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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科14巻5号

1960年05月発行

雑誌目次

日本トラホーム予防協会々誌

トラコーマ集団治療に関する研究—第3報 集団治療に於ける難治性及び抗療性トラコーマについて(前編)

著者: 浅水逸郎

ページ範囲:P.21 - P.25

I.緒言
 第1報に於て著者が施行し,且つ経験したトの抗生物質及び手術療法に関し上記の治療のみによつては治癒し難い症例も多いことを記載した。此の点につき更に若干の成績を追求した。
 即ち抗生物質単独療法に於ては第1報第1〜第4表に見られる如く,抗生物質の1日の点眼回数を増加し,或はその治療期間を延長せしめても,Tr.Ⅱ,Tr.Ⅲは過半数が未治癒であつた。此の様な症例を難治性トと称し,之に更に強力且つ適当な治療(各種抗生物質,収斂剤或は手術療法も含む)を行えば,その相当数が治癒するが(第1表参照)これによつても治癒し難い症例も亦存在すること,或は又,臨床的に治癒と考えられても再発,再燃をくり返し如何にしても遠隔治癒を認めない症例があることは否定出来ない事実である。

銀海余滴

孫弟子からみた河本先生(4)—河本重次郎先生御生誕100年祭にあたりて

著者: 須田経宇

ページ範囲:P.25 - P.25

「御馳走の約束」
 私共の医局に居た頃は,桜の咲く四月の初めには九段富士見町の先生のお宅に医局員を呼んでお宅の有名なコックの洋食を御馳走をして下さることが慣わしになつていました。そのときには勲一等の勲章をみせて頂き,又大正天皇の御大典のとき,荒木寛三郎京大総長が先生よりズッと後に居たよと笑われながら,宮中席次の話をされたものでした。
 或るとき医局で突然先生は私に,先生の御郷里豊岡へ一緒に行こう,そしてその近くの城崎温泉へ行つて一杯飲もう,芸者は僕がおごると御郷里を自慢されながら私に約束されたことがありました。その時は余程御気嫌が良かつたのでしよう。御気嫌が良かつたと云えば,昭和5年の大阪で日眼総会があつたとき,私の父は河本先生から「かき船」を御馳走になつたことがあるそうです。先生は他所で他人におごることはなさらなかつたそうで非常に稀しいことだと帰宅後私に話してくれました。よつぽど御気嫌が良かつたのだろうと思います。

孫弟子からみた河本先生(3)—河本重次郞先生御生誕100年祭にあたりて

著者: 須田経宇

ページ範囲:P.937 - P.937

「先生に叱られたこと」
 もう可成り寒くなつた或る日,先生は眼をギョロつかぜ,クンクンと鼻をならしながら医局へ入つて来られました。そのとき居合せた或る先輩が雑使婦に氷水を持つて来させて先生に差上げたので私共は不審に思いましたが,先生は冬でも好んで氷水を飲まれたのは喘息に良いのだとのことでした。そんな様などんより曇つた或る晩秋の日,額に八の字を寄せられ,医局へ入つて来られ,「くす々々,々々」とどなられました。私は何のことか判らないのでポカンとしていましたら「キミくす々々だ!!」と卓をたたいてどなつて私をにらめつけました。私はビックリして研究室に居た中泉行正さんの所へ飛んで行きましたら,中泉さんはあの大きな体で医局へ走つて入られ,そこにある点眼瓶を河本先生に渡されました。見ていると先生は少し仰向けになられ,大きな鼻口を更に大きくされて,その点眼瓶の先をそれに向けられて点滴されました。あとでその点眼瓶を見ると「河本先生用薬」と容器に墨で大書してありました。先生は「くすり,くすり」と云われていたらしいのですが余りの早口で聞きとれなかつたのでした。その薬とはコカインで,そのときは丁度,喘息の発作が起ろうとしていたときでした。
 河本先生にどなられた序に大西克知,中泉行徳両先生にどなられた話をいたしましよう。私が眼科に入局したときの日眼総会は東大医学部の東講堂であつたのですが,新米の私共は受付と,図表係を仰せつけられました。

