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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科14巻11号

1960年11月発行

雑誌目次

特集 故佐藤勉教授追悼号

故佐藤勉教授より摘出せられた眼球の角膜移植並びに諸検索成績に就いて

著者: 中島章 ,   小暮行雄 ,   斉藤幸市 ,   小林ふみ子 ,   秦徹郎 ,   羽出山昭

ページ範囲:P.1591 - P.1593

 昭和35年6月9日早暁3時40分順天堂大学医学部佐藤勉教授が急逝され教授生前の御遺志により新宿区四谷大京町の御自宅で多数門下生立会の下で午前8時18分執刀小暮助手中島と共に右眼次で左眼と両眼の摘出が行われた。摘出眼角膜は直ちに当日午前11時より順天堂に於て中島により2人の患者に移植された。
 其の他摘出眼に就いて各種検索を行つたので生前の諸検索に合わせて其の成績を報告する。

グラフ

故佐藤勉教授を偲んで

ページ範囲:P.1585 - P.1586

——写真説明——
①仙台眼科集談会における講演②医局員とともに診察中③全神経を集中しての手術(左より二人目)④なごやかな回診⑤コンタクトレンズに関する患者供覧

経歴/業績一覧表

ページ範囲:P.1587 - P.1589

本籍地 東京都港区赤坂表町2の15
住所 東京都新宿区大京町19

屈折

超音波による眼軸長測定に就いて

著者: 中島章 ,   西咲子 ,   天野清範 ,   上杉妙子 ,   和賀井敏夫

ページ範囲:P.1594 - P.1599

 1.
1.従来生体に於る眼軸長測定法としては,X線視覚による自覚的方法,テノン嚢内空気注入後X線撮影法が直接的な測定法として屈折研究に用いられ,間接的な方法としては,phacometry及び無水晶体眼に対する計算による方法が用いられた。1955年著者の一人(中島1955)が,屈折研究に用い得る方法として挙げたものは,以上述べたものの他に,テノン嚢内にゾンデを手術の際に後極に誘導して直接測定する方法をも挙げて置いたが,術後の出血があつたりして,広く用いる事は出来なかつた。その後,超音波技術が長足の進歩を遂げ,眼科領域に於てもいくつかの発表がなされる様になつた。(Mundt,G.H.&Hughes W.F.,1956,Oksala,A.and Lehti-nen,A:1958,Baum,G.and Greenwood,I.,(1958)etc)我が国に於ても,著者の一人(和賀井1(1952))…は,つとに超音波の医学領域,殊に外科診断領域への応用,並びにそれに適する機器の開発を,東北大電通研,菊池博士,日本無線(株)内田六郎氏等の協力を得て行つて来た。眼科領城では大阪に於て超音波の研究が循環器系統の診断への応用を目的として行われた。(里村茂美他,1958)

角膜の形状に関する研究—(1)フォトケラトスコピーの検討と,角膜曲率の部位的分布の正常値について

著者: 西咲子

ページ範囲:P.1600 - P.1635

1.緒言
 眼の光学系の主要部分を占める角膜に関して,その光学的特性と密接な関係をもつている角膜形状の研究は,すでに約200年前,ペティー8)の銅板法による最初の試みにはじまり,更にトーマスヤング8),コールラシュ8),ヘルムホルツ8),その他の人々によつて漸次計測方法が研究されてきたが,何れも臨床的な応用を見るに至らなかつた。その後,約100年前,はじめて臨床的に有用なオフサルモメーターが,ジャバル6)8)によつて完成され,爾来之は,非常に広く応用されてきてはいるが,オフサルモメーターの測定に於いては,角膜表面が幾何学的球面であると仮定して,その一部分の曲率半径が測定されるにすぎない。この点が,全角膜の解剖学的に正しい真の形態を究める上の重大な欠点である事は,すでに周知の事である。その後1897年に至り,グルストランド5)8)は,ジャバルのオフサルモメーターに基づいて,オフサルモメーターの標板の代りに,発光環を用いる事により,その角膜による反射環像を写真フィルムに固定し,之を測定計算する方法,即ちフォトケラトスコピーを完成した。之は更にアムスラー5)8)等によつて次第に改善されてきたが,この方法によつて,計算を用いて近似的に角膜前面の曲率半径を求める事により,はじめて全角膜の正しい形状を知る事ができるようになつた事は今更述べる迄もない。

角膜の厚さに就いて

著者: 𠮷本光久

ページ範囲:P.1635 - P.1638

 角膜の厚さは古くより先人により研究されている。通常中心部は薄く周辺部は厚く随つて一種の凹レンズ様を呈しておると考えられる。角膜の厚さは計測者によつて,その計測値は夫々異つている。(第1表参照)
 眼屈折を研究する上にも角膜の厚さを全く無視する事は出来ない。

角膜の非球面性を考慮したPhacometryの計算法に就いて,他

著者: 中島章 ,   吉本光久 ,   西咲子

ページ範囲:P.1641 - P.1660

1
 近視は眼科に於ける大きな研究課題の一つであつて,特に幾何光学の発達初期の1800年後半から1900年初めにかけて,多くの研究がなされた。そしてその時を中心として,殆どすべての学説は誰かによつて考えられてしまつて居り,その時以後に残された問題はその内のどれが本当かを如何にして具体的に証明するかと云う事であつた様に見える。(A de.H.Prangen1939, F.C.Stansbury 1948)
 一方眼屈折の問題は,屈折異常そのものの意義からすれば,単に眼鏡あるいはコンタクトレンズを合わせると云う丈の問題にすぎず,屈折異常に伴つて起る種々の合併症は,合併症そのものの問題であつて屈折とは直接的に研究問題として結び付いて来ないかの印象を受けやすい。この事が今世紀に入つて近視問題が,日本以外の諸国で眼科医の興味をひかなくなつてしまつた大きな原因であつたと思われる。実際,戦前から今日迄,屈折の問題はOptometristの問題として,眼科医はこれを避げて居たかに見える。Optornetristと云う制度のない日本でも,一部の限られた人々のみが,研究に従事し,大多数の眼科医は,これを自分の仕事と直接関係のない,云わば興味ある話題としてこの研究乃至論争を見守つて来たと云うのが正直な所ではなかろうか。

