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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科2巻3号

1948年07月発行

雑誌目次

Ⅰ綜説

眼科的腦手術殊に視神經諸疾患に對する手術の適應に就て

著者: 井街讓

ページ範囲:P.93 - P.97

 〔緒言〕從來眼科醫が手術的に處置し得た視神經疾患は恐らく眼窩内視神經グリオームが唯一のものであつたであらう。而かも之は視力の恢復と言う點に於ては全く何の效果も望めなかつた。然るに近年腦外科技術の急速な進歩普及に伴い開頭によつて頭蓋内視路殊に交叉部附近への到達が容易になつた爲,眼科領域に於ても茲に新しく視神經疾患の腦外科的手術が注目研究されるに至つた。
 而して鬱血乳頭の多くが其原因を視神經より比較的離れた位置に有して居るのに對し,單性視神經萎縮症は多く其原因を視神經に極めて近接して有して居る故特に後者が眼科領域での新しい手術の對象となりつゝあるのである。勿論今日に於ても直接視神經に刀を加えるのはグリオームのみであり之が視力恢復の爲の手術でない事は依然同樣であるが,交叉部蜘蛛膜の異常交叉部附近の腫瘍血管異常等に對する手術が既に乳頭の蒼白化を來した樣な視神經の機能を屡々恢復せしめた事實が次々に報告されて居る。そこで今日では少くとも交叉部の腦外科はどうしても眼科でもやらねばならない所迄來て居ると思う。否更に一歩進んで眼科で交叉部の腦外科をどんどんやらなければ附近の疾患及び視神經疾患の早期診斷學と治療學は進歩しないだろうと思われる。

Ⅱ臨牀實驗

結膜結核特に其の細隙燈所見及び治療に就て

著者: 呉基福

ページ範囲:P.98 - P.101

第一章 緒言
 結膜結核は比較的稀なる疾患であるがSa—ttler氏(1874)の精細なる研究發表があつた後引續いて多數の報告があり,臨床所見及び診斷に就ては論じ盡された觀がある。しかし其の治療に關しては適確なる方針がなく,治療效果に就ては尚議論の餘地が多々殘されてゐるのである。
 私は最近結膜結核の一例を經驗し特に細隙燈所見及び治療に就て新知見を得たので茲に其結果を報告する。

眼球壓迫が網膜中心動脈血壓に及ぼす影響に關する研究

著者: 平田望東男 ,   馬詰讓

ページ範囲:P.101 - P.105

第一章 緒言
 1908年Aschnerは眼球を壓迫すると脈搏が觸れなくなることを發見し,又精神病患者で昏朦状態に陷つてゐる者が,他の知覺神經の刺戟では非常に強い刺戟でも覺醒しないのに,眼球壓迫で覺醒することを認めた。眼球壓迫により脈搏數の減少することをAschner氏現象と呼ぶことは周知のことである。其の後多くの學者の研究により,眼球壓迫によつては脈搏數が減少するのみでなく,呼吸數の變化,血管運動神經の緊張状態の變化等が起ることが知られた即ち呼吸は深く遲くなり,血壓は變化する。而してこの三つの反射を各々眼心反射,眼肺反射,眼血管運動神經反射と呼んでゐる。
 Eppinger u. Hessは此の反射の發現を迷走神經緊張症の徴候に加へた。其れ以來多數の學者により此の反射を以て自律神經系の緊張状態を知らうと試みられてゐる。

調節學説の誤診に關する一般常識的考察

著者: 田川精三郞

ページ範囲:P.105 - P.107

第一章 緒言
 從來一般に普及せられ信ぜられてゐるヘルムホルツの調節學説によると,吾々の眼には遠方から近方を見る爲の調節機能即ち田川の所謂近方(最初近距離と呼んだが最近近方と改稱以下同斷)調節機能丈が備はつて,近方から遠方を見る爲の調節機能即ち田川の所謂遠方(最初遠距離と呼んだが最近近方と改稱以下同斷)調節機能は備はつてないので,吾々が遠方を見るのな遠方から近方を見る爲に緊張させ働かせた調節機能を弛緩させ休ませる譯であり。從つて吾々の眼は近方を見る程働き,遠方を見る程休む譯のものだと云はれてゐるのである。

轉移性網膜脈絡膜炎の一治驗例

著者: 佐藤三郞

ページ範囲:P.107 - P.109

第一章 緒言
 轉移性網脈絡炎は病原菌が眼以外の場所から血行によつて網膜脈絡膜に定着し,此處に急性化膿性炎症を惹起するものである。本症は多くは其經過が迅速にして忽ち硝子體膿瘍或は轉移性全眼球炎を招來する爲初期の眼底を望見するの機會に惠まれることすら困難にて本症を治癒せしめ得た例は甚だ稀の樣である。昭和18年宇山氏は轉移性脈絡膜膿瘍の例にズルフォンアドミ劑の徑口的投藥とカルチコールの注射とにょり之を治癒せしめたと報告してゐる。著者も亦最近,轉移性化膿性網脈絡膜炎の症例に於て其眼底を望見しつい之を治癒せしめ得たので此處に報告する次第である。

