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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科13巻1号

1959年01月発行

雑誌目次

日本トラホーム予防協会会誌

トラコーマ固定毒の実験的研究—第3報 トラコーマ患者の皮内反応について

著者: 村上勝俊

ページ範囲:P.1 - P.8


 トラコーマの客観的診断法としての血清学的診断は種々試みられている。即ち,補体結合反応については既報1)の如くであるが,これと共に,他の一つの方法である皮内反応も,古くより試みられている。即ち,Tricoire2)(1923)によつて罹患結膜のトラコーマ顆粒の生理的食塩水乳剤にヨードチンキを加えたものが抗原として調製され,之により,トラコーマ患者3例疑わしいもの及び急性結膜炎3例に皮内反応を行い,トラコーマのみ陽性であり他は陰性という結果を得て,特異性があるとした。しかし,この抗原はその後追試され,賛否両論がある。特異性ありとするものにはMikaeljan3)(1927)が74例のトラコーマと,50例の対照に皮内反応を行つて68%の陽性率を得たということや,又Sédan4)(1932)は64例中40例(約62%)の陽性を得て,中でも13例は著明な丘疹を認めた。
 Danilewsky5)(1938)らも同様の抗原で高率に陽性に出たとしている。之に対し,Gala6)(1929)は,237例のトラコーマ181と例の対照に実施して,結果は陰性であり,特異性なしとしている。Belot7)(1931)も又,400例に実施してトラコーマで陽性に出るが非トラコーマでも52%,急性結膜炎では39%,慢性結膜炎では46%陽性に出て,特異性を認められないとしている。

連載 眼科図譜・49

滲出性網膜炎(Coats)

著者: 佐藤和夫

ページ範囲:P.5 - P.6

解説
 本症は何等の原因なく,眼底に特有な滲出物,血管変状,出血等が現われる疾患であり,徐々に進行し,網膜剣離緑内障等を続発して,失明することが多い。通常青少年の一眼を侵すが,時には両眼に発することもある。
 本態は不明であるが,angiogliosisと考えられている。現在の所,確実な治療法はなく,予後は一般に不良である。

綜説

眼科領域に於ける悪性腫瘍

著者: 入野田公穗

ページ範囲:P.7 - P.16

1.緒言
 悪性腫瘍は身体の凡ゆる組織を侵すものであり,眼科領域に於ても,各種の悪性腫瘍が原発し,又他臓器より転移を来すか,或は,隣接臓器より続発して視器を破壊し,更に生命までも危険な状態に陥らしめるに到る。この悪性腫瘍の種類,頻度には差違があり,夫のi)浸潤性,ii)発育速度,iii)転移,iv)再発の如何によつてその予後も一定ではない。何れにしても早期に発見して精確なる診断を附し,更に適切な治療を行う可きことは,言を俟たないところである。以下主として私共の教室で経験した悪性腫瘍症例に就て述べ,且つ眼科領域に於ける悪性腫瘍の全般に就ても述べて見たいと思う。

臨床実験

滲出性網膜炎の1治験例

著者: 佐藤和夫

ページ範囲:P.17 - P.19

 滲出性網膜炎は眼底に特有な滲出物,血管変状,出血等を認める疾患で,1908年Coatsにより始めて詳細なる記載がなされた。
 以後本症はCoats氏病とも呼ばれ,数多くの報告が見られるが,その本態に関しては,現在尚明らかでない。従つて又確実な治療法はなく,遂には病変が網膜全体に及び,更に虹彩炎や続発性緑内障等を併発して,失明することが多く,予後は絶対に不良と考えられている。

