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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科25巻3号

1971年03月発行

雑誌目次

特別寄稿

棉花様白斑(主として膠原病に於ける)の発生病理

著者: 鹿野信一

ページ範囲:P.235 - P.241

はじめに
 諸種全身病において,また眼局所の疾患において,棉花様のいわゆる軟性白斑の出現することは周知のことであり,この軟性白斑部に,組織学的にcytoid bodyが多数みられることも周知のことである。腎炎性網膜症,うつ積乳頭,糖尿病性網膜症,網膜中心静脈血栓症,貧血性網膜炎Pur—tcher病,静脈周囲炎等々,様々の疾患がこの棉花様白斑を眼底に出現させる。
 いわゆる膠原病においてもこの棉花様白斑がみられ,全身紅斑性狼瘡,全身強皮症,皮膚筋炎にその典型的姿を見得る。しかしすべての膠原病に本症状をみるわけではなく,ロイマチス,Behçet病などにはこのような症状は現われにくい。

超微量分析による毛様体新生房水Ciliary Body Fluidの産生量および電解質組成に対するOuabainの効果について

著者: 桑原安治 ,   坂上道夫

ページ範囲:P.242 - P.246

緒言
 Ehrlich (1881)の血液房水柵の研究を嚆矢として多くの説がたてられてきたが,坂上1)(1967)の報告で示したごとく,Kinseyの分泌拡散説が最も支持されるものと考える。すなわち著者は電解質のエネルギー代謝に関与した輸送の場は毛様体であることを直接Ciliary body fluidの分析より確認した2)3)。さらにRIHSAの実験から虹彩は拡散の場であり,毛様体が能動輸送の場であることを証明した。Kinseyの後房水分析は角膜および水晶体からの影響を無視しているので,当然毛様体からの房水を試料として,直接電解質輸送をみるべきである。また血液毛様体柵は電解質に対して完全な選択的透過性を有し,エネルギー代謝に関与して,さらに炭酸脱水酵素,塩類保持ホルモンなどとも密接な関係を有している。また最も重要なことは高次元での,分子レベルでの能動輸送の機序を解明することも今後の命題であることを述べた4)。これは毛様体における分泌といわれる能動輸送の機序を,高次元での生物物理化学的作用面から解明することである。濃度勾配にさからつて物質を運搬する機構に,エネルギーの供給系を共役させる分子機構の存在は必須である。

スライドの背景色に関する問題

著者: 大塚任

ページ範囲:P.247 - P.250

緒言
 投影にカラースライドを用いる場合,背景色に青を用いることが世界的に流行し,今年の医学総会でも大幅にこれが用いられるようである,著者は,青色スライドは見悪く,疲労を感ずるようなので,しからばいかなる背景色が良いかを検討してみた。

日本における化膿性角膜潰瘍の発生と予防

著者: 中島章

ページ範囲:P.251 - P.255

はじめに
 戦後の薬剤の進歩は眼科に大きな変革を与えた。失明原因として重要であつた膿漏眼は,このところ20年わが国ではまつたく見られない。また,わが国での罹患率が高く,失明の重要な原因の一つであつたトラコーマも急激に減少して,若い眼科医は新鮮例の経験がないぐらいになつた。結核,梅毒についても同様である。桐沢教授らの抗生物質の眼科臨床への応用を中心とする幾多の業績は,眼科臨床への新しい薬剤導入の指針をわれわれに与え,眼科臨床に貢献するところ大であつた。
 一方,有効な抗生物質がいまだ見出されていないVirus (アデノビールス,ヘルペスなど)や真菌,原虫によつて起こる疾患,あるいはブドウ球菌,緑膿菌など常在に近い細菌によつて起こる感染などは,相変わらず眼科臨床での問題であるし,その他いまだに種々の理由で病因がつかめないが,感染症であろうと思われる一群の眼疾患もある。総じて宿主側の条件が問題であるようなものや,病源が常在するか,あるいは同定しにくい感染症が,いまだに眼科臨床でわれわれを悩ませているとみることができよう。

緑膿菌性角膜潰瘍治療の現況

著者: 三国政吉 ,   大石正夫

ページ範囲:P.256 - P.268

緒言
 緑膿菌性角膜潰瘍については,1967年に名古屋で開催された第17回日本医学会総会におけるシンポジウム「グラム陰性桿菌感染症」において治療の概況を述べたところである25)
 当時は主としてColistin (CL),Polymyxin B(PL-B)を中心とするものであつたが,最近Gen—tamicin (GM)26),Kasugamycin (KSM)24),Car—benicillin (CB-PC)31)などの新しい抗緑膿菌性抗生剤が登場し臨床応用されるにいたつて,本症治療は一見容易になつたようにみえる。しかし緑膿菌感染症は宿主側の因子(年齢,個体の抵抗性,臓器親和性),菌自体の性質(感受性,他の菌との共存,血清型別)が重なり,いわゆるhost-para—site relationshipにおいて複雑な様相を呈するため,治療にあたつては常に慎重であらねばならない。

ERGの早期電位,とくにEarly Receptor Potentialに続く陽性電位について

著者: 倉知与志 ,   米村大蔵

ページ範囲:P.269 - P.276

緒言
 当教室においては,従来,眼球とくに網膜の生化学的研究を行なつてきた。その概要は第16回日本医学会において倉知(1963)が総会講演として『眼の新陳代謝とくに網膜の新陳代謝』と題して述べた。この方面の最近の研究活動には錐体視物質,網膜の多糖類,網膜乳酸脱水素酵素アイソザイムなどに関するものがある(倉知1970)。
 眼の生化学的研究に関連して,終戦後,網膜,および,視路の電気生理学的研究が加わつた。

Vogt・小柳・原田症候群,交感性眼炎の発病機転に関する考察

著者: 杉浦清治

ページ範囲:P.277 - P.281

はじめに
 Vogt・小柳・原田症候群(以下原田病と略す)交感性眼炎はまことになぞに包まれた疾患で,古くから数々の研究があるが,これら疾患の本態はなお不明である。臨床症状からみてメラニンあるいはメラノサイトが関係していることは推定できても,それがどの段階でどのように関与しているかはまだわかつていない。以下教室の研究をもとにこれら疾患の発病機転をめぐる,2,3の問題について考察してみたい。

細隙灯顕微鏡の最近の進歩

著者: 梶浦睦雄

ページ範囲:P.283 - P.291

緒言
 細隙灯顕微鏡は1911年Gullstrandによつてはじめて作られ,その初期には,Vogt,Köppe,Henker Combergらにより改良されたが,戦後Littmann,Hruby,Goldmannらにより,多くのすぐれたアイディアが出され,最近の機械は大きな変革がある。これらはいろいろの点でわれわれの臨床に変化をもたらすので,ここに第1図に示したGoldmann 900とCarl Zeiss 100-16を主体として,ここにその大略を述べてみたい。

網膜色素変性の統計的観察

著者: 今泉亀撤

ページ範囲:P.293 - P.304

緒言
 網膜色素変性の統計的観察については,すでに多くの報告がなされているが,そのほとんどは外来患者あるいは一地方に限局したものであり,全国的規模での統計は,盲学校生徒を対象としたものを除いて,いまだ十分な調査は行なわれていない。
 一方,本症の成因解明については,最近,諸家の優れた業績が各方面から相ついで発表され,その努力の実る日も間近いことと思われる。しかし,代表的遺伝病である本疾患の場合には,全国的な調査により本症の実態を把握し,これを優生学的見地から処理することも,臨床的に悲惨な経過を辿る色素変性患者を淘汰する意味で,きわめて重要なことである。

脳卒中患者の眼底所見

著者: 入野田公穂

ページ範囲:P.305 - P.314

緒言
 眼底検査で認められる血管系,つまり網膜に分布する動脈は細小動脈であるが,脳卒中の原因となる血管障害の起こる場所も脳内の細小動脈の部分,たとえば内包付近に分布するレンズ核線状体動脈,レンズ核視床動脈などである。
 しかも,網膜中心動脈も内包付近に分布する動脈もともに内頸動脈の分枝である関係から,網膜中心動脈の変化の追究は頭蓋内の同径大の血管変化を追究する手段として用いられている。

連載 眼科図譜・160

前房内浮遊物の3例

著者: 山田酉之 ,   鬼怒川雄久 ,   涌沢成功 ,   佐藤裕也 ,   山下由紀子 ,   青島周明 ,   朝岡真

ページ範囲:P.315 - P.315

第1図第1例:46歳,女。Behçet病
 10年前,左眼の前房蓄膿を伴つた発作にさいし,プラスゲン(PVP)で前房洗浄したところ,翌日虹彩前面に径1mm以下の透明な嚢胞が数個発生した。これらは数カ月以内に次々に遊離し,現在,前房内に4個がよじれた茎を付着させたままゆつくり浮遊しており,虹彩前面には3個認められている。

