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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科24巻12号

1970年12月発行

雑誌目次

特集 緑内障

緑内障に関するこれからの課題について

著者: 須田経宇

ページ範囲:P.1433 - P.1434

 本誌の「緑内障の特集号」にあたり,2,3の依頼があり,筆者にはそのイントロダクションを書くようにとのことであつた。そこで特集号の緒言の意味で,日頃考えていることの1,2を簡単に記しておこうと思う。
 そもそも緑内障とはいかなる疾患であるか。緑内障の定義は,だれしも高眼圧については述べているが,深く検討してみると必ずしも確然とはしていない1)。緑内障は一般には高眼圧であるので,眼圧がある一定以上越したもの(Becker and Shaffer,須田,Newellらは20mmHgを越したもの,Glosterは22mmHg,Sugarは24mmHgを越したもの)は一応緑内障を心配して精査するように述べている1)。しかしながら,眼圧がたとえ25mmHg以上であつても,ほかに緑内障特有な症状が見出されなければ,それはただ単に高眼圧というにすぎず,緑内障とは診断するわけにはいかない。Ar—maly2)は正常視野を有するもの3936名(20〜79歳)について眼圧と視野の検査を長期(長いものは10年間)にわたり追及した結果,最初の眼圧が29mmHg以上あつたものでも視野の欠損が生じたものは驚くほど僅少であり,緑内障の診断にあたつては眼圧だけではなく,視野の欠損の証明が重要であるといつている。

緑内障の診断および現在の問題点,これからの方向

著者: 岩田和雄

ページ範囲:P.1435 - P.1442

はじめに
 緑内障の早期診断は古くて,しかもつねに新しい問題である。
 緑内障の診断について論ずる場合,眼圧が異常に高ければ緑内障であるという古典的な考え方は,現在もなお根底にあることはいなめない。実際にこの考え方だけに立脚するならば,症状の固定した完成された緑内障だけを取り扱うことになるから,ことさらに煩わしい検査も必要とせず,診断になんら困難な問題もない。

各種眼圧測定法

著者: 東郁郎

ページ範囲:P.1443 - P.1455

I.緒言
 眼内圧は適切なmanometryによつて正確な値が得られるが,臨床的には眼圧計による間接的な測定法(tonometry)によらねばならない。
 緑内障の特徴が上昇眼圧にあるとしたMacken—zie (1830)1)は触診法(digital tonometry)の診断的価値を証明し,Bowmann (1862)がTnを中心として±3段階の判定基準を記載した。当時von Graefe (1862),Donders (1863)が眼圧計を考案し,その後も多くの研究者達が発展させたが,いずれも眼瞼上からや球結膜上からのもので正確なものではなかった2)。Koller (1887)がcocainの局麻作用を報告したことは,眼圧測定にも大いに貢献することになつた。同じころMaklakoff (1885)3)は圧平眼圧計を考案し,ついにSchiötz,H.(1905〜11)4)〜6)が精緻な圧入眼圧計を発表し,以後その細部にわたる改良はあつても現在までoriginal tonomerの原理や型は変わらずに,臨床に広く応用されてきた。その後,電気眼圧計の発展や,Friedenwald,J.S.の詳細な研究があり7)〜9),眼圧計を用いて眼内圧のみならず房水の流出率(outflow facility)をMoses,R.A.&Bruno,M.(1950)11)およびGrant,M.(1950)12)によつて定量化し,臨床面に応用された。

