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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科19巻2号

1965年02月発行

雑誌目次

特集 第18回日本臨床眼科学会講演集 (その1) 学会講演

緑膿菌による角膜膿瘍の5例

著者: 田村茂博 ,   小谷幸雄

ページ範囲:P.107 - P.111

I.緒言
 緑膿菌による眼感染症は近年抗生物質療法の普及と共に,菌交代症として重要な感染症をおこすようになつた1)。又フルオレスチン溶液を汚染する菌として知られている1)2)。今回某地某医により角膜異物除去後に続発した緑膿菌による角膜膿瘍5例を経験したのを機に症例報告と緑膿菌に対する2〜3の実験を試みた。

眼科領域におけるリンコマイシン・テトラリザールの応用

著者: 小室敏 ,   佐々木一之 ,   葉田野博 ,   萱場忠一郎 ,   池田米繁 ,   飯島享

ページ範囲:P.113 - P.121

緒言
 抗生物質療法の進歩は刮目すべきものがあり,次々と新しい抗生剤が感染症治療界に登場したが,ここ数年間その新規開発は,稍々行き詰りの感さえ見受けられる状態である。然るに,最近,米国においてLincocin (以下LCMと略)が発見され,又伊太利では,Tetracycline (以下Tcと略)の誘導体Tetracycline-L—methylenelysine (以下ML-Tcと略)が合成され,治療界に新たな話題を投げかけている。
 LCMは,1963年Streptomyces lincolnesisvar. lincolnesis nov. sp. varより作られた新しい抗生物質で,その特徴は,毒性が少く,結晶,水溶液においても,また,酸,アルカリに対しても,極めて安定で,主として,Gram陽性菌には強い抗菌力を示し,既知の抗生物質Eryt—hromycin,Penicillin,Streptomycin,Chlora—mphenicol,Novobiocin,Oleandomycin,Bac—itrain,Neomycin,Polymyxin,Tetracyclineと交叉耐性を示さないと言われている。

涙小管断裂の縫合法

著者: 深道義尚 ,   篠塚清志 ,   浜田陽子 ,   庄司準

ページ範囲:P.123 - P.124

 眼瞼の裂傷に際し,特に内眼角部の裂傷において,涙小管の断裂は日常しばしば経験されることである。このような症例に対し,従来は一次的に皮膚縫合が行われ,その導涙機能に関する考慮が殆んど払われていないことが多かつた。昨年私達は本学会において,涙小管断裂の陳旧例に対し,テトロン製の人工血管を使用して,結膜嚢から鼻腔迄の間に人工的な涙道を形成する方法を発表した。この方法は,断端縫合の不可能な症例にはよい方法であるが,縫合が完全に行えるならばその方が導涙機能の上からもより自然であることは今更論ずる迄もないことである。
 今回私達は過去6カ月の間に,涙小管断裂の陳旧例1例と,新鮮な症例5例を経験し,そのすべてに断端を発見することが出来,両断端の縫合を行つた。縫合後の経過は良好であり,2〜3工夫を必要とする点も考えられるので,以下その断端発見法と,縫合法につき論じてみたい。

新案の固定式角板について

著者: 春田長三郎 ,   足立多恵子 ,   川口茂登

ページ範囲:P.125 - P.126

I.緒言
 眼瞼の手術には角板を使用することが多いが,角板は使用に際しては,必ずこれを片手で保持しなければならない。しかしこれが案外厄介なもので,特に単独で手術を行う場合などは勿論であるが,助手がいても,絶えず角板から手を離せない為,折角の助手の手が角板保持という極めて単純な仕事に取られて,手術操作全体の立場から考えると相当な損失である。
 そこで,角板をその場所に固定し,滑り落ちない工夫を試みた。この考按によつて,単独手術の際は勿論,助手介助のある時でも,助手の手をもっと高次の手術操作に参加させることが可能になる。

簡易な電気眼窩内圧測定器について

著者: 石川明 ,   飯野四郎

ページ範囲:P.127 - P.128

I.緒言
 従来眼窩圧測定には眼球の位置そのものを読む方法即ち絶対値を測定する方法と眼球の後退度を読む方法即ち比較値を測定する方法とがある。私共は眼球の後退に要する外部の圧力を,ポテンショメーターに接続し自由な位置で眼球の抵抗を電気的に測定する方法を考えたのでここに報告する。

