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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科16巻7号

1962年07月発行

雑誌目次

連載 眼科図譜・84

細隙燈顕微鏡による眼部撮影(1)

著者: 朝岡力

ページ範囲:P.743 - P.744

細隙灯顕微鏡で観察した所見をそのまま撮影することは極めて困難で,多くの装置が発表されてしるが,未だに実用の域に達していない。従来の方法のうち,最も良結果の得られるツアイス細隙灯の附属撮影装置でも,結局は平面光による照明であるため,細隙光で切つた光によつてのみ判定出来る病巣部位(角膜の表層,裏面,前房,水晶体内の部位等)の正確な記録や,反帰光線でのみ認められる所見の撮影などは望み得なかつた。筆者は3年来,細隙光を光源として撮影する方法を考究して,ある程度の成功を得た。その成績は次号に詳述するが,今回はそのうちの一部である,モノクローム写真の数葉を掲載する。(図説明は裏面参照)

綜説

角膜移植術に関する最近の話題

著者: 中島章 ,   加藤和男 ,   羽出山昭 ,   小松伸弥

ページ範囲:P.745 - P.750

I.まえおき
 昨年10月末にワシントンにある国際眼球銀行のDr.J.H.King,Dr.C.E.Iliff及びDr.J.C.McLeanが香港で角膜移植の講習会に出席する途中に来日し,東京眼科集談会主催の講演会を行つた。その席上でDr.Kingによつて角膜移植の概論と,表層角膜移植用の角膜保存法の最新の術式が紹介された。又此の4月には,昨年の臨床眼科学会に紹待されたDr.Pischelの口添えによつて,San FranciscoのDr.Max Fineが来日し,東京眼科集談会で氏の過去20年2,000例余りの角膜移植手術の経験を基にした極めて興味ある特別講演が行われた。
 日本に角膜移植法が制定されてから,既に5年が経過したが,未だ欧米に比べて全体的に見てその普及は未だしの感があり,その原因と考えられる諸原因については別の機会に述べた(中島,1960)。此の遅れを取り戻す為に昨年から角膜移植研究グループが結成され,今年からは文部省綜合研究班(班長桑原安治教授)としてスタートする事になつた事は慶賀の至りであるが,上に述べた二つの講演は,この様な日本での角膜移植術の普及発展に良い刺激剤となつた事は疑いない。この二つの講演は,いずれも順天堂大学で行われ,著者の一人が通訳したが,時間の関係で逐語訳をしなかつたし,出席者も限られていた。

臨床実験

メニエール氏症候群の眼症状,特に左右差について—第3報迷路廻転刺激の眼内動脈血圧に及ぼす影響について

著者: 川畑隼夫

ページ範囲:P.751 - P.754

I.緒言
 私は第2報に於いてメニエール氏症候群(以下メ症と略)の眼内動脈血圧に就いて,健常対照群と比較しながら検討を加えたが,メ症には頭蓋内高血圧に属するものや,左右差の正常範囲を越えるものが多くみられた。然しメ症の症状は発作性に起り,間歇期には特有の症状は現われず,殆んど健常者と変りがない。そのために発作中に最も典型的な変化,特に著明な左右差が現われると考えられているが,発作中の測定は非常に困難であり,第2報の実験も発作とは無関係にすすめたものである。即ち発作前のもの,発作中のもの,発作後のもの,治療に依り軽快しつつあるもの等が混在していた。
 そこで今回は少数例ではあるがメ症と健常者に廻転運動を加えて前庭刺激とし,実験的にメ症の発作時と同様な眩暈発作を起さしめ,眼内動脈血圧の変動を観察した。その結果聊か興味深い成績を得たので茲に報告する。

搏動性眼球突出症に関する最近の知見について—2症例の報告及び輓近の治療上の諸問題

著者: 宇山昌延 ,   錦織劭 ,   今泉桂

ページ範囲:P.755 - P.766

I.緒言
 1813年,Benjamin Traversは搏動性眼球突出症について最初の報告を行い,本症を眼窩内の動静脈瘤(Aneurysma arteriovenosum)に依るものであると説明した。本症の原因として,海綿洞内に於る内頸動脈の破裂を初めて診断したのは,Nelatonであつて,この事実は後に剖検によつて確認された。
 本症に関しては,既に1920年,Sattler1)がHandbuch der gesamten Augenheilkunde第2版に,実に352例の多数例について詳細に集録・検討している。本邦眼科領域に於ても,明治37年,丸尾16)が最初の報告を行い,以後,河本・岡山17),正18)等の詳細な記載に相次いで,最近11年間(昭和25年以降現在迄)に21例の報告を見出す事が出来る。