房水の産生と流出について—トノグラフィーの問題点

著者: 三島済一

ページ範囲:P.1457 - P.1470

I.はじめに
 眼房水の産生と流出,眼圧に関する生理とその病態は,純粋に生理学的な立場からも,また緑内障の病態を理解するという立場からも,多くの人の興味をひき,その研究発表はぼう大な数にのぼる。1930年代の後半から1950年までの10年あまりの間に,房水の産生量,眼圧,房水の排出経路とその機構などに関する定量的な研究が成功し,これらの生理がかなり理解されるようになつた。眼圧が房水産生と流出のバランスによる動的平衡の結果であるとする考えが,数式化されて定量的な表現となり,これにつれて房水の1分間あたりの産生量,その流出抵抗,またはoutflow facility,Ocular Rigidity Coefficientなど,いくつかの基本的概念が導入された。このような時代の背景のうちに,眼圧計製作上の技術的進歩と相まつて,われわれのもつTonographyなる臨床的技術を生み出し,眼圧,房水産生に関する研究が現代に入る。
 その後Tonographyの基本的問題に対する反省も含めて,房水の産生と流出に関する研究が盛んになり,新しい概念や技術も導入され,われわれの知識は豊富になるとともに複雑になつた。

薬剤治療の限界と手術

著者: 湖崎弘

ページ範囲:P.1471 - P.1479

I.緑内障の治療原則
「緑内障は眼圧上昇と視神経循環不全の両者から視機能障害を起こす疾患である。したがつて治療も両者に対して行なわねばならぬ」
 緑内障,すなわち眼圧上昇との考えが最初の定義であり,Mackenzie (1830)は眼圧の病的充進状態を意味し一時的眼圧上昇も緑内障と考えた。それが時代とともに変わり,Thiel (1931),Sugar (1957)では眼内圧が上昇したからといつてただちに緑内障とはいえない。眼圧上昇により組織に変化を生じ視機能に永続的あるいは一時的障害をきたしたものが緑内障であると変わつてきた。つまり単なる眼圧上昇のみを緑内障から分離したのである。(Ocular Hypertension,Perkins 1966)。次に眼圧が常に正常範囲にあるが緑内障特有の視神経の変化,視野異常のあるものが多数発見されるに至り,これも緑内障と考えざるをえなくなつた(低眼圧緑内障)。かくして定義も変わり,Eriedenwald (1949)では緑内障とは眼圧が眼の永久的健康と機能とに抵触しない圧--normative pressure (健常眼圧)を越えたために起こる一つの疾病群であるとなり,須田経宇(1949)では緑内障とは眼圧調整機能障害により眼圧が健常眼圧を超えて上昇し,したがつて視機能障害と解剖学的変化を伴つた眼疾患であるということになつた。

続発緑内障

著者: 高久功 ,   山之内卯一

ページ範囲:P.1481 - P.1488

はじめに
 緑内障の診断治療は,隅角鏡,トノグラフィー検査のルーチン化,負荷試験の確立,降圧剤の開発に伴い画期的変遷をとげたが,これらは続発緑内障の診断治療にも大きな役割を演じている。
 続発緑内障は,日常外来で比較的しばしば遭遇する眼疾患の一つであるが,眼圧上昇の誘因となる原疾患の治療と眼圧調整を兼ね行なわねばならないのが,原発緑内障の治療と異なる点である。

低眼圧緑内障と偽緑内障について—新しい概念としての圧敏感状態

著者: 澤田惇

ページ範囲:P.1489 - P.1492

はじめに
 原発緑内障,特に慢性の場合の診断に当たつて,眼圧値のほかに,視野の変化,視神経乳頭の所見も重要な意義を持つている。眼圧が高く,視野や視神経乳頭に変化のある場合の診断は容易であるが,視野に緑内障にみられるような変化があり,視神経乳頭にも緑内障様の陥凹,萎縮があるにもかかわらず,眼圧が正常範囲にある場合の診断は困難なことが多い。このような症例に対して,低眼圧緑内障low tension glaucoma,あるいは偽緑内障pseudoglaucomaと呼ばれているが,その意味するところは必ずしも同じでなく,病因論的にも種々の問題があるので興味深い。昨秋の緑内障グループディスカッション1)で私見を述べたが,今回は綜説的に現在の動向を紹介したい。

