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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科13巻2号

1959年02月発行

雑誌目次

特集 第13回臨床眼科学会号 特別講演

病理組織学的にみたBehçet氏症候群

著者: 鹿野信一

ページ範囲:P.119 - P.134

緒言
 期待していた中川博士の講演を聴き得ぬことになつたのは誠に残念であるが,私として辛い事は更に緊急事態の拾得の仕事が依頼された事で準備も充分時間がないので,今回の話は聞きくるしい点があると思うが,その点御了解願いたい。
 Behçet氏症候群(以下Behçet氏病とす)が葡萄膜炎に於て占める頻度は非常に高いものがある。現在吾々は葡萄膜炎の性質を結核とつける事は稀であり梅毒性という事は極めて少ない,交感性眼炎,原田氏病の診断を下す場合の方が寧ろ多いようになつている。この間の事情は私が早くから予想し1),東大教室の諸兄2)が数次にわたつて指摘した所,更に来春の日眼総会に於て萩原教授が特別講演により総括的に明かにされられることと思う。

一般講演

摘出人眼球シユレンム氏管内墨汁注入による其の形態観察

著者: 高橋竜生

ページ範囲:P.135 - P.151

緒論
 シユレンム氏管は眼内房水排泄上重要な位置をしめる器官であり,其の形態及び機能に関する実験は古くからなされて居る。本邦に於ても岡本一氏(1928)による,生後より老年に至る迄の詳細なる形態観察があり,発生学的にもSondermann(1930)以来数多の実際がある,又1941年Ascherの房水静脈の観察は更にシユレンム氏管の形態探究に拍車を加へ現在では其の全貌を明かにせる如き観があるが,シユレンム氏管及びそれより房水静脈に至る研究の多きに比して,前房とシユレンム氏管との関連に関する研究は比較的少い。今回Asthon及び宮田氏の行つた実験方法にならつて墨汁を該管に注入し,前房に交通すると思われる突起形態,及びシユレンム氏管主幹の形態の観察を行い所見を得たので此処に発表して御批判を仰ぐ。

前房の深さに関する研究—(第2報)屈折異常眼の前房の深さについて (附)前房の深さと角膜曲率半径との関係について

著者: 小野冨士朗

ページ範囲:P.153 - P.160

I.まえがき
 私は第I報で,正視眼の前房の深さについて述べた。今回は屈折異常眼の前房の深さについて述べる。
 遠・近視眼の前房の深さについては,我が国では,進藤,石田両氏の報告があり,最近では,天野氏の実験もあるが,何れも,実験例少数であり,また軽度近視のうちから,細かく,近視度を区分して,追究した実験例は非常に少ない。

A光源用色覚検査表の試作に関する研究(第2報)

著者: 向井守重

ページ範囲:P.160 - P.160

 Helson等の理論式を応用し,東京医大式色覚検査表(以下T-M-C表と略)の各色度から計算してA光源用色覚検査表を試作した。本報に於てはこの試作表のうち,第1及び第2色覚異常者を検出する検出表5枚の臨床成績に就て述べる。
 臨床実,験は色覚正常者100名とT-M-C表でスクリーニングした色覚異常者100名に対し行つた。

色覚正常者と異常者の限界について

著者: 山本倬司

ページ範囲:P.161 - P.167

I.緒言
 石原氏色盲検査表を用いて色覚検査を行う場合に,大部分の例に於ては容易に色覚正常者であるか異常者であるかの判定を下し得るが,時にはその判定に困難する例に遭遇することがある。このような場合に如何なる基準で判定を下すのが妥当であるかを研究する目的で本実験を行つた。同時に近年発売された米国のH-R-R仮性同色表による色覚異常者の検出成績に就ても検討を行うこととした。

某クロス工場において問題となつた色合せ作業偏向者の色感について

著者: 飯沼巖 ,   東城初治 ,   安藤純 ,   保田正三郎 ,   川崎善和 ,   竹内誠輔 ,   上野山謙四郞

ページ範囲:P.167 - P.172

I.緒言
 健常色覚者の色感を一律に規制することには多分に問題がある。同一人の右眼と左眼を比較してみてさえ,外界の物の色の感じ方が異ることのあるのは,日常たまたま経験する所である。まして個体を異にする場合その色感の個体差が存することも当然であり,このことはanomaloscopeのRayleigh均等値の不一致として屡々認められる。
 健常色覚と雖も,その水晶体や黄斑部その他の変化によつて個々の色感に相違を生じ,又各種各程度の眼疾患によつても色覚の相違を来すことはこれまで諸家によつて述べられ,著者等の中飯沼,安藤他も既報において考按したことがある1)2)。これ等後天異常の他に所謂先天異常の諸様相があり,健常者の範囲,異常者との境界をどの様に決めるかば,微妙な問題であろう。

暗視装置下における瞳孔の研究—(3)暗順応に伴う散瞳経過について

著者: 島崎哲雄

ページ範囲:P.172 - P.177

I.緒言
 著者は前二報において,赤外線暗視装置を応用して,暗順応時の最大散瞳時瞳孔径,並びに,縮瞳薬点眼時の縮瞳経過について実験及び考察を行つたのであるが,今回は,暗順応時,特にその初期の瞳孔の散大経過について実験を行つた。
 従来,暗順応時の散瞳経過については多数の研究が行われており,特に暗順応開始後長時間に亘る瞳孔の散大経過については,比較的多くの業績を見出すのであるが,暗順応開始初期の瞳孔運動の最も大きな時期におけるものに関する研究は非常に少い。

アドレナリン点眼により縮瞳をおこした瞳孔緊張症の1例

著者: 米村大蔵 ,   原厳 ,   金子良正 ,   都筑幸哉

ページ範囲:P.179 - P.183

 アドレナリンは一般に散瞳的に働くことは周知のことである(字山,宇野,Sollmann,Poos,Hubert等)。しかし特殊な条件下における動物実験ではアドレナリンが縮瞳をおこすこともしられていて(Elliot,Kato-Watanabe,Bender,Duke-Elder,西田—岡田—宮原—中野),この種の縮瞳はアドレナリンの逆反応とよばれている様である。人眼に於てアドレナリン逆反応を認めたと云う報告は私達の調査範囲では蓼々たるものである(François,庄司等)。Lowenstein-Fried-mannは瞳孔緊張症例でコカイン点眼後一過性の縮瞳をみたと云う。私達は著明なメコリル縮瞳を来した瞳孔緊張症の1例に,アドレナリン逆反応を見出したので茲に報告し,この方面の数すくない文献に追加しようと思う。

