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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科12巻2号

1958年02月発行

雑誌目次

日本トラホーム予防協会会誌

Trachoma発病問題に対する窪田氏へのお答え

著者: 三井幸彦

ページ範囲:P.9 - P.12

 本誌11巻10号に発表された窪田氏の御質問にお答えします。この御質問を分析してみると,桑島氏の指摘した「球後視束炎に関する鈴木宜民氏の発言」(本誌11巻11号)と同じような,殊更に事実をまげたこじつけや中傷に終始していることを,真に学問を論じる立場から残念なことと存じます。文献の引用にあたつても,文献に記載されていない新しい言葉を加えたり,記載の一部を省略して本来の意味と全く異る形にして引用するのは,学者として正しくない行為だと思います。窪田氏の質問の中に現われたそれらの事実は,あとで指摘することとして,本論から先にお答えしましよう。
 先ず第一に従来のinsidious又はchronicの発病説というものを解説しましよう。言葉の定義というものをはつきりさせることが必要だからです。「徐々に」とか「慢性に」とか云つても,それがどう云う意味で使われたかと云うことをはつきりさせなければいけないからです。この言葉の意味は,現在では使う人によつて全く同じではないのです。このことは,あとで説明するように重要な問題になるのです。それは,慢性発病論者(以下日本語では慢性という言葉に統一して使います)の一部の人が,以前と現在とで,その使用の意味を変更して来つつあるように見えるからです。

トラコーマ診断の問題からト症候名説への主張

著者: 鈴木宣民 ,   小林清房

ページ範囲:P.13 - P.16

緒言
 眼科学界に於けるトラコーマの論争は,之を其の診断の問題に限定しても,甲論乙駁して盡きる所を知らない。然し乍ら現実に,例えば広く行われている集団検診に於て,医師が学童其他の被検者に「トラコーマ」の診断を附する事は,それが本人並に家庭に対して有する大きな影響の為に慎重を要する事は勿論であるが,問題が更に国際的な移民の検診に及んで,その人の一生をも左右する「トラコーマ」の診断のもたらす悲劇,不幸に至つては,之を単に個人的事件として看過する事は許されない人道的な問題でもある。我々は日常の外来に於て,集団検診其他にトと診断され精査又は治療を希望して訪れる患者に屡々遭遇し,その所見からトの診断基準が個々の医師によつて如何に区々であるかを痛感させられる事が多い。
 この様なト診断の実情にかんがみ,我々は結膜疾患,特にトに就て,集団検診に於ける診断と当科外来の診断とを比較検討し,更にパンヌスとの関係をも併せて興味ある成績を得たので茲に報告する。

テラマイシン軟膏投与による工場従業員トラコーマ治療成績について

著者: 属将夫 ,   吉村節 ,   東一倫 ,   瀬戸山陽 ,   蜂谷貞二

ページ範囲:P.16 - P.19

Ⅰ)緒言
 抗生物質によるトラコーマ集団治療成績に就ては多くの報告があるが,これ等は主として学童又は医療機関に乏しい辺鄙な地方の人々に就てのものであつて,工場等職場に於けるものは極めて少い。私達は製鉄工場に於てテラマイシン軟膏を投与し患者自身に点眼させる方法によるトラコーマ集団治療を4年間継続して可成りの成果を揚げる事が出来たので,その概要を報告する。

連載 眼科図譜・39

黄斑疾患の2例

著者: 菱実

ページ範囲:P.115 - P.116

解説
 1.黄斑穿孔Perforatio maculae luteae (第1図)
 佐藤某,62歳,女,無職
 主訴:約1週間前から右眼に飛蚊症があり,殊に風邪をひいた為に著明となつた。

綜説

高血圧症に網膜動脈血圧測定は意味をもつか?

