疾患の数は多く,疾患により形態学的にも夫々その特徴を有している。又新生血管の進行,退萎の如何が,診断,予後の指針を獲ること極めて多く,その観察は重要である。而して角膜に血管の新生する原因機転を知悉することが,その基礎疾患の治療に資するのは言を俟たない。
 然るに,その発現機序に就ては,幾多の先人が,或は細隙燈顕微鏡的に,或は病理組織学的に,真摯なる研究努力を重ねて来たのであるが,未だ一定の学説を得るに至らず猶研究の余地を残している。私は角膜血管新生機転の一端を知らんとして実験的に角膜血管新生を生ぜしめ,その正常機能の障碍せられた場合に於ける角膜の組織呼吸,並びに好気性解糖について研究し,聊かその知見を得たので茲に報告する。

(16)慢性眼窩筋炎に就て

著者: 奥田観士 ,   脇正敏

ページ範囲:P.189 - P.194

緒言
 眼球突出は其の原因が極めて雑多であり,その確定は困難なものが多いのは周知の事である。我々がここに報告するのもその一つである。本症に就ては1903年Gleasonが始めて報告して以来欧米に於ては可なりの報告が見られ,1939年Offretは32例を文献中より集め,更に自己の2例を加えている。夫以後ではFrancois, Rabaey及びEvensの報告によれば24例で合計僅かに56例である。我国では未だ報告を見ない,但し古くは大正2年中西氏が炎性眼窩硬化症として発表されたものが本症ではないかと思われる。最近では,浜田氏及び山田氏,青地氏のExophthalmic ophthal-moplegiaに就ての報告があって本症の一つの型と思われるものが見られるが,「慢性眼窩筋炎」としての報告は見られない。即ち本症は極めて稀な疾患である事が分る。

(17)ビニール管による涙嚢機能検査と治療

著者: 栗林保人

ページ範囲:P.194 - P.198

I.緒言
 涙道の機能は古来議論されている所である。近時長嶋氏の研究によれば,閉瞼時涙嚢は拡張し,吸引的に働くことを述べている。私は,鼻涙管口検査により管口内の液体は瞬目運動と一致して運動すること,又強い閉瞼に際し,液体は吸引されることもあるし,流出することもあるのを見た。此の様な現象を解明する目的で,ビニール管を涙点より鼻涙管に挿入して涙嚢の機能を検査し,興味ある結果を得たので報告すると共にビニール管挿入術を併せて報告する。

(18)濾紙電気泳動法による眼疾患の蛋白泳動像の研究—第3篇結膜内分泌液蛋白の研究

著者: 竹田静香

ページ範囲:P.199 - P.204

I 緒言
 1948年Smollens Leopold Parker1)等はTi-selius式の電気泳動法によつて,プールした涙液の蛋白分屑の研究を行つた。氏等は涙液に4つの分屑を認め,1つの分屑が陽極側へ他の3分屑は陰極側へ泳動し,陰極側へ泳動する3分屑にly-sozymeの作用があると述べた。併し氏等の後年の発表2)ではやはり4分屑を認めているけれど,陰極へ泳動するのは1分屑でそれにlysozymeが含まれ他の3分屑は陽極側に泳動すると述べた。
 濾紙泳動法を応用した研究は1955年Mc Ewen及びKimura3)によつて行われた。氏等は正常涙液には少くとも3つ以上の分屑があり,陰極側に泳動する物質は純lysozymeと同じ泳動性を示し,最も陽極側へ泳動する物質はalbuminと考えられ,中間に存在する物質は分離の困難な蛋白質の混合したものであろうと述べた。又20例の慢性結膜炎では正常分屑像を示すがKerato conj-unctivitis siccaではlysozyme分屑が欠除している事を認めた。更に涙液lysozymeは卵白lysozymeに比して電気泳動的及び酵素学的には殆んど同じ物であろうと考えた。

(19)H・S式自記眼精疲労計の改良とその応用

著者: 萩野鉚太郞 ,   鈴村昭弘

ページ範囲:P.204 - P.208

 調節作用を中心として,之に輻輳作用を関係させた場合,そのはたらきの各相を充分に表現することの出来る装置は,今日までの眼科学及び生理学の領域では殆んど見られない。筆者等はこの目的に添うことの出来る一装置を試作し,第9回臨床眼科学会の席上で発表した。
 この場合は之を調節時間の測定に応用したが,つづいて第60回日本眼科学会総会席上で,この装置を用いて空間視の研究を試みた成績について報告した。

