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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科3巻5号

1949年05月発行

雑誌目次

Ⅰ綜説

實驗的白内障に關する輓近の新知見

著者: 神鳥文雄

ページ範囲:P.183 - P.186

 古來より人口に膾炙されていて原因の確定しない普遍的な疾患に3つある.それは「トラコーマ」緑内障,白内障である.其の内「トラコーマ」は電子顯微鏡も發達したことであるから,必ず近い將來に解決されるであろうが,後2者は大山を望んで牛歩を進めているの感があるのは,誠に遺憾なことである.
 白内障の研究は實驗的に惹起させて觀察することが行われている.古來よりの方法としてはナフタリンを經口的に投與していたが,最近ではレントゲン線を照射するか(日眼,44卷,6號,890頁,昭15.),ナフタリンと同樣に中毒性白内障の誘發物質としてタリウム(本多,日眼,47卷,2號,189頁,昭,18.),或はガラクトーゼ(落合,日眼,48卷,1號,16頁,昭,19.).を用いている.ガラクトーゼ白内障は1935年Mitchelによつて發見されたものである.

Ⅱ臨牀實驗

余の簡明中心暗點計に就て(中心暗點テストカード)

著者: 松原廣

ページ範囲:P.187 - P.189

まえがき
 中心暗點の測定は,眼底疾患の鋭敏なる尺度とまで云われ,その診斷ばかりでなく經過及び豫後の判定上極めて樞要である事は言を俟たないが,一般に我國の臨床醫家の該檢査は,どちらかと云えば粗末になりがちである.この事はトラコーマの洗眼等に多くの時間と労力とを奪われている事にもよるであろうが,視野檢査が歐米諸國に於て可成りの時間と労力とを惜しみなく使われているのに我國に於てはなるべく簡便なるもので用をすまそうとする傾向がある.この簡單なそれは,疾患の良心的診斷と言う點からすると相當の非難を甘受しなければならないが,一方に於て比較的正確に且又速やかに暗點の性質を知らうと云う點からすると決して頭から排斥されるべきものではない.この意味で從來の簡單な一二の中心暗點計が,この方面に果した役割は大なるものがあつた.然し是等の持つ缺點は,既に先人によつて指摘せられているのであるが,簡便なるが故に改善されずに現今迄放置せられているのである.私はこの點に鑑み,その能くし得る範圍に於て新しい二三の改良を試み,臨床醫家に充分利用し得ると思う簡明中心暗點計を試作したので茲に報告する次第である.

飛行機搭乘員の比較調節力及び比較輻輳力に關する研究

著者: 塙博一 ,   湯口謹治 ,   室野金次郞 ,   澁谷利彦

ページ範囲:P.190 - P.193

緒言
 調節と輻輳とは平行的に増減すべきものなるが,兩者を分離せんとする試はPorterfield, J-ohamanes, Müller等により提唱され既にPlateau, Volkmann, Reute, Donders, Hering, K-oster, Roelofs, Fub, Hoffmann等の説明せる所なり.この事實は甚だ重要なる事にして若し一定の調節に對し定れる輻輳のみ可能なりとせば輕度の屈折異常者と雖も直に單一明視は不可能となるべき理にして全く不合理なり.Dondersは一定の輻輳状態の下にて輻輳を變動せしめす調節を或る程度變動せしめ得る範圍を其の角度に對する比較調節力と稱し逆に調節を一定せる場合,輻輳の變動し得る範圍を其の調節に對する比較輻輳力と命名せり.輻輳と調節との關係は相関的にして比較調節力の範圍は比較輻輳力のそれと全く一致せるものなるを以て煩瑣なる兩者の關係を簡明に記載し得るものなり.余等は初見式ハプロスコープを用い飛行機搭乘員の飛行前後,及び慢性航空神經症患者の輻輳調節曲線を描き些か新知見を得たり.

