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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科18巻12号

1964年12月発行

雑誌目次

特集 眼科臨床における診断・治療上の困難例

診断のむずかしい色覚異常と適性検査の方針について

著者: 市川宏

ページ範囲:P.1299 - P.1301

 色覚障害は,色覚の生理を追究する立場から検査する場合と,集団を対象として職業適性の立場から検査を行なう場合とで,同じ色覚障害をあつかいながら検査方法の選択順序から診断の難易まで違つて来るものである。
 網膜色素変性症を例にとつてみよう。初めから病名が判明していて色覚を調べる場合は,視力・視野・光覚などの検査から始まり色盲表,アノマロスコープ,色光によるERG検査などが順次選ばれるのであるが,集団検診で本症に遭遇した場合,かなり症状が進行していても中心色覚が意外に良い状態を保つていることが多いため,まず色覚検査に注意が向けられる結果,普通の先天性赤緑異常にしては幾分理解しにくく,さりとて全色弱とも云いかねるというように非常に診断を迷わせられることがある。勿論眼底を検査すれば納得出来るのだが,集団検診の場合視力が良いとなかなかそうはゆかない。そこで職業適性検査を実施中診断に手こづつた色覚障害例を中心に,私の行なつている適性検査の方針について述べてみようと思う。

結膜下出血の原因

著者: 小原博亨 ,   石原昭子

ページ範囲:P.1303 - P.1305

Ⅰ.緒論
 外傷性結膜下出血は別として,他の原因に基づく所謂,特発性結膜下出血は,結膜下出血そのものの予後の極めて良好な事及び自覚障害の殆んど無い事等の理由により,この結膜下出血と云う一症状の示す重大な意義を探究し,秘められた疾患の早期診断をたぐり出す事を怠つているかの様に考えられる現状である。我々眼科医は我々の出来得る検査を行なつて,また,他科とも協力し,疾患の早期診断を確立してこそ医師としての向上を計り得るものである。従つて,これを阻むものが保険制度にあれば,これは改善されねばならない。尚,病院勤務医は中央検査室,開業医は公立の,或は医師会の検査機関を活用すれば或る程度病気の早期発見が出来る場合がある。私共は結膜下出血の原因を探究する手段として2〜3の検査を行なつたが,診断上困難と興味を感じた2〜3の例を報告したい。

翼状片に対する考え方

著者: 鈴木林一

ページ範囲:P.1307 - P.1308

Ⅰ.はしがき
 翼状片に関しては,その本態が未だ不明であるばかりでなく,その治療法についても古来数多くの試みがなされ,成書その他の文献に於いて枚挙に暇なき程主としてその手術的療法について論じ且つ実施されて来た。その事由は多くの努力にも拘わらずその再発性が極めて旺盛であつて決定的な治癒或いは阻止手段がなく,一般的にみて我々を手こずらしめている対称であることの証査であると思われる。
 その本態については未だ解明されていないが,且つて私はその組織学的検索を行なつたことがあるが,その主な所見としてボーマン氏膜の破壊がその頭部先端に到る迄かなり著明であることを確認している。

翼状片切除後の処置,とくにSr90とコルトン点眼による異変

著者: 小島克 ,   高橋禎二 ,   鈴木稔

ページ範囲:P.1309 - P.1317

 翼状片剔出後の処置とくに発赤,肉芽様腫脹,再発予防等においては,初期剔出の他は,時に仲々厄介なことが多い。
 Sr90が用いられたり,コルトン点眼等も用いられるが私共は,Sr90処置の中に往々変つた症例に会つたのでこれを中心に2〜3考えてみた。

蚕蝕性角膜潰瘍と表層角膜移植

著者: 加藤和男

ページ範囲:P.1319 - P.1322

Ⅰ.まえがき
 蚕蝕性角膜潰瘍は比較的稀な疾患ではあるが,周知の如くその難治性と刺激症状が激しい場合が多いことで眼科医をなやます疾患の一つである。種々の薬物療法,物理的療法,手術的療法にしても適確なものは無く有効例もあれば無効例もあるといつた状態である。諸外国においては,1950年頃より治療的角膜移植の対象の一つとし蚕蝕性角膜潰瘍が挙げられているが,報告例は比較的少い。
 最近,2例4眼の蚕蝕性角膜潰瘍に治療の目的で保存角膜による表層角膜移植を試みた。

