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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科3巻2号

1949年02月発行

雑誌目次

Ⅰ綜説

眼結核の組織像と其の多樣性

著者: 生井浩

ページ範囲:P.45 - P.48

 一般に結核の病變は罹患個體の體質及び免疫乃至アレルギー,一方に於ては結核菌の毒力,菌量其他によつて左右される外,罹患臟器或は組織の解剖學的性質に從つて特性を呈示する。
 眼結核は全身結核の一分症として,結核菌の血行内撤布によつて起るものであるが,其の病像は甚だ多彩であり,他器官には始ど其の比を見ない所である。性別によつて發病に特殊の傾向があるのは結核性網膜靜脈周圍炎が若年の男子に多く,又漿液性中心性網膜脈絡膜炎が壯年の男子に多いに反し,結核性鞏角膜炎は好んで女を侵すことからも知られる所であり,年齢の如何によつて發病の頻度に著しい差があるのは,フリクテン性疾患のそれに於て見られる所である。

Ⅱ臨牀實驗

進行性乳頭周團血管吻合症の1例

著者: 淸水光太 ,   高橋衞

ページ範囲:P.49 - P.51

 余等は進行性乳頭周團血管吻合症の1例を經驗せしが其の臨床所見に於て從來の報告例に於て見られざりし柳か興味ある點存するを以て茲に報告せんとす。

アスピリン内服に因る眼障碍例

著者: 林脩

ページ範囲:P.51 - P.53

 解熱劑の中でも,ピラツォロン誘導體のアンチピリン,ミグレニンや,キノリン誘導體の鹽酸キニーネ,バグノン,オイヒニン,プラスモヒン,オプトヒン,レミジン等に因る眼障碍例は,數多く報告されて居るが,カルボール誘導體のアスピリン,アニリン誘導體のアンチフェブリン,フェネチヂン誘導體のフェナセチン,ラクトフェニン等による眼障碍例は餘り多くない。ピラミンドンはアンチピリンと同じビラツォロン誘導體ではあるが,これによる症例もごく稀の樣である。
 アスピリンの副作用として見られるアスピリン疹は,特異體質に基くものが多いが,全藥疹の頻度から見れば少ない方に屬し,殊に眼合併症はごく稀であると言われて居る。

眼部疼痛に對するLobotomyの効果

著者: 伊藤忠厚 ,   菊川舜二

ページ範囲:P.53 - P.54

 Prefrontal lobotomy (前頭葉切離術)が精神疾患に對して効果のある事は,最近我が國にも紹介され多く追試されてゐるが,Washington大學のFreeman茲Watts教授等は,これが更に一歩進んで癌性諸疼痛の如き重篤な諸疼痛に對する緩解法として著効のある事を發表し,1946年7月のLancet紙上に發表した論文中には,直腸癌等による疼痛の5例に効果のあつた事を述べてゐる。然し未だ眼部疼痛に對して行はれた事はない様であり,勿論我が國に於ては報告を見ない所である。
 最近我々は眼窩内に發生した摘出不能の腫瘍によつて惹起された劇痛に對し該法を施し著効を認めたので,茲に御紹介し御批判を仰ぎ度いと思ふ。

スルファチアツォールに因るアレルギー性結膜炎に就て

著者: 中島實 ,   安間哲文

ページ範囲:P.55 - P.58

 私共は最近,瞼裂部の角膜輪部に小浸潤を生じ,フリクテンによく似ているが稍黄色調を帶び膠樣半透明で,潰瘍を作らず反復する一種の結膜炎に遭遇し,之がスルファチアツォールに因るアレルギー性のものであることを知り,他のスルフォンアミド系製劑では起らぬ特異のものであるので此處に報告する。以下簡單にスルファチアツォールをT,PアミノベンツォールスルフォンアミドをA,スルファピリヂンをP,スルファヂアヂンをDと記載する。

先天性涙腺瘻の1例

著者: 三宅寅三

ページ範囲:P.59 - P.61

涙腺瘻は外傷,炎症等に由るものも多くは見られないが,先天性畸形に屬するものは甚しく稀であつて,1875年Steinheimの報告以來文献に求め得られるのは僅かに7例に過ぎぬ。著者は最近この稀有な先天異常の1例に遭遇したから此所に報告したい

眼球後退運動症の治療

著者: 水谷豐

ページ範囲:P.61 - P.63

 眼球後退運動症に關してはHeuck (1879)最初に報告し,Turk (1899)は殊にその後退運動の特異性を強調し更にAlexander Duane (1905)は自驗例6例を合せて54例を報告し此の種の疾患が一症状群に分け得る事を詳述した。氏に依ればその症状は外轉及び内轉障碍,眼球後退,斜め上下轉運動,轉輳不全,眼球突出,捻轉運動等を擧げてゐる。その後本症は眼球後退運動症又はDuaneの症候群として外國は勿論本邦でも多数の報告が見られ,殊にその特異な眼球後退運動の發生機轉に關しては諸説が唱へられてゐるが今尚決定的の解決點は得られてゐない。從つて更にその治療に就ては殆んど顧る事なく等閑にふせられて來た。最近私は定型的の1症例を得,これが檢索を爲し,治療的方面で多少參考となる所見を得たのでこゝに報告し御批判を得たいと思ふ。

