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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科14巻4号

1960年04月発行

雑誌目次

日本トラホーム予防協会々誌

トラコーマ集団治療に関する研究—第2報 トラコーマ集団治療に於ける再発及び再燃

著者: 浅水逸郎

ページ範囲:P.13 - P.20

I.緒言
 第1報に於てト治療法とその成績につき若干の問題点に触れたが,本報に於ては屡々問題になる再発・再燃につきその実態を調査した。
 最近の多数のト治療成績は良好であり,更にその遠隔成績に於ても治癒率は高率であるとの報告も尠くない。しかし,著者の特に農村に於ける成績は必ずしも之を肯定し得るものでなく,寧ろ否定的な成績がある。即ち多くの集団治療校に於ては,治療終了後,3ケ月位は未治癒者の治癒に至る傾向が認められるが,此の頃より再発・再燃者が多くなり,6ケ月以後になると或る場合には治療前と差異を認め難い程,此等の症例が増加する。

銀海余滴

長崎の日眼総会の印象(2)

著者: 桐沢長徳

ページ範囲:P.20 - P.20

 今年の総会ではじめて行われた試みは第2会場の新設である。今まで臨床眼科学会では行われていたが日眼としては始めてであつた。第2会揚が離れた建物でなくて同じ建物の中にあつたことはよかつたが,しいて言えば両者の連絡は必ずしもよいとは言えなかつたようである。また,両方の演題の分け方にも多少難があつたようで,「両方聞きたいのだが……」と迷つて居られた教授方も少くないようであつた。殊に学会記事を書く人には辛いようであつたが,これは手分けをして書くより方法がないことであるから論外としても,出来れば両者の区分を単なる病類別(例えば角膜とか網膜とか)でなく日,臨床的なものと実験的なものというように分けてほしかつたように思う。そうすれば一般会衆は大会揚を主とし,特殊な研究者は小会場で心ゆくまで相互に討論し合う,ということにもなり,両者共によかつたのではないかと思われた。殊に2会場に分けた意味は,時間をセーブするのが目的であるから,単に早く終らせる為というよりは,一般会衆には興味あるテーマを集中し,他方特殊な研究者には相互討論を充分にやらせるという機会を与えるのにもよい方法であるように思う。これを両者共,従来のように討論1回の原則でやつた為に,何か物足りないような気もしたが,とにかく今回の試みはこの方法を今後更に取入れる上に大いに有意義でもあり,参考にもなつたことはいうまでもない。

大は小を兼ねるか

著者: 初田博司

ページ範囲:P.832 - P.832

 患者の結膜嚢内に医師が点眼する薬液の量は屡々多きにすぎるきらいがある。試みにマーキユロ,トリパフラビン,フルオレスチン等の色素液を点眼してみると,如何に少量にて十分であるかを知る筈である。軟膏点入も亦同様である。必要量の何倍かをその都度無駄にしているのは感心出来ない。不経済のみならず,色素液で患者の衣服を汚し,軟膏で一時的であるが開瞼困難となるなど,大は小を兼ねることにはならない。

国民皆保険への疑問(1)

著者: 桐沢長徳

ページ範囲:P.887 - P.887

 「国民皆(健康)保険」が日本では最上の国是の如く推進されていて,医師以外の世論は無条件でこれに賛成しているように見える。
 然し,国民皆保険が理想的な医療の内容を伴うものならば誰も異存のあるべき筈はないのであるが,現在のままの皆保険は最低医療の悪平等的な強制であり,かつ医学の進歩を阻害する危険を内蔵している所に何としても黙視しえないものがある。

長崎の日眼総会の印象(1)

著者: 桐沢長徳

ページ範囲:P.906 - P.906

 今年の長崎での日本眼科学会総会は誠に楽しい学会であつた。学会の目的は勿論講演を聞くことにある筈であるが,長崎のように日本の「はじ」に位し,しかも極めて特色のある都会を訪ねる場合は観光の目的も亦その半分を占めていると言つても決して学会に対する冒涜とはいわれないと思う。日本文化の発祥地であり,南蛮文化とエキゾチズムで知られた長崎,また原爆に見舞われた「戦争の殉教者」としての長崎市を思う時,すべての人の胸に憧れと祈りの気持が湧いて来るのは極めて自然のことであろう。
 会場の活水女学院は由緒ある古いミッションスクールで,長崎市中でも最も風光明媚な東山手の「港の見える丘」の上にあり,出入りの船に賑う港の風景が一望の下に見下され,誠に印象的であつた。殊に会期中晴天に恵まれ,西海橋,九十九島,雲仙等の観光も快適に行われたことは誠に幸せで,やはりお蝶夫人の長崎は「ある晴れた日」であることが必要でもあつた。