麦粒腫の発生要因に関する臨床的考察

著者: 須田栄二

ページ範囲:P.769 - P.774

I.緒言
 眼疾患としての麦粒腫は,最もありふれたものの一つであるが,屡々再発し,又体質的な原因を伴つて発生することが知られているが,近年,各種の抗生物質の臨床的応用によつて,起炎菌である葡萄状球菌の耐性が注目されている。此の事は麦粒腫のみならず,一般の化膿性疾患に於いても同様で,此の耐性菌による感染症が重要な問題となつている。
 麦粒腫は患者の受診率が上昇しているとはいえ,種々の抗生物質等のすぐれた薬剤の普及にも拘らず,細菌性急性結膜炎の様に特に,著明に減少しているという印象は受けない。之は果して単に抗生物質耐性菌による感染が増加した為であるかどうか疑問とする所があつたが,今回,青森県立中央病院眼科外来患者について,1957年より1960年に到る4カ年間の麦粒腫の患者について調査し,種々興味ある点を見出したので報告する。

点頭痙攣症について

著者: 石郷岡清 ,   大谷洋子

ページ範囲:P.775 - P.780

I.緒言
 点頭痙攣Spasmus Nutansは,眼振,頭部の振盪,時に斜頸を伴う乳幼児疾患で,従来,主として小児科に於て,神経機能的疾患或は神経症の一つとして取扱われて来た疾患であつて,本邦眼科領域に於ては,未だその報告に接して居ない。我々は本疾患の一例を得,本症は鉱夫眼振等とその基を一にする視性眼振の一つであり,眼科的治療を要する疾患である事を信ずるに至つたので,報告する。

調節機の疲労と脳波

著者: 矢ケ崎薫

ページ範囲:P.783 - P.785

I.まえおき
 近業を持続する事によつて起される調節機の疲労に関する実験的研究は古くから報告されて来たが,その際に調節機の疲労を考えると同時に中枢性疲労をも考慮に入れねばならないと言うのが常であつた。
 この中枢性疲労と言う表現は漠然として居り,近業の持続による視中枢の疲労であるのか,調節中枢の疲労であるのか,更に上級の中枢に於ける疲労を指すのか不明である。

肝性夜盲に対するAdaptinolの効果

著者: 稲用穣四郎

ページ範囲:P.786 - P.789

I.緒言
 肝疾患に夜盲を来すことはBamberger (1885)以来既に諸氏の報告がある。しかしその頻度は比較的少いものとされている4)。私は夜盲を主訴とする肝疾患の一症例に,内科で入院治療の労ら,Adaptinolを投与して経過観察する機会を得たので報告する。

ハリントン視野計と従来のカンピメーターとの成績比較—大橋教授開講15周年記念論文

著者: 武本信年

ページ範囲:P.790 - P.792

I.緒言
 視野測定は視力検査に次ぐ重要な機能検査法であるが,その測定には時として時間がかかり,またかなりの手技を要することが少なくない兎角臨床上無視される嫌いがないとは云えない,ことに社会保険診療ではこの傾向が多い。従来のカンピメーター又は平面視野計には,古くより黒板型,スクーリン型,双眼視野計,河本式暗点計など,多々数々の型式があるがこれ等は多くは相当の時間と熟練を要するので,通常の医師数では,これを総ての症例に応用するのは実際上不可能である。そこでもつと簡便に短時間に視野異常を発見する方法の必要性が痛感されていたところかねてより米国で使用されているハリントン式多元視野検査器(Harrington-Flocks Multiple puttern)が輸入され当教室ではこれを臨床上の数十例に使用する機会を得たのでその黒板型カンピメーターと比較した成績を検討報告する。

眼筋麻痺に対するA.T.P.の使用経験

著者: 河本道次

ページ範囲:P.793 - P.795

I.緒論
 最近筋肉系を初め各種組織の代謝機構上A.T.P.の重要性が組織化学方面より盛んに研究され,更に臨床的には筋萎縮性疾患を初め各種の疾患の治療に応用されている。
 A.T.P.(Adenosine Triphosphate)はFi—She及びLohmann等が筋収縮過程の化学的機序解明の途上に発見した高エネルギー燐酸結合を持つた化合物と云われ,生体内に於いてはその一部は直接筋肉の機械的エネルギー源となる他,筋肉A.T.P.量の不足を補い,脳血流,脳酸素消費量,脳ブドウ糖消費量はいずれも増加する。この様な機序に基いて眼科的には,眼筋麻痺の治療に応用され,その臨床報告も桑原,山浦,久保木松尾,伊藤等の諸氏より発表され,いずれも有効例が多いとされている。然しながら従来眼筋麻痺は予後の良いものが多く,その原因療法の他ヨード剤内服,ビタミンB1,K,ワゴスチグミン注射,ザルブロ注射等色々の治療が施され,好結果を得たとしても,果してこれらのどの薬品が主役を演じたのか臨床的に不明のこともあり,又自然治癒ではないかと思われる症例も少なくないことは,我々臨床家にとり屡々経験する処である。この意味に於いて,著者は眼筋麻痺に対するA.T.P.使用に際し,これらをA.T.P.非使用例と比較対照したならば,その効果,判定が更に明らかにされるであろうと思い,今回18例についての観察結果を報告する次第である。