全層角膜移植における虹彩前癒着の予防並びに処置

著者: 竹内光彦

ページ範囲:P.1323 - P.1327

Ⅰ.緒言
 角膜移植後の合併症としてしばしばみられるものの一つとして虹彩前癒着があり,Paton (1957)15)は術中に虹彩損傷又は出血を起した場合に発生しやすいと述べ,Fine6)15%,Leahey12)23%,Alberth6〜12%,Doctor5)27%,及Ma—rtin and Smith14)23.7%,の発生率を報じた。
 この合併症は手術手技の熟達によりその発生率を少なくする事が出来るがその発生を予防する事が第一である。不幸発生した場合には出来るだけ障害を少なくして完全な癒着剥離を行なわねばならない。

虹彩のルベオージス(赤染)と外反

著者: 加藤静一 ,   柳沢多加志

ページ範囲:P.1329 - P.1331

Ⅰ.序言
 虹彩の赤染(Rubeosis iridis)とは虹彩前面に細小あるいはやや太い血管が新生してその血管網によつて虹彩表面が赤褐色に見える症状であつて最も多く見られるのは糖尿病性虹彩赤染であるが注意して観察していると糖尿病以外の病変や続発緑内障などの時にも屡々見られるものであつて臨床上重要な所見であると考えねばならない。
 虹彩の外反は通常は葡萄膜外反(Ectropiumuveae)と呼ばれるもので虹彩後面の色素上皮層が瞳孔縁を越えて虹彩の表面に外反し瞳孔縁に黒色輪を作るものであるが,従来何故に葡萄膜外反と呼称するのか私には解し難い所で,むしろ虹彩外反と呼んだ方が分り易いのではないかと思う。この外反にも色々あつて先天性外反,老人性外反,機能性外反(縮瞳の際に起るもの)などが区別されるがここに取上げるのは緑内障などに継発する後天性進行性の外反であつて,従前からこの様な症状は予後不良を示すものとして注目されていたものである。

高齢者の白内障手術の事故

著者: 小口昌美

ページ範囲:P.1333 - P.1334

 白内障手術はその大半が老人性白内障であるから,年令は50〜60〜70才のものが多いのは当然である。比較的稀ではあるが時により80〜90才の患者を手術しなくてはならないことが生じてくる。即ち高齢者の白内障患者の治療についていわわゆる老人性白内障の手術の注意の外にもう一つの準備なり心構えが必要であることを痛感するものである。最近,85才の婦人の老人性白内障を行ない思わぬ困難に遭遇したのでその症例を報告し,そして高齢者(此症例は瘢痕トラコーマを合併していた)の白内障手術に対して反省して見度い。
 この症例は局所の事故であつたが,全身的に事故のおこることが矢張り注意しなくてはならない。それは肺炎全身衰弱等の外に一種の精神病の発作である。以前知人の老婦人の緑内障手術のあと精神病発作のために食事を拒絶し遂に突如死亡せしめた例があつた。高齢者の手術は更に慎重を要することを痛感するものである。

白内障手術後の眼鏡矯正

著者: 梶浦睦雄

ページ範囲:P.1335 - P.1337

 最近白内障の手術は非常な進歩を遂げ,α—Chy—motrypsinの利用と相まつて,殆んどすべて嚢内摘出法で行なわれる様になつた。嚢外摘出に比べて,その術式が難かしい点はあるが,術後の視力改善は数段とまさり,0.2,3の視力を一応手術の適応としている人が多い。
 然しその反面,術後の眼鏡矯正はひどく等閑に附せられ,実際は極めて良い視力であるにも拘らず,視力が出ないばかりか,眼鏡をかける事が困難な例さえ多い。

白内障術後の前房再成異常の2例について

著者: 窪田叔子

ページ範囲:P.1339 - P.1340

 白内障術後の合併症,偶発症は常に我々を非常に悩やますものであるが,中でも前房再成異常は最も不快な合併症の1つである。
 私がここで述べる2つの症例は一種の前房形成異常ではあるが,珍らしい経過をたどつたためにその対策に苦慮し,非常に手こすつた思い出のあるものである。以下症例の概略を述べる。

