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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科16巻11号

1962年11月発行

雑誌目次

連載 眼科図譜・88

眼瞼外反に対する同種植皮例

著者: 山本冴子 ,   佐々木徹郎

ページ範囲:P.1109 - P.1110

解説
 皮膚の自家移植は広く行われているが,同種移植は双生児以外には絶対に成功しないというのが医学常識となつている。
しかるに,眼瞼においてはこれが臨床的に成功することは珍らしくなく,前掲の写真もその一例である。この場合,否定論者にいわしめれば,それは生着ではなくて移植された皮膚が生体包帯の役目をなし,その下にある皮膚の再生を促がしたに過ぎないという。しかし現在,欠損部を埋めた皮膚(臨床的には生着治癒)が,移植皮膚の生着したものか,創縁から延びたものかを決める決定的な証明はないようである。そのため,本例では上眼瞼に患者自身の皮膚を移植し,下眼瞼に同種移植(実父)を行い,その経過,形態的差異(移植部の段のつき方,萎縮の程度,脱落の有無等)発汗能等を比較観察したが,何等の差異が認められなかつた。(角膜では同種移植が可能であるのみならず,異種移植さえ成功するといわれている。)

綜説

細隙燈顕微鏡による眼部撮影—眼部撮影法,その1

著者: 朝岡力

ページ範囲:P.1111 - P.1118

 眼の撮影は対象が小さい上に,光を感ずる組織であり,また透明な組織が多いために,他の部位に比べて困難で,目的とする所見を常に間違いなく撮影することは仲々困難である。それは特殊な接写(拡大写真)しかも最も難しい接写ともいえる。
 戦後,感光材料,撮影機械が長足の進歩をとげ,また,専門の撮影装置も工夫されて,十数年前ならば熟練者が多くの撮影の中からようやくとらえていたような,微細な所見を,明確に誰でも容易にとれるようになり,大学の教室等では希望する各種の写真が担当医の負担なしに,いつでも得られるようになつている。しかし,特殊な撮影,殊に細隙燈顕微鏡で観察した所見の撮影などに関してはまだまだ再現不能であり,特に細隙光による反帰光線の所見等は撮影に成功していない現状である。

臨床実験

昭和35年度に於ける教室の中心性網膜炎の統計的観察

著者: 神鳥文雄 ,   臼井宗雄

ページ範囲:P.1119 - P.1121

I.緒言
 所謂中心性網膜炎は日常左程稀な疾患ではない。然るに本症の病因に就ての諸家の見解はなお一致を見ず,従つてその治療についても新しい治験が続々と報告され,一定した治療法は確立されていない。かかる現状に於て,本症について種々な統計を行い,過去のそれと比較検討することは無意義ではあるまい。著者はこれによつて本症の最近の傾向を掴もうと試み,治療についても若干の検討を加えてみたので報告する。

唾液腺ホルモンによる老人性白内障の治療(1)

著者: 土屋一

ページ範囲:P.1123 - P.1128

 緒方(章),伊藤(昭19)は唾液腺よりの内分泌物質を電気泳動法により均質な抽出に成功し,このものが家兎血清カルシウム量を低下せしめることを始めて発見し,次いで牛耳下腺体から歯牙組織発育に良好なる影響あるものを抽出し,やはり血清カルシウム量を低下せしめることを認め,この物質をParotinと命名した。
 柳沢(文)(昭30)は氏考案の血清透析性カルシウム定量法〔Mc Lean (1935)の理論値に近似であるという〕によりParotinの血清カルシウム低下作用について実験し,血清透析性カルシウムを測定した方が正確な含有力値が得られると思うと述べ,次いでVitamin Cにおける石灰沈着作用と比較し,Parotinの方がVitamin Cより作用機序が長時間であると思うと述べている。

水晶体過敏性眼内炎の病理組織学的所見

著者: 小川一郎 ,   岩田玲子 ,   関根雄二

ページ範囲:P.1131 - P.1134

I.緒言
 残留水晶体蛋白の吸収によつてアレルギー性眼内炎の起ることのあることについては,Lagran—ge et Lacoste (1910)が始めて注目し,Verh—oeff and Lemonie (1922)が実験的及び臨床的に詳細な研究を行つて水晶体過敏性眼内炎と名付けて以来多くの報告がある。
 白内障手術時硝子体内への水晶体脱臼は稀な合併症であるが,脱臼した水晶体がその儘硝子体中に長く存在すれば,その眼球は後日多くは不幸の転帰をとることが知られている。私共は最近かかる1症例の眼球剖検により水晶体過敏性眼内炎によるものであることを確め得たので以下にその所見を簡単に報告する。

