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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科12巻4号

1958年04月発行

雑誌目次

日本トラホーム予防協会会誌

トラコーマ血清の蛋白各分劃比率について

著者: 柏井忠夫

ページ範囲:P.21 - P.23

 血清蛋白にはアルブミンのほかに,α.β.γ.の三つのグロブリン屑が区別され,抗体蛋白は,一つの独立の分屑として,γ-グロブリンに近い性質のものである事はよく知られている事である。私はトラコーマの場合,その患者血清中に,トラコーマ抗体の存在する事に確信を得たので,γ-グロブリンがトラコーマ抗体とどの様な関係にあるかを追求する目的の為に,トラコーマ患者血清の蛋白各分劃比率を測定した。
 血清蛋白各分劃比率の測定には,塩析法及び電気泳動法を利用する方法があるが,厳密に云うと,血清蛋白質を完全に均一純粋な状態のままで分離する事が困難である現在,両者による測定値を比較すると多少の差異のある事は当然の事であるが,臨床的に電気泳動法を利用する場合には,比較的大量の血清が必要であり,設備も高価で,技術の習熟を必要とする関係上,私は,此の電気泳動装置の欠点を除く為に,Kingsley.Wolfson.Cohn.Weichselbaum.等の提唱せる化学的蛋白各分劃測定法を改良し,電気泳動法の成績と極く,近似の値をうるように案出した吉川,斉藤氏1)の塩析法(ビウレット反応)を利用した。池田2)によれば,此の方法は,電気泳動法による値と比較すると,α-グロブリンは塩析法では高い価を示すが,其の他の各分屑値は,両者の間に著しい相違はみとめられず,むしろ斉藤,吉川氏法による方が簡便にして,臨床的には,秀れた価値があると云つている。

南米移住者のトラコーマについて

著者: 坂井京

ページ範囲:P.23 - P.26

 日本の将来の海外発展に対して移住は重要なことであり,又,移住は人口問題や農村問題のみでなく,国際的な問題でもある。しかし現在の国際状勢下において,受入れ国に対し歓迎されるような勝れた移住者を送り出すことは日本海外発展の根本条件の1つである。戦後昭和27年にアマゾン開発の移住第1陣が出されてから之等移住者が年々増加して行くことは誠に喜ばしいことであるが,他方移住者のトラコーマ罹患については入国検疫も嚴重となり,移住関係者はその対策に頭を悩ましている次第である。今度山口医大の大石教授が輸送監督として南米各地を視察調査され,本誌に豊富な学識と経験より「南米移住者のトラコーマ」の1文を掲載されることゝなり,これで移住者のトラコーマ問題も改善されるものと信ずる。
 私は昭和30年4月より昭和32年10月迄に神戸移住あっせん所で検査した10973名(政府渡航費貸出者のみ)の眼疾について報告し,之等移住者の現況を諸家に於いても認識を深められ合せて御協力をお願い致します。

連載 眼科図譜・40

眼窩内容変化に伴う眼部レ線像

著者: 桐沢長徳

ページ範囲:P.555 - P.556

解説
 眼窩内容に長期間に亘る変状が存する場合,眼窩骨壁及びその附近にもこれに相当した変化が現れることは言うまでもない。
 第1図は先天性無眼球で,左眼は眼球の存在が認められず,瞼裂も非常に狭い(Microblepharon)。従て正面からのレ線像は図の如く眼窩壁の不規則な縮小が見られ,殊に内,下,外方に於て著しい。

綜説

ビタミンB2複合体と視器

著者: 入野田公穂

ページ範囲:P.557 - P.565

1.ビタミンB2複合体の概念
 ビタミンB2には広義のビタミンB2複合体即ちビタミンB2群を指す場合と狭義のリボフラビン(ラクトフラビン)のみを指す場合があり,一般に単にビタミンB2と謂う場合には狭義のリボフラピンのことであり,広義の場合にはビタミンB2複合体と云つて区別をしている。此のビタミンB2複合体はBicknell及びPrescott1)両氏によればリボフラビン,ビタミンB6(ピリドキシン),ニコチン酸,コリン,パントテン酸,葉酸,パラアミノ安息香酸,イノシトール,ビオチンの他B5,M,H,U,L1,L2,B10,B11,B12,アデニール酸等多岐に亘つて居る。これらのビタミンは最近多くの学者により研究されて著しく解明されたとはいへ,尚相当未知の因子があるものと考えられる。ビタミンB2群の個々のものの欠乏に因り人間に対して欠乏症状を来す場合,又ある動物に対しては欠乏症状を惹起するが他の動物,又は人間に対しては欠乏症状を来さぬものもある。又他方これ等ビタミンを殆ど摂取しなくとも動物体内,又は人間の体内の細菌が合成する為に欠乏症状の顕われ難い場合もあり得る。それ故各ビタミンの必需性,特に摂取所要量は動物によつて違う。何れにしてもこのビタミンB2複合体は人間では勿論,動物に於ても各種各様に複雑な酵素又は補酵素作用を営んでいる。

