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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科12巻5号

1958年05月発行

雑誌目次

日本トラホーム予防協会々誌

トラコーマの診断についての臨床的研究—1.結膜及角膜所見の年齢的推移について

著者: 坪田芊子

ページ範囲:P.27 - P.34

緒言
 トラコーマの病源体が簡単に誰にでも鏡下で見られるようになるとか,動物に植えれば容易に決められるとか,或は梅毒のワ氏反応の様な血清反応が見出されるとか,マ氏反応の様な生体反応が発見されると,トラコーマの診断も格段の進歩改善が望まれるのであるが,今日一般の成書にある様な診断法では,トラコーマの病源体より寧ろ生体の反応を主とした臨床症状に重点が置かれているので,非特異的症状とか中毒症状では勿論のこと,特異的な症状でも個人差が甚しいために,トラコーマ診断の混乱を招来していることは今も昔も変りはない。然し特定な刺激を生体に与えた場合,何時かは特異的な反応が来る筈であり,又一定の病源体は或一定の病理組織学的な変化を招来するというのが病理学の原則であるから,例え原因体が,或は原因的診断法が不明であつても生体の反応なり組織学的所見なりがトラコーマ診断の一助となる事は云うまでもない。元来,トラコーマは結膜の疾患とされているから,我々として結膜所見を最も重視すべきであることは贅言を要しないが,結膜と発生を同じうしている角膜表層の病変,例えば角膜パンヌスもトラコーマ診断には疎かに出来ない事は,これ又今も昔も変りはない。所が,此の角膜パンヌス様の変化というものはトラコーマに限つて見られるものではなく,他の疾患の場合でも見られる事はいくらもある。

Trachomaは伝染するか?しない!

著者: 金田利平

ページ範囲:P.35 - P.38

 Tr.は伝染するかと私がいえば読者の多くは今時何をいうかTr.が伝染病だとは何人も認めている事実でありTr.の病原体はVirusだとも一般に認められているではないかTr.が伝染するかしないかに就て今頃疑義をいうなんて事は全く問題にならん論外だと多くの方々は否定されるでしようが,それじや私は其等否定される方々に「Tr.が一定の病原体Virusによる伝染病だと主張するのであるならばそのTr.病原体たるVirusが健康結膜に感染した場合どれ程の潜伏期間を経てどの様な症状を呈しつゝ発病しどの様な症状を呈しつゝ経過して吾々のいう教科書に記載している様なTr.となるのであるかと。そして此等潜伏期間,初発症状及び其後の経過は各年令によつてどの様に異るのか或は異ならないものなのか具体的に何人からも特に私から異議を唱えられない様に明確に解説出来ますか」と反問しますが明確に解説出来ないでしよう。出来ないでは感染源,感染経路,感染,潜伏期,初発症状其後の経過という伝染病としての根本問題が不明確では,わからないでは,Tr.は一定の病原体による伝染病だと主張出来ないし,Tr.二原論を主張する私がTr.は伝染するのか,しないと主張しても,それを完全に否定出来ないでしよう。例えばNataf氏が1955年日本にTr.調査のため来られ大阪大学でTr.に就て論じた記事が眼紀5巻5号に掲載されてある。その一部分を再記し私見を述べてみよう。

連載 眼科図譜・41

従来過りつたえられた我国で始めて版行された洋式眼科書

著者: 中泉行正

ページ範囲:P.691 - P.692

綜説

日本に於けるトラコーマ問題(1)—視察及び文献による

著者: G.B. ,   浅水逸郎

ページ範囲:P.693 - P.696

 私の日本えの旅行に際し,私は日本眼科学の指導的な人々に会い(私は日本の大学の眼科学の45名の教授のうち40名,更に600名以上の眼科医と直接個人的に接した),トラコーマ患者1000名以上の症例を調べ,又最も重要な研究機関を訪れることが出来た。此の様な視察に基き,私は之を総合して以下の結論に達した。