眼科図譜・161

モルガニ白内障摘出水晶体の核の移動

著者: 浅水逸郎

ページ範囲:P.316 - P.316

 65歳,男子の左眼。右眼は未熟白内障。
 摘出前にも核の遊動は著明に認められた。嚢内摘出により視力は光覚より1.0に改善された。

原著

弱視教育—その現状と問題点

著者: 桑島治三郎 ,   小柳恭治

ページ範囲:P.317 - P.327

I.弱視教育の意義
 どんな子どもでも,成長し発達する無限の可能性をもつている。これは弱視児とて同じである。しかし,普通児とはちがつて,視力が低い,視野がせまい,あるいは色覚が弱い,といつた障害があるために,生活や学習場面における視知覚的行動(visual-perceptional behavi—or)の面でいろいろと支障がでてきがちである。
 ここで問題にする弱視教育とは,そういつた弱視児の視覚欠陥をなんらかの手段によつて補ない,その潜在能力(potentiality)を最大限に開発し拡大してやる仕事である。

Marchesani症候群

著者: 高久功 ,   木村良造 ,   佐々木秀樹 ,   米地和夫

ページ範囲:P.329 - P.334

緒言
 1939年,Marchesani1)が発生学的にDystro—phia mesodermalis hyperplasticaという想定のもとにBrachydactylie und Kügel-Linse alsSystem-erkrankungとして4例の,短躯,短指趾,先天性球状水晶体および緑内障からなる症候群を発表して以来,この疾患はSpherophaciabrachymorphia syndromeまたはMarchesani症候群(以下Mc'sと略す)と呼ばれ,欧米においては数十例の報告がなされている。しかし,本邦にては極めて少なく,文献的に1944年に報告された富田2)の1例を筆頭とし,以来,百々3)(1957年)の3例,二宮4)(1957年)の1例,原山5)(1964年)の1例,および小森谷ら6)(1965年)の1例などがみられている。
 われわれは,さきに本症の1例について報告したが11),さらに1例に遭遇したので,ここにまとめて報告する。

抗生物質の眼内移行に関する研究(第1報)—とくに恒常状態における房水血清内濃度比

著者: 萱場忠一郎

ページ範囲:P.335 - P.349

緒言
 眼感染症に使用される化学療法剤は,起炎菌に対して優れた抗菌力を持つとともに,それが眼病巣にすみやかに移行し,十分有効濃度に達することが必須条件とされている。
 従来より新しく開発された化学療法剤が,臨床的に応用されるに当たつて試みられる数種の検討項目の中で,眼組織内移行に関する実験は,眼科領域においては重要な事項であり,そこで扱われる眼房(水)内移行濃度(以下房水濃度と略す)は薬剤の眼内移行の良否を知る目安となるものであり,特に血清内移行濃度(以下血中濃度と略す)との比,すなわち房水血清内濃度比(以下房血比,あるいはRAqと略す)は眼内移行の難易を表現するものとして,薬剤選択の可否,投与方法や投与量の決定などの参考に供されてきた。

眼科領域におけるCephalosporin系抗生剤の基礎的研究

著者: 葉田野博 ,   萱場忠一郎 ,   斉藤武久 ,   高橋信夫 ,   酒井文明

ページ範囲:P.351 - P.358

緒言
 1945年イタリアのBrotzuによって発見されたcephalosporium aremoniumから1951年Ab—raham,Newtonらによりcephalosporin P,Nが分離され,さらに1955年cephalosporin Nよりcephalosporin Cの分離に成功し,cephalo—sporin系抗生剤開発の端緒となった。すなわちこのcephalosporin Cより注射剤として,1962年米国Lilly社によりcephalothin (CET),1964年英国のGlaxo社でcephaloridine (CER)1967年日本で藤沢薬品中央研究所でcephazolin(CEZ)が誘導開発された。一方経口剤として1961年Glaxo社にてcephaloglycin (CEG),1966年にはLilly社でcephalexin (CEX)が誘導開発された。その構造式および分子量は第1図のごとくである。日本では1965年第13回日本化学療法学会総会にてはじめて合成cephalosporin Cについてシンポジウムがひらかれ,主にCER,CETについて検討され,1969年第17回日本化学療法学会にてはCEX,1970年第18回日本化学療法学会にてはCEZが検討され,CEGもそのほかの研究会にて検討された。

Potassium Hetacillinの眼科領域における基礎的および臨床的研究

著者: 葉田野博 ,   斎藤武久 ,   高橋信夫 ,   前川暢男 ,   萱場忠一郎

ページ範囲:P.359 - P.363

はじめに
 Potassium hetacillin (以下Het-Pと略)は1965年Bristol Laboratoriesの研究所にて開発された広範囲スペクトラムを有するAminoben—zyl-Penicillin (以下AB-PCと略)類似の新しい合成ペニシリンであるHetacillinのK塩で,その構造式は第1図のごとくである。本剤はHetacillinに比し,きわめて水に溶けやすく,加水分解されてPotassium-AB-PCとAcetoneに分解されるといわれている。また血中濃度も高く,その最高血中濃度は同量投与した場合のAB-PCよりはるかに高くなるといわれている。
 今回われわれは,このHet-P経口剤を用い眼科的応用に関し検討したのでその成績を報告する。

眼科領域におけるCarbenicillinの基礎的および臨床的研究

著者: 葉田野博 ,   萱場忠一郎 ,   斎藤武久 ,   高橋信夫 ,   朝岡真

ページ範囲:P.364 - P.372

緒言
 Carbenicillin (CB-PCと略)は1963年英国のBeecham社で開発された新しい合成ペニシリンで,1967年ウィーンにおける第5回国際化学療法学会にてはじめて世に紹介された新抗生物質である。わが国では,1968年第16回日本化学療法学会総会においてシンポジウムにとりあげられ検討された。本剤の最も特徴的な点は,PC系抗生物質では変形菌,緑膿菌に対して有効なことが知られたはじめての薬剤であることである。今回われわれは本剤の眼科的応用,特に局所投与における眼感染症の効果,眼内移行策につき検討したのでその成績を報告する。

Aminodeoxykanamycin (AKM)の眼局所投与—とくに結膜下注射の効果

著者: 葉田野博 ,   酒井文明 ,   高橋信夫 ,   斎藤武久

ページ範囲:P.373 - P.379

緒言
 Aminodeoxykanamycin (AKM)はKana—mycin (KM)に類似した抗生物質であり,広範な抗菌スペクトルを有し,各科で広く用いられていることは周知のごとくであり,眼科領域においても有力な化学療法剤であることはすでに報告されている1)2)3)。化学療法剤が眼科において特に有効に用いられる条件としては,抗菌スペクトルに関しては他科とあまり相違はないが,全身投与にさいしては眼内組織への移行のよいこと,局所刺激の少ないこと,などである。KMが局所使用に関してこの2条件をよく満たすことは,われわれの教室でもすでに報告したが,AKMもまた,KMに劣らぬ長所を有している。この性質は特に結膜下注射にさいしてはなはだ有利であるが,われわれはこれの比較的大量の結膜下注射(以下結注と略)を行ない,動物実験および臨床実験に見るべき成績を得たので報告する。

家兎房水内薬剤移行に関する知見補遺

著者: 小熊勇

ページ範囲:P.381 - P.387

 薬物の目に対する影響を考える場合,眼組織内への移行ということが大きな問題となるが,そのさい一般には,血中濃度と房水中濃度の比,すなわち房血比をもつて眼内移行の良否が論じられている。
 薬物の種類,また投与法,投与量,投与後の時間経過等によつても房血比は変化する。

点眼剤に関する研究

著者: 針生アイ

ページ範囲:P.389 - P.405

〔第1報〕細菌および真菌による点眼剤の汚染実験
緒言
 点眼液は本来,無菌的であるべきであるが,たとえ完全に調剤されたものでも使用中に空気中の浮遊菌や患眼との接触によりしばしば汚染され,そのために重篤な眼障害を招くことがある。したがつて点眼液の汚染防止,および滅菌は眼科の臨床にとつて重要な問題である。しかも点眼液には加熱によりその効力が落ちるものも多く,そのために防腐剤の添加も行なわれるが,その防腐剤にも個々の点眼薬と配合禁忌のものもあり,点眼薬の防腐は複雑な要素を含んでいる。
 従来,点眼薬の殺菌に関しては多数の研究が行なわれているが,いずれも細菌に関してのみであり,真菌による汚染などに関する研究はきわめて少ない。しかも点眼薬の種類は戦後全く一変したといつてもよい実態であるにもかかわらず,これらの新しい点眼薬の汚染に関して系統的な研究はきわめて少ない。今回,著者は数種の点眼薬について,その汚染の状態ならびに細菌,真菌などによる汚染の可能性について実験を試みたのでその成績を次に報告する。

