特集 第10回臨床眼科学会号
一般講演
(55)白内障全摘出手術の最近の術式改良について
著者:
井上正澄1
所属機関:
1井上眼科
ページ範囲:P.365 - P.368
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白内障全摘出手術は合理的に行えば嚢外摘出より安全な手術であることは熟練した諸家の等しく認める所である。この手術の細部には種々の変法があつて取捨選択に迷う程であるが,変法のうちでも簡単な操作は効果が不確実であつたり,逆に確実な操作は面倒で実用に向かないこともある。たとえばスタラード縫合をかけて一刀のもとに角膜切開を行えば簡単であるが,往々にして縫合糸が弛むために創口癒着が遅れ,術後4—10日に前房出血を起し易い。その逆に効果確実なマツクレン縫合では術式が複雑である上に,糸の間をねらつて鎗状刀や線状刀で角膜を切開することは糸を切る危険が多いので,この頃では行う人が少くなつた。これよりも安全と思われる方法として横の方から角膜鋏で糸の間をねらつて切開するとしても糸を切る危険が全くないとは言えない。しかしマツクレン縫合を2—3糸かけてしまうと創口接着は強固に行われるために安静度が高くなくとも前房出血,虹彩脱出,創口再開,瞳孔挙上などは見られない。
私は1953年欧米旅行帰朝以来嚢外摘出から全摘出に切りかえる事を考えて先ずスタラード縫合2糸を用いて数例,ついでトラクト縫合2—3糸を用いて数例,ついでマツクレン縫合1糸と結膜連続縫合とを用いて約90例,マツクレン縫合1糸を2糸にまして50例,以下で述べる改良法を用いるようになつてから半年間に38例,以上合計188例の全摘出を1956年10月中旬まで約3年半に行つてきた。