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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科13巻8号

1959年08月発行

雑誌目次

日本トラホーム予防協会会誌

一種の急性結膜炎(所謂流行性角結膜炎)に見る絲状菌について

著者: 越智貞見

ページ範囲:P.43 - P.48

 近年一種の急性結膜炎が流行している。これは全国的であるかのように思われる。今猶ほ終熄の模様が見えない。これは,その伝染力が非常に強烈であるが為であつて,患者に接触する機会の多き処では,人によりては容易に感染する。従つて又其の人に於いては一眼より他眼に忽ち伝染する。而かも,この結膜炎は,その経過中に耳前淋巴腺の圧痛や腫脹を伴うことがあり,又,角膜に浸潤を来たして,視力障害を残すことがある。それで最初は単に一種の急性結膜炎であつても,後には角膜に合併症を来たすに及んで,角結膜炎と称えられ,又これが,流行性に蔓延するが故に,流行性角結膜炎とも呼ばれるに至つた。この眼症は急性結膜炎に角膜浸潤を併発することがある為に,相当に古くより人の注意を惹いていたものである。
 私は此の種の急性結膜炎の流行と共に顕徴鏡的検査を行つていたが,従来急性結膜炎に多く証明せられていた処のKoch-Weeks氏菌を始め,其の他の疑うべき起炎性細菌を認めることがなく,又その結膜の症状が,人によりては,所謂急性トラコーマ,或いは,包括体性結膜炎に甚だしく似ている処から,臨牀的には,その鑑別のつきかぬることさえもあるが,其の時にこれ等の眼症と相違してその結膜の擦過標本に於いて,Prowazek氏小体と称する周知の細胞包括体に似たるものを,唯だ稀に見ることがあるに過ぎない。

連載 眼科図譜・55

生誕160年記念—高良斎先生の史蹟(1799—1846)

著者: 福島義一

ページ範囲:P.1109 - P.1110

解説
 高良斎先生は,寛政11年5月19日徳島市に於いて生れ,間もなく眼科医高錦国先生の養子となり,文化14年10月(19歳)長崎へ遊学し,最初は通詞吉雄権之助(如淵)に就いてオランダ語を学び,文政6年シーボルトが来朝するや直ちに入門して西洋医学を学んだ。特に,先生は欧人に就いて直接西洋眼科学を修得した最初の日本人として史上銘記すべき人である。

綜説

角膜炎に対するピロカルピン或いはアトロピン点眼の問題

著者: 小口昌美 ,   清水由規

ページ範囲:P.1111 - P.1115

 角膜炎に対して縮瞳薬を使用すべきか,将又散瞳薬を使用すべきか,或いは瞳孔薬の必要はないものか。此の問題に就いての議論は最近に於いては余り見られない。往年匐行性角膜潰瘍に対して丸尾,野地氏等のピロカルピン点眼万能に相対し,畑,鈴木氏等のそれに就いての反対論はお互に辛辣を極めたことは当時の文献の記する通りである。最も近年ズルフアミン,及び抗生物質の登場に依り,それ迄多発した旬行性角膜潰瘍もその影をひそめ,又その潰瘍に対する治療も大変容易になつたので瞳孔薬の可否の問題は不必要になつた訳である。併しながら眼科の秘薬としての瞳孔薬の価値は決して減少した訳でもないし,又これ等瞳孔薬の眼内圧,及び血管に対する作用に就いても決して解決されたとは云われない。私共は宛も古色蒼然の感ある瞳孔薬の問題をとり挙げ,特に角膜炎に対する効果に就いて言及し度いと思う。此の動機は両眼角膜ヘルペスの症例に,慣例的にアトロピン(以下アトと略)を持続点眼した所,益々増悪し,ピロカルピン(以下ピロと略)に変更した所,劇的に治癒し,その後も再発を見ない症例に遭遇したからである。又その後角膜ヘルペス以外にもピロを使用して有効例を多数得たからでもある。始めに文献に就いて述べ,次いで自験例及び動物実験に就いても述べ,ピロ,アト,の問題を再検討し度いと思うのである。