臨床実験

飼犬から罹患した犬型レプトスピラ症による後発眼症について

著者: 長谷川文吾 ,   青木十己孝

ページ範囲:P.697 - P.700

緒言
 曩に大石教授は,レプトスピラ症による葡萄膜炎が山口県下に於ても,屡々発見されることを述べ,一般の注意を喚起した。
 そこで,私等は今回その追加として,人体に感染することの稀なLeptospira Canicola (犬型レプトスピラによつて発症した虹彩毛様体炎の2症例の経過並にこの2症例の感染源であるLep-tospira Canicolaを保有する飼犬の血清学的所見及び病理組織学的所見を併せて簡単に報告することにする。

Orbitonometryに関する研究—第3報,放射性沃度I131による甲状腺機能亢進症の治療成績の検討

著者: 植村恭夫

ページ範囲:P.700 - P.704

緒言
 著者は前報に於て,Orbitonometryの甲状腺疾患の主として診断上の応用に就ての成績を報告したが,今回は放射性ヨードI131による治療効果の判定にOrbitometryが如何に役立つかに就て検討してみることとした。

赤視症の1例

著者: 菅原淳 ,   浜田正和

ページ範囲:P.704 - P.707

緒言
 色視症の中で赤視症の報告は数少なく,其の原因は殆んどヒステリーと云われ,経過は短かく1カ月以上に及ぶ報告は見ないが,ヒステリー症状は何もなく,約1年間頻回に亘り赤視症の発作を来した奇異な例を経験したので記載して,大方の御批判を仰ぎたいと思う。

全身投与による広スペクトル性抗生物質Broad Spectrum Antibioticsの眼内移行について

著者: 生井浩 ,   檜山治男

ページ範囲:P.709 - P.716

I.はしがき
 眼科領域に於ける感染症は,その治療法及び治療の難易に関係しで,病巣の部位によつて3種に区別して考える必要がある。眼瞼,結膜,結膜下組織,眼窩組織等の感染症は化学療法剤を他科領域で慣用される程度の投与量と投与法に準じ全身的に与える事によつても,薬剤は病巣によく移行し,従つて多くは治療の目的を達し得るのである。角膜,結膜等の外眼部感染症は局所に直接的に極めて高い濃度の抗生物質を応用し得る利点がある事を特徴とし,従つて相次ぐ抗生物質の出現によつて,緑膿菌,変形菌,或は真菌等の低感受性菌による稀な感染症を除いては,その治療は今日一般にさほど困難なものではなくなつている。眼内感染症については,Leopold1)やCallahan2)が白内障摘出後の全眼球炎菌について指摘しているように,緑膿菌や変形菌等の低感受性菌を含むグラム陰性菌が漸増しつつある事は注目に値する事であるが,一方Locatcher-Khorazo et al3)が同様に白内障摘出後の感染症の起炎菌として黄色ブドー球菌の重要性を強調しているように,普通化膿菌の眼内感染症に対する役割は依然として重要なものであることに変りはない。
 眼内感染症は,それが低感受性菌による感染症である場合は勿論のこと,普通化膿菌によるものであつても,一且発病すればその治療は甚しく困難であり,視力に対する予後は極めて重大である。

Deltacortril (Prednisolone)の眼科的使用経験(第2報)

著者: 石川清

ページ範囲:P.716 - P.718

 先に私はDeltacortrilの球後視神経炎に対する臨床実験成績を発表したが,今回は葡萄膜炎並に虹彩炎に使用して良好な成績を得たので茲に報告する。症例は当科入院及び外来患者にして,葡萄膜炎6例(中ベエシエツト氏病1例を含む),虹彩炎2例,性別32例,♀6例,年令は5歳より47歳に及んでおる。薬剤投与方法は第1報に従い,全例共経口投与にして,概ね第1図下欄の記載に準じ,全投与量は65mg〜325mgである。65mg投与例は薬剤手持不足に依り中止を余儀なくされた為である。成績を綜括すると第1表の如くで,著効4,有効3,無効1で効果発現日数は概ね2〜4日以内であつた。以下興味ありと思われた症例に就いて簡単に述べて見たい。