(20)メチオニンの正常及び病的暗順応に及ぼす影響に就いて

著者: 小山田和夫 ,   連世音子

ページ範囲:P.208 - P.213

緒言
 著者の一人小山田は,メチオニンの視覚生理学的研究の一部として,先にl-メチオニンの正常眼暗順応に及ぼす影響を,網膜の中心部及び周辺部の各部位に就いて検索の結果,メチオニンは可成り暗順応を促進することを報告した。今回は,dl-メチオニンの正常眼暗順応,及び網膜色素変性症患者の暗順応に及ぼす影響を検索し,一方対照として,アダプチノールの暗順応に及ぼす影響を,夫々に就いて検索したが,それ等の暗順応促進効果の比較検討を試みて,メチオニンの眼科的応用への手がかりの一つとしたいと考えた。

(21)夜盲疾患の新治療法—特にアダプチノールの效果について

著者: 今泉亀撤 ,   渥美健三

ページ範囲:P.213 - P.223

I.緒言
 第二次大戦中,独逸に於いて,視紅再生促進物質として研究せられたHelenienを主体とするAdaptinolを使用し得たので,これを機会に,当教室に於いて最近3年間に,各種の夜盲疾患,殊に日常しばしば遭遇する網膜色素変性を対象として,試みられた種々の治療法の効果を比較検討して見た。

(22)翼状片の統計的観察,特に再発とβ線照射について(第1報)

著者: 斉藤嘉輔

ページ範囲:P.225 - P.232

緒言
 翼状片は日常屡々遭遇する疾患であるが,未だ其の原因は殆んど判つていない。而も手術後屡々再発を起し殆んどの眼科医が,これに悩まされた経験を持つていると思われる。処で翼状片の研究の一端として,翼状片の統計に関しては,我国に於ても諸氏の報告があるが,手術後の再発に関して,詳細な検討を行つた結果は,未だ発表されていない。私は今回横浜市立医大眼科教室におこる最近11ケ年間(昭和20年より同30年迄)の翼状片の統計的観察を行い,特に手術後の再発に関して詳細に調査し,又其と昭和29年度より行つた手術後β線照射例の成績とを比較して,些か知見を得たので此処に報告する次第である。

(25)Trachomaの初発症状に関する諸問題

著者: 筒井純

ページ範囲:P.238 - P.242

 Trachoma (Tr.)の初発症状に関しては今尚論争を繰返しており,終局の結論は得られていないが,その考えは大体次の3つに分けられる。(1)慢性発病説,Mac Callan,Morax,Axenfeld,Nataf等主に古い学者によつて唱えられ,急性発病をするのは細菌の混合感染によるとする。(2)大部分はinsidiousに発病するが例外的に急性に発病すると云う考えでBietti,Tygeson等により主張され,現在のW.H.O.Tr.委員会の意見とされている。(3) Tr.の大部分のものはAcute又はSubacuteの症状で始まるとする説で,三井,国友,上野,青木,筒井等がこの考え方をとつている。
 私は今迄の研究の結果から此の問題を再検討してみたい。

(26)Trachomaの発病及び経過に関する臨床的研究(第1報)

著者: 窪田靖夫

ページ範囲:P.242 - P.248

緒言
 従来Trachoma (以下Tr.と略す)は無自覚のうちに発病し,徐々に進展する(所謂慢性発病)と内外共に認められて来た。然るに三井1)2)はこれに対し,実験Tr.の発病状況及び自然界に急性Tr.が甚だ多いとする事実から,Tr.が急性炎症性症状を以て発病することが多いと述べ,本邦諸学者の共鳴を呼んでいる如くである。
 尤もこの間中村3)は前述の所謂急性発病説に反対し,Tr.は徐々に発病すると述べ,又青木4)は学童を対象に定期検診を行ない,臨床的には慢性発病であるとし,これ等のうちには再発,再燃のものもかなり含まれている可能性があるので,初発は急性発病と云うことも認め得ると述べた。教室の鈴木教授5)6)7)が再三に亘り,Tr.が無自覚のうちに徐々に発病することを主張して来た事は云う迄もない。一方,海外に於てはGoar8),E.Bu-rki9)等は急性症状を以て発病すると為し,又Thygeson10)は小児の場合は慢性に(chronic)発病し,成人に於ては急性に(acute)発病すると述べているが,多くは所謂急性発病説に対し否定的であつて,Mac Callan11),Schieck12), omerville-Large13),Bietti14)等はいずれも,Tr.の発病の症状は軽微で,無自覚(insidious),慢性(chronic)に発病する事が多いと主張する。