角膜Temperature Reversal Effectに及ぼす薬剤の影響

著者: 高橋信夫

ページ範囲:P.406 - P.412

緒言
 点眼に用いる薬剤の角膜に対する障害度を測定して,これを数量的に表現する方法として,角膜のTemperature reversal effectをもつてする方法が提案されているが1)2),これに関する詳細な実験はまだ見当たらないので,著者は今回本法について検討し,2,3の知見を得たので報告する。
 角膜には低温で水分を吸収して厚くなり,体温にもどせば水分を排出してもとの厚さに近くなるという性質があり,これをTemperature rever—sal effectというが3)4),その代表的な測定法には次の二つがある。

発育期の屈折異常に関する疫学的研究

著者: 米地和夫

ページ範囲:P.413 - P.426

緒言
 近視,特にその屈折状態および原因に関しては古くより論ぜられ,また討議されてきた。そして最近,著しい近視の増加傾向とともに種々の形で近視問題がクローズアツプされてきつつある。また戦後の抗生物質の発達,環境衛生の向上,衛生思想の普及などにより眼科領域における学校病の主体はトラコーマを主とする感染性疾患よりも視機能障害の発見,予防の方向へと向かう傾向にあることは当然である。
 児童生徒における屈折異常の出現は環境要因に支配されるところが少なくないと考えられるが,市部・郡部などの環境条件を異にする地域についてその出現頻度を比較することはその発生機作を解明するうえからも,また児童生徒の視力管理上からもきわめて有意義なものと考えられる。この意味において,今回宮城県下農村部,漁村部および都市部の小中学校児童生徒を対象として屈折状態の調査を行なつたのでその結果を報告する。

レフラクトメーターによる屈折測定について

著者: 米地和夫 ,   井出醇

ページ範囲:P.427 - P.429

緒言
 われわれは普通外来での眼屈折測定にさいしては自覚的検査法と他覚的検査法とを併用し,その両者の成績を勘案して眼屈折状態を定めるのが常道である。他覚的検査法としてわれわれが日常用いるのは検影法,直像検査法,レフラクトメーターなどであるが,いずれの検査法においても自覚的屈折検査とはいくぶん違つた値が測定される。これまで検影法の誤差については幾多の報告があるが,特定のレフラクトメーターについて検討したものは比較的少ない。しかもその誤差は機械の種類,方式などにより異なることが予想されるので,今回われわれはZeiss-JenaのHartinger合致式レフラクトメーターを使つて眼屈折状態を測定し,自覚的測定法との違いについて検討を加えてみた。

皮膚移植よりみた眼瞼の特異性に関する実験的研究

著者: 井出醇

ページ範囲:P.431 - P.454

緒論
 今日,皮膚の自家移植は広く行なわれており,外科的手技に失敗のないかぎり生着が見込まれている。これに反して同種移植は一卵性双生児その他特殊な場合を除いては成功しないというのが定説となつている。しかるに眼瞼においては,これが臨床的に生着したようにみえることは珍しくなく1〜4),山本ら5)も最近眼瞼外反に対する同種植皮の成功した症例を報告している。それによれば,上眼瞼に患者自身の上腕屈側よりの皮膚を移植し,同時に下眼瞼には実父の同上部よりの同種植皮を行ない,その治療経過中における形態的差異(移植部の段のつき方,萎縮の程度,脱落の有無など)を臨床的に比較観察し,また発汗機能などを検査した成績では,両者の間にきわだつた肉眼的差異を認めなかつたという。
 一般に同種全層植皮片は初期には自家植皮片と同じ経過をたどるが,やがて硬化して痂皮様となり最後には壊死化して脱落するのが普通である。そのため眼瞼にみられる上述のような生着現象を矛盾なく説明するのに,一部の人々によつて遷延性拒否反応なる概念が眼瞼にも適用された。皮膚における遷延性拒否反応とは,植皮片が部分的硬化と米糠様の落屑を示しながら,次第にその大きさを減じ,最後まで創面を露出することなく,ついには植皮床の瘢痕組織によつて置換されることをいい,実験的に2系の純系マウスの中間層同種植皮時6)に,臨床的にヒトの双生児間7)に,この型の反応をみることがあるといわれる。

眼瞼癌の臨床—特に手術的療法について

著者: 井出醇 ,   青島周明

ページ範囲:P.455 - P.470

緒言
 本邦における眼瞼癌の報告は,1889年平野1)をもつて嚆矢とし,以来現在に至るまで300余例の多きに達し,あらゆる角度から検討が加えられてきている。
 われわれは,最近5カ年間に東北大学眼科を受診し,かつ入院した眼瞼癌の患者の中から,治療特に手術的治療の面からみて興味のある症例を選び検討を加えた。

毛母細胞腫(石灰化表皮腫)の2例

著者: 清宮輝夫 ,   今井克彦 ,   千葉美和子

ページ範囲:P.471 - P.474

緒言
 毛母細胞腫(石灰化表皮腫)は,多くは正常皮膚に被われ,皮下組織中に局在し,かつ骨様硬度を有する良性腫瘍である。本症は皮膚科領域においてはしばしば報告されてはいるが,眼科領域での報告は少なく,比較的まれな腫瘍とされている。われわれは眼部皮下に発生した本症2例を経験したので組織所見を中心に報告したい。

創傷の縫合・接着材料等に対する眼組織の反応に関する実験的研究(第1報)—各種縫合糸に対する眼組織の反応

著者: 栗原佳子

ページ範囲:P.475 - P.485

緒言
 外科的療法のうちで,創傷の縫合は,最も基礎的な方法であるが,すでに紀元前500年には,ヒンズーの外科医Susrutaは,縫合糸の材料として,木綿,麻,皮革,馬毛,動物の腱などに注目したといわれている1)。以来長年月にわたり,縫合糸に関する改良と研究が続けられ,各種材料についての利点,欠点に関し数多くの報告が行なわれてきた。
 しかるに,眼科方面においては,縫合糸に関する系統的研究は比較的少なく,ことに近年に発達した各種の合成線維や新しいCatgutに非吸収性加工を施した新しい縫合糸などに関してはその実際的優劣や,適正な使用法の検討はほとんどなされていない。

創傷の縫合・接着材料等に対する眼組織の反応に関する実験的研究(第2報)—創傷接着剤の眼組織に対する反応

著者: 栗原佳子

ページ範囲:P.486 - P.492

緒言
 眼科手術においても外科手術と同様,創傷癒合の目的で従来より縫合糸による縫合法が原則として用いられている。この糸の種類による眼組織の反応とその吸収についてはすでに著者は第1報において明らかにした。しかし一方においては糸による縫合法とは別に創傷癒合の目的で接着剤を用いようとする試みがなされている。従来より医療に用いられている接着剤には絆創膏があるが,これは天然ゴムと亜鉛華を混合したもので最も単純な形の接着剤である。近代工業,特に高分子化学の発展はこの医療の分野にもより理想的な形の接着剤を提供しており,生体という特殊な構成をもつものの接着を可能ならしめている。
 現在接着剤として用いられているものには次のようなものをあげることができる1)

創傷の縫合・接着材料等に対する眼組織の反応に関する実験的研究(第3報)—癒着防止材料に対する眼組織の反応

著者: 栗原佳子

ページ範囲:P.493 - P.499

緒言
 外科的手術にさいして止血の目的で,吸収性,非抗原性のゼラチンスポンジが1945年Correlらにより開発されてからこの方面での研究が進み,1950年には同じくCorrelによつて硬膜,胸膜などの膜様組織の欠損を充填保護し組織の癒着防止目的でゼラチンフィルムが考案された1)。著者の用いた眼科用ゼラチンフィルムの化学的性質は次のとおりである。1)ゼラチンフィルムは重合させた硬化ゼラチンであるため局方ゼラチンの平均分子量(20,000〜150,000)よりも大である。2)厚さは0.075mm,3)必須アミノ酸であるトリプトファンを含まない。4)水を吸つて膨潤し軟化する。5)抗原性がない。
 従来このゼラチンフィルムを用い眼科的に使用した外国の報告はいくつかみられるが2)〜6)8),それらはいずれも部分的な記述にとどまり,眼部各組織に用いた総合的な報告はない。著者はこの点に鑑みこのゼラチンフィルム(Gelfilm,以下GFと略記)を家兎の前房,球結膜下,上直筋下,硝子体内に用い,その肉眼的ならびに組織学的検索を行ない,眼科領域での臨床的応用の可能性について検討を加えた。

