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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科12巻1号

1958年01月発行

雑誌目次

日本トラホーム予防協会会誌

台湾に於けるトラコーマ予防計画

著者: 揚忠言

ページ範囲:P.1 - P.3

 貴会の御招待を得て15年振りに日本を訪問し得たことに対し厚く御礼中し上げます。(註第16回日眼総会出席のこと)
 戦後日本医学の進歩発展は誌上やあらゆる機会に於て見聞し,貴国の為慶賀に堪えません。一方台湾の公衆衛生も聯合国の援助を得て,実に驚異的の成果を得ているのであります。この点に関しては,臨床眼科第10巻第7号に於て,呉耀南先生が詳しく述べられておりますから,今日は主に台湾に於けるトラコーマの予防対策に就いて紹介し,諸先輩の御啓示を仰ぎたいと存じます。先ず私は眼科専門医ではない事を念頭に置いて御聴き下さる事を御願い致します。

綜説

色覚異常と災害医学

著者: 市川宏

ページ範囲:P.7 - P.24

I.緒言
 社会生活と色覚異常との関係は,近代科学の発達と近年の異常な交通量の増加に伴う社会機構の複雑化に伴つて益々重要な課題となつている。色覚異常が原因して起した事故も又,之に伴つて頻発しているであろうと思われるが,事故発生の状況が複雑であるため,明らかに色覚異常による事故と断定し得る場合は案外少い。しかしGanter(1956)1)は独逸の交通機関に於て色覚異常が事故の原因となつていると確め得た6例についての報告をしていて,この種の事故の少くないことを示唆している。一方米国に於ては色覚異常者にとつてもなるべく安定した色感を与えるような信号灯についての研究が近時行われ,Judd (1952)2)やSloan and Habel (1955)3)等によつて,色覚異常者を顧慮した信号灯色のJudd chromaticitylimitsについての検討がつづけられている。
 しかし,僅かの色覚異常の故にSchwichten-bergの云うように何かにつけて"色盲"と云われ,社会から除け者にされることは不幸なことであつて,吾々臨床家としては色覚異常の程度を充分に究明した上で適切な忠告と職業指導を行うように努めなければならない。しかし色覚の異常度ということは沢4)氏の適切な表現にもあるように,一つの基準,たとえばanomaloscope或は色盲表だけで程度を決めることは出来ない。

臨床実験

水晶体嚢皺襞形成について—特にチン氏帯異常と関聯して

著者: 高久功

ページ範囲:P.25 - P.29

緒言
 水晶体嚢の皺襞形成はVogtが始めてこれをLinsenkapselfaltungと名付け,水晶体嚢の主要な病的変化の一つとして記載した。其の後本症についての報告は稀である。私は最近本症の四例を経験したので報告する。

視力と作業事故について

著者: 小島克 ,   山本純恭 ,   丹羽泰仲 ,   阿部圭助

ページ範囲:P.29 - P.33

緒言
 何等かの危険を伴う作業に従事するものの事故による傷害の発生が,その従業員の視力とどのような関係をもつかを糾明することは,炭害の予防,労務管理等にとつて極めて重要なことである。
 問題は,その作業内容により,従業上の地位により,その他各種の要因によつて著しく異なると考えられるが,我々は以下述べる一つのケースについて調査分析を行つた。

動脈硬化症並びに高血圧症患者血清のリポ蛋白と網膜中心動脈血圧および角膜脈波との関係

著者: 沼尾智代子

ページ範囲:P.33 - P.39

緒言
 動脈硬化,特に粥状硬化症(Atherosclerosis)の成因にコレステリン,および脂質が重要な要素をなし,その血管壁への沈着が,本症成因の焦点であることは否定し得ない。
 最近に至り,リポ蛋白中のα-リポ蛋白は減少し,β-リポ蛋白は増加すると論ぜられ,動脈硬化とLipid代謝の相互の関係は興味ある研究課題と考えられる。

眼球突出症例の統計的観察

著者: 原清 ,   田岡昭二 ,   木田幸男

ページ範囲:P.40 - P.42

 眼球突出は,眼窩疾患の最も重要な症候とされているが,眼窩の構造の複雑性,その病変の深在性等により,瘻々眼球突出の原因の診断に困難を感ずる事が稀でない。
 我々は阪大外来でみられた眼球突出症例に就き,種々の面より分類観察してみたので以下報告する。

