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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科12巻3号

1958年03月発行

雑誌目次

特集 第11回臨床眼科学会号 一般講演

左右眼別色調識別閾

著者: 田畑静江

ページ範囲:P.243 - P.249

緒言
 片眼のみの先天異常色覚,あるいは左右眼で色覚型の異なる異常色覚者の報告例は,きわめて少ない1)。これらと後天異常を除けば,一般に両眼の色覚は同一であると考えられ,それに対してなんらの疑も抱かれていないのが現状である。しかしそれを積極的に証明した実験報告は,私の知るかぎりでは,残念ながら見出すことができなかつた。また,もし両眼の色覚が異なるものがかなり存在するとすれば,それらは片眼先天異常色覚などとともに,色覚の生理ならびに遺伝などに非常に大きな示唆を与えるものといえよう。
 そこで,私ども2)がさきに比較的容易に色調識別閾を測定しうる装置を考案した機会に,色覚の3属性中もつとも重要な色調に対する識別能を,健常者ならびに第1,第2異常の左右眼別個について検索してみたところ,現在の通念とはかなり異なつた結果をえたので,それをここに報告する次第である。

盲点のレンズ効果に関する研究

著者: 横瀬美年子

ページ範囲:P.250 - P.250

 盲点に対するレンズ効果には色々の因子が関係する。
 〔実験I〕+6D〜−10Dの間で2Dおきにレンズを選び装用した時の盲点径と盲点固視点間距離を測定し,夫々レンズなしの時に対する百分率で現わすと,装用レンズ度に対する変化は共に直線的である。

視野に関する研究補遺(その1)—萩野 鈴村式自記眼精疲労計による

著者: 坪井彪

ページ範囲:P.251 - P.258

緒言
 近来欧米諸国に於ては種々の新らしい視野測定装置が考案発売せられており,微細な視野の変化も精密に測定されるようになつて来ているが,我が国の現状は尚殆ど旧来の視野測定法が用いられている状態で,粗大な視野の変状は知り得ても,微細な視野の変化の探求は困難である。それ故現在の視野測定法に改良を加え,更に精密な視野測定に資する目的を以て本研究を行つた。

調節作用の種々相(1)

著者: 那須晃

ページ範囲:P.259 - P.262

 調節作用については,種々の論議が行われて居り今日尚完全な帰結を見ない。
 Otero (1951)は,視機能を営む上に調節状能が如何に影響するかを研究した。かように調節作用は,視機能に密接な関係を有して居り,我々の生活に重要な役割を演じて居るものである。そこで筆者は,各種状況に於ける調節作用の実状を取えんとした。

眼内腫瘍3例—腫瘍細胞の微細構造について

著者: 小池勉

ページ範囲:P.263 - P.268

 Virchowが網膜及びグリア細胞からなると考えられる網膜の腫瘍をGlioma retinaeと命名し記載して以来,その細胞の特有の配列,形態に就き,又種々の染色法による詳細な分類等が,幾多報告されているが,この細胞の電子顕微鏡的所見についての報告には,未だ接しない。
 私共は最近,臨床上,網膜膠腫の3例を得,この組織を,光学顕微鏡的,及び,電子顕微鏡的に,その所見を得ることが出来たので茲に報告する。

片眼の欝血乳頭を呈した視束交叉部脳室上衣嚢腫の1例

著者: 田中雅二 ,   瀬戸口準

ページ範囲:P.269 - P.272

 欝血乳頭に関する記載報告はその成因,病理症例,実験的研究等,古来多数を極め,枚挙に暇ないが,之が一側性に現われて然も原因が脳内にあつた例は比較的少い。私共は今回その様な症例に遭遇し,開頭の結果,視束交叉部に突出した第三脳室上衣嚢腫に由来することを識り,之を穿破縮小せしめた事に依り,視力及び眼底変化が急速に改善され,その後殆んど全く正常に復するのを経験した。又此の症例を通じて二,三の考察を試みる機会を得たので追加報告したい。

虹彩,毛様体惡性黒色腫の1例

著者: 広川敏博 ,   松尾信彦 ,   水島亨

ページ範囲:P.273 - P.278

I.緒言
 虹彩及び毛様体に発生する悪性黒色腫は極めて稀有な疾患であつて河本軍次郞氏の原発性葡萄膜肉腫100例に関する知見補遺に依れば94例は脈絡膜肉腫,6例は毛様体肉腫で虹彩肉腫は1例もなかつた。最近吾々は極めて興味ある虹彩,毛様体悪性黒色腫を経験したので報告する。

下眼瞼に原発せる紡錘形細胞肉腫の治療と経過について

著者: 高安晃 ,   田之上虎雄 ,   松田禎純

ページ範囲:P.278 - P.281

 眼科領域に於ては肉腫の症例を見る事は左程稀でないが,それが眼瞼に原発する事は極めて尠い。
 私共は最近下眼瞼に原発した紡錘形細胞肉腫を経験し,その誘因,治療と其経過に於て興味ある所見を観察し得たので茲に報告し,諸賢の御批判を乞う次第である。

巨大なる眼窩骨腫症例

著者: 村田博 ,   高橋雄児

ページ範囲:P.283 - P.286

 眼窩内に発育せる骨腫は,極めて稀な疾患でありAndrew (1887)のNew-Yorkに於る統計では,65年間50万患者中8例,亦Leipzig大学の20万患者中,僅かに3例であるとBedell (1906)は報告している。本邦に於ても記載の明かなものは,十数例に過ぎない。
 最近,我々は,眼窩内下側領域より発生したと思われる巨大な眼窩骨腫の一例を経験したので,此処に報告したい。