連載 眼科図譜・62

Albers-Schönberg氏病(大理石骨病)の1例

著者: 山地良一 ,   安藤篤子

ページ範囲:P.819 - P.820

綜説

斜視について(2)

著者: 中川順一

ページ範囲:P.821 - P.832

検査
 斜視の検査は診断,管理,手術につながり非常に重要であります。手術そのものは比較的簡単ですが,大部分の労力は検査に支払われるといつて差支えありません。
 検査項目を一応列挙すると

臨床実験

Albers-Schönberg氏病(大理石骨病)の1例

著者: 山地良一 ,   安藤篤子

ページ範囲:P.833 - P.835

1.はじめに
 Albers-Schönberg氏病は1904年同氏によつて初めて発表された疾患である。本病の主要症状は骨硬化であるが,屡々諸種の眼症状を伴うことが知られている。本病は稀な疾患であつて,現在迄に報告された数は全世界で約130例,我が国では約14例に過ぎない。殊に眼科領域に於ける報告は,私達の調べた範囲内では見当らないようである。
 最近私達は本症の1例を観察する機会を得たので,眼症状を中心に所見を述べて,諸兄の参考に供したいと思う。

眼窩疾患の診断と治療—第1報 眼窩充気多重同時断層レ線撮影について

著者: 神谷貞義 ,   堀内徹也 ,   畠山昭三 ,   阿部圭助 ,   松村敏昭 ,   杉本久仁一 ,   農野正

ページ範囲:P.837 - P.845

緒言
 今日の眼科学に於て,眼窩内疾患の診断及びその治療は最も遅れている領域であるといつても過言ではないと思われる。その原因は,骨壁に囲まれた眼窩内の軟部組織は単純なるレ線撮影によつては伺い知る事が出来ない事と,他の一つは眼窩内の手術は一般の眼窩手術と異り,眼窩骨壁の切除などを伴う複雑且つ危険なもので,簡単に手を下すのに躊躇せざるを得ない実情であつた事に基くものであつたと思われる。
 これに対して我々は第一の原因である眼窩内の診断の不可能であつた点を,眼窩内充気多重同時断層撮影を行う事により解決し,第二の原因である危険視された眼窩内の手術も近年の進歩した麻酔術を併用する事により,容易に且つ何等の危険を伴う事なく行い得るようになつた事から,一応初期の目的とした眼窩疾患の診断及び治療に於て,多少共従来の方法をより一歩前進せしめ得たものと,ささやかな喜びを感ずるものである。

ベーシェット病の臨床経過と其の病理組織所見

著者: 福田順一 ,   川口夫佐子

ページ範囲:P.847 - P.851

I.緒言
 反復する前房蓄膿及鞏膜炎,視神経網膜炎等を主症状として,更に外陰部の潰瘍や皮膚紅斑,リウマチ様疼痛等の諸症状を総括してB氏症候群と呼ばれている事は周知の通りであるが,既に我国でも多数の報告が有るにも拘わらず,病原体や病変の経緯に就いては,明らかでない。B氏は塗抹標本検査により,ビールスに起因すると記載しているが,私は本疾患の摘出眼球について検索する事を得たので,先人諸氏の研究に追加して,其の病理組織学的所見を報告し,本疾患の本体解明に貢献せんとするものである。

網膜剥離眼に於ける眼圧調整機序の様相について—第1篇 眼圧値について

著者: 森寺保之

ページ範囲:P.853 - P.861

緒言
 特発性網膜剥離眼圧値に就いてはGraefeを初めとして種々の報告を見るのであるが,その大勢は従来の成績に拠るが如く眼圧の下降を招来する眼疾患の1つに挙げられている。
 従つてその多くの報告者は本疾患に於ける眼圧は下降すると記載しているが,その下降の成因に就いては必ずしも一致を見ず,或者はこの眼圧下降は本症にとつて第一義的なものであるとし,或者は2次的現象であるとするものもあり,実験剥離眼に於ける成績,或は本症の経過の推移による眼圧の変化等を考慮し,その成因に対する推論は,多岐に亘つている現況である。即ち本症に於て早期に眼圧が下降するとしたものに1867年にGra-efeがあり,後Schnabel (1876)を初めとしてSamelsohn (1882),Kümmel, Löwenstein, B.Hirschfeld, Gallois,江塚,出羽,石川氏等がいずれも眼圧の下降を記載した。