Prednisoloneの眼科的応用

著者: 浅山亮二 ,   永田誠 ,   森寺保之 ,   池田和夫 ,   岸本達也

ページ範囲:P.42 - P.54

緒言
 眼科に於ける最近の各種ステロイドホルモンの応用は眼疾患の治療に新紀元を劃したものであり,其の強力な抗炎症作用殊に,抗アレルギー作用は既に万人の認める所である。最近Cortisone,Hydrbcortisoneに加えて更たより強力で毒性の少い合成副腎皮質ホルモンとしてPrednisone及びPrednisoloneが現われた事は周知の事実であり,眼科臨床にも既に広く使用されているがPrednisoloneの眼局所的な使用は今迄製剤の関係で余り行われず,未だCortisone,Hydrocor-tlsoneに取つて代る程普及していない現状である。
 我々は最近塩野義製薬よりPrednisolone (商品名Predonine)の眼軟膏及び点眼用として関節腔内注入用懸濁液の提供を受け,種々の眼疾患特に前眼部の炎症性疾患に之の局所的使用を中心とした治療を試み,又之に先立つて家兎を用いて卵白によるアレルギー性角膜炎に対するPredonineとHydrocortisone局所使用の効力比較試験を行つたので其の成績を述べる。

新鎭痛剤ノブロン注の使用経験

著者: 多田桂一 ,   涌井嘉一 ,   小関茂之 ,   横山休子

ページ範囲:P.55 - P.60

緒言
 我々が日常診察にたずさわつていると,疼痛の対策について頭を使う事が多い。特に手術時の疼痛及び術後の疼痛より患者を解放する事は,我々の義務であり,夢である。この為に使用される薬剤は疼痛の鎮静が可及的速かであり,持続性があり,且副作用のない事が望ましい。この意味から麻薬に属するアルカロイドの使用は余り感心したものでなく,ピラビタール,ブロバリン等の鎮痛剤催眠剤等が使用されているが,その効果は満足すべきものではなかつた。
 近来クロルプロマジンが所謂人工冬眠法として使用されてから,その特異な薬理作用は各方面から注目されて,その臨床応用範囲が次第に拡大され,各科に於て広く応用される様になった。

レゾヒン投与を試みた乾性角結膜炎患者の1例—倉知教授就任15周年祝賀論文

著者: 別所富夫

ページ範囲:P.61 - P.65

I.緒言
 1933年〜1941年にわたりSjögrenは涙液分泌減少を伴う糸状角膜炎患者について,臨床的,並びに組織学的に詳細に研究し,之は口腔及び上部気道の乾燥,唾液腺の腫脹,慢性関節炎等を伴う一種の全身病の眼症状であることを明らかにし,此の眼症状を乾燥性角結膜炎と名付け,全身的に現われる症候群を「Dacryosialoadenopathia a-trophicans」と呼ぶことを提唱した。1936年,Grószは之等の症候群をSjögren's Syndromと呼んでいるが,既に1926年にフランスの皮膚科医のGougerotは唾液腺並に結膜,口腔,鼻腔及び喉頭の粘液腺の高度の萎縮を来す症候群を認め之は恐らく内分泌或は血管運動神経の原因不明の障碍に基くものであろうと報告しており,Duke-ElderはGougerot-Sjögren-Syndromと記述している。欧米では本症について極めて多数の報告例があるが,我国では比較的少く,昭和13年,はじめて岡島が報告し,次いで昭和16年河合により追加報告された。其後,田坂,前田,佐古,奥田,宮沢,小原,板垣,船津等により発表されているが,諸氏の例を合してもSjogren只一人の報告例数にも及ばない状態である。私も一例を診察,治療する機会を得たので追加報告する。

サルミツクスの奏効せる樹枝状角膜炎の細隙灯所見について

著者: 太根節直 ,   鈴木羊三

ページ範囲:P.65 - P.68

 樹枝状角膜炎は日常稀ならず遭遇するものであるにも拘わらず,今日尚その本態に関し臨床上考察すべき点が多々残されている。今日迄比軟的多くの報告があるのに尚現在多種多様の療法が試みられ,確立された治療法がなく依然難治な疾患とされている。最近,余等は樹枝状角膜炎の1症例にサルミツクス剤を使用して意外の著効を認め,尚且つ細隙灯で終始興味ある所見を観察し得たので,茲にその大要を報告することにした。