臨床実験

眼精疲労の臨床的観察—第1報 初診時所見と症状の持続

著者: 保坂明郎 ,   高垣益子

ページ範囲:P.1117 - P.1120

(1)緒言及び観察方法
 眼精疲労についての業種は非常に多く,古くは初見氏,稲葉氏等の研究があり,所謂筋性及び調節性の疲労が確認され,次いで萩原氏は調節,輻輳相対性の疲労を,中島氏等は輻輳衰弱を追加した。疲労の起り方については江原氏,松原氏等の研究があり,本態については宇山氏,大草氏等が疲労物質の蓄積と,それに対する耐性を仮定し,北川氏は全身状態との関連を重視し,ストレス学説による見解を示した。萩野氏等は主として調節に関して環境との関連を述べ,服部氏,前田氏は神経症の意義を強調した。また数年来,大塚教授と保坂は不等像視の問題を取り上げ,その追試を行つた。
 眼精疲労の基礎的な面について,このような多彩な研究が見られるのに反し,臨床的な観察は,例えば調節障害とか輻輳障害とかの一部に限られ,眼精疲労全般にわたつての観察は見当らず,僅かに金氏,最近では西川氏が簡単な統計を記載しているに過ぎない。眼精疲労患者を診察する場合,その主原因は何かと判断に迷う場合が非常に多いのは誰しも経験する所である。

眼科領域に於けるβ線療法について(その2)—翼状片について

著者: 植村泰夫 ,   須賀純之助

ページ範囲:P.1121 - P.1127

緒言
 翼状片は,眼科臨床医が日常屡々遭遇する疾患であるが,其の原因に関しては未だ解明されていない。文献的には,栄養障害説(Susruta),Lymphogranuloma説(Morax),外部刺激に対する角膜の防禦反応説(Doherty),Choline欠乏説(Beard and Dimitry),塵埃,或いは光線で刺激されていた眼に細菌によつて慢性炎症が起るとの説(Michel Gerundo)等が挙げられているが,1954年,Kamelは,(1) neoplastictheory,(2)degenerative theory,(3)in-flammatory theoryの3つの説をとりあげ,病理組織学的所見を加えて,各々の説を批判し,慢性炎症説を支持する興味ある報告を行つた。彼は,結膜に限局性に発生したChronic irritativeexposure conjunctivitisが角膜に波及し,chronic keratoconjunctivitisとなり,粘膜下の放射状に走る線維組織帯の形成,その収縮により翼状片が形成されると述べている。Sugarは翼状片は瞼裂斑より発展したものであるとの意見を述べ,Pinkertonも,翼状片は環境の原因によつて瞼裂斑が慢性炎症を起したものに他ならないといつている。
 翼状片が最も医師,患者を悩ますことは,手術後屡々再発を繰返すことにある。

四丘体腫瘍治癒例に於ける眼症状

著者: 後藤保郎

ページ範囲:P.1129 - P.1133

緒言
 モルヨドール脳室撮影に依り四丘体腫瘍を確認し更に開頭術に依り再確認した1例を昭和28年より現在迄治療及びその経過を観察した。その全身症状並びに眼症状の消長は誠に興味あるものであつた。茲に症例を報告し諸賢の御批判を仰ぎたい。

眼球後退症候群(Duane)の3例

著者: 南睦男 ,   松本教子 ,   井上静 ,   長町和佳代

ページ範囲:P.1133 - P.1138

 眼球が内転運動を行うときに,眼窩内へ後退し,同時に瞼裂の狭小が起るという先天的障害がある。眼球後退症候群Retraction syndrome(Duane)と称せられ,我国では田野辺氏の調査によると,1955年までに50例の報告があり,特に稀な疾患ではないが,私らは本年のうちに定型的なもの2例及び非定型的と考えられる1例を経験し,そのうち2例に手術を行つて経過を観察したので報告する。