眼窩,脈絡膜及び角膜に転移を見たる後腹膜腫瘍Sympathicoblastomaの1剖検例

著者: 浦山晃 ,   安岡敏夫

ページ範囲:P.718 - P.724

 小児にみられる眼球突出は,眼窩悪性腫瘍によつて起ることが多く,比較的屡々遭遇する緑色腫にせよ肉腫にせよ予後の不良は視器のみにとどまらず,最も警戒すべきものに属する。そのひとつに交感神経系の胎生期の未分化細胞に由来する一連の腫瘍がある。これは元来稀であるが,最近われわれの経験した一例は,臨床上Ewing氏腫瘍と疑われ,剖検の結果ジンパトゴニオームの診断を得,眼部には未だ文献に類のない所見を見出したので報告する。

異常瞳孔反応(反射性瞳孔強直症,瞳孔緊張症,絶対性瞳孔強直症等)の成立病理について(其の2)—自験例11例を中心として

著者: 鴨打俊彦 ,   大本純雄

ページ範囲:P.724 - P.729

I.緒言
 反射性瞳孔強直症,瞳孔緊張症,絶対性瞳孔強直症の3者は,従来独立した別個の疾患と考えられ,夫々別個に成立病理が論ぜられて来た。然して其の成立病理に関しても多くの説が見られ,甲論乙駁尚多くの疑問の点を残している。これらの学説に比べれば,著者等が先月号(新知識の欄)に紹介したPoosの学説は,従来問題とされていた問題点をより鮮かに説明しているように思われる。
 今回筆者等は11例の自験例に更に重要な幾つかの文献例を加えて,これら疾患にPoos学説に基づく新しい視野より検討を加えて見ようと考えた。勿論検討と言つても生理学的薬物学的実験を行つた訳ではなく,又彼の学説に批判的考察を加えると言うより,寧ろ幾つかの問題点を指摘し,今後本疾患患者を観察して行く場合の一つの参考資料を提供すると言つた方が真に近い。然して敢て此の様な考察を加えて見たのも彼の学説が批判検討すべき価値があると信じたからに外ならない。

パニールチン(シスチン)の角膜疾患に及ぼす影響

著者: 百々隆夫

ページ範囲:P.731 - P.735

 シスチン(Cystine=Dicysteine〔S. CH2CH(NH2)・COOH〕2)の治療方面への利用は既に広範囲に行われているが,眼科領域では,流行性角結膜炎及び眼瞼炎1)に,その効果が報ぜられているにすぎない。外国ではシステイン(Cysteine=SH.CH2.CH (NH2)・COOH)の3%軟膏を,結膜と角膜の熱外傷及び化学的外傷に用いて,上皮再生の促進を見た報告がある2)
 私は,創傷の回復過程に,シスチンの役割の大きいことに着目し,創傷回復過程に迅速性が特に要求される,無血管組織である角膜の疾患に対して,その効果を検討して見た。

実験的春季カタルの研究(第2報)

著者: 根本祐

ページ範囲:P.737 - P.741

I.緒言
 先きに,私は,各種花粉抽出液に依る海猽の結膜局所過敏症実験を,種々追求し報告して来た1)。今回は,其の過敏症実験の再検討として,花粉抽出液のSchultz-Dale氏法に依るアナフイラキシー性腸管収縮並に脱感作現象に関する実験を行つた。又先きに発表せる春季カタル患者尿中ポルフイリン(以下「ポ」と略す)実験に於て「ポ」の重要性を報告したが,その再検討として,動物実験を実施し,少しく知見を得たので茲に報告する次第である。

Oleandomycinに関する研究—第1報 抗菌力について

著者: 真柄史郞

ページ範囲:P.741 - P.747

 Oleandomycin (Matromycin,PA 105—以下OM)は1954年Sobin,English及びCelmerによりStreptomyces antibioticsの1菌株より分離された塩基性抗生物質で実験式はC37H67NO13と云われる。普通塩酸塩又は燐酸塩として使用され水に易溶の白色結晶で,他の塩基性抗生物質とはペーパークロマトグラフ,赤外線スペクトルにより容易に区別される。
 熱及びP.H.に対する安定度は高くSobin等の実験では0.1%水溶液はP.H.2.2,5,7及び9で室温に24時間放置しても何等抗菌力の損失を認めないと記載している。