(27)流行性角結膜炎とAdenovirus 8型との関係に就て

著者: 三井幸彦 ,   花房淳 ,   蓑田良司 ,   緒方鐘

ページ範囲:P.249 - P.250

 本日は流行性角結膜炎(以下EK Cと略す)とAde-novirus又はAPC virusと呼ばれる新しいウイルスとの関係に就いてお話いたします。Ademovirus又はAPCvirusというのは,1953年Rowe等(Rowe, W. P.etal.:Isolation of a cytopathogenic agent from hu-man adenoids undergoing a spontaneous degenera-tion in tissue culture, Proc.Soc. Exper.Biol.& Med.84:570,1953)が組織培養法で見つけ,その後一つのGroupのウイルスとして体系づけられつつあるものです。そしてHeLa細胞のような上皮系の細胞の組織培養に良く生えるウイルスです。
 このGroupのウイルスは,現在14型以上が分類されております。更にまだ増加の傾向にあります。その中第4型はカゼの原因の一部になつていること,第3型,第6型は結膜炎をおこしうることなどが知られています。APCというのはAdenoideal-Pharyngeal-Conjunctivalの略であります。

(28)流行性角結膜炎の疫学的研究

著者: 畠山昭三

ページ範囲:P.251 - P.256

I.緒言
 急性,或は亜急性に経過する一種の結膜炎の為,角膜に点状表層性の浸潤を来す流行性の疾患に就いては,1889年オーストラリヤに於けるE.Fuchs1)の発見以来,Hans Adler2),A.v.Reuss3),Stellwag4), Dimmer5)等の報告が相踵いで起り,本邦に於いても,井上6),浅山7),山本8),宮下9)等の記載があり,何れもその疾患に個々別々の名称を与えていたが,1938年R.Schneider10)がこれら一連の疾患を総括しKeratoconjunctivitisepidemica (以下流角結と略す)と命名する事を提唱して以来,現在一般にこの名称が使用されている。
 又本疾患の本態に関しては,印度に於ける流行に遭遇したWright11)の接種試験から一種の濾過性病源体が考えられ,Sanders,Alexander12),Calkins,Bond13),荒川14),Maumenee15),三井,田中16),杉浦17)等の孵化鶏卵,或はマウスの脳内接種による本病毒の分離固定が成功し,現在ウイルスによる流行性の疾患である事が,略決定づけられているようである。

(29)「スルフアチアゾール」内服に依り突発した瀰漫性表層角膜炎に就て—竝にロイコマイシン,ポリミキシンB複合剤点眼によつて起つた点状表層角膜炎に就て

著者: 田野良雄

ページ範囲:P.256 - P.259

〔Ⅰ〕スルフアチアゾール内服により突発した瀰漫性表層角膜炎の1例
 サルフア剤の創製以来,其の内服,注射,局所的使用に依る眼科領域に於ける副作用に就ては数多くの報告があるが,ペニシリン其他の抗生物質が代つて化学療法の主導的地位を占めるに至り,又前者を使う際にも高級サルフア剤を用うる場合が多くなると共に副作用は少くなつた。然し近頃ペニシリン注射禍を警戒してサルフア剤の使用が再び増大せんとする時著者はスルフアチアゾール(以下ス・チと略記する)内服により重症の瀰漫性表層角膜炎を突発した症例を経験したので之を報告する。ス・チは今日に於ても単独に或は他のサルフア剤と複合して使用せられる。

(30)東洋医学による白内障治療経験

著者: 小倉重成

ページ範囲:P.259 - P.263

 老人によくみられる不眠,下肢の厥冷や煩熱,易疲労性,精力減退,便秘,神経痛,夜間尿,肩凝,高血圧等を対象として東洋医学的治療を行つているうちに,全身状態の好転に伴つて白内障眼の視力の好転するのに気ずいた(第1表の第1例,第2例,第3例の如し)。そこで昭和30年より,31年にかけて44例の白内障を対象として,東洋医学的治療を行い,視力の推移を観察するに,効果のみるべきものが少くない事が分つた。