不同視眼の角膜曲率半径と前房の深さについて

著者: 柴田博彦 ,   神吉和男 ,   天野清範 ,   西咲子

ページ範囲:P.1661 - P.1665

 屈折異常の研究に於て,角膜曲率半径や前房の深さの関係を検討した業績は多く見られる。しかし屈折異常の一つの異型と考えられる不同視眼に於て,これらの関係を検討した業績は少ない。我我は外来受診者より,不同視眼の患者を選択して,片眼正視一片眼近視,片眼正視一片眼遠視及び両眼近視の不同視眼を各々のグループ毎に角膜曲率半径と前房の深さについて,屈折異常側及び正常側に分けて平均値と相関関係を検討し若干の考察を行なつたのでここに報告する。

水晶体屈折率の部位分布に就いて

著者: 中島章 ,   平野東 ,   斉藤幸市

ページ範囲:P.1666 - P.1669

1.緒言
 水晶体の屈折率の測定に関して著者の一人斎藤は「日眼会誌」64巻7号に於て発表した。その中で水晶体屈折率の部位的変化を追求する方法としてシュリーレン法を発表した。
 シュリーレン法とは,光の屈折を利用して屈折率の違いを見出す方法で,光学的に不均質,即ち屈折率が部分的に変る光透明体の不均質部の分布状態を観察する方法としてシュリーレン法は非常に有効な方法である。本実験に於て水晶体内部の屈折率の部位的変化の測定にこのシュリーレン法を応用した。

水晶体摘出による高度近視眼の屈折状態の変化 補遺—附・水晶体偏位症の屈折状態

著者: 柴田博彦 ,   神吉和男 ,   天野清範

ページ範囲:P.1670 - P.1676

I.緒言
 高度近視眼に水晶体摘出術を施行し屈折状態の軽減を計る方法はフカラ氏手術と呼ばれ従来多くの人々により試みられ,その成績の発表も可成り見られる。柴田・神吉1)は先に順天堂大学眼科に於て1951年より1957年の間に行なつたフカラ氏手術の症例170眼につき,種々の面より詳細な検討を行ない発表した。近年コンタクトレンズの発達,普及により,フカラ氏手術の適用範囲は著しく狭くなつた事は事実である。教室でも,その後フカラ氏手術の症例が少く,詳細な検討を多数例に行なうのは困難となつた。しかしその後の症例に於て,術前に球後空気注射X線写真撮影により眼軸長を測定2)(以後気軸法と略す)し,水晶体屈折力を算出した後,水晶体摘出術を施行した症例に於て,屈折力の滅少を比較し,他の屈折要素との関係を検討し得たので報告する。なお屈折異常の異型として水晶体偏位症の4例5眼の眼軸長を測定し,更に水晶体のある部分及び無い部分より検影法で屈折状態を求め,眼軸長を算出し,気軸法による眼軸長測定と共に屈折要素の関係を比較し得たので附してここに発表する事とした。
 従来眼軸長の測定は我々の測定法の他に,無水晶体眼より計算により求める方法,X線光覚法,Phacometryにより求める方法,更に最近では超音波による方法とあるが,同一眼に於て同時に二つの方法を試みて発表した報告はない。

網膜色素変性症の屈折状態に関する統計学的考察

著者: 岡田忠義

ページ範囲:P.1677 - P.1682

緒言
 網膜色素変性症には近視が多いといわれている。
 何故に近視が多発するかということを検討するのは本症の本態を知る上にも近視の原因論を研究する上にも大きな意義のある研究である。

円錐角膜

円錐角膜に見られるFleischer輪の吸収スペクトルに就いて

著者: 中島章 ,   紺山和一 ,   野間正喜

ページ範囲:P.1685 - P.1690

1.序
 円錐角膜は角膜形状の変化を主たる症状とする疾患で青年期に多い。その経過,症状等から,一種の局所的代謝異常に原因があるであろうと推察されているが,全身的な諸検査が多くの研究者によつてなされて来たに不拘この方面からの検索は何等の手掛りをも与えないかに見える。角膜は眼球の通光組織の内最も重要な部分であり,その形は大約3歳前後で一定となる。又その物質代謝は上皮層を除いては極めて緩慢と云われている。しかし,青年期に起る種々の全身的な変化,例えば成長速度の変化や,ホルモンの平衡の変化等が,局所に於ける素因と相まつて,この様な変形を起して来るのではないかと想像される。順天堂に於ては故佐藤教授によつて後面切開及圧迫繃帯法による円錐角膜の治療が行われて居り,此の疾患の発見率も,他院より紹介されて来る患者も多く,此の極めて興味ある疾患の本態の研究には好適な所と思われたので,種々の方面から円錐角膜の病因の研究を進めて来た。
 これらの研究の内,此の疾患の初期から完成期に細隙灯顕微鏡によつて発見される種々の変化,(その内には従来記載にもれていたものも含まれているが)の一部については著者の1人(紺山,1959)が簡単に発表した。その変化を此所にまとめると,上皮及びボウマン膜,時には実質前面に達する円盤状の小さい混濁,多くは中央,周辺をさけた中央から数mmの所に見られる。

円錐角膜の病理組織所見

著者: 小林フミ子 ,   紺山和一

ページ範囲:P.1691 - P.1696

序言
 円錐角膜は古くから知られた疾患で,内外とも多数の報告例があるが,その原因を始め初発症状に就ても定説はない。又組織的変化の報告は1859年Bowmanが初めて記載して以来,Salzmann1908, 1922, Erdmann 1910,Uhthoff1916,Vogt1937, 1939, Terry and Chisholm 1940の数氏に過ぎない。之は本症はかなり増悪しても容易に眼球別出の対称とならない事によると思われる。最近Katzin and Teng 1956は65例に及ぶ角膜移植に際して得られた本症角膜片の組織変化について記載した。しかし本邦では未だ本症の組織変化について記載したものはないようである。著者は最近角膜移植の行われた本症患者数例の角膜を得る事が出来たので,その組織変化について報告したい。

偏光の角膜形態解析への応用について

著者: 西咲子

ページ範囲:P.1697 - P.1699

1.緒言
 角膜に関する偏光現象については,Koepe16)17)L.Naylor E.J.18)等により古くから研究が行われ,本邦に於ても吉川氏11)−14),石黒氏15)等の報告があり,又最近では三島氏1)−10)が多くの興味ある報告をなされている。之等は何れも角膜構造の偏光性について述べてあるのであるが,著者は先きにフォトケラトスコピーによる正常角膜の形態解析に関する研究を試みたので,更に之をすすめて偏光による形態観察の実験を行つてみた。
 即ちこの偏光による観察が透明体である角膜の形態判定の一方法として応用出来るのではないかと期待し,三島氏1)−10)の御好意によつて拝借させて戴いた偏光装置を用いて,正常角膜及び円錐角膜の観察を試みたものである。