ロイコマイシンに関する研究補遺

著者: 斎藤三郎

ページ範囲:P.749 - P.759

 Leucomycin (以下LMと略す)は北里研究所の秦藤樹教授等(1953)が新放線菌Streptomy-ces Kitasatoensis, Hataの培養濾液から抽出した新抗生物質で,その有効範囲はErythro-mycin (Ilotycin)(IT),Carbomycin (Mogna-mycin)(MM)に類似するが,これらと異なる物質で,主として嫌気性菌を含めたグラム陽性菌及び陰性菌の一部(Neisseria,Hemophilus),スピロヘータ,リケツチヤ,大型ビールス等に対して試験管内及び生体内にてよく作用する。然し結核菌,グラム陰性桿菌,真菌等には効かないと云う。
 LMの性状に就ては遊離塩基は白色又は微黄色の苦味ある安定な結晶性粉未で100℃,2時間の加熱で変化なく,水溶液中ではPH6.0で100℃1時間加熱で変化はないけれどもPH6.0以下に於ては同一条件下で完全に破壊される。水に対する溶解度は極めて低いが,Methanol,Ethanol等には可溶である。この塩基を酒石酸にて処理するに容易に塩を形成して酒石酸塩となる。このものは水に易溶性で,Alcohol,Acetoneにも可溶であるが,Ether難溶,Benzene不溶で,やゝ吸湿性である。

クレーデCréde氏膿漏眼予防法は現在如何に実施されているか(其の1)—大学病院,国立公私立病院等の産科に於けるものについて

著者: 南熊太 ,   野中栄次

ページ範囲:P.759 - P.764

I.緒言
 クレーデ氏膿漏眼予防法は,現在如何に実施されているかに就て調査したのであるが,(Ⅰ)日本の全大学医学部及び全医科大学附属病院産科婦人科教室(以下之を大学病院産科と略記す),(Ⅱ)日本各地の国立病院,公立病院,赤十字病院,主なる私立病院等の産科婦人科,産院(以下之を国立公私立病院産科と略記す),(Ⅲ)助産婦の3つに分けて夫々往復葉書等にて問合せて返答を求めたので,その結果に就て報告せんとす。此の中助産婦に依るものに就ては稿を改めて別に報告せんとす。

緑内障と誤られた眼窩漏斗尖端症候群の1例

著者: 鈴木武 ,   古瀬章 ,   松尾信彦

ページ範囲:P.765 - P.767

緒言
 1896年Rochon-Duvigneaud氏により上眼窩裂の腫瘍,視東管の梅毒性骨膜炎に由ると考えられる特異な症候群即ち1側性の眼筋麻痺,三叉神経第1枝領域の知覚異常,視力障碍等が一度に惹起されたる症候群が報告され又本邦では遠藤文雄氏(昭和11年)1)に依り初めて眼窩漏斗尖端部疾患の際の症候群が報告された。爾来,眼窩漏斗尖端症候群として報告された症例は尠くはないが私共は最近眼圧上昇をもつて発症し緑内障と誤られた本症候群の1例に遭遇したので茲に報告し大方諸賢の御批判を仰ぐ次第である。

鼻涙管通過障害の原因としての顔面神経麻痺の意義について(症例考察)

著者: 長嶋孝次

ページ範囲:P.769 - P.771

緒言
 慢性涙嚢炎は,鼻涙管通過障害(狭窄乃至閉塞)に続いておこることが多く,この通過障害が多くは結膜疾患から下行性に,或は,鼻腔副鼻腔疾患から上行性に,炎症の波及するに由ると,一般に既に認められているところであるが,結膜に炎症を有するもの,或は,鼻腔疾患を有するものゝすべてが,涙道疾患をおこしてくるとは言えないであろう。従つて,こゝに当然,何らかの発病素因が考えられる。従来,曰く遣伝的関係,曰く骨壁の構造の個人差,曰く涙分泌過剰等々1),種々の問題がとりあげられて来た。涙道疾患は必ずしも単一な素因のもとに発病するものではないであろうが,私2)は,涙嚢機能の個人差としての,その弱小も一素因をなしているのではないかと推察した。このことに関連して,次に一症例を挙げ,鼻涙管通過障害の原因としての顔面神経麻痺の持つ意義について考察を加えたい。