綜説

穿孔性鉄片眼外傷の臨床と病理

著者: 牧内正一

ページ範囲:P.921 - P.931

I.緒言
 まことにクラシックな演題を掲げて恐縮にたえないが,ここにもやはり時代の波は,おし寄せている。昨日の知識で,今日の臨床を取り扱うと,既に1日の手遅れが生じる。実際に鉄錆症も含めた,網膜変性疾患の本態,治療に関する研究は,最近生化学的あるいは酵素化学的研究法を導入して,急速な発展をとげておる。唯網膜鉄錆症は,網膜色素変性症等とは相違して,原因が簡明であるために,基礎的な実験研究と臨床とを直結しやすい便利な点がある。そのために,もし治療法等に効果があれば,はつきりそれが認められ,其の結果,ここでおさめた成果を,他の鉄錆症と共通点の多い網膜変性症の治療,予防にも応用出来るものと考える。柳か手前勝手な理論の進め方かも知れないが,これらの点に考慮を払つて,次の諸項目についで述べる考えである。

「新しいトラコーマ診断基準」の実際的使用について

著者: 桐沢長徳

ページ範囲:P.933 - P.937

 昨年6月の東京眼科講習会に於て筆者は「新らしいトラコーマ診断基準について」と題して,新しく出版された「図説トラコーマ診断基準」(金原書店発行)を中心として本問題の解説を行つた。その後,本講習の内容を記事として本誌に載せる約束であつたが,その後の上記書に対する反響を見た上での方がよかろうと考えて今日まで延ばしていた。今回前記の約束を果す意味から,その後の諸氏の意見も加味して本文を綴る次第である。
 定型的なトラコーマが文明国はもとより,日本の大都市から姿を消してからも約10年の年月を経ている。それは一に衛生環境の改良と化学療法の進歩に基くもので,恰も性病,結核,癩のそれと軌を一にしている。

臨床実験

眼部帯状疱疹に合併せる上鞏膜炎の1例

著者: 奥田安世

ページ範囲:P.939 - P.943

緒言
 眼部帯状疱疹は三叉神経第一枝:第二枝支配領域に発生する疾患で,その原因としては,1920年Wilhelm Gruterがヘルペスから採取した材料の家兎角膜内移植に成功して以来,ヘルペスヴィールスによるものであるとされ,その後の諸学者の動物実験により,神経侵襲性を有する一種のヴィールスによる伝染性疾患であることが一般に認められている。
 外傷・感冒・中毒その他の全身疾患に続発し,或いは何等考えられる原因なしに発熱・頭痛が前馳し,或いは突然に一定神経の走行に沿い皮膚に水疱を生じ有痛性の知覚鈍麻・淋巴腺腫脹をおこし,2〜3週間で色素沈着・瘢痕を貽して治癒するものである。

眼淋巴腺型野兎病の1例

著者: 高久功 ,   中村重雄 ,   山田酉之

ページ範囲:P.943 - P.946

 野兎病は,我が国では,関東地方北部及び東北地方の山間部に発生する比較的稀な疾患であるが,その大部分は潰瘍淋巴腺型であつて,眼淋巴腺型は更に稀なものであり,その報告例も少ない。
 私共はこの度,耳下腺炎と誤られて治療開始の遅れて居た眼淋巴腺型野兎病の一例を経験したので,報告する。

先天性ポルフィリン症に伴う眼症状

著者: 早野三郎 ,   松原小一郎

ページ範囲:P.947 - P.950

緒言
 光力学症或は光線過敏症については皮膚科領域で既に数々の報告がある。しかし乍ら,光線過敏症の中でも特異な存在である先天性ポルフィリン症となると極めて稀であり,本邦では僅か数例の報告をみるに過ぎず,更にその眼症状については殆んど記載がない。私共は偶々本症の眼症状を観察し得た機会にその所見を述べておこう。