手こずつた症例

著者: 樋渡正五

ページ範囲:P.1341 - P.1343

 最近は種々の抗生物質や副腎皮質ホルモンが色々と合成され,副作用も少くなつて,以前ならば相当に手こずつたと思われる症例でも頓挫的に病状を変化せしめ得ることも可能となつてきた反面,早期からこれ等の薬剤を使用する関係上,教科書に記載された様な症状がその経過に於いて著しく異つた様相を示す関係もあつて,中々診断に経過に又治療に於いて迷わされることが多い。
 その様な例の中から1,2の症例を記載して読者の参考に供したい。何等かのお役にたてば幸いであり,考え方等についても得る所があれば著者の幸甚とする所である。

網膜色素変性症の併発白内障はどう取扱つたらよいか

著者: 岸本正雄

ページ範囲:P.1345 - P.1347

 極白内障と硝子体混濁は,網膜色素変性症に必発の併発症と云つてよい位である。然も,眼底の変化が相当高度となり,視野が著明に求心性狭小を来した中年層以上の患者で,これらの併発症の頻度,程度共に高度なことが多い。
 後極又は前極白内障は眼底変化の進行したものでは,辛うじて残存している中心視力を遮る。殊に,網膜色素変性症は,元来,光覚が低下しているために,明所でなければ網膜機能が働かないのに,明所では縮瞳のため極白内障による遮光が一層強くなるという悪循環が加わる。そのために網膜色素変性症では,未だ眼底の明視出来る程度の小範囲の極白内障が,視野の狭小と相俟つて,白内障の程度に不相応な中心視力の低下を招来する結果となる。

網膜剥離の裂孔探索に対する三面鏡接着レンズの効用

著者: 松尾治亘

ページ範囲:P.1349 - P.1352

Ⅰ.網膜裂孔をさがす
 網膜剥離の治療に当つて,その予後を左右するものは,いろいろあるが,そのなかで裂孔の発見確認は極めて重要な条件の一つである。網膜剥離は,裂孔を閉鎖して初めて治癒への道をたどることが出来る。
 したがつて,本症をみた場合には,裂孔発見になみなみならぬ努力がはらわれるのである。初診時に,かりに一つの裂孔が発見されたからといつても,それ以外の部分に尚,裂孔や,その準備状態である類嚢胞変性が発見されずに残つているかもしれないのである。又,初診時には硝子体混濁や,強い剥離のために裂孔を見出すことが出来ず,入院安静を保つうちに,眼内の状態が変つて来て,ようやく裂孔を発見出来ることも屡々ある。

術後,緑内障を併発した網膜剥離

著者: 大庭紀雄

ページ範囲:P.1353 - P.1355

 繰返された眼部打撲を誘因とする自発網膜剥離眼に,鞏膜部分層切除短縮術を施行したところ,術後,緑内障を発症し,興味ある経過をたどつた1例を経験したので,報告する。

Tonographyによる緑内障の診断と予後判定法

著者: 神鳥文雄

ページ範囲:P.1357 - P.1365

Ⅰ.Tonographyの歴史
 眼のマッサージにより眼圧が下降する。又,短時間の間隔で眼圧を反覆測定する時,各々の読みは,先の読みよりも低い眼圧を示す。その際の眼圧の下降は,正常眼では緑内障眼よりも著明である。これは,マッサージ圧或は眼圧計の重量による眼圧の一時的上昇に伴ない,増加した眼圧の割合に比例して,房水が眼内から駆出されるが,正常眼では房水の駆出が緑内障眼よりも容易に行なわれるという事実に基づくものである。今,眼圧計を一定時間角膜上に固定して,眼圧値を継時的に記録する時には,眼圧の変化を図式的に求める事が出来る。この事よりMifllerが1949年Elec—tronic tonometerを発表したのを利用して,1950年にGrant1)は眼圧の連続的記録を発案し,この曲線より房水の流出率Facility of outflow及び分時産生量Rate of aqueous outflowの算出を試みた。更に1951年,同氏は,正常眼と緑内障眼とに於いて,これらに相違のある事を量的に示し,ここにTonographyの基礎を確立した。1954年Ballintine2)はこれ迄のものを総括して,Tonographyが早期緑内障の診断・薬物療法の効果判定,いわゆる,低眼圧緑内障の発見,又,対緑内障手術の効果判定等に,極めて有意義なものである事を報告した。