円錐角膜の異型について

著者: 中島章 ,   紺山和一 ,   羽出山昭

ページ範囲:P.1699 - P.1705

緒言
 Keratoconus posticum及びKerato globusは1930年Butler1),Stallard2)1938年Duke-El-der1947年Cavaraにより始めて報告された一種の角膜変形である。以来外国では,両者を含めて30例の報告をみる。後面円錐角膜はその名の示す様に角膜後面の曲率が前面の曲率より強く,後面の中央が前面に近接して角膜全体が円錐状をなし前面の曲率は正常かむしろ扁平になつて居る。後面円錐角膜には,角膜後面全部の曲率が強く,全体的に円錐状を呈するGeneralized型(或いはTotalis型)と,後面の一部が円錐状をなすlo-calized型(或いはCircumscriptus型)の二型がある。
 角膜拡張症はMegalocorneaと呼ばれ,実質が粗となり,前面,後面の曲率は凹凸不平で,角膜全体が前方に突出する。以下に先ず自験例を述べる。

原因不明の黄斑部萎縮及びノイローゼの合併した不定型的円錐角膜の1例について

著者: 紺山和一 ,   岸田明宜

ページ範囲:P.1706 - P.1711

緒言
 円錐角膜は,若年者においてまれに認められる疾患で,本疾患の本態は,未だ明らかにされて居らず,いろいろの説があり,またこれと他の眼科及び全身的疾患の合併したもので報告した数も少くない。著者は,本態不明の黄斑部疾患とノイローゼの合併した不定型的円錐角膜の1例を経験し全身的,眼科的にこれをくわしく,検査する機会を得たので発表する。

コンタクトレンズ

コンタクトレンズ材料の研究—メタクリル酸樹脂を中心としての材質の改善

著者: 秋山太一郎 ,   曲谷久雄

ページ範囲:P.1713 - P.1715

まえがき
 メタクリル酸樹脂は透明度,加工性,安全性などの点でコンタクトレンズ材料として優れているが,しかしコンタクトレンズそのものの性能を十分に発揮させるには,まだ不十分なところが少くない。そこでこのメタクリル酸樹脂を中心としてその性能を改善するためメタクリル酸との共重合物をつくつてしらべてみた。以下の記述について粗密があるが,要点だけを重点的に述べようとしたのでこの点御了承願いたい。なおこの研究は故佐藤勉教授の命によつて3年前より着手したものであるが,佐藤教授の御冥福を祈りつつこの記述をすすめる。

コンタクトレンズの球面収差について

著者: 平野東 ,   曲谷久雄

ページ範囲:P.1715 - P.1722

I.緒言
 コンタクトレンズのベース・カーブは患者の角膜の曲率半径によつて定まる。又コンタクトレンズの前面のカーブは,ベース・カーブと患者の屈折異常からガウスの領域における計算を基にして設計される。コンタクトレンズのように光学面の曲率半径が小さい場合には,その面に平行光線を入れた場合の入射角は可成り大きく,一般の光学機械に較べればはるかに大きい。従つてコンタクトレンズの場合近軸光線を除く周辺光線においてはレンズの周囲に近づく程光線の入射角は益々大となり屈折の程度も大となる。これは即ち球面収差であつてコンタクトレンズのように比較的強い曲率のレンズでは存外無視し得ないものでるる。そこで実際に入射角を基に各種のコンタクトレンズにつき収差を計算してみることにした。又角膜コンタクトレンズではレンズは眼の光軸と一致して装着されるべきものであるので,その光軸上の分解能が非常に重要である。一方レンズの検定の際の誤差を除去する目的でコンタクトレンズの球面収差を検討する事にした。この結果は著者等が臨床上遭遇する2,3の事実の解明の基となつた。そこでその収差の計算内容を記述すると共に球面収差を補正したコンタクトレンズというものを検討してみた。

小型角膜コンタクトレンズの球面収差と色収差について

著者: 馬場賢一

ページ範囲:P.1722 - P.1726

1.球面収差について
(1)はじめに
 従来かけめがねレンズの収差については多くの報告がある。しかし,最近多く用いられるようになつたコンタクトレンズについては,1955年に中島教授が球面収差,色収差,非点収差等について詳細な検討を加えておられるが,一般に少ないようである。小型角膜コンタクトレンズはベースカーブを角膜表面にあわせるため,かけめがねレンズに比して強いメニスカスレンズとなり,眼の回転中心までの距離が短かくなる。そのために光学系の収差論より斜収差(非点収差,彎曲,コマ,歪曲収差)は良くなるかもしれないが,球面収差が大きくなる事が予想される。かけめがねレンズは球面収差を十分小さくし,非点収差をゼロにする条件よりウオラストン型とオストワルド型の二つの型が生まれ,コマと歪曲を少なくする事が考慮されて来た。コンタクトレンズはその特有なフィッティングと屈折力を合せる事の2等件でレンズの型が定まつてしまうので,上述の予想よりも球面収差が非常に大きいと考えられる。また取扱いも球面収差が最もやさしいので,薄肉レンズの範囲で検討してみる事にする。勿論,コンタクトレンズは強いメニスカスレンズなので,厚さを無視すると誤差を生じるが,本論文では先ず第一近似としてコンタクトレンズを薄肉レンズとみなして計算した。

矩形二重焦点コンタクトレンズの研究

著者: 秋山晃一郎

ページ範囲:P.1727 - P.1732

緒言
 1959年の国際コンタクトレンズ学会を撰機に,いろいろなデザインのバイフォーカルコンタクトレンズが発表された。この事はすでに水谷氏1),曲谷氏2)より詳しく報告されて居る。
 今Feinbloomによつて始めて作られた角鞏膜バイフォーカルコンタクトレンズを一応除外して考えてみると,角膜バイフォーカルのタイプには大別すると,2つの流れのある事がわかる。その1つは『レンズの回転を止める』というアイデアから出発したと思われるもの,即ちKoch3),Ultracon type3)によつて代表されるUltex型グループ。又他のものは『レンズの回転をそのまま肯定して出発した同心円形のコンタクトレンズ』即ちWesley4),Jessen4)5)及びDeCarleの6)7),typeによつて代表されるグループである(第1図参照)。