前眼部血管にみる形態的病変の分類について

著者: 加藤謙 ,   天羽栄作 ,   佐藤静雄

ページ範囲:P.68 - P.73

緒言
 生体の或部位の病変を観察分類する方法は,多くの研究者が次第に周到綿密な観察を加えるにつれて多彩複雑となつて行くが,併し観察成績を比較検討するためには或単一明白な分類が比較的長期に亘つて採用せられることが望ましい。
 われわれは前眼部血管の病変を分担して異なつた立場から観察するにあたつて,共通の分類を採用する必要を感じ,先人の多くの業績を参考として協議の結果,現況に於ては以下述べるような観察記載の様式が妥当であろうと考えるに至つた。素より多くの観察者の採用した分類のすべてを包括し而も繁簡よろしきを得ると言うことは仲々困難であつて将来も次第に訂正改善を加えて行かなければならないことは当然であろう。

血圧と関係のある2〜3の眼底所見について—(その4)網細動脈硬化と血清脂質濃度並びに体重との関係について

著者: 加藤謙 ,   松井瑞夫 ,   島崎哲雄

ページ範囲:P.73 - P.78

緒言
 細動脈硬化の発生機転は,大中動脈のアテローム性動脈硬化のそれと稍々異つていることは確実のように思われる。例えば持続的血圧上昇との関係は,アテローム性硬化でも認められるとは言え細動脈硬化の方が一層密接である。又細動脈硬化とアテローム性動脈硬化の発生及びその程度は同一生体に於て必ずしも平行しない等の事情がある。
 偖,生体に於て動脈硬化の発生を種々なる要因から分折的に検討する事は極めて重要であると思われるが,これはこの2種の動脈硬化の何れに対しても容易ではない。その理由は,生前に於けるアテローム性動脈硬化の診断は主として間接的診断(X線所見,臨床症状等)によつてなされる事情にあり,又細動脈硬化に関しては適当な観察方法がなかつたからである。

2,3のアレルギー性眼疾患に対する5-Oxin錠の併用効果

著者: 菅原淳 ,   浜田正和

ページ範囲:P.78 - P.81

緒言
 必須アミノ酸の一つであるトリプトフアンの中間代謝産物たるアントラニール酸及び5-オキシアントラニール酸が種々の生理作用や薬理作用を有することが次第に明らかになつており,眼科領域ではその製剤である5-Oxin錠が,飯沼氏,清水氏等によつて原発性緑内障に有効であると報告されているが,私共は曩に中心性漿液性網脈絡膜炎に著効を呈したことを報告した。そこで私共は更にゾンネボード製薬から5-Oxin錠の提供を受けて,これがアレルギー性眼疾患に如何に作用するかに興味を持ち,数種のアレルギー性眼疾患に使用した結果,著効をみとめるものがあつたので再び報告するものである。

オレアンドマイシンの眼内移行について

著者: 近藤有文

ページ範囲:P.82 - P.84

 抗生物質療法の進歩は昨今に至つても,ますます目覚ましいものがあり,新抗生物質が次々と治療界に登場しつゝある。この中エリスロマイシン類似抗生物質として先に秦氏等によりロイコマイシンが得られ,次いでフランスではスピラマイシンが,アメリカではノボビオシン,オレアンドマイシン(以下OLM)が発見せられた。
 OLMはStreptomyces antibioticusの一菌株より分離された抗生物質で,その抗菌スペクトルはグラム陽性菌及び陰性菌の中のナイセリア(淋菌),インフルエンザ菌,百日咳菌等に作用し,リケツチア,大型ビールス,原虫にも有効とされる。

ベニシリンVの眼内移行について

著者: 近藤有文

ページ範囲:P.85 - P.87

 ペニシリン(以下PC)の経口投与が従来あまり用いられなかつたのは,PCが酸に対して非常に不安定で,経口投与すると胃内で破壊されるため大量を必要としたのによるが,このため主として小児科領域で胃酸酸度の低い幼児に一時用いられていたに過ぎなかつた。しかしPCの大量生産が順調になつてから,PC療法の大半は注射療法が占めるようになり,径口投与は殆ど顧りみられなかつつたといつてよい。しかるに我国ではたまたまPCの副作用が過大に報道された結果,注射よりも重症な副作用の少い経口投与が検討されてきた。こゝに登場したのが,酸に対して安定で経口投与に適しているPCVである。
 PCVは米国では1955年より,我国ではそれより一年遅れて市販されたのであるが,PCVは既に947年Behrens等により合成されており決して新しいPC剤ではない。

