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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科22巻6号

1968年06月発行

雑誌目次

連載 眼科図譜・128

色素性緑内障の1症例

著者: 高瀬正弥

ページ範囲:P.813 - P.814

〔解説〕
 本症は,本邦においてはまつたく稀な緑内障である。症例は,23歳男子であり,緑内障発病は,14歳ごろと推定される。両眼ともに軽度の近視性乱視を認める。
 経過は単性緑内障と非常に良く似ており,進行は遅く,初診時の眼圧も異常な高さは示さず,tonography検査で,C値は,右≒0.08,左≒0.11を示した。散瞳時に眼圧上昇を認めた。視野には緑内障性の狭窄,欠損が認められた。隅角は広隅角である。眼内色素異常は,隅角全周に高度色素沈着があり,Krukenberg's spindleが角膜裏面に認められ,さらに水晶体後のう表面に異常色素付着を観察した。

臨床実験

色素性緑内障の1症例

著者: 高瀬正弥

ページ範囲:P.815 - P.821

I.緒言
 色素性緑内障(pigmentary glaucoma)の存在は,Suger7)(1949)の報告以来注目を集め,多数の症例が報告されている。
 色素性緑内障の頻度には,著明な人種差があるようであるが,本邦にては本症に関する報告例を認めない。

糖尿病性網膜症の臨床的観察—網膜症の頻度

著者: 山本隆朗 ,   田中一郎 ,   高橋洋介

ページ範囲:P.823 - P.828

I.緒言
 近年内科医および眼科医において,糖尿病性網膜症の臨床的意義が高く評価されるようになり,また,糖尿病性網膜症に対する一般の関心が高まり,糖尿病患者の眼科受診率も増加している。
 しかし一面,糖尿病性網膜症に対して,決定的な治療法あるいは予防法も確立されていないのが現状である。

クロロキン網膜症と思われる1症例

著者: 荒木保子 ,   植村より子

ページ範囲:P.829 - P.835

I.緒言
 クロロキンは1934年にAndersagにより合成され,はじめ第2次大戦中より抗マラリア剤として使用されたが,近年にいたりさらに,エリテマトーデス,リウマチ,腎炎などのいわゆる抗膠原病剤として寵用されるようになつた。しかし一方その副作用についても,古くより種々の報告があり,眼科領域においては角膜障害・網膜障害などが問題視され,ことにその網膜症については,大量長期投与により非可逆的障害を残すため,閑却視されぬ状態にあり,最近医原性疾患としても重要視される段階に到来している。
 今回円板状エリテマトーデスの患者に,クロロキンの一製剤であるレゾヒンを6年3カ月にわたる1.43kgの大量投与により,その副作用のため生じたと思われる,黄斑部を主病変とした網膜症を経験したのでここに報告し,さらに本邦における諸家の報告例と併せて,クロロキンの投与量,投与期間,発症時期ならびに障害の軽重の面から考察し,いささか私見を述べてみたいと思う。

Xanthoma Planum Palpebraeと脂肪肝

著者: 小原博亨 ,   中村一夫 ,   泰泉寺暢朗 ,   宮島忠

ページ範囲:P.837 - P.839

I.緒言
 Xanthomaは家族性原発性高コレステロール性黄色腫症,続発性黄色腫症,その他の場合に発生するが,慢性胆細管性肝炎,胆細管性肝硬炎(Hanotの肥大性肝硬変)の患者に往々脂質代謝異常を伴うことがあり,その結果,皮膚に黄色腫を生ずることがある。
 この肝疾患とxanthomaの関係は眼科領域ではあまり知られていない。私は眼科を訪れた本症の患者の既往歴を問いただし,肝機能検査を施行し異常あることを知り,内科および臨床検査科の協力によつて肝生検により肝障害の存在を知りえたので報告する。

ステロイド白内障の2症例

著者: 松浦啓之

ページ範囲:P.841 - P.844

I.緒言
 ステロイドホルモン剤の長期連用によつて,水晶体の後嚢化に混濁が生ずることは,1960年Black,Oglesby, Von Sallman, Bunim1)により初めて報告された。
 著者は最近,リウマチ性関節炎のためにステロイドホルモンを長期に使用している患者のなかに2例本症を経験したので報告する。