訓練による弱視の治療,特にContact lensの応用について

著者: 秋山晃一郎 ,   加藤和男 ,   曲谷久雄

ページ範囲:P.183 - P.192

I.緒言
 弱視に対する治療は現在,欧米眼科学会における重要な研究テーマの1つであるが,我国ではまだ見るべき業績のはなはだ少いのは遺憾である。
 一眼にのみ屈折異常がある不同視眼とか,正常の発育を完成すべき時期に,斜視や中間透光体の溷濁のため視機能の発育が障碍されて起つたとみられるいわゆる廃用性弱視眼を強制的に使用せしめて視力を恢復させようという方法は古くからある。すなわち1743年Buffonが提唱したOcclu-sivmethodeであつて,現在もDauerverbaudは有効な方法として用いられている。しかしこの方法は消極的であり,且中心固視の存在が確認されているときにのみ行い得る。更に連続的に視力の良い眼を包帯するから患者が日常生活に非常な不便を味わなければならないという欠点を有している。

Contact lensに関する研究—第2篇 近視眼とContact lensについて

著者: 𠮷野みづら

ページ範囲:P.193 - P.218

緒言
 Contact Lens (C.L)の近視に対する応用は既に多くの人々によつて認められて居る所である。然し乍ら5米視力,近距離(30糎)視力,及び近点に就いての報告は少い。私は視機能的に扱つて一連の実験を行つたので報告したい。
 実験対象,17歳,18歳の男子高校生100名,174の近視眼に就いて行つた。実験に使用したC.Lは水谷氏のM.T式C.Lである。

弱視の療育に関する研究

著者: 赤木五郞 ,   鈴木武 ,   渡辺好政 ,   植田淳 ,   喜多島昌二

ページ範囲:P.219 - P.229

はじめに
 「弱視」という概念の下に包括される疾患は日進月歩の眼科学に於て所謂盲点的存在の如くである。古く特に斜視との関連に於て,Graefe等に始るその成因論議を経て,Buffon1)以来の健眼遮閉法に中心窩刺激法を加えて,弱視治療を系統ずけたのはBangerter2)等に負う所が大であり,これは弓削氏3)4)によつて紹介されているところである。1956年Cuppers5)がEuthyskopをもつて弱視治療界に登場し,その残像を用いた方法は以後諸外国で追試されて幾多の報告を生んでおり,一大センセーシヨンをおこした感じである。この方法は秋山氏6)7)8)9)によつて我が国に紹介されている。
 我が国における弱視研究としては,前記弓削氏の他,萩原氏10)原田氏11)等が視機能本態についてふれており,その他斜視主題の文献において種々の見解,警告を散見するに止まり,弱視治療に関しては足立,稲富氏12)の他能戸氏13),渡辺・森信14)等の学会抄録をみる。

Televisionの人体への影響とその予防法の研究

著者: 萩野鉚太郎 ,   鈴村昭弘 ,   森下昌

ページ範囲:P.229 - P.235

いとぐち
 Television観賞が人体に及ぼす影響については,すでにその成績の一部をNagoya Journalof Medical Science Vol., 17, 353に発表した。しかしTelevisionの人体への影響とその予防法を解決するには,最も明瞭に見え且つ疲労等の影響の少ない観賞条件並びにTelevision機構を見出さなければならない。
 前報までに述べたように,Television映像の見え方については,種々な条件の下に検討をくわえ多数の知見を得た。そこで今回は見え方に影響する種々な条件が,輻輳及び調節機能にどの様に影響するかについて実験し,見え方と疲労の両面からTelevisionの人体への影響について検討し,更に進んで観賞条件からの予防法について考察した。

視野計測法の検討—Flicker視野の新しい測定法

著者: 水川孝 ,   湖崎弘 ,   中林正雄 ,   大鳥利文

ページ範囲:P.235 - P.241

I.まえがき
 Magnus氏(1877)によれば,ギリシヤ・ローマ時代より既に視野という概念があり,見える範囲には一定の限界があること,更には二,三の疾患について視野に変化のあることも知られていたといわれる。しかしながら,始めて視野について論文を書いたのはUlmus氏(1602)であり,視野についてはじめて信頼すべき観察をしたのはThomas Young氏(1801)で,彼は既に視野外界を角度を以て正確に表現している。(上方50°,内方60°,下方70°,外方90°)又von Graefe氏(1855)は,"Untersuchung des Gesichtsfeldesbei amblyopischen Affektionen"の中で眼疾患診断のために視野測定を用いているが,この論文こそ日常臨床における視野測定の必要性を明確にしたものと言うことが出来る。しかし,当時の測定法には平板のみが用いられ,網膜中心部のみが探求されたに過ぎなかつた。ところが,Aubert&Förster氏(1857)が"BeCiträge zur Kenn-tnis des indirekten Sehens"を発表して以来,網膜周辺部の機能の探求が始り爾来視野測定はCampimeterの時代よりPerimeterの時代へと移つた。彼等は,白色視標のみならず色視標についても観察し殊に色の認識に対する背景の影響について詳細な研究を行つた。

脳腫瘍の眼症状について特に欝血乳頭の頻度について

著者: 浦田誠康

ページ範囲:P.243 - P.248

I.緒言
 中枢神経系障害に際して,その眼症状は極めて重要な所見であり,時には眼症状が唯一無二の臨床所見として認められる事があるのは,既に衆知の通りである。古来,中枢神経系疾患に際し,その眼症状は重要視されているが,所謂脳腫瘍に就て,臨床所見に依らず,手術又は剖見によつて,此れを確認した多数症例に就ての眼症状の報告は,吾国に於ては,柳田,斉藤,勝沼,水田等を数えるのみで少い。
 鬱血乳頭は中枢神経系疾患の眼症状として屡々吾々の経験する症候であるが,その成因に就ては,炎症説,静脈鬱血説,淋巴鬱積説等があつて異論が多い。又然も鬱血乳頭は脳腫瘍の三大主要症候の一つであり,脳腫瘍の眼症状として,又症候学上からも甚だ重要な症状である。それで私は手術又は剖見によつて,脳腫瘍と確認し得た症例110例に就て,総括的に眼症状を記載し,特に鬱血乳頭を呈した症例60例の眼症状を記載し,全身所見との関係を考察し,且此等の臨床所見より鬱血乳頭の成因に就て検討を加えたので報告する。

眼内鉄片位置決定法の検討(第1報)—プラスチツク模型眼球使用に依る各種眼内位置決定法の精度の比較検討について

著者: 湖崎克 ,   吉原正道 ,   三好久子 ,   草野治

ページ範囲:P.249 - P.256

I.緒言
 近年我が国に於いて,労働条件の改善,作業の合理化等,各種の安全管理が喧しく云われているにも拘らず,眼外傷は決して少くないのである。中でも穿孔性眼外傷には重篤なものが多く,その視力的予後は,他の眼外傷に比して非常に悪いのが通常である。
 外傷時の眼内異物には,鉄片,鉛,真鍮,銅,石片及び硝子片等があるが,鉄片はその外傷頻度が高く,その鉄片在留時に惹起される眼球鉄錆症及び鉄片除去後の種々の眼症状の悪化は,特に留意するべきものである。之れ迄諸氏の報告せるを見れば,眼球鉄錆症の増悪,遠視,虹彩毛様体炎,併発白内障,続発緑内障,網膜剥離及び眼球癆等が挙げられる。之等の障碍を最少限に留めるには,先づ,(1)可及的速かに鉄片を発見し除去する事,(2)除去時の眼組織の損傷を出来るだけ少くする事,の2つが考えられる。この中,前者は全ての穿孔性眼外傷のX線写真を撮影する事,又眼球を穿孔し得る最小の鉄片の陰影をフイルム上にとらえる事に依つて可能である。之れは重要な事であり,この事に関しては著者は次の機会に述べる事とする。ここで問題とするものを,先ず,後者の除去時の眼組織の損傷を最も少く留める事にしぼつてみる。この為に先ず第1に必要な事は,除去前に鉄片の位置,大きさを正確に知る事であり,X線に依る鉄片位置決定法の必要性が生じて来るのである。