結膜疾患に対する2,3新抗生物質の治療効果—第2報 Oleandomycin

著者: 浅水逸郎 ,   浅水明子

ページ範囲:P.88 - P.93

I.緒言
 オレアンドマイシン(Oleandomycin,以下OLMと略記)はSobin等に依り,Strepto-myces antibioticsの一菌種より分離された新抗生物質であり,化学的,物理的性質により,エリスロマイシン(EM)類似の抗生物質で,EM,カーボマイシン,ロイコマイシン(LM),スピラマイシン,ノボビオン等に近似のものとされている。
 OLMの特性としては,他の多くの抗生物質との間に交叉耐性を示さず,ペニシリンやEMと併用して相乗作用を認め,サイクリン系抗生物質との合剤は協力作用があると云われ,海外にては既に此の合剤が使用されている様である。

手術

網膜剥離に対する薄葉状鞏膜切除術(Lamellar scleral resection)

著者: 関野伊佐夫 ,   伊藤信雄 ,   山田清一 ,   富沢愛士 ,   松本和夫

ページ範囲:P.94 - P.98

緒言
 諸種眼疾患の中でも殆んど不治の疾患と見なされていた網膜剥離も,網膜の裂孔に対するGoninの烙刺法(1916),Weve,Safar (1932)のヂアテルミー電気凝固法により治癒し得ることが判つた。然るに一方に於いて,Goninより以前にMullerは鞏膜(全層)切除による手術を報告し,その後多くの人々の改良を経て薄葉状(部分層)切除術が最近後述する様な或る種の症例に対して施術される様になつたが,本邦での本手術の報告は少い(百々1),岸本2),浅山3)等)。我が教室に於いても本手術を行い,その経過を観察することが出来たので報告する。

眼科新知識

シエツツ氏眼圧計の検定について

著者: 植村操

ページ範囲:P.99 - P.105

緒言
 眼圧の数量的計測は,臨床上眼圧計によるにしくはない。その中でも万国共通と云われるものは先ずシエツツ氏眼圧計と云い得よう。従つて,このものゝ規格の統一がなくては,眼圧の正常,異常の境界線上の問題は,宜敷く論議し得ざるものとなる。又河本氏等が報告されている如く,甲の眼圧計では眼圧は低く又乙の眼圧計では高く出ると云う様では診断並びに治療の上に問題が生じる。この様な眼圧計に関する幾多の問題が初期緑内障に対する研究の進歩と共にさけばれ,眼圧計規格統一に迄前進してきた。独乙に於いてはシエツツ氏自身により検定が行われ,其の後Arnold氏等により受継がれてきたが,未だ眼圧計検定機関なるものはない様である。Americaに於いてはSchenberg,Posner氏等により創められ,Friedenwald,Harrington,Kronfeld氏等によりおし進められ,1942年にはThe Committee onstandardization of Tonometers of the Ame-rican Academy of Ophthalmology and Otol-aryngologyが創立せられ,現在迄此所の規格が洋の東西を問わず用いられてきた。我国に於いてもかつて宮下氏により検定が行われていた様であるが,其の後は製造者の自由にまかされて居た。

私の経験

鶏の嘴による眼外傷—証人として裁判所へ出頭した経験

著者: 南熊太

ページ範囲:P.106 - P.109

 鶏による眼外傷に関連して,昭和24年7月11日,証人として,某裁判所に出頭した時の経験を次の如く記載しおかんとするものである。
 女幼児が,近所の他家の鶏に追いかけられて来て,左眼に,鶏の嘴にて外傷を受けたのであるが暫く近所の医師の治療を受けていて,昭和23年5月18日に,当時の久留米医科大学眼科に受診したものであるが,その当日の所見として,右上眼瞼にて中央より,稍々鼻側寄りにて,瞼縁と眉弓との略々中央部に皮膚に瘢痕を認めたが,右眼球そのものには,特に異常は認めなかつた。左上限瞼にても,眼瞼の略々中央,瞼縁と眉弓との略々中央部に横に約5mm長さの皮膚瘢痕を認めた。前房浅く,対光反応(直接)認めず。3,4,5時の部分,及び7,8,9時の部分に虹彩離断を認めた。外上方,角膜縁より約5mm離れて,長さ約7mmの鞏膜膨隆部を認む。鞏膜穿孔創後の瘢痕組織による膨隆と思われる。硝子体中には濃厚なる血塊充満しおり,斜照法によつても,水晶体の直後に認められる位であつて,従つて,眼底の状況の詳細等は,勿論認められない。其後は,治療しながら経過を観察したのであるが眼圧は,次第に低下し来り,硝子体内には結締織増殖し来り,水晶体溷濁を表し来たり,漸次,眼球は萎縮し角膜に白斑を生じ,眼球癆に陥り,次第に眼球癆は其の度を増して来たのであつた。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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