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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科18巻7号

1964年07月発行

雑誌目次

日本トラホーム予防協会会誌

千葉県におけるトラコーマの最近の実態

著者: 鈴木宜民 ,   窪田靖夫 ,   小沢号

ページ範囲:P.5 - P.9

Ⅰ.緒言
 近年,眼疾患が他科領域の疾患と同様に,医学の進歩,環境特に生活程度の変化等によつて著しく変わつて来ている事は誰しも気付く所である。この事はトラコーマに就いても明らかに感ぜられる点である。私共の外来においても,ここ数年来トラコーマな患者の著明な減少に注目している所であるが,なかんずく定型的なトラコーマを見る機会は極めて稀になり,学生に供覧するにも事欠くようになつて来た。
 しかし,それには大学病院の特殊性が考えられるところから,当然一般の地方病院における実情如何は私共の特に知りたいところである。

連載 眼科図譜・97

牛眼の前房隅角

著者: 清水弘一

ページ範囲:P.793 - P.794

解説
 片眼が牛眼である13歳男児の前房隅角である.Aが患側の右眼,Bが一見正常である左眼であり,左眼の方が程度は軽いが両眼共に同質の隅角の異常が認められる.虹彩根部は強角膜線維柱(Trabeculum)の中央部,ほぼSchlemm氏管に相当する高さに附着し,部分的にはSchwalbe氏線を起始部としていて,いわゆる隅角癒着に似た所見を呈している.また虹彩突起(iris process)の発達が著しく,太い網目状をなして線維柱前面を覆い,その前端はSchwalbe氏線に附着する.虹彩の紋理は不明瞭で,正常眼のように隅角部で陥凹した溝(angle recess)をつくらず,虹彩面と虹彩根部が同一平面をなしている.Descemet氏膜と線維柱との移行部であるSchwalbe氏線は,細い硝子棒のような形と外観で,堤防のように前房内に突出している.
 隅角鏡的に著しい変化を示さない牛眼も少なくはないが,本例では,虹彩根部が前方に附着している(anterior insertion of iris root) ことが牛眼の原因ではないかと考えられる.これは,元来広隅角であったものが癒着したのではなくて,隅角の分離過程が中途で停止した「隅角形成不全」(poor differentiationof the chamber angle1))と解釈されるべきであろう.

臨床実験

Scheie氏緑内障手術後に起つた脈絡膜剥離について

著者: 大石省三 ,   永谷忠 ,   藤津道禧

ページ範囲:P.795 - P.799

Ⅰ.緒言
 Scheie氏の角膜辺縁に沿つて強膜を焼灼しつつ前房隅角部に瘢痕性炉過溝をつくり,虹彩根部切除を行なう緑内障手術の術式は既に1949年に同氏等によつて発表1)された。爾来繰返してその成績が2)3)4)5)報告されているのは周知の如くである。
 我国でも最近諸家の追試成績が報告6)7)8)されて大概この方法が従来の手術法に比して有用であることが認められている。私共は1年前から各種の緑内障特に続発性緑内障に行なつて減圧効果の著しいことを推賞しているのであるが,たまたま術後両眼に著しい脈絡膜剥離を相次いで起した1例,片眼にだけ認めた1例を経験したので,管錐術術後,水晶体全摘後の例に比較して述べてみたい。

Hurler氏病の一非定型例

著者: 丸山光一 ,   内田璞 ,   高橋寛

ページ範囲:P.801 - P.806

Ⅰ.緒言
 本症候群は臨床上稀にみられる疾患であり文献記載も比較的最近の事であり,1917年Hunter,次いで1919年Hurler1)が症例報告を行なつている。以来本症の特異な臨床像が注目される様になり,稀有な疾患ながら次第に文献記載が行なわれる様になつた。本症の成因に関しては従来定説なくlipid代謝異常,glycogen乃至glycoprotein蓄積等の説が唱えられたが,何れもその根拠は薄弱で臆測の域を出なかつた。しかし最近Dorf—man,Lorincz2),Meyer3)等の業績より本症の成因はfibroblast type cellの先天異常によるムコ多糖類の臓器組織への蓄積によると考えられている。本症の定型例はその特異な臨床像より臨床診断は比較的容易であるが,非定型例,軽症例は確定診断が困難であり特殊検査を行なう必要がある。
 著者等は最近両眼視力障害を主訴とする患者を観察し臨床所見より本症が疑われたが,尿中ムコ多糖類検出,白血球原形質に於けるRelily'sbody証明の結果Hurler's syndromの非定型例と診断したので以下に報告する。