角膜創傷の生化学的研究

著者: 高木義博 ,   敷島文治

ページ範囲:P.256 - P.262

 角膜創傷治癒経過の組織学的研究は,先人により数多く行われているが,角膜実質層の大部分を占めるムコ多糖類,コラーゲンの消長に関する研究は甚だ少ない。又角膜ムコ多糖類の消長と血管新生との間に重大な関聯性のあることがMeyer& Chaffee(1940)1)によつて述べられて以来,これに関する研究が行われて来たが,両者の間に一定の関聯性を確認する迄には到つていない。更に角膜にアルカリ腐蝕を加えた場合,BraunとHaurowitz2)3),Hughes4)は角膜実質より塩基性色素によりメタクロマジーを起す物質の脱出することを認め,Meyer & Chaffee (1946)5)は角膜のヘキソザミンを定量してアルカリ腐蝕の際にこの値の著明な減少を認めたが,François & Ra-baey6)は外傷又は炎症時角膜実質の多糖類総量が減少するのではなくて,実質浮腫により単位容積中の多糖類の減少が起つたときに,メタクロマジーの消失があるといい,前述の人々と異なつた意見を述べている。私共はこれらの諸点を明かにするために,ウナギ角膜の酸,アルカリ腐蝕,切開創の治癒経過における多糖類及びコラーゲンの変動を調べたので此処に報告する。

肝レンズ核変性症(ウイルソン病)の1例について

著者: 斎藤耀子

ページ範囲:P.263 - P.265

緒言
 肝レンズ核変性症はHall (1921)が,Wilson(1912)の報告した進行性レンズ核変性(Wilson病)とWestphal等(1883)の報告した仮性硬化とを包括して名付けたもので,特殊な肝硬変と,レンズ核変性をもつ疾患である。眼科的には角膜色素輪(Kayser-Fleischer輪),前嚢白内障及び脈絡膜硝子膜の色素沈着がみられている。この中角膜色素輪は本疾患に屡々みられ,診断上の重要な所見となつている。著者は定型的な角膜色素輪と前嚢白内障を有する肝レンズ核変性症の1例を経験したのでここに報告する。

南米移住者のトラコーマ検診雑感

著者: 大石省三

ページ範囲:P.267 - P.270

 一時完全に中断されていた南米諸国への移住が昭和27年12月28日に戦後始めてサントス丸で再開されてより年を追つて盛んになる趨勢にある時,トラコーマ検疫の問題は屡々関係者を悩ましている。
 この問題は表面上は比較的簡単に解決されるように見えてその実は色々の因子が複雑に介在する可能性があり,関係のお役所仕事として任せておくことは眼科医の立場からして許されないように思う。

血清蛋白像並に血液像からみた所謂急性トラコーマの経過(第2報)

著者: 菅原叔子

ページ範囲:P.270 - P.280

 封入体を高率に証明し,且,急性炎症々状を以って発病する所謂急性トラコーマ(以下トと略す)の示す経過及び予後は多種多様である。これには病原体の毒力,量,感染機転,就中個体の素因が大きな要因となるものであろう。殊に個体に内在する抗元抗体反応能力は著るしくこの経過に影響すると考える。
 私は先1)にこの点に就き,急性ト患者の血清蛋白像及び血液像の面より検索を行つたが,今回更に症例を増し,経過を追つて観察し,併せて本症と慢性トとの関係に就ても解明せんと試みた。

トラコーマと瀰漫性表層角膜炎の関連について

著者: 浅水逸郎

ページ範囲:P.280 - P.293

I.緒言
 トラコーマ診断の基準については,従来より多くの分類法があつた。
 文部省科学研究費トラコーマ班のトラコーマ分類法(トラコーマ診断基準1))は周知の如く,概ね,WHO分類に準拠するものであるが,之によると,臨床所見として必ず記入すべき記号(所見)として,

眼球乾燥症に対する耳下腺排出管の結膜嚢内移動手術

著者: 神谷貞義 ,   堀内徹也 ,   畠山昭三 ,   阿部圭助 ,   松村敏昭

ページ範囲:P.295 - P.303

I.緒言
 眼球乾燥症に対する治療は従来色々の方法が行われて来たが,これらの治療法はいづれも不確実で,単に一次的なものであつた。1950年Filatovが初めて眼球乾燥症に本手術を試み,以後1955年までに80例行つて良好な結果を得た。続いてKatznelson,AO,YenとLee,Hsia,Lao,最近ではBennettとBailey等の報告がある。殊に中共の報告は第1表に示す如く,眼球乾燥症に対して耳下腺分泌液はすぐれた活剤である事を示し,その理由として,耳下腺と涙腺は組織学的に良く似ている事,耳下腺分泌液は透明で眼に無害且つ無刺激である事,耳下腺分泌液と涙液はその化学組成に大差がない事,耳下腺分泌液は涙液の如く持続的に分泌する事,耳下腺排出管の移動後も消化には何等支障のない事等をあげている。
 しかし本邦でに未だこの手術についての報告はない。吾々は唾液腺造影法を応用して,犬に於ける基礎実験,死体解剖による実験を経て臨床的に7症例に応用したので茲に報告する。

流行性角結膜炎に於ける結膜上皮細胞の変化について—Adenovirus 8型感染細胞との比較研究

著者: 杉浦清治 ,   瀬川雄三 ,   中泉行史 ,   太田道一 ,   涌井嘉市 ,   草野信男

ページ範囲:P.304 - P.309

 流行性角結膜炎(以下EKCと略す)の結膜上皮細胞の変化については,すでにいくつかの報告があるが,何れもVirusの侵襲による直接変化と間接変化とを区別していないために,本すじの変化があいまいにされている状態である。
 最近Adenovirus 8型がEKCの病原体であることが略々確実となつたが,本Virus感染細胞の変化については1,2の簡単な記載が1)2)あるのみで詳細なる報告がない。又EKCの結膜上皮細胞の変化を,新しいVirus学的知識を以て整理した報告も見当らない。

