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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科22巻3号

1968年03月発行

雑誌目次

特集 第21回日本臨床眼科学会講演集 (その2)

網膜色素変性症のGenetic Carrierに関する臨床的研究

著者: 丹羽巽 ,   伊藤寿夏 ,   小沢勝子 ,   山崎幾雄 ,   馬嶋昭生 ,   水野勝義

ページ範囲:P.271 - P.279

I.緒言
 網膜色素変性症の発生に遺伝的因子が重要な要素をなしていることは周知の事実であり,特に劣性遺伝因子に由来するものが大部分をなすことは諸氏1)〜5)によつて明らかにされている。その成因については種々の面から追求されているが,発生の機序の出発点である遺伝に関する研究は,その遺伝子の運搬者すなわち遺伝的保因者(geneticcarrier)に関する研究はまつたくみられない。その保因者を正常遺伝子型から区別することは重要なことである。しかし,現在まで網膜色素変性症患者の家族の中から保因者を発見する手掛りは少なく,Frangois6)はtapetoretinal reflexのある眼底所見を保因者とおぼしき1婦人に見ている。しかし,眼底に少なくとも異常所見を呈する症例を保因者と称すべきかどうかは異論がある。そこで保因者の特性を機能検査で発見しようと試みた。
 変性症患者をもつ親や兄弟で,自覚的や一般的諸検査に異常の認められないものを対象として,red-free light fundus photographによる視紅の定性的反応の試みと,Tübinger視野計による網膜の明度識別閾値の測定とによつて,保因者の特性の発見を試みて保因者と推測される例を見いだしたので,ここに報告する。

網膜色素変性症の視野

著者: 松尾治亘 ,   遠藤成美 ,   鈴木紘子 ,   田坂定晴

ページ範囲:P.281 - P.292

I.緒言
 網膜色素変性症の視野変化は,従来より求心性狭窄と輪状暗点といわれている1)2)3)。しかし,本症の量的視野変化に関する報告は少ない。水川教授4)は,周辺性沈下や,中心視野が比較的よく残るという所見について記載している。また,大鳥氏5)6)らは,Goldmann Perimeterによる結果から,本症の病期の進行に応じた一連の視野変化過程について報告している(第1図)。
 われわれは,最近,東京医科大学眼科を受診し網膜色素変性症と診断された51例に,GoldmannPerimeter,による視野計測(以下,G.Perime—trie,Tübinger Perimeterによる時は,T.Pe—rimetrieと略す)を行なつたところ,輪状暗点を呈する例を多く見出した。また,周辺性沈下および著明な狭窄例に,Tübinger Perimeterを用い,暗黒静的視野計測を行なつたところ,大鳥,水川氏4)らのいう輪状暗点様の中間帯沈下を検出した。これは,臨床的に重要な意義をもつものであると考えるので,ここに報告する。

網膜剥離に対する流体シリコンの応用

著者: 浦山晃 ,   森本宮子 ,   土屋忠久 ,   藤村澄江 ,   今井克彦 ,   斎藤武久

ページ範囲:P.293 - P.303

I.はじめに
 網膜剥離の手術の際に,流体シリコンを硝子体内に注入しようとする試みは,Stone (1958),Armaly (1962),Cibisら(1962),Levin&Ellis (1963),Niesel&Fankhauser (1964),わが国においては,伊藤・久保田(1964),岸本・森(1966),田原(1967)らによつて推進せられ,最近ではWatzke (1967)が長期観察の成績を述べている。
 報告者の1人,小島(現姓,森本)(1966)はさきに,家兎の前房および硝子体に流体シリコンを注入し,臨床的ならびに組織学的所見に基づき,この種流体形成資材の眼内諸組織に対する障害性を検討し発表した。その成績によれば,硝子体注入の場合,実験動物のおよそ1/3の例数において1〜2カ月後に,水晶体後嚢附近にわずかながら混濁を生じたが,その後のいちじるしい進行はなかつた。硝子体混濁も一部に生じたが,軽度であり,後には吸収された。網膜の組織学的検索では,1年を経過せる例にあつても,周辺部にて内外顆粒層に配列の乱れを認めた程度に過ぎなかつた。そして,以上により,流体シリコンの組織障害性は皆無とはいえないまでも,実地臨床の応用には可能であろうと推論した。