緑内障とアトピー素因—特に,頤皮膚変常とHertoghe徴候

著者: 飯沼巌 ,   愛川和代 ,   嶋本寿

ページ範囲:P.1495 - P.1506

I.緒言
 緑内障に原発性と続発性とがある。原発性とは確実な原因が不明なるもの,続発性とは確実な原疾患があり,そのために緑内障を起こしているものであることは,須知のとおりである。したがつて検査技術が進歩し,十分な検査を行なえば行なうほど,原疾患は明確となり,原発性のものは減少し,続発性のものが漸次増加してくるであろうことは理の当然であろう。
 筆者は,眼科を志して30余年,特に緑内障に興味を持つて以来すでに20余年になるが,近年になつて,ようやく従来原発緑内障であるとしていたような症例中に,相当多数例が,「あれは続発性ではなかつたか」と反省せしめられるような経験をするようになつた。誠に恥ずかしい次第である。しかし,これには,その間における検査器械(細隙灯顕微鏡,隅角鏡,その他)の進歩があり,そのために細かい観察が可能になつた点が大きいと思われるが,他面その間における着目眼の進歩もあつたかと思われる。

先天緑内障晩発型(Developmental Glaucoma)の隅角所見に関する2,3の問題

著者: 井上洋一 ,   井上トヨ子

ページ範囲:P.1507 - P.1512

I.緒言
 developmantal glaucoma (DG)の病因が,隅角部の発生異常によることは周知の事実である1)〜3)。このDGには,早発型(いわゆる先天緑内障,水眼症)と,晩発型(いわゆる若年緑内障)の大部分が含まれる。ここで若年緑内障の大部分と述べたのは,若年緑内障にはDG晩発型のほかに単性緑内障の早発型が含まれるであろうからである4)
 さて,DG早発型はその特異な臨床像と数多くの研究が相まつて,その診断も容易になつている5)6)。しかるに,晩発型については単性緑内障早発型とともに,若年緑内障に含まれていたために,その臨床像を追究した報告も少なく,系統的な研究もあまり多くない。若年者の眼球を摘出して,組織学的にこの種の緑内障を検索する機会が少なかつたことにもよるが,臨床的にもこの種の緑内障の診断に当たつて隅角所見の基準が明確でなかつたことにもよる。このために,DG晩発型を単性緑内障と誤つて報告されている場合が多い。ことに,単性緑内障の遺伝家系,または水眼症と単性緑内障が同一家系に現われた遺伝例などの報告の大部分は,DG晩発型ではなかつたかと著者らは考えている。

連載 眼科図譜・150

毛様体嚢腫について

著者: 戸張幾生 ,   花見千成

ページ範囲:P.1431 - P.1432

〔解説〕
 毛様体は,組織学的に前部のCorona ciliaris (毛様冠)と,後部のParsplana (扁平部)に分けられる。臨床的に毛様冠に嚢腫がみられる例は非常にまれであり,また,毛様体扁平部の嚢腫は,強膜圧迫などによりみられることもあるが,直接観察することが困難である。多くは,剖検例で認められることが常である。
 毛様体嚢腫は,普通ほとんど臨床症状がみられない。症例は63歳の女性でちらちらするという主訴で某医を訪ね,検査のため散瞳したところ瞳孔縁に濃褐色の腫瘍がみられるということで,当科を紹介された。

銀海余滴

変な人種がふえてきた

著者: 初田博司

ページ範囲:P.1455 - P.1455

 医学医術を介して医者と患者との交渉があり,すべてはきわめて科学的に事務的に処理されてよいわけなのだが,そこはやはりお互いに人間である。往時の初診の患者はといえば,病院なりそこの医者なりを一応信頼しているからこそおずおずと門をたたく形だつた。医者の方も誠意をつくして信頼に応えるべく努力したし,その誠意に対して病気の経過とは別に患者は心から感謝し,さらに信頼を深めたものだつた。それが現代となるといろいろの人種がふえた。初診の患者で医者のテストにやつてくるものがいるかとおもうと,医者をやとつているぐらいの腹でいるらしく信頼どころか全くごうまんな態度で早くやらないかとばかりふんぞり返つて順番を待つている奴がいる。
 「どうしました?」という最初の問に「診れば判るだろう」などというのがいたり,それほどでなくてもだまつて指で自分の眼を差すのが多い。久し振りの二度目の再診なのに,「いつこうによくなる気配がない」と大きな声で不満をぶつつけてくる奴もいる。良くなつてあたりまえだという考え方だから不満が先にたつし,治つてきたつて感謝の気持など毛頭ない。こんなのがくると全く世の中も悪くなつたもんだと思う。