プレドニン油性点眼液の使用経験

著者: 杉浦清治 ,   横山烋子

ページ範囲:P.861 - P.863

 プレドニン油性点眼液(塩野義)を種々なる眼疾患に使用する機会を得たのでその成績について述べる。

色覚異常者の色対比について—定性的解析

著者: 市川宏 ,   谷宏

ページ範囲:P.863 - P.868

緒言
 色覚異常者に色対比があるか否か,あるとすれば如何なる形で存在し,異常者の色認識にどのような働きをもつているかは,色覚異常者の色感を研究する場合常に念頭を離れない問題である。色覚異常者は異常の形に従つてそれぞれ特異な色混同の傾向をもつているが,更に欠陥のある色感に対する感受性の変化によつて惹起される錯覚が加つて,異常者の示す色感は非常に複雑なものとなり,その中に介在するであろう対比の占める部分がどのようなものか容易に覗い得ない。私共は異常者の色感に依存することなく色対比の性格を明らかになし得るような方法を企画,実験して色覚異常者の色感を解明する上に興味ある所見を得たのでここに報告する。

Retinal dysplasiaの1例

著者: 小川一郎 ,   森田之大

ページ範囲:P.868 - P.872

 眼の奇型と脳の奇型が屡々同時に起ることに就ては既に古くからKundrat (1886),Raehlman(1896)等により注目されたところであるが,最近ではKrause (1946)により"Congeital ence-phalo-ophthalmic dysplasia"として報告されている。然し当時はまだ後水晶体増殖症が確認されていなかつたため屡々これと混同されていたものであるが,1950年Reese and Blodiにより先天性発育異常である本症を後水晶体増殖症と区別してretinal dysplasia網膜形成不全症と命名し,文献上から相当例15例を蒐集し自験8例を加えて記載されたのが初めての報告である。其後Mye-rschwickerath (1953),Mac Donald and Daw-son (1954)等により各1例の症例報告があるが,1958年Reese and Straatsmaは更に44例に就て詳細な研究を行い,両眼,中枢神経系及び全身の他の系統を侵し,瀰慢性発育異常を示す完全型と全身異常を伴わず網膜の発育不全のみを示す不完全型に分類している。前者に属するものが17例,後者は27例であつたと述べている。
 私共はLeukokoria白色瞳孔所見にて網膜膠腫を疑われた本症不完全型の1例に遭遇し,その眼球を剖検する機会を得たのでここに簡単に報告する。

皮膚粘膜移行部症候群と眼疾—その3 薬剤過敏症

著者: 小倉重成

ページ範囲:P.872 - P.877

 ペニシリン,サイクリン等の抗生物質,昇汞,沃素その他の薬剤に対する過敏症には屡々遭遇する所であり,その過敏性は一旦獲得した以上半ば不治であり,之等の薬剤の使用をさける以外には方法がないかの如く考えられがちである。ところが之等のアレルギー性疾患には程度の差こそあれ皮膚粘膜移行部症候群(以下皮粘移群と略記)が必発であり,食養の指導によつて之等症候群と過敏症とが平行して治癒に赴き,嘗ての亢原だつた薬剤が不安なく使用可能となる事が珍らしくない。

眼科領域に於けるSinomin(5-Methyl-3-sulfanilamido-isoxazole)使用経験

著者: 丸山光一 ,   今泉桂

ページ範囲:P.877 - P.880

I.緒言
 眼科領域に於いては,従来種々のサルフア剤が抗生物質と並んで各種眼科的疾患の予防・治療に使用されている。最近長時間有効血中濃度を持続する特長のある新サルフア剤が相次いで考案されているが,我々は此の度塩野義製薬より新サルフア剤シノミン注射液の提供を受けたので,眼科領域の各種疾患の予防・治療に試用し次の様な成績を得たので発表する次等である。

フラビタン(FAD)眼軟膏使用経験例

著者: 野崎道雄 ,   平川和夫 ,   本橋昭男

ページ範囲:P.883 - P.887

緒言
 近時広義ビタミンB2の体内代謝に関する研究が盛んになると共に眼組織の新陳代謝に対するビタミンB2の影響に就いての論議も種々行われる様になつた。
 ビタミンB2には狭義のビタミンB2であるリボフラビン(FR)及びその燐酸エステルであるflavin mononucleotide(FMN),flavin adenindinucleotide(FAD)があり,之等3者をフラビンと総称し高等動物体内では夫々の型で存している。さて之等各型の中でFADが最も多く高等動物体内に存在すると言う成績が八木の論文に見られる。又船津の角膜新陳代謝に関する実験的研究によれば上記各型の中FADが角膜酸素消費能を著明に増加させるがFR,FMNでは角膜組織呼吸への影響を殆んど認めないと言う事である。