頻発せる毛虫の遊離刺毛による眼障碍—特に刺入機転に就て

著者: 小松栄

ページ範囲:P.287 - P.292

緒言
 数年前から私は長野県南部地方に於て,眼痛を訴えて外来を訪れる患者の中に,肉眼では殆ど見出し難い程微細な黒毛が1本だけ瞼結膜に刺さりそれによつて角膜に擦過線状の傷を生じている者を時々見ていた。偶々昭和30年8月松毛虫を投げつられ眼瞼皮膚・結膜・角膜・虹彩等に無数の毛が刺さつている子供を見てから松毛虫の虫体各部の毛を顕微鏡で観察している内に,先に時々見ていた微細な毛は松毛虫の刺毛ではないかと思いつき,其の後注意していると,昭和30年8月から32年9月まで約2年間に26症例に松毛虫の刺毛と思われるものを見出した。
 毛虫の毛が眼組織に刺さると,それを中心にして結節を生ずることは,よく知られて居り,偽結核性症Pseudotuberculose Entzundung(Wagen-mann)或は結節性眼炎Ophthalmia nodosa炎(Saemisch)等と呼ばれている。ところが私が見た症例では結節を見ず,又患者自身は毛虫との関連に全く気付いていなかつたので,初めは毛虫の毛に思い及ばなかつたものである。

鞏膜切除短縮術による網膜剥離の治療成績(第2報)

著者: 百々次夫 ,   前谷満寿 ,   岡田正樹

ページ範囲:P.292 - P.299

 著者の1人は,鞏膜切除短縮術による網膜剥離治療の,1955年7月までに広大眼科で得た成績について,第9回臨床眼科学会で報告した(臨眼10巻273—276頁)。これは鞏膜全層を切除する術式を主とするものであつたが,その後は主に部分層切除術式を採用しての経験を重ねたので,再びその成績を述べ,併せて,両術式の自験に基く比較を試みることとする。

結核性脳膜炎に於ける眼合併症と開頭治療

著者: 井街譲 ,   坂井京 ,   米沢稔

ページ範囲:P.301 - P.306

 結核性脳膜炎の眼科合併症はしばしば見られる所であり,その発現率は高く古くは足利1)は14人中9人64%みとめ,アイルランドのAlan J.Mooney2)は65例中47人72%を報告し,小児の結核性髄膜炎治癒患者に関して教室の井上3)は20例中12人60%,又,井出4)は20例中9人45%に眼後遺症があつたと報告している。眼後遺症の主なものは視神経萎縮,脈絡膜萎縮,眼筋麻痺である。
 結核性脳膜炎後遺症に対し開頭術を行つた報告としては先に述べたMooneyが12例中全てに視交叉部の繊維素性癒着を認め,これを剥離除去し又,終末板を通じて第三脳室切開をし好結果を得ている。又山本,竹内5),は大槽内及び側脳室内にカテーテルを挿入しストレプトマイシンを注入することにより好結果を得たことを報告している。

"Succus Cineraria Maritima"の点眼による白内障の治療(続報3)

著者: 藤山英寿 ,   藤岡敏彦 ,   篠原正俊 ,   渋谷ヨシ子 ,   陳内鶴江 ,   大塚秀勇

ページ範囲:P.307 - P.312

 本剤の点眼効果発現の条件は,嘗て本誌上に於て述べた如く,溷濁水晶体質と前房水との接触が充分に行われている事,言い換えると,水晶体嚢が大きく破砕されて再癒着していないと言う事である。勿論本剤の点眼に依らなくとも,外傷性の白内障が自然に吸収される例は吾々も日常屡々遭遇するのであるが,この様な例に本剤を使用することに依つて更に治療日数を短縮出来,又第3例の如く乳幼児の先天性白内障で摘出手術後の安静に不安を残す様な場合,比較的簡単な嚢截開術と点眼のみで治療出来るとするならば,本剤点眼の意義も亦少しとしないであろう。
 今回は,前報後に経験した5例に就いて簡単に報告したいと思う。尚点眼回数は何れも1日1回である。

小児眼手術に於ける全身麻酔

著者: 森寬志 ,   氏家正夫 ,   駒井正夫

ページ範囲:P.312 - P.321

I.緒言
 従来眼科手術の施行に際しては,表面麻酔,浸潤麻酔,伝達麻酔等の眼局所麻酔により,その目的を達して来たのであるが,それは,あくまでも患者の手術に対する納得と協力を前提条件としてであつた。所で,未だ出生後日の浅い乳児は疼痛反応は反射運動として現われて,大脳皮質機能の発現ではないし,又この時期の乳児には,助手の用手的固定介助によつて充分手術目的を達する事が出来る。
 しかし,反射興奮性,基礎代謝の最大となる幼児期に於ては,智能の発達は感情の発達より遅れ,行動は凡て感情に支配されて,理解力,抑制力に乏しく,暗示も困難である。斯る幼児期の手術を如何に理想的に行うかは,反射興奮性を低下せしめ,感情の発現を抑制する全身麻酔処置によつて成立するのであるから,眼手術に於て全身麻酔が適用となるのは,満1歳より満8歳位迄の小児である。尚智能発育面より低能者が,感情面より神経質者が同様に全身麻酔の適用と認められる。