偏頭痛か緑内障か

著者: 森田四郎 ,   鈴木昭久 ,   鳥海しのぶ

ページ範囲:P.1367 - P.1369

 日常診療に従事しながら診断の難しさについてはしばしば悩やまされるが,可能な範囲の検査を実施し,出来るだけ正確な診断を下そうと努力する。しかしそうするのに十分な人員と時間に恵まれていず,設備の点に於いても不足勝ちな場合,徹底した結果が得られないうらみがある。またたとえそれらが可能である場合ですら,真の原因を掴みにくいときがある。特に最近,萄葡膜炎の原因,眼精疲労に対しての原因などその感が深い。嘗つてGordonが萄葡膜炎に関して,"It isunfortunate fact that the ethiology ofuveitis is discovered frequently in theliterature but rarely in patient."という言葉を述べているが,なかなか含みの多い言葉である。さて,本稿でこれから取りあげようとしている診断困難例は,最近しばしば遭遇する眼精疲労と緑内障初期との鑑別である。勿論,眼精疲労は諸種の疾患の症候即ち結果ではあるが,又一方諸種の疾患の原因ともなり得る,まことに掴みどころのない疾患であるが,特に田野辺氏によつて導入された思想からみて,更年期年齢の婦人の緑内障初期のものとの鑑別は困難な場合がある。
 一定の期間,治療をし,観察してはじめて診断の可能な場合もあり,その当初に於いて,予後上特に気をつけなくてはならない緑内障であるだけに人知れぬ悩みを懐く。

牛眼に余の隅角穿刺術

著者: 大橋孝平

ページ範囲:P.1371 - P.1373

Ⅰ.緒言
 牛眼の手術はとに角,てこずるものの一つである。最近3〜4歳幼児の陳旧な牛眼で両眼殆んどが失明に頻しているものの治療を依頼されたが,これが中々のてこずりものである。両眼の角膜は広く混濁して血管新生し,中央は小水疱角膜炎で粗面状,眼圧は30〜40mmHg,既に両眼に虹彩切除,虹彩籍置術,管錐術等が施されてあり,なお且つ眼圧が充く,隅角鏡で診るも,辛じてかなり広汎の周縁前癒着が認められた。しかし,幸なことに瞳孔は未だ後癒着なく円形4mmほどあり,前房も余り浅くなく深すぎもしない。今までは某眼科医を転々としてコーチゾン,縮瞳剤等を指図されていたという。不思議にも,この様な角膜の大きい患者が最近4例も,その手術を依頼して来院したのである。
 そこでこれ等にも表題の如き手術を行なつて非常に良好な結果を得ているので,この手古摺つた例に対する手術を説明しようと思う。

眼内鉄片例について

著者: 須田栄二

ページ範囲:P.1375 - P.1377

 ここに述べるのは,鉄片による角膜の穿孔性外傷を受けた患者が,5ヵ月後に鉄錆症の為に視障を訴えて初めて眼内に鉄片が残留していることを知り,後に鉄片は摘出されたけれども,視機能が殆ど失われた不運な例である。

手こずつた症例

著者: 水川孝

ページ範囲:P.1379 - P.1384

 われわれが日常臨床で手こずる症例といえば(1)診断がつかないで手こずる場合と,(2)診断ははつきりしているのに治療に手こずる場合の二つがある。しかし,前者のうちには診断がつかぬままに全くの対症療法をやつていても経過良好なものもたまにはあるが,そのような症例は案外記憶にものこらず,学問的な意義も少ないことが多い。それにひきかえ,診断がつかないままに進行して対症療法によつても経過不良なもののなかには患者の方から勝手に転医してしまい,学問的に興味があるのに症例として残らないことがある。後者のうちには診断がついたと思つても実際には誤診だという場合があり,またときには適切な治療が時宜をえて行なわれないために治療に手こずらざるをえなくなつたものかもしれない。こう考えていくとなかなか表題に適当と思われる症例は少ない。それらを承知したうえで一,二をひろつてみる。

視交叉蜘網膜炎か?Leber氏病か?

著者: 中村滋

ページ範囲:P.1385 - P.1388

 球後視神経炎の原因に関しては従来非常に多くのものが報告されている。即ち急性及び慢性の各種伝染病,各種脳脊髄疾患,副鼻腔疾患,各種中毒,ビタミン欠乏症,外傷,歯科伝染,アレルギー疾患等であり原因不明のものもまた数多く報告されている。事実我々は球後視神経炎と診断して各種検索を行なつても原因が判明せず治療の方針が決められなくて困惑する場合に屡々遭遇する。私は最近球後視神経炎の患者で原因が不明であり視交叉蜘網膜炎或いはLeber氏病を疑がつて開頭術を行なつた1例を経験したのでこれに就いて述べる。

