icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科15巻6号

1961年06月発行

雑誌目次

日本トラホーム予防協会会誌

Trachomaの診断基準,分類法(特に潜伏期,初発症候)に対する私見(下)

著者: 金田利平

ページ範囲:P.5 - P.7

病期に対する私見
1.急性トラコーマ(Tr. ac.)
 Tr.とは本誌に記載されてあるTr.Ⅰ,Ⅱ,Ⅲをいうのである。急性Tr,なんかという疾病は地球上にないのだから抹殺すべぎである。急性Tr.なる病名を使用し,存続せしめんとするからTr.問題が益々混乱し複雑怪奇になるのである。
 結膜に著明な充血,浮腫,分泌,乳頭増殖,顆粒を認め,封入体(Prowazek小体)を証明する急性または亜急性の症状を呈する結膜炎をみたら所謂封入体性急性結膜炎とでも診断をつけておくべきであろう。Prowazek小体,封入体というものが厳密な意味に於て純粋分離が出来ていない現在即ち封入体,Prowazek小体というものの本態が完全にわかつていない現在では封入体性結膜炎という診断も純学問的には飛躍であり,軽率であろうが所謂封入体性結膜炎とでもいつておけばよいと私は考えています。

連載 眼科図譜・73

強度近視に伴う黄斑出血

著者: 桐沢長徳 ,   菅原脩二

ページ範囲:P.699 - P.700

〔解説〕
 強度近視の眼底,殊に黄斑に屡々小出血の見られることは周知の如くである。大ていは乳頭大以下の小円盤状のことが多いが,本図のように出血斑の周囲に放射状の突起を有することは比較的珍らしい。このような出血は黄斑部網膜の特殊構造によるもので,Henley氏層と呼ばれる網膜繊維の放射状排列によるものである。即ち放射状繊維に沿つて出血が浸潤したもので,黄斑部に出現する星芒斑の形と相関を有している。
 強度近視の黄斑出血はたとえ吸収されてもそのあとに黒色々素を残すことが多く,従て視力の完全恢復はむずかしい。いわゆるFuchs氏斑(1901)は強度近視の黄斑に生ずる黒点を称するが,その出現に際しては比較的急激な視力低下を伴うといわれている。多くは出血による網膜組織の破壊に基く二次的な色素増殖と見なされる。

綜説

眼組織におけるムコ多糖類研究の現状(1)

著者: 高久功

ページ範囲:P.701 - P.706

 結合組織のもつ最も重要な役割は,細胞環境を絶えず一定に維持することにあり,所謂結合織疾患,膠原病は勿論,老化現象等を解明する上においても,結合織の量質的な変動,或はこれを支配する種々の因子について研究することは,極めて重要な意義を有している。
 形態学或は病理学的領域において,結合織に関する多くの業績があげられているものの,尚多くの未解決の問題がのこされており,殊に生化学的な研究は,漸くその緒についた程度である。この様に化学的研究が遅れた理由としては,従来の生化学は主として細胞の中で営まれる代謝に関心がむけられ,これら結合織では代謝が緩慢であると考えられたこと,又これら組織が取扱い難い性質をもつていること等があげられている3)

座談会

健康保険の現状と将来

著者: 桐沢長徳 ,   河本正一 ,   初田博司 ,   小暮行雄 ,   国友昇 ,   大橋孝平 ,   桑原安治 ,   中泉行正

ページ範囲:P.707 - P.719

 桐沢中泉博士がまだお見えになりませんから,私が司会という形でやらしていただきます。きようはお忙しいところ本当にありがとうございました。ご承知のように健康保険問題というのは,今,日本の医師会あるいは医学界全般を通じて非常に大きな問題で,新聞紙上を最近賑わしている問題でありますが,しかし社会一般の通念からいつて,保険制度というものは,どうしてもなくてはいけないものには違いないのですが,ただ実際に,今の制度そのものが,非常に沢山の欠点を持つているということが問題にされているわけです。しかも,此処には開業医の方もおられますし,病院勤務の方もおられる。それから私立や官立の大学関係の方もおられる。従つて,そういう方々がみんな保険に対して困つておられ,あるいは不満を持つておられるとしてもその中心点は多少ずつ違うと思いますから,そういう問題点をいろいろ具体的に検討していただいて,それからそれに対して将来どんなふうに改善されて行くべきであろうかということの希望,また学会にもいろいろな諮問が出るというようなことも伺つておりますから,そういう場合に,われわれとしてどういうふうな注文を出すべきかということについて御遠慮なく話していただぎたいと思います。つまり,これらの問題について読者の方々と一緒に考えたいというのが,この会の目的だろうと思います。