流行性角結膜炎の臨床,特にACFの効果について

著者: 今泉亀撤 ,   新津重章 ,   渥美健三 ,   小林准平 ,   妹尾博 ,   藤田宏

ページ範囲:P.311 - P.324

I.緒言
 1938年Schneiderが初めて命名した流行性角結膜炎は,極めて伝染性の強い疾患であり,欧州及び米国に於て第二次世界大戦中に特筆すべぎ大流行を来し,又我国に於ても青木氏等の詳細な報告以来,数多くの報告に接している。近時本疾患の本態に関して多くの実験がなされ,病毒の分離固定が成功してから,現在ではビールスによる流行性の疾患であることが略々決定ずけられている。最近では地方的に本症の大流行を見たと云う報告はないが,毎年或る時期に必ずこれらの患者が多く外来を訪れることは吾々のひとしく経験する所である。たまたま当眼科の病室内に於て,昭和31年4月と,昭和32年6月との2回に,はからずも本症の集団発生を見,入院患者86名中26名,即ち30.2%の罹届者を出したが,何れも夫々1人の感染源から次々と感染した入院患者である為に,系統的に諸般の詳細な臨床観察を行うと同時に,現在迄特に優れた治療法或は予防法がないとされていた本症に極めて有効な療法を試みる機会を得たので,その成果を報告する。

Prednisolone局所使用後の上皮性角膜炎

著者: 三井幸彦 ,   栗原英世 ,   大坪正美

ページ範囲:P.325 - P.328

 Prednisoloneの局所使用により,その使用開始後1〜2週を経て上皮性角膜炎を発生することが屡女あるという事実に就て述べた。この角膜炎は更にPrednisoloneの使用を継続しても,1〜2週の経過で治ることが多い。この種の角膜炎と,Cortisone類使用後におこり易い角膜真菌症との間には,一定の関係があるかも知れないということを論じた。

呉市広—仁方地区に見られた前円錐水晶体の7例

著者: 中野淳巳

ページ範囲:P.328 - P.336

緒言
 水晶体の形態異常である円錐水晶体の中,比較的多い後円錐水晶体に比して,前円錐水晶体の報告例は極めて少く,殊に我国では現在迄に僅か10例の記載があるに過ぎない。しかもその中の2例は,内容的に稍異るものを含んでいる有様である。
 しかるに広大眼科では昭和28年以来約4年間に,本症患者7例に遭遇し,その何れもが呉市内東部の広—仁方地区出身という注目すべき経験をもつたもので,これらについて報告する。

水晶体小帯の電子顕微鏡による形態学的研究

著者: 吉田テイ

ページ範囲:P.337 - P.346

緒言
 古来水晶体小帯の構造に就いては,多数の研究報告あるにも拘らず,古くから線維と言い,或いは膜と言い,繊細で毀れ易い性質のためか,未だ結論を得られていない。水晶体小帯は,主に水晶体と毛様体に張られた線維様物質にして,水晶体をその位置に固定し,以て眼の調節機能に関与している。本小帯は,1745年Zinn氏により,硝子体の一物質として発表されて以来,その走行及び其起始部竝に附着部等に関して,或は肉眼的に,或は組織学的に,種々なる面より観察研究され,多数の業績報告がある。然しAeby,Berger,Ulrich等が,本小帯は一種の膜様構造を有し,彼の所謂プチー氏腔の存在を認めたのに対し,Gerlich,Czermak,Salzman等は之を否定し,本小帯は線維より構成せられるものであると発表している。我国に於いても,今西,下山,倉員,深町等の知見報告あるも,現在では本小帯が膜様構造であると云うものはなく,皆線維構造説を認めているのが一致せる見解である。又本小帯は微細な線維が多数集つて一つの線維束を為し,之が相集つて小帯を構成すると云われ,Salzmanは本小帯の線維の太いものは直径0.035粍あると報告している。その後も原線維の研究は,Lauberによる顕微鏡的研究,Schultzの化学的研究,次いでPauによる位相差顕微鏡による研究,Bai-rotiの暗視野検査と相次いで行われているが,確定を見るには至つていない。

前房レンズに関する研究—試作レンズによる基礎実験

著者: 牧治

ページ範囲:P.346 - P.359

I.緒言
 白内障に対する手術的療法がDavielによつて始められてから約200年の間に,その内容は長足の進歩を遂げて来ているが,それは前処置,手術法,後療法に関する面が主であつて,術後の視機能回復に関しては見るべき発展が最近までなかつたように思われる。即ち無水晶体眼,殊に片眼無水晶体眼の矯正の際に見られる像の拡大,中心からそれた部分の像のゆがみ及び移動,視野の狭小等を正常に回復させようという試みは少ない。Gullstrand-RohrのKatral-linse,TscherningのKataraktlinse,又最近ではコンタクトレンズが試みられて居り,コンタクトレンズはこの目的に可成り沿うものと思われるが,猶Haptics,Optics両面から完全に満足し得るものでないことは言うを俟たない。
 之の解決に,最近合成樹脂製レンズを眼内に手術的に挿入する試みが始められ,無水晶体眼のみならず,更に高度屈折異常の矯正をも含め,眼内レンズ移植の考えは多くの研究者により進歩がもたらされている。

本態性高血圧症と眼底血圧

著者: 伊佐敷康政 ,   大重源治

ページ範囲:P.359 - P.364

第1節 緒言
 所謂眼底血圧に就ては既にBailliart以来多数の考按発表が行われているが,従来の方法では主観的要素が多くてその判定は甚だ困難な場合が多かつた。然し眼底血圧の測定は特に最近諸種の高血圧症の頻発によつて必要不可欠のものとなり,全身的にも局所的にも重要視される問題となつた。そこでより簡単で主観的誤差の少い方法が目標とされていたが1953年植村,川島氏等によつて全く新しい原理に基いて電気眼底血圧計が考按されたことは周知のとおりである。その後1957年広石,菅野氏等も又新型電気眼底血圧計を発表しこの方面の研究はこの1,2年間に長足の進展を示した感じが強い。
 これ等の装置によれば主観的誤差を少くして同時に眼球圧迫脈波を記録出来るので,血圧値丈でなく眼底血管の機能的又器質的の性格も観察又は推測することが出来る。

眼底血圧と脳循環並びに腎循環との関係に関する研究—第1報 老人篇

著者: 大神妙子

ページ範囲:P.365 - P.370

緒言
 近年に於ける医学の発展,特に治療面での急速な進歩と,予防面の発達に伴つて,死亡率が減少し,老年者が,人口中の少なからぬ割合を占める様になり,老人病学という新しい分野がひらけてきた。人体の老化に伴う循環状態の変化を考える時,年齢増加に伴つて進行する動脈硬化は重要な一因子であり,又,老人に多く発生する高血圧症との結びつきによつて注目される問題である。
 従来,眼底検査は,脳内血管変状を推測する手がかりとして賞用されて来た。病理解剖学的にも脳血管と眼血管に相関のあることは,Rinteln,樋渡その他の諸家により報告されているところである。しかし,肉眼的観察の精密さには限度があり,生体の管理という点からいつて,機能的な面からも併せて観察することが要望される。Kety& SchmidtのN2O法による脳循環測定法は,内頸動脈領域の循環状態を知る優れた方法として発展してきた。眼科の領域に於ては,検眼鏡的観察と併せて眼底血圧測定を行うことの重要性が,Weigelin等によつて強調され,多くの研究者によつて検討されつつある。