臨床実験

Bgurneville-Pringle氏病(結節性脳硬化症)の1剖検例—その眼底変化並に眼球の病理組織学的所見について

著者: 石田常康

ページ範囲:P.566 - P.574

緒言
 1880年Bourneville氏に癲癇発作のある白痴患者の大脳皮質に結節性硬化巣を見出し,これに結節性脳硬化症と命名した。又これと無関係にBal-zer-Menetrier氏(1885年),Pringle氏(1890年)等は顔面に対称性に多発する母斑性皮膚疾患を皮脂腺腫という名称の下に報告したが,Pela-gatti氏(1904年),Vogt氏(1908年)等により上記の疾患が同一疾患の異なる発現であることが明らかにされ,Bourneville-Pringle氏病と呼ばれるようになつた。
 本疾患の眼底に変化のあることを初めて報告したのはVanderHoeve氏(1921年)である。彼の報告以来眼底変化を伴つた本疾患は約60例に達している。本邦に於ても中安氏(昭和10年)の報告を初めとして,爾後20例を数えるが,その組織学的検索を行つたのは中安,広瀬-永江,竹内-竹内,の三氏に過ぎず,又外国に於てもVanderHoeve,Schob,Best,Feriz,Horniker-Salom,Fleischer,Messinger-clarke,Kazn-elson-Meksinaf,Tarlau-Mc.Grath,Lowen-stein-stiel等の諸氏の報告例がみられるのみである。

大腸菌の混合感染に依る眼瞼膿瘍の1例

著者: 小玉順三

ページ範囲:P.575 - P.577

 私は最近,比較的緩慢な経過をたどつた,眼瞼膿瘍の膿汁の培養から大腸菌と葡萄球菌を証明した1例に遭遇した。大腸菌が眼瞼膿瘍の炎症巣より認められた報告は,私の調べた所では見当らないので茲に報告する。

所謂中心性網膜炎の研究(第2報)—中心暗点と浮腫との関係に就いて

著者: 本多英夫

ページ範囲:P.577 - P.580

緒論
 前回の報告8)で私は,本症の初期に視力が凸レンズで矯正される現象に就いて観察し,凸レンズの度で推定される所謂遠視の度の著しい場合には,必らずそれに相当した大きさの浮腫が検眼鏡的に認められるが,逆に浮腫が相当に大きい場合,例えば視神経乳頭の6乃至7倍に達する場合でも,所謂遠視の度が,全くない場合から,+1.5D程に及ぶ場合まである事を述べた。
 所謂遠視が著しくそれに相応した浮腫がある場合は,勿論増田氏3)以来認められている様に,組織的に網脈絡膜の間に滲出液が溜り,網膜が前方へ移動して,眼軸は見掛け上短かくなり,これが遠視の原因となる事は誤りないと思われる。然しながら茲に浮腫の相当に大きい場合でも,所謂遠視の全く起つていない場合がある事は,前報の遠視と浮腫の大きさとの関係の図8)より認めなければならぬが,検眼鏡的に認められる黄斑反射輪の拡張及びその中の混濁で特徴づけられる浮腫が,従来増田,長谷川1),北原2)の諸氏に依つて述べられている様に,総て網脈絡膜の間に溜つた滲出液のためであるとすると上述の結果の説明が困難になる。即ち同じ様に綱脈絡膜の間に滲出液が溜つても,或る場合には網膜は凸出し,或る場合には殆んど凸出しないと云う事になり,その凸出の有無は一方的に検眼鏡で認める浮腫の大きさに関係していないからである。この事は本症の病像を統一して理解する場合厄介な事になる。

Orbitonometryに関する研究—第2報 甲状腺疾患,殊にBasedow氏病について

著者: 植村恭夫

ページ範囲:P.581 - P.585

緒言
 著者は前報に於て,Copper氏等に做い試作したOrbitonometerに就て紹介し,正常人に就ての測定結果を報告したが,今回は甲状腺疾患殊にBasedow氏病に就て研究を行つた。
 Basedow氏病に関するOrbitonometryの研究は,欧米にては,Copper,Means,Kearns,Grossman,Jaeger等の報告がみられるが,本邦に於ては未だ其の報告をみない。此度はBase-dow氏病の診断及び治療効果の判定に,Orbitonometryが如何に役立つかを検討してみることとした。