著者: 桑島治三郎

ページ範囲:P.117 - P.121

 うえに掲げた日本語の表題は,実は,ドイツ語の方を,そのまゝ訳したものである。
 ドイツ語の方は,バイヤール氏らフランス学派と,ワイゲリン氏らドイツ学派など,合計11人の著名な眼科の人々が,「網膜動脈血圧測定」をテーマとする円卓討論会で,最も基礎的な3つの議題を討論したとき,その最後の議題として論じられたものである1)

臨床実験

高血圧症に見られた黄斑部所見

著者: 菱実

ページ範囲:P.123 - P.126

 東京大学公衆衛生学教室では昭和30年以降,現在勤務中の東京都職員の血圧を管理しているが,その内で血圧の高い者を選び出し,更に全身的に精密検査を行つたが,吾々の教室では其の内の眼科的検査を分担した。今回は其のうち特に黄斑部所見に就て述べる。
 黄斑部は網膜の内でも視器として機能的に最も重要な場所であるが,網膜のうちでも分化程度が高く,種属発生的にも又個体発生的にも遅れて発生する高等な部分で,其れだけに又何か障碍のあつた場合に最も侵され易い部位である。然し乍ら吾々の日常臨床の眼底検査に当つては黄斑部は見にくい場所で,或は角膜反射の為微細な所迄よく見えなかつたり,又散瞳してさえ人によつては羞明の為見にくゝ,兎角見過され易い場所である。此の点を注意して黄斑部を特に祥細に観察した例が500数10例あるので,其の結果得られた変化に就て述べ,更に二三のものに就ては外来患者の例も加えて考察してみた。

Orbitonometryに関する研究—第1報 正常者について

著者: 植村恭夫

ページ範囲:P.127 - P.131

緒言
 現在迄欧米に於ては,Copper始め多くの人々により,眼窩疾患の診断並に治療効果の判定の為に,Orbitonometryの必要性が唱えられて来た。我々は通常眼窩疾患に遭遇した場合,眼窩内の状態を知る為に,多くは閉ざされた眼瞼上より指頭をもつて眼球を後方に圧迫し,其時に感ずる眼窩内組織の抵抗の強弱,換言すれば眼球の眼窩窩内への後退の難易性より眼窩内の状態を判断することが多い。此の方法は恰も眼圧を触診法によつて判定する方法に似ている。かゝる方法によつても正常範囲より高度の変化は識別出来るが,かゝる大ざつぱな方法では充分な識別能力を欠くことは云うまでもない。茲に之を数量的に表す他覚的検査法の必要性が起つて来る。此のOrbitono-metryに就ては,諸外国に於ては数多くの業績が報告されているが,本邦に於ては僅かに青池氏が,眼窩腫瘍にこれを応用し,其の必要性を力説しているに過ぎない。著者も今回Copper等にならいOrbitonometerを試作し,これを種々の眼窩疾患に応用し,若干の知見を得たので茲に報告する。

幼小児全身麻酔に対するラボナール静注筋注併用法について

著者: 能戸清

ページ範囲:P.133 - P.137

 幼小児の眼科手術に際して全身麻酔の実施は不可欠のものであり,従来我々はエーテルによる吸入麻酔を行つて来たが,部位及手術野の特異な眼科手術において吸入麻酔は種々と不利な点を有していた。然るにエビパンナトリウムの発見につゞき1935年Lundy1)によりチオペンタールソデイウムが臨床化されて以来,バルビタール系薬剤による静脈麻酔法が急速な発展を示し,眼科領域においても広く実用化されるに到つた。我々は昭和28年以来チオペンタールソデイウムの邦製品ラボナールを用い安全性を第1として幼小児の眼科手術に施行し,最近はラボナール静・筋注併用により良好なる麻酔を得ているので,過去を顧み次の段階への考究過程として綜括を行つた。

Wegener氏肉芽腫症とその眼症状について

著者: 奥田観士 ,   上野英高 ,   小山泰太

ページ範囲:P.137 - P.145

緒言
 鼻腔,副鼻腔その他上気道に於て,骨軟膏を犯すに至る強い進行性の壊疽性肉芽性炎症を起し,更に気管,肺にも同様の病変を続発し,全身的には敗血症の状態を呈し,殊に腎に於ては特有の病集性糸球体腎炎の所見を示し,常に死に至る疾患は1931年Klingerがはじめて報告し,次で1936年及び1939年にWegenerが詳細に記載してからWegener氏肉芽腫症と呼ばれているが未だ原因不明の比較的稀な疾患である。最近では耳鼻科に於て多くの人の注意を惹き,可なり多数の報告が見られる。併し眼科方面では未だ余り注目されていない様である。殊に我国では我々の知る限りでは報告を見ない。外国でも本症の眼症状に注意した人は少く詳細な記載は少い。
 我々は最近ほゞ定型的な本症の2例を経験したので観察は必ずしも完全とは云えないが本症に対する一般の注意を喚起したいと考えて報告する次第である。