手術

虹彩嚢腫の新手術法

著者: 佐藤勉 ,   岡田忠義

ページ範囲:P.889 - P.892

 虹彩のチステは多くは手術的に処置する必要が有るのであるが,今日まで良い術式がなかつた。我々は最近の1例にいささか新しい方法を試み,存外良い結果を得たので,ここに報告する事とした。わずか1回の経験を筆にする事は慎しむべきであると思わないではないが,この疾患は比較的稀であり,次回の手術は何時に成るか判らないので,兎も角も発表する。

臨床講義

農村の老人性眼疾患の種々相

著者: 大石省三

ページ範囲:P.895 - P.898

 本学では年々夏休を利用して,学生諸君と私共とが協同で,県下の比較的医療施設の不備な地区を選んで,夏季調査並びに診療に出かけています。今年(昭和34年7月)は豊浦郡豊田町の西市地区を中心に,1週間に亘つて全部落民の健康診断を行いました。私共の調査方法は町役場を中心とした各部落の協力の下に40歳以上の全地区居住者を対象として,内科では高血圧,糖尿病の調査,病理学教室は寄生虫特に肺吸虫の検索,耳鼻科は老人性難聴,眼科は老人性眼疾患について調査を行いました。
 その結果は第1表の如くでありまして,件数で352件,受診者では総数714名中異常のない者390人,残る324人(45%)は少くとも1つ以上の眼疾患を有しているわけで疾病の中,数の上からは高血圧性眼底の201件が最多く,それも明らかにKeith-Wagenerの第Ⅰ型以上の所見を認めたもので内科的にも高血圧と診断されたものであります。従つて,脳卒中が問題になる田舎の老人も時に眼底検査を受ける位の心がまえを持つべきでしよう。次が白内障47件でいずれも老人性白内障と云うわけにはゆきません。中には併発白内障もかなり含まれていて,成熟白内障であるにも拘らず手術を行うことを周囲も本人も拒否しているのもありました。

談話室

インド旅行記(2)

著者: 上野弘

ページ範囲:P.899 - P.906

 12月3日,予定より遅れて,8時前,New Delhi空港を飛びたつた。この日も全くの快晴で,時折,フト前方から現われて,後方へ流れ去る小さな白雲も,吾々の視野をさまたげる程でもない。Indian Airlines Corpo-rationのサービスは,今回も,心持よく,空の旅を楽しませてくれた。離陸程なく,先日訪れたTaj Mahalの近くを通過しつつあるとの放送で,指された方角を探してみたが,遙か上空から見るとインド大陸の広大さの中では,流石のTajの存在も,一点に過ぎない貧弱なものなのであろうか,目にも止らずに過ぎ去つた。遠くDeccanの高原が見え始めると,機の右窓にArabianSeaのマリーン・ブルーが展開して来る。ここに突き出た岬の尖端を占めているBombayの街は,強烈な熱帯の太陽光で,あざやかに浮堀りされて,実に美しい。10時45分,Bombay空港に着陸する。
 空港から市内への連絡バスの中で,隣合わせに坐つていたインドの中年紳士から話しかけられた。何でも,アメリカのさる有名大学で,美術と歴史を修めたと言つていた。学問と趣味とをかねて,アジア諸国を旅行したが,まだ日本だけを知らないので,来年の秋にでも訪問しようと考えているとのことであつた。

第64回日本眼科学会総会をきいて(2)

著者: 杉浦清治

ページ範囲:P.907 - P.911

 外人の招待講演は第2日午後1時から多数の聴衆を集めて行われた。演題は「放射能による白内障発生機転」演者はIowa大学教授Leinfelder氏で,放射線白内障の研究を25年来やつて来られた方だそうで,広瀬会長が原爆の地長崎に特に因んで選ばれた演題と人選であつた由である。
 まず放射線白内障の研究に業績のあつた日本人の名前をあげて講演を始めるあたり仲々如才がない。放射線白内障は毛様体障碍につづいてではなく,水晶体上皮の一次的障碍によつて起る。上皮の中では赤道部が最も感受性が強く,照射された上皮細胞は赤道部に移動しそこで異常増殖を行い異常線維が作られて混濁するが,この混濁は次第に後方へおしやられる。水晶体を部分的に照射するとその部分に白内障が起る。水晶体の全照射を行えば完全白内障を起すだけの線量を部分照射すれば完全白内障は起こらない。非照射部が何等かの機転で完全白内障を予防する。分劃照射は白内障を起しにくい。水晶体上皮の組織培養したものに照射しても,生体と同様な変化vacuole, micronuclei等が現われる。放射線感受性は動物種によつて違う。非感受動物でも上皮の変性は起るが,病的線維が作られないために白内障にならない。中性子による障碍はX線より大きく,分劃照射でも障碍が減らないし,休止期間中に恢復現象がない。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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