(33)白内障の薬物的治療に関する研究—其の2.カタリンの実験的キノイド白内障防止作用とその理論

著者: 荻野周三

ページ範囲:P.272 - P.278

 古来白内障の薬物的治療に関しては現在まで確実に効果のある方法が知られていない。勿論古く先人により水晶体の抽出液又は浸出液を応用したオイフアキン1),フアコリヂン2),等の名称で呼ばれた薬物が発表された事があるが,その効果は否定的であつた。現在わずかにヨードカリ点眼療法が3)4)5)比較的効果あるものとして余命を保つているにすぎない。然しこれとても其の効果を否定する人がないわけではない。
 斯くの如く白内障の薬物的治療の問題は世界的にも全く未開拓の分野なのである。これは白内障の治療,即ち手術と無造作に考えられて来た点と,白内障発生の原因が今まで明らかでなかつた点等に帰因するものであろう。

(34)"Succus Cineraria Maritima"の点眼による白内障の治療(続報2)

著者: 藤山英寿 ,   藤岡敏彦

ページ範囲:P.278 - P.281

 本剤の溷濁水晶体質吸収促進作用に関しては,既に本誌第8巻11号及び第10巻12号に於て述べたところである。而してこの吸収促進作用は,水晶体嚢が再び癒着しないように充分に截開されるか,或は外傷によつて破砕された後でなければ,現れて来ないことは前報に於て繰返し述べたところである。又初報に於て述べた副作用(虹彩毛様体炎)の点に就ては,その後の諸症例に於て全く再会せず,尚又,その他の副作用も全く認めなかつたものである。それ故本報に於ては,これらの諸点は省略し,実験例のみ説明したいと思う。

(35)水晶体過敏性眼内炎に於ける多糖類の意義

著者: 水川孝 ,   鈴江正 ,   城戸龍郎

ページ範囲:P.281 - P.285

緒言
 水晶体過敏性眼内炎はVerhoeff & Lemoine1)に依り提唱され,多数の研究者に依り其の本態が迫及されつつあるが,未だ人間に於ける臨床的眼症状と動物に於ける実論的眼症状との間には可成りの差がある点が研究の対象として残されている。当然該炎症に参与する可能性を有する,眼内,外の諸因子及び諸条件の影響が追及されねばならないが,就中眼組織中の抗元性を有する物質が,先ず取り挙げられねばならない。そこで吾々は水晶体嚢中に多く含有される多糖類を取り挙げ2),動物実論と共に,白内障嚢外摘術施行患者の皮内反応に依り,水晶体嚢多糖類の抗元性に関して一考察を試みた。

(36)緑内障加重試験の診断的価値

著者: 池田一三 ,   阪本善晴

ページ範囲:P.285 - P.285

 私共の加重試験は次のようにして行う。普通の眼圧測定時と同様Nupercain点眼麻酔後寝台の上に被検者を仰臥させ,10.0gの錘をのせたSchiotzの眼圧計を角膜中央部におき,ただちに眼圧計の示度をよみ5分間そのまま放置,5分後再度眼圧計の示度をよみ眼圧計を除去,以後5分間隔で眼圧を測定,加重除去30分後試験を終了する。
 1.未手術緑内障の眼圧下降率(加重前の眼圧−加重除去時の眼圧/加重前の眼圧×100)は,正常眼及び緑内障及び緑内障の疑ある眼にくらべ小なる値を示した。

(37)緑内障に関する研究—第12篇 緑内障誘発試験に関する基礎実論(其の1)