眼科的侵襲の皮膚毛細血管透過性に及ぼす影響—第2篇白内障手術による皮膚毛細血管透過性の亢進に対するアドレノクロームの効果

著者: 内田幸子

ページ範囲:P.796 - P.797

I.緒言
 白内障手術後において患者の皮膚毛細血管透過性が増加することは,前報1)にのべたとおりであるが,今回は血管強化剤として近時盛に用いられる様になつたアドレノクロームの水溶性誘導体であるAC−17(田辺製薬)により,この透過性の亢進がどのように影響されるかについて,臨床実験を試みたので報告する。

Sinomin-Na眼軟膏の使用経験

著者: 金子良正

ページ範囲:P.798 - P.799

I.緒言
 最近,持続性サルファ剤が数種登場しているがSinomin (5—methyl−3sulfanilamido-isoxazole)のNa塩が合成され,水に易溶性となり,点眼液としての臨床成績が二,三報告されている。今回,私はSinomin-Naで眼軟膏を作成して,各種外眼部疾患に使用してみたので,その成績について報告する次第である。

高血圧の集団検診—その2新降庄剤アミコリンの使用成績

著者: 飯塚哲夫 ,   神足実 ,   常松美登里子 ,   福田順一 ,   大林一雄 ,   鈴木勲夫 ,   小泉元治

ページ範囲:P.800 - P.802

 われわれは先に某会社における高血圧集団検診において,眼底血圧および全身血圧さらに眼底所見の観察を行い,新しい高血圧分類について報告したが,今回はこれらの症例に新しい降圧剤として登場したアミコリンを使用し,全身血圧,眼底血圧および眼底所見等について比較的長期にわたり観察を行うことができ,若干の知見を得たのでここに報告する。

第15回臨床眼科学会 研究グループ・ディスカッション(3)

視力

著者: 坂下勝 ,   三井幸彦 ,   大山信郎 ,   大島祐之 ,   篠田茂 ,   大江謙一 ,   渡辺郁緒 ,   新美勝彦 ,   中尾主一 ,   岡繁宏 ,   松崎浩 ,   野口隆 ,   楢崎嗣郎 ,   松本喬久 ,   吉原正真 ,   高木義博 ,   大石省三

ページ範囲:P.805 - P.817

 大石まず大阪医大の坂下さんから……。

手術

V Syndromeの1例に対する上直筋鼻側移植手術の経験

著者: 南睦男 ,   長町和佳代

ページ範囲:P.818 - P.821

 第1眼位が正位または斜視で,上方視または下方視に際して,斜視角が増加するものを,AまたはV Syndromeと呼ぶのは,比較的耳新らしいことであるが,その手術療法として,Fink,Mi—llerなどによつて始められた。垂直直筋の側方移植を行つて軽快をみた1例を経験したので報告する。

二重瞼矯正手術(広瀬氏法)に就いて

著者: 呉耀南

ページ範囲:P.822 - P.825

I.緒言
 通常美容の目的で行われる二重瞼手術は,たとえ手術そのものに特別の難点はなかつたとしても術後形成された二重瞼の幅や形状等に対する患者の主観的な要求から,往々再手術せざるを得ない場合が生ずる。
 私は先に恩師広瀬教授が,かかる症例に対し,創意の方法で自から執刀されたのを見学し,また自分でも最近1例に手術して,極めて満足すべき結果を得たので,茲に広瀬教授の手術法を紹介し併せて自分の手術経験について述べたいと思う。

談話室

眼科医の将来

著者: 桐沢長徳

ページ範囲:P.826 - P.827

 眼科学に志す医学生が最近減少しつつあるということが,眼科の保険点数の低いことと結びつけて論ぜられることが近来多い。このことはわが国に於ては確かに一面の真理であつて,その証拠には,開業して経済的に恵まれる見込があるという科が,その時代の社会的条件によつて変ると,科の志望者が変動するという事実のあることである。たとえば戦後の混乱期にあつては産婦人科がその後,新治療が多くて,しかも保険制度の少なかつた神経科が,というようなことが見られたようである。
 しかし,志望科の選択が,単に経済的な条件のみで左右されるということは,われわれ戦前派にとつては誠に情ないことで,学問的興味とか,恩師の人格とか,医学的使命感とかによつて志望科を決めた昔がそぞろ懐かしまれる。

学者印象記(1) Bonn大学Muller教授

著者: 山地良一

ページ範囲:P.827 - P.827

 Bonn大学眼科は,Bonnの駅からトロリーバス(Obus)で15分,Venusburgと呼ぶ丘の上にある。4階建て,コの字型の実に堂々たる建物で,日本なら屈指の綜合病院の1つ位は十分ある。主任教授は国際眼科学会の理事でもあるMuller氏で,助教授格のOberarztが岐阜の日眼総会に来たWeigelin教授である。Muller教授は,でかくて握手をすると,グローブを握つているようだ。オーント(und)と大声を出す。左頬に横一文字の決斗の傷痕があり,若き日を偲ばせる。しかし仲々親切でユーモアもある。
 私の作つた試視力表を名刺代りに差し上げたら,真先に双魚視標をみつけて,これは子供用だろうという。試視力表に色彩の段のあるのが珍らしいらしく,しばらく飽かずに眺めていたが,これは色神表か,私には何も見えないが,いつの間に色盲になつたのかと冗談をいう。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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