網膜剥離治癒眼の遠隔成績

著者: 中森文之 ,   本多繁昭 ,   藤野亨 ,   豊増典子 ,   原潤一郎

ページ範囲:P.845 - P.853

I.緒言
 網膜剥離の治療成績に関する内外の文献は多く,診療におけるいちじるしい進歩により,高い治癒率を示している。また網膜剥離患者は最近増加の傾向1)を示し,難治な悪性度の強い症例に対しても,今後,新しい治療法の改良,および導入と適応,選択により,さらに良い治癒率が期待できる可能性を予想させる。
 網膜剥離の治癒が,剥離網膜の解剖学的な復位であることは周知のことであり,これが帰着するところであるが,さらに復位治癒眼の機能改善を促進する手段が,今後の課題となつてくる。症例によりさまざまであるが,治癒眼の機能がかなり回復することは,眼科臨床家により指摘されており,近年,機能回復について考察した報告が行なわれてきた。Brockhurst2)は,網膜剥離眼の復位と視力の予後について言及しているが,この問題とあいまつて,ますます術後治癒眼における復位状態の長期観察の重要性が提起されてくる。このような長期観察は実現困難なことが多いが,永久的な復位治癒を確認しえて,初めて真の意味の網膜剥離の治癒といえる。

フラビタン錠の眼科的使用経験

著者: 山本由記雄 ,   鏑木ふく代 ,   末野三八子

ページ範囲:P.855 - P.861

I.緒言
 FADは最終的酵素型であるため,結膜,角膜,ブドー膜,網膜の代謝賦活への効率が大であることは,いまさら論をまたない。したがつて点眼,軟膏,結膜下注射として,眼瞼疾患,角膜疾患に,球後注射,頸動脈注射として,中心性網膜炎,網膜色素変性などの網膜疾患に,局所投与としての意味で投与され,良い治療成績を得ている。われわれ,テノン氏嚢内注射による眼精疲労の治療を報告したが,今回内服としてのフラビタン錠(FAD5mg含有)の使用の機会を得たので報告する。

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眼科ニュース

ページ範囲:P.828 - P.828

第22回臨床眼科学会のグループディスカッションのお知らせ(1)
 各グループ出席および講演希望者のお世話は,各代表者で例年のごとくお願いします。なお各グループの演題は決定しだい(7月31日まで),各代表者より当方へご連絡ください。なお,プロジェクター,スクリーン,受付係などは各代表者でご準備ください。やむをえぬ場合はお世話致します。

眼科点数表(乙)の解説

ページ範囲:P.918 - P.919

III.注射料
△従来と変わらない。ただし薬価基準が下つたのにつれて,1段点数が下つたものがあるから,各自常用の注射料点数を調べておくこと。
△次の特殊注射料に変わつた算定がみられた。すべて基本注射料と薬価の点数の合計で表わされることになつた。副腎皮質ホルモン剤の眼注のときの12.1(0.5cc増すごとに)加算などの方法がすべて廃止となつた。これによつて大幅な点数切り下げになつた。

手術

涙小管断裂の治験例について

著者: 岩田親良

ページ範囲:P.863 - P.865

I.緒言
 涙小管断裂の比較的新しいものでは,涙液の通過をふたたび円滑に行なわしめんがために,早急に両断端を縫合しなければならない。しかし鼻側断端を探し出すことはしばしば困難で難儀なるものである。私は今回涙小管断裂症例を経験し,涙嚢壁切開により涙小管の鼻側断端を発見し,手術後の経過良好例に遭遇したので報告する。

斜視手術と視能矯正の関係および手術の術式について

著者: 柏瀬宗弘

ページ範囲:P.867 - P.874

I.緒言
 視能矯正と斜視手術とは切つても切り離せない関係がある。視能矯正の最終目標が正しい両眼視機能にあるとするならば,眼位異常を伴つている場合には当然観血療法にまつところが大きい。しかしこの眼位異常のなかで,非水平性と水平性眼位異常とに大きく分けるならば,視能矯正の対称となるのは後者である。さらに弱視を伴つている場合と否とでは異なつてくる。しかしこれらに共通なことは,正常の両眼視機能を持つている眼に,他の理由で眼筋をいじり術後斜視が起きても,数日のうちに正しい両眼視を得てしまうが,斜視の場合には,正しい両眼視を目標に手術をやつても,なかなか満足な結果は得られないし,さらに斜視弱視の場合には,その結果はなお一層悪くなつてくる。一般に眼科におけるほかの静的手術による機能的治療が,80〜90%といわれているのに対して,動的手術である斜視の機能的治癒が内斜視で25%,外斜視で50%,平均30〜40%といわれているのは,眼筋の運動系とともに両眼視に対する感覚系の異常があり,これらの悪循環により形成される大部分の斜視は,これを早期発見,治療が治療効率に最も深く関係していると思われる。

第21回臨眼グループディスカッション

緑内障(第9回)