レプリカ法による水晶体線維突起様構造の研究—第1報各種動物眼の水晶体における比較研究

著者: 松浦啓之 ,   渡辺猛

ページ範囲:P.304 - P.307

I.緒言
 電子顕微鏡的に,水晶体線維が小さな原形質突起を有することは,これまで多くの学者により指摘されている。この小突起の存在について,藤山ら1),二神2)らは,常時調節を強要されている水晶体線維のズレを防止するのに役立つ構造ではなかろうかと推測した。
 さらに二神3)は,レプリカ法により,フォルマリン固定家兎水晶体皮質線維の突起構造を観察して,Gullstrandが調節時の水晶体変形による屈折率の増加が,線維のinterpenetrationによると推定したことの説明に好都合であるかも知れないが,その生理的意味づけには慎重でありたいと述べている。

ゼラチン材を併用する諸種涙腺排出管離断術の検討

著者: 長嶋孝次

ページ範囲:P.309 - P.316

I.緒言
 導涙障害に対していろいろの改善療法がすべて無効に終つたとき,あるいは始めから如何とも復旧しがたい場合はやむをえず涙腺の分泌を抑制する以外に仕方がない。これには従来,涙腺の摘出,ジアテルミー凝固,あるいはレ線照射,涙腺内アルコールないしはプリビナ注射,翼口蓋神経節の破壊,涙腺分泌神経の切除(Whitwell法,1958年),涙腺排出管の離断(Jameson1)法,1937年)などの方法がある。このうち翼口蓋神経節に対するアルコール注射が比較的確実な永続的効果をあげ得るが,同時に上顎神経および交感神経も麻痺に陥ることが欠点であるとせられている2)。その他の方法で常に的確に奏効するものはなに一つとしてない。のみならず涙腺特に眼窩部涙腺の摘出はときに術後大出血や瞼下垂などの忌むべき合併症の危険にさらされる。したがつて現在眼瞼部涙腺の摘出ないしはそのジアテルミー凝固が危険性の少ないことと,簡便さのゆえに一般に行なわれているが,その効果は不定で症例によつていちじるしく異なる。
 近年米国Upjohn社で創製せられたゼラチンフィルム(ゼルフィルム),ゼラチンスポンジ(ゼルフオーム)などのゼラチン材が眼科領域にも登場するに及んで,Pilger氏3)(1961年)はJameson1)氏の涙腺排出管離断術後の排出管の再生ないしは再疎通を防止する目的でゼルフィルムを使用して有効であつたと報告した。

水晶体嚢のpseudoexfoliationの1例—電子顕微鏡的観察

著者: 美川達治

ページ範囲:P.317 - P.323

I.緒言
 水晶体嚢のpseudoexfoliationは,水晶体前嚢落屑といわれるもので,水晶体前面に灰白色の斑として認められ,しばしば緑内障を合併することで臨床的に重要である。この状態はスカンジナビア地方あるいは東地中海地方に多いといわれ,したがつて外国では臨床的および病理学的研究がかなりさかんである。しかしその本態および発生に関しては,なお不明な点が多く定説はないようである。1925年Vogt1)は,水晶体嚢が変性して生じたものであると報告したが,これに対してBusacca2)は,1928年顕微鏡的検索から,この状態は嚢のexfoliationではなく,正常の水晶体嚢に沈澱物が付着したものであると述べ,Sunde3),Landolt4)らの観察から,この状態は沈着物(deposit)であると考え,したがつてTheobald5)はこれをpseudoexfoliation of the lens cap—suleとよび,Braley6),Ashton7)らもこれに同意し,現在この名称が一般に用いられている。
 この沈着物の本態に関しては,なお明らかではないが,Theobald5),Gifford8),Sunde9)およびAshton15)はムコ多種類の存在を認め,Theobald5)はtyrosinを含むといい,またSunde9)によればcollagenaseおよびhyaluronidaseに抵抗すると報告している。

Arruga赤道絞縛法を行なつた網膜剥離復位眼の白内障治験

著者: 百々次夫 ,   調枝寛治

ページ範囲:P.325 - P.330

I.緒言
 近年,網膜剥離の手術法の改良・進歩に伴つて,単なる裂孔閉塞手術のみならず,強膜側あるいは硝子体側よりする復位促進手術が積極的にとられるようにになつてきたが,なかでもArruga(1957)の赤道絞縛法は,操作が簡易で,確実な眼球壁の圧入すなわち網・脈絡膜の接近が確実に得られ,術後の反応炎症も軽微であるところから多くの人がとりあげるようになつている術式である。
 しかし本法は,復位促進手術群のうちで,異物を使用する方法であつて,簡易で復位促進効果は優秀であるにせよ,その欠点についてなお検討せねばならないと考えられる術式でもある。

