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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科2巻4号

1948年08月発行

雑誌目次

Ⅰ綜説

點眼藥と角膜新陳代謝

著者: 倉知與志

ページ範囲:P.139 - P.144

 點眼薬は眼科醫が最も關心を拂うものゝ一つではあるが,實際は成書や習慣にたより,或は新藥などでは大した刺戟さえなければ案外充分な吟味をしないで使用する向きが多いのではないかと思われる。然し點眼藥は理想的な處方により理想的な用い方をしようとすれば仲々面倒なものである。
 點眼藥の理想としては,1)主藥の作用が充分に發揮されること,2)組織を障害せず,刺戟感の少いこと,3)耐久力あること,4)顔面・着衣・ハンカチ等を汚染せぬこと等を擧げ得ると思うが,言うまでもなくこれらの中1)と2)とが最も本質的なものである。

Ⅱ臨牀實驗

増田中心性網膜脈絡膜炎の病理

著者: 生井浩

ページ範囲:P.145 - P.147

 増田中心性網膜脈絡膜炎(漿液性中心性網膜脈絡膜炎)は我々が日常しばしば遭遇する疾患であり,その臨牀症状に就ては,増田氏を始めとし,長谷川,北原氏等の詳細な記載があるが未だ剖檢された例が無く,いろいろの點に疑義がある。檢眼鏡的に認められる黄斑部の圓盤状混濁を上記の諸氏はいずれも網膜下の滲出液によるものとみなしているが,それでは説明のつかない點もある。又,本症に於て凸レンズの裝用によつて視力の増進する理由に就ては,增田,長谷川,石原氏等は,滲出液によつて網膜が提擧され,眼軸が短縮するためであると言い,小口氏及び其の門下は本症に調節痲痺が起つたためだと言つている。
 私は最近,本症に罹患して間も無い患者が死亡したので,眼球を摘出して剖檢する機會を得,本症の病理の一端を明かにすることが出來,其の結果臨床上の諸症状を合理的に説明し得たので,ここに報告し批判を得たいと思う。

穿開性外傷による無虹彩の一例

著者: 松原義久

ページ範囲:P.147 - P.148

 無虹彩は虹彩離斷が虹彩根の全部に亙りしものにして,眼球穿開創を伴ふ場合と然らざる場合との2種に區別せらる。然して後者は前者に比して更に稀なりとせらる。小口氏の眼科全書の外傷篇を見るに,無虹彩に關する報告は20例を出でず甚だ報告例少し。最近本症の1例を(眼臨,40卷68頁)占部が記載せり。

鬱血乳頭の原因に關する統計的觀察

著者: 水田厚正

ページ範囲:P.148 - P.152

第一章 序
 鬱血乳頭の原因に關する統計的觀察に付ては僅にCords1),Rentz2)等の報告あるも我國に於ては未だ之を見ず。而しCordsは鬱血乳頭の乳頭突出度と腦脊髄液壓との關係を専ら求めRentzは腦腫瘍の場合の鬱血乳頭の兩側乃至片側性に就て論ぜるあるのみなり。由つて余は我が臨床を訪れたる定型的鬱血乳頭78例に就て系統的に調査し聊か新知見を得たるを以て茲に報告し,大方の批判を乞はんとす。

ノイマン氏急性アフトージスの眼合併症と組織的所見

著者: 大塚任

ページ範囲:P.152 - P.154

 Neumann氏急性アフトージス(Aphthosis)は1895年Neumann氏が記載して以來,皮膚科方面では可なり報告されてゐるが,眼科方面では少く,殊に止鞏膜炎を合併し,之を組織的に檢査した例は報告されてゐない。
 依つて本例を報告して本症の本態研究の資としたい。

高張食鹽水結膜下注射による點状表層角膜炎の豫防に就て

著者: 小山信男

ページ範囲:P.154 - P.157

緒言
 點状表層角膜炎は流行性角結膜炎とも呼ばれ1948年以來世界的に流行したので,其の治療法に就ても内外に幾多の研究が生れた。而して本角膜炎に先驅する急性結膜炎を適當に治療することにより,角膜炎の發生を豫防せんとする試みもある。余も數年來この方面の臨床實驗を行ひ,高張食鹽水の結膜下注射が簡單にして効果あるを經驗したので,茲に報告したい。

調節學説の誤謬に關する醫學的常識的考察(第一回報告)

著者: 田川精三郞

ページ範囲:P.157 - P.159

緒言
 ヘルムホルツの調節學説が,根本的に不合理であり,誤まつたものであることについては,既に今日にあつては既に報告したように一般常識を以てするも考察出來るものと思料するけれども,更に醫學的常識を以てするならば尚一層容易に考察出來る問題と信ずるので,之に關して茲に第一回報告を敢てする所以である。