視束中心動脈閉鎖について

著者: 谷道之

ページ範囲:P.370 - P.376

 戦後,食餌及び生活様式の変化によると考えらる循環器障碍の増加が,世界的に認められているが,本邦でも,その例にもれず,眼科領域においても,血管障碍に因する疾患が増加している。急性全横断性球後視束炎の症状を呈し,視束中心動脈の閉塞によると考えられる2症例を経験したので報告する。

網膜静脈血栓症に対する抗血液凝固剤療法について

著者: 三国政吉 ,   笛田孝雄

ページ範囲:P.377 - P.382

 血管硬化に原因して起る網膜静脈血栓症は日常比較的多い疾患であるが,遺憾ながら今日未だ適確な治療法はない。
 Holmin & Ploman (1937)が本症に対しHe-parinの有効のことを発表して以来,欧米では抗血液凝固剤療法Anticoagulant treatmentに就き沢山の報告がなされている。抗血液凝固剤としてはHeparin,Dicumarol及びその他のCo-umarin誘導体等が多く用いられているが,近年Phenylindanedioneを用いた報告も間々見られる。有効機序は既に形成されている血栓の進展,多発防止と同時に原血栓の融解によるもので,本症に随伴する出血性緑内障の予防にも役立つと云う。

小口氏病と網膜色素変性症との交渉について

著者: 本多英夫

ページ範囲:P.383 - P.384

 私は,昭和27年の眼科臨床医報及び昭和32年の臨床眼科誌上に,網膜色素変性症と停止性夜盲との関係を示す症例に就いて報告した事がある。此の問題で,従来の文献よりみると白点状網膜炎と網膜色素変性症との交渉は,Lauber,Milner,Golding,山本,河本,坂梨の諸氏の報告がある。然し,私の観察した3症例は共に,所謂円錐体暗調応が,正常の閾値と大略相等しく,此は従来の白点状網膜炎の成績と異つている。私の云う所謂中間型の症例は,私以外に観察したという報告がないので断言し兼ねるが,現在では,この症例は,小口氏病と網膜色素変性症の中間型ではないかと考えている。
 その根拠は,円錐体暗調応の問題の外に,文献的に調査しても,森井氏の小口氏病が網膜色素変性症に変つた場合,小口氏病第1号患者が後年定型的な網膜色素変性症となつたと云う馬島氏の記録,同一家系に小口氏病と網膜色素変性症とを現わした清水氏の報告等いずれもこの中間型の存在を暗示している。

先天性停止性夜盲症の珍しい1異型例(斑紋眼底)について

著者: 神鳥文雄

ページ範囲:P.384 - P.386

緒言
 1948年来10カ年間に夜盲症を訴える眼底疾患々者518名について,眼底の精査並びに描図を行なつたところ,2例に於て今迄嘗つて知られていなかつた眼底所見を呈するものに遭遇したので,その詳細を報告しよう。因に山陰地方では小口氏病は1例も経験しなかつた。

Sjögren氏症候群の1例

著者: 須田栄二

ページ範囲:P.387 - P.393

緒言
 乾性角結膜炎と鼻腔,咽頭の乾燥があり,慢性多発性関節炎を合併するSjögren氏症候群は,多く中年の婦人に見られ,欧米にては多数の報告を見るが6)14)16)23),我国では未だ稀な疾患とされている28)29)31)。本症候群の1例を報告する。

再発性前房蓄膿性葡萄膜炎の電子顕微鏡的観察

著者: 浅山亮二 ,   吉田英一

ページ範囲:P.393 - P.408

 Behçet氏病等を含むmuco-cutaneo-oculo-uveal syndromeに見られる再発性前房蓄膿性葡萄膜炎の症例竝に成因に就いては,今日まで可成り多数の報告がある。然し乍ら其の病理組織学的検索に関しては小口,石黒,上岡,宇山,吉田,Martin, Sezer等の文献があるに過ぎない。私達は本症の1例に於いて続発性緑内障を併発した1眼を摘出し,其に就いて病理組織学的に,特に電子顕微鏡的に観察する機会を得,従来の文献に見られない甚だ興味ある所見を認めたので,茲に報告する次第である。

Behçet氏病眼球の病理組織学的研究—5剖検例についての報告

著者: 生井浩 ,   西尾彪 ,   富田一郎 ,   野中栄次 ,   属将夫 ,   瀨戸山陽 ,   吉村節 ,   田原義明

ページ範囲:P.409 - P.420

 1937年Huluci Behçetは口腔粘膜の反復するアフタ,外陰部(男では陰茎及び睾丸皮膚,女では陰唇及び膣)の潰瘍及び反復する角膜エロジオン及び上鞏膜炎,或は結膜炎を主徴とする疾患を記載し,塗抹標本で細胞内(何れの細胞か明記していない)に基本小体を認めたことより,本症がウィールスに基因する疾患であり,臨床上稀ではないことを記載した。次で1939年及び1940年Triple symptom complex (Tri-symptomen-komplex)の名の下に再び同様の症候群を記載したが,眼症状としては追発性(schubweise)に発来する虹彩炎,出血を伴う結膜炎,視神経網膜炎があり,口腔粘膜及び外陰部の潰瘍の他に,下肢の結節性紅斑様の発疹,或はリウマチ様の疼痛があることを指摘した。以後皮膚,粘膜及び眼の症状を主徴とする此の疾患はBehget氏病(Be-hçet's Disease)或はBehcet氏症候群の名称を以て呼ばれている。
 然し此の症候群の他に,諸種臓器組織に類似の病変を呈する疾患群があり,種々の名称で呼ばれている。

欝血性緑内障の予後について

著者: 須田経宇 ,   生田雅則 ,   宮田典男 ,   古島正晴 ,   木原一幸 ,   中山正猷

ページ範囲:P.421 - P.424

 私共は先に1)単性緑内障の予後について報告したが,今回は鬱血性緑内障の予後について述べたいと考える。

片眼の網膜神経膠腫摘出後に広汎な播種性脳転移を起し他眼失明した剖検例

著者: 坂井京 ,   菅沢竜二 ,   小林章男 ,   向井章 ,   五藤宏

ページ範囲:P.425 - P.429

 網膜神経膠腫が網膜より発し他の器官へ転移発展し,遂に不幸な転機をとることはしばしば遭遇することである。
 我が国の剖検例,疋田1),難波2),井上3),三宅4),小柳5),野村6),牧内7),北野8),の各例を見ると,各例により眼球摘出の時期,細胞の性質はまちまちである故か,脳内転移の所見は一定しておらず,転移の方法も一定ではない。

腹壁癤より転移せる視神経膿瘍の剖検例

著者: 塚原伸司

ページ範囲:P.429 - P.432

 身体他部の化膿巣から転移して眼窩蜂窩織炎を来すことは稀ではなく,そのため失明又は死亡に至つた例も報告されている。私はこの度,腹壁癤から血行転移により最初に視神経内に膿瘍を形成し,眼窩蜂案織炎,全眼球炎及び眼窩膿瘍を次々に起し,遂に化膿性髄膜炎を来して死亡した症例を経験したのでここに報告する。