角膜移植の新方法

著者: 町田竜三

ページ範囲:P.321 - P.323

 最近眼球銀行又は角膜銀行とか,その法案の成立とか称して,角膜移植が又巷間の話題になつて居り,本邦各地の大学或いは病院に於て角膜移植手術が実施され,その報告が散見されるに到つた事は失明患者の救済の上からも又かかる手術の臨床的応用という面からも誠に喜ばしい事であります。
 研究的段階から既に臨床的応用の途次にある角膜移植などという手術は,他の開眼手術より以上に,出来るだけ平易に出来る丈け危険の無い方法が研究され努力さるべきは理の当然であります。

硝子体に及ぼす水晶体摘出の影響

著者: 満田博年 ,   坂口一之

ページ範囲:P.325 - P.330

〔Ⅰ〕緒言
 眼内圧に対する硝子体の占める役割については,1895年,Koster1)氏が始めて,7/1000容である25cu.mmの増加によっても眼内圧が19mmHgより70mmHgに上昇することを見出して以来,1908年,M.H.Fischer2)氏は摘出動物眼球を弱酸中に浸した時に,眼球重量の増加と眼球硬化を来すことより,硝子体膨化の問題をとりあげ,edemaが原因であるとする酸性膨化説を提案し,その後Knappe1)氏(1910年)やRuben1)氏(1912年)も同様の事実を見出しているが,硝子体膨化の為ではないと反論し,FurthとHan-ke1)氏は滲透の面より膨化能力について論じ,1924年BaurmannとThiessen1)氏が,1925年Gala3)氏が硝子体膨化とpHとの関聯性について所見を述べ我国に於ても中村競63)氏が意見を述べているが,硝子体より寧ろ鞏膜にその重要性をおいている。

他覚的視力測定法の臨床的応用(その1)—我々の装置による非詐病者の測定成績(他覚的視力測定法について 第5報)

著者: 中尾主一 ,   木勢惠三 ,   谷口一郎 ,   山田道夫

ページ範囲:P.331 - P.338

緒言
 視力測定が疾患の傷害程度並びにその症状経過を知る上に極めて重要なことは,今更述べる迄もないことである。それにも拘らず,従来視力は自覚的に測定する以外に方法がなく,測定値は屡々被検者の発表能力や自由意志に左右され,幼少者や詐病の意図を有するものの視力認定は至難のことであった。殊に詐病の看破は労災補償の問題とも関聯し,洋の東西を問わず臨床医の等しく悩まされるところであり,詐病の意図を看破すべく幾多の試みがなされて来たが,末だ充分の成功を収めることが出来ぬのが現状であった。
然るに1921年Ohm氏1)が視性眼振(optoki-netischer Nystagmus)註1)を利用した他覚的視力測定法の可能性に注目して以来,Goldmann氏Gunther氏を始めとして,多くの他覚的視力測定法が考案され,殊に最近に至り独乙,瑞西を中心として臨床諸家の注目を浴びるに至つたのである。註1)

球後空気注射X線写真による眼軸測定法

著者: 柴田博彦 ,   天野清範

ページ範囲:P.339 - P.346

I.緒言
 屈折状態を構成する主な要素は,角膜および水晶体の屈折力と,眼軸の長さである。そのうちで近視および屈折異常の原因を知るために最も必要なものは,眼軸でなければならない。しかし生体の眼軸長測定については,今日まで良い方法が無かつたので,あまり行なわれていない。したがつて眼軸長と屈折状態の関係を厳密に知る事が困難で有つた。
 従来発表されている生体眼軸長の報告は,多くは間接に,角膜および水晶体の屈折力より算出されたものである。しかるに,水晶体の光学的効果が,精密には測定出来ないのであるから,それを用いて算出された眼軸長が,甚だ確実性を欠くのも止むを得なかつた。Stenström1)や,若月氏15)大塚氏等2),大野氏14)等が行つた,X線視覚によつて,直接生体眼軸長を測定する方法は,この方面に於ける一大進歩を促したものと云えよう。これを用いて,立派な研究を行なわれた大塚教授を指導者とする東京医歯大の諸氏には,深甚な敬意を捧げる。しかしこの方法も多少の欠点を有しないわけではない。

固視から見た内斜視の構造(斜視研究7)

著者: 中川順一 ,   吉川洋

ページ範囲:P.346 - P.352

はしがき
 前報にひき続き今回は固視型から見た内斜視の構造について述べたいと思う。斜視の原因は多元的と考えられ1),その原因と結果は互に影響し合うものである。我々の診る斜視患者はかかる因果の糸をもつて綴られた織物の縞目を見るようである。固視という行動から因果の糸目をほどく何等かの手がかりを得ることが可能であろうか。その試みが本著の目的である。

弱視について(第1報)

著者: 原田政美 ,   林慎一

ページ範囲:P.352 - P.356

緒言
 「弱視と云う名を完全に消滅させることが,眼科学の最も大きな任務の一つである」とは,萩原教授が常に説かれている処である1)。即ち古代に於ては,すべての視力障碍は弱視の名で呼ばれていたが,検査法の進歩に伴い,その中から逐次新らしい病名を持つた疾患が分離されて行つて,往昔弱視と称せられていた診断名で,今日殆んど用いられなくなつているものが少なくない。然し現在尚弱視と呼ばれている視力障碍があり,今や吾々の努力は,これ等残された一群に向けられなければならない。諸外国ではこれ等に関する厖大な研究が行われていて,特に治療面では劃期的な進歩を遂げている。然し我が国に於ては,弱視を主題にした系統的研究は皆無であり,早急な対策が望まれる。このような目的の下に弱視の研究に着手し,若干の知見を得たので報告しようと思う。
 観察対象は,東大病院眼科外来を訪れた患者の中,次に述べる定義に合致した弱視81例で,内訳は内斜視51例,外斜視11例,著明な斜視のないもの(非斜視)19例である。