糖尿病患者の白内障手術後にみられる前房形成不全について

著者: 徳田久弥 ,   米村温夫 ,   大坪成二

ページ範囲:P.331 - P.335

I.緒言
 糖尿病患者の白内障手術後に起こる合併症にはいろいろあるが,最近多くの人達によつて問題にされているのは,術後にみられる前房形成不全である。糖尿病患者は手術的操作が加えられた場合,正常の人よりも虹彩炎を起こしやすい。したがつて前房形成不全が長びいた問題には虹彩前癒着を起こしやすく,そのために続発緑内障を起こす頻度は正常の場合よりも多くなり,視力の予後に大きく関係する。
 しかしながら今までの報告をみてみても,どのような場合に起こりやすいのか,その原因はなんであるか,そしてそのような場合の対策はどうしたらよいかなどについてくわしくふれたものは皆無である。私達はその点について調査検討し加えた結果,いささかの知見を得たのでここに報告する。

白内障全摘時のα—キモトリプシン使用後にトラジロールで洗う法

著者: 大石省三 ,   正司和夫 ,   猪本朝江 ,   黎燕楽

ページ範囲:P.339 - P.345

I.緒言
 白内障の全摘術にα—キモトリプシン(α—キモと略す)を使用し,チン氏帯を容易に溶解離断せしめる方法は,現在まで多くの医家が賞用しているが,この際α—キモが眼の他の組織にも何等かの影響を及ぼすことが案じられ,この問題が取り上げられている。事実断帯後その作用を直ちにinactivierenさすことができれば,都合がよいと考える。
 Bayer社で発売しているTrasylolはPankreasの疾患に著効があり,その作用がカリクレイン,キモトリプシンおよびα—キモにもinhibitorとして作用することを知り(多価蛋白分解酵素阻害剤),一定期間作用きせた後にこの液で洗うことを考え,白内障40例に行なつたのでその成績を述べる。

Vitamin C点滴静脈内注射の眼圧に及ぼす影響

著者: 池田一三 ,   阪本善晴 ,   田辺幸行 ,   今泉正寛 ,   東良三

ページ範囲:P.349 - P.358

I.緒言
 Vitamin Cが血中に比し房水中に大量含まれていることは,周知の事実であるがFriedenwald,et al.1)はその起原についてactive transportの存在をみいだし,また,Goldmann & Buschke2)3)は血液房水柵の変化の房水中vitamin Cにおよぼす影響について報告している。
 しかし,1964年Linnér4)5)がvitamin Cの眼圧下降作用に関する研究を発表するまでは,vitamin Cの眼圧におよぼす影響を取り上げた者はいなかつた。最近,わが国でも,鈴木とその一門がvitamin Cをカイウサギならびに緑内障患者に静注し,すぐれた眼圧下降作用を認めている。

角膜腐蝕の研究—第2報腐蝕片層間移植によるHost角膜への影響

著者: 村上道男 ,   望月一男 ,   北野周作

ページ範囲:P.359 - P.365

I.緒言
 アルカリ腐触による眼障害が,酸に較べて予後の重篤なことは,臨床上しばしば経験されることである。
 この理由として,アルカリは組織蛋白と結合してdepoを形成しこれより徐々にアルカリが遊離されて隣接組織を破壊し,腐蝕作用が進行するためというのが通説のようである。

船員の珍しい眼疾患について

著者: 篠塚清志

ページ範囲:P.366 - P.370

I.緒言
 船員特有の職業病,または眼疾患の問題は未だ解明されていないが,最近7ヵ月間に東京船員保険病院を訪れた船員の眼疾患患者を検討し,二,三のめずらしい例を経験したので,御報告申上げる次第である。

角膜の螢光について

著者: 小口昌美 ,   関公 ,   朝広信彦

ページ範囲:P.375 - P.378

I.はじめに
 眼組織の螢光については古くより知られており,ことに水晶体の螢光は多くの学者の興味の中心である。Brolin一派の数多くの業績があり,本邦にても春田,清水,小口らの報告がある。このように水晶体螢光が,臨床的にも応用されているにかかわらず,角膜の螢光についてはほとんど報告がない。布村は脊椎動物眼組織の固有螢光の研究にて角膜組織について記載しているが臨床的の観察は見当らない。私どもは角膜出血の螢光が特別な色彩を呈することを知り,その経過を追及した。これに関連して臨床的に各種角膜疾患の螢光を観察し,さらに角膜組織片の螢光についても観察したので報告する。

