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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科21巻9号

1967年09月発行

雑誌目次

連載 眼科図譜・123

脈絡膜黒色腫

著者: 清水弘一 ,   魏昭博

ページ範囲:P.1033 - P.1034

解説
脈絡膜黒色腫(第1図,第2図)
 20歳男子(H.M.,67-3639)の左眼眼底をカラーおよび螢光眼底所見として示す。2ヵ月前,偶然に左眼の変視症および傍中心暗点を自覚し,中心性網膜炎として加療していたが,さらに増悪するため来科した。従来から左右眼同程度の近視があり,裸眼視力が0.2であり,−2.25Dの眼鏡を装用していたが受診時には近視はなくなり,裸眼で0.9の視力であつた。
 左眼眼底には第1図にみるように,直径約4.5乳頭径の丘状に隆起した半球形の腫瘤が乳頭の耳側下方にこれに接してある。丘のふもとに相当する部分はチョコレート様の暗褐色,本体はこれよりもさらに暗い青黒色で,正常部とは色調,隆起ともに徐々に移行している。隆起の高さは4Dである。網膜剥離とは色調が明らかに異なり,眼球運動や体位の変換にともなう波動や形状の変化はみられない。脈絡膜黒色腫のほか,血管腫,血腫,転移性腫瘍などが鑑別診断的に問題となり,螢光眼底検査が行なわれた(第2図)。

綜説

小児眼科について

著者: 植村恭夫

ページ範囲:P.1035 - P.1043

I.はじめに
 近代医学は,一方においては,その専門分化がすすめられ,他方においては,関連各科との連繋,近接科学の交流による総合を行なう体系をとつている。このことは,本年行なわれた第17回日本医学総会において,分化と総合を中心的アイデアとして総会が構成されたことをみても明らかである。しかし,このような研究,診療の分化,総合は,従来,主として成人疾患を対象としていたが,最近,わが国でも小児専門病院の誕生を軌とし,小児疾患を対象とした臨床各科の専門分化と,その総合運用の体系が確立される機運となつてきた。従来の小児内科は,それぞれに専門分化し,小児外科も分化し,小児眼科,耳鼻科もそれぞれ独自の研究,診療分野を確立しようとしている。現代医学の挑むべき最大の障壁である先天異常に対する総合的研究の一環としての役割,小児失明,斜視および弱視の研究の進展は,実際の臨床面における早期発見,早期治療による失明児,弱視児の減少を企図するとともに,医学的治療不能の視覚欠陥乳幼児およびその両親に対する指導,相談,ハビリテーション,リハビリテーションの道を拓き,これを従来の弱視,盲教育に結びつけるまでの一貫した態勢の確立をめざすに至つた。視器の機能的,形態的発達の研究とあいまつて,発達期にみられる小児眼疾の特殊性の把握は,診断,治療の進歩に欠くことが出来ぬものである。

各種眼底撮影法について

著者: 松井瑞夫

ページ範囲:P.1045 - P.1051

I.まえがき
 眼底撮影の進歩・普及にはめざましいものがあり,現在ではその普及の時期はすぎて,すでに特殊な応用が試みられる段階に入つたとみることができよう。筆者は本稿において,現在行なわれている各種の眼底撮影法を紹介するのであるが,まず,眼底カメラの開発の歴史に少しくふれてみたい。ついで,すべての眼底撮影の基本となる,一般のカラー撮影を行なう際に注意すべき点を,なるべく実際に則してのべ,最後に立体撮影,螢光眼底撮影などの特殊撮影を紹介することとする。
 Daguerreが1826年に塩化銀の湿板により,さらに1839年にヨウ化銀の湿板を使用することにより近代写真術の第一歩をきずいたが,一方1850年にはHelmholtzが検眼鏡を発明している。その後10年余たつと,1862年にはNoyesがすでに眼底写真の問題をとりあげている。しかしNoyesの試みは失敗に終り,その後,Rosebrugh (1864),Albertotti (1884)らも眼底撮影を試みたが,鮮明な写真がえられるには至らなかつた。