急性炎性緑内障と誤認された頭蓋内大動脈瘤の1例

著者: 田辺弥吉 ,   竹森愛子

ページ範囲:P.21 - P.23

 何等の外的原因無しに頭蓋内動脈瘤の発生を見た患者が,緑内障と誤認された1例を,臨床医家にとつて或いは参考資料の一助にもなるかと考え報告する。

神戸医科大学眼科学教室における頭蓋咽頭腫の統計

著者: 向井章 ,   由利嘉章 ,   五藤宏

ページ範囲:P.23 - P.27

 脳外科の進歩により,脳腫瘍の早期診断が次第に可能となつたと同時に,予後の為にもそれが極めて重要となつて来た。飜つて視交叉部附近腫瘍はその初期症状(視力障碍,頭痛)として患者が先ず眼科を訪れる事が多いので,我々眼科医の使命は益々重大となつた。
 頭蓋咽頭腫はCushing及びBaileyの報告例では,2023例中92例,Weberは304例中15例,其の他の吾が国に於ける報告も,北大精神科の脳腫瘍統計83例中1例と脳腫瘍中比較的稀なものと数えられているが,吾が教室で最近約10年間に取扱つた脳腫瘍手術例中,視交叉部附近腫瘍の開頭剔出例は75例であり此中頭蓋咽頭腫は36例の多きを数えた。此の比率は前記Cushingの統計その他の脳下垂体腺腫に対するものに比べかなり高率である。之は神経眼科の立場からみて本来脳外科を訪れるものと比率の異るのは当然であるが,斯くの如く眼科に多く見られる本症に対する診断が未だ眼科領域で不充分である許りでなく,頭蓋咽頭腫についての統計的観察は未だ文献が見られないので,ここにその統計的観察を試みた。

副腎皮質ホルモンの角膜創傷治癒に及ぼす影響—(第6報)穿孔性角膜創傷時に於けるアルカリ性フオスフアターゼの組織化学的研究並びにアルカリ性フオスフアターゼに及ぼすプレドニゾロン,コーチゾンの影響

著者: 高尾泰孝

ページ範囲:P.29 - P.42

I.緒言
 穿孔性角膜創傷治癒に及ぼす副腎皮質ホルモンの影響について私は第1報から第3報までは各種ステロイドの差違を組織学的に検討したが,第4報に於ては,実験的無菌的炎症眼及び第二房水に及ぼすプレドニゾロンとコーチゾンとの消炎効果を家兎房水蛋白量を化学的に定量することに依り検討し,併せてこれらステロイドの局所投与(結膜下注射)による局所刺激作用について実験した。又この際基礎実験として家兎前房蛋白量及び血清蛋白量を決定し,更に第二房水産生機転に就いても論じた。第5報に於いては,角膜創傷治癒機転に関して再検討を加え,従来信ぜられた様に角膜上皮再生は遠隔部の細胞分裂によるとする上皮移動説には多くの疑点があり,創傷治癒にあたりては創傷局所の上皮細胞,角膜固有細胞,内皮細胞の増殖肥大がその主因をなすものであると述べた。
 今回は炎症性変化と密接な関係があると云われるアルカリ性フオスフアターゼ(以下A.P-ase)に就いて,穿孔性角膜創傷部を組織化学的に検索し,併せてこのA-P-ase反応に及ぼすプレドニゾロン及びコーチゾンの影響について実験を行い新知見を得たので以下これについて述べることとする。

血圧と関係ある2〜3の眼底所見について—(その8)網膜細動脈硬化と心電図所見との関係について

著者: 加藤謙 ,   松井瑞夫 ,   島崎哲雄 ,   野崎道雄

ページ範囲:P.43 - P.46

I.緒言
 われわれは,前報迄に於て,動静脈交叉現象を主要目標として判定した網膜細動脈硬化の程度と血圧並びに年齢との関係を種々分析検討を行つた結果,著明なる細動脈硬化(交叉現象Ⅱ〜Ⅲ度)の発生及び進行の主要因子は,血圧上昇そのものか,又は持続的血圧上昇と密に関連した因子であつて,単なる年齢的因子は殆んど関与しない。併し軽度の交叉部異常所見(Ⅰ度所見)は,血圧因子の関与ももとより否定しがたいが,年齢的因子に左右せられるようであるとの結論に達した。
 さて,本態性高血圧症の転帰として重要なるものは,腎硬化症及び腎不全,脳血管障害,心臓障害等であるが,今回は,網膜細動脈硬化程度分類の臨床的意義の解明の一端として,心臓障害と網膜細動脈硬化の程度との関係を追及する目的で,心電図所見と網膜細動脈硬化所見との関係に就き,2〜3の検討を行つたので,その結果を報告する。