脳下垂体腫瘍を思わせた眼症状と多彩な神経症状を呈した第3脳室腫瘍の1例

著者: 許斐郁子 ,   生井浩

ページ範囲:P.1389 - P.1394

 脳腫瘍は時に奇異な眼症状や神経症状を呈してその存在を見落させ,或いはその局在を誤らせることがある。私共は鬱血乳頭や各種の視野障害,或いは種々の眼筋麻痺症状を呈した例に遭遇した場合,常に注意して脳腫瘍の存在を見落さないように注意しているのであるが,ここに記載する例は始め脳下垂体腫瘍を疑わせる症状を呈し,最後に高度の精神障害を発して,私共を始めとして神経科医,脳外科医及び精神科医のすべての診断を誤らせた第3脳室脳瘍の1例である。
 いろいろな脳腫瘍の諸症例が,その初期から末期に亘り発現した各種の眼症状を集めてみると,甚だ興味深いものがあるが,何れ多くの症例に就いての私共の経験を取りまとめて発表したいと考えている。

ヒステリーの疑われた垂直眼振の1例

著者: 鈴木宜民 ,   北沢克明

ページ範囲:P.1395 - P.1399

Ⅰ.緒言
 自発性撞突状垂直眼振(spontaneous jerkvertical nystagmus)は,耳科及び神経科的疾患の一症状として見られることは必ずしも稀ではないが,これが後天的疾患の主徴であることは稀であると云われている1)
 我々はOscillopsia2)を主訴として外来を訪れた患者に自発性垂直性眼振を認め,その病因を種々検索する機会を得た。而してその原因に関しては必ずしもこれを確認することは出来なかつたが,垂直眼振は,わが眼科領域には未だ1例の原著報告も無い程19)の極めて珍らしい例であるので,以下その得た成績について述べてみたい。

連載 眼科図譜・102

脈なし病の眼底

著者: 小島克 ,   粟屋忍 ,   新美勝彦 ,   高尾哲郎

ページ範囲:P.1401 - P.1402

解説
 26歳の女で脈がふれずAmaurosis fugaxを訴える。1)視力は初診時はよいが,周辺にMicroaueurysm吻合,新生があり,右には静脈の拡張,細小血管がみられる。2)右に綿花状白斑がでてくる。3)そのうちに瞳孔散大(右→左),一過性に右の実質性混濁,4)白内障も急速に進展する。Angiogramで左総頸動脈の分枝,基始をのぞいて末梢は写らず,右では総頸動脈の分枝から急に細く,末梢はよい。A.thyreo—cerbicalisの分枝から末梢は写らない。両A.Subclaviaは写らない。)(人工血管移植が行われてある)。5)全身状態はよくなっているが6)白内障手術後眼底は浮腫,出血をえて血管白線化,消失し,7)右は乳頭周囲吻合,左は赤道域で花環状吻合を示している。8)初診から約1年でこのような経過を辿った。

境界領域対談

脳神経と眼科

著者: 佐野圭司 ,   鹿野信一

ページ範囲:P.1403 - P.1413

 鹿野「臨床眼科」の読者に対談で,眼科と他の科との境界領域の問題をこれからシリーズ物としてお聞かせして行こうということだそうで,その皮切りに佐野先生と私が引張り出されたわけです。
 頭部のこと,ひいては脳外科のことと眼とは,非常に密接なことが沢山あるのですが,殊に今日はその頭部外傷と視神経の損傷ということ,この問題を先ず最初に取り上げてゆきたいと思います。

原著

パンヌスの成因

著者: 平野潤三

ページ範囲:P.1415 - P.1422

Ⅰ.緒言
 パンヌス(以下P.)の成因については常にトラコーマ(以下Tr.)と関連して論ぜられ,古くは連続説(連続伝播説)と不連続説(輪部特発説)との対立が有名であるが,最近の諸説を拾つてみても,アレルギー説10)16),日光の影響を想定する説13),Trウィルス侵襲に対する防禦機転を説くもの22),或いは重力による血管の垂下を原因と考えるもの29)等があり,更に近時はP.はTr病変それ自身であるという表現も行なわれている21)。しかし何れも確実な実験的根拠を有たなかつたり,またP.の性質の一斑を説明し得ても,よくその全貌を解明していない様に思われる。
 一方,P.には解決を要する様々の問題がある。①P.はどうして出来るか,何のために存在するか。②何故Tr.の初期・盛期でなくて末期・瘢痕期に著しいか。③血管が輪部上縁より侵入し,且つ表在性に留まる理由は何か。④Tr.のP.と諸他のP.とは如何なる関連性があるか。⑤P.の治療の要点,等々である。

