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銀海余滴
孫弟子からみた河本先生(3)—河本重次郞先生御生誕100年祭にあたりて
著者: 須田経宇1
所属機関: 1熊大眼科
ページ範囲:P.937 - P.937
文献購入ページに移動もう可成り寒くなつた或る日,先生は眼をギョロつかぜ,クンクンと鼻をならしながら医局へ入つて来られました。そのとき居合せた或る先輩が雑使婦に氷水を持つて来させて先生に差上げたので私共は不審に思いましたが,先生は冬でも好んで氷水を飲まれたのは喘息に良いのだとのことでした。そんな様などんより曇つた或る晩秋の日,額に八の字を寄せられ,医局へ入つて来られ,「くす々々,々々」とどなられました。私は何のことか判らないのでポカンとしていましたら「キミくす々々だ!!」と卓をたたいてどなつて私をにらめつけました。私はビックリして研究室に居た中泉行正さんの所へ飛んで行きましたら,中泉さんはあの大きな体で医局へ走つて入られ,そこにある点眼瓶を河本先生に渡されました。見ていると先生は少し仰向けになられ,大きな鼻口を更に大きくされて,その点眼瓶の先をそれに向けられて点滴されました。あとでその点眼瓶を見ると「河本先生用薬」と容器に墨で大書してありました。先生は「くすり,くすり」と云われていたらしいのですが余りの早口で聞きとれなかつたのでした。その薬とはコカインで,そのときは丁度,喘息の発作が起ろうとしていたときでした。
河本先生にどなられた序に大西克知,中泉行徳両先生にどなられた話をいたしましよう。私が眼科に入局したときの日眼総会は東大医学部の東講堂であつたのですが,新米の私共は受付と,図表係を仰せつけられました。
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