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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科24巻11号

1970年11月発行

雑誌目次

特集 小児眼科

小児眼科の現況と将来

著者: 植村恭夫

ページ範囲:P.1311 - P.1312

 近代医学は,一方においては,その専門分化がますます進められ,他方においては,関連領域との連繋,近接科学との交流による総合が行なわれている。眼科学は臨床医学の中で専門分化した歴史も古いものであるが,近代の眼科学は,研究面においても,臨床面においてもさらに専門分化される傾向にある。すでに,大学病院の眼科において,角膜,網膜,緑内障,神経眼科,斜視弱視を含めた小児眼科などの特殊外来が設置されているほか,公私立病院,眼科病院においても,特色をもつたクリニックが出現していることは周知のことである。眼科医会では,これをリストアップし患者の紹介に役だてており,これは患者自身のためはもちろんのこと,卒後教育,専門家の育成に大きな力となつている。また,基礎医学の発展は,眼科の基礎的研究を,さらに専門分化させ,種々の研究手段を導入してきている。一方,総合の面においては,研究面においても診療,教育の面においても,関連領域と密接に提携し,お互いの交流を盛んにしつつある。
 小児眼科は,小児医学の体系の中において,発達過程における視器の形態的,機能的な基礎的研究のほかに,遺伝学,分子生物学などと密接に結びつつ胎生期を含めた成長に関する過程を現代医学の新しい観点より再検討しつつある。

小児眼科における先天異常

著者: 小林守

ページ範囲:P.1313 - P.1317

I.はじめに
 近年治療医学の急速な進歩により,従来は予後の不良であった諸種眼疾患でも治癒するものが少なくない。
 しかるに「先天異常」による眼疾患は,後天性に発病する諸種眼疾患よりも,一般的に薬剤治療や手術によっても治癒しがたい場合が多い。

小児の視力と屈折

著者: 湖崎克

ページ範囲:P.1319 - P.1326

I.はじめに
 小児眼科が,従来の成人眼科と異なる点は,心身ともに未熟な小児を対象としていること,そして視機能の発達過程を扱うところに小児眼科の特性がある。その最も単的な例として,小児の視力と屈折がある。
 小児の視力は発達過程にあり,多くの眼疾患や機能異常がその阻害因子となり得る。したがつてそれを早く発見し,早期に適切な処置を行なうべきであることは,当然なことである。しかし,対象が乳幼児であるため技術的にも多くの困難を伴い,それがこの領域の普及をおくらせている原因とも考えられる。

未熟児網膜症

著者: 永田誠

ページ範囲:P.1327 - P.1333

I.本症の歴史的背景
 1942年BostonのT.L.Terry1)が未熟児の水晶体後部に灰白色の膜状物を形成する失明例を報告したのが本症の眼科文献に現われた最初のものであつて,1944年TerryはこれをRetrolental fibroplasia (水晶体後部線維増殖症)と名づけた。
 それ以来多くの研究者が本症の本態について検索したが,これが未熟児の酸素療法に関連の深い一種の網膜血管病であることが判明するまでに約10年を要し,その間欧米で多くの犠牲者を出したiatrogenic diseaseの一つといえる疾患である。

斜視および弱視

著者: 筒井純 ,   深井小久子

ページ範囲:P.1335 - P.1341

I.弱視・斜視学最近の傾向
 弱視や斜視が小児期,特に乳幼児期に正確な診断のもとに適切な治療をしなければ一生回復することのできない障害を遺すことは今日ではよく知られた事実である。実際この種の患者の治療年齢は過去に比して低くなつていることは好ましい。
 ここ数年間にこの領域で進歩したと思われることからまず述べる。弱視斜視の「病因論」に関しては動物実験が可能となつたこと,電気生理学的検査法の進歩にともない脳のレベルで本態が明らかになりつつあることである。この領域の開発は将来の眼科学に脳視覚という大きな領域の学問をもたらしつつある。

先天性白内障

著者: 植村恭夫

ページ範囲:P.1343 - P.1347

はじめに
 すべての先天異常のなかで,眼球および眼窩の異常が,その60%以上を占めるとされており,その中でも,先天性白内障は,最も臨床上遭遇する重要な眼疾といえる。国立小児病院眼科外来の統計によると,新患総数の約2%を占めている。Hatfieldの報告によると,先天性白内障は,就学前児童の失明の11.5%を占めており,おそらく成人の失明の5%がこれであろうとしている。先天性白内障は,白内障のみの単独異常の場合と,他の眼疾に伴う場合と,全身異常の一つの症状として出現する場合とがある。先天性白内障は,生下時すでに認められるもののほか,発達白内障(developmental cataracts)の名称のごとく,生下時正常にみえる水晶体に,ある月齢,年齢を経て白内障の出現する場合がある。
 先天性白内障は,病因的にも,治療面にもはなはだ重要な眼疾であり,今回は,診断,治療に関し述べてみることとする。