戰時中某海軍工廠に於ける角膜異物の統計的觀察並びに豫防對策

著者: 赤松二郞

ページ範囲:P.159 - P.161

緒言
 角膜異物は吾人の日常生活に於ても屡々相遇する外傷なるも機械工業の發達に伴ひ最近激増せる結果一種の職業病として工場眼科の重要なる地位を占むるに至れり。偶々余は某海軍工廠に勤務中多數の患者に接しその原因を探求し豫防對策を講ぜんとし昭昭16年より同19年に至る迄約4ケ年間に於ける角膜異物竄入者350例につき統計的觀察を試み同時に旋盤工員1230名につき作業距離,異物竄入回數,勤務年月,保識眼鏡の有無等を調査し聊か知見を得たるを以つて茲に報告せんとす。

色の對比と視力との關係に關する分析的研究

著者: 馬詰讓

ページ範囲:P.161 - P.164

第2編色の對比と視力との關係に於ける飽和度の影響
I緒言
 第1編に於て,色調對比と視力との關係に就て實驗的研究を行ひ,「色の對比と視力との關係に於て,視力は明度の外に,色調にも亦影響され且視標色と地色との主波長の差が大きい程視力は良くなる。」と謂ふ事が實證されたのである。
 然し乍ら,該實驗に於ては色紙を用ひて實驗を行ひ,視標色と地色との明度を等しくして視力を測定したのであるが,飽和度まで等しくして實驗を行ふ事は不可能であつたのである。既ち該實驗に用ひた色紙の飽和度は各々異つてゐるのである。

Ⅲ臨牀講義

開頭術

著者: 中村康 ,  

ページ範囲:P.165 - P.167

 視神經の疾患は主として乳頭の觀察を以て診斷するのであるが其眞因の多くは推定に止り頭蓋内にある原因本態に對しては不明なものが尠くない。從て療法も對症療法に止り適切なる治療が講ぜられず供手失明に到る迄の經過を只觀察するに過ぎぬ場合が多いので有る。視神經疾患の本態の闡明には頭蓋骨を開き視神經を直接觀察し得るならば今迄不明であつた原因も究明され從つて豫後判定に資する處は尠くないものであろう。近來Cushing, Dandy氏の研究に依り腦外科は長足の進歩を遂げ眼科方面に於ても開頭術が專ら行はれるやうになり從つて視神經疾患に關する吾々の知識も漸く豐富になりつゝあるので有る。
 本邦にては井街謙博士(倉敷)が多數施術例を報告してゐるが其他桑原安治(慶應)生井浩(九大)博士等亦其經驗を記述してゐる。吾が教室に於ても目下追試を以てゐるので本日は其一例を諸君の前に供覽しやうと思ふ。

Ⅳ私の研究

筋無力性眼筋障碍の病機に關する臨床的考察—特に眼筋無力症とBasedew氏病,Parkinsonismus及びHystherieとの交渉に就て

著者: 掛下勉

ページ範囲:P.168 - P.171

 數年來,私は筋無力性眼筋障碍の研究をして來たのであるが,其の間,同時に我々の教室を訪れた神經系疾患既ちBasedow氏病,Par-kinsonismus (以下「パ」と略す) Hystherie等の患者をも擔當して研究對象としてゐたので,其等と比較研究することにより,未だ未知なるMyasthenieの本態,其の病症發現の機轉に就いて檢討を加へてみた。此れは周期律を應用して未知元素を發見せんとする研究法と似てゐるかも知れない。實驗は專ら患者自體に就き臨床的に行ひ,長期間に渉り觀察實驗を反復して得た結果を論據とした。
 此の筋無力症「パ」Basedow氏病,Hystherie等は眼神經學的觀點よりすれば,錐體外路性障碍に植物性神經障碍の合併と見做すべき一つのKategorieに入るのであるが,此れは單なる錐體外路とか植物神經のみに止らず,更に廣い意義を含み,全髄を綜合して一つの病症名を附して可なりと考へ得らるる程に連絡交渉あるものである。

側方視に於ける調節及び輻輳機能に關する實驗的研究

著者: 井上太

ページ範囲:P.172 - P.173

 日常生活に於て吾々が兩眼視機能を營む際視線が正確に水平面上對稱輻輳位にあることは極めて尠く,寧ろ刻々變動する非對稱輻輳を水平面以外の注視面内に行ふことが多いにも拘らず調節及び輻輳機能に關する從來の研究の殆んど大部分は,視線が水平面上對稱輻輳位(正中面)にある場合に限られており,非對稱輻輳に於て而かも注視面を擧降させた場合に就ては,僅かにSnellen及びEysellsteyn, Koster, Schmi-edt, Biesinger, Hess, Sachs,加來等の斷片的の研究が見られる丈である。
 一般に注視面の擧上又は降下に伴ひ,兩眼視線は開散又は輻輳するの傾向を有することは夙に知られてゐる所であり,その原因はHelm-holtzの云ふ如く日常生活の習慣にあるにせよ,或はHeringの云ふ如く調節機能等に對しては何等神經支配的の關係を持たない上轉及び下轉筋群の解剖的配置による純機械的な動作に過ぎないものにせよ,兩眼單一視を保持する爲には擧上注視面に於ては融合性の輻輳を,降下注視面に於ては反對に融合性の開散を行ふ必要があるといふこと,及び擧上又は降下注視面に於て側方視(非對稱輻輳)する際の眼球運動に與うる外眼筋群の作用型式は,水平注視面の場合に比して極めて複雜であるといふことを考へれば注視面に擧降は注視野の限界竝びに調節及び輻輳近點の状態に對し何等かの影響を與へることを想像させる。