球後視神經炎の病因に就て

著者: 桑島治三郞

ページ範囲:P.64 - P.69

 球後視神經炎と言ふ疾患名はRönneつ見解に依れば,臨牀所見上の概念に基づく呼稱であつて病理又は病因による單獨疾患を意味するものではない。從つて本症の病因は一般的に言ふならば不定てあると言ふべきで,個々の本症例に就て其の病因として擧げられるものが夫々多種多樣であつても固より異とするに足りない。然し實際には歐米に於て本症の病因として多發性硬化症が最も多く擧げられてゐるに反し,獨り我が國に於てのみ多發性硬化症は絶無に近く,本邦に於ける各種の球後視神経炎は,其の原因論に就て多くの論議を殘して來た。此の點に就て彼地の多發性硬化症の診斷と我國に於ける本症の存否に就て再檢討すべきであると伊東教授も述べられたことがあるが,反對に英國でAdieは彼地に於ては多發性硬化症と言ふ診斷が餘りに屡々下され過ぎる傾向があることを指摘してゐる。之は注意すべき對照である。
 球後視神經炎と多發性硬化症との關係に就て歐米の文献を少しく調査すれば,必ずしもCharcotの三主要症状に捉はれることなく寧ろ球後視神經炎乃至乳頭の耳側褪色を以てそれ自身が多發性硬化症の重要なる臨牀所見であると見做してゐる場合がある。固より此の見解は,その他の所見に基づき將來Charcotの主要症状歌等が漸次揃ふことを豫期してゐるのであるが,それにしても確かに我が國に於て多發性硬化症を考へる場合よりは遙かに大膽に本症を診斷してゐるやうに思はれる。

汎眼部黴毒性疾患の1例

著者: 初田博司

ページ範囲:P.69 - P.71

緒言
 眼部黴毒性疾患に就ては既に多數の例が報告せられて居るが,文献に現れたる黴毒性眼疾患系統(別表)に依れば,眼窩並に眼筋を侵すものは比較的稀なものに屬する。
 私は最近偏眼に外直筋麻痺,眼球突出症を主症歌とし,尚ほ眼部各所に亘つて黴毒性病變を認むる1例に接し,之に複式サルバルサン療法を施行して其の經過を觀察するを得たので,茲に報告する次第である。

一見張員に見た中心性網膜炎に就て

著者: 小口武久

ページ範囲:P.72 - P.73

 太陽光線に因つて惹起される網膜の傷害で有名なのは彼の日蝕觀望後に生ずる日蝕性網膜炎であるが,此の他強光を比較的長時間觀望した後に起るものむあるようである。又日本に多い中心性網膜炎(増田氏)も光線との關係を重視する學者もある。私は南方海上に於て太陽方向の見張に從事した一海兵が網膜黄斑部に變状を來し,此の變状が彼の從事した見張作業と密接な關係を持つて居つたと思われる症例を經驗したので報告したいと思う。

進行性鞏角膜周圍炎(シリー)に就て

著者: 百々次夫 ,   赤松二郞

ページ範囲:P.73 - P.76

緒言
 鞏角膜前端部と之に接する角膜周圍邊とを輪状に侵す一種特異の病像を呈する炎症疾患がある。
 その鞏膜所見に基いて先ずSchlodtmannが1897年に膠樣鞏膜炎なる名稱を與えて以來,Fr-iedland, Uhthoff, Parsons, Prochnow, RoosaOatman, Bietti, Komoto, Verhoeff, Gilbert,Stephenson, Botteri,淺沼,V.Hippel等の報告を見た。庭が1926年にV.Szilyは同樣な症例の詳細な觀察研究を發表するに當つて進行性鞏角膜周圍炎という新しい呼名を用いた。その後の報告では膠樣鞏膜炎として更にV.Pillat,小山,松林,高松,行徳,木山,石田,高良,鹿兒島等,進行性鞏角膜周圍炎としてCorda, Engelki-ng, Ishikawa, V.Planta,根本,壺井・出羽・松田,菅沼,百々(昭15),原,淺山,井街讓等が數えられる。以上諸家の報告例は何れも中年以上であるに對し,最近私共は更に15歳の少女に於ける1例を得たのでその觀察所見を報告すると共に既報例を總括して考察を加える事とする。