涙腺結核の1例

著者: 玉井春子

ページ範囲:P.500 - P.502

緒言
 涙腺結核の報告は外国ではそれほど珍しくないが,わが国ではきわめて少ない。ことに結核症の著しく減少した今日,涙腺部腫瘍の本態を探索する場合に,結核性を考慮する必要はほとんどないといつてよい。しかし結核性のものも絶無ではないのであつて,著者は最近臨床的には眼窩腫瘍特に涙腺部腫瘍として摘出したところ,病理組織学的には涙腺結核であることを確認した1症例を経験したので,ここに報告する。

点状表層角膜炎(Thygeson)の2例

著者: 今井克彦 ,   渡辺幸子

ページ範囲:P.503 - P.506

緒言
 点状表層角膜炎(Superficial Punctate Kera—titis以下SPKと略す)は,最初にFuchs1)が記載して以来,種々の曲折を経て特にThyge—son2)は,流行性角膜炎にさいし,生ずる角膜炎とは別に,独立した疾患をSPKと呼ぶことを提唱し,Thygeson's SPKと名付けた。
 本邦においても杉浦ら3)10)が,Keratitis pu—nctata epithelialis (仮称)なる病名にて,同一疾患を呼ぶことを提唱している。このほかには2〜3の報告例7)8)9)が,みられるにすぎない。われわれも最近,同一疾患と考えられる2例に遭遇したのでここに報告する。

強膜潰瘍の患者に試みた同種強膜移植の1例

著者: 大槻潔 ,   佐々木一之 ,   米地和夫

ページ範囲:P.507 - P.510

緒言
 一般に強膜に潰瘍性変化を生ずることはきわめてまれである。しかしなんらかの原因によりひとたび潰瘍性変化を生ずると,なかなか治りがたくかつ穿孔等によりしばしば重篤な結果を引き起こす。
 最近われわれは翼状片の術後に発生したと思われる強膜潰瘍の患者に比較的新鮮な人強膜移植を試み,自覚的には疼痛消失し,他覚的にも一応良好な結果を得たのでここに報告する。

実験的前房出血の吸収に関する研究

著者: 町田晶子

ページ範囲:P.511 - P.522

〔第1篇〕標識赤血球を用いた実験的前房出血の吸収
緒言
 眼科領域における出血性疾患は,われわれが日常しばしば遭遇するものであるが,出血量の多少はもちろん,その吸収の遅延は視機能の予後を大きく左右する。現在眼内出血に対しては,止血剤,血管強化剤,末梢血管拡張剤,酵素剤等種々の薬剤が用いられているが,出血に対するそれらの薬剤の効果を客観的に観察できれば,より正確に薬剤の効果を判定し得ると考えられる。このさい,実験的に眼内出血を作るにあたつて,出血を自然発生的に,しかも定量的に作ることが出来れば最も理想的であるが,少なくとも現在では不可能であろう。著者は血液の注入,観察が容易で,かつ吸収過程を定量的に表現できるという点を考慮し,今回は51Cr標識赤血球を前房内へ注入し,その吸収に関する実験を行なつた。

Posner-Schlossman症候群に関する研究(第1報)—単純緑内障と合併せる1例

著者: 木村良造 ,   前川暢男 ,   今井克彦 ,   藤村澄江 ,   新田邦宏

ページ範囲:P.523 - P.526

緒言
 Posner-Schlossman症候群(以下P-S症候群と略す)は1935年Kraupa1)がglaucoma aller—gicumとして報告した数例をもつて嚆矢とすべきものであるが,1948年PosnerおよびSchloss—man2)がGlaucomatocyclitic crisesとして症状,診断基準等を体系づけ,以来P-S症候群とよばれるようになつたものである。
本邦においても本症候群の報告はすでに多くをかぞえているが,本症候群と他の緑内障とが合併したという報告は少ない

Posner-Schlossman症候群に関する研究(第2報)—Posner-Schlossman症候群の発作間歇期の眼圧についての考察

著者: 木村良造 ,   前川暢男

ページ範囲:P.527 - P.531

緒言
 1948年,Posner A.およびSchlossman A.1)はPosner-Schlossma症候群(以下P-S症候群と略す)の定義として以下の8項目をあげている。すなわち,
(1)片眼性である。

Comberg眼圧計,Schiötz眼圧計およびDraeger Handapplanation Tonometerによる眼圧計測値の比較検討

著者: 西山義一

ページ範囲:P.533 - P.537

緒言
 人の眼内圧を簡易にそして正確に把握したという,眼科臨床医の希望をみたすべく,種々の眼圧計が開発され,あるいは改良されている。
 このようにして多くの眼圧計が臨床家に提供されたとしても,各眼圧計の測定値についての比較検討もともに行なわれないかぎりにおいては,臨床家は困惑し,さらには混乱をも生じかねない。

副腎皮質ホルモン剤の内服によつて惹起されたと考えられる緑内障—その2症例

著者: 木村良造 ,   斎藤武久 ,   山口清乃 ,   氏家瑞恵

ページ範囲:P.539 - P.544

緒言
 副腎皮質ホルモン剤(以下副皮ホ剤と略記)の投与によつて惹起される緑内障に関してはすでに多数の報告があるが,その大多数は局所使用によるもので,内服によつて起こつたものは比較的少ない。
 著者らはこのたび副皮ホ剤の内服投与をうけ,その結果緑内障が惹起されたと考えられる2症例を経験したのでここに報告する。

Phacolytic Glaucomaの1例

著者: 涌沢成功 ,   木村良造

ページ範囲:P.545 - P.548

緒言
 水晶体由来の緑内障中,過熟白内障に併発するものについては,古くから種々の呼名で報告されている。Flocksら1)は本症の多数例について臨床的,病理学的に検討し,phacolytic glaucomaとして一疾患単位に一括した。その後,同様な機序の緑内障は過熟白内障にのみでなく,水晶体実質が房水中に出現する状態にあれば生ずることが確かめられ,迅速な水晶体摘出と前房洗浄を行なうことが強調されている。著者らは組織学的に本症の1例を検討したので報告する。

水晶体嚢の生化学的研究(第1報)—糖とアミノ酸組成

著者: 福士克

ページ範囲:P.549 - P.556

緒言
 水晶体嚢は水晶体を完全に包被する膜で水晶体上皮細胞より分泌されるものと考えられる1)。この膜は水晶体の代謝産物の透過を調節する点で重要な働きをもつている。水晶体前嚢は水晶体上皮細胞に接しているが,後嚢は直接水晶体細胞に接している。
 電子顕微鏡的に水晶体嚢はコラーゲン様の線維構造を認めないが,X線回折とヒドロキシプロリンの高い含量からコラーゲン性の膜と考えられている2)

水晶体嚢の生化学的研究(第2報)—糖蛋白の化学構造

著者: 福士克

ページ範囲:P.557 - P.567

緒言
 水晶体嚢は代表的な基底膜の一つと考えられ,そのアミノ酸組成はコラーゲン様物質であり約11%の糖を含む。その糖はグルコース(以下Glcと略),ガラクトース(Gal),マンノース(Man)フーコース(Fuc),シアル酸,ヘキソサミン,ヘキソウロン酸であつた1)。この基底膜の構造をさらに理解するために糖単位の組成と蛋白との結合状態を知ることは重要なことである。
 Pirie2)はこの糖と蛋白との結合を切るために種々な抽出方法を用いたが,分離できず,この結合はかなり強いことを認めている。

白内障の成因に関する実験的研究(第2報)—水晶体蛋白質の加令による変動についての研究

著者: 長谷川桂子

ページ範囲:P.569 - P.584

I.水晶体皮質可溶性蛋白質分画方法の検討
はじめに
 白内障の成因に関する研究は,数多くの文献が示すごとくに,近年ますます盛んに行なわている。ことに老人性白内障は,老化の端的な表現であるといわれ,その物質代謝の解明や蛋白質の分析が行なわれているにもかかわらず,その成因に関してはなお不明の点が多い。われわれはその成因の一端を究明する目的で,先に老化と関連した水晶体内の水分そのほかに関して検討した38)。今回はこれに引続いて水晶体の老化に伴う蛋白質の変動が老人性白内障とどのように関連するかを,ネズミ水晶体および老人性白内障水晶体を用いて実験観察したので次に報告する。
 1894年Mörnerがはじめて水晶体蛋白を3種溶性蛋白と不溶性蛋白に分画し,これらは後にα,β,γクリスタリン,およびアルブミノイドと名づけられたことは周知の通りである。近年蛋白質化学の研究の進歩に伴いChromatographyや免疫学的方法によつてさらに検討され,水晶体の蛋白分画ははじめ信じられていたよりもより複雑な構成成分から成り立つていることが明らかにされてきた。しかし,これら多くの分画も,本質的にはやはりα,β,γクリスタリンの種類の部分として考えられ,α,β,γクリスタリンの意義は少しも失われていない。

