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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科3巻4号

1949年04月発行

雑誌目次

綜説

特發性夜盲發現の機序に就て

著者: 中島實

ページ範囲:P.137 - P.140

 後天的に起る夜盲の中で,明るい所では視力や視野に殆ど異常が無く且つ眼底にも普通何の變化も認められぬ特發性夜盲は,肝油其他ビタミンAを含む食物又は藥剤によつて速に癒るのみで無く,ビタミンA缺乏食を與える事によつて實驗的に之を起し得る事から,ビタミンAの缺乏に因る光覺の障碍であるという事に意見が一致して居り,誰も之を疑う者は無い。然しながらビタミンAが缺乏すればどうして光覺が障碍せられて夜盲が起るかという機序に就ては未だ必らずしも諸學者の意見が一致して居るとは限らない。
 臨牀的には特發性夜盲は,結膜乾燥症のような他のビタミン缺乏の症状を伴うことはあるが,一般には他覺的症状を缺き,唯暗順應の進行が正常の人に比べて遲くなつて居るために,暗い所で感光度の増進が充分でなくて夜盲を訴えることになる。唯稀に眼底の周邊部に多數の白斑が現われたり,暗順應の進行が一定度で全く止つてしまうような例もあるが,之は寧ろ例外に屬する。

臨牀實驗

エドネクローゼ性(妊娠蛋白尿性)眼底疾患の後胎症に就て

著者: 田野良雄

ページ範囲:P.141 - P.143

 エドネクローゼ性眼底疾患即ち妊娠腎,妊娠腎臓炎竝に子癇に見られる眼底浮腫竝に定型的妊娠蛋白尿性網膜炎の後胎症に就てはLeber, Groen-oum, Schieck等の成書の記載はあるが眼底所見に關する系統的な研究報告は文献に見られないので左の症例に就て調査を行つた。
(a)群(外來患者陳舊症例(視力障碍を生じた妊娠の分娩終了後20日以上を經過したもの)……16例(b)群,分娩後長期(20日以上)觀察例……13例(c)群,既往妊娠時観力障碍の既往歴あり,今回妊娠に際し眼底檢査を行つたもの……12例(b)(c)は既發表論文中に列擧した症例であるが,觀點を異にする故茲に再び引用した。合計41例を初妊,經妊に分類すれば初妊婦12例,經妊婦29例である。

低照度視力並に之が増強に關する實驗

著者: 湯口謹治 ,   大村哲馬

ページ範囲:P.143 - P.146

 戰時中必要に迫られ表題の如き小實驗を行いたるも,些か新知見もありこのまゝ筐底に藏するも不本意と考え,得られたる成續を發表せんとするものなり。日常我々は視力檢査に際して便宜上5mの距離を用ひ居るが,かゝる短距離に於ては尚幾何かの調節作用が行はれて居るは明かなり。從つて眞の遠點を求めんが爲には更に距離を増大せざるべからず。余等はかゝる觀點より測定距離,照度及び視力等の相互關係を調査し,更に「ビタミン」(以下V—と略記) A及びB,等の低照度視力乃至光神に及ぼす影響をも實驗せり,光神増強劑としては古來V-Aが知られ最近に於てはV-Aに利膽劑クルクロン酸を劑合せるもの更に進みメラノホーレンホルモン劑の著効ある事實が知られて居る。本實驗に用ひしV-B,にも可成の増強作用を認め得たり。

先天性心臟瓣膜障碍と緑内障

著者: 松下和夫

ページ範囲:P.146 - P.148

 先天性心臟瓣膜症が緑内障發生の一因をなしてゐるのではないかと思惟される症例に遭遇したので,主としてその特徴ある所見及び發生機轉に就て論述する。

トラコーマに對する温湯療法

著者: 鎌尾保

ページ範囲:P.148 - P.150

緒言
 昔からトラコーマに對しては,非常に澤山の治療法があげられてゐるが,大別して,藥物を用ひる洗眼法と,手術法とに分けられる。而して洗眼法のみによると非常に長期間を要する缺點があり,手術は治療を促進するけれども,一方手術は術式によつては瘢痕を殘す缺點があつた。それで現在では魚皮掻過,カイニング,等の輕い方法が好んで用ひられてゐる。而してこれ等の手術はいつれも治癒促進の方法であつて,根治手術ではないのである。
 さて,これ等の藥物的効果を加味した機械的洗眼や,手術が何故有効であるかについては,今迄は經驗的にその有効な事が知られてゐたのみである。

外傷性晩發性網膜剥離の發生機轉より特發性網膜剥雛の成因に及ぶ

著者: 日隈俊一 ,   福島眞二郞

ページ範囲:P.150 - P.153

 外傷に依て起る網膜剥離健外傷により直に剥離の起る場合(即發牲)と外傷後一定の時日を經過して起る場合(晩發性)とに區別することが出來る。
 外傷性即發性網膜剥離の成因は外力のため直接網膜の破裂を生ずる場合,外傷による脈絡膜の出血が貯溜して網膜を提起して生ずる場合,網膜自身の出血の爲生ずる場合,或は又出血とは關係なしに漿液が貯溜して漿液性剥離を起して來る場合等があると云はれてゐる。外傷性晩發性綱膜剥離の成因に就ては定説がなくWagenmannは幾つかの可能性を述べてゐるが何れも假説に過ぎない。