Succus Cineraria Maritima点眼に依る老人性白内障治療経験

著者: 佐伯譲

ページ範囲:P.587 - P.590

 Succus Cineraria Maritimaの外傷性白内障に対する効果は既に藤山教授等により屡々発表されて居りますが,私は今回米国Walker Phar-macal Co.並びに科研薬の厚意により本剤を初期老人性白内障に対し使用する機会を得たのでその一部を報告する。

白内障の薬物的治療に関する研究—其の5 カタリンの中毒量及び致死量に関する研究/白内障の薬物的治療に関する研究—其の6 カタリンの性質と其の使用法に就いての解説

著者: 荻野周三

ページ範囲:P.591 - P.599

 先に私は白内障進行停止に著効を有するカタリンの合成に成功し1),本薬剤の毒性をモルモツト肝臓のミトコンドリヤ活生値より検詞を加え,モルモツトに20mgを毎日連続2週間注射してもミトコンドリヤ活性値には障碍をあたえぬ事を証明した2)。この事実からカタリンは生体に及ぼす障碍が極めて少い事が判るが,詳細な中毒量,致死量等に就ては更に検討を要する様に思える。
 本論文は白鼠を使用して体重の増減,尿中クエン酸及びアセトン体の排泄等からカタリンの中毒量,致死量等に検討を加えたものである。中毒量ないしは障碍量判定に尿中アセトン体,クエン酸排泄を検討した理由は,前報の様にミトコンドリヤ活性値を一応生体の普辺的な活性の尺度とみると,ミトコンドリヤ活性値(TCA廻路活性値)の減少は当然体内にクエン酸の蓄積をみる結果となり,更にTCA廻路運行障碍の結果脂肪酸化代謝もおかされて,体内にアセトン体も蓄積するであろうとの予想をたてたからである。

血圧と関係ある2,3の眼底所見について—其の3 高血圧性眼底所見判定上の疑義について

著者: 加藤謙

ページ範囲:P.599 - P.603

緒言
 高血圧患者の眼底所見判定は,所見有無の判定から所見の程度及び性格(良性・悪性)の判定を要求せられる時期へ移行し,判定の機会も次第に多くなつてきた。而もこの種判定は通常生命予後に関する暗示を含み,患者の心理と内科主治医の治療方針へ著しい影響を与えるばかりでなく,高血圧を対象をする幾多の臨床的研究の根柢となることが少なくない。従つて個人により又病院や大学により判定が動揺することは,なし得る限り避けたいところである。
 然るに動脈硬化性変化を含めての眼底の高血圧性変化とは,言うまでもなく,軽度より高度へ,良性より悪性へ連続的移行的所見であり,これを微細な所見に基いて段階をもうけ区分するのであるから,同一の眼底に対する判定が動揺することは,決して無視し得る程度に止まらないように思われる。斯くして1人の患者が某医師又は某病院眼科で眼底正常と言われて安心し,他の医師又は他の病院でKeith-Wagener (以下K-Wと略称)Ⅰ群時にはⅡ群等と言われて驚くというような事例も稀ではないように思われる。

テトラサイクリン点眼液について

著者: 菅原淳 ,   浜田正和

ページ範囲:P.603 - P.605

I.緒言
 眼局所へのテトラサイクリンの応用は,主に軟膏と油剤の形で使われている。いうまでもなく,安定で滞溜時間が長いからである。けれども,此の形のものを点眼すると,霧視や粘著感があつて嫌がる人が少くないし,また人に依つては,過敏症を生じ却つて炎症が消褪し難い人もある。此の様な点を考慮して,使い易い様にする為には,矢張り安定した点眼液の必要が痛感せられる。これまで発表せられたテトラサイクリンの点眼液には次の様な処方例がある。
 1)テトラサイクリン塩酸塩 0.5g

眼科領域に於ける好気性芽胞形成桿菌(主としてBacillus cereusと枯草菌)に関する実験的研究(第1報)

著者: 新井敬子

ページ範囲:P.607 - P.613

緒言
 枯草菌と言えば研究室の最も普通の汚染物であり,外界に幾らでも散らばつている雑菌である。そして一般に人体には病原性がないと見徹されている。しかし眼科では稀に此の菌による全眼球炎等の症例報告が見られる。私も昭和31年此の菌によると思われる全眼球炎を1例経験し既に報告した。
 外界にこれ程多い菌による発症が,何故稀なのであろうか。私は此の疑問から始つて枯草菌に対し興味を持ち,外国文献を捜している中に枯草菌に良く似た菌,即ちBacillus cereus (以下B.cereusと略す)の存在を知つた。