巨大眼瞼結膜惡性黒色腫の1例

著者: 村田博 ,   高橋雄児 ,   黒坂寿子

ページ範囲:P.432 - P.435

緒言
 眼科領域に於ける悪性黒色腫は,脈絡膜乃至,毛様体から発生するものが最も多く,結膜や虹彩から発生する事は比較的稀とされている。本邦に於ても,阿部氏の報告以来,少数例が散見されるにすぎない。
 最近,我々は左上眼瞼結膜に発生した悪性黒色腫の一例を経験したので,その臨床所見並びに組織学的所見について報告したい。

パントテン酸と眼疾患

著者: 冨沢愛士 ,   工藤高道

ページ範囲:P.437 - P.444

緒言
 1933年R.J.Williams1)によつて肝の濃縮物中から酵母の発育因子として分離されたパントテン酸(以下PaAと略)は鶏の抗皮膚炎因子2),鼠の毛髪の抗灰白化因子3)としても知られ,1940年に合成され人間,各種の動物の栄養にも必要なビタミンであることが明らかになつた。然しその眼科領域に於ける研究は少なく,本邦では未だ臨床面の使用報告に接していない。今回PaAと眼疾患との関係を調べるにあたり,各種眼疾患者の尿中排泄量・血清及び全血中濃度の測定を行い,又PaAを治療に応用し或る程度知見を得たので茲に報告する。

落雷による眼障害の1例

著者: 下出きよ子

ページ範囲:P.445 - P.448

 約40米離れた所に落雷があり,大体22時間後から68日後まで観察中,角膜,眼底,虹彩水晶体等に夫々病変を示した例に遭遇したので報告する。

P.V.P.の眼局所応用

著者: 早野三郎 ,   吉野竜二

ページ範囲:P.449 - P.453

緒言
 Polyvinylpyrrolidon (P.V.P.)は1940年Re-ppeにより創製され,初め代用血液として用いられたが,その後単に補液としての意味以外に様々な治療作用を有することが明らかとなり,現在各方面で広く応用されている。眼科領域に於ても既に二,三の人々により使用され一部の眼疾患に効果があると報ぜられている。私共は本剤の眼局所使用を企て,動物実験及び臨床応用を行つたのでこゝにその大要をのべてみたいと思う。

角膜溷濁の偏光顕微鏡所見

著者: 吉川義三

ページ範囲:P.455 - P.460

 角膜の溷濁は入射した光が反射,散乱,吸収等を受け透過光の減少する現象である。従つてこの様な光学的現象を一つ一つ追求して行くことが角膜溷濁の本態に至る道であると考えて,私は先に生理的状態に於ける回折現象(1)ついで生理的状態及び溷濁状態の角膜に於ける光散乱現象(2)を迫求して来たが,本実験に於て角膜溷濁時にみられる角膜線維の形態学的変化の意義を明らかにした。
 角膜溷濁の本態は角膜内の光波長程度の大きさの散乱粒子の形状,大きさの変化(submicrosco-picの変化)であつて,角膜線維構造の変化(mi-croscopicな変化)は二義的な意味を有するに過ぎないのである。

冷凍保存角膜による角膜移植について

著者: 竹内光彦

ページ範囲:P.461 - P.468

緒言
 1958年本邦に於ても角膜移植法が成立し,今後は移植角膜採取に法律的な見解が明白になつた。
 死体眼球を用いる同種角膜移植はFilatov1)(1929〜1932)が始めて成功を収め,本邦に於ては中村2)−7)(1940)による研究に於て,0°〜6℃で血清,リンゲル液,生食水に保存して,特に血清内貯蔵が勝れて居り,又湿潤した空気中に貯えて5日間透明を保つた。同様の方法で北川8)は24時間以内のものが成績が良く,Patton9)は72時間以内は使用出来ると云つており,又Holtt10)は48時間より古いものは用いるべきでないと主張し,Stocker11)も24時間以内に用いねばならぬと述べて居る。

非網膜剥離眼に於ける網膜裂孔及び嚢状変性について—(第2報)最高度近視眼に於ける検索成績

著者: 田川博継 ,   時田広 ,   小原堯 ,   吉田彰

ページ範囲:P.468 - P.476

I.緒言
 第1報に引続き今回は−11D以上の最高度近視眼に於ける検索成績について報告する。
 蓋し後述の如く,又周知の如く,最高度近視眼の網膜剥離(以下剥離と略称)発生率は高いので,その予防殊に所謂フカラ手術に当つては,特にその眼底所見は重要であり,更に剥離発生機転の究明に役立てんが為である。

網膜剥離眼に於ける眼圧調整機序の様相について—(第4篇) Tonography値について

著者: 森寺保之

ページ範囲:P.476 - P.481

緒言
 曩に網膜剥離眼165眼の眼圧値,日差動揺値を測定し,正常眼圧下限値11mHg以下のもの43%を占め,従来の成績の如く,眼圧は下降する傾向にある事を知り,且一部に於いては正常圧を保ち,又眼圧上昇し不安定性を示せるものもあり,必ずしも一律に思考しえない結果を得た。次いでLabi-lity-testを施行し,眼圧値の低い,裂孔巨大なる例では(特に鋸状縁裂孔)頸部圧迫によりむしろ眼圧は下降する傾向にある事を知り,裂孔を経て脈絡膜系血管の流出路の存在が,本症の眼圧の推移を知る上に相当な地位を占めるのではないかと云う疑問を抱いた。然し乍ら大部分の症例に就いては,裂孔の閉鎖と共に眼圧値,及び不安定性の回復を招来せる点より思考し,当然後部流出路の存在を想定する事が出来るのであるが,猶一部に於いては,治療経過良好で全治せる例に於いても,眼圧の回復が認められず,猶下降するものがあり,葡萄膜血管を経過する排泄路のみならず,眼圧調整機序,特に毛様体機能に就いて検討を加える必要を認め,加えて後部流出路の存在する場合に於けるTonographyの態度についても検討を要すると思考し,Tonographyを施行して見た。猶本症に於ける前毛様静脈圧をpelotten metho-deにて測定し解明の一助とした。

角膜脈波の解析

著者: 鈴木一三九 ,   西昭 ,   大月博視

ページ範囲:P.482 - P.485

1.まえがき
 高血圧症,動脈硬化症などの診断,特に予後判定に眼底所見の果す役割は極めて大きいが,その肉眼的所見のみでは主観の入る余地を避けることが出来ない。そこで眼底所見に関連し,然もこれを裏付けることの出来る,より客観的な資料が得られるならばこれに過ぎるものはない。
 この意味から,網膜中心動脈乃至眼内動脈の血圧値を客観的に測定することが出来れば,その臨床的価値は大きい。