本態性低血圧症と神経性眼精疲労及びCamigen (Hoechst)の効果について

著者: 三国政吉 ,   長瀬憲一

ページ範囲:P.47 - P.48

 神経性眼精疲労患者で本態性低血圧患者のことがかなりある。かようなものにCarnigen (Hoe-chst)が有効に作用することに就き以下簡単に報告する。
 症例は表示の如くである。これらに於いては種々の療法を試み無効で,Carnigen使用により始めて効果を治め得たもののみである。

極めて特異な経過をとつたCoats氏病の1症例について

著者: 小林章男 ,   下奥仁 ,   菅沢竜二

ページ範囲:P.49 - P.51

 1908年Coatsが彼の所謂「滲出性網膜炎」について発表して以来,Coats氏病の症例が多数報告せられて来たが,著者等は今回臨床経過が従来の多数の報告例のそれとはやや異なり,網膜病理組織検査により初めてCoats氏病と診断し得た1症例に遭遇したので報告する。

多発性脳脊髄硬化症2例の眼所見について

著者: 伊藤清 ,   前田良治 ,   塩原光次

ページ範囲:P.51 - P.56

I.緒言
 多発硬化と球後視束炎の関係は最近の眼科学界の重要課題となつている。多発硬化は本邦に於ては極めて稀であるとするのが定説であつたが桑島氏は之に対し疑義を唱え漸く眼科,内科,神経科領域に於て注目を惹くに至り,近年本邦に於ても漸くその報告例が多くなつて来た。
 1868年Charcot氏の挙げた三徴候,即ち眼球震盪,企図振顫,断綴言語は既に古典的なものとされ症状の多様性と寛解との存在が本症の診断基準とされる様になり球後視束炎の意義も又再認識されねばならなくなつて来た。最近私達は多発硬化と診断された2例の眼所見を検索する機会を得第1例は炎性視神経萎縮とRuckerの記載せる如ぎ網膜静脈白鞘を認め,更にCharcotの三徴候を具備し又第2例は球後視束炎の症状を示した症例を経験したので茲に報告する。

カルニゲンと網膜中心動脈血圧—正常血圧者及び低血圧者について

著者: 山田弘 ,   小川昌之

ページ範囲:P.56 - P.62

緒言
 低血圧性循環調節障碍として頭重,めまい,不眠等の症状に対して従来種々なる療法が試みられて来たが,最近カルニゲン(Hoechst)(第1表)がこれらの疾患に用いられ,種々良好な結果を得ていることが内科方面から多数報告されている。
 私達はこの末梢循環に働く薬物であるカルニゲンを正常血圧者及び低血圧者に投与して,上腕血圧の変化と共に網膜中動脈血圧に及ぼす影響を観察し得たのでこゝに報告する次第である。

緑内障に主対するWheeler氏手術例の経験

著者: 正田秀雄 ,   後藤匡 ,   川島久雄

ページ範囲:P.63 - P.69

まえがき
 緑内障の手術は従来GraefeのIridectomie,ElliotのTrepanation.HeineのCyclodialyse等が行われていたが,近年はIridencleisis.Go-niotomie, Cyclodiathermie, Angiodiather-mie等の方法が紹介され,就中Iridencleisisは欧米にては,減圧手術中の第一位を占めている様である。
 一般に,手術のMethodeの良否は,その適応と手術に対する術者の熟練の如何が大いに関係するものであつて,一概にその良否を云々するには慎重でなければならない。

長崎に於ける被原子爆弾者の眼調節力について

著者: 広瀨泉 ,   徳永次彦 ,   溝口孝 ,   小田隼夫

ページ範囲:P.70 - P.79

I.緒言
 原子爆弾による眼障碍調査の一端として,長崎市に於ける被原子爆弾者の調節力を測定したので,その結果を報告する。

ブドウ球菌による重症眼疾患2例—1.急性化膿性涙嚢周囲炎から上顎骨骨髄炎更に眼窩膿瘍 2.重症偽膜性結膜炎に全角膜溷濁

著者: 長谷川信六

ページ範囲:P.79 - P.82

 戦後相次ぐ各種抗生剤の出現並に衛生思想の発達によつて細菌性眼疾患は急速に影をひそめて来たことは著明な事実であるが,唯,ブドウ球菌は各種抗生剤に対する耐性菌の出現にょつて依然強い病原菌として人体に害を及ぼしつつあることも看過出来ないことであると思う。今後も化膿性限疾患の病原菌として重視する必要があるのではないかと私は思つているものである。以下報告する症例もその一つである。