腎臓より転移せる眼窩癌腫

著者: 浦山晃 ,   林幹雄

ページ範囲:P.146 - P.151

 眼窩に現われる悪性腫瘍のうちで,遠隔臓器からの転移によるものは,元来稀有に属する。中でも,眼窩癌腫は,その大部分が副鼻腔などの隣接組織に発し眼窩に波及するもので,涙腺,眼瞼等に発するものがこれに次ぎ,遠隔転移の頻度は更に少い。後者の際の原発部位としては,乳腺を第一に,肺,前立腺,子宮,胃及び副腎等が挙げられているが,腎よりする転移は,副腎腫の10数例が報告されているに過ぎない。併し,われわれの遭遇する患者の中には,剖検による究明を経ないままに原発腫瘍が看過されている例もありはしないかと想像される。ここに,最近経験した腎臓よりの転移癌で,剖検により確めた1例を報告する。

外傷性搏動性眼球突出症の1例

著者: 広石恂 ,   田原弘

ページ範囲:P.151 - P.152

 外傷性搏動性眼球突出症は外国には可成り多数の報告があるが,我が国に於ては約20例余りの報告があるのみである。最近私共は本症の1例を経験したので,その経過の概要を述べその成因に就き考察を加えたいと思う。

アダプチノール使用経験より

著者: 水川孝 ,   木津進吉 ,   木内健二 ,   清水源丞

ページ範囲:P.153 - P.159

 ドイツで発見された暗適応改善,夜盲治療剤アダプチノールは,本邦では始めて池田1)2)によつて紹介され,次いで数氏の報告がみられるが,私等も夜盲性疾患の症例にアダプチノールを使用しており,その一部は既に木内3)が述べたところであるが,その後の症例をも併せて報告したいと思う。

眼科領域に於ける尿中17ケトステロイドについて

著者: 水川孝 ,   高木義博 ,   木内健二

ページ範囲:P.159 - P.167

 性腺及び副腎皮質ホルモンの尿中誘導体である尿中17ケトステロイド(以下尿中17—KSと略す)はその排泄量から副腎皮質や性腺機能を窺い知る事が出来るのでMason & Kendall (1936)1)が純結晶性に抽出し,Steiger & Reichstein(1937)2)等がその合成に功して以来,動物実験,臨床症例及び尿中代謝産物等各方面から多くの追求がなされている。1938年Selyeは"General A-daptation Syndrome"の概念を提唱し,生体があらゆる型の非特異的刺戟(Stressor)に曝露された時に示す内分泌的防禦機序と云うものが,副腎皮質と重大な関係のある事を明らかにし,さらに疾病に対する非特異的刺戟療法の効果は,警告反応の抗シヨツク期に見られる抵抗の増加に密接な関係のある事を指摘している。池田教授等3)は眼科領域に於て非特異的刺戟に対する生体の防禦反応から眼科疾患の非特異的な面並に特異療法の奏効機転を探求し,新知見を多数報告している。私等は今回眼科領域に於て治療的に加えられたストレツサー(尾動脈毬摘出術,ホルモン剤,自律神経遮断剤,アダプチノール及びダイアモツクス投与等)に対して生体の示す一連の非特異反応を尿中17-KS排泄量の消長から観察したので報告する。尿中17-KSの測定は増田氏4)の方法を吟味,一部改良を加えて行つた。

局所麻酔薬と涙液量

著者: 水川孝 ,   高木義博 ,   浜博

ページ範囲:P.168 - P.172

 眼科領域に於ける局所麻酔剤としては未だにコカインが使われているのは,麻酔効果がこれに匹敵するものがないためによるが,最近合成化学の発達により各種の新麻酔剤が合成乃至配合され登場して来た。我国で使用されつつある主なものは,先ずプロカイン系製剤としては,Tubocain(吉富),Depocain, Oily (大日本製薬),Long-cain (万有),Daicain (第一),Etercain (中村滝)いずれもプロカインの局所麻酔作用を長期持続するため,溶媒としてベンチールアルコールを用いたり,更にアミノ安息香酸ブチールを加え,相乗的麻酔作用を期待している。又特殊な合成剤としては次の4種がある。