Ⅲ臨牀講義

緑内障,特にその早期診斷

著者: 倉知與志

ページ範囲:P.77 - P.80

 本日(11月5日)は2種類の緑内障患者を供覽し,特にその早期診斷に就てお話ししたいと思う。
第1例 53歳の男,職業 花屋

Ⅳ私の經驗

1.眼注を眼球内注射と間違へたか 2.一先天性梅毒性角膜實質炎患者のサルバルサン療法 3.動脈内注射藥に就いて

著者: 淸水新一

ページ範囲:P.81 - P.83

 1.眼注を眼球内症射と間違へたか。
 吾々眼科醫間では眼球結膜下注射を單に眼注と言つて通つて居り,餘り疑念を抱かないものである。だが素人は勿論眼科以外の方では此の言葉がはつきり分つて居ない人があるのでないであらうか。又眼球内注射と考へて居る方があるのでないであらうか。次の1例を見て斯樣な曖昧な言葉をかりにも使つていけないと痛感したので大要を茲で報告する。
 28歳の男子。昭和14年以來マントー氏反應陽性になり,昭和18年12月16日,昭和19年5月17日とに喀血しその後も時々血痰が出るといふ一見丈夫そうな男子である。

愛知縣篠島村民トラコーマ家族檢診の成績

著者: 平田重彦 ,   鹽谷健次郞

ページ範囲:P.83 - P.84

 愛知縣知多半島先端海上に位置する篠島村は日本に於ても有名なトラコーマ蔓延地で今迄數回の調査が行はれてゐる。即ち明治44年新美直氏,次で昭和9年名大小口教授一行,昭和14年東大三井氏一行,昭和22年9月名大環境醫學の萩野教授一行が各自の立場より檢診され何れも80%前後の罹患率を報告してゐる。併し之等は主として學童を對照したもので一般住民が如何なる罹患率を示してゐるかに就てはその行はれた一部分より推察し得るのみである。
 私達は昭和22年12月この島が愛知縣トラコーマ模範治療地區に指定されその第一手投として同島住民の半強制的檢診を行ひ人口3500名中萩野教授の行はれた學童700名を除く一般住民2800名中1125名を檢査し得たからその結果を前調査に追加報告する。

Ⅴ外文抄録

American Journal of Ophthalmology. Vol 30. No.3. 1947.3.,他

著者: 中島章

ページ範囲:P.85 - P.89

 内因性葡萄膜炎に及ぼす過敏性の影饗Alan C.Woods.
 葡萄膜炎は肉芽腫性と非肉芽腫性の二型に分ける事が出來る。兩者共細菌の眼への侵入によつて起るものではあるがその病理及變化の性質は全く異る。非肉芽腫型では,初期感染は眼内液の殺菌作用によつて防がれ,發病はしないが細菌蛋白に對して局所過敏性を生じ再感染又は他の感染巣,正常皮膚から細菌抗元が侵入すると反應を起すがこの反應は充血は強いが組織は殆んど變化しない。
 肉芽腫性葡萄膜炎では全然事情が異り,眼に侵入した細菌は死滅せず,眼内にとつて繁殖し毒性を保ち,局所の病變を起す。然し,局所の變化は過敏性及免疫注によつて大きな變化を受ける。若し免疫によつて細菌の繁殖力が止らなければ炎症,乾酪化,壊死,組織變化等を起すが繁殖が止れば變化は少い。例として結核による病變を取つた,結核は一般には非好酸性菌によつて起る病變とは異るものの樣に考へられてゐるが私は原理は同じ事と思ふ。又以上の組織反應の法則は,未だ原因不明の病變にも適用し得るものと考へる。

Ⅵ温故知新

最近の藤原先生について

著者: 弓削経一

ページ範囲:P.90 - P.90

 机上のペン皿,タバコのケース,書物,總ての物が机の縁に對して,平行か直角かどちらかの方向におかれてある。戸棚の中には,書類,器械,手廻品が夫々所を得て,キチンと整へられて居る。今急用で出られても,歸宅せられても,室内の樣子は少しも變らず,いつも掃除のすんだ後の樣である。机上に順序なく積まれてある樣に見える書類も,順序があるらしい。積んだ順序を記憶せられて居ることが自ら順序になつて居るのかも知れない。此見事な整頓,整理,其底を流れる物品尊重な記憶のよさは,先生の特徴である。此樣な性格の先生であるから本年九月の定年退官迄,教授としての職務をキチンと續けられて,鮮明な區切のついた進退を望まれた事であらうと私は推察して居る。然るに現實は之を許さず,昨年八月,舞鶴國立病院長に御就任が内定し,遅かつたが十二月になつて發令があつて,早速,同病院の院務につかれた。恰かも起床時間に先立つてゆり起され,用事に出された樣な氣分を味はれた事と思ふ。然し,仕事を果して居る間には,寝足らぬ氣持も忘れられる如く,間も無く,舞鶴でのお仕事がピツタリ板についた樣に觀測された。昨年の九月には十二指腸潰瘍で,一時は危篤の態であつたが,十月末にはよくなられた。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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