後水晶體繊維増殖症(Terry 1942)(水晶嚢遺殘症)の1例及び本症と先天皺襞状網膜剥離との關係

著者: 三井幸彦 ,   鎌尾保

ページ範囲:P.194 - P.196

 硝子體動脈は胎生期の末期に於て先づ血流が絶え,次いで結締織の索状物と化し,遂に消失するものである.これが生後まで殘存した状態わ硝子體動脈遺殘と呼ばれ,多くは乳頭から硝子體の中に突出する小さな索状體として認められ,または水晶體後極に附着する點状の混濁及びこれから硝子體中に及ぶ小索状體として認められるものである.上乳頭膜と呼ばれるものは前者の不全形であると信ぜられている.
 時として硝子體動脹の遺殘が高度に達し,太い索状物として乳頭から水晶體後極まで連續することもあることがしばしば報告されている.而してこの遺殘が高度に達して水晶嚢膜まで遺殘するようになると臨床的には水晶嚢膜の遺殘が最込著しい所見となるので一般に水晶嚢膜遣殘membra-na capsularis lentis persistens, persistence of the vascular sheath of the lensという名稱で呼ばれている.病理組織所見を含めた本例の詳細な所見を最初に報告したのはNettleship1)(1873)で,彼わ僞膠腫と誤認してこの眼球を摘出したのである.

トラコーマ患者の血液像

著者: 金田利平

ページ範囲:P.197 - P.198

緒言
 余はトコーマ患者50名の血液像に就て調査したれば其の成績を報告し且つトラコーマ患者の血液學的研究の結果としてトラコーマと體質との間に關係有ることを認めたり。此の事實よりトラコーマの豫防法及び治療法に就き述べん.

一精鋼工の中心性網膜炎に就て

著者: 小口武久

ページ範囲:P.199 - P.200

 中心性網膜炎に於ける結核説,光線説等の論議は別として,輻射線による綱膜の傷害に就ては中心性網膜炎の形で現われるものが一番多いらしく,時々報告が見られる.私は約4ケ年半の間熔鐵作業に從事した一精鋼工に於て,熔鐵に際して發生する輻射線が傷害作用を及ぼし,兩眼に中心性網膜炎を起したと思われる一症例に遭遇したので,報告して置き度いと思う.

結核性網膜靜脈周圍炎の豫後に就て

著者: 今泉龜撤

ページ範囲:P.200 - P.203

 如何なる疾患でも豫後と云うものは長い經過を觀察しないと斷定出來ないし,殊に本症の如き長い經過中に度々再發するに於ては,豫後の判定は益々困難な理である.本症は最も働き盛りの外觀比較的健康相に見える男子を多く侵し,屡々失明の不幸を招く疾患であつて,斯る疾患の豫後を入院中の諸檢査に依つて少しでも豫測することが出來れば.本症の治療上大きな貢献を齎らすものと考え,各方面よりこの豫後の吟味を試みた.
 症例は當教室に入院した若年性再發性網膜硝子體出血中,眼底に明かに離脹周圍炎を確認し,諸檢査により結核性と斷定出來て,Fleischerの所謂再發性網膜硝子體出血の本態とした結核性網膜靜脈周圍炎と診斷し得る64例,119眼を研究對象とし,ワ氏反應陽性或はBurger氏病,及び本症としてな疑わしき疾患でその原因の曖昧なるものは凡て之を除外した.而して豫後を良好,不良及び未定の3つに區別し,豫後の良好なものとは1)網膜域は硝子體の出血が再發しなくなつて,2)視力0.1以上に改良し,3)線内障,白内障,網膜剥離の如き合併症を伴わないもの.豫良不後なるものとは,1)網膜或は硝子體の出血が尚繰返す危險があつて,2)観力0.1以下に止まり,3)上記の色々の合併症を伴つているもの.また豫後未定とは視力は0.1以上であるが,入院期間が短く,出血再發の危瞼が多分にあつて,豫後が未だ決定し兼ねるものである.

網膜後極部にみるBlessig腔洞

著者: 菅一男

ページ範囲:P.204 - P.205

緒言
 網膜鋸齒状縁及び其附近の網膜組織内にみる腔洞形成(嚢腫樣變性)をBlesslg腔洞或はCl-wanoff浮腫という.私は日眼4卷に於て本腔洞形域が男子に著名なる事,耳下側に著明なる事,眼軸の短き者に著明なる事を明らかにし,之等の事はかの網膜鋸齒状縁裂孔が男子に多い事,耳下側に好發する事,非近視眼に好發する事と一致している點から鋸齒状縁孔は其多くが本腔洞に基因するものであると記載しておいた.
 此の事は本腔洞より裂孔の生じ得る可能性を立證したものである.從つて鋸齒欺縁以外の網膜組織内に於ても本腔洞に類似の變化があれば其者より裂孔が生じ得る譯であり,かのVogtが裂孔が嚢腫樣變性より生ずると推定せし事を立詮したものとも考え得られる.然らば事實鋸齒状縁以外の網膜組織内に於ても本腔洞類似の所見を認め得るであろうかという事が問題になる.私は匐行性角膜潰瘍を有する高度近視眼球の網膜後極部に此の事を認め得たので以下その大要を報告する.