私の経験

ボゥスイノダイナミックス(2)

著者: ツネカズユゲ

ページ範囲:P.721 - P.732

8.カクサンノボゥスイサンセイニタイスルカンヨ
 ボウスイハ,カクマク,スイショウタイノホカニコウサイオヨビモウヨウタイニヨッテトリマカレテイル。
 コゥサイデハボゥスイハカコゥヲトォシテチョクセツニコウサイノジッシツニセッシ,モウヨウタイデハ,コトニモゥヨゥタイトッキデハ,ジョゥヒノマシタニタクサンノケッカンガブンプシテイテチョウドジンゾゥノシキュウタイガウスイナイヒサイホウヲヘダテテハイセツカンクゥニセッシテイルノトニテイル。シカシシキソジョウヒトケッカントノアイダニハウスイケッゴウシキ(ウサギ)マタハガイキヨウカイマク(ヒト)ガアル(Holmbe—rg13)

臨床実験

慈大式弱視矯正練習器について

著者: 大橋孝平 ,   柏瀬宗弘

ページ範囲:P.735 - P.738

 近年積極的な弱視矯正練習Pleoptics trainingに対して種々の器械が考案使用され,最近独逸フィツシャー商会よりもBangerter式のコレクトール,ロカリザトール結合型練習器が発売され始めた。
 筆者等の所でも,これとは無関係に慈大式弱視矯正練習器を試作し,弱視患者に使用しているが成績がよいのでここに報告紹介しようと思う。

眼科領域におけるPereston"N"—(低分子性P.V.P)の治療成績

著者: 百瀬皓

ページ範囲:P.739 - P.744

 1940年Reppeにより合成されたPolyvinyl-pyrrolidon (PVP)を主剤とする製剤の眼科領域に於ける使用経験はすでに数氏により報告されているが,筆者も最近低分子性PVP製剤の一つであるPereston"N"を使用し,第1表に示す如き疾患ならびに流行性角結膜炎について興味ある結果をえたので,ここに報告し合せて若干の考案を加え諸賢の御参考に資したい。

Taocinの使用経験

著者: 三国政吉 ,   大石正夫 ,   田中幹人 ,   石田一夫 ,   大野普

ページ範囲:P.747 - P.753

 Triacetyloleandomycin (TAOM)はOlean—domycin (OLM)のトリアセチル誘導体で血中濃度の高いこと,有効濃度持続の長いこと,組織及び尿中移行率の高いこと,副作用の少ないことなどの点でOLM, Erythrohmycin (EM), Leuco—mycin (LM)などMacrolides抗生物質のなかでも格段にすぐれた性質をもつものと云われる。
 Taocin錠はこのTAOMの商品名で1錠中にTAOMをOLMとして25mg (力価)含有するものと100mg (力価)含有するものとの2種の製剤がある。

Erythromycin並びにその誘導体に就ての研究

著者: 石田一夫

ページ範囲:P.755 - P.764

緒言
 IlosoneはErythromycin propionate (以下EP)の商品名で1958年E. Lilly研究所のGrif-fith等により発表されたMacrolides抗生物質の一つであるErythromycin (以下EM)のpropion酸esterである。
 本剤は従来のEMが酸により破壊されるために経口投与時吸収量が不安定であつたのに反し,酸に対して安定で,特殊なcoatingなしでも,経口投与によりEMに比し吸収が早く且つ血中濃度も高いとされている。

Sintromによる網膜出血の治療効果

著者: 土屋一

ページ範囲:P.765 - P.772

 3—〔α—(4'—nitrophenyl)—β—acetylethyl〕—4—oxy—cumarin (Sintrom)は臨床薬理効果よりすれば,Cumarin製剤のうち作用持続時間の点で長いものと短いものの中間にあり,網膜疾患に用いた報告は,本邦では松岡他(昭34),鈴木(昭34),三国他(昭35)等がある。
 三国他によれば網膜血栓症にたいする本剤の効果機序には抗凝血作用のほか脱血清コレステロール作用も原因療法として関与するものではなかろうかという。