臨床実験

脳下垂体部腫瘍の眼症候—とくにpituitary adenomaの視野経過

著者: 藤江容

ページ範囲:P.1053 - P.1060

I.緒言
 脳下垂体部腫瘍は視束交叉症候群を現わす腫瘍として一括して取扱われ,脳外科の重要な対象となつている。患者は脳外科医を訪れる前になんらかの眼症候があるため,眼科医を訪れる場合が多く早期に診断を下すことは眼科医にとつても重要なことである。早期の適切な治療は予後を決定する上に重要なことは万人の認むるところであるが現在の実状としては,相当症状が進行したものが当科の治療対象となつているものが多い。最近までに,Pituitary adenomaの統計的ならびに術前,術後における視野および視力を比較した報告1)2)3)4)は多く見られるが,術後,放射線治療を行ない長期間観察した報告および,Goldmann'sperimeterを用いた量的視野の変化とその回復状態の報告はいまだ見うけられない。
 今回,下垂体部腫瘍中,過半数を占めるPitu—itary adenomaについて術後,放射線治療をうけた症例の統計的観察ならびに最近Goldmann'sperimeterを用いて視野の回復過程を追求し,予後を推定する資料をえたので報告する。

主として角膜疾患に対するグルタチオン点眼液の使用経験

著者: 井上浩彦 ,   松田繁美

ページ範囲:P.1063 - P.1066

I.緒言
 グルタチオンは生体のすべての組織細胞に含有され,眼球においても角膜,毛様体,水晶体,網膜,視束などに多量に含まれていることが知られている。そして角膜においてはその炎症および創傷の修復,透明化に関与しているものと考えられている。
 我々は最近合成還元型グルタチオン点眼液(市販名タチオン点眼用)を使用する機会を得たのでその成績を報告する。

眼精疲労に対するATP腸溶錠の使用経験

著者: 市川達 ,   伊村公男 ,   山之内照雄 ,   林章彦

ページ範囲:P.1071 - P.1081

I.緒言
 眼精疲労(以下As)を訴える患者は,近年増加しており,これに対する研究も多く,眼科的機能検査の徹底の他に,全身的検索,環境の調査も重視され,心身症の立場より誘因としての心的機制の関与の探求の必要が説かれており,その分類も書き変えられつつある。しかしながら私どものような末端のクリニックにおいては,多効のAs患者に対し上記諸検索を徹底的に行なうことは不可能に近い。私どもはAs患者に,暗室検査,問診屈折,調節近点,眼位,眼圧などの検査を行なつているに過ぎないが,底辺の臨床の実態を明らかにするのも無意義ではないと信じ,私どもの方法で神経性,調節性,筋性Asと分類した症例に対し,ATP (アデノシン三燐酸)腸溶錠(アデボスコーワ腸溶錠)を単独投与し,いささか知見を得るとともに,文献的にその薬効について考察し,かつAsに関する諸学説とATPとの関連についても考察したので,あわせ報告する。

銀海余滴

骨折り損のくたびれ儲け

著者: 初田博司

ページ範囲:P.1060 - P.1060

 眼科として一人前になるためには学問実地の充分な修練も大切だが,開業医ともなると保険診療が主となるから,この道にも熟達することが必要条件となつてくるのは論をまたない。
 さる大学の助教授が開業してみたけれどうまくゆかないので,また勤務医になつたという例を知つているが,どうもあまり事柄を深く考えるようなくせがついてくると,かえつて開業医としてはうまくないのではないかというような気がしてならない。

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眼科治療基準点数と疑義解釈(乙)

ページ範囲:P.1068 - P.1068

手術
手術料の取扱い
 1)緊急のために保険医療機関が表示する診療時間以外の時間に手術を行なつた場合において,当該手術(2以上の手術を同時に行なつた場合は,主たる手術とする。)の所定点数が151,2点以上のときの手術料は,手術および麻酔のそれぞれの所定点数の100分の20に相当する点数を加算した点数により算定する。
 2)同時に2以上の手術を行なつたときは,主たる手術については所定点数により,従たる手術については,所定点数の100分の50に相当する点数により算定する。

眼科ニュース

ページ範囲:P.1069 - P.1069

第21回臨床眼科学会
○11月10日(金)グループディスカッション(第1日)
9時より(カッコ内は世話人)
緑内障(熊大,須田教授)