白内障の成因に関する実験的研究(第3報)—正常ネズミ水晶体の遊離アミノ酸の加齢的変動について

著者: 渡辺幸子

ページ範囲:P.585 - P.593

緒言
 白内障の発生機序はきわめて複雑であり,すでに多くの研究があるが今なお明らかでない。もつとも一般的な老人性白内障を考えてみても老化ないし,加齢による水晶体の各種代謝の低下にのみ基づくものなのかも明らかでない。われわれは先に白内障の発生を理解するためには水晶体のエネルギー代謝,蛋白合成の阻害および膜透過性の変動の3つの方向から有機的,総合的に考慮する必要があることを述べた。著者は蛋白質およびpeptideの構成材料となる遊離アミノ酸が加齢的変化(Aging)とともにどのように変動するかを目的として正常ネズミの水晶体を材料とし,アミノ酸自動分析計(Automatic amino acid anal—yser)を用いて分析したのでここに報告する。

白内障の成因に関する実験的研究(第4報)—水晶体のアミノ酸輸送の加齢的変動についての研究

著者: 渡辺幸子

ページ範囲:P.595 - P.602

緒言
 水晶体は角膜とともに透明眼組織に属しかつ無血管無神経の組織で,終生透明を維持して発育を続ける特異的な器管である。栄養物の供給は胎生期には血管系によるが,生後はまつたく血管組織を欠き周囲の眼房水および硝子体液より水晶体膜を通して補給され,新陳代謝を営み透明を保持しているゆえに,ほかの眼組織とは異なつた代謝機構の存在する可能性が十分に推測される。したがつて,水晶体の代謝を論ずるにはまず,その透過性の問題を解決することが肝要である。
 近年組織および細胞培養が生物学の各分野において広く応用されるようになり水晶体においても,1936年Bakker1)2)が人工的な培養液中で培養に成功したのをはじめとして,多くの研究者によりさらに検討されin vitroでの培養が可能となり,水晶体の機能を生化学,電子顕微鏡,組織化学などのそれぞれの観点から研究が活発に行なわれるようになつた。水晶体のアミノ酸の透過に関する研究はKinsey and Reddy10)14)Kinoshi—ta16)17)らがRadioisotopeを用いてin vivo,in vitroの両面から研究されているが,しかしその年齢的影響についての文献はSippel12)の報告をみるのみで数少ない。

Christbaumschmuck Kataraktの3例

著者: 清宮輝夫 ,   土方文生

ページ範囲:P.603 - P.605

緒言
 Sautter1)はその著書の中で,水晶体核に種々の色にキラキラと輝く結晶形成をみた白内障をChristbaumschmuck (クリスマスツリー装飾)と形容して記載した。水晶体内の結晶形成については,内外の文献に少なからずその報告をみるが,それは主に白色あるいは無色透明な結晶物で,本症のように光を当てると多彩な色に輝くものはSautterと飯沼2)の報告にみるのみであり,いささか珍しいものと思われるのでここに報告したい.

網膜動脈周囲炎と網膜剥離を伴う特異な片眼性急性ブドウ膜炎について

著者: 浦山晃 ,   山田酉之 ,   佐々木徹郎 ,   西山義一 ,   渡辺春樹 ,   涌沢成功 ,   佐藤裕也 ,   高橋和子 ,   武井洋一

ページ範囲:P.607 - P.619

緒言
文献上からは適当な診断名をくだしえず,特殊な型とわれわれが考えているブドウ膜炎の6例を報告する。その共通する特徴はおよそ次のごとき点である。(括弧内はその例数)
1)片眼性である(6/6)。

眼トキソプラスマ症の検索(第2報)

著者: 佐々木一之 ,   神山巽 ,   菊池武邦 ,   大槻潔 ,   浦山晃

ページ範囲:P.621 - P.626

緒言
 先にわれわれは眼トキソプラスマ症(以下眼Tp症と略)検索の一端として本症の疫学的検索ならびに臨床例の一部について報告し,東北地方においても他地域と同程度の不顕性感染が存在し,また眼Tp症患者そのものの数もそれほど少ないものではないことを明らかにしたが1),今回さらに症例を重ねたのでその成績を報告する。

Behçet病の研究(第2報)—(第2篇)発作の臨床像

著者: 朝岡力

ページ範囲:P.627 - P.660

第1章観察方法および発作の式
 著者は,先に(日眼63巻50頁)本病の経過の特有性を中心にして,その臨床症状を綜括して本病のカテゴリーを規定した。本篇では本病の発作がきわめて特徴的なことに着目して300回の発作(500眼発作)について視力,眼底滲出物,硝子体混濁,前房混濁などの眼炎症所見,およびアフタ,ロイマ,紅斑,その他の全身症状を第1報に記載したごとく15頂目に分けてグラフにして,毎日さらに必要により時間を追って記入した。このようにするとそれぞれの複雑な関係を一目で見ることができて,実験的アレルギーにも比すべき発作の性質が明らかとなる。このグラフに基づいて,各症状の記号に発生日付,持続日数を付加して発作の式を作り,さらにこれを基にして統計的処理を行ない,現在まで正確に知られなかった種々の本病発作の臨床像を記述する。
 記載方法の1例を示す(第1,2図)。病歴温度表を利用して,1枚を全身状態表として,その症例(ここでは第3例)の顕著に反復襲来する各種の全身症状を記入する。もう1枚を眼所見の表として全身症状はまとめて書き,発熱のほかに,前房,眼底,硝子体混濁,視力などの眼所見を毎日(毎時)記入する。

Behçet病の長期観察による予後および全身症状の研究

著者: 今井克彦

ページ範囲:P.661 - P.695

緒言
 1937年,Behçet1)が口腔アフタ,陰部潰瘍と虹彩炎を3徴とする症候群を報告して以来幾多の報告をみるが,それ以前にも,本病に関する報告はなかつたわけではなく2),すでにヒポクラテスの時代より存在したといわれている3)
 1940年,Franceschetti and Valerio4)は,これら3徴に加えて,再発性皮疹を重視し報告,眼,粘膜,皮膚を系統的におかす疾患であることが次第に明らかとなつてきた。しかし諸家によりその分類,疾患の異同には議論があつたが,1954年Schreck5)は,眼部,皮膚,粘膜の侵襲部位により,cutaneo-muco-oculoepitheliale Synd—rome, cutaneo-muco-oculouveale SyndromeそしてSyndrome-urethro-ionjunctivo-articulareの3群に分類し,本病を第2群に入れて考慮した。

眼サルコイドージス(第1報)—総説

著者: 山田酉之 ,   渡辺春樹 ,   米地和夫 ,   朝岡真 ,   氏家瑞恵

ページ範囲:P.697 - P.703

緒言
 われわれはこれまでサルコイドージスに関し多くの報告を行なつたが1)〜9),まだ一般には本症が十分認識されているとはいえず,診断が遅れる場合も少なくない。
 今回は,1969年末までの当教室の症例140例を中心として,眼サルコイドージスの病像などについて検討する。

眼サルコイドージス(第2報)—検診で発見された症例群の検討

著者: 山田酉之 ,   米地和夫 ,   朝岡真 ,   氏家瑞恵 ,   渡辺春樹 ,   高橋和子

ページ範囲:P.704 - P.706

緒言
 検診で発見されて眼科に紹介されるサルコイドージス患者が近年増加し,眼病変からみるとそのほかの本症患者との間に著しい差があるので,これをまとめて検討する。

眼サルコイドージス(第3報)—診断について

著者: 山田酉之 ,   米地和夫 ,   氏家瑞恵 ,   朝岡真 ,   山下由紀子 ,   渡辺春樹

ページ範囲:P.707 - P.711

緒言
 1969年までにわれわれは140例のサルコイドージス患者を経験し,そのうち86例が確実な眼病変を,さらに結膜濾胞を加えれば106例が眼病変を有していた(第1報参照)。定型的な眼サルコイドージスは一見して診断できるが,あらゆる組織に多様な病像で出現するために,なお診断確定に迷うことも少なくない。これは第5報に述べるごとく予後にもつながる問題なので,自験例を中心に,眼サルコイドージスの診断について考察する。