クリニックを訪れたコンタクトレンズ希望者の臨床統計並びに遠隔成績

著者: 今野信子

ページ範囲:P.1733 - P.1738

I.緒言
 スフェリコンコンタクトレンズが我が国に紹介され,其の優秀性が多くの眼科医の注目するところとなつて以来最近のコンタクトレンズの普及は実に驚くべきものがある。これに従い今迄大学教室或は大病院を主として訪れていたコンタクトレンズ装用希望者が漸く街のクリニックにも訪れるようになつた。これらのコンタクトレンズ装用希望者は大学のそれとは多少異つた性質を有し,又装着方法も大学に於ける練習を基本にはしているが厳密になり得ない場合が多い。従来のコンタクトレンズに関する臨床統計は殆どが大学教室或は大病院を訪れた患者が中心であつた。著者はクリニックを訪れるコンタクトレンズ希望者は如何なる傾向を示すか興味ある事と考え,たまたまこれを調べる機会を得たので統計的に調査し,併せて其の遠隔成績をも追究し得たので報告する次第である。

小型角膜レンズのベベルについて

著者: 秦徹郎

ページ範囲:P.1739 - P.1741

緒論
 小型角膜レンズはその周辺部の型によつて種々のデザインのものが使用されている。従来から我我の使用しているレンズは光学部の周辺にベベルと称する部分を持つている。此の部分はレンズ装着の際角膜との間に或る一定の間隙を持つ為に,そこに涙液が貯溜して角膜とレンズとの接触に対する緩衝的意義を持つ様考案されている。

眼遺伝・失明

全国盲学校在籍者の失明原因に関する集団遺伝学的研究(予報),他

著者: 中島章

ページ範囲:P.1757 - P.1761

1.序
 失明予防は眼科学に於ける最も重要な研究課題の一つである。失明原因調査は古くから各国で行われて居り,我が国でも戦後眼衛生協会小山,北岡氏等(1952,1957)によつて,調査が行われ,その結果が発表されている。これらを通覧すると,戦前から戦後にかけての治療医学の急速な発達に伴つて,失明原因に大きな変化が生じて来ているのを看取する事が出来る。
 即ち,伝染性疾患を直接間接の原因とする失明が減少して,先天性,内因性の疾病による失明がその比率や重要性を増加して来て居る。近来の人類遺伝学,特にその集団遺伝学的研究法の発展につれて,この様な失明原因の調査が,失明原因である疾患の成因について,幾多の有用な知識を提供する可能性を有しているにも不拘,この仕事が或は眼科医以外の人々によつて,或はこの様な近代的分析法に精通した専門分野の人々の協力なしに行われていた為,当然得られるべき貴重な知見が,そのまま埋もれてしまつていたうらみがあるのを否定出来ない。

マウスの遺伝的白内障について

著者: 中野健司 ,   山本碩三 ,   沓掛源四郎 ,   小河秀正 ,   中島章 ,   高野英子

ページ範囲:P.1772 - P.1776

 国立予防衛生研究所で飼育されているマウスに,1958年1月偶々眼球に異常をみとめるマウスが見出され,この異常は後述の如く白内障であることがたしかめられた。
 今回はそのあらわれ方,遺伝的性質について検討を行つた結果を報告する。

Cockayne's syndromeと思われる1症例

著者: 上杉昌秀 ,   中川脩 ,   上杉妙子

ページ範囲:P.1777 - P.1785

緒言
 1936年Cockayneは,家族的に発生した網膜萎縮及び難聴等を伴える侏儒の2症例について発表し,これが,従来認められていない全く新しい症候群である事を報告して以来,Neill及びDing-wallやWilkinsも,それと類似の症例を認めており,極く最近MacdonaldらもCockayne'ssyndromeという名のもとに,5人兄弟中3人に発生した例を,詳細な検査所見と共に報告している。
 我々も,網膜色素変性を来して来院した患者で,体格が小さく,難聴も伴つている極めて興味ある1症例を経験したので報告する。

1眼に網膜剥離,他眼に緑内障を起した青色鞏膜の2例

著者: 神吉和野

ページ範囲:P.1785 - P.1788

I.緒言
 青色鞏膜は先天異常であつて,本症は単なる症候,或は一異常に過ぎない。しかしながら本症は種々なる合併症を伴う為に,診断上重要な症候である。青色鞏膜,骨膜脆弱,難聴の三症候をvander Haeve (1917)の症候群と云うが,其の他,青色鞏膜に於ける合併症の報告は数多く見られるものである。著者は青色鞏膜で1眼に網膜剥離,他眼に緑内障を起し,全身的にも多数の合併症を有する極めて稀な症例2例を経験したので報告する。

同一家系に発生せる特発性網膜剥離の2例

著者: 衛藤紫織

ページ範囲:P.1788 - P.1792

緒言
 網膜剥離は比較的屡々みられる疾患である。例えば,当教室の天野氏9)によると1955年度の順天堂眼科外来に於ける疾患総数17,508眼中52眼0.3%の頻度に発生している。然し一家系中に網膜剥離が多発したという例はそう頻繁に認められるものではない。我国の文献上では寺田氏,石川氏,出羽氏,宮崎氏等の報告があるのみである。
 今回私は高度近視を有する叔母,甥の間に発生した特発性網膜剥離に遭遇する機会を得たので追加報告する。

双生児の眼底所見,特に血管に関する遺伝的研究

著者: 今野信子

ページ範囲:P.1793 - P.1807

I.緒言
 人類遺伝学に於て眼に関する種々の形質の研究はかなり重要な位置を占めて来た。これは眼が精密な感覚器管で精密な検査が容易である為,異常形質の発見が他部に比し,早くから行われた事に由るとも言われている。
 然しながら眼底及び其の末梢血管についての研究報告は至つて少い。ここに於て著者は双生児を対象として肉眼で見,且つ撮影可能でもあり,又唯一の末梢血管状態を観察し得る眼底及び其の血管系の性質に関し,如何なる形質が遺伝的影響が大であるか,或は環境その他の影響を受け易いか,各卵性別の項目によつての類似度及び各各の遺伝性,級内相関係数を算出し検討を加えた。