眼科領域に於けるβ線療法について—(その3)春季カタルについて

著者: 植村恭夫

ページ範囲:P.951 - P.955

緒言
 春季カタルは温暖な気候に発生する両側性再発性の結膜の炎症性疾患であるが,其の原因に就ては,アレルギー性のものと想像されている以外には今日尚不明である。従つて,其の療法に関しては古来より次に述べるが如き幾多の治療法が試みられて来たが,根治せしめる療法はないようである。

白内障治療剤の使用経験—その2 シネラリヤ点眼藥

著者: 浅山亮二 ,   天津学 ,   白紙敏之 ,   上野一也

ページ範囲:P.957 - P.961

緒言
 Cineraria maritimaの浸出液を主成分とするSuccus Cineraria maritima (以後本文中S.C M.と略す)が溷濁水晶体物質の吸収に役立つ事が知られ,本邦では1954年,藤山1)が外傷性白内障に本剤を点眼して溷濁水晶体の吸収促進に効果があるらしいと報告した。以後藤山2)〜3)は症例を逐次追加して,水晶体の前嚢が破砕されている場合であれば,S.C.M.が「白内障の治療薬」として卓効のある事を証明し,確信をもつて報告されるに至つた。その他佐伯5),大島6),秋谷7),宮崎8),鵜川9)等も臨床実験を報告しているが,これらの諸報告を通覧すると,毎常すぐれた効果を発揮するとは限らないにしても,可成りの著効例或は有効例の例数が数えられるのである。
 若し,この.S.C.M.が溷濁水晶体の吸収に効果があるものなれば,本剤を手術後の治療に応用して,残留水晶体質の吸収に,いささかの効果を期待してもよい訳である。この意図によつて,今回当教室は各種白内障の手術後にS.C.M.を点眼し,その効果についての観察を行つたのでその成績をここに発表し,且つ考察を加えた次第である。

1眼に網膜色素変性症,1眼に白点状網膜炎を有する1例

著者: 坪田芊子

ページ範囲:P.963 - P.966

緒言
 網膜色素変性(以下D.P.)にしろ白点状網膜炎(Ra)にしろ,先天異常であつて程度に差はあつても両眼が侵されるのが原則である。然るに,諸検査の結果臨床上,私は最近,一眼に,Ra,一眼にD.P.と思われる症例を観察し得たので,茲に報告すると共に,これ等両疾患の関係について,聊か述べる次第である。

Ureaの眼圧作用について

著者: 三国政吉 ,   岩田和雄 ,   森田之大 ,   田中幹人

ページ範囲:P.969 - P.977

 眼圧と血圧滲透圧との関係についての究明の歴史は既に古くCanntonet (1904)が緑内障治療として高張食塩水や乳糖液を用いたに始まる。その後Duke-Elder,Hertel等の詳細な実験的研究により,高張液の静注により眼圧の下降することが明らかとなり,主として急性緑内障の治療に用いられたことは周知の通りである。然るにAcetazoleamide (Diamox)のような内服による強力な眼圧下降剤が発見されて以来,現在高張溶液の使用は殆んど忘れられたかの状態にある。本法の欠点は効果が不確実な上作用時間の極めて短いことなどである。
 最近Galin et al (1959)はこれらの欠点を克服した理想に近いOsmotic agentとして尿素を紹介し,静注により著明な眼圧下降の得られることを記載している。

デカドロン眼局所使用の経験

著者: 久富潮 ,   川口夫佐子 ,   山田弘 ,   小川昌之 ,   常松美登里子 ,   福田順一 ,   鈴木羊三 ,   柏瀬宗弘 ,   秋元正二