姉弟に現われた原発性帯状角膜混濁と膠様滴状角膜変性

著者: 郭漢謀 ,   須田要

ページ範囲:P.807 - P.812

Ⅰ.緒言
 原発性帯状角膜混濁は稀に見られる疾患であるが,更に同一家系に膠様滴状角膜変性を併発したものは,昭和7年清沢氏5)の報告以来未だ見当らない。
 先に著者等の中の郭7)は,一女子に現われた原発性帯状角膜混濁を報告したが,その後須田16)は,患者の弟の1人に生じた膠様滴状角膜変性を観察する機会を得た。かくの如き例の存在することは,これ等の角膜変性の遺伝的関係,ひいてはその成因に対しても有力な示唆を与えるものと考えられるので,以上の2例を一括して報告しようと思う。

農薬ブラストサイジン(ブラエス)による眼障害

著者: 小島宮子

ページ範囲:P.813 - P.823

Ⅰ.緒言
 農薬ブラストサイジンBlasticidinは東大農学部住木教授の指導により,東大農芸化学科抗生物質研究班,東大応用微生物研究所,農林省農技研農薬科等の共同研究によつて発見された抗植物病菌性の新抗生物質で,特に稲の「いもち病」に有効な物質であるが,水田への撒布使用に際して眼に飛入して眼障害を訴える者が少くないので,その障害の本態を知る目的で著者はこれを実験的に研究し,2〜3の知見を得たので次に報告する。

若年糖尿網膜症について

著者: 小島克 ,   新美勝彦 ,   渡辺郁緒

ページ範囲:P.824 - P.846

 一応,30歳代以下の糖尿病について扱つてある。Larsen,小島道夫氏等の所説によれば若壮年型という理である。

先天性Toxoplasmosisの1例

著者: 須田栄二 ,   三上正治

ページ範囲:P.847 - P.850

I.緒言
 歴史的にはToxoplasmaは1908年Nicolleand Manceauxによつて動物から発見されたが人間では1938年Wolfによつて眼病変を来すことが知られ,以来,眼科領域において多数の報告がなされており,我国においても漸く10例を越える報告がある。私共は先天性Toxoplasmosisの1例に遭過したので報告する。

精神盲を疑い脳血管撮影により右後大脳動脈閉塞を認めた1症例について

著者: 近藤真理

ページ範囲:P.851 - P.854

Ⅰ.緒言
 著者は最近視力障害の原因と思われる眼科的所見が発見出来ず,精神盲を疑い,脳血管撮影により右後大脳動脈閉塞を認めた1症例を経験したのでここに報告する。

ABOBとステロイド剤との混合点眼液の流行性角結膜炎に対する効果

著者: 室本亀吉

ページ範囲:P.855 - P.858

Ⅰ.緒言
 近来蔓延しつつある流行性角結膜炎は,症状の激しいこと,伝染性の極めて強いこと,角膜合併症を起し易いこ,的確有効な治療法がなかつたこと等により,眼科領域では問題の多い疾患である。
 その病源体については,大部分はAdenovirus8型によることが殆ど確定されたが,その治療に関しては,他の多くのウイルス性疾患と同様,各種の抗生物質,サルファ剤によつても大なる効果を挙げ得ず,角膜合併症の発生に対しても,ステロイド剤の使用によつて幾分軽減し得る程度に過ぎない。

ERGに対するVerina (Nylidrin)の効果

著者: 真田知彰 ,   久保敏雄

ページ範囲:P.861 - P.864

Ⅰ.緒言
 血管拡張剤がERG,特にb波の振巾を増加せしめる事は1951年Henkesに依つて発表されて以来,幾多の研究者に依つて実証されて来た。Verina即ちNylidrin hydrochloride (1—p—hydroxyphenyl)−2—(1'—methyl−3'—phenylprox—ylamino)−1—propanol hydrochloride),(Arli—din hydrochloride)は1950年Kulz & Sch—neiderに依つて合成され,著しい血管拡張作用を有し,末梢筋肉部分の血液循環量を増大する作用があるとして知られ,臨床的にも用いられて来た。併し,本剤が末梢血管の循環血量を増大するのみならず,脳血管にも同様作用があると示唆したのは,JacobsonとBasarで,1956年,正常人間のERGを検査し,b波の振巾が増大する事よりNylidrine hydrochlorideの再認識を提唱した。
 此の度,我々は特に試製されたNylidrine hy—drochloride注射液(1ml.,5mg)を象兎に用いてERGを検査した結果,知見を得たので茲に報告する。