人工眼球の可能性について

著者: 中島章 ,   光岡法之

ページ範囲:P.1808 - P.1811

1.序
 現在の医学の水準では,失明者が出るのを防ぐ事が出来ない場合が未だかなりある。この様な不幸な人々の為に更生の機関として盲学校や光明寮が全国にあつて,失明者の,社会生活への適応の教育を行つて居る。恢復の見込のないとわかつた患者の貴重な時間を,望みない治療の為に空費せず,この様な場合は出来る丈早く更生機関に紹介する事が,医師として患者になすべき事の一つである(中島1959)。しかし,一方では,眼の機能に代り得るものをこの様な不幸な人々の為に考えて見る事も失明者に対して我々が出来るかもしれない事の一つであろう。工業技術の発達によって,身体の機能の一部を代行させる機械はいくつか実用になつた。耳鼻科に於ける補聴器から,義肢,人工心肺,或は人工腎臓に至るまで,不完全ながらそれぞれの機能を代用して用いられている。
 眼の機能は,外界からの光によつて伝達される情報を分析して中枢に伝える事である。今日,光を電気或はそれを通じて他の形のエネルギーに換える技術は長足の進歩を遂げた。

招待論文

小口氏病の遺伝ならびに不完全伴性遺伝の検定(予報)

著者: 田中克己

ページ範囲:P.1743 - P.1757

 1) わが国における小口氏病の文献から集めた74同胞群と,未発表の4同胞群の資料を遺伝学的に分析した。
 2) これら78同胞群のうち正常者は男95,女98で有意差はないが,異常者は男95,女50で大差がある。しかし性差は発端者にのみ著明であつて(男54,女19),二次症例では有意差が認められない (男36,女28)ところから見て,異常者の頻度には性差はなく,ただ男の方が診療を受ける機会が大きいためであろう。
 3) Macklinは色素性乾皮症において患者の父がその父方から病的遺伝子を受けとつたときには異常男と正常男とが増加し,母方から受けとつたときには女が増加し,これが不完全伴性における性分布の原因であろうという仮説を発表したが,小口氏病の資料ではMacklinの仮説と必ずしも一致しない。
 4)単独選択と見なして分離比を推定すると,正常×正常結婚では22.54±2.52%,異常×正常結婚では46.67±12.88%であつて,ともに単純劣性の仮定に合致している。
 5) 両親の従兄妹結婚率は41.2〜46.0%で,他の血族結婚も合算すると60.33%に達する。
 6)本症の遺伝子頻度は4.0〜4.1×10−3と推定された。本症患者の頻度は2.8〜3.3×10−5,すなわち約30,000〜36,000人に1人と推定された。

緑内障

緑内障に関する研究—早期診断と健康管理について

著者: 高山迪子

ページ範囲:P.1813 - P.1820

緒言
 緑内障は周知の如く失明原因のうち最も頻度の高いものの一つであつて,その対策は早期に発見し治療することである。緑内障を早期に見出すことができれば,適当な管理のもとに治療を行い失明を予防することが可能であると思う。しかし緑内障の初期には自覚症状がないことからこの疾患の早期診断を目的とする集団検診が必要であると考えられる。この目的のための集団検診の文献は外国において散見1)2)3)するにすぎず,本邦においてはこれに接しない。著者は当教室外来初診患者のうち自覚症状はなくても眼底の乳頭の所見より緑内障の疑わしい症例について精密検査を施行した。また一般企業体従業員を対象として集団検診を行う一方,双生児についても集団眼圧検査を施工して緑内障の早期診断と健康管理の基礎資料とした。なお眼圧測定に際しては従来のSchiotz氏眼圧計の他Applanations-tonometerを併用したので,この両眼圧計による成績を比較検討した。

原発性緑内障の精神医学的考察

著者: 平沼博 ,   根岸達夫 ,   三ツ井金吾

ページ範囲:P.1820 - P.1827

I.緒言
 眼が感情の動きを端的に示すものであることは,「目に角を立てる。」「目が物を云う。」などの俚言にも知られている。
 眼科医Demours (1818),V.Graefe (1853),Laqueur (1909)等が驚愕・不快・興奮・不安などの情動性緊張が急性緑内障発作を導くものとして以来,原発性緑内障と情動との関係についての報告は多数ある。

Applanations Tonometerに就いて

著者: 高山迪子 ,   吉本光久

ページ範囲:P.1828 - P.1833

I.緒論
 眼圧を正確に測定するにはManometryによらなければならない。併しこの方法は実際に困難であり,我々は通常Tonometryを用いている。Tonometryにも色々方法があり,用いられている眼圧計の種類も沢山あるが,現在迄は主としてSchiötz氏眼圧計が用いられている。
 私達は1957年GoldmannとSchmidtによつて発表されたApplanations Tonometerを昨年5月に購入し,7月東京眼科集談会で使用法に就て簡単に述べた。

空気前房法について(その3),他

著者: 神吉和男

ページ範囲:P.1834 - P.1837

I.緒言
 隅角鏡検査が今日の如く広く一般に用いられるようになつた事は,緑内障の診断及び治療にとつて大きな進歩と云えよう。しかしながら従来の隅角鏡検査では,隅角の狭い症例に於ては,隅角部の変化を確実に知る事がむずかしい問題であつた。そこで著者は1955年末より論文その11)及びその22)に述べた如く,空気前房法と云う新たな隅角の直接視診法を考按した。
 本法は安全且つ確実な方法であるが,残念な事に写真撮影が困難で,この点に関してなかなか満足な方法が得られなかつた。最近新たな撮影方法を考按してほぼ満足すべき結果を得たので報告する。

網膜

新鮮網膜の顕微鏡写真撮影

著者: 中島章 ,   小林フミ子

ページ範囲:P.1853 - P.1854

 1955年Dentonは顕微鏡下に生きた網膜を置いて撮影する方法により蛙の杆状体はその約60%はpurple rodであり8%がgreen rodであると述べ,2種類の杆状体の存在を証明した。著者等は人或は他の動物でも写真撮影により視細胞の感光物質を証明したいと考えて下記の予備実験を行なつた。
 実験材料:人蛙及びにわとりの新鮮な網膜。人は外傷により剔出した眼球の網膜を用いた。

ERGに関する研究

著者: 中川脩

ページ範囲:P.1854 - P.1876

I.緒言
 1849年にDu-Bois Reymondが眼の静止電位を記載したのに端を発し,光刺激により生ずる網膜の活動電流の存在をHolmgren (1865)が報告して以来,Electroretinogram (ERG)に関する数多くの研究がなされて来た。特にGranit (1933)により其の研究は一層進められ,Riggs (1941),Karpe (1945)によつてコンタクトレンズ型電極が用いられるに及んで人眼のERGが比較的容易に測定出来る様になつた。我が国眼科でも石原,伊東氏の研究を始め広瀬,真鍋,御手洗,橋本,浅山,青木,永田,米村,坂梨,佐藤氏等の研究が相次いで行なわれている。
 ERGの発生機序を解明する手段としては,(1)人工病理学的に,種々の試薬,薬物を網膜に作用させて,変化する波型をしらべる方法。