前眼部血管の形態的病変に関する研究—第1報 高熱作業者について

著者: 天羽栄作

ページ範囲:P.357 - P.365

緒言
 人間が疾病に罹患した時に細小血管の演ずる役目は極めて重要であると信ぜられるにも拘らず,それを検査する方法が困難なるために明確に知ることが難かしい。即ち細小血管の機能と形態的病変を検査するためには,細小動脈から細小静脈の末端までを迫跡し観察することの出来る組織が必要であり,且つ出来るだけ組織に侵襲を加えないように観察することが望ましいが,この目的に適している唯一の場所は眼球結膜の細小血管である。
 それ故に従来多くの先人達が種々の疾患において眼底の病変を検査すると共に,眼球結膜病変特に細小血管の病変について観察し,その変化が全身疾患の種類により如何に変化するかを記載して来た。その結果は前眼部血管の変化を意味ありとする者,或は意味なしとする者と相半ばし,又,血管変化の生ずる部位についてもそれが細小動脈であるか,細小静脈であるか,毛細血管であるか明確に記載のないものもあつた。

角膜壁硬性に関する研究—第2報 弾道学的角膜壁硬性の測定 其の1 基礎的実験並びに正常人眼に於ける成績

著者: 岡田甫

ページ範囲:P.366 - P.377

I.緒言
 先に私は,Friedenwald法によるOcular ri-gidityより正常人眼に於ける角膜壁硬性を推測したが,此度弾道学的に角膜壁硬性を計測する装置を考案し,聯か知見を得たので茲に報告する。
 弾道学的弾性計測法は古く,Noyon (1908),Gildmeister (1914),Nakamura (1924),Bethe(1924),Richter(1927),Steinhausen (1921)等の筋弾性測定に見られるが,1927年Vogelsangは始めて本法を角膜の弾性測定に導入し,Müller(1930),Weve(1932),Obbink (1931)は眼圧測定を試み,Wiegersma (1940),Mamelok,Po-sner (1955)は角膜弾性を計測し眼圧計々測値の補正に応用した。即ち一定の高さより,一定の重さのハンマーにて角膜を叩打し,その反撥する様子を或はフオトキモグラフイオンにて描写し,又は電気的に,或は肉眼的に観察したのである。私の用いた装測も略々これ等に準ずるものであるがレベルの質量と歪には特に留意した。

Inah-mycin (科研)の網膜血管徑に及ぼす影響

著者: 長瀬憲一

ページ範囲:P.378 - P.383

 Isonicotinic acid hydrazide (INAH)に網膜血管拡張作用のあることに就いて種々実験した成績に就いては私は只今日本眼科学会雑誌に投稿中であるが,この度これとStreptomycin (SM)の結合物であるInah-mycin (科研)に就いて実験してみたのでその成績を以下に報告し度いと思う。
 Inah-mycin (基準名結晶硫酸ストレプトマイシンイソニコチン酸ヒドラゾン)はSMとINAHとの化合物の硫酸塩で,無色可溶性の結晶で,1gのSMは236mgのINAHと化合し,その構造式は下の通りと云う。

網膜中心血管血圧に関する研究—臨床篇:第2報 本態性高血圧症患者に於ける網膜中心血管血圧と眼底変化並びに全身血圧との関係に就いて

著者: 溝口孝

ページ範囲:P.384 - P.393

I.緒言
 本態性高血圧症の原因として腎性,神経性,内分泌性,Renin副腎軸説の如き諸説はあるが,此等のいずれを以つてしても原因の解明は困難で,本症の原因はなお不明というべきであろう。
 従来本態性高血圧症に関する研究は枚挙にいとまなく,その網膜中心血管血圧に関しては,Magitôt(1922, 1931),Koch (1941),Espildora(1948),菅沼(1936),長谷部(1936),米山(1955)等多数の報告があるが,その多くは全身血圧と網膜中心血管血圧との関係のみを報告し,之れに眼底変化を考慮して検討した者は僅かにKoch (1941),米山(1955)のみである。本報告は此の点に就いて意義ありと信ずる。

トノグラフイーの緑内障診断に於ける価値

著者: 岸本正雄 ,   上野一也 ,   芥川徹

ページ範囲:P.393 - P.400

 諸種の臨床的検査を併用した成績によって原発性緑内障と確診し得た32眼(単性緑内障16眼,慢性欝血性緑内障13眼,若年性緑内障3眼)に計46回トノグラフィーを行つて,その成績から本法の緑内障診断に於ける利用価値を検討した。
 嚢に正常100眼に行つた成績と比較すると緑内障眼のCは低値の方にその分布が偏つてはいるが,緑内障眼のCと正常眼のCとの分布に可成りの幅の重複があり,我々の正常眼の測定成績から0.1に満たないものを病的低下,0.10-0.14をborderline,0.15以上を正常範囲と見做すと,検査回数の中52.2%は病的減少を示したが,bord-erlineに入るものが21.7%,正常範囲値に入るものが26.1%あつた。トノグラフィーの成績のみを以てすれば正常範囲値は緑内障から見逃されることになり,borderline のものはいずれとも決断が出来ない。
 Becker and Christensenに倣って比Po/Cを算出して100又はそれ以上を病的として集計してみると,緑内障眼の成績中病的のものは78.3%となり,Cのまゝよりも摘発率は可域り良くなつたが,一方正常眼中にも病的値のものが16%もあつた。