手術

CRYOSURGERYの試み(予報)—Cryoretinopexyについて

著者: 浅山亮二 ,   永田誠 ,   内田璞

ページ範囲:P.1085 - P.1091

I.緒言
 眼科領域におけるCryosurgeryの歴史は意外に古く,すでに1918年Schoeler1)はドライアイスを用いて冷凍が網膜に及ぼす影響を動物眼および人眼について検討し報告している。その後Bietti(1933,1934)2)3)が,網膜裂孔閉塞に冷凍法の応用を試み,同時に冷凍が眼組織に及ぼす影響を組織学的検索をも含め詳細に記述した。彼はドライアイスにアセトンを混合するという簡単な冷凍器を用いて,鞏膜側より約−80℃で眼球を冷凍し,鞏膜に対する侵襲が軽微で,しかも術後7〜8日目に強固な網脈絡膜癒着性療痕が形成されることを家兎眼について確認し,これを人眼網膜剥離手術の裂孔閉塞に応用して,網膜剥離14例中10例を治癒せしめるという好成績を収めた。これが冷凍法が眼科手術へ導入された最初である。
 同年Biettiの業績とは独立にDeutchmann(1933)4)が,ドライアイスを用い,網膜裂孔の閉塞を試みよい成果を挙げているのであるが,その後この冷凍手術は永らく顧られることがなかつた。これはおそらく,本法に少しく先んじてWeveおよびSafer (1930)によつて開発されたジアテルミー凝固法が,当時すでに網膜剥離手術の標準的術式として賞用されていたため,これと同様の手術原理に基づき,しかも当時の技術水準では,温度調整などが困離で手技のやや繁雑な冷凍法が敬遠されたためであろう。

治療的角膜移植例について

著者: 坂上道夫 ,   秋谷忍 ,   尾羽沢大 ,   小向正純 ,   藤原隆明 ,   伊藤健二 ,   尾形徹也

ページ範囲:P.1093 - P.1097

I.緒言
 桑原教授は,その著書「角膜移植の臨床」において,角膜移植を目的によつて次のごとく分類している。
角膜移植光学的角膜移植
治療的角膜移植
美容的角膜移植

談話室

日本医学会の歴史と名古屋総会は第17回か,第19回か?

著者: 中泉行正

ページ範囲:P.1099 - P.1104

I.日本医学会の成立および経過
 日本医学会総会は4年ごとに東京,大阪および京都で交代に開催され,本年は始めて名古屋で開会された。この総会の開催回数もその最初に開かれた年により異なつてくるのでこれか解明を,ことに第1回日本医学会の成立を中心に考えてみたいと思います。
 そもそも日本医学会は今から77年前第1回が開かれ,回を重ねて今日におよんだのであるが,その歴史について,昭和9年4月,第9回日本医学会の開会式において入沢達吉会頭が述べられている(第9回日本医学会々誌参照)。

眼・光学学会

試作細隙灯写真撮影装置について

著者: 馬場賢一 ,   野寄達司

ページ範囲:P.1105 - P.1108

I.はじめに
 細隙灯顕微鏡検査上得られた微妙な観察所見を写真により記録して,診断や経過観察の資料に供するのははなはだ重要なことである。最近ツアイスが「フオトスリツトランプ」を市販したが,細隙灯写真撮影はいまだ一般には普及されていないようである。これは顕微鏡を用いて観察した所見を忠実に再現し得るほどの写真が得られないか,あるいは良い写真を得るのが一般的に容易でないためであろう。
 現在,細隙灯写真を撮影しようとする場合には写真専用の顕微鏡によるか,あるいはすでにある検査用の顕微鏡を利用する方法がある。

第20回臨眼グループディスカッション

視野の会(第4回)

著者: 松尾治亘

ページ範囲:P.1109 - P.1112

 視野の会は昭和38年11月9日に第1回の会合を開いた。これは,同年春の日眼総会のおりに,水川孝教授,山地良一助教授および松尾が,最近にわかに注目をあびるようになつた量的視野について,お互いに研究結果をもちより,討論する場をもとうという話合いの結果始まつたものである。
 本会の当初の目的は,量的視野の計測という問題にあつたので,一般に演題を募集せずこの方面に興味をもち研究を行なつているもののなかから,適当な題目を話題提供という形で発表し,討論を重ねてきたものである。

眼の心身症(第3回)

著者: 加藤謙

ページ範囲:P.1113 - P.1116

 11月14日月曜日,午前9時より国立教育会館5階会議室において,第3回心身眼科グループディスカッションが行なわれた。参会者は時間の経過とともに増加し,10時をすぎると補助椅子の追加を会場係の方にお願いするほどであつた。
 まず,座長より挨拶があり,次回世話人を東北大桑島助教授にお願いすることに決定し,ただちに特別講演にはじまるプログラムに移つた。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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