低周直角脈波による後天性近視の治療

著者: 松下和夫 ,   谷美子 ,   和田秀明 ,   坪田芊子

ページ範囲:P.486 - P.491

Ⅰ.緒言
 近視の罹患率が近年著しく増加しつつあることは,周知のとおりであつて,流れて止まざるが如き勢いを示している。この現状は,私達眼科医にとつて,何としても残念なことであると云わねばならない。学校衛生統計報告書によれば,1956年度には,小学生男子8.8%,女子10.45%,中学生男子15.41%,女子18.68%,高校生男子25.78%,女子27.43%で,中学生,高校生は前年度に比して2〜3%増加し,1950年よりわずか数年余りの間に,実に2倍以上にも達したのである。近視が短期間にこのように増加したのは,当然,後天性のものの増加によるのであるから,これを予防し,これを治療することは,可能であると考え,さきに,所謂低周波治療を試みて好成績を得,これを発表した。(臨床眼科,12巻,4号,655頁,1958年)(以下前報と呼ぶことにする)。
 今回は更に広く,深く検討を試み,前報以後に実験治療を施行した195例の成績について発表する。

二焦点コンタクトレンズの研究—第1報 理論的考察(共の1)

著者: 水谷豊

ページ範囲:P.492 - P.494

Ⅰ.緒言
 コンタクトレンズが長年の研究の結果として,容易に終日レンズの装用が可能になつたために,眼科臨床上に,大きくクローズアツプされ,多くの適応症に利用されるようになつた事は喜ばしい事である。光学的に見ても,コンタクトレンズは眼鏡レンズに比して,総てのレンズの非点収差やプリズム効果が除去され,網膜像の大きさの変化も少なく,視野が広く,又外見上,眼につかない許りでなく,眼鏡レンズで矯正の出来ない円錐角膜,角膜不正乱視,高度近視眼,不同視眼,無水晶体眼等の治療にも,特効的に作用する事は周知の事であり,眼鏡レンズに比して,多くの優位を示して来た。然し乍ら,他面に於いて眼鏡レンズに及ばない欠点もある。その1つは老視に対する非適応である。老視眼は近業時にのみ異常を訴えるために,近業時のみの眼鏡を必要とし,遠見と近見とでは異つたレンズを必要とするわけである。残念乍ら,近業の都度近業用のコンタクトレンズを装脱する事は,眼鏡レンズの掛けはづしに比して,眼内装作を必要とする関係上,取扱いに衛生上の注意を要し,繁雑さを伴い,更に二焦点眼鏡レンズの有する特性の遠近両用に,1つのレンズを以て役立たせるという事は,コンタクトレンズでは不可能な事であつた。最近アメリカ及び英国に於いて,この問題に就いての検討がなされている報告に接したので,著者自身も新しく二焦点コンタクトレンズの研究,製作,臨床応用に著手する事になつた。

外傷性視神経萎縮の臨床的観察

著者: 高橋堅止 ,   入野田公穂

ページ範囲:P.495 - P.501

緒言
 最近急速に発達してきた我国の工業,交通,スポーツ等における外傷は,理論的には文化の向上により減少すべき性質のものであるのに,実際はそれと遙かに懸離れ,逆に増加の一途を辿りつつある。眼科領域においても,斯かる外傷が,近時年汝増加の傾向を示し1),その最も代表的であり,しかも視力の予後が不良と思われる視神経の損傷に関しては,特に関心が注がれ,従来多くの報告がみられる2)3)4)。私共は近年来この外傷性視神経萎縮数例に遭遇し,聊か知見を得たので茲に報告する。

太田氏母斑,眼球黒色症に視交叉部メラノーマの発生した症例

著者: 小島克 ,   夏目智恵子 ,   本多敦子 ,   宮川千鶴子

ページ範囲:P.502 - P.505


 瞼〜眼球,視神経,脳膜,脳皮質,眼窩骨壁等に広汎なメラノージスがあつた患者で,視交叉部のメラノーマが発生し,視交叉症候群を起した症例である。

網膜剥離の治癒見込推定に関する考究—其の1 術前の安静による網膜剥離自然減少の有無と手術成績—其の2 手術中乃至終了時の剥離減少の有無と手術成績

著者: 岸本正雄

ページ範囲:P.506 - P.519

緒言
 Goninによつて網膜剥離に対して裂孔閉塞手術が初めて打立てられてより以降の,網膜剥離手術成績に関する多数の統計的観察の結果は,観点を転じて見れば,とりもなおさず手術予後を左右する条件に関する一定の原則を求めるべく検討したものとも見ることが出来る。我々が多数の網膜剥離を扱つて来た経験を回顧すると,個々の例に於いて,一見治り難くそうに見える剥離で,手術によつて迅速に容易に復位したものもある一方,非常に治り易そうに見えるもので,予想に反して治り難いものに遭遇することがある。個々の例について正確に手術予後を予言することの困難性は,Goninの著書1),Mellerの手術書2)にも指摘されている。しかしながら次に列挙する項目は,予後不良を推定せしめる条件として,衆論の一致するところである。1)発病後長期を経た古い剥離,2)網膜の強い萎縮変性,皺襞形成,結合織増殖等剥離した網膜自体に強度の変化を伴うもの,3)巨大裂孔,並に多数の裂孔又は類嚢胞変性が広汎に認められるもの,4)網膜剥離が高度広大で,臥床安静又は網膜下液穿刺排除にて減少が著しくないもの,5)無裂孔剥離,6)硝子体変化の強いもの,7)無水晶体眼。

緑内障に対するBarkan氏周辺虹彩切除術とScheie氏濾過手術

著者: 百々隆夫

ページ範囲:P.520 - P.532

まえがき
 比較的歴史の新しいOtto Barkanの周辺虹彩切除術1)(以後,Barkan氏手術と略す)とHaroldG.Scheieが1958年Am.J.Ophthに"Retrac-tion of Scleral wonud edges as a filtrizingprocedure for glaucoma"という題名のもとに記載している新しい濾過手術2)(以後,Scheie氏手術と略す)とを私が積極的に追試しようとした動機は,次の事柄に要約される。

Anthranil酸による原発緑内障の治療—〔V〕Tonographyによる検討

著者: 飯沼巖 ,   保田正三郎 ,   油谷和子 ,   𠮷野美重子

ページ範囲:P.532 - P.533

 緑内障のAnthranil酸(A酸と略す)療法,とくに我々の原法である微量内服法の奏効機作をTonography法によつて検討したのでその成績を発表する。
 臨床上診断の明かな慢性緑内障患者10名の10眼,うち2名2眼は既往に他医によつてTrepanationを受けたものである。

視神経疾患に対するネオメタボリンの脊髄腔内注入療法について

著者: 山地良一 ,   渡辺千舟 ,   大矢部篤子 ,   和田光彦 ,   岡田公明 ,   横井一美 ,   連世音子 ,   三好久子 ,   岡田梅子

ページ範囲:P.534 - P.538

1.緒言
 私達1)は先に,急性軸性視神経炎,慢性軸性視神経炎及び視神経萎縮の症例に対して,アリナミンの脊髄腔内注入を行い,認むべき治験を得て之を報告した。
 最近,新しいビタミンB1誘導体TOED(Thi-amine-β-hydroxyethyldisulfide) の製剤として,ネオメタボリンが造られている。TOEDは第1図に示す様な構造を有し,白色乃至微黄色の針状結晶で,水に溶け難く,アルコールには溶け,エーテル,ベンゾール,クロロホルム等には溶けない。酸には可溶で,その1分子とピリミジン核4位のアミノ基との間に,塩を形成する。アルカリには不溶である。