グループディスカッション

高血圧症に関する眼科学的研究—第17回日本臨床眼科学会研究

著者: 入野田公穂 ,   松山秀一 ,   高橋茂樹 ,   渥美健三 ,   志和健吉 ,   熊谷茂樹 ,   桑島治三郎 ,   鬼怒川雄久 ,   土屋忠久 ,   村田博 ,   西郷逸郎 ,   三国政吉 ,   木村重男 ,   岩田和雄 ,   早津尚夫 ,   中島章 ,   阿部恒太郎 ,   杉町剛美 ,   金子寛 ,   加藤謙 ,   千種正孝 ,   松林道雄 ,   寺田永 ,   後藤匡 ,   桜井恒良 ,   新美勝彦 ,   松崎芳子 ,   塩井牧子 ,   佐野正純 ,   深見正臣 ,   近藤正彦 ,   宇山昌延 ,   芥川徹 ,   水川孝 ,   東郁郎 ,   湖崎弘 ,   岩本栄子 ,   北川弘子 ,   牧内正一 ,   由利嘉章 ,   中山清 ,   生井浩 ,   富永佳也 ,   高安晃 ,   川畑隼夫 ,   大山美智子 ,   土方文生 ,   新井宏朋 ,   長山浩二 ,   百瀬光子 ,   佐伯譲 ,   村山健一 ,   大磯英雄 ,   三浦寛一 ,   曲直部正夫 ,   原清 ,   松下和夫 ,   板垣洋一 ,   難波竜也 ,   壼井忠彦 ,   木村一雄 ,   安武一雄 ,   大村博 ,   盛直之 ,   宇山昌延

ページ範囲:P.1425 - P.1439

Ⅰ〕「腎性高血圧ラットの眼所見」
 ラットの1側又は両側の腎動脈を結紮して,腎に梗塞を起させることにより高血圧を来した。血圧の経過と眼底所見の詳細については,既に報告済(眼紀13巻12号)である。結紮後,凡そ3週〜1ヵ月で効果が現われ,血圧は150〜200mmHgに達し,その後数ヵ月乃至10ヵ月に亘り持続する。半年位を経て血圧が少しく低下する傾向を示すものもある。血圧の上昇に伴ない,眼底に現われる変化は先ず網膜動脈の狭細と蛇行である。血圧が上昇してから半月ぐらい後に現われる。そして2〜3ヵ月狭細が最も著るしくなり,糸の様に細くなうものもある。更にその狭細した血管に口径不同が著明に伴われる。長い年月をかけると,乳頭周囲から網膜にかけて強い浮腫が現われ,やがて網膜全体に灰白色の混濁が現われてくる。更に乳頭浮腫が強くなると,明らかに欝血乳頭の像を示すものがある。しかし乍ら更に長期に亘ると先に狭細していた動脈の狭窄の程度が少し軽くなり,時には前よりも太くなつて見える,即ち動脈が充実して見えるようなものがある。今回はこれらの病理組織学的所見について述べる。
 標本は血圧が200mmHg前後に凡そ1年間続き中,眼底には網膜動脈の狭窄蛇行が著明で,網膜浮腫並に欝血乳頭を認めた症例のもので、これでは乳頭に瀰漫性の浮腫があり.それが硝子体内に膨隆して眼底所見に相当する所見である。

談話室

オーストラリア,ニュージランドの眼科学会に出席して(その2)

著者: 佐藤邇

ページ範囲:P.1440 - P.1441

南太平洋の旅
 4月に行なわれたAustralia,New Zealandの学会の帰途,タヒチ(Tahiti)諸島へ10日余り参りました。
 タヒチは世界の文明から取り残された島と云われて居ります。その理由は赤道に近い南太平洋の孤島で,ハワイの真南なので,南米からもオーストラリア大陸からも,丁度真んなかになり,航路から外れて居たので,交通が大変不便だつたのでしよう。2年前に飛行場が出来たとは云うものの,私が行つたニュージランドからは週に1回しか飛行機が出ず,8時間もかかります。ホノルルからは週に2度有りますが,6時間乗らねばなりません。それゆえ,観光の客も僅でした。

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臨床眼科 第18巻 総目次・物名索引・人名索引

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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