視束乳頭比色に関する臨床的検眼鏡的研究—(第4報)体位の変化による視束乳頭比色値及び眼圧の変動について/(第6報)病的人眼に於ける圧追負荷試験について

著者: 林誠

ページ範囲:P.615 - P.624

緒言
 体位の変動によつて血液の分布状態に変動を生ずることは,従来知られて居り,上腕動脈血圧に変動を見ることが報告されている。眼科的方面に於ても体位の変動による網膜中心動脈血圧の変動に就ては,Bailliart,Leplat,Salvati,鴨川,長谷部,今井氏等の研究があり,網膜黄斑部毛細管血圧の変動に就いては,植村,石田,中島,加藤,宮崎,山田氏等の研究があ。又眼圧に就ては,Köllner,Thibert,Thiel,Wegner,三谷,河本,魵沢,山田氏等の研究がある。而して眼底に於ても体位の変動により血液分布状態に変動を生じて色調に異同を生ずるであろうことは容易に考えられる事であるが,然しこれに関する研究は未だ之を見ないのである。私は大橋式比色計を使用して之に関する実験を行つた結果いささか興味ある視東乳頭比色上の新知見を得たので,こゝに報告する次第である。

副腎皮質ホルモンの角膜創傷治癒に及ぼす影響—(第4報)各種ステロイドの家兎前房水に及ぼす影響(プレドニゾロンとハイドロコーチゾンの比較)

著者: 高尾泰孝

ページ範囲:P.624 - P.640

I.緒言
 私は先きに,コーチゾンを始めとする副腎皮質ホルモンの治効の本能を究明すると同時に,その臨床的使用法をも併せ検討する目的で,先づ角膜創傷治癒機転に及ぼす影響に就いて,昭和27年以来実験を続け,その第一報を昭和27年12月第316回東京眼科集談会で発表して以来,現在までその成績の一部を眼科臨床医報(第49巻5号),臨床眼科(第10巻3号及び第11巻1号)に掲載した。
 今回は,第3報までの組織学的検索に併せて,他の観点から本問題を検討し,新知見を得たので,前報までの成績と比較検討して総括的に記述することとする。

眼窩癌腫の1例及びその統計的観察

著者: 飯田昌春 ,   脇田茂

ページ範囲:P.640 - P.647

 眼窩癌腫は,既に,多く報告されているが,最近,私共は副鼻腔から波及したと思われる一例に遭遇したので,その統計的観察と併せて,報告したい。

眼結核のPyramide-INAH療法

著者: 三国政吉 ,   長瀬憲一

ページ範囲:P.647 - P.654

 肺結核治療に於けるPyrazinamide-INAH併用療法はSM,PAS等従来の薬剤に耐性となつた患者には無論,初回治療患者に於ける使用価値も今や大きく評価されていることは周知のことであつて,最近は腸結核,結核性髄膜炎,骨関節結核,泌尿器結核,皮膚結核等諸種の肺外結核にも応用されて勝れた治療効果の挙げられることが相次いで報告されている。眼結核に対する効果に就ては私共は先に眼科臨床医報誌上に発表したが,その後症例数も増加したのでこゝに更めてそれらの成績に就き述べて見度いと思う。

後天性近視に対する低周波治療法

著者: 松下和夫 ,   谷美子 ,   和田秀明

ページ範囲:P.655 - P.661

I.緒言
 近視の罹患率は,大正年間より漸次上昇し,1937年頃にはその頂点に達した。その後,第2次大戦中,及び戦後には,一程度減少していたが,1952年頃から再び増加の傾向が著しい。文部省調査局統計課の発表によれば,1955年度には,小学生男9.34%,女11.27%,中学生男13.56%,女16.86%,高校生男22%,女24.2%の近視が存在すると云う。1950年度には,高校生男約11%,女約13%であつたから,高校生の近視は毎年2〜3%づゝ増加し,わずか5年間に実に2倍に増加した訳である。最近,秋谷氏等は,金沢市内某高校の近視は,1年生38.3%,2年生40.9%で,昭和12年(1937年)頃の最も多かつた時代を梢々凌駕することを認めている。
 近年,結核をはじめとして多種の疾患が専ら減少の一途を辿つている今日,この近視の急激な増加は,まさに時代に逆行するもので,社会衛生上憂慮すべき問題であろう。

手術

斜視手術について(1)