著者: 武田真

ページ範囲:P.286 - P.293

Ⅰ.緒言
 緑内障は眼科領域に於ける代表的疾患であり,その歴典もかなり古いが1860年に至り,Graefe氏により始めて眼圧と結びつけて考えられ,眼圧上昇がこの疾患の原因とされるに至つた。更に1905年,Schiötz氏が始めて実用的な眼圧計を考案し,眼圧測定が臨床的に容易に,而も可成り正確に出来る様になつて,緑内障の研究も大きく進歩した結果,単性緑内障の如く眼圧の高くない緑内障の存在も認められるに至つた。従つて緑内障の定義も現在では眼圧調節機能障碍により視機能の障碍される疾患であるとされるに至つた次第である。
 扨て,この緑内障は罹患率が可成り高く,治療法も種々行われているが,何れも完全に永久的なものではなく,屡々再発を繰返して結局失明に陥る事が多い重篤なる疾患であるにも拘らず,その初期は発見が困難であり,単なる老視と混同される場合が極めて多い現状である。従つて緑内障の早期診断,経過観察,治療の効果判定を目的とする誘発試験なるものは,その意義が極めて大きいと考えられる。

(38)再び「いわゆる軽症慢軸」の説について

著者: 桑島治三郞

ページ範囲:P.295 - P.296

 国際医学的には,眼科でいう軸性神経炎Neuritisaxialisと球後神経炎Neuritis retrobulbarisとは,同義語としてとり扱われているが,これを輸入したわが国では,球後神経炎の問題について独特な偏向と多くの混乱とが残され,現在そのひとつに一部の人のいわゆる軽症慢性軸性視神経炎の説がある。
 これに対して私は昨年の当学会で疑義を明らかにしたが1),これに答えた鈴木教授の論文をみると2),同氏らは,そのいわゆる軽症慢軸が,欧米の軸性神経炎ないし球後神経炎と本質的に区別されるべきものであり,また,わが国の脚気弱視ともちがうものであると自認しながら,依然としてこれを軸性神経炎としても不自然ではないと力説されている。

(39)球後視束炎患者に於ける網膜中心血管血圧の測定成績

著者: 白柏仁郎

ページ範囲:P.296 - P.303

 球後視東炎患者に就いて網膜中心動脈血圧(N.A.D.)を測定した報告は少なからず見られる。既に古くRollet,Sargnon,Corat et Mounier-Kuhn (1927)は鼻性球後視束炎においては網膜高血圧があり,視力障碍の強いほど血圧は高く鼻内手術による視力増進に伴い低下すること,naso-okularer Reflexに基く中心動脈の緊張による血圧上昇が,手術による血管収縮の排除の結果低下して視力改善するものであると述べたのであるが,以来鼻内手術との関係に就いてはGuillerminet Chams (1931),Cattaneo,Lasagna (1938)等の記載があつて,鼻疾患時にN.A.Dは高く手術により低下することから,鼻腔は自律神経系を介する反射路によつて起る網膜,視神経内循環障碍の出発点であると云う記載が見られる。
 Baillart et Tille (1934)は球後視束炎においては局所性低血圧が見られると述べているが,Karl Ascher (1938)は多発硬化症における球後視東炎の大多数例においてN.A.D.は著しく上昇を示し,球後視東炎を伴わない多発硬化においてはN.A.D.の正常のものと高いものとあったと報告している。

(39)網膜剥離眼のE.R.G.

著者: 浅山亮二 ,   永田誠 ,   今野信一 ,   柴田明子

ページ範囲:P.304 - P.321

緒言
 Riggs,Karpe等によるコンタクトレンズ電極技術の導入以来,ERGはそれ迄の様に生理学的研究の対象としてのみでなく,臨床的に網膜機能を純他覚的に検査する有力な手段として脚光を浴びる様になつた。併し之がEKGや脳波或はEMGの如く容易に普及化しないのは決してERGに臨床的意義が乏しい為ではなく,進歩したとは云え,街その誘導描記に可成繁雑な装置と熟練を要し,改良すべき多くの技術的難点を持ち,従つて其の臨床的研究が充分に体系づけられていない為と考えられる。我々も数年前よりERGの臨床的応用を企図し,研究を行つていたが特に電極の点で容易に満足すべき結果が得られなかった。最近に至つて漸く此の難点を解決し,可成誘導法を簡易化する事が出来た。又刺戟光にストロボスコープ閃光を用い,従来とは可成異る表現の人眼ERGを描記し,臨床的ERGの新しい方向を見出し得た。以下我々の方法による正常人眼ERGに就いて述べ,更に網膜剥離患者の手術前後のERG測定結果を報告する。