眼科領域におけるVerinaの使用経験

著者: 清水金郎 ,   真田知彰 ,   久保敏雄 ,   遠藤成美 ,   西村紘子 ,   浅谷浩正

ページ範囲:P.865 - P.868

Ⅰ.緒言
 元来,眼科領域においでは循環障害に因る疾患は比較的多く,従つてVasodilatorとして各種血管拡張剤が数多く用いられて来た。
 Verina (Nylidrin hydrochloride)は1950年Kulz及びSchneider1)に依つて合成されたAd—renaline誘導体であつて著しい血管拡張作用があり,そして又,主に末梢筋肉部の循環血量を増加せしめる効果がある。本剤はレイノー氏病,血栓性静脈炎等の身体末梢血管の循環障害に用いられて来たが,1956年Jacobson及びBasar2)がVerinaを内服せしめた正常人のERG所見より,本剤が脳血管を拡張させ,その流血量を増大させる事を示唆して以来,Verinaの薬効が再認識される様になつた。今回我々は,本剤を使用する機会を得たのでその結果について報告する。

眼科領域におけるバランスの使用経験例について

著者: 冨岡瑞子

ページ範囲:P.871 - P.877

1.緒言
 最近当眼科を訪れる患者のうち一連の精神神経的症状即ち頭痛・眼痛・霧視・頭重感・眼精疲労・嘔気・肩凝り等の症状を単独に或いはこれ等症状の組合せを主訴として来院するものが多い。この様な症状を訴える患者に於て視力・視野・近点眼圧,検眼鏡的眼底所見等に変化を認めるものは云う迄もなく,殆んど変化を認めないものに対しても電気眼圧計により,C値及びF値を測定してみると異常値を示すものが多い事に気付いた。さて房水の産生と流出に不均衡の生ずる原因の一つとして神経支配特に自律神経系の何等かの障害が考えられ又眼圧上昇の誘因の大なるものとして精神的激動があげられている。故に自律神経遮断剤又は精神安定剤を使用する事に依つてこの不均衡の状態が如何なる態度をとるかに興味を持ち更に上記の諸症状が軽減されるのではないかと考え,今回少数例ではあるが上記諸症状を主訴として来た患者に精神安定剤バランス(山之内製薬)を使用しそれ等の関係を観察したのでここに報告する。
 この薬剤はSternbach及びReederにより合成され化学名は7—chloro−2 methyl-amino−5—phenil 3H・1・4・benzodiazepine・4・oxideでありメプロバメートの誘導体でもなく,フエノチアジン系誘導体でもない。化学構造式は前記の如くである。

眼疾患におけるATPの使用経験について

著者: 大岡良子 ,   石田妙子

ページ範囲:P.879 - P.886

Ⅰ.緒言
 ATP (Adenosine triphosphate)が1928年Lohmannにより筋肉の収縮過程の化学的機序解明の途上に発見されて以来,初期のATPへの認識は主として筋収縮機序におけるエネルギー授受に関するものであつたが,その後多くの研究者によつて,ATPの生体内に於ける広範囲な役割がはつきりしてきた。
 即ち生体内の機能は主として高エネルギー燐酸結合のエネルギーによつて使われており,ATPはその代表的存在で生体に広く分布して筋収縮の機械的仕事の他,血管拡張作用,降圧作用,脳代謝機能の賦活作用等がある。

第17回日本臨床眼科学会 研究グループ・ディスカッション(3)

眼底血圧測定法

著者: 中島章 ,   入野田公穂 ,   宮下忠男 ,   岡本孝夫 ,   三国政吉 ,   早津尚夫 ,   岩田和雄 ,   中山清 ,   桐沢長徳 ,   土屋忠久 ,   安武一雄 ,   金子寛 ,   杉町剛美 ,   深見正臣 ,   近藤正彦 ,   松下和夫 ,   曲直部正夫 ,   高安晃 ,   川畑隼夫 ,   大山美智子 ,   村田博 ,   西郷逸郎 ,   壺井忠彦

ページ範囲:P.891 - P.892

 眼底血圧に関するグループディスカツションは,1963年11月9日午前9時から11時の間順天堂大学5号館3階講堂で行なわれた。参加者は約50名,引き続いて11時より高血圧眼底のグループディスカツションが,入野田教授の司会で同じ会場で午後5時迄続けられた。
 眼底血圧に関する討議は,宮下(慶大)早津(新大)両氏の報告,及び山森氏(東京)の追加討論及び氏の眼底血圧計をめぐる討論を中心として,主に方法の検討に話題がしぼられた。

研究グループ・ディスカッション(4)

近視発生論をめぐつて

著者: 大塚任 ,   片野隆生 ,   浜野光 ,   中林正雄 ,   本多一郎 ,   長南常男 ,   佐藤邇 ,   秋山晃一郎 ,   堀正剛 ,   大村博 ,   高野良雄 ,   所敬 ,   加部精一 ,   山地良一 ,   吉原正道 ,   吉田効男 ,   咲山旭 ,   石川光一郎 ,   大石省三 ,   村田順子