Orbital Venographyによる眼窩腫瘤の診断の試み

著者: 百瀬皓 ,   井上潤一

ページ範囲:P.131 - P.135

I.緒言
 眼窩及びその周囲組織の病変,殊に眼窩腫瘍を早期に的確に診断することは,時として容易なこともあるが亦種々の検査法を行なうにもかかわらず,極めて困難を感ずることも少なくない。
 我々はかつてこの診断の一助として充気多層断層撮影を行なうことを提称したことがあるが,今回はOrbital Venographyについて報告したい。

網膜静脈血栓症の全身合併症について

著者: 三国政吉 ,   木村重男 ,   大野恭信

ページ範囲:P.137 - P.144

I.緒言
 網膜出血はいろいろな形でいろいろの全身疾患に際して現われるものであるが,私共の日常しばしば見るものは網膜静脈血栓症の形のものである。
 本症もいろいろの原因で起るけれども,日常最も多いものは高血圧,動脈硬化によるものである。本症は高血圧,動脈硬化による血管障害,特に脳血管障害とは同じ脳血管の分枝に起る点で関連性があつて興味がある。

血管再建術を施行せる脈無し病の2例

著者: 清水丈外 ,   谷口守男 ,   湯浅浩

ページ範囲:P.147 - P.150

I.緒言
 脈無し病に就いては1908年第12回日本眼科学会において,高安右人1)氏により"奇異ナル網膜中心血管の変化の1例"として報告されて以来,高安氏病と呼称されている。本症に脈を触れない事を最初に観察したのは大西克知2)氏で,この事を高安氏に追加している。ついで1948年清水,佐野3)両氏は6例の症例を詳細に研究し,又それまでの報告例をも分折総合して,この疾患を一つのClinicopathological Entityとして確立し,脈無し病と命名され,病変が大動脈弓分枝に特異的に限局していることが強調されている。その後那須4)氏等によつて大動脈弓より分枝する幹動脈のみならず中枢動脈系にも広範に存在することが指摘された。脈無し病の病因に就ては,すでに多くの説があげられているが,未だ確立された説はみられない。脈無し病に対しては,内科的治療よりも外科的治療に期待すべきものが多いようであるが,外科的治療としては,血栓内膜別除術,交感神経摘出術,頸動脈体除去術等があるが,近年De Bakey5)氏らは上行大動脈と鎖骨下動脈間にcrimped tubeをBypass移植し注目を集めた。本邦に於ても木本6),古賀7),稲田8)氏等に,脈無し病に対するBypass移植法の経験例をみる。私共も脈無し病の二例にテトロンによるBypass移植及びpatch移植法を行ない血行の改善をみたので報告する。

Behcet氏病眼底知見(抄録)

著者: 氏原弘

ページ範囲:P.151 - P.152

 約4年間に22例のBehçet氏病患者を観察し,その眼底所見を整理し,次の知見を得た。
 1.乳頭或いはこれに接する後極部に現われる限局性で屡々出血を伴う強い浸潤がBehçet氏病眼底変化の基本型と云える。これは毛細管炎に基くArthus現象によるものと思われる。

重症なる経過をとつたNeuro-Behçet's Syndromeについて

著者: 木村毅 ,   工藤高道 ,   富沢愛士 ,   小熊勇 ,   針生敬三 ,   鷹嘴研一

ページ範囲:P.153 - P.158

I.緒言
 神経症状を伴なつたBehçet氏病は,1954年にCavaraが,Neuro-Behçet's Syndromeとして報告し,それ以来内外文献に見られるところである。今回我々は,眼,皮膚,粘膜症状からみて,Behçet氏病であり,その経過中運動,歩行及び言語障害,病的反射出現等の神経症状を合併し,しかも重篤な経過をたどつた症例3例を経験したので,ここに報告する。

老人における糖尿病性白内障

著者: 古味敏彦 ,   竹谷正 ,   大塚弘子 ,   下出喜久子

ページ範囲:P.159 - P.162

I.緒言
 一般通念によれば,40歳以上になると,老人性白内障と糖尿病性白内障との区別は不可能に近いとされている。しかし,三橋等1)は,若年者であることを糖尿病性白内障の一つの診断根拠とすることに対しては疑問を投げかけ,加藤等2)は,糖尿病患者における白内障発生頻度は非糖尿病者におけるよりも大ではあるが,診断基準のとり方に問題があるとした。ところが,天羽等3)は,前嚢直下の微塵状混濁を糖尿病性白内障の特徴とみなせば,糖尿病を有する老人の60%に糖尿病性白内障が存在すると報告した。ところで,私共は最近,水晶体皮質における緑色螢光の発現は糖尿病患者以外には稀にしかみられないことを発見したので,この現象を新たに診断の根拠の一つに加えて検討したところ,老人の糖尿病患者22名中,糖尿病性白内障の徴候が全く認められなかつた者はわずか1名にすぎない(38-8102)という結果をえたので,その内訳を報告する。