著者: 須田経宇

ページ範囲:P.877 - P.882

須田:第9回グループディスカッションを始めます。
宿題報告
1.基礎篇
1) suctioncupの原理
2) cupの大いさ,縁の曲率半径とsuction効果cup内縁の大いさによつて,inflowが異なる。最適は12.0mm径がよい。縁の曲率半径は従来のstandardcupでは12.7mmを採用している。しかし,このrの大きさによつてもinfiowが異なる結果となるので,種々実験の結果r=14mmか15mmが最も適していることが明らかにされた。試みに縁の1/2を除去したcupでsuctionを行なうと,予想に反してinflow量は大きく,縁の全部ついたcupと大きな差がない。その差は実験により,比較的高い眼圧レベルに起こつてくることがわかつた。そこでr=12.7mmとr=15mmの差の出た原因を再考し,おそらくは強膜外の軟部組織吸引によるsuction効果の阻害はr=15mmが少ないためと推論した。

医原性疾患

著者: 神鳥文雄

ページ範囲:P.883 - P.887

1.「アンチピリン」中毒による小疱性角膜炎の1例
 75歳,女,脳出血,左半身不随で入院加療中39℃前後の不明熱を生じ,50%メチロン1.0cc 2筒,25%メチロン1.0cc 2筒を5日間にわたり注射したところ,突然全身状態の悪化をきたし,いわゆるショック症状を呈した。眼部は,眼瞼腫脹,結膜充血のほか,大小不同の水疱形成を多数両眼角膜に認めた。右眼は特にひどく一部びらん状であつた。抗生物質,副賢皮質ホルモン,ビタミンB2剤の注射,内服およびタチオン点眼により数週間後には完全治癒をみた。
 根来(京都医大):患者の既応,および病歴から考えまして,多分アンチピリン中毒によるものと考えられますが,アレルゲン・テストを行なつてみましたか。薬剤はハプテンであるため,従来のpatch testやscratchtestでは陽性率が非常に低いようですが,skin-windowtechniqueによりますと,陽性率が高くて,診断的に非常に価値があると思います(方法,J.Allergy,38;156,1966参照)。従来,開口部びらん性外胚葉症,Stevens—Johnsohn氏病と呼ばれていた,皮膚粘膜眼症候群の中に薬物アレルギーによつて起こされているものをときどき経験しますから,これらの疾患の場合,既往歴や現病歴をよく聞いて必要に応じて疑わしきものについて,アレルゲン・テストを行なつてみることが大切です。

眼科の心身症

著者: 桑島治三郎

ページ範囲:P.889 - P.892

 心身症の診療は臨床各科の別にかかわりなく共通の基盤に立つところが多いので,かねてこの会では加藤教授(日大)の発案で他科領域の特別講演をもおねがいしてきたが,今回は産婦人科の心身症について専門の長谷川講師(東北大)に基礎的なことや臨床例についてわかりやすくお話しをしていただいた。また,湖崎講師(大阪医大,小児保健センター)には前回の植村講師(国立小児)につづいて小児眼科におけるきめの細かい診療について,毎日ミュージックのBGMを流しながら,小児期の精神外傷に対する眼科医の心身医学的な配慮を中心にした講演をいただいた。午後1時から始められた一般講演とともに,定刻を大分すぎるまで熱心なディスカッションが交換された。設営に当たつていただいた医科歯科大の眼科教室のみなさんに感謝するとともに,スライドが1台に制限されたために,演者に多少ともご不便をおかけしたが,この点は会場の都合でやむをえなかつたこととして,世話人からお詫びかたがたこ諒承をねがつておきたい(桑島)。

涙の会(第4回—最終回)

著者: 弓削経一

ページ範囲:P.893 - P.900

 今回は弓削,長嶋によつて「涙器に関する諸問題」として編集され眼科9;556〜564,1967に掲載せられた問答集を資料として,過去3回のしめくくりの討議が行なわれた。以下文中(1)(2)などの詳細については上記文献を参照されたい。

眼・光学学会

弱視における眼屈折状態に関する研究—第1報不同視弱視について

著者: 神谷貞義 ,   西岡啓介 ,   西信元嗣 ,   秋吉聰子

ページ範囲:P.901 - P.907

まえがき
 これまで眼屈折度に関する研究は,一眼ずつを単位として行なわれてきた。しかし,人間の眼は,両眼において眼底に映じた像をたがいに重ね合わせてsingle visionを行なうものである。この場合,当然のこととして,それらの機能は,調節と輻湊のバランスの上に行なわれているものである。この事実に着目して,眼屈折度もまた人間が単一人を行なう上の一要素であることを考えた時に,両眼の眼屈折度は,それぞれ独立したものではなく,たがいに関連して,相補的役割を果している以上,ある人の両眼の屈折度を一つのペアーとして考え,それに伴う眼位の異常,斜視あるいは弱視の発現も,同時に考慮に入れるべきである。こうした見解に立つた時には,これまでの眼屈折度に関しての文献からは,われわれの希望する資料を発見することができないことがわかつた。
 そこで2年半前から,従来の資料は役だたないものとして,みずから資料を求めるほかはないとの結果に達して本研究を始め,今日迄(40年5月から42年10月迄)に12,623名の患者について詳細な観察を行なうことができた。