Endojodinの使用経験

著者: 三浦寬一 ,   池田和夫

ページ範囲:P.172 - P.178

Ⅰ.緒言
 沃度剤は新陳代謝賦活剤として広く用いられて居り,殊に眼科領域に於て沃度カリの内服は化学療法等の発達した今日に於ても眼底疾患に対して愛用されて居る。
 元来沃度は網膜との親和性が強く,その新陳代謝や抵抗力を増すと言われて居るが,浅山,坂上上野等はI131による実験成績に於ても,網膜脈絡膜殊に前者は視神経とは比較にならぬ程高濃度に沃度を摂取して居り,此の事実からしても網膜脈絡膜疾患に沃度剤を使用する事は合理的である。しかしながら沃度カリが内服薬である為胃腸障碍を来し易く,故に長期且つ大量投与も意の通りにならない事が屡々ある。

アダプチノールの使用経験

著者: 寺田保郞 ,   牧治 ,   長南常男

ページ範囲:P.179 - P.185

 Adaptinolの主成分であるHelenienは,Lu-teinのester化されたDipalmitinsaure-esterであり,Studnitz,Niedermeierによつて暗順応機能を促進させることが見出された。本邦に於けるその臨床的応用の報告は,池田・宮沢・楠部氏,衣笠・長谷川氏,岡氏,植村(操)・植村(恭)石川(明)・石川(仁)氏があり,その動物実験については,松下・谷氏の報告がある。我々もAda-ptinolの提供を受けたので臨床的に試み,その効果を検討した。

プレドニソロン球結膜下注射について

著者: 井上正澄

ページ範囲:P.185 - P.186

 プレドニソロンはコルチソンに比して約5倍の治療効果のある事が内服及び点眼療法で実証されているが,プレドニソロンの球結膜下注射を今迄発表された適応症以外の疾患にも試みて2,3の知見を得たので以下に述べる事とした。
 使用するプレドニソロンは関節腔内注入用の「プレドニン」懸濁液20ccバイアル入りのものを4cc球結膜下に注射する。前処置としては局麻用エピレナミン添加2%キシロカイン1ccにヒアルロニダーゼである「スプラーゼ」粉末アンプレ入り1箇2,000VUMのものに溶解し,上直筋附着部の横の方で血管を避けて球結膜下に注射する。

化膿性鞏膜炎の1例

著者: 斎藤嘉輔

ページ範囲:P.187 - P.189

 鞏膜は強靱な組織で全眼球炎を起すような時でも,比較的長く化膿に抵抗するものである。眼外傷又は手術後の伝染等を除けば,鞏膜に限局性の化膿性病巣を起す事は極めて稀である。多くは眼以外の化膿性病巣より転移性に生ずるもののようであるが,最近私は此の例に遭遇したので茲に報告する次第である。

点状表層角膜炎に関する統計的観察

著者: 竹内梓郞 ,   大内円太郎

ページ範囲:P.189 - P.194

Ⅰ.緒言
 点状表層角膜炎(以後KSPと略す)は流行性角結膜炎(以後EKCと略す)の経過中に屡々起り,視力障害を胎す最も不愉快な合併症である。EKCの特効薬のない今日ではKSPの併発を阻止する様に努めるか,たとえ合併しても増大せぬ様に努める方法しかない。KSPの併発率を下げるためには抗生物質とコーチゾン系薬物の併用療法,サルフア剤投与或はチスチン投与等の方法もあるが,完全に合併を阻止するものではないKSPを合併すれば少しでも早期に発見し直にコーチゾン系薬物等による治療を行わねばならない。
 処がこの早期診断に関して初発症状の詳細は成書にも比較的明確に書いてない。又文献によると早期診断法として呉1)はKSPの初期に角膜周囲の循環障碍(充血鬱血)を角膜顕微鏡で認めると云う。又稲富2)はKSPに先立つて角膜知覚障碍を来すと云う。処が之等の方法も多忙な実地医家には完全に応用し難い憾がある。

テトラサイクリン,クロラムフエニコールの眼内移行について

著者: 近藤有文

ページ範囲:P.195 - P.203

 抗生物質療法を行う場合に最も問題になるのは,感染組織内に充分な有効濃度が保持されているかどうかの問題であるが,これを知るためには種々な投与法による組織内抗生物質濃度を知る必要がある。この意味から著者は以前から抗生物質の眼内移行に関する実験的研究を行い,ペニシリン,ロイコマイシンについては既に報告したが,この度はテイラサイクリン(以下TC)とクロラムフエニコール(以下CM)の眼内移行について実験を行つたのでこゝに発長する。
 TCは周知のようにテトラサイクリン系抗生物質中最も新しい薬剤で,1953年Conover等により発表され,一方CMは1947年Ehrlich等が発見したStreptomyces venezuelaeの産生する抗生物質であるが,翌年にはCrooks等により合成法が確立されている。

