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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科3巻6号

1949年06月発行

雑誌目次

綜説

結膜炎と體質

著者: 三井幸彦

ページ範囲:P.227 - P.229

 同じ種類の病原體によつておこる結膜炎も,その症状や經過は個體によつて千差萬別である.それには2つの原因がある.第1は,同じ種の病原膿であつても,株によつて毒性が同じではないということ,第2は,同じ株の病原體が侵入しても罹患者の個人的體質の差によつて,異つた反應状態を現わすということである.私は,現在,日隈俊一,田中智恵,山下喜一の諸君と共に,結膜炎の綜合的研究を進めているが,その一環として結膜炎と體質,特に體質の年令的變化と結膜炎の症状との關係に就いて檢討している.ここに現在までにおさめたその成績のアウトラインを總括的に述べてみたいと思う.
 人間の體質は生れてから後,年齡と共に大きな變化をしていくものである.それにしたがつて,同じ病原體によつておこつた結膜炎も,患者の年齡が變るにしたがつて或る場合にはお互に全く異つた疾患であるかの如き所見を呈することが稀でない.この反應状態の變化する年齡は,結膜炎という立場から觀察してみると,人間の生涯を通じて大體4つあるということが出來る.この4つの年齡を境として,人間の生涯は5つの體質の時期に分けることが出來る,即ち初生兒期(生後2ケ月位),乳幼兒期(凡そ滿2年まで),幼少年期(凡そ10年まで),青壮年期(凡そ50〜60年まで),老年期(50〜60年以降)の5期にわけられる.

臨床實驗

結核未感染者に見られた輕症の交感性眼炎に就て

著者: 田野良雄

ページ範囲:P.230 - P.231

 交感性眼炎に對して對結核療法(A・O及ヨードカルシューム又はカルチコール注射等)を行えば必らずしも起交感眼摘出を行わずとも之のみにて良好なる治療成績を得られることが中村教授・内田氏等によつて唱道せられて居る。私も輕症の交感性眼炎と思われる一例に對し保存的療法を行い速かに良好なる結果を得たので色々批判の對象となる症例ではあるが茲に記載して文献に追加したい。
〔患者〕坂○光○,20歳,女工員,初診昭和18年7月28日

結膜プラスモームと硝子變性

著者: 船橋知也

ページ範囲:P.231 - P.238

緒言
 結膜のプラスモームは1908年にPacheff氏に依つて報告されて以來,Deutchmann, Rados氏等の報告があり,結膜硝子變性はOettingen-Dorpat氏が1871年に發表して以來,Raehlman,Kamoki氏等の報告がある.
 我が國では私が文献を調べた所では,プラスモーム65例,硝子變性11例の報告が見られた.

結膜フリクテンと赤血球沈降反應に就て

著者: 山田守

ページ範囲:P.239 - P.242

緒言
赤血球沈降反應は非特異性生物學的反應にし
 各疾患が罹患個體に與える生理的状態の變化の種類,及び程度により正常赤血球沈降速度に影響を及ぼすのである.本反應の原理に關しては近年Fahraeus,Starlinger氏等の膠樣化學説が重視されるに至つている.何れにしても本反應は各種疾患の診斷に役立つものではなく,その經過及び豫後の判定に意義を有するものである.眼科領域に於ても本反應が各種疾患に試みられたがその成績は區々である.フリクテンに就て言うも,或は促進し,或は變化なしと云われる.

デング熱の眼痛に就て

著者: 小原博亨

ページ範囲:P.242 - P.244

緒言
 デング熱(以下「デ」とす)の眼症状に就いてはGill. J. Bistis. A. Gabrielides. 氏等により詳細に報告されて居るが,予もトラツク群島春島に於て多數の「デ」患者の眼痛を調査したが,上下眼窠神經窩にValleix氏壓痛點が常存し,亦眼球運動痛も甚だ高率に存在する事を報告すると共に其の原因に言及せんとする次第である.