初期暗順応

著者: 江森康文 ,   細渕安弘

ページ範囲:P.909 - P.914

I.まえがき
 明順応から暗順応に移るときの眼の感度の変動は,瞬時判別域(instantaneous threshold)と呼ばれ,視覚機構を解明するにはきわめて重要な意味をもつている。
 この種の実験は,古くはBlanchard, Hartline,Graham, Boyntonらにより深く研究されている。とくに,初期暗順応に関しては,1918年J.Blanchard1)によって初めて行なわれた。彼の実験は満足すべきものではなかつたが,明順応で種々の強度,色について行なつた瞬時判別域は,視覚において桿状体と円錐体との機能差を示した。その後Hecht2)により1937年再検討され,ほぼ同様な結論に達した。ついで1947年Crawford3)は順応光の変化の前後の視覚状態の変化を測定した。最近においては,H. D. Baker4), R. M.Boynton5)らにより行なわれた。

検眼用+20D非球面レンズ

著者: 梶浦睦雄 ,   保坂明郎 ,   岡島弘和

ページ範囲:P.915 - P.916

I.緒言
 従来倒像検査法に使用されている球面レンズは収差が大きく,眼底周辺部などはきわめて見にくく,また像が歪む点から,誤つた判断を下す危険がある。とくに+20dptr.球面レンズは質が悪く,眼底検査にはまつたく不向きで,わずかに斜照法に利用されているにすぎない。
 検眼用凸レンズはその使用目的上単レンズでないと具合が悪い。種々の曲率半径を組み合わせ追跡計算を行なつた結果,球面レンズならば前後面の曲率比が2.3:1程度がよいことがわかつたが,これでも実用上不十分であり,非球面アプラナートを採用する必要のあることが知られた。

談話室

Jules Stein Eye Instituteの開所式に出席して

著者: 山田酉之

ページ範囲:P.921 - P.923

 Jules Stein Eye InstituteはUCLA (Universityof California, Los Angels)のなかにあつて,おそらくは将来世界屈指の臨床基礎にわたる眼科研究所となることが約束されている。その開所記念行事が昨秋,すなわち1966年11月3日から3日間にわたつて行なわれた。この行事には,外国からはAshton, Barraquer, Meyer—Schwickerath, Michaelson,桐沢の5氏がゲストとして招待され,米国眼科の著明な学者がほとんどすべて一堂に会したほか,自由参加として糖尿病のLarsenの姿なども見うけられた。日本からは,当時New York Univ.に留学中だつた東大の箕田先生(当時,沈先生)と,私も講演会を聴講しえたが,Arch. Ophthalm.(78巻2号,1967)にその記事と記念講演が掲載された機会に,発足当時の研究所の内部や記念行事などについて紹介しようと思う。
 11月初めのLos Angelsはまだ汗ばむような気候で,大学の広く明るいキャンパスを通つて行つても,女子学生のむぎ出しの白い腕にはまだ夏の気配さえ残つているのだが,それでも木立は黄に色づいたり,枯葉が散り敷いたりしている。噴水の向いの入口から講堂の前庭へ入つていくと,開会前の受付の人ごみのなかに,水色の背広を着た小柄な男が立つていた。

ネパールにおける眼科の集団治療—ネパールの民族と歴史(その1)

著者: 神谷貞義

ページ範囲:P.926 - P.931

まえがき
 今から5年前,1962年にインドのニュー・デリーで行なわれた国際眼科学会に出席した後,ネパール政府の招きで,ネパールの主都カトマンズーを訪れ,約1カ月半にわたり眼の集団診療を行ない,3927名の検診と,白内障を主として338名の手術を行なつた。ここにその結果を報告して,参考に資したいと思う。
 われわれ日本人が他国に行き,検診を行なうとともに手術をするということは,並々ならぬものがある。そして,その結果について報告する場合に,日本人の感覚から事象を判断することは許されないことで,その国の歴史,住民,習慣,社会制度を知つたうえでないと,すべては理解できないと思う。ましてネパールは,ここ10数年前まで完全に鎖国し,世界の謎とされていた国であり,日本の北海道の2倍といつた狭い地区に1千万の住民が住み,人種的にみて,チベット系住民,インド系住民が入り混り,アジアの人種展覧会場といえるほど多種多様な民族が住み,しかも彼らはヒンズー教のもとにカースト制度を守り,互いに交流せず,独立してそれぞれの生活を古代から現代までも守りつづけているのである。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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