眼圧の研究—(第3報)緑内障眼同感性眼圧反応の本態

著者: 松原俊一

ページ範囲:P.203 - P.210

緒言
 第1及び第2報で,人眼の前房穿開による同感性眼圧反応を観察したが,本実験では,正常人眼及び緑内障眼を圧迫して眼圧変動を計測し,更に圧迫,コントミン注射の二重負荷を行い,前房穿開施行時に於ける態度と比較しながら,その経過を追求し,正常人眼と緑内障眼で同感性眼圧反応を比較検討した結果興味ある結論に到達し得たので報告する。

極めて稀に見られる篩状脈絡網膜炎の2症例

著者: 松原俊一 ,   神足実 ,   針谷嘉夫

ページ範囲:P.211 - P.213

緒言
 梅毒性脈絡網膜炎に就いての報告は,枚挙にいとまのない様であるが,特に節状脈絡網膜炎の型をとつたものに就いては,非常に少なく,本邦のみならず外国でも稀な疾患である。著者等は最近幸いにして本症の2例に遭遇し得たので茲に報告する。

臨床講義

単純性角膜ヘルペス

著者: 国友昇

ページ範囲:P.214 - P.218

 本日は角膜ヘルペスの症例について,お話します。角膜のヘルペスには2種類あつて,一つはHerpes simplex他はHerpes zosterであることは,諸君の御存知のとおりです。
 H.simplexは角膜には次の3通りの形で現われます。

手術

先天性緑内障に対するCyclogoniotomy

著者: 弓削経一 ,   谷道之

ページ範囲:P.219 - P.223

 Barkan1)6)やFrançois7)は前房隅角に胎生期の中胚葉組織が異常に残存して,之を閉塞しているのが先天性緑内障の原因だと強調しており,従つてBarkanは,この隅角部の遺残中胚葉組織を切開し,房水とシユレンム氏管とを接触せしめるのが理論的に最も合理的な手術方法だとし,彼はゴニオスコープを用いるGoniotomyによつて,過去17年間に196眼中152眼に良好な成績を拳げている4)。われわれはゴニオスコープを用いないで,毛様体剥離のときのように鞏膜側の切開創から隅角を解離する方法を試みた。このような方法は既にCusick (1954)8)が報告しているが,彼は尖端がボーマン氏針に似たスパーテルを用いて行つており,このような鋭利なものでは不必要な部分を損傷する危険がある。

談話室

欧米旅日記(其の7)

著者: 萩原朗

ページ範囲:P.224 - P.232

 パリからブランクフルトに飛ぶエーヤフランスの航路は,この両市を結ぶ直線の上空ですが,地図の上でこの直線を引いて見ますと,LuxenbourgとSaar地方との境界を過り,所謂Rheinlandの南部を横切つて居ります。午後5時半に飛立つた機は,暫くは低空の雲層と高空の雲層との間の雲のない空を飛んで居りましたが,いつか雲が切れて,眼下には緩い起伏の丘の連なりが,見渡す限り広がつて見えて来ました。丘の間の谷には,縦横に河が流れ,その河に沿つて細やかな町や村が散ばり,その町や村を連ねる道路や鉄道の佇が,宛ら展覧会場の模型を見るようです。何世紀かの昔から,独仏両国の軍隊が,押しつ押されつ進撃を繰返した血腥い古戦場なのでしよう。
 飛行時間約50分間で,薄雲の広がつた空から,その規模の大きさを誇るRhein-Main-Flughafenに降り立ち,簡単な入国の手続きを済ませて,「ブス」Busで,Hauptbahnhofの前通り明るく燈のついたFri-edrich-Ebert Strasseに在るEndstationに着きました。パリと打つて変つて応待の丁寧な事務員に送られ,タクシーでとある小さなホテルに靴を脱ぎましたが,此処も亦中々快適で,何かしら日本に帰つたような錯覚を感じました。これは何も誇張でもなく,言葉のあやでもありません。私と同様のコースをとつてドイツを訪れる日本の医学徒の多くがそう感ずることと思います。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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