網膜アンギオ.グリオージスと見做すべき1症例の長期觀察に就て

著者: 大岡良子

ページ範囲:P.245 - P.246

緒言
 網膜血管に變状を來す網膜疾患中に,ヒツペル氏病或はリンドウ氏病及び,コーツ氏病あり.此等疾患は本態に就ては未だ定説を得ず.
 然し共通なるは膠質組織の増殖なり.島津,小口,中島(實)氏等は各々病理組織學的に精細なる檢索を行い,此等疾患の本態は膠質組織増殖症にして,本態的に同一源と見做し網膜アンギオ・グリオージスなる名稱のもとに,一括すべきなりとせり.菅沼教授も「此等疾患の如きは病理發生學上では網膜の(或中樞神經系の)血管膠質組織増殖症なる一病屬に一括すべきものであると信ず.只何等かの二次的病機で前者に於ては血管の變化が著明となり,後者に於ては滲出機轉が主として吾人の注意を惹くに至るものである」と.更に「此等疾患の他に尚ほ同一病屬(血管膠質組織増殖症)に屬すると思われる一種の網膜疾患がありて,一見すると其の檢眼鏡的所見は結核性網膜靜脈周圍炎(再發性青年性網膜硝子體出血症)に似ているため,此の兩者の混同が少くない」と述べ,結核性網膜靜脈周圍炎として診斷されたる患者中に,この腫の網膜血管膠質組織増殖症を有する症例を日眼39卷に報告せられた.

眩輝に關する研究—第1編 視力と照度との關係に於け眩輝の影響に就て

著者: 馬詰讓

ページ範囲:P.247 - P.249

1.諸言
 眩輝に關する研究は數多見られるが,併し夫れは主に赤視症Erythropsiaに關する研究である.亦江口壽氏(日眼34卷)の如き「輝度調應眼に對する眩輝の影響に就て」の研究がある.
 併し乍ら,視力と照度との關係に於ける眩輝の影響に關する實驗的研究は未だ何人も,之を行つていない.併し,余が渉獵した所の視力と照度との關係論文中に於て,眩輝に就て言及している者は,唯Uhthoff (Arch. f. Ophth. XXXII.).廣田敏夫(日眼31卷)並に大塚任,本多得二(日眼44卷)の諸氏のみである.

網膜色素變性症の研究(其5)—網膜色素變性症患者血清の蟇の摘出心臟並に血管に及ぼす作用に就て

著者: 緖方昇

ページ範囲:P.249 - P.251

緒言
 網膜色素變性症の原因に就ては古來種々の説があるが,最近内分泌異常に其の原因を求めんとするものが多い.即ち本症患者には體格倭小,高血壓,月經異常,インポテンツ等を合併する事多く内分泌異常が深い關係を有するであらう事は考えられる.而して其の病竈は,腦下垂體,副腎,間腦,甲状腺等が考えられているが其の實驗的研究は未だ極めて少い.又一種のToxiämieを想像する人もある.今若し内分泌異常又はToxiämieがあるとすれば,患者の血清又は尿は健常者の其れに比して何等かの方法で差異を認め得べきである.先に永山氏は本症患者の尿を家兎の靜脈内に注射して,其の甲状腺に變化を起さしめ,出田氏は白鼠の網膜細織呼吸に對して患者血清と健常者血清の作用に差を求めんとしている.
 余は本症患者血清と健常者血清との蟇の摘出心臓及び血管に及ぼす作用を比較し,其の間に屡々差のある事を認めて興味を感じたので茲に報告する.

上乳頭膜の1例

著者: 土田學

ページ範囲:P.251 - P.252

 乳頭前面の被膜形成に就ては既に多數の報告があるが,その發生が先天的か後天的か又構成組織がグリア組織か結組織か各人各樣の説で一定していない.幸に一例を得たので報告する.

Lombardo氏トラコーマ・パンヌス手術法の吟味

著者: 松原廣

ページ範囲:P.252 - P.254

緒言
 吾々が,日常屡々接し患者も共に苦しめられるものは,頑固に繰返すトラコーマ・パンヌスと,之に伴う浸潤,潰瘍,刺戟消失後の視力障碍や如何とも致し難い不正亂視である.之等の症候群に對して,我々は簡單な藥物療法から多少共根本的であると云われる手術的療法まで,極めて多數の療法があり,其の箇々の症候に應じて夫々の處置を施して居るのであるが,現在までその効果の著しかつたと云う報告も,効果の持續と云う點では決して滿足なものではない樣である.偶々,M,Lombardo氏に依つて報告された「ト・パ」に對する手術的療法(AJ. Ophthalm, Sep,1947)Rescession of Limbal conjunctivaの思いきつた手技と,永久効果を強調せし點に興味を覺え13例に追試した.約7箇月の觀察ではあるが,此處にその成續と吟味を報告する.

臨牀講義

深部膿疱性角膜炎

著者: 宇山安夫

ページ範囲:P.255 - P.257

患者 平安○明男 46歳 運送業
一般既往症

私の經驗

流行性腦脊髓膜炎黑内障に於けるペニシリンの應用について

著者: 宮田正治

ページ範囲:P.257 - P.258

緒言
 流行性腦脊髓膜炎と思われる患者にペニシリンを應用し好結果を收めたるを以つて茲に臨床的經過を報告せんとす.