臨床講義

網膜色素変性症

著者: 神鳥文雄

ページ範囲:P.83 - P.86

 本日の臨林講義は夜盲を訴える疾患の内で先天性進行性のものについてお話致します。先ず症例から示しましよう。
 〔症例1〕17歳の男子,主訴は視力障害(特に夜盲症)。

私の経験 国際眼科学会への旅・3

国際眼科学会出席の記

著者: 桐沢長徳

ページ範囲:P.87 - P.91

 第18回国際眼科学会は周知の如く,昭和32年9月8日から12日まで5日間,ベルギーのブラツセルで行われたが,筆者はたまたま日本眼科学会評議員会で日本代表として選ばれてこの学会に出席する機会を得たので,下記にその大体の様子を略記して責任を果したいと思う。
 まず学会の前日(9月7日),総会場のPalais desBeaux-Artsに行き参加の記帳をし,大会プログラム,記名バツジ,講演抄録その他の書類のはいつたビニールの袋(総会用特製)を渡された。なお,会費1350ベルギーフラン(日本円で約9720円)も同時に払込んだ。運よく会場の附近で会長Coppez教授にも会い,総秘書のFrancois教授とも明日の開会式の挨拶の件で相談をすることができた。それは,筆者が日本代表のみならず,アジア代表として開会式に祝辞を述べるように,と前以つて総会專務から通知があつた為で,筆者は最初日本語で述べるつもりで居つたが,通訳の時間がないことと,アジア全体としてならば英語がよかろうとのことで,英語ですることに決した。なおアジア諸国からの参加者は約15国,45人に達した。事務所には各国々旗が壁に記され,その下に参加人員が記してあるが,日本の国旗としては旧軍艦旗が用いてあつたので早速訂正を申込み,日章旗に代えて貰うという一幕もあつた。

眼科新知識

前房内食塩水注入による隅角開大法とそれによる狭隅角緑内障の隅角所見について

著者: 荻野紀重

ページ範囲:P.93 - P.101

 原発緑内障の内に極めて狭い隅角を有する一群かあることは周知の事実であり,此は人によりnarrow angle glaucomaと呼ばれ,1954年の国際眼科学会のシンポジウムでclosed angle glau-comaと命名されている。
 処で此場合の隅角は屡々極端に狭く,ほとんど細隙状となり,虹彩周辺の生理的膨隆のために隅角細部の観察は極めて困難であることが多い。このような際に我々は常に次の問題に直面する。

手術

網膜剥離手術(鞏膜短縮術)

著者: 池田一三

ページ範囲:P.102 - P.109

I.緒言
 世に温故知新ということばがあるが,これが網膜剥離に対する鞏膜短縮術についてほど,ぴつたりすることは他にあまり例がないように思われる。すなわち,すでに多くの学者の述べているとおり,1903年L.Müllerが帯状に鞏膜を切除縫合し,眼球を短縮して網膜剥離を治癒させようと企てたが,学界の注目をひかぬ間にGonin (1916)の裂孔閉塞法がはなばなしくデビユーし,1933年Lindnerがふたたびこの方法をとりあげたときも.「当時の大勢は,普及の途についたばかりの裂孔閉塞術の華々しい成績と,その把握への専念の結果」(百々1))ほとんどかえりみられることなく,また20年近い歳月が流れた。しかし裂孔閉塞術の普及と共にその奏効限界が知られるようになり,網膜剥離の手術療法の進歩もようやく1つの壁にぶつかつたように見えた。ここにおいてその打開策の1つとして鞏膜短縮術がまたまた脚光をあびるにいたつたのである。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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