ジアテルミー電気凝固術の奏効せるHippel氏病の1例

著者: 佐野正純

ページ範囲:P.1138 - P.1141

 Hippel氏病とは1)網膜動静脈が著るしく拡張蛇行し,且その色調は両者共暗赤色を呈し両者の鑑別が困難であり,2)網膜上に赤色嚢状の血管腫を認め動静脈が之に出入して居り,3)眼底に大小不規則な小白斑を認め,4)時には中枢神経系稀には全身の諸臓器に血管腫を認め,4)終には網膜剥離又は続発性緑内障を起して失明する等の特異な疾患であつて1888年Fucksが初めて報告し,続いてLeplat,Wood等数氏も唯単に珍奇な眼疾患として之を見,深く注目しなかつたものの様である。所が1904年Hippelが之を網膜の甚だ稀有な疾患と題して詳細に報告して以来注目する所となり,同氏が1911年第2例を仔細に観察して,本症の本態は網膜血管腫症(Angioma-tosis retlnae)であると称えるに至つた。その後1926年Hippel氏病は網膜のみでなく中枢神経系とも密接な関係があり,網膜血管腫と脳血管腫とは発生を共にするものだとLindowが発表して以来,Hippel-Lindow氏病と呼ばれる様になつた。

緑内障治療とトランキライザー

著者: 太根節直

ページ範囲:P.1143 - P.1147

 およそ緑内障治療に際しては,眼局所に対する減圧手術,或いは縮瞳剤等の薬物療法による末梢性眼圧調整能改善のみで満足すべきではなく,更に一歩進んで中枢性眼圧調整能の正常化をもはかるべきではなかろうか。
 先に,大橋教授はクロルプロマジン等による大脳皮質遮断が正常者及び緑内障患者で眼圧下降的に作用し,更にクロルプロマジン,オプロマジン,メプロバメート,レセルピン等の中枢諸部遮断作用を有する一連の各種トランキライザーを臨床上緑内障治療に応用して,従来の縮瞳剤,ダイアモツクス及び各種手術とも,よくこれらが協同的に作用して有効であることを報告(眼治療必携・病態生理学大系・日眼62巻6号等)されたが,今回は更に新たに加えた多少の臨床実験例を追加報告することにした。

復位黄斑部網膜の光覚

著者: 岡田正樹

ページ範囲:P.1147 - P.1160

I.緒言
 復位網膜——剥離の検眼鏡的治癒を呈した網膜——の機能の内で,光覚について未だ詳細な知見に乏しい。これが解明の一助として,私は黄斑部網膜の剥離時並びにその復位後にわたつて暗順応計測を実施したので,ここに報告する。

プレドニン油性点眼液の効果について—主として結膜嚢滞留時間と,角膜上皮再生に対する影響に関して

著者: 湖崎克 ,   横井一美 ,   和田光彦 ,   岡田公明 ,   吉原正道 ,   三好久子

ページ範囲:P.1161 - P.1166

I.緒言
 眼疾患の治療に副腎皮質ホルモンが採用されて以来,我々眼科診療にたずさわる者は大いにその恩恵を受けている。
 先ず我々の使用したものは,コーチゾン,ハイドロコーチゾンであり,その卓越した消炎作用に異論をはさむものではないが,それを眼局所に使用した場合,角膜上皮の再生を阻害し,角膜に種種の障害を発生せしめる事等が多くの人により報告され,一応上皮欠損の見られる角膜炎症及び,高濃度の使用は禁忌とされているのである。

臨床講義

極度近視(最強度近視)

著者: 大島祐之

ページ範囲:P.1169 - P.1177

 近視の度数別分類は諸家によつて数多く発表されているが,水晶体摘出手術(フカラ手術)の適応という考慮を織り込んだ分類には第1表のごときものがある。主題の極度近視(又は最強度近視)とは,概ねフカラ手術の適応となり得る極度に強い近視を意味する。