角膜疾患に對する洗肝明目散の効果

著者: 鈴木宣民

ページ範囲:P.153 - P.155

緒言
 余は先に洗肝散に關して發表し(本誌第6號掲載豫定)又この加方とも云ふべき洗肝明目散に關しては既に第90回千葉眼科集談會でも簡單に述べたが,其後更に本方の内容或は其の適應に就き種々檢討を重ね,其の症例も40例となつたので茲に其の成績を一括して述べたいと思ふ。本方は明の萬病回春に初めて出ておる處方で吾が國でも馬島流其他の秘傳本に角膜に翳膜を生する疾患に用ふべしと書いてある。余が用いた處方は次の如きものである(大人1日標準量を示す)。南天實3.0瓦,木賊〃,茯苓2.0,黄苓〃,黄連〃,連翹〃,當歸〃川芎〃,山梔子〃,桔梗〃,石膏〃,柴胡1.5,大黄〃,甘草〃,

Keratitis nummularis (Dimmer)特にその原因に就て

著者: 今泉龜撤

ページ範囲:P.155 - P.159

 Keratitis nummularisはDimmerによつて1905年に初めて記載された疾患であるが,その後,多數の報告例が發表され,最近Schwitallaの如きは本症の流行に就ての報告をしてゐることに鑑み,歐米にては本症は寧ろ稀有なる疾患に屬しないかの觀を與へてゐるが,本邦に於ては尚報告例少なく,僅かに小泊,小口,野島,山縣,岩崎,田中,若原,田上等の數例に過ぎない。余は最近本症2例を經驗し,更に本症に酷似する角膜嫁を呈せる2〜3例を引用して,元來不明とされてゐた本症の原因に就て考按を試みんとするものである。
 第1例 33歳,男,農業。

角膜自然破裂により亂視の自然輕快せる1例

著者: 柳垣憲夫

ページ範囲:P.160 - P.161

 外傷に依る角膜の破裂は,日常臨床に於て屡々經驗するが,自然に角膜が破裂することは極めて稀であり,殊に破裂により角膜亂視が治癒又は輕快した例は,文献にも殆ど見當らない樣である。
 私は最近トラコーマパンヌスによつて生じた亂視が,角膜の自然破裂を來した結果,亂視手術と同樣の効果を現はした,1例を經驗したので報告する。

偶發性前房内水晶體脱臼症の知見補遺

著者: 神島文雄

ページ範囲:P.161 - P.164

 水晶體脱臼は原因より先天性,偶發性及び外傷性の別がある。水晶體が偶發性に前房内に脱臼して來る場合は比較的に稀であつて,飯海外十數例の報告がある。水晶體脱臼症或は偏位症に眼球摘出を行つて,病理組織を檢討し,原因を追究した例は僅に中村(辰),小柳,下山の3例のみである。
 私の例は網脈絡膜炎を經過して,16年後に,石灰沈着のある白内障水晶體が前房内に偶發性に脱臼したもので,病理組織に網膜剥離を合併し,脱臼の成因を組織的に檢索し得た稀例である。

先天性多瞳症

著者: 小口武久

ページ範囲:P.164 - P.166

 先天性多瞳症の報告は既に相當の數に上つてゐるが,其の多くはSog.segmentierte Polyc-orieと呼ばれるもので,瞳孔各個に括約筋を有する眞の多瞳症(echte Polycorie)は極めて稀なものであるとされてゐる。私は瞳孔偏位を伴い且全部小虹彩輪中に存在する先天多瞳症の1例を經驗し,稍々興味ある所見を得たので文献に追加しておき度いと思う。

總眼筋麻痺の1例

著者: 茂木茂

ページ範囲:P.166 - P.167

 眼科臨床醫報第41卷第6號に於て,總眼筋麻痺の2例に就て報告したが,その後更に1例を觀察したので之を報告する。

白内障手術眼に於ける角膜亂視と全亂視との比較

著者: 赤松二郞

ページ範囲:P.168 - P.170

緒言
 私共は通常Javal-SchiötzのOphthalmomerを用いて角膜亂視を測定し眼鏡矯正の補助にしているが,角膜亂視と全亂視とが必ずしも一致しない事は既に周知でありMärquezは兩亂視の差に殘餘亂視なる名稱を付けた。所で殘餘亂視の主要なる部分を占めるものが水晶體亂視である事は一般に信ぜられているか,との間の關係を實際に檢索するには無水晶體眼を使用するのか最も簡便であるにも拘らず此の研究は畑氏等小數の報告があるに過ぎない。
 茲に私共は眼底及び中間屈折體に異常のない白内障手術77眼を選び角膜亂視と全亂視とを比較し,更に之等と矯正眼鏡亂視との關係に就て檢索を試みたのて報告する。