アルカリ糞便菌の検出された角膜潰瘍

著者: 片口保一

ページ範囲:P.401 - P.403

 アルカリ糞便菌(Bact.faecalis alcaligenes)は1896年Peteruschkyによつて記載され,小腸の下部,大腸,下水中に存在し,或は牛乳中に認められ,元来は病原性なしとされている。私は容易に治癒しなかった角膜潰瘍から本菌を検出した1例を経験したので報告する。

Prednisolone及びOleandomycinの眼科的応用

著者: 三井幸彦 ,   蓑田良司 ,   緒方鍾 ,   栗原英世 ,   西山澄夫

ページ範囲:P.404 - P.406

 本日はPrednisoloneの眼科的応用,特に局所使用に就てお話しし,時間があれば,新らしい抗生物質Ole-andomycinの眼科的価値にふれたいと存じます。
 Prednisoloneは既に御承知のことと存じますが,1954年に新らたに合成されたコルチゾン系のホルモンで,その構造はHydrocortisoneと同じ分子式を持つていますが,唯一カ所炭素の二重結合が増えている点が構造的に異つております。その効果はHydrocortisonの約5倍で,副作用は少いと云われております。

諸種眼疾患のLysozyme

著者: 水川孝 ,   高木義博 ,   鈴江正 ,   三木敏夫 ,   清水源丞

ページ範囲:P.407 - P.414

緒言
 最近吾々は涙液減少によると思える特異な眼変化が多いことに気付き,Conjunctivitis de squ-amativa (仮称)の存在,ならびにKeratoconj.epid.の場合のKeratitis punctataと涙液減少との密接な関連性など特に興味ある事実を認めたので,涙液減少症を綜合的に検討する必要性を痛感している1)2)3)。そのためには当然,涙液の性状を調べるべきであろうが,今回はLysozymeについて検討した。

実験的痘苗角膜炎の角膜蛋白像について

著者: 益田虔之

ページ範囲:P.415 - P.421

緒言
 最近濾紙電気泳動が広く応用され,体液蛋白の研究は著しく発展しつつあるが,角膜可溶性蛋白に関する報告は甚だ少ない。
 小林1)は濾紙電気泳動法によつて家兎角膜蛋白の分劃を試み,Albumin (Al),alpha 2 Globulin(α2Gl),beta Globulin (βGl),及びgamma Glob-ulin (γGl)位の易動度を有する4分屑と,易動度が血清蛋白分屑の何れにも相当しない3分屑を得たとしている。しかしFielding等2)は5分屑に分離し,各分屑の易動度についても異つた見解を述べている。

ビタミンB12欠乏と眼症状

著者: 高橋博

ページ範囲:P.423 - P.429

緒言
 1948年Rickes1)及びSmith2)は肝臓より赤色の結晶を分離し,之をビタミンB12と命名した。此のビタミンは当時知られて居つた抗貧血性因子中最も強力なものとして注目を浴び,急速に其の研究が進められ,翌年Pensack3)はニワトリの成長促進因子としてAnimal protein factorの作用がある事を報告した。爾来内外に於て牛,豚,白鼠等によつて欠乏実験が行われて来たが,眼科領域に於ては未だその欠乏症状は明確にされていない。そこで私はビタミンB12(以後V.B12と略す)欠乏に因る視器変化を研究せんとし,先ず臨床的にV.B12欠乏と関連性ありと思われる貧血性眼疾患者の血清内V.B12量を定量測定し,聊か知見を得たので茲に報告する。

Corneal Contact Lens装用による角膜組織化学的変化の推移

著者: 平野潤三

ページ範囲:P.431 - P.445

緒言
 従来の眼鏡の代りに,直接眼球に接触する屈折系を作つて視力障碍を改善しようとする試みが行われてから,すでに一世紀有半を経るという21)。併しながらこれが実用的なcontact lens (以下C.L.)として広く臨床的に使用されるに至つたのは漸くこゝ数十年来のことである。その間,出来るだけ苦痛を少く,簡便に,長時間の装用を可能ならしめるためにC.L.の材質の研究,装着法の工夫,型の改良等が盛んに行われ,欧米に於いては数多くの使用経験,臨床諸統計が発表され,優れた専門書すら刊行されている。我が国に於いては,戦後漸く水谷豊氏によつてこの方面の研究が開拓され,次第に多数の賛同者を得て今日広く実用化されるに至つた事は周知のところである。近年,単に屈折異常の矯正に眼鏡に優る種々の利点が認められるのみならず,今日迄他の方法では企て及ばなかつた諸種の先天性竝びに後天性眼異常がC.L.の使用によつて救済の道が開かれるようになり,その上最近二,三の診断的応用も試みられ,更に着々とその適応範囲を拡げつつある。我が教室に於いてもすでに日常診療に不可欠な利器とすらなつている。然るにその普及がすすむ一方,これの誤用による角膜障碍例55)57)66)の報告もまた屡々見られるようになつた。そこで若し我々がC.L.装用による角膜変化の実際を知り,その本態を究め得るならば,C.L.の使用法もおのずから定まり,臨床上にも益せられるところが多かろう。