隔日に視野の変動する緑内障の2例—第3報薬剤による視野狭窄の変化

著者: 景山万里子

ページ範囲:P.1135 - P.1141

I.緒言
 前報で一日おきに視野が広くなり,狭くなりする緑内障の原因について検査したところ,眼圧と全身〜眼内血管圧との不均衡によつて,視野の変動する事が判つた。そこで眼圧あるいは血圧を変動させる薬剤を用いて,視野がどのように影響されるか調べてみた。この検査成績より治療法を考案し,狭い日の視野極小になるのを防ぎ,眼圧下降と同時に,視野を拡大させることが出来て,良好な経過を収めているので,これについて述べる。症例の詳細については第1報で述べたので,大略のみ記すと,症例1は32歳女子,症例2は54歳男子,何れも両眼眼圧亢進著明,流出率極小,視野,眼底変化強く,狭隅角で,全身血圧低く,眼圧血圧比が小さい。視力は第1例は右眼正常,左眼0,第2例は右眼50cm手動,左眼0であつた。眼圧は,第1例は左眼手術によつて,右眼は薬剤を用いてほぼ正常となつた。第2例は両眼共手術によつて非常に低くなつた。検査は全て薬剤を48時間以上中止して行つた。

Jet recorderによるERGの記録

著者: 江部充 ,   三上智久

ページ範囲:P.1143 - P.1144

 臨床検査の目的からERGの記録が最近盛んになつてきたが,その記録には脳波計が最も多く利用されており,従つて記録部はペン式オッシログラフによつている。閃光刺激によるERGのa波及びb波はその振幅及び周期からペン式オッシログラフにより大凡その波形を記録することができる。しかしa波及びb波の分裂或いはこれに重畳する速波成分は周期が数msecのものもあり,振幅もまた数μVであるためにペン式オッシログラフでは記録することができない。即ち増幅感度については脳波計で充分であるが,ペン式オッシログラフの周波数特性が極めて狭いためにそのような速い変化に応じ得ないし,また脳波計では紙送り速度が最高6cm/sec.に限定されているため数msec.といわれる潜伏時間の測定を行なうことができない。ブラウン管オッシログラフはこれらの点を総て解決することができるが,記録を行なう場合にはカメラの操作と現象という面倒な過程を経なければならない。
 筆者らは以上の装置とは別にJet recorderがERGのa波及びb波に重畳する速波成分及び潜伏時間をも充分に描記し,直記式であり且つ操作も簡単であることから日常の臨床検査に適した装置であると考え,その特性と実際の記録を示したい。

網膜色素変性症の増悪因子とストレスに就いて

著者: 福永喜代治

ページ範囲:P.1145 - P.1149

I.緒論
 種々のストレスが身体に加わつた場合,その衝撃が間脳に達し,視床下部,下垂体間の内分泌が行なわれ,その分泌物は血行を介して眼に働き種々の眼疾患を発病せしめ,或は既存疾患の病状を悪化させる事が想像出来る。
 網膜色素変性症はその本態が非常に複雑で今日尚究明されない儘になつているが,その病状がストレスの加わる事によって急激に増悪する事も考えられる。著者はストレスの作用によつて網膜色素変性症の病状の悪化したと考えられる2例を報告し,いささかの考按を試みた。

新降圧利尿剤サルトロンSaltronの緑内障に対する効果

著者: 池田一三 ,   阪本善晴

ページ範囲:P.1151 - P.1158

I.緒言
 近年における炭酸脱水素酵素阻害剤の眼科治療界への導入(Becker,1954)は,緑内障治療に一新紀元を画したものである。その先鞭をつけたDiamoxにつづいて,Nirexon,Neptazane,Diurex,Daranideと優秀な製剤が生産され,効果の増大,副作用の軽減をめざして,不断の努力が払われつつある。いまこれらの炭酸脱水素酵素阻害剤の構造式を列挙すると,下図のとおりである。
 いずれも遊離のスルホンアミド基を有し,ことにDi—urexとDaranideは構造式が非常によくにている。たまたま私は第一製薬株式会社より降圧利尿剤Saltron(1.Chlorbenzene−2・4—Disulfonamide)を紹介され,その構造式がDiurex,Daranideに酷似することを知り,