談話室

Boston便り

著者: 三島済一

ページ範囲:P.774 - P.775

 6月に大陸旅行から帰つてしばらくして7月に例のFluorometerが出来て仕事にかかつたのですが,どうもうまく行かず,しばらく頭が混乱しましたがすぐ仕事の方が忙しくなり,ロンドンを離れる日は近附くし,仕事の方は毎日朝から晩迄やつてもうまくはかどらず困りました。何とか9月中に例数だけそろえて来ました。朝8時に実験を初めて夜10時頃帰る日がずつと続いたので少しへばりましたが,丁度その頃アメリカに来る話がまとまり,実験の合間を見て渡航の手続きやら何やらで結局10月1日lの飛行機にのつたのですが,最後迄仕事が続いたので飛行機にのつた時は一寸ホッとしました。3ケ月間何も考えないで実験だけにうち込んで来た事はあとできつと良い思い出になるかと思つています。
 Massachusetts Eye and Ear Infirmaryで,三人でCorneal Clinicをうけもつて,今度は少しClinicをやる事になりました。又,Retina Foundationでは今又,例のFluorometerをくみ立てる事になつて,角膜のEndothelの透過性をClinicでしらべる事になつています。

印象記 第65回日本眼科学会総会印象記

3.印象記

著者: 徳田久弥

ページ範囲:P.777 - P.778

 4月7日(2日目)。快晴だが,東京の4月に特有の風が強い。2日目午前の焦点は,ERGである。宿題報告の前の年には,同じテーマの演題が目白おしに並んで活況を呈するのが毎年の慣いであるが,今年もその例にもれず,6題のERGについての報告が行われた。座長は来年宿題担当の中島教授(順天大)。 まず,これも来年宿題担当の金沢大から.律動性小波についての報告が2題つづいて行われた。最初の升田氏は家兎における実験結果を報告し,ついで都筑氏が臨床的に応用した結果,視神経炎や網膜中心静脈血.栓症では消失をみないのに,葡萄膜炎や緑内障末期・糖尿病性網膜症では消失するということを報告した。律動性小波の本体は,米山氏の追加によれば尚不明のようだが,網膜血管硬化では存在し,糖尿病ではまだ眼底に変化を起していないときでも消失するという結果については,追加討論が集中し注目を惹いた。真鍋氏等(阪大)は家免を用いての実験で,全身を冷却すると20℃でb波が消失するが,局所冷却でも摘出眼でもそのようなことが起るところから心機能に関係した阻血によるものではないことを結論。つづく志和氏(岩大)の実験的眼圧上昇実験で,眼圧差を大きくするとb波に消失傾向が認められるところから,b波の消失と網膜動脈血流との問に関係を想定した結論と対照的のように思われた。

4.宿題報告

著者: 浦山晃

ページ範囲:P.778 - P.780

 私に課せられた印象記は,宿題報告についてであるが,3月に配布された講演抄録を開いて見たときに,電子顕微鏡関係演題のあまりに多いのに,あつと驚いたのは.恐らく筆者ばかりではあるまい。演題数からいつても,出題校数からいつても,まさに電顕ブームと称すべき今年度の,あまりにも日本的なこの現象は,果してほめられてよいことかどうか。それは別としても,このようなブームの中に迎えた第3日のシンポジウムは,多くの期待と関心を集めたとみえ,さしもの公会堂を満たした聴衆は終りまで席を立つ者もなく,本邦眼科医がいかに新知識の吸収に熱心で勉強家であるかを確かに物語つた。これは世辞や皮肉ではなく,本屋の打明ける所によると,眼科刊行物が他科に比べ,よく売れるという話の,恐らく嘘でないことが如実に窺われたからである。
 超薄切片作成法の進展により,医学方面に急速な応用化がもたらされた電子顕微鏡的研究は,眼科領域では先ずトラコーマビールスの如き病原体の追究に採り上げられ,次いで眼組織の解明にその針路が向けられた。尤も専門の解剖学者等は,逸早く網膜などの徴細構造に就て立派な仕事をなしとげた。併しこれら先人の業績は,純形態学的にはいかに精確なものであつても,ある点では我々を満足せしめ得ないものがある。これは丁度,眼病理に就ても,専門の病理学者の解答が時に我々を納得せしめないものがあるのと同義である。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?