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緑内障問題についての疑義

著者: 三井幸彦

ページ範囲:P.1514 - P.1514

 私は緑内障を専攻している者ではない。しかしかねてから日常緑内障の基本的問題について2,3の疑義を持つている。この緑内障特集号にさいして須田名誉教授のご好意でそれらの疑義を書かせていただけることを幸いとする次第である。
 緑内障に限らず白内障の手術のさいに眼内圧を下げておくことが好ましいのは周知のことである。眼圧が高い時には角膜弁を作つた時Irisdiaphragmが前進し,降圧しておけば後退することもよく知られている。眼圧が房水のRegulationによつて規定されるという現在の通念からは,理解することができない現象だと思う。角膜を穿孔して房水をもらせば,房水圧は零になるはずである。したがってIris diaphragmの前進,後退が眼圧の高低に関係するということは説明できないように思う。

開業医の雑記帳

著者: 三宅正夫

ページ範囲:P.1515 - P.1515

 最近の人手不足は,求人難などという生やさしいものではない。求人パニックである。中学卒は金の卵で,大学卒はジャリだなんていう人もある。中卒が金の卵なら,高卒はさしずめ銀の卵ということができよう。
 求人難が盛んに新聞紙上の社会面をにぎわしているが,ご多聞にもれず,われわれ医療機関の人手不足もさらに深刻である。

臨床実験

毛様体嚢腫について

著者: 戸張幾生 ,   花見千成

ページ範囲:P.1517 - P.1520

I.はじめに
 毛様体は,普通,臨床的にはこれを直接みることができない。毛様体の嚢腫は,メラノームやその他の疾患による眼球摘出後や,多発性骨髄腫などによる死後の剖検により認められる場合がほとんどである。
 臨床的に毛様体嚢腫がみられることは,はなはだ少ない。今回,ホトスリット,およびGold—mann型三面鏡使用により,毛様体の毛様冠(Co—rona ciliaris)嚢腫の撮影に成功し,またこの毛様冠嚢腫を光凝固することにより縮小させ,ほぼ治癒に導くことができたので,症例を中心に毛様体嚢腫について述べてみたいと思う。

原発広隅角緑内障に対するIsoxsuprine Hydrochlorideの治療効果について

著者: 北沢克明 ,   川西恭子 ,   後藤いづみ ,   中村泰久 ,   中村千春 ,   能勢晴美

ページ範囲:P.1521 - P.1527

I.緒言
 交感神経系についての知見の増大とともに,adrenergic agentの眼圧あるいは房水動態におよぼす作用が近年特に注目されている。α—作用物質によって房水流出が増加することについては,いくつかの報告がある1)2)。一方,β—作用物質の房水動態におよぼす影響についてはいまだ定説がない。代表的なβ—作用物質であるisoprotere—nolの局所投与により眼圧下降が生ずることはすでにWeekers et al3),北沢・川西4), Ross&Drance5)らにより報告されているが,その房水流出抵抗におよぼす影響については意見の一致をみるに至っていない。一方,同じβ—作用物質であるDuvadilan (Isoxsuprine HCI)の局所投与により,水川ら6),北沢ら7)は人眼において房水流出率の増加を認め,特に水川らは緑内障に対し房水循環改善の目的でDuvadilanを用いる意義について述べている。
 また,Duvadilanはβ—作用に基づく血管拡張作用を有し末梢循環血液量を増加させることから,その緑内障性視野変化に与える影響について検討することは興味あることと思われる8)

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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