(41)網膜剥離のヂアテルミー手術の後療法に就いて

著者: 田川博継

ページ範囲:P.321 - P.326

Ⅰ.緒言
 恩師盛教授は周知の如く,本邦に於ける網膜剥離(以下剥離と略称)手術療法を略々完成の域に達せられた。我々は更にその細部に就いて検討する義務ありと考える。
 剥離治療に於ける患者の最大の苦痛は術後の長期に亘る絶対安静である。近時総ゆる外科手術後の早期離床が行われて居る。この点からも検討の余地ある様に思われる。

(42)斜視と固視との関係について(斜視研究6)

著者: 中川順一 ,   鈴木昭治

ページ範囲:P.326 - P.331

 斜視と固視との関係は重要な問題と考えられるが余り研究が行われていない。Duke-Elderは罹患眼に.より一側性斜視(S.uniocularis)と交代性斜視(S.alternans)に区別するといつている1)。Scobeeはmonoculardeviatorとalternatorを恰もdifferent clinicalentitiesの如く述べている2)。しかし両者の間に確然と一線を引くことは困難であるのみならず,正中位の斜位は他の眼位におけるものと必ずしも一致しない。また斜視を現在性と潜伏性に分かつが,固視の距離方向により変化するものである。
 斜視眼は罹患側を示すものと一般に考えられているようである。上記Duke-Elderもthe affected eyeなる言葉を使用している。この場合斜視側の異常を積極的に認めることを意味するものとは考えられないが,多くの人々により何等かの異常を暗々裏に予想されていることは,例えば手術を斜視眼に加えることからも推量される。若も何れの斜視型も両眼の眼筋平衡異常によつておこるものとするならば非斜視眼に手術を加えても差支ない駅で,理論的には対称的手術の方が合理的であろう。無論特殊の場合,例えば眼筋麻痺(之とても例外があるが)では斜視眼は病側(巣)診断に役立つが,共働性斜視に於いて果してpathognostic meaningを有するであろうか。

(43)垂直移動視に就いて

著者: 小口武久

ページ範囲:P.331 - P.336

 固視した物体が,それ自身は静止しているに拘わらず,一定の方向へ動いて行く様に感ぜられる現象を,私は移動視と呼び,前後方向に移動するものを,矢状移動視,水平方向に移動するものを,水平移動視とした。今回は垂直方向に移動すると訴えたもの,即ち垂直移動視に該当する3症例に就いて述べることとする。

(44)視神経(眼窩部)から発生したグリオーム及びメニンギオームに就て

著者: 須田経宇 ,   宮田典男

ページ範囲:P.336 - P.342

 視神経から発する原発性腫瘍は,膠腫Glioma,髄膜腫Menimgioma,内皮細胞腫Endothelioma,繊維腫Fibroma,血管肉腫Angiosarcoma等であると云われている1)。Davis3)によれば視神経から発生した原発性腫瘍は,3分の2は膠腫で,3分の1が髄膜腫であったと云う。而して視神経からの原発性膠腫の発生頻度はCollin and Mar-shall4)(1900)によれば,388,000人中2例にみられたと云うから比較的稀な疾患である。我国で報告されているもので,臨床的に又組織的に調べてあるものは私共のしらべた範囲では神経膠腫8例,髄膜腫11例であつた。
 私共も最近視神経から原発した膠腫及び髄膜腫を経験したのでここに報告し,膠腫についてはそれを構成する細胞の種類に就いて,又髄膜腫に就いては之と在来から云われている内皮細胞腫,繊維腫,砂粒腫,血管腫等との関係に就いて述べてみようと思う。

(44)涙腺部腫瘍に就いて

著者: 高安晃 ,   伊佐敷康政 ,   田之上虎雄 ,   松田禎純

ページ範囲:P.342 - P.344

 涙腺部腫瘍とは涙腺及びその附近の腫瘍を言う。初めて之を記載したのは1746年Börhaeveで亦初めて病理組織学的に検索したのは1876年V.Beckerが腺細胞の増殖及び間質組織の増殖を観て涙腺の腺腫と命名した。涙腺部腫瘍は比較的稀有なものであるが,その頻度に就いては全眼疾患、に対しSchäffer (1895)は0.004%,Mooren (1917)は0.0045%,Berlin (1917)によれば0.19%,Peter (1894)によれば眼窩腫瘍との比は30対1であると云う。庄司氏(1915)は0.006%,岸野氏(1932)は眼窩腫瘍の18.75%であると言う。私共が吾が国の文献中から得た724例中84例即ち11.60%に相当する。比較的稀有である事は昔から述べられているが,私共が調査した結果では眼窩内容組織から発生した事が判明した。
 腫瘍180例中84例が涙腺部から発生し,即ち46.67%を示している。即ち眼窩内容の中ではその首位を占めている。この様に涙腺に発生する腫瘍は他の眼窩内組織より発生する腫瘍に比しては比較的多い事になる。即ち涙腺は腫瘍発生の基地に適して居るとも考えられる。