各種視神経疾患に対するハイドロコーチゾン・プレドニゾロン(プレドニン)の髄腔内注入の経験

著者: 船坂圭之介

ページ範囲:P.538 - P.543

緒言
 コーチゾンを初めとする一群の副腎皮質系ホルモンが,独特な強力消炎作用を有することは,1949年Hench等によつて,リウマチ性関節炎に卓効あることが発見せられて以来,幾多の研究追試によつて証明せられている。眼科方面でも,各種角膜炎,虹彩毛様体炎,後部葡萄膜炎等に広く用いられている所である。私共は,各種視神経疾患々者にこれらの副腎皮質系ホルモン,即ちハイドロコーチゾン,及びプレドニゾロン(プレドニン)を髄腔内に使用して,見るべき効果を得,昭和33年度京都眼科学会でその一部を報告したが,今回は,その後の新たな症例をも加えて報告すると共に,いさゝか,卑見を副えて大方の批判を乞う次第である。

水晶体血管膜の臨床的並に組織学的観察について

著者: 安岡敏夫

ページ範囲:P.543 - P.549

緒言
 人類及び哺乳動物の水晶体は,胎生早期より又出生後といえども一定期間その周囲を網状に血管の分布する菲薄な結合織膜で被われている,これが所謂水晶体血管膜と称するもので,この血管膜に就いては1738年Wachendorfによつてその前壁の一葉といわれる瞳孔膜が発見されて以来,1832年Henleが人胎児の瞳孔膜は虹彩の未だ発生せざるに先き立ち,後半の嚢膜と共に水晶体を包む一連の血管膜であると報告してから,水晶体の前面のみならずその全周を被う血管膜の存在することが認められている。
 この血管膜はにHenleよつて瞳孔膜Mem-brana pupillaris,嚢膜Membrana capsularis嚢瞳孔膜Membrana capsulopupillarisの三部に区分され,その起源は,中胚葉にあり,極めて菲い単葉の結合織性被膜とされているが,その発生説に就いては相反する点もある。

二型手持眼底カメラによる写真示説

著者: 野寄達司 ,   馬場賢一

ページ範囲:P.549 - P.554

緒言
 野寄は先に,一型手持眼底カメラを製作発表した。このものはすでに,軽便な眼底カメラとして市販され,実用されている。
 この度,我々は一型カメラを根本的に改良し,全く新しい光学系をもつて組立てられた二型手持眼底カメラを製作した。今その特長を要約すれば,このカメラはまず観察系を用いて被検眼の眼底を観察し,眼底に視標を投影して焦点を合わせる。次いで,フラツシユライトを足踏スイツチで発光させる事により,撮影を自動的に行うものである。このカメラには一型にまさる長所が多くあるが,その重なものをあげれば,すなわち,

眼精疲労の研究(第1報)—変速近点距離計の試作とそれによる眼精疲労の研究

著者: 田辺弥吉

ページ範囲:P.555 - P.565

(I)試作近点距離計について
緒言
 眼精疲労時の近点距離の変化に就いては幾多の研究がなされて居るが,その基礎となるべき近点距離測定法には殆んど石原式近点距離計が用いられて居り,視標照度についてはかなり詳細に究明されている反面,視標の移動速度に関しては現在迄手動式か,稲葉氏の「モーター」で動く等速式によつて検査がなされているに過ぎない。私は物体の移動による焦点距離の変化を後述の理論によつて変化すると考え,視標の新しい移動速度を持つ近点距離計を試作した。なお視標照明装置等も改良し幾らかでもより正確な結果を得られる様に努めた。

断帶用キモトラーゼについて

著者: 井上正澄

ページ範囲:P.565 - P.566

 この報告では20例の白内障全摘出手術にキモトラーゼを用いた。これはアルフアキモトリブシンで斜視鈎を用いる間接断帯に代つて断帯を行い,ベル吸引器も鋸子も用いないで,外部からの圧迫によるスミス法で安全に水晶体を娩出し,経過も良い。但し2例では嚢が破れた。
 キモトラーゼはバイアル入り2ミリグラムのものを10ccの注射用生食水に溶解し,虹彩のうら側に2分半作用せしめる事が適当である。7分間作用せしめた3例中2例では手術1カ月後5ミリ散瞳は縮瞳薬に反応しなかつた。20例中13例はスペイン製を用い,後の7例はモチダ製薬で作つたものを使用した。

角膜膿瘍経過後の続発性緑内障について

著者: 湖崎克 ,   三好久子 ,   岡田梅子

ページ範囲:P.567 - P.569

 従来,角膜膿瘍は屡々全眼球炎に移行し,眼球内容除去を行う場合が多かつたのであるが,近来諸種抗生物質の発達に伴い,多くは全眼球炎を惹起する迄に至らず,癒着性白斑を貽して治癒する。然し乍ら,自覚症状が軽快し,患者が治癒の喜びにひたるのも束の間で,ある期間の後に続発性緑内障を起し,再び入院加療を要する場合がかなり見受けられる。此の際緑内障併発の危険を予め患者に知らしめて置く事は必要な事であると思う。従来成書の中にも続発性緑内障の原因の中に,癒着性白斑が挙げられているが,角膜膿瘍経過後には特に緑内障の併発が多く,しかも其の発病迄の期間は略々一定しており,角膜瘢痕,虹彩前癒着,前房の深さ等から予め発病の時期を推知し得られると思うので,茲に実験症例を基礎として,之等の点に就いて検討を試みた結果を報告し,御批判を仰ぐ次第である。

眼変化を初発症状とした脊索腫(Chordoma)の1例

著者: 稲富房子 ,   岡村昭子

ページ範囲:P.569 - P.573

はじめに
 脊索の遺残物から発生する脊索腫は非常に稀な腫瘍で吾国殊に眼科ではその報告は少い。最近その1例を経験したので症例追加報告する。

東洋医学による蚕蝕性角膜潰瘍治験

著者: 小倉重成

ページ範囲:P.574 - P.577

 蚕蝕性角膜潰瘍は原因及び治療に関して未だに確実なるものが把握されるに至つていない。昭和21年より33年に至る間に同症の5例を東洋医学的に治療する機会を得,何れも見るべき効果があつたので報告御叱正を乞う。

第12回臨床眼科学会をきいて

著者: 杉浦清治

ページ範囲:P.578 - P.581

 第12回臨床眼科学会は昭和33年11月9日秋色深い東大に於いて行われた。美しく黄葉した銀杏並木を通つて会場である法学部大講堂に行く。定刻8時前というのにもう熱心な会員が続々つめかけている。黒沢博士の開会の辞につづき直ちに一般講演に入る。
 春の日眼総会と違つて肩のこらない気安さもあつて人々の顔も楽しそうである。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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