蛋白分解酵素「プロナーゼ」(科研)の水晶体断帯作用についての実験的並びに臨床的研究

著者: 岸本正雄 ,   三島恵一郎 ,   高野多聞

ページ範囲:P.165 - P.174

I.緒言
 1958年,J.Barraquerが,初めて白内障全摘出術にα—Chymotrypsinを使用して白内障全摘出術が容易に行なわれたことから,enzymaticzonulolysisと名づけて発表し,その後,多くの研究者によりその基礎的並びに臨床的研究が追試され,眼組織への影響も色々と論じられているが,今日ではα—Chymotrypsn及びTrypsinのみがほぼ満足しうる酵素として白内障全摘出術に広く用いられている。従つて,他の蛋白分解酵素にしてそのチン氏帯離断を臨床的に応用し得るものを開発する事は興味あることと思われる。
 α—Chymotrypsin及びTrypsin以外の酵素のzonulolysisについての実験的研究にはHoff—mannがProteinase,Ficin,Bromelain,Pro—naseについて,Hoffmann & LembeckがElastaseについて,FasanellaがCollagenase,Ficin,Bromelainについて,高久他6氏はEl—astase,Collagenaseについて報告しているが,これらは動物実験にとどまり,人眼の水晶体全摘出術に応用された報告はない。

水晶体の螢光の色について

著者: 小口昌美 ,   清水由規 ,   清水公政

ページ範囲:P.175 - P.181

I.緒言
 水晶体が螢光を発する事はShanz及びStockhausen1)以来知られて居り,螢光の強度に就いては多数の報告があるが,螢光の色調に就いての研究は少ない。
 水晶体の螢光に就いては,私共は2)水晶体の鉄片異物の症例に消光現象を見出し,又,眼球のグルタチオン,殊に3),水晶体のグルタチオンと銅イオン複合体の螢光に就いては,既に報告した。春田氏4)も螢光の消光現象に就いて詳細の発表をなした。水晶体の螢光が如何なる性分から成り立つて居るか,又その消長は興味ある所である。

角膜輪部に原発した結膜及び角膜のボーエン氏病—上皮内上皮腫

著者: 吉岡久春 ,   広瀬欣一 ,   遠藤泰彦

ページ範囲:P.183 - P.189

I.緒言
 ボーエン氏病は1912年アメリカの皮膚科医ボーエンによつて始めて記載された疾患である9)
 眼科領域において,結膜及び角膜のボーエン氏病については,1942年McGavic16)が始めて本病の5例を報告し,本病は輪部に初発し,結膜側よりも角膜側の方へ強く拡る,上眼球腫瘍の一型で角膜表面上に新生血管を伴う扁平膠様隆起を生ずるものである。以来外国では多数の報告がみられるが,本邦においては昭和32年三上氏18)の1例の報告があるにすぎない。

稀有なる強膜腫瘍について

著者: 桑原安治 ,   坂上道夫

ページ範囲:P.191 - P.192

 強膜より生じた腫瘍は甚だ稀である。著者等は上強膜より生じた腫瘍で,滑平筋腫に酷似した組織学的所見を示す神経線維腫を検索する機会があつたので,其の概要を茲に発表する。
 症例は21歳男子で,昭和39年7月27日初診,約1箇月前より左眼球結膜直下,鼻側上部に小豆大,淡紅色の腫瘤を主訴として来院した,自覚症としては軽度異物感のみであり,既往歴,家族歴共に異常はない。初診時所見は左眼角膜輪部10時の箇処より約3mm隔たる強膜部に直径約7mm,稍楕円形,淡紅色,触診により弾性硬の腫瘤を認め,上強膜に密着し,結膜とは遊離し,軽度の充血を認めた,毛様体,虹彩及び中間透光体,眼底に異常はない。視力は両側共に1.5(n.c.)であり,其の他の眼部,全身所見にも異常はない。

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眼科関係社会保険診療報酬資料

ページ範囲:P.174 - P.174

眼科ニュース

ページ範囲:P.221 - P.221

第69回日本眼科学会総会御案内
 本年度の第69回日眼総会は,4月19・20・21日(月・火・水)の3日間,熊本市の県立図書館ホールと九電ホールで開催されます。

講座

眼精疲労の臨床

著者: 大島祐之

ページ範囲:P.193 - P.198

I.眼精疲労診療上の問題点
 診療多忙の折などに,頑固な眼精疲労を訴える患者に接すると,正直な所うんざりすることがある。病気をなおし患者の苦痛を和らげるのは医師の務めであると,万々承知はしておりながら,内心では,眼精疲労を厄介と思うのは私ひとりでないと思うのだが,その理由を考えてみると,
(1)眼精疲労として訴えられる症状は,全く患者の自覚的なもので,他覚的には捉え難い。--近点連続測定による近点遠隔とか,調節時間の変容が,眼精疲労の推移を量的にあらわしていると思われる場合もあるにはあるが,いつもそうとは限らない。