ページ範囲:P.893 - P.897

 11月9日(土)午後1時より,司会大塚教授の下に東京医科歯科大学に於て,研究グループ・ディスカッション「近視発生論をめぐって」が開催された。出題数11題,出席者は六十数名に及び,討論も活発で丁度午後6時迄かかつて終了した。以下その大要を記する。

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眼科ニュース

ページ範囲:P.899 - P.899

人事消息
 ○福田雅俊氏(東大講師)鹿野信一助教授が教授昇任に伴ない助教授に就任。
 ○水野勝義氏(名古屋市大助教授)5月1日付,名古屋市大教授に就任。

印象記 第68回日本眼科学会総会印象記

3.豪華にして快適な学会(第1日,第2会場にて)

著者: 大島祐之

ページ範囲:P.901 - P.902

 最近の眼科学会は2会場制が慣例のようになつていたが,いままでの第2会場はとかく虐待されていた感がないでもなかつた。ところが今年の日眼総会の第2会場は,第1会場とくらべてその設備には全く遜色なく,少しは狭いとはいつても600人近くを収容する席が用意され,途中で入ると立ち通しで聴かねばならないというようなことは一度もなく,2会場制も完全に軌道に乗つたという感がした。第1日は,上野山氏(和医大)の講演で開始された。眼球運動を2次元的に描記するベクトルEOGにより,眼筋麻痺,眼瞼下垂の検査結果が報告されたが,回復期にみられる特異な動揺をとらえた事などが注目された。をお,東大,丸尾氏が発言して訊したごとく,EOGは眼筋が麻痺しているかどうかを決定するには有効な手段であるけれども,麻痺の性質,つまり中枢性だとか末梢性だとかいう判定には,筋に電極を直接刺入して行なうEMGによらねばならない。つづいて大岡氏他(東邦大)は,内眼角と外眼角に電極をおいて測定したImpedanceの変化を分折して眼筋の運動量を求める方法により,眼に円運動をさせたときの記録をとり,そこに現われたものは,眼球運動のみではなく眼瞼運動その他との綜合結果なりと結論した。

4.終始円滑に進行(第2日,第1会場にて)

著者: 杉浦清治

ページ範囲:P.903 - P.905

 総会第2日の第1会場では角膜(16題),眼圧,房水,緑内障(8題)に関する講演が行なわれた。今年は角膜に関する研究発表がこのように多かったが,これは角膜移植に関連して関心が向けられていることにもよるが,角膜という組織はもともとそれだけの面白さを持っているのである。阪大が全演題6題をすべてここに投入しているのが印象的であった。
 午前の講演はまず杉浦ら(東大)の角膜に関する発表から行なわれた。従来の研究では三叉神経第1枝を切断しても保護しておけば角膜には何ら特異的な形態変化はみられないとされていたが,実は多角形細胞が円くなり,その周りに隙間ができている,これは角膜上皮の分葉構造をばらばらに解体させている変化であって点状上皮剥離の傾向はこれによつて説明できるというのである。神経麻痺性角膜炎は古くからの難問であるが,どうやらこれを解くいとぐちの1つを見付け得たような気がする。瀬川氏(信大)は人及び猿眼につきは同種の細胞と思われる電顕所見を追加した。浅山氏(山口大)はIDUを作用させた時のウイルスの変化を電顕にて観察し,ウイルス増殖の抑制を示す変形粒子が核内及び細胞質内に存在する写真を示した。IDU療法が実用化された現在身近かなものとしてきいた人が多いであろう。

5.会長へ感謝(第2日,第2会場にて)

著者: 小島克

ページ範囲:P.905 - P.908

 網膜組織を針でとり組織片をみるという試みは,竹村敏治氏(東京)がウサギで行なわれた。刺し傷,網膜の損傷はさることながら,ヒトに用いるという段階になると限界があると思われる。このような場合にも硝子体迄になると危険が伴うと諸氏の追加があつた。
 ヒト胎児網膜中心血管の発生発育について4ヵ月胎で,硝子体動脈から中心血管が発生し,7ヵ月で中心動脈と中心静脈は視東内を回行し視束外にでるし,毛細血管網は5月で後極部附近から形成し初めると三島恵一郎氏(長大)の発表があつた。Kuwabara, Coganの消化標本はきわめて美しい。Francoisの視神経の中心動脈の存在は近来,否定する人も多いがこの点も今後お示し下さればと思う。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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