実験的葡萄膜炎に対するAC-17の効果について

著者: 野村なつみ

ページ範囲:P.446 - P.451

緒言
 葡萄膜炎に関してはその病態或いは治療等につき各方面より研究されてきた。而も治療面に於いてはCortisoneの出現により劃期的な進歩を来し得たと言い得よう。然し乍らCortisoneの作用については尚解明されざる点もあるが,先ず主役をなすものとして抗尖症作用中,血管透過性抑制作用が第一に挙げられるものと考えられる。生化学的方面に於いてはMenkinの研究,眼科面に於いてはA.Schimede,Adolph,W.等が報告している硝子体出血吸収遅延,或いは実験的葡萄膜炎の抑制効果等の報告はこれを示していると言い得よう。
 ところでこのCortisone・ACTH系の薬剤と同じ様な作用を持つと,Vidal & Ribas等により考えられてきた薬剤Adrenochromeは,蛭間・宮尾氏等の報告によりても明らかに血管透過性を抑制する事が報告されている。又著者がさきに行つた血液房水柵透過性に関する実験に於いても,明らかに抑制効果を認めたのであるが,此の様なACTH系薬剤に類似し,且らStress緩和作用をも具備する薬剤Adrenochromeが,実験的葡萄膜炎に如何なる態度を示すかを,Cortisone系薬剤と比較して実験を行う事が出来,聯さか知見を得たので並に報告する。

Muco-cutaneo-ocular Syndromeの5例とその臨床的考察

著者: 百瀬皓 ,   望月邦雄 ,   阿久津澄義

ページ範囲:P.451 - P.455

 皮膚,粘膜及眼に一連と思われる症状の出現する疾患は古くより知られている。
 この種疾患はRendu (1916)及Fiessinger(1917)の記載したEctodermose érosive plu-riorificielle及Behçet (1937)の記載したBe-hçet氏病を始めとして,その類似疾患は10指に余り,未だその分類さえ確定されず,この為かかる疾患群の概念そのものまで混乱を来しているのが現状である。

Neuro-Behçet's Syndromeの臨床例

著者: 朝岡力

ページ範囲:P.455 - P.457

 Behçet氏病は従来主徴候と見徹された眼症状,皮膚発疹,関節痛,アフタ等の外に神経症状の合併が記載せられ,CavaraはNeuro-Behçetの名を冠して報告している。著者も又当教室に於て観察した20例のBehçet氏病の中,本症に属すべきと思われる5例を経験したので,同様の観点からその本態を考察し,特徴を報告する。
 Cavaraの紹介した神経症状の病理像は炎症性変化と栓塞性変化で,臨床像は脳膜炎,脳炎,脊髄炎,中枢神経系栓塞症,多発硬化症等であつた。

流行性角結膜炎患者の血清学的検索

著者: 杉浦清治 ,   小池和夫 ,   小関茂之 ,   多田桂一

ページ範囲:P.457 - P.465

 我々は流行性角結膜炎(以下EKCと略記)につき,ウイルス学的な実験成績と臨床症状との関連について検討を行つているが,今回は次の諸点について検索したものである。
 1.Clinical EKC**の総べてがAdenovirus感染症であるか。

実験トラコーマに関する研究—トラコーマの病因及び感染性について

著者: 窪田靖夫

ページ範囲:P.465 - P.470

緒言
 トラコーマの接種実験に就ては1881年Sattler1)の報告以来現在迄,内外に多数の研究が行われている処であるが,特に慢性トラコーマの接種実験の結果に就て一致を見ない点がある。
 即ち戦前,石原元東大教授一門の人々に依つて行われた一連の接種実験に於て,青木,清水2)氏は陳旧は定型的トラコーマ17例を健康結膜に接種,全例が発病したと述べておる。

トラコーマ固定毒抗原による補体結合反応の臨床的価値

著者: 井上八千代

ページ範囲:P.470 - P.476

I.緒言
 トラコーマ(Tr)が眼科医にとつて常に関心の的となる問題であるにも拘らず,今なをその診断基準は確定してをらず,治療方針及び治癒判定についてもこれと同様に確たるものは無い。私は昨年来,種々の病期にあるTr患者血清について,伝研痘瘡研究室製のTr固定毒を抗原として補体結合反応(CFT)を行つた。この結果種々の新知見を得,この反応は梅毒におけるWasserman反応と同様に,Trにおいて大なる意義を有するものである事を認識したので報告する。

抗生物質治療によるプ氏小体の形態的変化

著者: 盛直之

ページ範囲:P.477 - P.480

 抗生物質によりトラコーマを治療する際にプロワツエク小体(プ氏小体)が形態学的に如何なる影響を受けるかということは,薬剤のトラコーマに対する治療効果を検討する上に有力な指針となり,又トラコーマ・ウイルスに対する作用機転にも関連して,重要な問題である。
 抗生物質治療によるプ氏小体の形態的変化については,三井,岩重氏等数氏の報告があり,著者も一部既報した1)が,更に種々の知見を得たので報告する。