著者: 桐沢長徳

ページ範囲:P.663 - P.665

 斜視の手術は眼科医のうちで手がけたことのない人は極めて少い位にポピユラーな手術である。それほど広く行われる手術であるにも拘らず,これほど不統一な見解の多い手術は少いと思われる。
 殊に日本に於て然りである。外国に於ては斜視の数が日本より遙かに多いらしく,従て斜視の研究や,その手術は昔から眼科医の中での大きな課題となつていたが,日本に於ては近年まで,斜視は比較的取あげられることが少かつた。現在でさえも「斜視は病気ではない」と思い込んでいる僻地の人々が少くないし,また,斜視が手術によつて治ることを知らない人も田舎には珍らしくない。

眼科新知識

異常瞳孔反応(反射性瞳孔強直症,瞳孔緊張症,絶対性瞳孔強直症等)の成立病理に就いて(其の1)—Poos学説の紹介

著者: 安芸基雄 ,   鴨打俊彦 ,   大本純雄

ページ範囲:P.667 - P.672

緒言
 瞳孔緊張症,反射性瞳孔強直症,絶対性瞳孔強直症等一連の瞳孔反応異常は,吾人が比較的屡々遭遇する疾患であるが,其れにも拘らず其の発生病理に関しては多くの説が並び立ち,眼科神経学的に未解決の分野の一つとなつている。
 此点に就いて,例えば反射性瞳孔強直症に関しては,沖中,豊倉は「アーガイル,ロバートソン瞳孔に関する病因論の障碍想定部位は,対光反射路求心,遠心路及び近見反射路の殆んど全領域に亘つている」と驚きの声を発しているのを見ても,其の病因論の混乱ぶりは容易に想像できるであろう。

新刊書紹介

—Ida Mann—1.Developmental Abnormalities of the Eye. 2nd Ed.(Lippincott),1957.,他

著者: 桐沢長徳

ページ範囲:P.673 - P.674

 Ida Mann女史は以前に「眼発生学」を著したその方面の大家であるが,正常な発生学に次いで「異常篇」を1937年に公刊した。本書はその第2版である。生憎第1版が手許にないので比較は出来ないが,前述のような篤学者の著書であるから,その方面の良書の少い銀界にとつて最良の参考書であるといつてもよい。
 純粋の胎生学は臨床家には敬遠されがちであつて筆者などにも最も苦手の部門であるが,女史のような臨床家が,眼の発生を解剖学者の立場からでなく,眼科医としての立場から研究された後に書かれた本書の如きは,我々にとつて最も理解しやすい書であつて,その特色はParsons,Berens等の大家が序文に記している通りである。

私の経験

70年をかえりみて(1)

著者: 中村文平

ページ範囲:P.675 - P.682

 先日中泉行正博士のお勧めがあつたので,70年を顧みてその思い出を書きつづけてゆこうと筆を執つた。
 日本の屋根とも云われている北アルプスの東の山麓,安曇の郷に私は生まれた。ここは神代の昔アズミ族とゆう種族が居住していて栄えていたとゆう伝説を持つている。この地に郷党の人々が建ててくれた「英碩中村翁頌徳碑」がある。

涙管ブジー

著者: 長谷川信六

ページ範囲:P.683 - P.683

1.「ブジーは痛い」を追放せよ
 成人の流涙症の場合,涙管ブジーを挿入しても余り効果は期待出来ないが,10人に1人位はたとえ一時的にせよ治癒する者があるので,万更棄てたものでもない。私は流涙症には1〜2回は一応試みて見るが,只,ブジーを通すと云うと患者は誰でも「あれは痛いそうですネ」と云う。ブジーは痛いと云うことが世間の通り相場になつているようである。事実,痛いちしい。私は且つて先輩の広田敏夫先生の体験談を聞いたが,最も痛いところは涙小管と涙嚢との移行部,即ち,ブジーを90度廻転するところだと云う。それで,私はブジー挿入の際は移行部近囲に2%のノボカイン0.5〜1.0ccを注射している。その結果は患者に殆んど苦痛なしにブジーを通すことが出来る。僅の労であり平凡なことだ。然るに,こんな平凡なことが一般に行われず,ブジーは痛いと云うことが依然として世間の通り相場になつている。尤も,一般教科書には点眼麻酔を行えと書いてあるが,流涙症に点眼麻酔を施しても肝腎の涙嚢は麻痺されないから意味がない。敢て切創を加えなくとも痛いものは痛いのであるから,徒に患者に苦痛を与えぬよう,ブジー挿入の際は注射による局所麻酔を施すべきだ。ブジーは痛いと云う眼科医には不名誉な声は追放すべきであると思う。
 尚,涙管ブジーは1〜2回試みて効果のない時は何回試みても無意味だと思つている。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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