眼科領域に於ける好気性芽胞形成桿菌(主としてB.cereusと枯草菌)に関する実験的研究(第2報)

著者: 新井敬子

ページ範囲:P.771 - P.777

緒言
 私は第1報に於いてグラム陽性好気性芽胞形成桿菌の中,B.cereus (以下B.c.と略す)と,それに良く似た枯草菌の病原性の比較を,家兎眼及びマウスに就いて実験した。そしてB.c.の毒性の方が枯草菌より遙かに強い事を知り,更に両菌により家兎眼に全眼球炎を発症させた組織学的所見を比較するに,B.c.菌液注射眼の方が炎症所見は,高度,且つ出血性で広範囲であつた事を報告した。
 此の様な強い毒性を持つた菌は,一体外界にどの程度存在するのであろうか。又結膜嚢内には存在するかどうか。私は今回外界と結膜嚢内より分離した菌に就いて,其の細菌学的検索,感受性試験,及び薬剤に対する抵抗性を実験したので茲に報告する。

自発網膜剥離の発症と季節

著者: 百々次夫

ページ範囲:P.778 - P.784

まえおき
 眼疾患で気象乃至季節との関連性を論じられているのは,主としてアレルギー性の炎症,殊に春季カタル,フリユクテンを始めとする結角膜組織のそれであり,その他では緑内障である。今,網膜疾患についてみると,萩野(名大環研)が中心性網膜炎に考慮を払つた記載をみるに過ぎないのであつて,まして自発剥離のような網膜や硝子体の変性病機を基調とする疾患の発症が,気象や季節に関連する等とは,まず考えにくい事柄のようである。
 それにも拘らず,この論題をとりあげた理由は,私共のクリニツクで1954,'55,'56の3年つづいて,毎年7,8月頃になると剥離患者の入院が殖え,病床の回転に困難した印象を得たことがその一つであり,今一つは西独のKiel大学と伊国のFirenze大学での各統計観察報告の中に,四季についての頃で,何れも「夏に多く,冬に少い」と述べられていることである。

瞳孔反応特に遮光性散瞳の研究

著者: 平岡寅次郞

ページ範囲:P.785 - P.806

I.緒論
 瞳孔運動の研究は眼科生理学上重要且興味あるものにして,古来幾多の実験並に研究が見られるが,その大半は縮瞳過程のみに終始して,散瞳の方面にはいささかその業績を見ることが少い。しかし乍らこの様な一方的な作用のみの研究では,瞳孔運動全体の充分なる解明に役立つものとは考えられない。即ち吾人が種々の疾病に関し,その瞳孔反応を調べるがこの観察は,或る一定度の明るさのもとに於ける瞳孔径より,或る光刺激を与えた為に起きる縮瞳過程をとらえることにあるのが大半である。著者はこの点に関し少なからず疑問を持ち,その逆の観察即ち,遮光性散瞳反応の経過を観察し,従来行われた研究と相俟ち縮瞳筋,散瞳筋作用の種々なる障碍を解明するならばここに亦,今迄考察されなかつた何物かを掴み得ると考え,赤外線使用による瞳孔の映画撮影法を持って,先ず家兎に於ける基礎的な実験をなし,いささか得るところがあつたので,茲に報告する次第である。

臨床講義

樹枝状角膜炎

著者: 大石省三

ページ範囲:P.807 - P.811

 〔第1例〕小林,14歳,中学生。
 4,5日前,風邪気味で熱発があつたが,その頃から右眼に異物感と羞明を訴え視力が低下したので来院した。
 診ると右眼の角膜は表面が粗糙になつていて,そこにうつる窓の枠の像がボンヤリとしている。特に瞳孔領に相当して縦に走る線状の溷濁が見られる(図1)。この部分では窓の枠はゆがんでいる。毛様充血は軽度。瞼結膜は僅かに反応性の充血がある丈で腫脹はなく,眼脂は少量で寧ろ流涙がある。