眼サルコイドージス(第4報)—虹彩結節の電子顕微鏡所見

著者: 桜木章三 ,   山田酉之 ,   武井洋一 ,   清宮輝夫 ,   藤村澄江 ,   大槻潔

ページ範囲:P.712 - P.718

緒言
 サルコイドージスは原因が不明であるため,現在のところ一つのclinical entityとして定義されている段階であるが,その病理組織学的特徴は,ほぼ確立されたと考えて差しつかえなかろう。しかし,一方これを電子顕微鏡的に観察した報告は数少なく,特に眼科領域では今のところ見当たらない。
 このたびわれわれは,眼サルコイドージス患者の虹彩結節を電子顕微鏡的に検索する機会を得たのでこれを報告し,いささかの考察を加えた。

眼サルコイドージス(第5報)—予後について

著者: 山田酉之 ,   米地和夫 ,   朝岡真 ,   氏家瑞恵

ページ範囲:P.719 - P.723

緒言
 サルコイドージスは一般に自然治癒から死亡に至るまでさまざまな経過を辿るが,眼病変もまた,痕跡を残さずに消失する場合から,失明するものまで多様である。われわれは眼サルコイドージスの予後について,呼び出し調査を行なつたので自験例をまとめて報告する。

秋田県におけるサルコイドージス症例の眼科学的検討

著者: 土方文生 ,   工藤英夫 ,   小関武

ページ範囲:P.725 - P.730

まえがき
 本論文においては,現在まで約13年間にわたつて,当病院において確診のつけられた45例のサルコイドージス(以下サと省略)の症例につき,眼科学的な検討を試みるものであり,個々の症例に対する詳細な報告と,他科領域にわたる検討とは,後日改めて発表の予定であるのでふれない。

網膜剥離を伴つた中心性脈絡網膜炎の2例

著者: 浦山晃 ,   畠山正 ,   町田晶子 ,   阿部信博

ページ範囲:P.731 - P.735

緒言
 網膜剥離をともなう脈絡膜炎は漿液性びまん性である原田病を典型とするが,その他の病種については明確なものに乏しい.われわれは比較的後極部に限局した脈絡膜炎で続発性網膜剥離の発生をみた2症例を経験した。原因はなお不明であるが,臨床上ひとつの定型として記載しておきたい。

東北大学眼科最近10年間のブドウ膜炎の統計

著者: 今井克彦 ,   鈴木昭子 ,   渡辺忠雄 ,   杉浦宏子

ページ範囲:P.736 - P.742

緒言
 ブドウ膜炎は,依然として病原診断の困難な疾患の一つであり,昨今の種々の診断技術の進歩にもかかわらず,なお各個症例における病因その他解明されない点が多い。
 本疾患の病態および病原そのものも歴史的にはかなりの変遷をみていることは,諸家の報告にみられるごとくであるが,われわれも今回,1960〜1969年までの10年間の外来患者について内因性ブドウ膜炎に対する統計を試み,若干の知見を得たのでここに報告する。

ERG電極に関する考察—特に律動様小波に関して

著者: 佐藤裕也

ページ範囲:P.743 - P.760

〔第1篇〕電極の差による波形差
緒言
 網膜に電気現象の存在することが発見されたのはかなり古く,静止電位の発見はDu-Bois Rey—mond (1849)により,また光刺激による活動電位の発現はHolmgren (1865)の報告をもつてその最初とされている1)。人眼では,Dewar(1877)がこの現象を確認した。当時の誘導法は,銀=塩化銀電極に木綿糸をまきつけリンゲル液に浸したものの先端を角膜にふれさせるやり方であつたため,被検者の瞬目や眼球の動きによつて容易にはずれ実用性に乏しく,人眼のERG研究はかなり困難であつた2)。しかしRiggs(1941)3),Karpe (1945)4)らによる強角膜コンタクトレンズ電極の考案で事情は一変し,高性能の増幅器の出現とあいまつて人眼ERGの記録は比較的容易となり研究は急速の進歩をとげることとなつた。
 ERGの波形分析がはじめて本格的に行なわれたのはGranit5)によつてであつた。その後本川,三田らはX波を発見し6)(Adrianの追試によつて確認7)),Armingtonら8)はa波がある条件のもとでは二峰性に分かれることを見出した。また,強度の光刺激を使用した場合,人眼ERGにおいてb波の上行脚に一致して多峰性の小波が出現することをCobb, Morton (1953)が最初に報告した9)

糖尿病患者における網膜血管病変についての研究(第1報)—網膜小動脈硬化所見について

著者: 千葉美和子

ページ範囲:P.761 - P.776

はじめに
 糖尿病患者における網膜小動脈硬化所見は近年重要な問題として,検討されつつある。すなわち,本症患者において,循環器合併症による死亡率が増加しつつあるため,全身動脈系の硬化状態を推測し得る網膜小動脈硬化所見についての検討が必要とされ,一方,高度の視力障害をきたす糖尿病性網膜症が併存する網膜小動脈硬化により,どのような修飾をこうむるかを明らかにすることも,また重要な問題である。著者はこれらの点を解明するために,つぎのような研究を行なつた。

糖尿病患者における網膜血管病変についての研究(第2報)—網膜静脈の検眼鏡的変化と動静脈交叉現象の出現の関連について

著者: 千葉美和子

ページ範囲:P.777 - P.788

はじめに
 さきに著者は,糖尿病患者において網膜小動脈硬化所見が非糖尿病者に比して,より著明であることを明らかにし,これには高血圧,尿蛋白などの網膜小動脈硬化因子以外にも,糖尿病性過程の関与することを述べた。今回は糖尿病患者において,その網膜静脈の検眼鏡的変化と網膜小動脈硬化の関係につき,特に検討を行なつた。糖尿病患者における網膜静脈病変については1855年Jägerが記載し,後にBonnetが詳細に検討を加えたが,その分類については,Wagener, Scott,のように,他の網膜病変および全身状態などとともに合せ考えられていた。著者はDolénekとTakáč1)の静脈病変についての記載にしたがつて分類し,静脈にみられる変化と網膜小動脈硬化所見および糖尿病因子等との関係につき,検討を行なつた。

Pheochromocytomaにおける眼所見

著者: 浦山晃 ,   山本冴子 ,   小室敏 ,   渡辺春樹 ,   藤村澄江 ,   長谷川桂子 ,   米地和夫 ,   武田浩芳

ページ範囲:P.789 - P.796

緒言
 著者のひとり浦山は,さきに(1962年)「Pheo—chromocytomaの診断と眼底所見の意義」と題して,自験5例の観察をもとに,Pheochro—mocytoma (以下Pheoc.)には比較的個有の眼底所見を示すものが多いことを指摘するとともに,眼における高血圧の問題解明のために,ひとつの布石となり得るかもしれぬとして私見を述べた。
 その後,東北大学付属病院においてはさらに7例の症例を追加することがでぎたので,ここに再度の検討を行なつてみた次第である。

脈なし病およびその類縁疾患に関する臨床的研究

著者: 林英道

ページ範囲:P.797 - P.811

緒言
 近年,脈なし病およびその類縁を含む疾患群は,内科外科方面の診断法の進歩などにより,病変のきわめて早い段階でとらえられるようになつた。それに伴つて眼科においても初期病変の患者に接する機会が多くなつてきている。従来より眼所見は本症の診断にきわめて重視されてきたが,眼底所見,なかんずく高安眼底に目標をおいた今までの診断規準は今や古きにすぎる感が深い。しかるに初期の患者に接する機会が増えた今日,本症の初期病変を正しく把握することは眼科領域においても重要な問題であり,研究の進歩に伴う新しい診断規準の確立が望まれる。
 以下,昭和25年から42年11月までの42例について,このような新しい見地から検討を加えてみた。

未熟児網膜症の検索

著者: 佐々木一之 ,   山下由紀子 ,   安達寿夫 ,   舟木憲一 ,   畠山義徳

ページ範囲:P.813 - P.818

緒言
 1942年Terry1)が報告したRetrolental Fibro—plasiaは,その名のごとく,水晶体後方に膜状新生物を生じて失明に至る重篤な疾患であるが,その後の研究により本症のはじまりは網膜にあることがわかつた。すなわち,未熟児に発生する未熟児網膜症(Retinopathy of Prematurity)が進展して硝子体にまでその病変が及んだ重篤なものが,後水晶体線維増殖症として報告されたのである。この二つの病名を全く同意義に用いている文献もあるが,実際は,未熟児網膜症のうち軽度のものは網膜にのみとどまり,後水晶体線維増殖症にはならない。
 本症は,Owens2)の分類によれば,その経過に従つて活動期は5期に分けられている。すなわち,1期(血管期),2期(網膜期),3期(初期増殖期),4期(中等度増殖期),5期(高度増殖期)であるが,活動期が消退すると,眼内に瘢痕を残し,その瘢痕像も次のごとく五つに分けられている。Ⅰ度(小変化),Ⅱ度(乳頭牽引),Ⅲ度(網膜皺襞),Ⅳ度(不完全後水晶体組織塊),Ⅴ度(完全後水晶体組織塊)。