本邦社会人の高血圧,血管硬化とその眼底所見の疫学的研究

著者: 新井宏朋 ,   川上秀一

ページ範囲:P.1877 - P.1888

 近年,脳卒中死が国氏死因の主位をしめ,その死亡が社会の第一線で活躍している壮年者に頻発する事から循環器系成人病を早期に発見し管理する事が各方面より強く要望されるにいたつた。著者らは数年来,高血圧,血管硬化の健康管理の研究に従事してきたが1)〜15),今回はいままでの成績から眼底所見の研究を主として高血圧,血管硬化の社会集団における発生,分布,予後等について考察を加える次第である。

網膜剥離80眼の手術経験

著者: 加藤和男

ページ範囲:P.1888 - P.1896

緒言
 網膜剥離は網膜疾患のうちで,手術によつて最も効果を挙げ得る唯一の疾患であり,Gonin氏烙刺術によつて治療効果が劃期的に上昇して以来Diathermie凝固術,鞏膜切除短縮術,之に加うるに近年Endodiathermie,Lichtkoagulation等等その術式の進歩改良と相俟ち,症例に応じて手術方法も数種類を使い分けることが出来る結果,特発性網膜剥離の70〜80%以上が治癒せしめ得ることが出来る様になつた。
 著者は,故佐藤勉教授の御指導を受けて,昭和31年4月から昭和35年4月迄に,網膜剥離80眼に対し種々の方法をもつて手術を行う機会を得た。網膜剥離手術に関する統計の報告は砂しとしないが,田川氏の報告を除き何れも大学乃至病院での多くの術者による手術報告であつて,単一術者による報告は尠い。比較の意味でも有意義と考え,此処にその結果をまとめ,検討すると共に,特に不成功例について反省を加え,今後の進歩の為の資料として報告する次第である。

ライトコアグレーターについて

著者: 野寄達司

ページ範囲:P.1896 - P.1899

緒言
 ライトコアグレーターは,現在のところ,カール,ツァイスの製品しか無い。これは光源としてクセノン高圧アークランプを使い,極めて高い出力を有している。機械そのものも非常に高価であり,形も大きく,また三相交流を使用するから手術室自体の電源再設備を施す必要がある等の欠点がありながら,最近では,欧米各国で50台以上が使用されているといわれる。著者の使用した経験でも非常に有用な機械であつて,網膜剥離をはじめとしてRetinoblastoma,仮瞳孔形成術等,かなり広い応用がある。もしこの装置が,一段と安価に,あるいは小型化することが出来るならば,我国でも普及するものと思われる。
 著者は1958年からワシントン大学眼科(在セントルイス)でライトコアグレーターの試作並びに研究を行つてきた。まず機械の概念を得るためにカーボンアークを光源として用いた実験モデルを製作し,家兎眼にて,テストを行つた。その後次第に光源及び光学系を変え,小型化を試みた。現在なお継続中であるが,強力な小光源が得られないために,小型化はかなり困難である。

試作"Neo-Coordinator"について

著者: 西咲子 ,   木村健

ページ範囲:P.1901 - P.1906

緒言
 マックスウェル5)斑や,シエラー氏4)現象と共に,内視現象の一つであるハイジンゲルブラッシュ1)2)3)4)現象を検出する臨床検査装置として完成されたCüpper1)のCoordinator (以下C.Cと略記す),並びに井浪製1)Coordinatorについては,著者の一人西が先きに臨床眼科誌上に紹介したが,最近この井浪製Coordinatorに一部改良を加えた装置を試作したので,こゝに紹介したいと思う。
 この新しい装置は,特に透光体に混濁のある場合の黄斑部機能を検査する装置として,その精能は従来のCüpper型のものより遙かに優秀である。

眼球鉄さび症および血性鉄さび症の臨床的ならびに実験的研究

著者: 山下剛

ページ範囲:P.1906 - P.1927

I.緒言
 眼球鉄さび症(Siderosis Bulbi)は,1890年Bunge1)によつて始めて名づけられた,眼内鉄片異物によつて起る眼球内の病変である。
 Van Hipple2)は眼球鉄さび症を異物性と血性の二種に分類し赤血球の崩壊によつて生ずるHe-mosiderinによつても鉄さび症が起る事を発見した。著者は該当実験に於て両種の鉄さび症について研究した。

極めて良好な経過を辿れる鉄錆症の1例—角膜鉄片異物除去後のEDTA-Na溶液点眼の試みについて

著者: 小林フミ子

ページ範囲:P.1928 - P.1931

序言
 眼球内に鉄片が刺入し,鉄錆症を発生した場合は,多くは予後不良であり,殊に鉄片を除去し得なかった場合は悲観的である。著者は受傷後1年2カ月を経て鉄錆症を発生し,白内障を併発して視力は眼前手動にまで下降したが,副腎皮質ホルモン使用,EDTA大量投与と水晶体摘出手術により,極めて良好な結果を得た1例に遭遇したので報告したい。

斜視

順天堂大眼科におけるOrthopticsの成績

著者: 加藤和男 ,   川村緑

ページ範囲:P.1932 - P.1935

緒言
 本邦におけるOrthopticsは欧米に比し著しく小規模であり,又遅れている状態にあるが,近年ようやく普及し各地で施行されつつある。然しその統計的な報告は未だ少い。
 我々は昭和30年の臨床眼科学会においてOr—thopticsの成績の一部を報告したが,その後昭和31年1月から昭和35年3月までの4年3カ月に施行した症例についてその成績を此処に報告する。尚,ここに述べる症例は手術の併用の有無にかかわらず,両眼視機能獲得訓練を行つたもののみである。

手持眼底カメラによる固視の記録(その1)