談話室

従来過りつたえられた我国で始めて版行された洋式眼科書

著者: 中泉行正

ページ範囲:P.813 - P.814

1.概要
 今日迄発行された医史学及び眼科書の中に記載された蘭学移入の時に我国で始めて出版された眼科書は,眼科新書であると,従来の総ての本は一様に報告している。所がこの前に和蘭眼科新書と言うものが発行されたのであると言う事が最近判明して来て,眼科新書は和蘭眼科新書についで出版されたものである事がわかつて来たので,それを報告して従来の過を訂正しておきたいと思うのである。

眼科史料(1)—中天游著「視学一歩」について

著者: 福島義一

ページ範囲:P.815 - P.817

1.はしがき
 杉田玄白著「解體新書」(1774安永3)出版以来,我が眼科医の間に於ても,西洋眼科への関心が次第にたかまつて来た。
 其後,「泰西眼科全書」の訳述,「和蘭眼科全書」,「眼科新書」など相次いで出版せられた結果,この頃の西洋眼科の大要は知り得る様になつた。更らに,シーボルトの来朝を迎えて(1823),之れを実地に就いても見聞する時代となつた。

私の経験

70年をかえりみて(2)

著者: 中村文平

ページ範囲:P.819 - P.824

私の研究生活
 私は眼科医局に入る頃から,自分の興味を持つ眼科の研究に一生を捧げようと決心し,大いに励んだのであつたが,大正2年5月に柱と頼む水尾源太郞先生の御逝去に遭い,その意気粗衷し,郷里で眼科を開業しようと思つて準備を始めたところ,楠本長三郞先生から,「富山赤十字病院の眼科医長として奉職してはどうか」との御勧誘があり,自分としてもまだ若いのだから,今暫く奉職してからでも遅くはないと思い,富山へ行く事にして赴任した。
 富山日赤の院長は内科の市川行章氏で,婦人科には現在迄長く侍医をして居る塚原伊勢松氏,外科には内藤靖氏等が居り,皆兄弟同様に親しく交際し,富山に開業の田上清貞氏は親身も及ばぬ程の面倒を見てくれるし,坂井氏に謠曲を習つたり,玉を突いたり,研究もしたりして,愉快に2年は過ぎた。病院の研究室は自分1人で占領して眼科の研究を続ける事の出来たのは幸であつた。かかるうちに大阪大学からは,佐多愛彦先生,及び宮下左右輔先生の十数回に達するお勧めがあり,私自身も研究を続けたい希望もあつたので,開業を思い切り,母校に帰つて研究する事とした。

集談会物語り

第56回九州医師会医学会第6分科眼科学会について

著者: 南熊太

ページ範囲:P.825 - P.829

 九州医師会医学会は其の第1回集会は,明治25年藤田嗣章氏を会長として,熊本市に於いて行われ,其の後,九州各県に於いて行われているが,昭和31年10月20日,21日の両日,其の第56回九州医師会医学会が熊本市に於いて行われたので,総会竝に一般の状況に就いて述べ,次で第6分科に相当する眼科学会に就いて紹介せんとす。
 昭和31年7月,8月頃からは『秋の九州医学会には』とか『秋の熊本での九州医学会』とか,会う人毎にとか医師と会う場合には,九州医学会の事が話題になる位であつたから,さていよいよ昭和31年10月20日になつてみるともうじつとしていられない様である。久留米駅に行つてみると,駅には,医師の姿があちこち見られる。汽車に乗ると,どの客車も満員の状況なのに,その多くが医師らしい顔であり,見覚へのある顔も多い。満員列車に立つて行くよりも,食堂車に乗つて行く方が利口だと食堂車に行つてみるとさすがに利口な方々で食堂車も既に満員である。長崎大学眼科の広瀬金之助教授に御都合をつけて頂いて,広瀬教授の隣に席を得て,ビールを飲みながら,食事をしながら,広瀬教授の御話を聞きながら,少しでも長い時間,食堂車の中に頑張つて行こうと言うのである。大牟田駅を過ぎ,有明海が見えよく晴れた秋空に一点の雲無しと言う状態にて,雲仙,島原の山がよく見える。雲仙の山頂は雲につつまれていることが多いので,此の日の様に,綺麗に見えることは珍しい。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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