眼瞼並眼窩内被細胞腫の2例

著者: 菊川舜二

ページ範囲:P.205 - P.208

緒言
 内被細胞腫は比較的稀に遭遇する惡性腫瘍にして1869年ゴルヂー氏の命名せるものにして眼窩に於ては1888年ハルトマン氏の記載に始まり,我邦に於ては明治24年加藤氏の報告を以て蒿矢とし,40數例の報告に接するのみである.眼瞼に於ては極めて稀にして高木,德田兩氏は昭和14年其詳細なる報告に於て歐米の文献中16例の報告を見るのみと述べている.本邦に於ても亦僅少にして7例の報告に接するのみである.
 元來惡性腫瘍中比較的良性の部類に屬する内被腫も時に惡性にして不幸なる轉歸を取るとともある.就中眼窩に於ては其解剖學的關係より其豫後は眼科的のみならす時には生命を失ふが如き甚だ重篤なる結果を惹起することがある.

緑内障の遺傳例

著者: 池田一三 ,   和田士郞

ページ範囲:P.208 - P.212

緒言
 緑内障といえば我々の日常遭遇する眼疾の一であるに拘らず,その割合に遺傳例が少い.私共は近頃著明なる遺傳を示す緑内障の1家系に遭遇したので文献に追加したいと思う.

Ⅲ臨牀講義

流行性角結膜炎(Kerato-conjunctivitis Epidemic)

著者: 中村康 ,   HT生

ページ範囲:P.213 - P.217

 從來急性結膜炎はコツウィークス氏桿菌に依るものが多かつたのに,近來原因不明の臚胞を併發し,且つ角膜炎を伴うものが多くなり此が世界的傾向であるので其の事を述べる.
 例1. 25歳,女.主訴.眼脂分泌過多.

Ⅳ私の實驗

交感性眼炎に對する高張糖液の總頸動脈,衝撃性注射療法

著者: 牧内正一

ページ範囲:P.218 - P.219

 既に中山教授は,各種の結核性疾患,或はロイマチス性疾患に對して,高張葡萄糖液の動脈性衝撃性注射療法を施行し,著効を認めている.其の作用機序から考えて,眼の葡萄膜の如く血管の多い組織には,一層本法が奏効すべきものと考えて,私は交感性眼炎に本法を施行して,豫想外の好結果を得た.單に1實驗例でわあるが,其の効果が餘りに顯著であつたので,こゝに報告する次第である.

Ⅴ外文抄録

EXCERPTA MEDICA

ページ範囲:P.220 - P.221

工業に於ける眼科學的問題及視的標準
minton J.The British Journal of Ophthalmology1946,30;298
 著者は工場の採用試驗としての視的標準を測定する工場醫の指導原則を起草せんと試みた.視的標準により作業は四段階,從業員は五階級に分類して適業を定めた.全員に視力檢査,精密作業を希望する者には斜位(マドックス)及兩眼視(amblyoscgpe)の檢査が必要で,高度以外の近視は如何なる作業も禁ずる必要がない.

手術メモ・其2

トラコーマ手術

著者: 中村康

ページ範囲:P.222 - P.225

 イ)結膜トラコーマ、トラコーマ治療は藥治療法を主體とする.そして其補助療法として理學的療法,手術的療法を之に添える.結膜トラコーマには出來るだけ瘢藻を殘すことの勘い手術をするのが上手と言う.其には病竈範圍を見極めて其範圍内だけに手術を加え健康結膜面には術傷を生ぜしめず,且つ術式は出來るだけ表層的に行うことに注意を要する.従來の大きな瘢痕を貼す方法は避くべきである.トラコーマの難治は此處から來る,殊に最初の手術方法の亂棒さは一層難治とする.
 病理的に考えて病原が健康結膜に附着すると上皮層下に腺樣層が増殖し結膜血管は此下にかくれ不明瞭となる.顆粒も此層内に生する.依つて手術に際しては此結膜血管の露出する程度に腺樣層除去を試みる.若し此結膜血管以下の組織を破損すると必ず大なる瘢痕を貼す.何れの手述式を撰ぶも此心掛けさえあれば術式は各人の好みに依れば良いのである.そして普通2,3の術式が併用される.

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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