Ⅴ私の經驗

網膜剥離手術補遺

著者: 林雄造 ,   前川祐誠

ページ範囲:P.174 - P.176

 網膜剥離の手術的療法は既に確立されて今や行詰りの状態に在り新方法と言ふものは近年何等發表されて居ないとはMachemerの言葉である。然し乍らVogtも言ふ如く裂孔閉塞手術に於てDiathermie穿刺を行ふ場合殊に第1回の試驗穿刺の部位と裂孔の位置的關係を倒像面より鞏膜外面に移すに際し屡々過誤に陷るのは我々の日常經驗する所である。此の場合最も正確迅速で且つ複雜な考慮の過程を經ない簡易な方法を案出したので次に之れを述べよう。
 先づ第1は裂孔が概ね網膜周邊部に存する事は統計の示す所であり,これを頻回觀察する爲には直像よりも倒像を撰ぶ可きは言ふを俟たない。第2に裂孔及其の近圍殊に血管との關係をなるべく精密に倒像により寫生する。而して此の際必ず透明なパラフイン紙を用ふる事を要する。此の時の擴大率は實際手術に當つて裂孔と穿刺による白斑との距離を鞏膜上の實際距離に直す必要上一定にして置く事が必要で寫生の擴大率は倒像大その儘で畫くのが普通であるが時には其の2倍3倍としても差支へはない。第3にパラフイン紙は矩形の紙を用ひ一隅に黄斑部を,略々中央に裂孔を畫き且つ裂孔の中心と黄斑とを結ぶ線上に於て3分の2黄斑寄りに之れに直角な折目を付け且つ輪部をも圖示して置く。

黄斑部火傷と黄斑部の可視度に就て

著者: 井上正澄

ページ範囲:P.176 - P.177

 眼底檢査の時に,視神經乳頭の附近,又は網膜周邊部がよく見えるに拘はらず,黄斑部を見ようとすると強く縮瞳して見にくい事が多い。此の事は倒像檢査よりも直像檢査の時に著明である。所が黄斑部に火傷を受けた既往症のある人や新鮮な火傷を受けた人の内には瞳孔反應が迅速であるに拘はらず,散瞳藥を眼點することなしに,患眼のみならず健康眼も黄斑部がよく見え。乳頭から黄斑部に檢眼鏡の光線を移しても強く縮瞳しない場合が往々見受けられる。而し全身的な原因を持つと考へられる中心性網膜炎の場合には散瞳藥なしには黄斑部は仲々見にくい事が多い樣である。此の樣に黄斑部の見にくい事は適當な言葉がないので取敢へず可視度と言ひ,黄斑部が割合に良く見える場合を可視度が亢進して居る又は可視度が大であると言ふ事にして著者の知見を述べよう。
 黄斑部可視度の亢進は神經質な人に羞明を訴へる許りでなく,職業の脅威となる。熔接作業高熟作業,船舶に乘つて見張りを多くする場合航空機に對して直接に肉眼を用ひて見張りを多くする場合,などではサングラスを掛けて居る時,又はサングラスの横から強い光が入る時,又はサングラスを外して居る時に偶然強い光が眼に入つて黄斑部に輕い火傷を受ける事がある。

Ⅳ外文秒録

American Journal of Ophthalmology Vol.29. No.12.1946.12/Archives of Ophthalmology・April 1946 (1946年4月號)

著者: 中島章 ,   樋渡正五

ページ範囲:P.178 - P.180

結膜分泌物の細胞像 Phillip Thygeson
 2000例に就て調べた所では白血球及上皮變化の像は種々の結膜炎によつて異り,診斷的價値を有する。
 多核白血球に富む分泌は一般に細菌感染の特徴であるが例外もある。例へば双杆菌感染によつては葡萄球菌の混合感染が無ければ白血球は見られない。カタル性双球菌による慢性結膜炎でも白血球は殆んど見られない。

Ⅶ温故知新

引退後の感想

著者: 石原忍

ページ範囲:P.181 - P.183

 編輯のかたからこんなテーマをいたゞいたので,久し振りに筆をとつてはみたものゝ,しばらく書かなかつたので,どうも筆が思ふやうに進まない。
 私は大學を退いてから自分で三遷居士と號してゐる。これは私が大學を卒業してから境遇が3たび變つたからで,初めの17年餘は陸軍軍醫として勤め,次の17年餘は大學教授として醫學の研究と指導とに專念し,定年退職後は實地醫者として患者の診療に當つてゐるのである。この間に遞信病院長や前橋醫專の校長を勤めたこともあるが,これは戰爭のための臨時の仕事で,言はゞ應召したやうなものである。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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