小児の眼瞼下垂

著者: 丸尾敏夫

ページ範囲:P.1349 - P.1352

はじめに
 眼瞼下垂は小児の眼疾患のうち,かなり頻度が高く,重要な疾患である。ところが,先天性白内障,牛眼あるいは未熟児網膜症のような視覚障害に連なる疾患でないために,案外軽視されている傾向が強い。そのため,片眼の眼瞼下垂でその眼が弱視になるまで放置されていたり,不良な手術方法が行なわれたため醜形を残している症例が少なくなく,その診断と治療は決して満足できないのが現状である。
 眼瞼下垂はごくわずかの例外ともいえる症例を除外すれば,全治できるものであるのに,放置されたり,不適当な治療を受けている患児や両親の悩みは意外に大きい。そこで,小児の眼瞼下垂に対しても本格的に取り組まなければならない。

小児の涙道疾患

著者: 丸尾敏夫

ページ範囲:P.1353 - P.1355

はじめに
 小児の涙道疾患は小児の眼疾患としては決してまれなものではないが,長期間結膜炎と誤診され洗眼治療のみを続けられている新生児涙嚢炎の症例が多いことからみても,眼科医のこの方面に対する認識は十分ではなく,その正しい診断および治療は必ずしも行なわれているとはいえないのが現状のようである。そこで,小児の涙道疾患の診断と治療について述べてみようと思う。

小児における緑内障

著者: 澤田惇 ,   原敬三

ページ範囲:P.1357 - P.1360

 小児における緑内障はその発生頻度こそあまり高くはないが,ほかに先天異常を合併することがあること,早期発見がしばしば困難なこと,予後のよくないことなどから,重要な小児眼疾患の一つであり,今秋の緑内障グループディスカッションのテーマともなっている。

小児眼科手術における全身麻酔の特殊性

著者: 岩井誠三 ,   佐藤和子

ページ範囲:P.1361 - P.1366

 近年,麻酔学のめざましい発達とともに全身麻酔の安全度が高まり,小児眼科領域,とくに協調性の得がたい乳幼児期を対象とする場合に,患児の安全性と精神愛護の見地から,手術ないし検査にさいしての全身麻酔の適応は著しく拡大してきている。

盲学校における含硫アミノ酸代謝異常症のスクリーニングとその意義

著者: 大浦敏明 ,   竹内徹 ,   奥村柔人 ,   上村勇 ,   間瀬小波 ,   田中百合子 ,   湖崎克

ページ範囲:P.1367 - P.1374

I.はじめに
 いろいろな先天性代謝異常症患者を取り扱つていると,中枢神経系の異常とともに,さまざまな眼症状を伴うものが多いことに気づく,第1表はそのおもな疾患名と,眼症状を列記したもので,詳細は大浦が綜説として発表した1)2)。しかし盲学校における含硫アミノ酸代謝異常症のスクリーニングを企図したのは,われわれがたまたま某盲学校生徒中ホモシスチン尿症の姉妹を発見したことに由来する。ホモシスチン尿症は含硫アミノ酸代謝異常症の一つで,臨床的には,精神薄弱,けいれん,マルファン症候群様細長い体型などとともに,水晶体偏位を主症状とする。したがつて本症の頻度は比較的まれとはされているが,盲学校生徒,とくに盲精薄を有するものの中に集積する可能性がある。そこで盲学校生徒の尿をもちいてシアンニトロプルシッド反応による本症のスクリーニングを行なうこととした。

未熟児の管理

著者: 奥山和男

ページ範囲:P.1375 - P.1380

I.緒言
 1950年WHOは,生児として生まれた出生体重2500g以下の未熟児を在胎期間のいかんにかかわらず未熟児premature infantと総称することを勧告した。それ以来,この定義はわが国を含めて世界各国で採用された。しかし,未熟児を体重のみで規制することは不適当であることが明らかになり,1961年WHOは,出生体重2500g以下のものを低出生体重児low birth weight in—fantといい,未熟prematurityという言葉は在胎37週未満で生まれたものに使用することを勧告した。
 低出生体重児は,保育にさいして特別な注意が必要であることはいうまでもないが,昭和43年筆者は未熟児管理の現況について,とくに眼科領域に関係の深い事項を報告した1)