房水眼圧恢復試験の臨床的応用(予報)—特に角膜移植術の適応検査に於ける価値について

著者: 筒井純

ページ範囲:P.481 - P.486

 角膜移植術の成績は角膜の中央に限局した無血管性の溷濁で他の眼組識が全く健康である場合に最も好結果である事は広く認められているがこうした症例は比較的尠い。虹彩毛様体に萎縮変性等の病変がある場合には,房水の生産が阻碍され移植片の栄養が充分で無い為に透明治癒が望まれない。角膜が不透明で前房の状態が明らかでない場合,赤外線写真や斜照法等によつて或程度前房内の状態を知り得る事が出来るが,虹彩毛様体の代謝機能等は全く知る事が出来ない。こうした場合の診断的一方法として筆者は前房水を吸引した後の眼圧恢復状態を追求する事によつて簡単に虹彩毛様体の房水生成状態を知る事を考案した。そしてこのテストを房水眼圧恢復試験(AqueousTension Recovery Test)と名附け臨床的に価値のあるテストである事を認めた。
 房水を吸引した後の眼圧恢復に関しては,Kro-nfeld & Lin1),Baratta2)等の研究があるが角膜移植の適応検査に用いたものは無い。又筆者は此のテストを角膜移植術の適応検査以外の場合にも応用して緑内障の素因のある眼の発見や,外傷後の視力恢復の予後の判定にも役立つ事を発見した。本テストは単に注射器とトノメーターさえあれば臨床家にとつて誰にでも実施出来るので推奨したいと思う。

所謂軽症慢性軸性視束炎に対する一私見

著者: 土方文生 ,   木村正

ページ範囲:P.487 - P.491

I.緒言
 所謂軽症慢性軸性視束炎(以下軽慢軸と記す)の存否に関しては賛否両様の論説があり猶幾多の疑点の有る所である。昭和32年度日眼総会に於ける井街・鈴木・桑嶋三氏のシムポヂウムにても充分には論じつくされず,むしろ問題を今後に残したとさえ見られる様である。
 殊に本症がその診断根拠中に,視力良好なる中心比較虚性暗点の証明されるものと云う点が更に論議を複雑にしているとも見られる。

非網膜剥離眼に於ける網膜裂孔及び嚢状変性について—(第1報)片眼剥離症例に於ける検索成積

著者: 田川博継 ,   時田広 ,   斉藤昌淳

ページ範囲:P.492 - P.500

I.緒言
 網膜剥離(以下剥離と略称)例では仮令治癒例と云えども視力,視野,其他の網膜諸機能は,経験例でも又最近の広大百々教授門下の詳細なる研究等によるも,その剥離期間及び程度に応じて一般に正常眼より減退するのが常である。特に本邦の現状の如く,視野の概念の一般的欠如により黄斑部に迄剥離が進行し中心視力が犯されて始めて受診する者が大部分であるので遺憾乍ら機能障碍の後遺が顕著な症例を経験する。従つて治療より寧ろ予防に重点を置く可き事は自明の理である。更に一方,予防手術の非観血的手段としてのMeyer-Sćhwickerath(1954)の光凝固の発表(之のみにては尚欠点を懸念されるが)以来,今や剥離は予防の時代に突入した感が深い。所がこの予防手術の基礎となる可き非剥離眼の多数例に於ける裂孔乃至嚢状変性に就ての検索成績の詳細なる報告は,後述の如く現在迄内外共に皆無と云つても過言でなく且つ甚だ不充分である。
 田川は1941年(昭16)以来,百々氏(1943)と同様なる意図の下に先ず片眼剥離例の他側眼,更に機会ある毎に諸種眼の眼底精査を行い今日迄我々の眼底精査例は相当な数に登つた(約700眼)。で,遂次その成績を整理,報告し度い。

網膜剥離眼に於ける眼圧調整の様相について—第二篇 眼圧日差動揺

著者: 森寺保之

ページ範囲:P.500 - P.509

緒言
眼圧日差動揺に対する検索は1904年にMasle-nikoff1)か正常眼に於ける眼圧日差動揺の存在を認めて以来進展し,緑内障眼に於ても朝高夕低型なる動揺形式をとると信奉したKöllner一派3)以後,その型に就いても,動揺値に就いても種々検討が加えられ,Hagen4)Sugar或はLöhlein.Feigenbaum9)等により動揺値についての生理的限界が規定され,更に1951年Langley-Swanljung5)に至つて,型の分類に於て之に二峰型,下降型,上昇型,恒常型なる四つの型式をとる事が明白となり,後Duke-Elder6)須田7)岸本8)等によりその妥当性が確認され現在に至つている。かくして,緑内障眼に対して各種多種多岐に亙る検索が加えられているが,この日差動揺値についての検討は現在緑内障眼解明に重要な地位を占めている。網膜剥離眼に於ては緑内障とは別の意味に於て,眼圧異常を来すが余はかかる検索の意義を検すると共に,網膜剥離眼眼圧調整の様相の解明一方法として並に網膜剥離症の種々の分野に亘り,患眼並に非罹患眼に就て,日差動揺値,その形式を検し,加え両者の関連性に就て検索を加えて見た。並にその成績を報告し,眼圧調整解明の一助としたい。(眼圧値に就ては第一篇にて報告する)