(46)眼部悪性腫瘍の2例に就いて

著者: 松本喬久 ,   荒木保馬

ページ範囲:P.345 - P.349

 悪性腫瘍の診断及びその予後の判定は従来からその臨床所見と試験切除片の組織学的検査に根拠を置いて居りますがFischer以来組織体外培養が急速に進歩を遂げたので腫瘍組織の体外培養を行つて,予後の判定を行うのも一方法であると考えられます。私共は眼部腫瘍で悪性と推定せられた2例に就いて,腫瘍組織の体外培養を行い其の培養成績と臨床経過とを比較して一定の関係が認められたのでここに報告いたします。

(48)Behcet氏症候群,特にその骨髄像に就いて

著者: 佐野正純

ページ範囲:P.349 - P.354

 昨年本学会でBehcet氏症候群の2症例並びに組織学的所見に就いて述べた。今回は更に1例を加え3例に就いて骨髄像及びその後の経過並びに知見に就いて報告する。

(50)トノグラフイーの臨床(第2報)—飲水試験について(其の1)

著者: 景山万里子

ページ範囲:P.355 - P.363

I.緒言
 Grant (1950)の創案になるtonographyの研究は,その後アメリカに於て追試され,最近では我が国に於ても,2〜3の研究発表が見られる様になつた。
 tonographyは電気眼圧計を使つて行うものとされているが,私は普通の「シエッツ」眼圧計に,考案した固定装置を施して,かなり正確にtono-graphyを行う事が出来た。この方法は,同時にMullerの電気眼圧計を使つて比較してみたが殆んど変らない測定値であつた。この実験装置,実施方法,電気眼圧計との比較,測定成績等については別に発表するので此処には省略する(第1報)。

(55)白内障全摘出手術の最近の術式改良について

著者: 井上正澄

ページ範囲:P.365 - P.368

 白内障全摘出手術は合理的に行えば嚢外摘出より安全な手術であることは熟練した諸家の等しく認める所である。この手術の細部には種々の変法があつて取捨選択に迷う程であるが,変法のうちでも簡単な操作は効果が不確実であつたり,逆に確実な操作は面倒で実用に向かないこともある。たとえばスタラード縫合をかけて一刀のもとに角膜切開を行えば簡単であるが,往々にして縫合糸が弛むために創口癒着が遅れ,術後4—10日に前房出血を起し易い。その逆に効果確実なマツクレン縫合では術式が複雑である上に,糸の間をねらつて鎗状刀や線状刀で角膜を切開することは糸を切る危険が多いので,この頃では行う人が少くなつた。これよりも安全と思われる方法として横の方から角膜鋏で糸の間をねらつて切開するとしても糸を切る危険が全くないとは言えない。しかしマツクレン縫合を2—3糸かけてしまうと創口接着は強固に行われるために安静度が高くなくとも前房出血,虹彩脱出,創口再開,瞳孔挙上などは見られない。
 私は1953年欧米旅行帰朝以来嚢外摘出から全摘出に切りかえる事を考えて先ずスタラード縫合2糸を用いて数例,ついでトラクト縫合2—3糸を用いて数例,ついでマツクレン縫合1糸と結膜連続縫合とを用いて約90例,マツクレン縫合1糸を2糸にまして50例,以下で述べる改良法を用いるようになつてから半年間に38例,以上合計188例の全摘出を1956年10月中旬まで約3年半に行つてきた。