眼瞼癌腫2例

著者: 菊川舜二

ページ範囲:P.109 - P.114

第一章 緒言
 眼瞼癌腫は決して稀有なる疾患には非ざるも術他臓器の癌腫に比し其數は遙かに僅少である由來癌腫は再發の傾向強く治癒困難なるのみならず,早期に他臓器に轉移を營み豫後を頗る不良ならしめる。然るに眼験癌腫は他臓器の癌腫に比し數回の再發を重ぬるも尚他臓器への轉移は比較的稀である。
 斯に私は眼瞼に原發せる扁平上皮癌の一例と恐らく篩骨蜂窩に原發し僅か6ケ月の間に左眼瞼内眥部,左鼻腔,副鼻腔に蔓延せし扁平上皮癌の1例を報告せんとす。

先天性涙嚢炎に就て

著者: 松原義久

ページ範囲:P.114 - P.116

 先天性涙嚢炎は涙鼻管下口の膜性閉鎖によりて粘液或は脱落せる上皮が涙嚢に貯溜し,それが漸次膿性に變じて惹起さるゝものなり。
 アクセンフェルド,フックス,小川劒三郞氏等の教科書には之が記載を見るも,他の多くの教科書には殆んど記載なし。又從來報告せられたる文献を見るも,治療方針一定せず,其の名稱も區々にして統一を缺けり。

色の對比と視力との關係に關する分析的研究

著者: 馬詰讓

ページ範囲:P.116 - P.119

第1編 色調對比と視力との關係
Ⅰ緒言
 色の對比と視力との關係に就ては,AubertHelmholtz.Uhthoff.Hartinger.Kolbe Bru-dzewski.Pauli.König.Hering.廣田並に濱崎氏等の研究がある。
 Helmholtz廣田並に濱崎氏等によれば「視力は色の對比に關係する事は少く,主として視標と地色との明度の差によつて左右される。」と謂はれてゐる。

先天性結膜内皮膚迷入

著者: 大塚任

ページ範囲:P.120 - P.120

 結膜が後天的に角化する事は結膜角化症或は胼胝腫として報告されてゐるが,皮膚が験結膜に迷入した例は見ない樣であるので報告する。

アドレナリン皮下注射に依るフリクテン治驗例

著者: 村山健一

ページ範囲:P.121 - P.122

緒言
 フリクテン(以下「フ」と略稱)成立の本態は古來種々研究せられて居るが最近或種抗原特に結核菌に對するアレルギー性メクレルギー性局所過敏反應であるとの説が有力である。他方球後視神經炎,春季カタル,白髪染眼炎,中心性網膜炎等のアレルギー性眼疾患に對して0.1%鹽化アドレナリン似下「AD」と略稱)の皮下注射が奏效した諸報告がある。依つて余は「フ」に對し「AD」の皮注を行つた所著效を認めたので其の大要を報告する。

Ⅲ臨牀講義

網膜剥離

著者: 植村操

ページ範囲:P.123 - P.126

 患者。51歳 男。
 初診。昭和22年5月8日。

急性涙腺炎

著者: 倉知與志

ページ範囲:P.126 - P.128

 患者 板○惠○子 5歳女。
 初診 昭和22年5月26日。

Ⅳ私の研究

外眼部疾患に對する皇漢藥洗肝散の効果

著者: 鈴木宜民

ページ範囲:P.129 - P.131

第一章 緒言
 出來皇漢醫學治療法の特長は個々の病名に對して處方せず,其の個體の示す症候群即ち漢方の云ふ證に對して處方するに在ると云はれて居る。然るに漢方眼科は元,明代に於て急速なる進歩を遂げ,其れは又吾が國江戸時代に於ても廣く用ひられた處であるが,之等の中には眼症状の記載と共に病名も,可成り明確にされた者もあり,他方には本草學の發達も之に伴ひ,眼症状のみに對し或は個々の病名に對して各種の處方が使用されるようになつた。此の點傷寒論本來の治療法に反するが如き感が無いでもないが,此の間に於ける醫學の發展經路を考慮に入れれば,其れは何等怪むに足らず寧ろ必然的な結果と解せられる。即ち所謂古方では全身症状の中特に腹診,脈診,舌診等を重視し之を目標とするのであるが,眼疾の場合に於て重視さるべきは眼症状であるは云ふを俟たない。

Ⅴ私の經驗

外眥瞼板重疊縫合法と其應用

著者: 大橋孝平

ページ範囲:P.132 - P.133

 陳舊の顏面神經麻痺等による兎眼症に對して十數年來次に述べる樣な外眥部で恰も着物の衿を合せる樣に上下の瞼板を重疊して縫合する方法を考案實施してゐるが,これに依ると,單に皮膚のみの外眥縫合又は瞼縁のみの瞼板縫合法よりも固定が確實であつて外反矯正力が強いので種々の外反に應用しても良果を收めてゐるので茲に報告する。
基本術式(第1圖)

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〔Ⅵ〕外文抄録

著者: 中島章

ページ範囲:P.134 - P.135

 American Journal of Ophthalmology.Vol.29, No.10.1946.
家兎眼に及ぼすルイサイトの影響Ida Mann.and A.Piric
 液體ルイサトを,綿にしませ又は直接家兎の角膜に作用させた結果を精細に報告してゐる。

Ⅶ温故知新

退官してより

著者: 中村文平

ページ範囲:P.136 - P.138

 わたくしは去る昭和18年6月25日に阪大醫學部眼科學講座擔任を退き只今では信濃國日本アルプスの山麓に住居して居る者であるが茲に中村康教授の御依頼により此間の消息を述べる事とする。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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