視力表照明装置の一考案

著者: 春田長三郎 ,   楠研二 ,   宇山健

ページ範囲:P.510 - P.513

 視力表照明装置として広く眼科医に愛用されているのは中泉式装置であり,この装置の照度分布に改良を加えたものとして,徳大式装置1)がある。その装置の視力表照度分布は略々理想的なものであり,その点では改良の顕著なものである。しかしこの装置は余り大きすぎるのと,その構造上から,視力表とその周囲とがはつきりと隔離されており,視力表は恰もシヨーウインドの中に入つた感がある。視力表とその周囲とが隔絶されている関係は,中泉式装置に於ても略々同様であると云い得る。故に室内照度が高く保持され,壁面照度が視力表上の照度に対して余り大差の無い場合は,比較的問題は無いのであるが,現在の室内照度——殊に夜間——では末だ未だ低く,視力表照度(500〜1000Lux)とは差があり過ぎている。この点で徳大式及び中泉式装置には欠点がある。
 吾々の考按した装置は次の様な特微を持ち,視力測定上の諸条件を成る可く理想的に行える様設計したものである。

白内障全摘出手術の映画供覽

著者: 井上正澄

ページ範囲:P.514 - P.515

 この手術映画は16ミリボーレクス新型レフレツクスカメラと75ミリ望遠レンズとの間に接写リングをはめて拡大力を増大し,約70センチの距離から撮影した。このカメラはスチル撮影用のキネエキザクタやアサヒフレツクスと同様にパララクスがないので視差を生じない。使用フイルムはASA32でアンスコカラーの増感現像を行つた。
 照明としては500ワツト電球3個を約2mの距離から用い,手術室の冷房装置を動かして撮影したので患者は熱感を訴えず,角膜は余り乾燥しなかつた。しかし画面への反射を避ける位置に照明灯をおいたので,執刀者の私の眼には角膜は可なり輝いたので,細かな操作はやりにくい点もあつた。5例の全摘出手術を16ミリで約1000フイート撮影し,字幕共に600フイートに編集した。撮影速度は1秒16駒,同速度ならば映写時間は23分である。

眼科領域から見た高血圧症者の治療経験について

著者: 樋渡正五 ,   飯島亨 ,   大戸建 ,   斉藤紀美子

ページ範囲:P.515 - P.520

I.緒言
 高血圧症の研究は1836年のBright氏の腎性高血圧の記載以来その原因,診断,経過,予後,治療及び高血圧に伴う合併症等に就いての幾多先人の努力にも拘らず,その本態及び原因の判明したものは極めて僅かに過ぎず,大多数は尚原因不明の本態性高血圧の名のもとに一括されている現状であつて,現在に於ても我々の関心事の一つであり,殊に最近老年者の生命が延びるにつれて動脈硬化症と共に大きくクローズアツプされて来た感がある。その原因,診断,経過,予後に関しては之を他に譲り,少くとも治療1つに限定しても幾多新薬の出現は以前とは或程度異つた見方を我々に与えてくれる。
 高血圧症の治療は脳卒中の予防のみならず,之に伴う各種の愁訴や精神的不安定状態の除去に役立つのみならず,心,腎,脳に於ける各種合併症の発生,増悪防止に対して,極めて重要である反面,雑多な薬が無批判的に使用されている傾向がなきにしもあらずである。

東洋医学的にみた虹彩炎(葡萄膜炎)の治療

著者: 小倉重成

ページ範囲:P.521 - P.527

 Uveitis anteriorは女性に多く,Uveitis po-steriarは男性に多いとされている。こゝでは虹彩毛様体炎(Uveitis anterior)のみを単独に取り上げずに,葡萄膜炎全体の立場から考えた。
 虹彩炎は時代により,又は国によつて,その原因を梅毒,結核,焦点感染等の諸説其の他によつて理由づけてきている。然し乍ら多くの場合そう単純に原因を決定づける訳にはゆかぬ様である。又原因が比較的はつきりしている時でも,それは多くは上に述べた様な細菌等の如き外来原因,乃至は特異的原因について云われる事が多い。従つて往々にして内因乃至は非特異的原因については論じられぬ傾きがある。

視束乳頭面に於て被包された鉄片の抽出

著者: 奥田観士 ,   難波龍也

ページ範囲:P.528 - P.531

緒言
 眼内異物殊に磁性異物に対しては磁石による抽出が古くから行われているが陳旧性の物殊に結合織により被包されたものの抽出は必ずしも容易でない。私共は最近興味ある抽出例を経験したので報告する。

頭蓋咽頭腫の症例について

著者: 小島克 ,   夏目智恵子 ,   本多敦子 ,   宮川千鶴子

ページ範囲:P.532 - P.542


 頭蓋咽頭腫は,鞍上腫瘍として多くの人によつて扱われている。井街氏(昭和29年)は視交叉とその附近の腫瘍29例中,11例に,柳田氏(昭和28年)は81例中23例,尾上氏(昭和30年)は兵庫医大眼科で21例,生井氏(昭和30年)は42例中,12例にみとめられている。
 柳田氏は,本症の眼症状に就いて23例から各種の考案を試みられている。

網膜色素変性症と組織療法について

著者: 小山田和夫 ,   湖崎克 ,   渡辺千舟 ,   和田光彦

ページ範囲:P.543 - P.548

I.緒言
 網膜色素変性症は,近来頓に其の原因論及び治療法に関して,活溌な研究が行われているが,未だその何れもが,決定的と云い難く,尚,眼科領域に於ける難症の一つである事は,周知の通りである。
 私等は先に,メチオニンの本症に対する影響を,アダプチノールと対比的に検索した結果,アダプチノールに,本症の暗順応促進効果の優位性がある事を実証したが,アダプチノールのみに依つて本症の治療が解決されるものでない事は,吾々の臨床経験からも,又,これに関する諸氏の業績からも,推定に難くない。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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