(56)ブルヌビーユ・プリングル氏母斑症の1例

著者: 森部正子

ページ範囲:P.369 - P.372

I.緒言
 1880年Bourneville氏によつて始めて発見された本疾患は,現在Phakomttosis Burneville-Pringliと呼ばれ,稀有な疾患の一つに数えられて居る。本疾患は癲癇発作,精神発育障碍,脂腺腫,網膜母斑症を主徴候とし,其の他に脊椎破裂,頭蓋畸型,馬蹄腎,等々の先天性畸型を合併する。私は今回本症の不全型と思われる症例に接したので眼科的所見をのべて,諸賢の参考に供したいと思う。

(58)緑内障に関する研究 第十三篇—Acetazoleamide (Diamox)の作用機転の本態に関する研究(其のI)

著者: 湖崎弘 ,   東郁郎

ページ範囲:P.373 - P.378

I.緒論
 1954年Becker1)が緑内障患者に利尿剤たる炭酸脱水酵素阻害剤acetazoleamide (Diamox)を用いて,眼圧下降作用のある事を見出して以来,Diamoxの臨床的応用及び研究が数多く発表されて来た。私達2)3)も既にその効果に就いて発表せる如く,現在Diamoxの緑内障に対する卓効性は広く諸家に認められ,重要なる治療薬として使用されている次第である。
 併し勿ら,利尿剤であり,炭酸脱水酵素の阻害剤であるDiamoxが,如何なる機転で眼圧下降作用を示すかと云う点に関しては,現在に到るも尚完全に一致した見解に達していない。中でも最も広く信じられているのは,Becker,Kinsey等の説である。即ち重炭酸イオンが水先案内的役割を果すと云う房水産生に関するKinsey4)の分泌拡散説と結びつき,Diamoxが毛様体中の炭酸脱水酵素を阻害して,重炭酸イオンの後房中えの分泌を抑制し,従つて房水産生を減少せしめ,眼圧を下降せしめるとする説である。

(60)胃癌からの転移性脈絡膜癌—倉知教授就任15周年祝賀論文

著者: 青木辰夫 ,   米村大蔵

ページ範囲:P.378 - P.382

 転移性脈絡膜癌については,現在迄に200例以上の報告1)-11)があるが,その原発集は殆どすべてが乳癌で,その他に少数の肺,気管枝癌もある。しかし胃癌2)-4)からのものは極めて稀で我が国では菅沼4)の1例のみのようである。我々は胃癌から転移したと考えられる,しかも原発巣の症状発現より数カ月前に眼症状を現わし,原発巣発見に役立つた本症の1例に遭遇し,眼球及び胃の両者の組織学的検索をなすことが出来たので報告する。

(65) Behcet氏病の脳脊髄液所見について 附 本症の細菌学的検査成績

著者: 船坂圭之介

ページ範囲:P.383 - P.387

 曩に佐野正純氏が報告した2例に,その後の1例を加え,3例について,脳脊髄液の一般検査,並びに細菌学的検査,特に電子顕微鏡的検査の外,血液,歯髄膿,陰部潰瘍分泌物,前房水,アフタ性口内炎の一部,尿などについて,細菌学的探索を行つたので,茲に報告し,些か私見を述べて大方の御教示を乞う次第である。

(67)生体角膜レプリカについて

著者: 清水新一 ,   幅猛

ページ範囲:P.387 - P.390

緒言
 私共,医学方面で,電子顕微鏡の応用は,実に多く,微小体を始め微細構造の究明に非常に役立つて居る事は,喋々する迄もない。
 所がレプリカへの応用は,特殊な場合や物を除いて,生体特に粘膜のレプリカそれ自体が非常に困難であるために,今日迄洋の東西を問わず何人も未だ成功していない。即ち,従来,生体レプリカとか,生物レプリカとか言われているが,生存しているものから,そのままの状態についてのレプリカは一つも成功していないのである。

(72)高度の眼底変化を伴つたDisseminated Erythematodesの一例(附.組織学的所見)

著者: 加藤格 ,   大本純雄

ページ範囲:P.390 - P.394

 Erythematodesの経過中に,眼底変化を伴うことは,比較的稀とされ,事実,我国の報告も田野氏(1949)以来数人を数えるに過ぎない。しかも本症の眼球の組織学的検査は,眼科領域には,全くなく僅かに皮膚科領域に於いて,速水氏等の簡単な報告をみるのである。
 我々は,今度比較的高度の全身症状と眼底症状とを伴つた1例について1年有余の経過を観察し得たので,眼球摘出術により得た右眼の組織学的所見と併せて報告する。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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