弱視に関する研究(第2報)—新生児網膜出血と弱視発生の因果関係に関する調査成績

著者: 佐々木徹郎

ページ範囲:P.819 - P.825

緒言
 弱視の発生原因に関してはなお不明な点が多く残されているが,その器質的因子の一つとして注目される問題に,新生児網膜出血という現象があり,Von Noordenらは器質的弱視の重要因子としてこの新生児網膜出血をあげている。すなわち,出生時に加えられる外力によつて発生した網膜出血が一定期間存続し,もし後日に痕跡をとどめぬまでに吸収されたとしても,他覚的所見を伴わない型の視力低下を残すがごとき場合は観念的には容易に想像できるのである。しかるに,この問題に関する臨床上の具体的な観察は,欧米でもわずかにNaumhof (1890), Jacobs (1924)およびKaufmann (1958)の報告が見られるだけであり,本邦ではいまだ皆無である。
 このたび著者は,新生児網膜出血と弱視発生の因果関係を解明する目的のもとに,かつて出産時に眼底検査を受けたことのある一群の児童について,就学時に視力,眼位等に関する検索を行ない,この因果関係を否定し得る結果を得たのでここに報告する。

東北大学眼科最近8年間の網膜剥離の統計

著者: 甲田尚也 ,   斎藤武久 ,   清宮輝夫 ,   田中邦枝 ,   浦山晃

ページ範囲:P.827 - P.833

緒言
 昭和37年より昭和44年まで8年間に東北大学眼科において入院加療を受けた網膜剥離患者312例320眼について,主として手術成績を中心とした種々の統計的観察を報告する。

Cryoretinopexyに関する実験的研究—冷凍時の眼内温度変化

著者: 斎藤武久

ページ範囲:P.835 - P.843

緒言
 網膜剥離に対する手術として,近年冷凍手術が実用化されるに至った。冷凍作用が,網脈絡膜に強固な癒着を生じ得ることは早くより知られており1)〜4),そのさいの眼球の組織学的変化については,多くの検討がなされているにもかかわらず5)〜11),冷凍による眼内の温度変化についての研究は少ない12)〜14)
 著者は今回,眼球の一定箇所に冷凍を作用させたさいの眼内温度変化を測定し,冷凍手術にさいしての至適な条件を見出すべく,あわせて冷凍の眼組織に及ぼす影響の検討を試みた。

特発性網膜剥離の家族内発生—7家系の検討

著者: 清宮輝夫 ,   斎藤武久 ,   甲田尚也 ,   菅原宮子 ,   田崎敏子

ページ範囲:P.845 - P.848

緒言
 いわゆる特発性網膜剥離の家族的発生については,1885年Langにより初めて指摘せられ,以来1939年Vogt, Richnerらにより詳細な検討がなされたが,本邦においては寺田(1933)の記載をはじめとして,2,3の報告があるにすぎない。現在までわれわれの教室が経験した症例は7家族であるが,ここに屈折,剥離の状態,発生年齢,予後など,さらには網膜剥離の遺伝の問題等につき若干の考察を加えてみたい。

Retinoschisisの1家系

著者: 斎藤武久 ,   佐藤裕也 ,   清宮輝夫 ,   甲田尚也 ,   浅水逸郎 ,   森寿夫

ページ範囲:P.849 - P.856

緒言
 網膜の"Neural layer"が二分するために起こる網膜の状態はRetinoschisisと呼ばれる。この状態の発生には種々の原因が考えられるが,なかには遺伝による場合があり,遺伝形式の明らかにされた症例の報告1)2)3)もある。われわれは,Sex—linked Juvenile Retinoschisisの記載にほぼ一致する症例を観察したので報告する。

強膜短縮術の一変法

著者: 浦山晃 ,   甲田尚也 ,   清宮輝夫 ,   勝瀬敏臣

ページ範囲:P.857 - P.861

緒言
 網膜剥離に対して行なわれている種々の術式のうち,強膜の剥離網膜側への接近による復位を主目的としているものに,強膜短縮術,強膜内陥術,赤道部輪状締結術などがあるが,今回われわれの教室で昭和40年より行なつている強膜短縮術の一変法について述べてみたい。強膜短縮術は1903年にMüllerがはじめて試み,さらに1912年にBlaskovicsが行ない,1933年にLinderにより一般的な方法として発展され,今日ではジアテルミー凝固術のみでは不十分とする網膜剥離に対して欠かすことのできない術式となつている。現在行なわれている強膜短縮術には第1図のごとき諸式があり,またおのおのに種々の変法が案出されている。われわれの行なつている方法は強膜折込み術に属するが,これの代表的なものには,Chamlin-Rubner法,Lemoine-Robinson-Cal—kins法,Čavka法などがある(第2図)。われわれの方法は第3図に示すごとく,Čavka法に類似するが,半層切開を加え剥離された強膜片がČavka法では外反するのに対し,本法では縫合糸の運び方により確実に内反して埋没されることに特徴がある。

尿崩症,うつ積乳頭および眼底の色素移動を伴ったAbt-Letterer-Siwe病の1例

著者: 山田酉之 ,   佐藤紀子 ,   横山義正 ,   牧野好夫

ページ範囲:P.863 - P.866

緒言
 Abt-Letterer-Siwe病は細網症に属する疾患で,Lettererが1924年にはじめて報告し,Siweが1933年から1949年にかけてその臨床的特徴および細網細胞の全身的増殖であることを詳細に報告し,また1936年AbtとDonenholzもこれを報告したものである。
 今回われわれは,尿崩症を初発症状とし,眼底にうつ積乳頭および色素の移動を伴う網脈絡膜の変化をきたした症例を経験したので報告する。

中心性網膜色素変性症

著者: 涌沢成功 ,   佐藤裕也 ,   酒井文明

ページ範囲:P.867 - P.871

緒言
 網膜色素上皮および網膜の他の組織に炎症々状がなくて,原発性退行変性をきたす網膜疾患をLeber1)がDegeneratio tapetoretinalisと総括して以来,本症の分類は発症年齢,発症部位,検眼鏡的所見,合併症の有無などにより行なわれてきた。各型間の移行型,合併例の報告も数多くあるが,このうち,中心性網膜色素変性症は黄斑部変性と網膜色素変性症との関係を示唆するものとして,興味あるものである。

クロロキン網膜症

著者: 菅原憲 ,   志賀信夫 ,   神山巽 ,   菊地糺

ページ範囲:P.873 - P.878

緒言
 クロロキン製剤の大量,長期間投与による眼障害は,1959年Hobbs1)らの報告以来,わが国では1962年中野2)の報告にはじまり,症例報告として多数の報告が行なわれている3)〜12)15)
 クロロキン製剤による眼障害が,このように多く報告されているにもかかわらず,クロロキン網膜症に関する知識の不足からか,これらの患者達が,あるいは中心性網膜炎,網膜色素変性症,高血圧性網膜症,硝子体混濁などの病名で,いたずらに治療を受け,しかもクロロキン製剤の投与を中止せずにおる症例は必ずしも少なくない。われわれは,この5年間に7例のクロロキン眼障害例を経験し,それらを長期間観察し,治療を行なうことができたので報告する。

Macroglobulinemia Waldenströmの螢光眼底像

著者: 米地和夫 ,   長谷川桂子 ,   今井克彦 ,   高橋信夫

ページ範囲:P.879 - P.882

緒言
 原発性マクログロブリン血症は先に土屋ら1)が本誌上に報告したが,その後われわれは3例の本症を追加経験した。今回はその中で特に典型的な眼底所見を呈した第3の症例について撮影された螢光眼底所見を供覧する。

Waldenström's Macroglobulinemiaにおける眼球の組織学的所見

著者: 酒井文明

ページ範囲:P.883 - P.888

緒言
 1944年,Waldenström17)はMacroglobuli—nemiaについて最初の報告をし,その第1例には網膜出血を,第2例には網膜中心静脈閉塞症をみている。以来本症のさいの網膜症の病像およびその発生機序に関して多くの検索がなされているが,一方本症を含めたいわゆるHyperviscositysyndromeの血管病変についての議論も少なくない。1967年,教室の土屋ら13)は本症の臨床像について報告したが,今回同症例の摘出眼球について,組織学的に検索し得たので報告する。