網膜色素線と外傷

著者: 三宅寅三

ページ範囲:P.171 - P.173

 網膜色素線で外傷を誘因として視力障碍を來したと言ふ例は少くないけれども,これを災害補償保險の觀點から取り上げた例は見られない。一體社會立法の歴史の短かい本邦ではこの種の鑑定に對する關心が薄かつたが,敗戰後の情勢の變化はこの種の問題を日常化する傾向にあるし,一方,色素線の如き比較的稀な疾患が而も外傷と關係した時と言ふ限定された事例を對象として細論することは稍々有閑的にも見えようが,鑑定の見地から見ると,誘因としての外傷と言ふ點では結核梅毒等の場合に通じ,又,外傷の直接的結果と後發的結果と言ふ點も廣く一般外傷の場合に通ずる原則的關連があるので,たまたま遭遇した1例について愚見を述べて見る。

私の經驗

ペニシリン球結膜下注射後に起つた汎發性皮膚疹について

著者: 靑木平八

ページ範囲:P.173 - P.175

 ペニシリン(以下ペと略記する)は種々なる疾患に卓効を奏することから全く現代醫學界の寵兒となつた感があるが,其の特性として單に驚異的な効力があるばかりでなく藥効量と中毒量との差が大きいこと,即ち容易に中毒を起し難いことがあげられて居る。
 私は偶々ペ球結膜下注射後に汎發性皮膚疹を生じ,種々檢査の結果ペ劑の副作用と推測される1例を經驗したので,其の大要を報告する。

羞明に伴うクシヤミ反射に就て

著者: 春田長三郞

ページ範囲:P.175 - P.177

緒言
 羞明に眼痛を伴う場合と,然らざる場合とがある。これに關して,Nagel, Römer, Bjerrum,Comberg, Blessig, Friedenberg等が多くの實驗的研究を行つている。ここに私が指摘せんとする事は,羞明に伴う眼痛ではなく,とれに依つて起ると老えられるクシヤミ反射である。小兒の角膜フリクテン,實質性角膜炎,蠶蝕性角膜潰瘍等に於て,これに強光を當てるとか,洗眼劑等の化學的刺戟を加えるとかに依つて,クシヤミが起ることは吾々の日常經驗する所である。又只に健眼の太陽凝視に依つても起り得る。私自身もこの反射を持つ1人である。斯樣な經驗的事實を基とし,この反射が如何にして眼より起り得るか,又如何なる條件に於てそれが可能であるかを知る爲,次の樣な小實驗を行つた。

手術メモ

眼科手術メモ(I)

著者: 中村康

ページ範囲:P.177 - P.178

 手術メモを毎號載せる。これは手術の内容を精細に記述するのでない。霰粒腫の手術には普通どんな術式があるかを表と圖で一寸見て理解する程度のものである。其故すべての術式を羅列してない。手術の度毎に見る備忘録と言つたら良いと思ふ。其故特殊な術式を考案された方は,此の分類の何れに屬するか又新しい項目を造るべきかを考へられ記入して置いて戴きたい。又筆者にも御教へ願ひたい。
 參考に後療法を述べて置く。手術の効果は後療法の巧拙にあると言ふ。但筆者が好んで行ふものである事を豫め御承知願ひ獨特のものは別に御記入を乞ふ。

痛風による眼疾患の1例

著者: 宮田正治

ページ範囲:P.179 - P.179

緒言
 本疾患は我が邦に於ては稀なる疾患にして原因は血液中に多量の尿酸の化生による發作によるものにして即ち痛風發作はある原因により尿酸が急に肝臟より大量に溢出せられ全身に浸潤するために起るものにして此際種々の症状は尿酸の刺戟作用により惹起せられ,斯くて沈著せる尿酸は食細胞により再び循環系中に歸り尿中に排泄せられ終局するものと云わる。
 痛風による眼症状は直接に尿酸が眼に沈着するものと間接的に全身障害に伴ふ眼合併症によるものにして,著者は最近前者に屬すると思はるゝ症例を得たるを以つて報告せんとす。

外文抄録

American Journal of Ophthalmology.Vol.30.No.7./Americen Journal of Ophthalmology Vol.30.V.8.

ページ範囲:P.180 - P.182

毛樣體解離術:經過の觀察
 H.Sanl Sngar.
 1.毛樣體解離術の効果がある症例は,それ程多くないものだが成功したものの内でも,時が經つにつれて再び眼壓が上昇するものがある。あらゆる種類の緑内障120例に毛樣體解離術を行い,最初の5年間での成功率は,47.1%であつたが,更に6年間觀察した所,38.8%に下つた。
 2.手術によつて,毛樣體外部に裂目を生ずる事が手術成功の原因であると言う事は事實だが,この裂目の深さをゴニオスコピーでは決定出來ないのだから,これのみが成功を決定する因子だとは言い切れない。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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