細隙灯顕微鏡による生体眼眼底周辺部の観察成績について—第3報網膜剥離眼の眼底周辺部所見について

著者: 柿本末人

ページ範囲:P.379 - P.380

I.緒言
 特発性網膜剥離の発生原因として,網膜裂孔を認めることは,すでに常識となつている。また,今までの数多くの報告によれば,網膜裂孔の大部分は赤道部およびさらに周辺部に発生していたことが述べられている。
 著者は今回,綱膜剥離患者の周辺部網膜を細隙灯顕微鏡にて観察したのでここに報告する。

A.O.カタラクトレンズの試用経験

著者: 保坂明郎 ,   芦名早苗 ,   荘兆昌

ページ範囲:P.381 - P.384

I.緒言
 白内障術後の矯正眼鏡は通常強度の凸レンズを必要とする上に,手術による乱視が加わるため,いろいろの問題がある。しかし眼科医としては,第一に,できるだけ効率のよいレンズを使用し,第二に,それによつてもなお起こる新しい視経験に早く馴れさせるよう努力すべきで,こうしてこそ始めて手術成績が生きてくると言えよう。
 われわれは最近,A.O.カタラクトレンズを術後の仮矯正眼鏡として試用し,よい成績を得ている。少数例であるが,このセットの紹介をかねて報告する。

特発性網膜黄斑部孔形成について

著者: 樋渡正五 ,   大野佑司 ,   守多重貞 ,   山之内守

ページ範囲:P.387 - P.392

I.緒言
 黄斑部孔形成についてはKuhnt,Haabらによつて記載されて以来多数の報告がなされているが,非外傷性のものはまだ少ない。
 本症の成因に関しては種々の説があり,Fuchs,須田1)らによつて分類されているが,まだ結論を得るまでに至つていない。

特別講演

視野の臨床

著者: 水川孝 ,   中林正雄 ,   真鍋礼三 ,   大鳥利文

ページ範囲:P.253 - P.267

I.はじめに
 私は今日まで10年ばかり視覚生理の立場にたつたり,臨床医学の立場にたつたりしながら視野に関する研究を進めてきたが,今回は題名にも示したように主として臨床医学の立場から見た視野の意義について述べてみたいと思う。多少,総華的,教科書的なお話になるかも知れないが,できるだけ日常臨床に役に立つ視野とはどういうものかということに焦点をしぼつて話したい。
 第1図はFörsterの球面視野計で測定した視野,第2図は同じ症例をGoldmann perimeterで測定した視野である。Försterの球面視野計で測定した視野では,まつたく異常が認められないのにGoldmannperimeterで測定した視野では明らかに両耳側半盲性のdepressionが認められる。この患者はなんとなく眼が疲れるという訴えの他は眼科的にも異常なく,頭痛その他の一般症状もまつたくなかつたのであるが,職業が医学関係のジャーナリストであつたためか,こちらが驚くほどあつさり脳外科手術をうけることを承知し,脳下垂体腺腫を切除した。術後はGoldmann perimeterによる視野でもまつたく正常にまで回復し,現在は元気に働いている。この事実は視野検査の進歩がいかに疾患の早期治療に役立つたかを単的に示した例である。

銀界余滴

インターンと登録医

著者: 桐沢長徳

ページ範囲:P.316 - P.316

 ここ数年間,社会問題となつたインターン制度の廃止に関する法案も,今議会にはいよいよ上程されることになり,その通過が注目されています。
 もし通過すればインターン制度はなくなり,その代り,新しい登録医制度がこれに代ることになります。この制度は,卒業後ただちに医師免許証を与えられ,その後,自発的に研修を2年間行なつた者に(大学病院または指定教育病院にて),各人の希望により医籍登録をすることになるので,たとえ研修や登録をしなくとも,医師たる身分にはなんら差がないことになります。つまり,従来の義務的なインターン制度とは異なり,卒業後すぐに国家試験に合格すれば,本人の希望により独立した医師として自由に診療を行なうことが可能となるわけです。

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眼科ニュース

ページ範囲:P.372 - P.373

第72回日本眼科学会総会
会期:43年4月11〜13日
会長:桑原安治慶大教授

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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