臨床実験

視距離の起点

著者: 船石晋一

ページ範囲:P.199 - P.200

 視空間にある以上,視距は片時も視から離れる事は出来ない。
 視距(視距離)は其名の示す通り2点間の間隔である筈で,一方の視物に対して他方の1点即ち起点は自覚の有無に拘らず必ずなければならぬ。従来,視距に関する研究は少なくないがこの起点(中心)については未だ明かにされていない様である。例えば,起点を無視したまま視物の遠近を論じたり或は随意に起点を仮定して視距を検べたり,甚だしきは視距を数量的に扱う際,特別の根拠もなく中心起点を両眼の中間に置く等の例があつた。起点のない視距はあり得ないし,又誤つた位置に起点をおいては,幾ら精密な測定を試みてもその結果は確実でない事もあり得る。

糖尿病性網膜症と血糖及び血清総コレステロールの相互性について(2)

著者: 小島克 ,   矢藤仁久

ページ範囲:P.201 - P.206

 本網膜症における血糖と血清総コレステロールの相互性について,今回は網膜症のないものとあるものとについて比べてみた。且,その対応比を各Stage別にみて考えてみたものである。

研究グループ・ディスカッション

神経眼科研究班第1回集会

ページ範囲:P.207 - P.212

 座長(神戸大,井街譲)多数御参会頂きましてありがとうございます。かねがね,神経眼科に興味を持つ者同志で寄り合つて,平生疑問にしている処,眼科に関係ある脳神経のあらゆる問題を,その時々にテーマを作つて話し合いたい,場合によつては,夜通しでもかまわないが,学会形式でなく少人数の打ちとけた懇話会を持ちたい希望を持つて居りましたが,今日始めて,その第1回として,テーマを決めずに自由出題によりお集り頂き,各自気楽に,智恵を交換し合い,又いろいろ教えて頂く機会に恵まれました事をうれしく思います。この計画は本年に入つて始めましたので,人数も30人位を予定して,円卓型式で,桑原教授に会場のお世話を頂きましたが,演題も非常に多種で,広範囲であり,参会者が既に会場に入り切れぬ程でありますが,各演者は1題15分位として,充分討論を尽し,又昼食を共にして,その際にこの会の運営方針,将来計画をも考えて行きたいと思います。
 では第1席の筒井先生よりお願いします。

談話室

眼科Rehabilitation Clinicについて—附Rehabilitation Clinic要綱

著者: 紺山和一 ,   中島章 ,   松井新二郎

ページ範囲:P.213 - P.219

緒言
 近来眼科医療における診断治療の進歩並びに社会構造の変遷に伴う臨床面における疾患像の変遷も少くない。かかる事態において診療受入れ側としては常に内容の改遷を迫られている。しかし医療の本質から考えて,その基本条件とは,進歩開発された技術を駆使してこれに対応するにしても,治療の推進に一貫性を持ち,視力回復の望みのない症例にも,社会人としての機能を最高度に維持発揚出来る方向に考慮すべきである。即ち眼疾に対する我々の治療能力が未だ万能でない今日,特に高度の視力障害者に対しては盲人福祉の出発点迄眼科臨床が関与せねばならない。
 眼科臨床の実状をみると,外来する高度の視覚障害者は疾患が固定して居るにもかかわらず,受診を希望して各地の診療施設をめぐつて居る事が多い。患者或は家族の視力回復の望みが大きい程,また進行が慢性的である程失明を告げる事は眼科医にとつて困難であり,その時期を失つて居る事が一因である。他方には患者自身が視機能を失つたにもかかわらず,次に進むべき方向を知らぬ事も原因である。大多数の中途失明者は徐々に視力を失い,眼科医として大した事も出来ないままに通院を続けさせ,その間に金を失い,職を失い,更生の時期を失つてしまう。医療によつて患者が利益を得ないであろう事が確定した時は出来るだけ早く患者を社会福祉なり更生相談なり社会復帰の手段を講ずべくチャンスを先ず与えるのは眼科医のみが出来る判断であり,責任でもある。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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