眼科小史風眼(1)

著者: 福島義一

ページ範囲:P.260 - P.260

 けうこの頃に於ても(註1),風眼と云う言葉をきく機會は少くない。ではこの風眼とは何んな疾病であるか,またその起源は何うかなどという課題に就いて深く考えた人は少い樣だ.
 そもそも風眼は,「フウガン」であつて所謂中國渡來の呼稱であるのか,或は「カゼノメ」「フウノメ」であつて日本固有の呼稱であるのかを檢討してみる必要がある.

新醫療法解説・1

特殊診療科名の既得權と廣告

ページ範囲:P.258 - P.258

 醫療法が改正されて特殊診療科名に就ては開業醫師の關心が強く,各醫學雜誌のニユース欄をにぎはしているが,この點に關して案外知られないのではないかと,豫想される事態にしばしば遭遇したので,こゝに念のため記してみよう。
 これは,最近開業醫の方から「前の國民醫療法時代に厚生大臣の許可を得た特殊診療科名は,現在でも廣告して差品えないのか,現にそれで肛門科や口腔外科を標榜している者があるが,如何?」という質問を受けた。

外文抄録

EXCERPTA MEDICA

著者: 關彈

ページ範囲:P.261 - P.262

人角膜移植の術式
 Sourdille G. P.
Archives d'Ophthalmologie 1946,6;273
 著者が1931年PragueでElschnigから學んだ術式にFilatov, Nizetic, Castroviejo提案の改良を加えて現在行つている術式の次の點が興味深い.

新醫療法解説・3

死亡診斷書作成の例外

ページ範囲:P.262 - P.262

醫師法第20條
 醫師は自ら診察しないで治療をし若しくは診斷書若しくは處方せんを交付し,自ら出産に立ち會わないで出産證明若しくは死産證明を交付し又は自ら檢察をしないで檢察書を交付してはならない。但し診療中の患者が受診後24時間以内に死亡した場合に交付する死亡診斷書についてはこの限りでない。

手術メモ・Ⅲ

緑内障手術

著者: 中村康

ページ範囲:P.263 - P.265

 炎衝の激しい急性緑内障で眼壓が非常に高いものには麻醉が仲々效かない事がある.突然發病し視力が零で急を要する場合は別として視力殘存する時は縮腫劑を適度に用いて縮腫させて後手術すると手術が容易である.
 〔後療法〕一過性効果と言つても時には永續的に効く場合もある.然し再度眼壓の上昇を來す場合には永續効果手術を行うが良い.

温故知新

菅沼定男教授の思い出

著者: 加藤謙

ページ範囲:P.266 - P.267

 菅沼定男先生の思い出としては既に桑原助教授の懷しみ溢るる充實した文章が「臨床眼科」第1卷第1號に載せられている。從つて今さら私が蛇足を加える何ものもない。然し私にとつて先生は一つには醫局に入つた許りの頃眼科の「いろは」を導き教へて下さつた老教授として,二つにはあの明治大正を盛期とする臨床醫學の浪漫的零圍氣を一言一行に發散せられた眼科學の先達として,今も懷しき思い出の恩師である。私が茲に桑原助教授とは異つた觀點から,醫學生として或は新入醫局員として,仰いだ師の面影のいくつかを描いて見ることも強ち徒爾ではないような氣がするのである。
 先生の第一印象__先生の第一印象は,先づ先生の御著書を通じて,先生のお人柄を想像したことに始まる。學生として「新撰眼科學」上下二卷を手にして最初に感じたことは,この眼科の先生は並々ならぬ良心的な人だと言うことであつた。諄々として説かれた冷靜で解り易い記述,口語文の採用,鮮明精緻な着色圖譜,良質の紙,堅牢な製本。そのどれ一つをみても著者の並々ならぬ學的良心が,隅々まで浸透しているように感ぜられた。先生に初めて接したときの第一印象はこの書物から受けた印象を裏切るものではなかつた。今でも母校の同窓生が集まると,菅沼先生は「眞にProfessorらしいProfessorだつた」と言う點で誰の意見も一致するようである。

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醫局だより

著者: 飯沼

ページ範囲:P.268 - P.268

 終戰後不自由をかこちつゝも早や4ケ年を經過致しました。戰時中の人手不足も復員の諸君によつて一度に賑やかになりましたが,所謂「戰爭ぼけ」と經濟界の嵐の爲に容易に研究も軌道に乘りません。然し1年,1年と落着きをとり戻し,診療に研究に昔日以上の活氣を呈して參りました。
 先づ現在の醫局員の動靜から紹介致しますと,昭和18年勇退されました中村文平名譽教授にはその後郷里長野縣に移られましたが,益々お元氣にて松本市に開業せられ,毎年學會に出席せられ,御在職中に變らない御指導を賜つて居ります。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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