ページ範囲:P.979 - P.982

 副腎皮質ホルモンが,眼科領域に供され,眼科治療に新時代を劃する様になつてから数年を経た。その間,コーチゾン,ハイドロコーチゾンを初め,プレドニソン,プレドニソロン等,多くの副腎皮質ホルモンが製品化され,更にその副作用である体重増加,血圧増加,浮腫等の塩類代謝ホルモンの作用を弱めるべく多くの副腎皮質ステロイドが合成されつつある。最近我-は,メルク万有製薬より,水,体液に対して易溶性のDexamet-hasone-21-Phosphateの溶液であるDexameth-asone Phosphateの提供を受け,いささかの知見を得たのでここに報告する。本剤は無色透明の溶液で1cc中4mgのDexamethasone-21-Phosph-ateを含有し,Predonisoloneより約3000倍,Dexamethasoneより8000倍の溶解度を有するといわれ,水性であるための懸濁液の如き不快感を有することがなく,速効性で,副作用の少ないのが特徴とされている。構造式は次の如くである。
 点眼は本剤を生理的食塩水で20倍に稀釈して使用し,自宅点眼は1日4〜5回行わせた。眼注は本剤を0.2cc用いた。

臨床講義

眼瞼癌腫

著者: 梶浦睦雄

ページ範囲:P.983 - P.989

 眼瞼の癌腫は,他の器官に見られる癌腫よりも早期発見が可能である点,その解剖学的構造等より生命に対する予後は比較的良いものとされている。しかし,腫瘍が増大し,眼瞼の大半,乃至全部の摘除が必要な場合は,機能的にも,美容的にも重大な影響をもたらすので,これが早期発見,早期治療の必要性は,他部の癌腫のそれと較べて決して劣るものではない。
 本日の臨床講義は,眼瞼の癌腫特にその最近の治療法について述べたいと思う。

談話室

アメリカのコンタクトレンズの現況—見聞記(2)

著者: 水谷豊

ページ範囲:P.990 - P.992

7.コンタクトレンズに関する雑誌
 コンタクトレンズに関して,アメカの実状を知ろうと思われる方々のために,現在アメリカで発刊されているコンタクトレンズ関係の月刊雑誌を拾つて見ると,次のようである。
 1.Contacto
The Eye Research Foundation (37, SouthWabash Ave.,Chicago 3, Illinois)からの月刊誌であり,コンタクトレンズだけの原著の収集である点,現在世界で一番しつかりしたコンタクトレンズ専門雑誌である。1957年1月創刊で,本年で第3年目である。

手術

近視眼の水晶体摘出における予防的鞏膜凝固について

著者: 佐藤勉 ,   依田迪子

ページ範囲:P.993 - P.994

 近視眼の水晶体摘出が恐れられる最大の理由は,術後の網膜剥離にある。しかしその対策としては,我々のこれから述べる鞏膜予防凝固術がある。
 網膜剥離の多くは,上方の鋸歯状縁附近に網膜裂孔が生じ,この部分から剥離が始まる。そこで危険の予想される部分に,あらかじめ電気凝固術を行い,網脈絡膜と鞏膜とを瘢痕によつて癒着させておけば,永晶体摘出後にも綱膜剥離の起る危険率は著しく減少するはずである。佐藤は以前に準備手術としての鞏膜切除を推奨した事が有る1)。しかし今は殆んど電気凝固ばかりを行うように成つた。

座談会

第64回日本眼科学会総会を顧みて

著者: 三国政吉 ,   大橋孝平 ,   杉浦清治 ,   中泉行正 ,   桐沢長徳

ページ範囲:P.995 - P.1006

 中泉 皆さん今晩は長崎からお帰りになつて早々でお疲れのところをお集まりいただきまして,まことにありがとうございました。まだ長崎からほやほやのところで,長崎の学会のいろいろの見聞記をお話し願いまして長崎学会の座談会というのをいたしたいと思います。ひとつ何分よろしくお願いいたします。
 桐沢 ことしは第1会場と第2会場に分かれていた関係もあつて,全部講演を通して聞いたという方はまずないわけですね。それだけにお話がばらばらになるかもわかりませんけれども,皆さんのお聞きになつたのが違うから,却つておもしろい点もあると思うのですが,一番先に牧内正一教授の特別講演ですね。それの感想ぐらいから始めましようか。どうです。三国先生ひとつ特別講演の御感想……。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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