私の経験

第18回国際眼科学会記—特に展示会を中心として

著者: 梶浦睦雄

ページ範囲:P.1179 - P.1182

 昭和33年9月,私は暫くの間スコツトランドに出掛けていて,ロンドンに帰つてくるなりInstitute of Oph-thalmologyにSir Stewart Duke-Elder教授を訪ねた。然しもう彼やDavenport教授等主なスタツフは国際眼科学会の為に出発していて,彼等の秘書もここぞとばかり休暇をとつていた。随分のんびりと勉強していた上に,イギリスの友人達と薬しく遊んでいたので,旅人と云う感がなく,ロンドンに生活している様な気がしていたが,急に旅だと云う緊張感がひしひしと迫つて来た。
 Sussexの私の下宿に帰つて,おかみさんに別れを告げて,慌しくロンドン国際空港を飛び出し,ブラツセルの郊外Melsbroek空港に到着した。この空港は猶工事中であつたが最新設備のもので,鉄道で市中の「ターミナル」に連絡しているのは珍らしく,Air Terminalについて見ると会場のPalais des Beaux Arts迄は極近い処であつた。

談話室

アルベルト・シユワイツエル病院にて

著者: 高橋功

ページ範囲:P.1183 - P.1184

 私はDr.Albert Schweitzerに招かれて, Lam-bareneの病院に勤務している。まだ4カ月足らずの期間だが,私の担当した眼科領域の経験をお伝えしよう。
 まずトラコーマが殆んどないことは私の意外とするところである。当地の黒人達は,朝といわず,昼といわずオゴエ河で水浴している。しかもこの河で彼等は大小便を処理し,洗濯もすれば,食器も洗うのである。うがいもすれば顔も洗う。とすれば汚染された河水からの結膜感染は当然考えられていい。そして又Schweitzer病院では患者の給食は,手術,伝染病,精神病などの一部に限つて行い,一般入院患者の食事は付添の家族が思い思いにやつている。炊事場のついている病棟もあるが,一般の病室の軒下で,大きな石でかこつて生木をもやして炊事をしているので,食事時は炊煙が立ちこめている。それは結膜を刺激するにちがいない。又ここには,電燈がないので石油ランプである。照明の不完全も結膜と限らず,眼にいい影響は与えないはずである。こういう色々な悪条件にもかかわらず,ここにはトラコーマは殆んどない。トラコーマは生活程度の低い,未開の地に多いという考え方はここで壁にぶつかることになる。トラコーマに限らず結膜炎も少い。壮年者の80パーセントまで淋毒に犯かされているといわれているこの地に膿漏眼が殆んどないのも意外である。要するに病原体に対する結膜の抵抗が強いということになる。

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眼科ニユース/人事消息

ページ範囲:P.1185 - P.1185

○昭和34年度文部省科学研究費配分(眼科関係のみ,単位万円)
(1)試験研究 ◇ERGの臨床応用普及化(京大浅山亮二)45 ◇白内障の薬物療法(徳島大高木義博) ◇眼疾患者に角膜疾患のビタミンB2群による適切なる治療東大萩原朗)45 ◇眼組織の化学的特殊性と薬剤分布(東北大桐沢長徳)45 ◇写真法による水晶体屈折力の測定器試作とその臨床的応用(東医歯大大塚任)45 ◇弱視,色盲の治療(岡大赤木五郎)45
(2)各個研究 ◇真菌による眼疾患の研究(東北大林幹雄)5 ◇葡萄膜炎の病因と病理(東大鹿野信一)15 ◇緑内障の生化学的研究(阪大水川孝)20 ◇眼球開壁術に関する研究(岡大赤木五郎)5 ◇脈なし病に関する研究(長崎大広瀬金之助)20 ◇硝子体吸引による前房並びに硝子体圧変動の相互関係に就いて(熊大須田経宇)20

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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