脳腫瘍の眼症状に関する研究

著者: 渡辺春樹

ページ範囲:P.889 - P.953

緒言
 眼症状の有無,ならびにその神経眼科学的分析が,脳腫瘍の早期発見と部位診断とにさいして重要なことは,脳神経外科の発達などによる実証的裏づけによつても,今日すでに広く認識されるに至つている。脳腫瘍は多様な眼症状を呈し,その質的関連についての研究は多いが,その量的関係を追求したものは少ない。眼症状が脳腫瘍の発見や部位診断に,量的にははたしてどの程度に関与しているかは,眼科臨床医の大きな関心を呼ぶ。著者はこの問題を東北大学医学部脳神経外科で開頭した200例の脳腫瘍患者について統計的に調査研究してみた。
わが国において,主として手術によつて組織学的に診断の確定した脳腫瘍患者の総数は

両側外転神経麻痺を呈した脳腫瘍患者の2剖検例

著者: 涌沢成功 ,   畠山正 ,   渡辺春樹 ,   堀重昭

ページ範囲:P.955 - P.960

緒言
 頭蓋内新生物,出血などにより生ずる外転神経麻痺は比較的発生しやすい疑局在症状として知られているが,その発生機転についてはさまざまのことがいわれているにもかかわらず,多くは推論の域を出ていない。また障害部分は神経束が多いとされ,もつぱらその走向の特異性を中心に論じられ,脳幹部自体の検索を行なつた報告はわずかにUhthoff1)のものがあるのみである。そこでわれわれは脳腫瘍で両側外転神経麻痺をきたし,死亡した2例の脳幹部の組織学的検索を試みた。

脳動脈瘤破裂後数時間でみられたうつ積乳頭

著者: 土屋忠久 ,   佐藤裕也

ページ範囲:P.961 - P.965

緒言
 われわれは,脳動静脈瘤および動脈瘤の破裂後数時間でうつ積乳頭のみられた症例を経験したので報告する。

多彩な症状を伴つた眼窩偽腫瘍の長期観察例

著者: 畠山正 ,   佐々木徹郎 ,   佐々木秀樹

ページ範囲:P.966 - P.976

緒言
 ブドウ膜炎・視神経炎症状とともに眼球運動障害・眼球突出を発し,眼窩偽腫瘍として治療しているうちに眼窩骨部変状や内頸動脈閉塞など多彩な症状を示しながら,ついに両眼失明に至つた症例の10年間にわたる観察記録を報告する。

眼窩転移をきたした膀胱癌の1例

著者: 清宮輝夫 ,   武井洋一

ページ範囲:P.977 - P.981

緒言
 一般に眼窩に転移性腫瘍をみることは珍しいとされているが,原発巣が膀胱にあつてその癌が眼窩転移をきたした例はSmiley (1965)1)の報告をみるのみである。われわれはこのたび55歳男子で,膀胱癌が両側の眼窩転移を起こし,ついには死亡した例を経験したので,その臨床経過および剖検所見などにつき報告する。

難治のヒステリー弱視例

著者: 桑島治三郎 ,   今井克彦

ページ範囲:P.983 - P.989

緒言
 種々の治療に逆らい,2年あまりの経過を経て,ようやく視力,視野の回復をみたヒステリー弱視例を報告する。

眼科領域における全身麻酔施行例の統計的観察

著者: 朝岡真 ,   桂京子 ,   小熊勇 ,   嶋武 ,   青葉祐子 ,   渡部美種

ページ範囲:P.991 - P.996

緒言
 全身麻酔法による眼科手術例は6,7年前に比べ増加しつつある。またこの数年来各種の新しい麻酔剤および麻酔補助剤が導入されている。そこでわれわれは昭和40年度〜44年度までの東北大学の眼科領域における全身麻酔施行例の統計的観察を試みた。調査対象は麻酔記録および眼科入院カルテに明確に記載されたものとした。
調査内容は

眼科入院患者の死亡例の検討

著者: 菊地糺 ,   志賀信夫 ,   前川暢男 ,   高橋和子

ページ範囲:P.997 - P.1000

緒言
 東北大学眼科学教室における,昭和34年から昭和44年までの11年間にわたる入院患者のうち,死亡退院した症例,特に白内障手術を目的として入院し,死亡した症例を検討したので報告する。

Purtscher病の1例

著者: 高尾泰孝

ページ範囲:P.1001 - P.1004

緒言
 Purtscher病(以下P病)の範疇に入ると見なされる興味ある1例を経験したので症例報告と同時にその発生機転等について検討を加えてみたいと思う。

交通事故による眼外傷の統計的観察—〔付〕フロントガラスによる眼外傷

著者: 菊池武邦 ,   佐々木一之 ,   大槻潔 ,   神山巽 ,   今井克彦 ,   高橋和子

ページ範囲:P.1005 - P.1011

緒言
 交通事故による眼障害の統計的観察について,われわれは昭和35年より観察を行なつており,一部を報告したが5)6),今回昭和41年より44年までの4年間に東北大眼科を受診した交通外傷患者について,前回同様の統計的観察を行なつたので,その成績を報告する。なお交通外傷のさい,自動車のフロントガラスによる受傷例をいく例か経験しているので,これについても若干の考察を加えてみた。
 対象は昭和41年1月1日より昭和44年12月31日までの4年間に,交通外傷が原因で当科外来を受診したもの合計284名である。

サツカーボールによる眼外傷

著者: 斎藤武久 ,   今井克彦 ,   前川暢男

ページ範囲:P.1012 - P.1015

緒言
 最近サッカー熱が盛んになるに従い,サッカーボールによる眼外傷の患者が増加し,高度の視力障害を残す者が認められるので,世間の注意を喚起する意味をも含めて最近経験した症例を報告する。

祝詞

記念論文集の発刊を祝して

著者: 植村操

ページ範囲:P.1017 - P.1017

 桐沢教授が停年に達せられ教授の職を退かれるとのことですが,私にはどうしても,それが信じられない程,いつも若々しく,元気で,学会の第一線に立つて活躍されています。桐沢教授の御研究は特に眼疾患の薬物療法に向けられ,教室の方方の多くの研究業績の外,教授自身が先頭に立つて,その輝かしい貴重な数々の研究をされましたことに対し,常々心から敬意を表しておりました。之等に対し度々の受賞されたことは当然のことであります。教授の御研究はその外,多方面に亘つていて,そのいづれもが我眼科学界に大きな進展をもたらされたものでした。
 此度御退官に際し記念論文集を発刊されることを承りましたが,之は門下生の方々の教授に対する心からの敬慕と御礼の印と拝察いたし,その発刊を心から御祝い申上げます。

桐沢先生の定年御退官にさいして

著者: 国友昇

ページ範囲:P.1020 - P.1020

 昭和6年の春,新入局者が横に一列にならんで,石原先生に御挨拶した日のことをよく覚えています。その列の中に桐沢君もわたくしもいました。まるで昨日のことのようです。
 このごろは還歴のお祝をやるのは,はずかしいといつて,ごくうちわでやる人が多くなりました。人生50年と言う風潮の中に育つてきて,戦後にわかに人生70年になつたのですから,もつともだと感じられます。しかし,病気したら石原先生のお得意な言葉ナトウルハイルング以外になかつた世に育ち,第2次世界大戦や敗戦の中をぬけて生き残つてきたことを思うと,お互にしあわせを祝福しないではおれません。

桐沢教授退官記念論文集の発刊について

著者: 浦山晃

ページ範囲:P.1021 - P.1021

 本記念論文集刊行の企てが,はじめて公にされたのは,昭和42年秋の頃で,この年は恰も東北大学眼科教室開講50周年にあたり,同窓会総会の席上,翌年に控えた第73回日眼総会主催の件が討議された際に,将来計画として合せて述べられたものであつた。
 この種の事業は,教室としては画期的なことであり,編集その他具体策については何の経験もない医局員の集りであるから,何から着手してよいかも判らず,暫らくはそのままで経過した。一方,銀界にその前例があるとはいえ,最近の様に大学問題が特にきびしい社会状勢下にあつて,この種の論文集を世に送ることが,果して時宜に叶つたものかどうかという懸念もあつた。しかし医局員の勉学の努力目標としてのPlanならば,との桐沢教授からのお許しが漸く得られるに及んで,関係者相談の上,いよいよ実行にふみきつた次第である。

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あとがき

著者: 桐沢長徳

ページ範囲:P.1022 - P.1022

 今年3月,私の定年退官に際して記念論文集を作る計画がある旨,教室員から諒解を求められた時,自分の偽らぬ気持から言えば,現代の厳しい学界の情勢下で何か時代錯誤のような気がして,正直のところ,あまり気が進まなかつた。
 その理由としては,従来のわが国の記念論文集や業績集は,とかく「教室」や「医局」という狭い観念にとらわれたものとなり,社会的(学界的)な意義は第二となりがちであつたからである。また内容が大きくなると,教室員に多額の物的負担をかけるようになることも心苦しい点であつた。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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