著者: 馬場賢一 ,   田中宏和

ページ範囲:P.1935 - P.1938

(1)はじめに
 弱視治療に於て,固視の状態を検査する事は治療の方針を決定し,予後を推定する上に大変重要である。最近盛んになつて来たPleopticsでも,固視の状態によりその治療方法も変り,Occulsi-onのみで治療するか,Pleopticsによるか,ともかく治療を始める前に固視状態を良く検査する事はぜひ必要な手続きと考えられる1)2)
 固視状態はその固視点の位置によつて分類される。その診断方法にはVisuscopeやEuthyscopeによるもの,Koordinator3)による検査方法等いろいろあるが,記録する方法としては著者がさきに図譜4)として発表した如く,写真撮影するのが最も良い。写真撮影によれば固視状態の診断と記録が可能であり,甚だ便利である。写真撮影により網膜固視点を決定する方法の要点は,眼底カメラの視野の中心に黒いスポットの指標を置き,このスポットを被検者に固視させながら眼底を撮影する事である。すなわち画面上には固視点に一致して指標像がうつり,云いかえば指標像のうつつている箇所に固視点があるという事になる。この方法はSteiger,Würth5)によつて行われ,その後Burian,Noorden6)7)等によつて種々改良された方法で試みられている。これらは大型眼底力メラを改造して行われたものであるが,われわれは野寄式手持眼底カメラ8)9)を少し改造して試みた。

手術

角膜後面切開の組織的研究(第1報)

著者: 小森睦夫

ページ範囲:P.1939 - P.1941

 角膜の創傷に対する組織学的な研究は古くから多方面より多く行われている。私は今迄出来得なかつた前房水を洩らさずにする角膜後面の切開を行い組織の治癒過程を故佐藤勉教授の御指導により時間的な経過を追て組織学的に研究した。これにより佐藤勉教授の行われた近視,乱視の手術が何故にして角膜の屈折力を変化させ,屈折異常が矯正されるか,又当然起ると考え得る角膜窮が発生し難いかを知り手術効果の基礎となるべき組織の変化を確認出来るものと期待した。
 完成する迄御指導を戴けなかつたのが残念であるがこの機会に第1報を発表する。

乱視に対する角膜間質剔出術について—I.動物実験

著者: 大竹卓一郎

ページ範囲:P.1941 - P.1942

 円錐角膜に始り,近視,乱視へと発展してきた一連の屈折異常眼に対する手術的治療法は,佐藤教授の独創的な手術法であり,白内障手術とともに最も得意としておられた手術である。
 本法も乱視に対する手術法で,教授が外遊から帰られて間もなく御考案なされ,その動物実験を私に命ぜられたのである。この手術法は,従来の諸術式がデスメ氏膜に手術的操作を加え,時にこれを穿孔していたのに反し,デスメ氏膜に手術的操作を加えることなく行い得る角膜手術の一新術式である。

近視に対する角膜表裏両面切開の効果ならびに適応に就いて

著者: 中島章

ページ範囲:P.1943 - P.1945

 佐藤教授が近視に対する角膜表裏両面切開法を発表されてから,既に数年を経過し,2,3の追試も発表される様になつた。又,その効果に就いては,秋山氏の詳細な研究がある。しかし佐藤教授自身もいわれる様に,この手術は熟練を要し,その効果を予めコントロールする事が容易でない等の欠点があつて,決して完全な術式とはいえず,佐藤教授によつて更に新しい,良い術式が探求されつつある現況である。然らば現存の術式は全く実用にならないかというに,私の経験では適応さえ正しければ実用に供し得る手術方法ではないかと考えられる。以下に私が3年間に手術を行い,経過を観察し得た40名,60眼に就いて,専ら臨床的な立場から分析を行い,この手術の実用性を論じてみたいと思う。なお屈折はすべて自覚的検定の結果を用い検影法その他を参考とした。

虹彩離断に対する層間角膜入墨術

著者: 岸田明宜 ,   秦徹郎

ページ範囲:P.1945 - P.1947

I.緒言
 最も多く見られる虹彩離断は,鈍体打撲による外傷性のもので,虹彩出血を伴い,その大部分は,虹彩根部離断である。
 離断の部位は,一定しないが,この部分から入る光線のため,羞明を訴え,良好な視力を得ることが出来ない。

二重周辺虹彩切除について

著者: 今野信子 ,   染谷万喜 ,   富山咲子

ページ範囲:P.1949 - P.1952

1.はじめに
 Diamox等の眼圧降下剤が発見されてから,緑内障に対する虹彩切除の重要性は比較的減じたかのようにみえる。しかしこれらの薬物は緑内障を根本的に治すものではなく急性縁内障に於てはやはり早期に虹彩切除を行うのが最も良い処置ではないかと思う。
 しかし乍ら普通の虹彩切除法で十分な虹彩切除を行おうとすれば,全虹彩切除となり,瞳孔括約筋が切られるから羞明や視力低下等の嫌うべき後貽症を残すことになる。殊に初期の緑内障の場合にこれを起したならば,医師は決して感謝されるものではない。また単一な周辺虹彩切除では,その効果が弱いようである。そこでこれらの欠点を補う為に,これから述べる二重周辺虹彩切除(第1図)を行つたのである。

2,3の眼科手術手技

著者: 中島章 ,   加藤和男

ページ範囲:P.1952 - P.1954

 各種眼疾患に対する手術は,術者の好む所により各々特色ある方法が行われているが,最近我々が考案して実施した結果,利用価値の高いと思われた手術手技の2,3を述べて御参考に供したいと思う。

その他

眼窠付近に発生せる横紋筋肉腫症例

著者: 石倉武雄 ,   戸塚元吉 ,   松本銈太 ,   岡田博允

ページ範囲:P.1955 - P.1958

緒言
 横紋筋肉腫は1946年Stoutが骨賂筋より発生した肉腫を病理組織学的に評述して以来種々検討される様になつたが,当教室に於て眼窩後組織より発生したと思われる横紋筋肉腫の一剖検例を得たので,ここに報告し且文献的考案を行い御批判を希う次第である。

妊娠時母体が風疹に罹患した場合その出生児に現れた眼先天異常の1例について

著者: 紺山和一 ,   秦徹郎

ページ範囲:P.1959 - P.1961

緒言
 妊娠している母親が風疹に罹患した場合その子供に現れる先天異常については多くの統計学的研究がなされているが大体に於てその異常は心臓血管系と中枢神経系との二つに現れると考えられ,主に心臓,脳,眼,耳等に奇型が現れる場合が多いとされている。
 我々は妊娠3カ月目に風疹に罹患した母親から生れた子供について唖と聾とがあり,眼の先天異常と思われる。虹彩前葉の一部欠損と外斜視を伴える一症例に遭遇した。この虹彩前葉の一部欠損はさきに当教室の野寄,神吉両氏が発表されたイリドシシスの所見に酷似しているが,これが本例に於ける如く小児にみられる事は全く稀である。幸にして我々はこの所見を詳しく観察する機会を得たのでここに報告する。