視覚障害児の指導と教育

著者: 原田政美

ページ範囲:P.1381 - P.1384

はじめに
 先天的異常,あるいは生後早期の疾患により,失明またはそれに近いような強い視覚障害を生じ,治療による回復が困難な小児に対しては,彼らを病人として取り扱うのでなく,目だけが不自由な「普通の子ども」としてすくすく育つていくことを願い,またそれが可能になるように指導してやることが必要である。
 このような指導は,医学というよりも教育の分野に属することであるが,小児眼科に関心のある眼科医にとつて欠くことのできない重要な知識であると考え,ここにその概要をご紹介したいと思う。

連載 眼科図譜・156

斜顔面裂症の1例

著者: 青木功喜 ,   藤岡憲三

ページ範囲:P.1309 - P.1310

〔解説〕
 症例は5歳の女子で,正常分娩にて出生し,家族歴,既往歴に特記すべき所見ない。斜顔面裂症はまれな疾患であり,生存していく場合も少ない。しかし軽い場合は上口唇あるいは眼瞼の単純な切れ込み,あるいは両者を結ぶCongenitaler NarbenStreifenが存在するにすぎない。両側性の方がいくらか多く,片側の時は左側が多いという。遺伝的関係で証拠づけるものはなく,また種々な奇形を合併することが多い。今までの報告例中では鼻涙管と披裂の関係およびその処置方法についての論説は少ない。われわれの症例では左の鼻腔が右のそれのために圧迫されて鼻中隔の存在もはつきりしない。Fossa lacrimalisの存在も当然なく,左眼窩の形は右より大きく異常な辺縁を呈している。すなわち涙のうが正常の位置に落ち着かず,下方で外側寄りに大きくづれていることがモルヨドール注入をケタラール麻酔下で行なうことにより推測された。すなわち下部の涙点がモルヨドールを注入するに,上涙小管の途中と思われる点から排膿後にモルヨドールを混じてさらに排膿をみたので,十分排膿してから,モルヨドールを3cc追加した後20分後に涙のう撮影を行なつた。その結果は第3図に見られるごとく涙点の真下に卵形に見られ,上記のごとき推定が考えられた。涙小管は上下ともに存在するが上涙小管の先端すなわち涙点は見られず,涙小管の断端と見られるところを,上眼瞼内皆部に見られる小突起の先端に認める。

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市販点眼薬眼科用軟膏点数早見表

ページ範囲:P.1388 - P.1391

市販点眼薬点数早見表(その1)

臨床実験

螢光眼底写真における網膜血管径の変動

著者: 三国政吉 ,   藤井青

ページ範囲:P.1393 - P.1401

I.緒言
 螢光眼底写真においては膜網血管は普通の眼底写真に比べ幅広く写るし,毛細血管も充実して見えることが知られている。しかし血管は実際に拡大するのか,するとすればどの程度のものか,どのような経過のものか,またどのような理由によるものなのかなどについていまだ明確な説明はなされていない。
 その究明のためわれわれは以下の実験を試みたので,その成績の概要をここに報告する。

Carbacholによる原発緑内障の治療経験

著者: 北沢克明 ,   後藤いづみ ,   中村千春 ,   冠木敦子

ページ範囲:P.1403 - P.1408

I.緒言
 Carbachol (carbaminoylcholine chloride)は古く1933年Velhagenによつてはじめて緑内障治療に使用され,その副交感神経刺激作用(pa—rasympathomimetic action)により縮瞳とともに眼圧下降をきたすことが報告された1)2)。本邦では,1944年庄司・相沢により緑内障治療に導入されたが3),その後カルピノール(carpinol)の名で商品化され,その抗緑内障薬としての有用性については,いくつかの報告があるが4)5),最近はあまり用いられていない。
 Carbacholは溶溶性を欠くため,単なる水溶液として製剤せられたカルピノールは角膜透過性が不良で,その効果も不定であつたと推定せられる。1942年O'Brien and Swan6)は塩化ベンザルコニウムのようなwetting agentを0.03%添加することにより水溶液中のcarbacholの角膜透過性が著明に亢進する結果,同濃度の単なる水溶液に比して著明な眼圧下降作用を示すことを見出した。

第24回日本臨床眼科学会 GROUP DISCUSSION

視野の会(第7回)

ページ範囲:P.1409 - P.1411

 昨年の第6回視野の会での取り決めどおり,視神経疾患の視野をメインテーマとして,大阪医大,阪大,東京医大の3大学によつて宿題報告が行なわれ,このほかに岩手医大から網膜色素変性症についての講演があつた。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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