眼感染症に対するKanamycinの効果について

著者: 大石正夫 ,   田中幹人 ,   鈴木繁也

ページ範囲:P.1159 - P.1164

 1955年梅沢等により発見されたKanamycin(以下KM)は多くのグラム陽性,陰性及び抗酸菌に対して強力な抗菌力を有し,臨床的にも諸種感染症に対しすぐれた効果の得られることが報告されている。
 本剤の特長の1つは抗結核剤としSM,INH,PAS等従来の抗結核剤耐性結核菌にも有効で,且つSMアレルギーの症例にも安全に使用されるという点であり,他は近年注目される抗生剤耐性ブドウ球菌(以下ブ菌)感染症に対する応用である。私共は既に眼結核に対し本剤はPASとの2者併用およびThiasin,INN等との3者併用によりすぐれた効果を現わすことを報告したし,又本剤は水に易溶且つ無刺激で安定性の点から点眼水とし又眼軟膏として用いてもみるべき効果の挙げられることを報告した。

第15回臨床眼科学会 研究グループ・ディスカッション

角膜移植

著者: 早野三郎 ,   小林准平 ,   三浦俊一 ,   東郁郎 ,   三村康男 ,   増田義哉 ,   百々隆夫 ,   根来良夫 ,   筒井純 ,   青野平 ,   小暮文雄 ,   三島済一 ,   小田洋太郎 ,   山本覚次 ,   吉岡初穂 ,   羽出山昭 ,   紺山和一 ,   松高三男 ,   桑原安治

ページ範囲:P.1167 - P.1181

 桑原角膜移植は日本の眼科の中で最も発達していないものの一つです。以前に中村康先生等が非常に努力して研究されましたが,依然として白内障緑内障の様に一般的に行なわれる手術に発展しておりません。その主たる原因は眼球の入手難という事でありますが,何とかして此等の問題を克服して角膜移植術を進歩させたいと思い,昨年学会の翌日角膜移植術を研究している同好の士が集まりまして,研究の結果或いは疑問の点等に就て建設的に大いに議論しました。此の会合が甚だ有益でありましたので毎年学会に集る機会を利用して会合を開く事を申し合せました所が,臨床眼科学会にてグループ・デスカッションが設けられ,その中に角膜移植の研究グループが出来ましたので,丁度良い折でありますので昨年の申合せの方々も全部この研究グループに入って頂き,その他に尚角膜移植の研究をされている方々も参加して頂き,今日の会合が出来上った訳であります。今日は充分に時間がありますので御研究に就てお話を願い,それに就て種々御意見を出して頂き度いと存じます。では増田先生から御願い致します。

手術

白内障手術後の合併症として起つた硝子体の角膜後面接着による水泡性角膜炎の1例

著者: 小川一郎

ページ範囲:P.1183 - P.1186

I.緒言
 硝子体の角膜後面接着による角膜浮腫は白内障手術の稀ではあるが,最も重篤な合併症の一つである。一部に限局することもあるが,徐々に増悪して結局全角膜をおかし或は激しい水泡性角膜炎となり,屡々続発緑内障を合併し,完全に行われた白内障全摘出術の結果が失明に終ることがある。
 本症はかなり以前から知られていたらしいのにも拘らず,従来殆んど特別に述べた者はなく,1948年Reeseが始めて記載し,其後Leahey (1951)の詳細な報告をみるのみである。私共は最近本症の1例に遭遇したので以下簡単に報告する。

談話室

学者印象記(4) St. Gallen Kanton-Spital, Bangerter教授

著者: 山地良一

ページ範囲:P.1188 - P.1191

 Amblyopiebehandlungの著者として我が国にもよく知られているA.Bangerter教授は,Zurichから汽車で1時間20分,東へ入つたSt.Gallen州の首都,St.Gallenにある州立病院の眼科医長である。
 眼下にBodenseeを臨むSt.Gallenの町に降りたのは,粉雪の舞う1962年2月28日の午後であつた。既に訪意は伝えてあつたが,Hotelから電話すると,すぐに逢おうという。駅前から路面電車に乗つて5分,Kanton—spitalの前に着く。

To the Editor

著者: 高久功

ページ範囲:P.1193 - P.1194

 どこの病院の当直室もそうだと思うが,片隅の部屋にベッドが並べてあり,灰皿とか週刊誌がころがつている。当直の夜は,特に重症でもない限り,寝つきの悪いベッドの上で不愉快な思いをするのが常である。
 昔,私共が入局した頃は,今のようにテレビも週刊誌もなく,頭を休める便利な方法が全くない頃で,医局員が帰つてしまつたあとは,ひそかに病院前の屋台でコップ酒をひつかけて寝るのが精一杯の気分転換であつた。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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