結膜皮様腫3例について

著者: 斎藤尚子 ,   伊藤信義

ページ範囲:P.1963 - P.1966

緒言
 結膜に発生する皮様腫は余り稀な疾患ではなく,既に本邦においても約100例近くの報告がある。
 私も最近角膜輪部皮様腫2例と外皆部附近の球結膜皮様腫の1例を経験し本邦における結膜皮様腫の報告例について検索したので追加報告する。

重複涙点の1例

著者: 上杉妙子

ページ範囲:P.1966 - P.1968

緒言
 涙点及び涙小管過剰の症例は,本邦において,すでに1920年台より友次,藤田らにより報告されて以来,多数の報告例がある。一方,欧米では,それより更に古く1856年のMackenzieの報告に始り,Graefe.Schirmer.Nippel.及びAlex-anderなど,種々の報告があり,1949年には,Seddanが重複涙小管の遺伝関係についての知見を発表している。最近私も重複涙炎の1例を経験したので報告する。

角結膜乾燥症に合併した角膜真菌症の1例について

著者: 紺山和一 ,   秦徹郎

ページ範囲:P.1968 - P.1971

緒言
 最近は,眼感染症に対して種々の抗生物質が用いられ多大の効果を収めているが,ひとり真菌症のみ未だ効果的な薬剤とてなく,重要な感染症として残されている。
 私は,角結膜乾燥症に角膜真菌症を合併した1例を経験し,くわしく経過を追い得たのでこれを報告する。

激しい炎性パンヌスを有するIII期トラコーマの血液像について/著明な角膜上皮剥離を併発した乳児流行性角結膜炎について

著者: 大竹卓一郎

ページ範囲:P.1971 - P.1972

 トラコーマ(以下ト.)の血液像については,すでに幾つかの報告がある。例えば,慢性トラコーマについて,新美氏1)はEosinophilie,Lym-phocytoseを認め,田村2),末吉3)氏等はLym-phocytoseはあるが,Eosinophilieは認めておらない。急性トラコーマについては,中島氏4)等が一定の傾向を認めずと報告している。以上何れも体質学的にみたト.の血液像であるが,特にト.パンヌスと血液像の関係についての調査は見当らない様である。私は花岡鉱山病院に在院中,外来患者を対象として,表題の様な調査を行い得たのでここに発表する。

スポンジボールによる水晶体後嚢破裂例について

著者: 羽出山昭

ページ範囲:P.1975 - P.1977

緒言
 スポンジボールによる眼外傷の報告例は,現在迄多数あるが水晶体損傷例は数少く,現在迄の報告では,水晶体脱臼,白内障,フォシウス輪状溷濁,一過性白内障などである。
 私は,スポンジボールが左眼に当り水晶体後嚢破裂を起して,水晶体質が硝子体腔にはみ出して居る例に遭遇した。この様な症例は本邦には今迄1例の報告もなく,稀有な症例であるのでここに報告する。

コーツ氏病の3例

著者: 岸田明宜 ,   小林フミ子 ,   紺山和一

ページ範囲:P.1977 - P.1981

緒言
 比較的長期にわたり徐々に視力障碍を呈し,失明,眼球摘出後,組織標本により診断確定せる若年者のコーツ氏病1例と併せて短期間にて失明せる2例を経験したので報告いたします。

Supplementary abstracts

ページ範囲:P.1982 - P.1986

ON THE LATE PROF. TSUTOMU SATO'S EYES
 The histological findings of the late Prof. T. Sato's eyes and the course of operations of those two patients who were donated his corneas were described.

追悼の辞

故佐藤勉教授追悼の辞

著者: 小暮行雄

ページ範囲:P.1987 - P.1987

 佐藤博士が井上誠夫博士の後任として順天堂医院眼科に着任されたのは昭和9年の秋で,私が馬詰嘉吉博士の後を享けて同眼科に入つたのは翌昭和10年5月であり,爾来二十有五年間私は佐藤博士の御手伝をして今日に至つた次第であります。
 症時若輩の我々は井上,馬詰の両博士を擁して名声の高かつた順天堂眼科を受け継いで果して守つて行かれるかどうか非常に心配しましたが,恐らく局外者も期待よりは寧ろ危惧の念を以つて迎えた事でしよう。然し佐藤博士は営々として診療に,研究に精魂を傾注されて順天堂眼科をして其の名声を辱かしめる事なく立派に今日の隆盛を招来せしめられました。

故佐藤勉教授追悼号発刊について

著者: 中島章

ページ範囲:P.1994 - P.1994

 今年の初め頃から小暮行雄先生はじめ医局の有志が集つて故佐藤教授の記念行事をやろうじやないか,と相談をして居た。何度か集つて案がまとまり,趣意書を印刷に廻す手配が出来たのが6月初めであつた。計画によると教授在職15年記念と云う事で1961年6月8日の御誕生日迄にすべてを完了してお祝いをする積りであつたが,今年の6月9日に佐藤先生が急に亡くなられた。従つて印刷屋にその日にわたす事になつていた趣意書の印刷その他計画していた事は一応全部御破算になつた。とてもそれ所ではなかつた。
 思い出して見ると,私が佐藤教授にお目に掛つたのは1953年11月で,その頃初まつたばかりのコンタクトレンズの仕事を見に名古屋へ行つた帰りに,順天堂のそれも見て帰る目的であつた。その時は,翌年順天堂に働く様になるとは予想もしていなかつた。翌年佐藤教授の外遊の留守番と云う形で順天堂に奉職する様になり,それから6年余り,間で2年近く留守をしたから,実質4年余りになるであろうか。佐藤教授が外遊をされて,諸外国の状態に接して来られた事は,整備期にあつた順天堂大学全体の整備発展とタイミングが合い,その上に1957年から起つたコンタクトレンズのブームがこれに加わつて,私が勤務に戻つた1958年以降と,その前とで,順天堂大眼科の内容に質的な差が見られる様に思われる位に変化した。此の論文集に納めた業績は2,3を除きすべてが1958年以降に当教室でなされたものである。

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眼科ニユース

ページ範囲:P.1995 - P.1995

バラッケ研究所第3回国際眼科学会
 バラッケ研究所主催第3回国際眼科学会(The ThirdInternational Course in Ophthalmology of the Instituto Barraquer)が次の如く開催される。
 1.期日 1961年5月1日〜5日

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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